魔法科高校の劣等生 ~四と零~   作:ブーミリオン

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九校戦Ⅴ

早くも九校戦は3日目に突入する。

今日はアイスピラーズブレイクととバトルボードの決勝が行われる予定である。

しかし俺が起きると時間はすでに12時を回っていた。

それもそのはず。

昨日あやなの隣で横になってすぐ寝ようと思ったのだが、あまりにもドキドキして眠れなかったのだ。

俺の記憶では朝4時くらいまでは意識があったはずだ。

それから12時と考えればそれほど遅いじかんでもないはず……だ。

問題となったあやなはどうやら普通に寝て朝早く自分のホテルへと戻ったようだ。

というのも、ご丁寧に『先に帰ってるね』という書置きがあったから分かったのだが。

いっそそれなら起こしてほしかったと言うのは贅沢だろうか。

そんなことを考えながら俺は身支度を整え、ゆっくりと会場へ向かう。

どこへ行こうか考えると俺はふと思い出す。

そういえば今日はあの渡辺先輩がバトルボードの決勝に出ているはずだ、と。

時間的に試合は終わっているころかもしれないが、一応行ってみようと思い俺は足をバトルボードの会場へと向けた。

 

 

 

***

 

 

 

「……何かあったのか?」

 

俺はポツリとそんな独り言を漏らしてしまう。

とは言うのも、会場へと着いたら大会委員が慌ててあたりを走り回っていたのだ。

怪我人だろうか?

普通に競技を行っていたらバトルボードで怪我なんてしないと思うんだけど…

そう思っていると、後ろで他校の生徒の会話が耳に入る。

 

「でもまさかの番狂わせだったよね。まさか去年の1位、2位がそろって負けちゃうなんて」

 

「しょうがないよ。…それにしても渡辺選手は流石だったよね。あのまま放っておけば自分が優勝できたはずなのに、七高の選手をかばったんだから」

 

…何だと?

渡辺先輩が相手選手をかばった?

疑問に思った俺はそこで話していた四高の女性選手に話しかける。

 

 

「ごめん、ちょっと話いいかな?」

 

 

 

――――――

 

 

 

話を聞くにこういうことのようだ。

試合開始と同時に渡辺先輩は先頭に躍り出た。

しかし七高の選手もそれについていくようにしてお互い魔法の打ちあいが続くがそれでも決着はつかず、鋭角コーナーへと差し掛かった。

とその時CADを操作していた七高の選手が大きく体制を崩したそうだ。

どうやらオーバースピードだったらしい。

渡辺先輩はそれを見ると同時にすぐに対処に入る。

何とかボードを吹き飛ばすことには成功したが、七高の選手が衝突することは避けられず大きな怪我を負った、と。

 

「そうか…。ありがとな」

 

俺は2人に礼を言い、一高本部へと足を向ける。

渡辺先輩の具合が気になるということもあるが、それ以上にその出来事について俺は疑問に思っていた。

いくら試合中とはいえ、あの渡辺先輩がバトルボードを吹き飛ばすだけしかできなかった、だと?

あの人なら間違いなく七高選手を受け止める魔法も展開していたはずだ。

しかし、それは何故だ?

……考えても分かるはずがないか。

仕方ない。とりあえず今は本部へ急ごう。

と思い直したところで端末が鳴った。

誰だ?と思いながら見てみるとメールの送り主は達也。

何でも至急俺の部屋まで来てほしいとのことだった。

……行くか。

 

 

***

 

 

俺が達也の部屋に行くと達也は1人でディスプレイとにらめっこをしているところだった。

 

「これを見てくれ」

 

俺が入ると達也は挨拶もそこそこにいきなりそんなことを言った。

不思議に思いながらも俺は達也に言われた通りにディスプレイへと視線を向ける。

動画が再生されるとそれは渡辺先輩のバトルボードの競技中のものだった。

なるほど、達也はこれを検証していたのか。

そう思いながらも俺は動画をじっくりと観察する。

自分で先ほど疑問に思ったことが解決するかもしれない。

これは…!

