魔法科高校の劣等生 ~四と零~   作:ブーミリオン

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九校戦Ⅱ

九校戦へ出発する日、会場に向かう為バスに乗り込み出発を待つ俺はため息を吐きたくなるが、表情には出さずに我慢していた。

チラリと奥を見るとそこにはドス黒いオーラを発している深雪がいた。

深雪の横に座っているほのかはオドオドしている。

こんなことになったのには理由があるのだが、改めて考えるとものすごくくだらない理由だ。

 

「……まったく、遅れて来るのが分かってるんだから、わざわざ外で待つ必要なんてないはずなのに……。何故お兄様がそんなお辛い思いを……」

 

 

…つまりはそういうわけだ。

炎天下の中達也が生徒会長を待っていることが我慢できないらしい。

遅刻者……生徒会長に非があるのならまだ分からなくもないが、今回はそうではない。

事前に家の都合で来るのが遅れることが分かっていたので先に出発するかどうかの決を採ったのだが、生徒会長ということもあって待つことになったのだ。

俺は早くホテルへ行って休みたいという意見だったのだが、1人だけ違う意見を言ってあまり目立ちたくもなかったので素直に皆の意見に賛同したのだ。

とは言ってもバスの中で時間をつぶすこともなかった俺は隣に座っている雫に、

 

「着いたら起こしてくれ」

 

と頼んで夢の中へと気持ちよくダイブしたのだが、あまりの深雪の不機嫌な態度を見かねてか、雫は俺に機嫌を直して来いとバスが出発してからしばらくしてたたき起こしたのだ。

とは言っても達也に関してのことで深雪を落ち着かせるのはかなり難しいことだ。

今日二度目の溜息を吐きながらどうやって深雪の機嫌を鎮めようかと考えていると雫が、

 

「でも深雪、そこがお兄さんの立派なところだと思うよ。出欠確認なんてどうでもいい雑用だけど、そんなにつまらない仕事でも、手を抜かず、思いがけないトラブルにも拘わらず当たり前のようにやり遂げるなんて、中々できることじゃない。深雪のお兄さんって本当に素敵な人なんだね」

 

そんな雫のセリフに深雪は虚をつかれたのか目を見開いて絶句している。

 

「……そうね、本当にお兄様って変なところでお人よしなんだから」

 

そう辛うじて照れ隠しで応じた深雪から、先ほどまでの威圧感は消えていた。

そんな深雪を見てほのかは雫の背中に隠れて、ガッツポーズをとっていたのを見て俺は苦笑いする。

……っていうか俺必要なかったよね?

そう思い雫を見ると、『マジアンタ使えない』と言わんばかりの嘲笑ともとれる笑いを俺の顔を見ながらしていた。

……なんか雫ってこんなキャラじゃなかった気がする。

そう一人泣きそうになるも俺は再び夢の中へと入りこんでいった。

 

 

 

 

とは言え俺は昨日もぐっすり寝ていたためすぐに起きてしまった。

そこで九校戦のことについて考える。

俺の出る競技はアイスピラーズブレイクとモノリスコード。

七草会長や十文字会頭が言うにはものすごく悩んだそうだ。

俺はテストや普段の行動により一高一年で最も実力のある魔法師ということになっている。(一年だけでなくてもそうだと自負しているが)

故に俺の出る新人戦の競技ではなるべく優勝してポイントを稼いでおきたいらしい。

しかも十文字会頭が言うには今年の一年男子はそれほど実力が高いわけではないらしく、本当のことを言うと俺を抜くとどの競技でも優勝は狙えないと思う、とのことだった。

だからこそ俺と一条をぶつけることにはものすごく抵抗があったらしいのだ。

俺は一通りすべての競技の練習を3巨頭の目の前でやってみせた。

どの競技に適正があるか見るためだ。

で、実際にやってみたところどの競技も上級生の相手選手を圧倒してしまったのだ。

正直俺はどの競技でもよかったのだが、母さんから言われた一条と戦えという命令ともとれるお願いを思い出し、自分からアイスピラーズブレイクに志願したのだ。

しかし答えはNO。

1競技だけでは一条に負けたときのリスクが高いとのことで俺は半強制的にモノリスコードの参加を言い渡された。

正直2競技もでたくはなかったのだが、自分から志願した以上断るのも悪いなと思ってしまい、不承不承ながら了承したのだった。

……こう思い返してみるとこの数週間いろいろなことがあったなぁ。

でも九校戦の間はこれ以上に色々あるんだろうなぁ…と溜息を吐きながら俺は窓の外を見る。

あの雲のようにゆったりと風に流されたい人生だった……

そう無理やり自分をいたわる俺であったが、それも唐突に終わった。

 

「危ない!」

 

そんな声に俺は一気に現実に引き戻される。

他の人達と同じように窓の外を見るとそこには空中を舞いながらこちらに向かって突っ込んで来る車の姿があった。

その車は炎を上げながらこのバスへと滑ってくる。

俺の休息を台無しにしたあの車を暗黒空間(ブラックゲート)で消してやろうかとも思ったが多くの人の目があることを思い出し踏みとどまる。

さてどうするか、と考えていると周りの生徒が一度に車に対して魔法を使った。

バカ共が…!と思うが、もう遅い。

俺がそう思うと同時に渡辺先輩から

 

「バカ、やめろ!」

 

と俺と同じような意見を告げた。

その後渡辺先輩は十文字会頭に頼むが、十文字会頭は滅多に見せない焦りの色を見出していた。

…仕方ない。俺がやるか、と思うも、横にいた深雪が立ち上がり「わたしが火を!」をを先輩たちに告げる。

深雪がやるなら安心だと思った俺はその後の展開を静かに見守っていた。

 

