やはり俺が軽音部なのはまちがっている。   作:キリマンジャロウ

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⑧いつになく新入生が見学に来る。

あの後、と田井中は無事(俺の後頭部以外)に学校に着き、そのまま放課後を迎えた。

帰りのSHRを終えたところで、秋山がこちらに向かってきた。

全ての授業が終わり、開放感でザワザワとしたクラスの喧騒の中、秋山が俺に喋りかける。

 

「比企谷君」

 

その瞬間、ピタッっとクラスの会話が止まり、俺と秋山に多くの視線が注がれる。

またか、お前らいい加減にしてくれ。秋山のこと好きすぎるだろ。

学校のアイドルが学校の底辺に話しかける、たしかに珍しいがそんな些細なことで俺を憎々しい目で睨むな。

軽音部に入ったとバレた翌日から、俺は軽音部のファンらしき奴らから憎しみとも怒りともとれる目で睨まれることが多くなっていた。

しかしこっちは無理やり入部させられた被害者なのだ。責めるなら山中先生を責めてくれ。

だがぼっちの俺がそんなこと言えるわけもなく、仕方なく山中先生の犠牲になっていた。

山中先生はもっと俺に感謝してもいいと思う。

 

「…なんだ秋山」

 

「あ、あの…ぶ、ぶかちゅ一緒に行きゃない!?」

 

噛みまくりだった。人に注目されるのが苦手な秋山もこの多くの視線に気づいたのだろう。緊張していてるのがバレバレだぞ。

こんな緊張する奴が果たして新歓ライブとやらで演奏できるのだろうか、などと余計な心配をしてしまう。

 

「お、おう。いきゅか」

 

ちなみに俺は噛みまくるのがデフォルトなので無問題である。

 

 × × ×

 

俺と秋山は一緒に部室に向かったはいいものの、まったくと言っていいほど会話がなかった。

唯一の会話は秋山からの「…今朝遅刻したよね…寝坊?」という問いかけに対して、俺の「ああ」という返事のみ。

こんなことになるならもう別々に行ったほうがよくない?

そうすればクラスの奴らからガンを飛ばされることもなくなるしな。うんそうしよう。

そうと決まればさっそく秋山に…と思ったら軽音部の部室である音楽準備室の前まで着いてしまった。っち、間の悪い。

 

「…うぃーっす」

 

「ごめん皆、ちょっと遅れた」

 

「「「おかえりなさいませ~ご主人様~!」」」

 

「…へ?」

 

秋山がガラガラと扉を開け、部室に入るとそこには…3人のメイドさんがいた。

というかメイド服を着た平沢達だった。秋山が茫然と固まっている。

 

「って、な~んだ澪ちゃんと比企谷くんか~」

 

「っちぇ~、新入生かと思って、めっちゃ媚び売ったのに、よりによって比企谷かよ」

 

「もう、りっちゃん。そんなこと言ったら可哀そうよ?」

 

扉の前にいた田井中が落胆の声を上げる。悪かったな俺で。

しっかし、メイド服を着たこいつら、すごく絵になってるな。一瞬、思わず見惚れてしまった。

つくづく美人っていうのは得だ。

 

「お、おう…つーかその恰好はどうした」

 

固まっている秋山の代わりに平沢達に尋ねると、

 

「あ~この服ね、さわちゃんが宣伝用にって着せてくれたんだぁ!可愛いよね~!」

 

「山中先生が…?なんでまた」

 

あれか、メイド服を着てみたいと思い買ってみたはいいものの年齢的に着ることへの抵抗がひどく、しかし捨てるのももったいないので軽音部に…

 

「比企谷く~ん、なんか失礼なこと考えてないかしら~???」

 

「ヒィ!?」

 

いつの間にか山中先生が俺の背後に立っていた。なんだよこの人エスパータイプでもありながら絶の達人かよ…。

俺も昔ハンターハンターにあこがれて念の四大行を練習してみたが全くうまくいかなかったのに。絶以外は。

 

「…や、山中先生はなんていうか…服を作るのが趣味みたいなものなんだ。一年の頃にもそれでよく色々服を作っては着せられてね…」

 

意識を取り戻した秋山が補足説明をしてくれた。

 

「へ~…器用なんすね」

 

プロが作ったものと言われても信じてしまうレベルのクオリティだ。

そんなに知り合ってるわけでもないが、意外な一面である。

 

「ふふ~ん、そうでしょうそうでしょう!私頑張ったんだから!」

 

「でも三着も作ってくるだなんて…大変だったんじゃないんですか?」

 

秋山がそういうと、山中先生が目を光らせる。

 

