沈黙が支配していた。
どういう原理になっているかは分からないけれど、僕達の掲げた光の玉によって地上全てのモンスターはいずこかへ消えた。
もちろんこの竜王の城も例外ではなく、全てのモンスターが消えた。
そのせいか城内は時が止まったような……僕達の足音でさえ耳障りになるほどの静寂に包まれていた。
当然と言えば当然だ。
この城の中は僕達と竜王以外は、モンスターしか居ない。
モンスター達の邪悪な気配に満ちていた城は、一転して全く何も気配を感じることの無い空っぽの城になってしまった。
先ほどの竜王との激しい戦いが、ここに至るまでのモンスター達との戦闘が、まるで夢の中であったかのようなまどろみに包まれていた。
地下の祭壇から出てきた僕達は、そのまどろみに似た感覚の中で、王間に刻まれた戦いの痕を見ながら、これが現実であることを改めて確認していた。
ついさっきまで竜王と死闘を演じていたのに、それが遥か昔にあったような感覚がある。
それほどに城内は静寂に包まれていた。
「あっ、アレフさま――」
沈黙の城内にローラ姫の声が響き渡る。僕は振り向いて、ローラ姫の視線を追った。
「――っ! 竜王……」
僕達の視線の先には、竜王の着ていたローブと杖だけが残されていた。
竜王の身体は消え、そこに残されたローブの中に人の頭くらいの小さなふくらみが見える。
僕はローブを静かに剥ぎ取ると、中には大きな卵が佇んでいた。
「これは――」
僕はその卵を手に取ると、それはピクリと動いた気がした。
「あの方の……子供でしょうか」
そう言ってローラ姫も卵に触れる。卵はまたピクリと動いた気がした。
卵はどこか、ほんのりとあたたかかった。
「竜王……」
竜王は言った。いつか罪を償った子孫に光の玉を渡して欲しいと。
つまりそれは自分の子孫を未来へと残すと言うことでもある。
運命のめぐり合わせか――僕たちはロトの伝説を再現していた。
余命いくばくも無い城の主が、光の玉を勇者に託し、新しい命を生み出して力尽きる……と言う伝説を。
しかし天への道を守護する光の城ではなく、天への反逆を企てる闇の城の主としてだが、勇者に光の玉を託そうとする心は、やはり伝説に出てくる神と同じだったのかもしれない。
僕は卵を持ちながら、竜王のローブと杖も持って、再び地下へと階段を降りた。
「アレフさま……」
後から追ってきたローラ姫は、僕に両手を差し出す。
僕はローラ姫の心を察し、その手に竜王の卵を渡した。
伝説への道を再び二人で歩き、僕は竜王のローブを綺麗に折りたたみ、竜王の杖をその手前に置いて祭壇に供えた。
そしてローラ姫は、竜王の卵を一度しっかりと抱きしめると、何かを祈ってその卵を祭壇のローブの上に乗せた。
祭壇に捧げられた竜王の持ち物と、卵を前に僕達は精霊ルビスに祈った。
願わくば竜王の罪を許し、その心を汲み取って再生への道を用意してあげて欲しいと。
祈りを捧げると僕達は振り返り、また伝説への道を戻って地下から戻って、玉座を元の位置に戻して地下室を隠した。
「アレフさま……」
ローラ姫は僕に寄り添い、悲しげな表情で竜王の座っていた玉座を見つめる。
僕は静かにローラ姫の肩を抱くと、同じように玉座を見て竜王へ言葉をかけた。
「さようなら、竜王。そしてその子孫に幸福があらんことを――」
簡単な祈りを捧げ、竜王に最後の別れをした。
「…………」
しばしの沈黙の後、僕とローラ姫はお互いに目を合わせ、僕はローラ姫に小さく笑った。
もの悲しさが残るローラ姫もまた、少し困ったような表情で小さく笑う。
「……帰りましょう。ラダトームへ――」
「はい」
ローラ姫は静かに答え、僕はその肩を抱き寄せて呪文を唱えた。
「リレミト――」