 

 

 

 

その後十文字会頭と深雪、それに俺と深雪以外は気づいていないであろう達也のおかげで事態は収束し、俺たちは予定通りホテルへと到着した。

 

「では、先ほどのあれは事故ではなかったと……?」

 

バスから降り俺は深雪と共に達也の元へと移動し先ほどの経緯について話していた。

他人には聞かせられない話であるため、少し集団からは離れながら荷物を運び出していた。

 

「あの自動車の跳び方は不自然だったからね。調べてみたら、案の定、魔法の痕跡があった。魔法が使われたのは三回。最初はタイヤをパンクさせる魔法。二回目が車体をスピンさせる魔法。そして三回目が車体に斜め上方の力を加えて、ガード壁をジャンプ台代わりに跳び上がらせる魔法。何れも車内から放たれている」

 

「では魔法を使ったのは……」

 

「犯人の魔法師は運転手。つまり、自爆攻撃だよ」

 

達也のその言葉に足を止めて、俯く深雪。

その肩は少し震えていた。

 

「卑劣な……!」

 

そう怒る深雪を片目で見ながら俺は考える。

もしかしたら零式のやつらか…?

いや、でもやつらだとしたら俺に害があることはしないだろう。

やけに俺のことを慕っていたからな。

しかしそうすると一体誰が……?

母さんの言っていた面倒事が早くも起こり俺は壁々しながらホテルへと向かった。

 

 

 

 

***

 

 

 

九校戦参加者は選手だけで360名、裏方も含めると400名を超える。

そんな数の人がこれから向かう懇親会には来るらしい。

懇親会と建前上はそうなってはいるが、実際には緊張感の強いパーティーらしい。

まぁ俺は緊張感とかそういうのはあまり気にしないタイプだから問題ないが、パーティー自体を苦手としているため正直出たくはなかった。

そう思う人が毎年のようにいるらしく、俺もそれにならって理由をつけて欠席しようとしたのだが、達也と深雪にばれてしまい、強制連行されている。

家の関係上、深雪と共によくパーティーに参加する機会があるが、それに比べればマシか…

そんなことを考えているとパーティー会場へと着いた。

 

「…わぉ」

 

流石は九校戦。

やはり数が多い。

第一高校から第九高校までの制服で辺りはにぎわっていた。

とは言え、どこの高校も同じ学校の人たちで集まっていた。

生徒会長などのリーダー的存在の人が他校に挨拶に行くくらいのものだ、とは聞いていたがここまではっきり別れてるなんて少し意外だ。

もう少し他校と仲良くすればいいのに…

俺もできれば他校の普通の人と仲良くなりたい、そう思い会場へと足を踏み入れた瞬間俺の望みは消え去った。

 

「ぜーろーくーーーん!!」

 

「わっ!な、なんだ!?」

 

急に現れた何者かに俺は後ろから抱き着かれた。

ほどよい胸の感触が背中に……じゃなくて!

一体誰だ!?

俺はすぐさま後ろを振り向く。

 

「やっほー、ぜろくん!お姉ちゃんだよ!」

 

「………はい?」

 

思考が停止する。

目の前の女性は今何と言った?

お姉ちゃんだよ…?

姉?

俺は姉どころか兄、弟、妹もいない…つまり一人っ子なのだが…

いや、それよりも俺にいきなり抱き着いてきて何のつもりなんだ?

俺がそうこう色々なことを考え黙っていると、隣でやり取りを見ていた深雪と達也が、

 

「零夜、俺は先に行くよ」

 

「私も先に行かせていただきますね」

 

と告げ足早に去っていった。

……面倒だからって逃げたな?

まぁ俺でも同じような場面に遭遇したら逃げるだろうから文句は言えないけどさ。

 

「あれ、行っちゃったね?もしかしたら私たちに気を使ってくれたのかな?」

 

達也たちが離れると女性は何故だかテンションがあがっていた。

何故そんなにも嬉しいのか分からないが、決して気を使ったわけではないと思う。

とは言え…

 

「その……離れてくれない?人の目をあるしさ……」

 

いつまでも抱き着かれているこの状況をどうにかしなければ…!

ずっとこうされていたい気持ちもなくはないが、この場を見られてこれから10日間他校の生徒に変な目で見られるのは正直辛い。

 

「そう?でもまぁぜろくんがそう言うならそうしよっかな」

 

彼女はそう告げると名残惜しそうな顔をしながらやっと抱き着くのをやめた。

しかしそこでまた色々な考えが頭の中をめぐる。

まずは彼女について観察してみる。

彼女は第九高校の制服を着ていて、茶髪と金髪の中間くらいの髪をポニーテイルにしている。

……覚えがない。

こんなかわいい人なら一度見たら忘れないと思うんだが…

やっぱり人違い?

でも俺のことをぜろくんって…

そう軽く俯いて考えていると、彼女は寂しそうな表情を浮かべながら話し始める。

 

「そっか……。唯ちゃんや沙希さんが言っていたように、やっぱりぜろくんは……」

 

「ッ!!」

 

今こいつは何て言った…?

唯ちゃんや沙希さん……?

じゃあもしかして…!

 

「じゃあ改めましてだね。私は零宮あやな。ぜろくんと同じ零の名をもつ魔法師で、現零宮家当主です」

 

この出会いが後の俺の人生の転換点になるなんてこの時は思いもしなかった。

 

 

 

 




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