「んふふ~☆誰が三着だけだなんて言ったかしら~☆」

 

「へ…、そ、それって…」

 

「澪ちゃんだけ仲間外れにするはずないじゃない、ちゃ~んと澪ちゃんの分もあるわよ~☆」

 

よく見ると山中先生の手にはもう一着のメイド服が握られていた。

ふむ、秋山のメイド服姿か…。こういっちゃなんだが見てみたいな、うん。

 

「い、いや…私は遠慮しときます…ホントニ…」

 

しかし肝心の秋山は、明らかに嫌そうである。なんなら俺に助けを求める視線を向けている。

…仕方ない、ここはひとつ助け舟を出してやるか…。

 

「あ~、でも軽音部の宣伝なら、こういう服はむしろ新入生にはわかりにくいんじゃ…

「ならあなたがメイド服着る?比企谷君☆」

いえ、なんでもありません。ほら秋山、軽音部の宣伝のためだ。早く着ような?」

 

いや~、メイド服を着れば宣伝効果はバッチリですよネ!

 

「そういうことよ澪ちゃん…ほら、早く着ましょう…?」

 

山中先生がハァ…ハァ…と息を荒くしながら秋山に詰め寄る。

まんま危ない人だな。

俺の中の山中先生像がどんどん崩れていく…。今更だが。

 

「う、裏切りモノォォォォ!」

 

そう捨て台詞を吐くやいなや、秋山はすごい勢いで部室から出て行った。

 

「うふふ~~逃がさないわよォォォ~☆」

 

山中先生はメイド服を抱えながら秋山を追いかけ出て行った。

秋山は犠牲となったのだ…。犠牲(俺)の犠牲にな。

そう俺が遠い目をして秋山たちが走り去っていった方角を見ながら合掌をしていると、後ろから肩を掴まれる。

振り返ると平沢が満面の笑みで何やら黒い服を持っていた。

 

「…おい平沢、それは一体なんだ?」

 

「執事服だよぉ~。さわちゃん先生がヒッキー用に用意してくれたんだ!」

 

なぜかドヤ顔をしながらその執事服を俺に手渡す平沢。くそっ!あの人女子だけじゃなく俺にもコスプレさせる気かよ!一体ここを何部にするつもりだ!つーか教師のくせして一体いつこんなもん作る暇があるんだよ。

 

「…そうかそうか、それじゃあこれは汚さないようにうちのタンスに大事に保管しておこう」

 

そう言いながら俺は受け取った執事服を鞄の中に突っ込む。なお、それから二度とタンスから出すことはないが。

 

「諦めろ比企谷~、今拒否ったところでさわちゃんが帰ってきたらどうせ着る羽目になるぞ」

 

田井中がソファーに寝っ転がり、雑誌を読みながら俺に忠告してくる。確かにそれは否めない………というか田井中、いくらメイド服のスカートの丈が長いからと言って油断しすぎだぞ。太ももが丸見えで全くすんげーエrゲフンゲフン、全くけしからん。

 

「あらあらりっちゃんたら、スカートが肌蹴てしまっているわ。比企谷君の目の毒になっているわ?」

 

俺の視線に気づいた琴吹が指摘をした。おいやめろ、確かに見てる見てないで言ったら見てしまったがあくまでそれは不可抗力でだな―――――

 

「~~~ッ!あ、朝から続いてこんの変態!いいから着てこい!」

 

顔を真っ赤に染めながら読んでいた雑誌を俺に投げ尽きてきた。うーんナイスコントロール。俺の顔面にクリーンヒッtぐはぁっ!!

 

 × × ×

 

「あー…今日だけで俺はいくつ頭にコブ作ればいいんだろーな…」

 

俺は執事服に着替えるために男子トイレに来ていた。着替え終わり、ちゃんと着られているかチェックするため鏡を見て、ついでに頭のコブの数もチェックしていた。

…にしても、鏡に映った俺を見ると…なんだか衣装負けしているというか…、大体俺は執事なんてやりたく…いやでも専業主婦志望としては執事っていうのはあながち間違いでもないのか…?

