「あたし、アイドルになるの!」
みりあがそう言うようになったのは、いつの頃だったか。残念ながら、物心つく前から一緒にいるので、そこらへんは曖昧だ。ただひとつ分かっているのは、みりあがキラキラした衣装、輝いているステージ、グラビアや、歌を歌うことに対して、憧れを持っていることだ。
ついこの間、こんなことを問われた。
「ねぇ、みこちゃん。どうやったらアイドルになれるのかなあ?」
と、至極真剣な顔で僕に問いかけた。
その問いに対しては、僕は当然「知らんよ」と答えるところだったが、そう答えた瞬間拗ねるのは目に見えて、いや、見なくても直感レベルで感知したので、
「そうだなぁ、てきとーに事務所とかのオーディションに行けばいいんじゃない?」
そう答えた瞬間、みりあの目が瞬く間に輝き、
「わかった!ありがとうみこちゃん!」
と言うと、びゅん!という効果音が聞こえそうなほど、元気に走って行った。
後日、みりあはなけなしのお小遣いを握りしめて、書店に行き、オーディションの葉書が付録で付いているアイドル雑誌を一冊のみ買った。一冊だけなのは、言わずもがな、たかだか10歳の小学生が買うには雑誌は少々高すぎたからだ。定価8,00円。それを買ったみりあは、
「あ〜。これでもうしばらくお菓子買えないよう」
と目をうるうるさせながら言った(かわいい)。
「そう言うなよ。今度僕の分けてやるから」
そう言っただけで、
「ほんと!?やったー!ありがとうみこちゃん!」
そう笑顔で返してくれるみりあが、好きで好きでしょうがなかった。
それから346プロダクションというところのオーディションに応募する葉書を一緒に書いて、ポストに出しに行った。その時みりあは、ポストの前で、「受かりますように、受かりますように...」と祈るようにつぶやいていた(かわいい)。
数日後、みりあが突然(突然と言っても、しょっちゅう家に遊びに来ていたけれど)家に遊びに来たと思ったら、開口一番、
「あたし、受かったよ!しょるいしんさ?ってやつ!やったあ!」
それを聞いた時、みりあのかわいさをわかってくれる者が僕以外にいたのか!と子供心ながら嬉しくなったものだ。
どうやら受かったのは一次審査の書類審査らしく、指定された日に、346 プロダクションの方に出向いて、二次審査、面接を受けるらしい。
「もちろん一緒だよね!」
否定する気などもちろんなかった。
また後日、僕はみりあと、みりあのママと共に、346プロダクションを訪れていた。理由は、もちろん、オーディションを受けるためだからである。
346は字で書くと、美しい城、美城と書くらしい。その名の通り、まるでディズニーのシンデレラに出てくるようなお城をイメージしたようなプロダクション、といくか、ここら一帯が全て美城の領域らしい。
中に入ると、ホテルの内装のような豪華、けん、けん...しょくらん?のようなつくりをしていて、というか、あんな立派なシャンデリア初めて見た。
となりのみりあを見ると、
「ほわ〜。すごいな〜」
と、口をぽかんと開けてシャンデリアを見ていた。かと思うと、
「お城みたいで素敵だね!」
と満面の笑みでこちらを見てくる。本当愛おしかった。ちなみにこの時点で両者とも11歳。アイドルは恋愛禁止だと、知らなかった時期だ。
【こちらシンデレラプロジェクトオーディション会場】と書かれた紙が貼り付けられており、さっそくみりあと三人で向かう。が、あくまで僕は見送りであり、応援団であり、みりあファン第一号である。オーディション会場の前まで来たら、あとは「頑張れ、みりあ」と言ってから、みりあが受かるよう、祈るだけなのだが、オーディション会場の中をちらりと見た時。
明らかに不審者らしき男が鎮座していた。
...なんだ?あれ。子供でもわかるような、ザ・不審者みたいな、あの不審者の教科書のような男は!三白眼で目つきが悪い。大柄でまるで熊のようだ。よく親から、「人を外見で判断してはいけません」注意されるけれど、あの男に対しては、その注意すら、有効ではないだろう。
周りのおそらくオーディションを受けるであろう者たちも一様に動揺している。
しかし、そんな周りの動揺も知らず、みりあは、
「じゃあ、行ってくるね!みこちゃん!」
と、無邪気ながら言ったも真剣な表情をしながら言ったので、思わず、
「う、うん。頑張れ」
と、半ば反射的に返事をしてしまった。
みりあは、「...うん!」と言ってからオーディション会場に入っていくと、周りも先導されたように会場に入っていく。
それを、ぼくはただ黙って見ていた。
そして、また後日。
今日は 僕の誕生日だ。
そして、オーディションの結果発表の日でもある。オーディションに受かった者は、プロジェクトのプロデューサーから名刺を受け取り、後日よりプロジェクトに参加するという段取りらしい。
当然、自分の誕生日パーティは夜に持ち越し、ぼくはみりあの家でプロデューサーとやらを待ち構えていた。みりあはこちらまでそわそわするほど緊張していたが、僕は心の底から、みりあが受かると思っていたし、受からなければおかしいと思った。
しかし、それと同時に少し気に入らなかった。
みりあがオーディションに受かるということは、みりあのかわいさを理解することであり、それは今まで僕の特権というか、僕だけがわかる、ような部分もあったのに。うまく言葉に出来ないが、要するに、みりあが取られるような気がしたのだ。
そんなことを考えている間に、玄関のインターホンが鳴る。
「っ!?」
みりあは身体をびくっ!と震わせた。そして、みりあママと一緒に玄関に向かう。みりあは張り詰めた表情をして、玄関を見つめている。それを、僕は黙って見ていることしか出来なかった。
そして、扉を開けるとそこにはーー。
「シロネコヤマトでーす。お届け物を預かっています」
と。
どうやらプロデューサーとやらではないようだ。
みりあは、がっかりしたような、けれどホッとしたような顔をして、それから、ハッと気づくような顔をして、急いで家を飛び出した。
「みりあ!」
僕も慌てて家をでる。
視界の先には、あの会場で見た大男と、みりあだった。そばには警察。あんにゃろう。まさかみりあに手ェ出しやがったな。
「オイコラお前!みりあに何してーー」
「プロデューサーさん?」
「...え?」
「...赤城みりあさんですか?」
「...!じゃあ、あたし、もしかして!」
「はい。これから、よろしくお願いします。私、346プロダクション、シンデレラプロジェクト、プロデューサーです」
いまいち流れがよくわからなかったが、しかし、確固たる事実が、一つだけ。
みりあが、オーディションに受かった。
その事実が、やはり、嬉しくて。
みりあと、僕は同時に歩み寄り、同時に抱き合った。
「おめでとう、みりあ。おめでとう...!」
「ありがとう、みこちゃん!これから頑張るね!」
「ああ...!うん...!最高の誕生日プレゼントだ!」
僕の名前は古馬 命。この時は、みりあのファン第一号であり、みりあの幼馴染でしかなかった。しかし、その後の数々の事件に対して、その時の僕は、まだ知る由も、ないだろう。