ドラゴンクエストI-勇者アレフ伝説   作:びく太

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第29話:『アレフの決意』

「おおっ――!」

僕は城の外に出るなり感嘆の声を上げた。

毒の沼地は砂の底に消え、荒地には色とりどりの花が咲き乱れ、アレフガルドに平穏が戻っていた。

そして心なしか草木はいつもより青々としていて、訪れた平和を喜んでいるように思えた。

あたりにはモンスター一匹とて見つけることが出来ない。

 

「しかし本当にモンスター達が消えたみたいですね……」

僕は小さく漏らす。その口調は素直に喜んでいるようには聞こえなかっただろう。

実のところ、僕は竜王の事を思うと心の底からこの平和を喜べない部分がある。

この平和は竜王とモンスター達の犠牲の上に成り立つものであり、逆に言えば彼らが居なければ、この平穏な日常を『平和』と感じることも無かったんじゃないかと思う。

 

竜王を見ていて思ったことがひとつある――

そもそもモンスターとは滅んで当然の忌むべき悪なのか? じゃあモンスターを『悪』と言う基準は? 人を襲うから? それなら普通に人を襲う肉食獣だって居るじゃないか。

ドムドーラで戦った悪魔の騎士……彼はドムドーラを滅ぼしたが、彼の性質は『悪』かと言われれば首をひねらざるを得ない。なぜなら彼は立派な戦士だったからだ。

もちろんドムドーラを襲って町を滅ぼしたと言うことは『悪』なのかもしれない。

だったら僕は? モンスターを滅ぼした僕は同じく『悪』なんじゃないのか?

そもそも僕の中にある善悪の基準なんて、あくまでも『人間の善悪』であって、それは他の生物には通用しない。

人間にとって『竜王』が諸悪の根源であったように、モンスターにとって『勇者』とは諸悪の根源であるのかもしれない。

ただ竜王だけは、それを飲み込んだ上で、どちらを選択しようとも『それもやむなし』と割り切っていたが、僕はそこまで割り切れるほど生きてはいない。

 

ドンッ!

 

「?」

ローラ姫は僕の背中を肘で小突く。

「アレフさま! せっかく平和が戻りましたのに、そんな暗い顔をなさってはいけません! 確かに、あの方の事を思う気持ちは分かります。しかし過去ばかり振り返って今を忘れてはなりません。なぜならわたくし達が生きているのは"今"に他なりませんのですから。過去は過去として未来への教訓とし、今は今として精一杯生きること! 過去に囚われて"今"を忘れてはいけませんわ。そのような事はきっとあの方も望まれておりません……」

 

「ローラ姫……そうですね。今は、今この瞬間にある平和を喜びましょう!」

僕はローラ姫の言葉に気持ちを切り替えて、今この瞬間の何も無い平穏と言う幸福を堪能した。

「その意気です。アレフガルドを救った英雄の凱旋に暗い顔は似合いませんわ」

そう言ってローラ姫はクスクスと笑う。

 

僕達はルーラでラダトームへ帰らず、平和になったアレフガルドを歩きながら帰った。

半分観光目的だけど、半分は本当にモンスターが居なくなったのかを確認する為でもある。

寄る街の先々で平和を祝う人々や、唐突に訪れた平和に未だ実感を持てず戸惑っている人も居た。

また、ところによっては平和が訪れた事に気付いてない人もいたりして、その抜けている様が僕達により平和を実感させた。

 

本当に平和は訪れていた。

 

「そろそろ帰りますか……きっと王様も首を長くして待っているでしょう」

「そうですね。父上には随分と気苦労をかけてしまいました。早く帰って安心させてあげなくてはいけませんね」

最初にリムルダール、次にマイラ、ガライ、メルキド……ドムドーラでは街の復興が始まっていた。

すでに平和はアレフガルド全土へと広まっていた……もう『勇者』は必要ない。

僕の勇者としての使命は終わろうとしている……ラダトームへと戻り、全てを報告した時、僕は勇者としての使命を終える。

そして今後は、ただの『アレフ』として、自分の生き方を探して行きたいと思う。

 

そうだ、旅に出よう。

 

アレフガルドではない別の大陸へ行って、新しい自分、新しい生き方を見つけていこう。

ラダトームの皆や、ローラ姫と別れてしまうのは辛いけれど、僕は『勇者』ではない自分を知りたい。

アレフガルドに居ては、僕は永遠に『勇者』としての拘束から逃れることは出来ないだろう。

僕は竜王を倒す為だけに生まれたわけじゃない事を証明したい。

 

ラダトームへの街道を進み、僕は密かに決意していた。

 

「……あの」

どこか悲しそうに僕の顔を見つめて、何かを言いかけるローラ姫。

「……? どうかしましたか?」

「あ、いえ……なんでもありませんわ」

しかし僕の言葉に小さく笑いながら手をヒラヒラと振って、その言葉を飲み込む。

そんなローラ姫の顔は、心なしか少し曇っているようにも見えた気がした。

 

ローラ姫……

戦いばかりだったけど、ローラ姫と一緒に居たせいか、どこか有意義な冒険だった気がする。

つらい時にはいつもローラ姫が励ましてくれた、ピンチの時には必死に僕を助けようとしてくれた。

ローラ姫には、いくら感謝しても足りないくらい感謝している。ローラ姫が居なければ、この冒険を乗り切ることは出来なかった……絶対に。

だけどそれを思うと、僕の決意はどこかローラ姫を裏切っているような気して、少し心が痛んだ。

 

ラダトームはもう目の前だ。

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