 

うだうだ考えているうちに軽音部に戻りついてしまった。はぁ、入りたくねぇ。

 

「うーっす、戻ったぞ…」

 

中に入るとそこにはメイド服を着て戻った秋山と山中先生、そして何やら下級生二人組がいた。そのうちの一人は以前チラシ配りを手伝ってくれた俺の心の妹こと平沢(妹)である。もう一人は…なんだかモップを彷彿させる頭の女子だ。

 

「ヒッキー!ちょうどいいとこに!今、憂とその友達が見学に来てくれたんだ!」

 

平沢(姉)がそう告げる。なるほど見学か。

 

「憂、この人は…?」

 

モップ頭が平沢(妹)に尋ねる。

 

「この人は比企谷さん。お姉ちゃん達と同じ二年生だけど、今年から入部したんですよね?」

 

「…あー、そうだ。どーも」

 

平沢(妹)が俺に笑いかけながら確認を取ってくる。その可愛さに俺はついつい顔が緩みそうになるが、どうにか表情筋を引き締めて答える。

そのせいか、顔が強張り、不愛想な返事になってしまった。べっべつに初めて会う下級生に緊張なんてしてないんだからねっ!

 

「…な、なんだか怖そうな人だね…」

 

「ハハ…で、でもいい人だよ」

 

モップ頭が平沢(妹)に耳打ちをする。どうやら最悪な初対面になってしまったようだ。よし、いつも通りだな!

 

「おい比企谷っ!期待の新入部員候補をビビらすなよっ!」

 

「まぁまぁりっちゃん…」

 

田井中が文句を言っている。確かにこいつらにとって新入生からの入部は急務である。さすがにそれを邪魔するのは忍びない。

 

「あ、あー悪い。執事服着てるのが恥ずかしくてな…似合ってないだろ。だから不愛想になったんだ」

 

俺はモップ頭に頭を下げる。

 

「あ、いえいえそんな…」

 

「比企谷さん、執事服似合ってますよっ!」

 

平沢(妹)が気遣ってくれている。うむ、やはりこの子はいい子だ。

 

「あー、ありがとうな平沢。お世辞でも嬉しいぞ」

 

「いえ、本当ですからっ!」

「ん~?ヒッキーなにが?」

 

俺が平沢(妹)に礼を言うと、平沢姉妹がどっちも返事をしてきた。

 

「あ、いや、そっちじゃなくてだな…あー…」

 

「比企谷君、ここには唯ちゃんと憂ちゃんがいるんだから、区別がつくようにちゃんと名前で呼びなさい」

 

山中先生がそう注意してくる。なんでこういうときだけ先生っぽいんだよこの人!

 

「確かに、唯と憂ちゃんで区別しづらいな。比企谷、ちゃ~んと名前で呼べよ?」

 

くっそ田井中、お前面白がってるだろ。今朝とさっきのスカートの件の仕返しだといわんばかりににやけ面を浮かべて俺に詰め寄ってくる。

 

「あらあら、りっちゃんたら」

 

「た、確かにその通りだけど、あんまり無理させちゃあ…」

 

琴吹はただニコニコとしているだけで、秋山はシンパシーを感じる者同士助け舟を出そうとしているが如何せん対案を出せないでいる。

 

「そ~だね~。唯って呼んでよ!ヒッキー!」

「はい!私も憂でいいですから!」

 

平沢姉妹も乗り気である。くそっ、女子を下の名前で呼ぶなんて俺にはハードル高すぎるだろ。

 

「…ありがとな、憂ちゃん」

 

仕方なしに、俺は妹のほうだけ名前で呼ぶ。理由はなんてことはない、下級生のほうが名前で呼びやすいからである。なんて消極的な理由っ。

 

「え~?ヒッキー私は~?」

 

「…別にお前の名前呼ぶ必要はないだろ。俺はう、憂ちゃんに礼言ってんだから」

 

「ぶぅ~ケチだなぁ」

 

平沢が口を尖らせる。

 

「ふふっ、まぁ比企谷君も思春期だからね。同級生を名前で呼ぶのが恥ずかしいんでしょ」

 

山中先生がクスクス笑いながらフォローを回してくるが、それ全然フォローになってないから。ただ俺の恥ずかしい部分を晒しているだけだから。

 

「比企谷~。お前そんなんじゃ彼女出来ないぞ?」

 

「比企谷君、かわいいわね♪」

 

「だっ、大丈夫!私も同級生の男子名前で呼んだことないから…」

 

他の軽音部の面々もそんな俺に言葉を投げかける。

 

「…勘弁してくれ」

 

俺はそう独り言ちた。

 

 × × ×

 

「それじゃあ、私たちの演奏聴いていってよ!」

 

「はい、聴かせてください」

 

「わぁ~お姉ちゃん達の演奏、久しぶりだなぁ」

 

それからなんやかんやあり、山中先生は顧問を兼任している吹奏楽部のほうへ行き、そして軽音部の演奏を一年生に聴かせる流れになっていた。

各々が自分のパートの楽器を準備している中、俺は椅子に座りお茶をすする。

 

「えっ、比企谷先輩は演奏しないんですか?」

 

モップ頭(聞いたところによると鈴木純という名前らしい)が俺に尋ねる。

 

「さっき憂ちゃんが言ったと思うが、俺は入部したばっかでな、特に何のパートも決まってないし、そもそも楽器を弾けない」

 

「へぇ~…」

 

鈴木が(じゃあなんで軽音部にいるんだこいつ)みたいな目で俺を見てくる。やめて!全部山中先生が!山中先生が悪いの!!

