「グオォォォォォォ!!!」
竜王の断末魔……
その叫びは地下の王宮全体を揺るがした。
僕は竜王の頭から振り落とされないよう、必死に剣を離すまいとしていた。
しかし暴れる竜王に耐え切れず、剣から手が離れ、僕は竜王の背中を滑って、そのまま地面まで転げ落とされた。
まっ逆さまに落ちなかったのは不幸中の幸いだ。
竜王を倒しておきながら、自分も頭から落ちて死にましたなんて笑い話にもならない。
「アレフさま、こちらへ――!」
ローラ姫が駆け寄ってきて、僕に竜王から離れるよう導いてくれる。
竜王はなおも暴れているけれど、脳天に剣を刺されて無事なハズはない。剣は竜王の脊髄にまで達しているはずだ。
魔獣と化した竜王も、もう戦えないだろう……あの暴走も、消え入る前の炎に過ぎない。
「あの方を……倒せたのでしょうか……」
竜王から距離を取り、精根尽きてへたり込む僕を傍らで支えていたローラ姫がつぶやく。
「ええ、竜王はもう戦える状態ではないでしょう……」
僕は目を瞑った。
もちろん疲れたというのもある。
でも本当の理由は、竜王と言う男をシッカリと僕の瞼に焼き付けておく為だ。
「ガァァァァァァ……!!!」
ズシィィィィン……
竜王は最後の断末魔を上げ、地を揺るがしながら、その巨体を倒した。
「竜王の最期です……」
竜王を倒した――
僕は再び目を開き、その竜王の最期の姿を心に留め、ローラ姫もまた固唾を飲みながら、竜王から目を離せずに居る。
その巨体はグッタリと横たわり、小さな呼吸に腹を起伏させているだけで、二度と立ち上がることは無かった。
「まだ……生きておられるようです……」
そう言ってローラ姫は、その返答を問うように僕を見る。
僕はその問いが何を表すのかもちろん知っていた。
息の根を――
「…………」
僕は迷った。
確かに竜王はアレフガルドに血と戦乱を招いた張本人だ。
だが、いざトドメを刺そうと思うと、何故か手が動かない……僕にはどこか竜王を殺すことにためらいがあった。
戦闘中は、そんなことを考える余裕すら無かったけど、こうして瀕死で横たわる竜王を見ていると、どこか悲しくなる。
「あっ……!」
ローラ姫が声を上げた。僕はハッと気が付いてローラ姫の視線を追う。
「あっ……!」
僕もまたローラ姫と同じ声を上げた。
そこには横たわりながら身体が縮みはじめている竜王の姿があった。
あれほど大きかった身体も、今は半分以下まで縮み、その影響か頭に刺さっていた剣も抜け、頭の角は引っ込み、翼は背に消え、尾はみるみるうちに小さくなり、そして最後に残ったのは魔獣化する前の竜王の姿。
「う……」
竜王がピクリと動いた。
「―――!?」
僕は瞬時にロトの剣を拾い、竜王から距離を取って様子を見る。
竜王は薄く目を開き、いずこかへ手を伸ばそうとする。しかしその手は力尽き、再び地に落ちた。
もう、竜王に力は残されていない。
「竜王……」
僕は竜王の傍らへと近づき、声をかけた。
「勇者…アレフか……フッ…」
命の炎が消えかけている竜王は、かろうじて僕を確認すると小さく笑った。
「お前の……勝ちだ。やはり……ワシは血の…宿命に勝て…なんだか……フフッ…」
竜王は虚空を見つめ、どこか満足気に微笑んだ。
「血の……宿命? そう言えばさっきもそんな事を。竜王……アレフガルドを手に入れる目的でなければ、何故アレフガルドに魔物を解き放った。勝負に勝った僕にはそれを聞く権利があるはずだ!」
僕は知りたかった。
アレフガルドを手に入れる目的以外に、光の玉の封印を解いてモンスターを開放する理由が無い。
目の前で倒れている竜王は、とてもそんな意味の無いことをする男には見えない。
竜王は言った。別の目的があると。
ならばそれは――!?
「ワシの残り少ないこの命……勇者アレフ、お前に一人の哀れな男の話を伝える為に使おう」
そう言って竜王は目を閉じ、語り始めた。