 

「何かわかったか?」

 

俺の表情に変化があったことを見逃さなかった達也はそう告げる。

 

「大会委員にうちか七高に恨みでもあるやつがいるのかね?」

 

「…どういうことだ?」

 

俺の言葉に少し間を置いて達也が尋ねてくる。

きっと今の数秒で色々考えたんだろうけど、そんなに難しい事ではない。

というか達也はもう真相をわかってる気がする。

きっと俺の意見と正しいかどうかを確認したいだけなのかもしれない。

 

「だってそうだろ?CADに細工していて、それに時間を合わせたように精霊魔法を発動させられているんだから」

 

「そうか……やはり零夜には見えたか」

 

そう、俺にははっきり見えていた。渡辺先輩がバランスを崩した時に水面にいたあの精霊が。

…昔から俺は自分が古式魔法が使えたこと、SB魔法が割と得意だったことを疑問に思っていた。

だが、あやなの話を聞いて零は古式魔法を使い手が多いとのことだったので今となってはそれほど疑問に思ってはいない。

それに加え四葉家当主の血も流れているのだからよくよく考えてみると俺って化け物だよな…

まぁそれもこれも零の話が全部本当だったらの話なのだが。

 

「あぁ。でもCADの方は確信はない。しかし普通に考えたらそうとしか考えられないからな」

 

「手口は分かるか?」

 

俺がそう説明すると達也はいつも以上に真面目な顔をして俺に尋ねてきた。

きっと深雪にも被害が及ぶことを危惧しているのだろう。

とは言っても、俺にだって分からないことはある。

 

「きっと達也もある程度は予想しているんだろうけど、大会委員に手渡されるときにきっと何かされてるんだろ。でも何かされてるってことが分かるだけで内容までは分からない。まぁ俺なら見ればすぐにわかるけどさ。って言っても達也も同じか」

 

「これから全部のCADを零夜に見てももらうのは現実的に不可能だからな…。一体どうしたものか…」

 

達也が何やら俺に面倒事を押し付けようとしていたのはきっと気のせいだよな…?

とまぁどうしたものかって言ってもできることをやるしかないでしょ、達也。

 

「誰に恨みがあるのか分からない以上これから気を抜けなくて大変だろうけど、深雪の事だけは絶対守れよ。ほのかたち一科生の()()は俺が見るから」

 

「…助かるよ」

 

深雪のことは達也に任せておけば大丈夫だろう。

達也以外に適任がいるとも思えない。

とそこで俺はガーディアンつながりで自分のガーディアンである少女のことを思い出す。

…元気にしているだろうか?

1人暮らしをしたくて彼女を撒いたのだが、最近ようやく気づいたことがある。

それは1人暮らしは面倒くさい、ってことだ。

食事、掃除、買い物など言い出したらキリがないほど1人ですべてやらなければならないことに気がついてしまったのだ。

九校戦が終わったらあの子を呼ぼうかな、なんて俺はガーディアンであるあの子のことを思った。

俺がそんなことを考えているなど知らぬ達也もまた、ふと思い出したかのように話し出す。

 

「……それはそうとほのかで思い出したんだが、今日ほのかがとても零夜のことを心配してた……というか零夜のことで慌てていたぞ?」

 

「心配というか慌てて?…あぁ、俺が会場にいなかったからだろ?だとしたら寝坊だから心配しなくても……」

 

達也の話を聞いて俺は不思議に思った。

心配ならまだ分かるが、慌てるって一体…?

