「零夜一体どうしたんだ?そんな顔をして」
と達也。
「………」
「零夜君?」
と深雪。
「………」
「昨日の女の子と何かあった?」
と雫。
「まぁ……そんなところだ。それも悪い方のな」
今俺はスピードシューティングの会場に達也たちEクラスと俺たちAクラスのメンバーで来ている。
しかし俺はとても競技を見る気にはなれなかった。
それもこれも昨日話してもらった内容が余りに衝撃的だったのと、もし事実だとしたらものすごくショックなためだ。
昨日は衝撃的な発言を聞いた後も2時間くらい話していた。
2人きりで話せる機会がそう多くないことを見越したためだ。
その話なのだがそれ以外にも色々予想もしていなかったことが多かった。
…九高校初日になる前に俺はオーバーヒートしそうだ。
「だ、大丈夫?零夜くん」
こんな俺を心配してくれるのはどうやらほのかだけのようだ。
ほのか…あなたは女神ですか…??
「あんま大丈夫じゃないかも…。…今日は体調良くないから部屋でゆっくり休んでるよ」
ほのかには悪いが俺は考え事が多すぎて頭が追いついてない。
やっぱり今日はこれじゃあ無理だ。
「わ、私心配だから着いていってもいい?」
俺がそう告げ立ち上がると、ほのかが俺に付き添ってくれると言い出した。
女神様はそこまでしてくれるのか…
俺は泣きそうになる感情を抑えながらほのかに答える。
「そこまでしてもらわなくてもいいけど、そうしてくれると嬉しいかな。ちょっと今一人だと色々考えちゃいそうだから」
「分かった!私がずっと話しかけるね!」
「それはそれでちょっと……」
ほのかの言葉に俺は苦笑いしつつも嬉しい事には変わりない。
そこまでして俺のことを心配してくれているのだ。
誰が責めることができようか?
「じゃあみんな、俺とほのかはホテルに戻ってるよ。何かあったら連絡してくれ」
俺はそう告げると達也の了承を得ると、ほのかと共にホテルへと向かった。
***
「お邪魔しまーす…」
「そんなかしこまらなくても…俺一人だけなんだし」
ほのかと共にホテルへと戻ってきた俺は寄り道することなく自室へと戻ってきた。
普段なら食べ物の誘惑に負けていただろうが、今日は食欲もなかったためスルーしてきた。
…こんなことになるなんてな。
「そういえば零夜くん、昨日一緒にいた女の人って誰なの?」
俺がそう考えていると唐突にほのかがそんなことを聞いてきた。
雫も言ってたけどやっぱ見られてたんだな…
恥ずかしいったらありゃしない。
そう思いながら俺はほのかの質問に答える。
「彼女が言うには姉…らしい」
「らしい?」
「あぁ。どうやら俺記憶を改ざんされてるみたいでさ………って、あっ!」
そこまで言って俺は我に返る。
気持ちが緩んでいてついほのかに話してしまったけど、これってほのかを危険に巻き込むんじゃ…!
訂正しないと…!、と思うが時はすでに遅し……
「記憶を改ざん!?零夜くん私たちのこと忘れちゃったの!?」
そう告げ取り乱すほのか。
まぁそう思うのも無理はないか…
まぁそういうことじゃないんだけど。
そんなことを思いながら俺はほのかを落ち着かせるために話しかける。
「ほのかのことは覚えてるよ。いや、その表現は正しくないな。正確にはある事柄についてだけの記憶が改ざん…というか失われているらしいんだ」
「よ、よかったぁ………ってそうじゃないよ!零夜くんほどの魔法師がそんな簡単に記憶改ざんさせられるなんてよっぽどすごい人にやられたんじゃ…」
この数分の間に色々な表情を見せるほのか。
見ていると面白いというのは秘密だ。
…っと、話に戻るとほのかのセリフはたいてい合ってるんだなこれが。
しかし、相手は四葉家当主ですよ、なんて軽々しく言えるはずもない。
というかこれ以上ほのかを俺個人の話に関わらせるのは危険だ。
ここは適当にごまかすしかない。
「どうだろうな?なにぶん記憶がないから何とも言えないんだよ」
「そ、そうだよね…。……つまり零夜くんにはお姉さんの記憶がなくて、お姉さんは零夜くんの記憶があるってこと?」
「そういうことだ。って言っても本当の姉ではないらしい。子供のころ俺のお世話をしてくれた幼馴染なんだとさ。覚えてないから本当かは分からないけどな」
そんな俺のセリフを聞いたほのかは悲しそうな顔をする。