 

「比企谷さんもきっと楽器弾けるようになりますよっ!楽しみにしてますね!」

 

憂ちゃんが俺をそう励ましてくれる。よーしお兄ちゃんにまかせとけ全パート弾けるようになってやるからな。

また憂ちゃんを自分の妹と錯覚してしまったところで、どうやら全員準備が終わったようである。

…メイド服で演奏って絵面的にどうなんだこれ。

 

「うわ~、なんかカッコいいかも!」

 

鈴木がそれを見て感激しているようではあるが…なんだかやりづらそうだ。

 

「澪ちゃ~んストラップが…」

 

「うん、私も…」

 

「あーもう!スカートの丈が長いせいで邪魔!」

 

「私も袖が……大丈夫か」

 

琴吹を除いたメンバーがやりづらそうにしている。というか琴吹、無理にみんなに合わせようとしなくていいんだぞ。キーボードにメイド服は関係ないだろう。

 

「あーもうやりづらい!着替えるぞ!」

 

田井中が投げやりにそういう。だったら最初から着るなよ…と言えばまた文句が飛んでくるのが目に見えてるので自重しておく。八幡えらい。

 

「比企谷、外出てよ」

 

「は?」

 

田井中にいきなりそういわれ、ポカンとしていると

 

「着替えるって言ってるだろ!堂々と覗く気かお前はー!」

 

と頬を膨らませる。そういえばそうだった。

 

「あー悪い、外出とくわ」

 

そういい席を立つが、田井中はまだご立腹なようで

 

「いーや!外にいるだけじゃお前は覗く!変態だからな!教室に戻ってろ!」

 

と、さっと胸を隠すジャスチャーをする。こいつ…なんて失礼な奴だ…と思ったが、今日の俺の田井中への振る舞い(背中で胸の感触を感じる、太ももをガン見する等)を考えるに、それも妥当だった。ごめんちゃい。

 

「おい律っ!いくら何でも比企谷君に失礼だろ!謝れ!」

 

しかしそんなこと事情を知らない秋山が田井中を叱る。普段ならありがたいが、今回に関しては俺が悪いので申し訳ない。

 

「でっ、でも澪ぉ!こいつはなぁ…うぅ…」

 

田井中も秋山に反論しようとするが、事情を説明するのが恥ずかしいようで、顔を赤くして黙ってしまった。俺としても説明されたら全員から冷たい目で見られること必須なので、そのほうが助かる。

 

「いや、俺の配慮が足りなかった。すまんな田井中、秋山も。ちょうどトイレにも行きたかったし、10分くらいしてから戻るわ」

 

俺は断ち切るようにそう言い、ドアへ向かう。

 

「あっ…ごめんね比企谷君。気を使わせて」

 

「いや、気にするな。何度もいうが俺の配慮が足りなかっただけだ」

 

「ヒッキーありがと~」

 

「ありがとう、比企谷君」

 

「………あ、ありがとぅ…」

 

田井中からもか細いながら礼を言われ、適当に返事をしながら俺はドアに手をかけた。その一瞬、近くにいた琴吹が俺にだけ聞こえる声で

 

「ふふっ、でもトイレだなんて、さっき着替えに行ったばかりなのにね」

 

と呟く。俺は思わず振り返るが、琴吹は俺にだけ見える角度でウインクをした。こいつ…なかなか食えないやつだな。

ちょっと背筋がゾッとしたところで、俺は階下にあるトイレへと降りて行った。

 

 × × ×

 

そして10分後、俺は部室に戻るため階段を昇っていると、どうやらもう演奏を始めているらしく、微かに楽器の音が聞こえてきた。

そして部室の前にたどり着くと、そこには女子生徒二人組が部室をドアの窓からのぞき込んでいた。

 

(こいつらも見学か…?演奏中だから気を使って入れないのか)

 

そうあたりをつけて、仕方がないので声をかける。

 

「よう、見学か?」

 

二人組が驚いたように肩を飛び上がらせ、バッと振り返ると、そのうちの一人の顔には見覚えがあった。

 

「「あっ」」

 

俺がたった一枚だけチラシを配った相手、黒髪ツインテールだった。

 




久々すぎてどんな感じか忘れてる…こんな感じで大丈夫か?
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