そう思っている俺に達也は淡々と話を続ける。

 

「それもそうなんだが、朝零夜の部屋から九高の女子生徒が出てくるのを偶然雫が見かけたらしくてな。それを話した途端急に慌てだして……」

 

「そうか…」

 

あやな……。

もう少し考えて帰れよ…

寝てて何も対策を講じてなかった俺も悪いけどよりにもよって雫に見つかるなんて…

きっとほのかに色々ないこと吹き込んだんだろうなぁ…

 

「…零夜。彼女は誰だ?」

 

「……今は言えない。達也たち余計な混乱を招くことになるからな」

 

「余計な混乱?彼女と付き合っているのか?」

 

「…達也もそういう冗談が言えるようになったんだな。嬉しいような悲しいような…」

 

まぁいくら深雪以外に感情がないとは言えロボットではない。

このくらいは言えるのだろう。…いや、もしかしたら達也は本気でそう思っているのかもしれない。

だとしたら笑えないんだけど…

 

「では何だ?他に俺が混乱することなんて…」

 

俺の気など知らず達也は話を続ける。

あやなと俺が付き合ってたら達也が混乱するとも思えないが、今は隣に置いておこう。

俺は真面目ぶった顔を作ると達也に真剣な声で告げる。

 

「四葉に関係あるって言った方がいいか?」

 

「ッ!」

 

明らかに達也が驚いたのが分かる。

まぁ無理もない。

いきなりこんな話を出されたら誰だって驚くだろう。

だが言ったことは事実だ。

無理にでも納得してもらわないといけない。

 

「そういうことだ。だから今は言えない。…でも言うべき日が来たらしっかりと話すよ。もちろん深雪にも」

 

零についてしっかり分かるまでは俺はあやなのことは黙っておくつもりだ。

ほのかにはちょろっと話しちゃったけど、2人だけの秘密にしてくれって頼んであるから口の堅いほのかは問題はない。

まぁそのしっかり分かるのがいつになるかは全然分からないけどな。

 

「了解した。まぁ無理はするな、とだけ言っておくよ。零夜に言ったところで無駄かもしれないがな」

 

「ハッ。俺は面倒事が嫌いなんだ。無理なんかしないよ」

 

達也の言葉に俺はそう短く答え、ハッと笑う。

 

「あっ、そういえば前言ってた賊について何かわかったか?」

 

それとなく気になっていたことを達也に尋ねる。

こんな事故があった以上そいつらが今回の事故を起こしたと考えられなくもないし。

 

無頭竜(ノーヘッドドラゴン)だそうだ。目的はまだわかっていないらしい」

 

「そうか……」

 

目的が分かってればある程度動けたのになぁ…

俺って相手が動く前にどうにかするタイプなんだよなぁ。

 

「何か気になることでもあるのか?」

 

俺のセリフを疑問に思った達也がそんなことを聞いてくる。

 

「まぁあるって言えばあるけど…達也に言うほどのことじゃないな」

 

「そうか。…それより新人戦の方は大丈夫なのか?俺は男子の方はまったく見てないから分からないんだが」

 

達也は話を九校戦の話へと戻す。

そういえば達也は女子だけしか見てないんだったな。

正直言えば俺も達也にエンジニアを頼みたかったんだけど、一科生のやつらはどうも達也が嫌いなようで…

俺一人だけだとチームに影響が出るかもしれないということで、達也は男子に何も関わらないようになっていた。

 

「ピラーズブレイクは問題ないだろ。殺傷性ランク関係ないからどんな魔法でも使いたい放題だからな」

 

そう。あまり公にされてはいないが殺傷性ランクが関係あるのは対人影響の可能性がある競技にかけられているものであるため、ピラーズブレイクは関係ないのだ。

まぁ対人ということもあってモノリス・コードは殺傷性ランクが関係してくるのだが。

 

「それは零夜くらいなものだと思うぞ…。普通の魔法師はCADなしじゃ零夜ほど早く魔法を発動できないからな。普通の魔法師がCADを使って魔法を発動するスピードよりも、零夜がCADなしで魔法を発動するスピードの方が速いなんて未だに驚くよ」

 

達也はそう言うが、俺だって達也のことはいまだに信じられないことでいっぱいだ。

お互いさまではないだろうか?