「だとしたらかわいそうだよね。零夜くんがもし私に関しての記憶を無くしたらきっと私耐えられないと思う」
「ほのか………」
昨日は自分のことばかりで気にしてはいなかったが、確かにあやなも辛かったのかもしれない。いや、間違いなくそうであろう。
家族を殺され、知り合いと呼べる俺に忘れられ散々なはずだ。
でも彼女は…明るく振舞っていた。
まるで俺に悲しんでる姿を見られないように……
…次会ったらたくさん話そう。
俺は心の中でそう誓い、ほのかと向き合う形で話し始める。
「確かにほのかの言う通りだ。彼女だって辛いはずだよな…。ありがとうほのか。なんだか気持ちが少し楽になったよ」
「そんなお礼を言われるようなことじゃないよ…。もし私だったら辛いなぁって思っただけで…」
「だとしてもだよ。それに……ほのかのことは忘れないから安心してくれ」
「零夜くん…」
「昔のおもしろエピソードを忘れたらもったいないからな」
「零夜くん!?」
「そういえば初めて会ったときさ…」
「そ、それはダメ!!」
そう過去の話を楽しく話す俺とほのか。
…きっとあやなもこういうことしたかったんだろうなぁ。
そう思うと少し心が痛む俺であった。
***
そんなことで九校戦2日目。
今日は昨日と違い気持ちに余裕ができたのでいつものメンバー(選手でいない達也、雫、深雪はスタッフ席で観戦しているため除く)でアイスピラーズブレイクを観戦しに来ていた。
俺も自分が出る競技のため少しくらい見学しておこうと思ったのだ。
とは言え、それほど興味があるためではなかったため、達也たちとスタッフ席には行かなかったが。
「零夜くんはスタッフ席で見なくてよかったの?」
俺がボーっとしていると隣に座っているほのかが尋ねてきた。
ちなみに俺は今ほのかと2人きりだ。
他のメンバーは男子クラウドボールを見に行っている。
「あぁ、問題ないよ。達也は実際に試合の感覚をつかむっていう趣旨で深雪と雫をつれて行ったはずだから俺には必要ない。試合の感覚なんて試合してつかめばいいんだし」
人それぞれだとは思うが、俺はそういう人間だった。
わざわざ試合の前にそんなことをわざわざする気にならない。
「そっか…。やっぱりすごいよ零夜くんは。私も見習いたいくらいだよ」
「ほのかはほのかに合ったスタイルがあると思うし俺に合わせる必要はないと思うぞ?」
「そうかな?」
「そうだよ」
そんな会話をしているとどうやら試合が始まる時間になったようだ。
さて、どんな魔法が飛び交うのか楽しみだ。
***
俺とほのかはアイスピラーズブレイクを見終わると一高の詰めどころへと向かった。
特にすることもないため、何か面白いことでもないかなと思ったためだ。
そう考えながら到着するとあたりは重苦しい雰囲気で覆われていた。
どうしたんだ?と思い俺は中で座っていた雫に聞いてみることにした。
「雫、何かあったのか?」
「男子クラウドボールの結果が良くなかったみたい」
「なるほど…」
だからこんなにスタッフの表情が乏しく見えたのか。
「本戦残り6種目のうち、4種目で優勝すれば安全圏らしい」
雫のその言葉に俺は少々ハードルが高すぎないか、と思った。
いくら一高選手が優秀だからと言ってそんな見通しをしていると、もしもの時に困るんじゃないかと。
とは言ってもそれは本戦の話だ。
ようは現在2位である三高とのポイント差を広げればいいだけの話。
つまり俺が新人戦で一条を倒せば何も問題はないはずだ。
面倒くさい相手ではあるが、決して勝てない相手ではない。
そう思った俺は、
「仕方ない…。新人戦をみんなで頑張って一高の優勝につなげようぜ」
なんて柄にもないことをつい告げてしまう。
そんな俺の言葉にキョトンとしたほのかと雫だったが、
「そうだね!頑張ろう!」
「零夜にしてはいいこと言う」
と俺の意見に賛同してくれた。
その後、他校の一年の情報を雫が説明してくれたり、どこからか戻ってきた達也が今日の総評を言ったりして俺は残りの時間をそこで過ごした。
***
夕食後俺は深雪たちの誘いを断って1人で過ごしていた。
何でもいつものメンバーでお話をしようということだったのだが、あいにく俺には用事があった。
俺が断るとほのかが少し心配そうな顔をしていたが、何もないから安心してくれとほのかの耳元で小さく告げ、顔を真っ赤にしたほのかが去って行って今に至る。