 

「それは達也も同じだろ?…それに流石の俺でも全試合CADなしでやろうなんて思ってないさ。おそらく一条とやるときは使わざるを得ないだろうな」

 

一条…か。

正直ピラーズブレイクでは負けるとは思っていない。

一条の爆裂はピラーズブレイクで無類の強さを誇る。

俺もそれは同意だ。

爆裂―――

対象内部の液体を瞬時に気化させる魔法で、生物ならば体液が気化して爆発、内燃機関動力の機械ならば、燃料が気化して爆散、破壊することができる魔法だ。

そんなんチートだろ!なんて思うかもしれないが、しっかり抜け道はある。

一つは情報強化だ。

この対抗魔法なら一条の爆裂を防ぐことも可能である。

しかし可能であるというだけで、防げるかどうかは魔法師次第ということだ。

もう一つは一条の爆裂よりも早く魔法を発動させることだ。

これは一条以上のスピードが求められるためあまり一般的ではないが、十師族ともあればそれも不可能ではない。

俺はどちらかというと後者のほうが手っ取り早いと考えている。

なぜなら情報強化は一条に隙ができるまでずっと使用し続ける必要が有るためだ。

情報強化で勝つことはできなくはないがおそらく面倒になるだろう。

それならば一瞬で終わらせてしまう方が効率的だと思ったためだ。

 

「それはそうだろ。相手は十師族次期当主だ。手を抜いて勝てる相手じゃない。まぁ零夜も次期当主候補だから条件は一緒なようなものか」

 

「……そうだな」

 

次期当主候補…ね。

あやなの話を聞いた後だとどうしてもそれについて考えてしまう。

母さんがなぜ俺の記憶を消したのか。

九校戦が終わってから聞こうとは思っているが…

 

「どうかしたか?」

 

俺が少し間をあけたことを疑問に思った達也がそう尋ねてくるが、達也に言うべきことではない…と思う。

それを悟られないためにも俺は話題をもう一つの競技へと向ける。

 

「…いや、何でもない。まぁとりあえずピラーズブレイクは問題ない。問題があるのはモノリス・コードなんだよな…」

 

「やはりチームプレイは苦手か?」

 

「まぁそんなところだ。達也なら森崎って知ってるだろ?そいつがまた口うるさいんだ。やたら命令してくるし、突っかかってくるしで練習がまともに進みやしない。おかげで1回戦を突破できるかも怪しいよ」

 

あいつやたら俺に絡んでくるんだよなぁ…

あいつとは絶対に気が合わない自信がある。

一体俺に何の恨みがあるってんだよ……

 

「そうか……。まぁ奴ならしょうがないのかもしれん。とは言っても零夜がいれば負けはないだろ。モノリス・コードは相手を全員戦闘不能にしても勝ちなんだから」

 

「まぁそうだけどさ…なんていうかモチベーションが上がらないんだよな。いっそ早く負けてずっと試合観戦してたいよ…」

 

そうしたいのは山々なのだが…

 

「そんなことをしたら深雪が黙っていないと思うぞ?」

 

ですよねー…

 

「そこなんだよな…。ほのかや雫も絶対文句言ってくるだろうし…。いっそ俺だけで出してくれないかな…。あまりに衝突が多いからエンジニアの中条先輩もおどおどしっぱなしだしさ」

 

俺たちが言い合っているとあの人はいつもオロオロしていて見てる原因のこっちとしてはどうしても申し訳ない気持ちになってしまう。

ちなみにピラーズブレイクのエンジニアは五十里先輩だ。

あの先輩はとても優しいため練習が楽しかった。

基本俺のやりたいようにやらせてくれたし、エンジニアとしてはかなりレベルの高い人だと個人的には思っている。

 

「あの人なら仕方ないだろう」

 

「だよなぁ…。まぁ今更言ったところでどうにもならないし頑張るしかないか…」

 

俺はそう告げ部屋を出ようとドアノブに手をかける。

 

「そちらはそちらでがんばってくれ。俺に出来ることはないからな。それとほのかの件はしっかりと話しておいてくれよ。あそこまで騒がれると俺や深雪も手が付けられない」

 

「ほのかは一体どんな騒ぎ方してるんだよ…。まぁ話しとくから安心してくれ」

 

そう告げ俺は達也の部屋を去った。

時計を見ると夕方4時。

面倒事は早めに解決しておこうということで俺はほのかの部屋へと向かった。

 

 

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