何で顔を赤くさせたのか分からないが、見た感じ風邪の類ではないだろうから心配はいらないだろうと思い俺は来訪者を待つ。
とその時自室のドアがノックされる。
じゃあまぁ話しますか―――そう考えながら、俺はドアを開いた。
「こんばんは、ぜろくん!」
元気いっぱいにそう告げたのはあやなだった。
そう来訪者とはあやなのことである。
先日俺が少し取り乱してしまったため、今日もう一度来てもらうように頼んだのだ。
そう連絡したら、
『お姉ちゃんにまかせなさい!』
という文章が返ってきた。
……何でそこまで世話を焼きたいんだろう?と疑問に思わないこともないが、何となく聞くのがためらわれたのでその気持ちはそっと胸の中にしまっておいた。
「あぁ、悪いな、こんな時間にお願いしちゃって」
「いいのいいの。私もぜろくんといっぱいお話ししたかったし」
あやながそう告げると俺は昨日ほのかと話した会話を思い出す。
――――だとしたらかわいそうだよね。零夜くんがもし私に関しての記憶を無くしたらきっと私耐えられないと思う。
やっぱりつらいはずなんだ。
でもこの前と同じようにあやなは決して寂しいだとか、悲しいだとかそんな雰囲気は纏っていなかった。
やっぱり無理してるのかな…?
それを自分をお姉ちゃんとして我慢しているとか。
でも……今の俺に出来ることは今の彼女を知ることだ。
失われた記憶はおそらくもとには戻らない。
つまり、これからの思い出を作っていくしかないのだ。
何となくだが、彼女となら楽しい思い出を作っていける。
俺はそんな気がしていた。
「そうか…。じゃあまず―――――」
そうして俺はあやなと2度目となる会談もといお話しを長い時間行った。
そして一通り話を終え時計を見ると23時を少しまわっているところだった。
ちょっと遅くまで話しすぎちゃったな…なんて思いながら俺はあやなに話しかける。
「もうそろそろ帰った方がいいんじゃないか?あやなだって試合あるんだろ?ホテルまで送るからさ」
流石にこんな時間に女の子1人で帰らせるわけにはいかない。
達也に聞いた話によれば開会式前日変な賊が出たらしいし。
そう思い提案した俺だったが、彼女は罰が悪そうな顔をしながら、
「そ、それがね…私の泊まってるホテルもう門限過ぎてるの……」
「………え?」
「私たち九高の泊まってるホテルって門限があって、22時を超えるとホテルの中に入れないことになってるんだ…」
「何で先に言わないんだよ!?」
先に言っといてくれればこんなミスしないのに…!
「仕方ないじゃん!ぜろくんとお話しするの楽しかったんだから!」
くっ…
それを言われると俺は何も言い返せなくなる。
いや、でもしかし…
一体どうしたものか……
そう考えているとあやなが衝撃的な言葉を口にする。
「それで今日はここに泊めてほしいなぁって思ってるんだけど……だめかな?」
「いやいやいやいや。ダメに決まってるだろ。若い男女がこんな密室で……もし何かあったらどうするんだ?」
「ぜろくんは何か変なこと私にするの?」
「いや……しないけどさ」
「だったら問題ないよ!」
あやなはそう言うとベッドにダイブした。
信用されてるのはうれしいんだけど、男として見られていないのは少し悲しい気がする。
とは言ってもこう思われていることが今に至ってはよい事となっている。
「しょうがない……今日だけだぞ。俺は椅子にでも座って寝るから」
「そんなのダメだよ。ここはぜろくんの部屋なんだから。昔みたいに一緒に寝よっ?」
そういい手招きするあやな。
…さすがにそれはまずい気がする。
いや、絶対にまずいだろ。
「私に何も変なことしないんでしょ?さっきも言ったけどそれなら問題ないし、私はぜろくんを信用してるから大丈夫!ほーらっ!」
あやなはそう告げ、腕を広げる。
………はぁ。もうどうにでもなれっ!
「分かったよ。でも…変なことするなよ」
「わ、私がへ、変なことなんかす、するわけな、ないじゃん」
めちゃくちゃ動揺してる…
普通逆だろうに…
しかし…まぁ大丈夫だろ。
すぐ寝れば問題ないはずだ。
そう思い俺は2人では狭いベッドへと入り込み、あやなに背を向けて横になる。
後ろから甘い匂いがするが、俺はすぐさま頭を空っぽにして目を閉じ、夢の世界へと旅立った。