九校戦四日目。
今日からいよいよ新人戦の開始である。
とは言っても俺の出る競技は明日からなので今日は応援だ。
「零夜くん!今日はしっかり応援に来てね」
そう、一つはほのかの応援である。
「…何回も言わなくても大丈夫だって。しっかり行くから。それにまずは午前の雫の試合だろ?」
そしてもう一人、雫のスピードシューティングも今日行われる。
雫は午前、ほのかは午後に試合が行われるのでかぶることがないのは明白なのだが、ほのかはこのように昨日から何度も俺に応援に来るように催促してきている。
それもこんな朝早くに俺の部屋まで来て、だ。
現在時刻は朝6時。
正直もう少し寝かせてもらいたかったが、なぜだかほのかの元気な顔を見てると目が覚めてしまった。
というか、ほのかはこんな朝早く来て、自分の競技に影響しないのだろうか…?
今身支度を整えてこの場にいるということは、少なくとも起きてから1時間程度は経っているはずだ。
…もしかして緊張して寝れてなかったりするのか?
「ほのか、しっかり寝れたか?」
「…緊張しちゃってあんまり眠れてない…かな」
そんなことだろうと思ったよ…
とは言っても緊張は仕方がない。
普通の人はこのようなとき緊張するものだと思うから。
しかしあんまり緊張しすぎても競技に影響してしまう。
気分転換がてら散歩でもしましょうかね。
「ほのか、もしよかったら今から散歩でもしないか?少し体を動かせば緊張もほぐれると思うんだ」
「そうかな…?でも零夜くんとなら…………」
「ん?俺がどうかしたか?」
「な、なんでもないよ!?零夜くんと散歩したら面白そうだなって思って」
「散歩で面白そうってどういうことだよ…」
ほのかが何を言いたいかはよくわからなかったが、俺はすぐに身支度を整えほのかと共に散歩へと出かけた。
***
「隣座ってもいいか?」
俺はスピードシューティングの会場へと着くと見知った顔を見つけたので声をかけた。
そんな俺の頼みに深雪は笑いながら、
「ええ、もちろん」
と告げる。
そして座った俺とほのかを見るや、エリカの横に座っていた美月が、
「あれ?ほのかさん、試合の準備はいいんですか?」
と告げた。
「大丈夫です。私のレースは午後だから」
そう答えるほのかの言葉には、朝のような緊張している感じは見られなかった。
「あら?ほのか、あまり緊張していないようね。昨日はあんなに緊張していたのに」
俺と似たようなことを感じたと思われる深雪は、ほのかにそう告げる。
あんなにって昨日どんだけ緊張してたんだよ…。
俺が部屋に行ったときは緊張なんかしてなかったのに。
「うん。朝は緊張してたけど、零夜くんと散歩してたらなんだか緊張があんまりなくなっちゃった」
「ほほう。朝から散歩とはこれはまた…」
ほのかの言葉にエリカはニヤニヤしながらそう告げた。
「どうしたんだ?」
エリカのニヤニヤが気になった俺はそう尋ねる。
しかし返ってきた言葉は俺に対するものではなかった。
「ほのかも大胆なことするんだね」
「ちょ、ちょっとエリカ!?別にそういうんじゃないからね!?」
エリカの言葉にほのかは顔を真っ赤にしながら否定している。
そしてそんな様子をほほえましそうに眺める深雪と美月。
正直何を話しているのかよくわからないが、この場は黙っている方がいいような気がしたため、その後も顔を真っ赤にしながら話すほのかを静かに見ていた。
とそんなとき隣に座っている深雪に耳元で声をかけられる。
「少し鈍感がすぎると思いますよ」
………まったく持って何が言いたいかわからない。
***
そんなこんなで時間をつぶしていると雫が入場する。
俺たちはそんな雫に目を向けた。
俺はもちろん雫が一回戦で負けるなんて思ってはいないが、一回戦であるだけに少しは緊張するだろうと踏んでいた。
しかしどうやら杞憂だったようだ。
雫の目には緊張はまったく見られなかった。
……ほのかにもこうなってもらいたいものだ。
俺がそう思っていると、スタートのランプが点り始め、全てが点灯すると同時にクレーが空中に飛び出した。
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雫が最後のクレーを破壊する。
結果はパーフェクト。
文句なしの準々決勝進出だ。
試合中は俺を含め皆、雫の魔法に感嘆をもらしていた。
ほのかや深雪は雫の魔法を知っていたみたいだが、俺や二科生の皆は始めて見たので当たり前といえば当たり前である。
雫もたいした魔法師になったもんだ…と俺は試合を思い出し心の中で嘆いた。
***
その後も雫は勝ち進み、見事スピードシューティングを制した。
いきなりの優勝で一高はこの流れに乗りたいものだ。
午後はほのかの試合がある。
練習を見ていないからよくはわからないが、ほのかは決して自分の魔法がバトルボード向いているわけではないはずだ。
ほのかは魔法師としては優秀であるが、九校戦のような競技向けの魔法を得意とするわけではない。
とはいえ優秀であることに違いはないため、決して優勝できないというわけではないはずだ。
そう考えながらほのかの試合までの時間をすごしていると、あっという間にほのかの試合時間が迫っていた。
ほのかに頼まれて選手控え室まできていた俺はほのかに話しかける。
「ほのか、練習を見ていないからわからないけど練習通りやれば間違いなく勝てるはずだ。ほのかが魔法師として優秀なことは俺もよくわかってる。…とは言っても私生活じゃ決して優秀じゃないと思うけどな」
「ちょ、ちょっとそれどういうこと!?……でも緊張を少しでもほぐそうとしてくれてるんだよね。ありがとう」
気づかれていたか…
まぁ緊張しながら試合されても困るし。
それに昨日の事件が気になる。
実を言うと控え室まで来たのはCADに細工をされていないか確認するためでもあった。
そして先ほどほのかのCADを見せてもらったが特に異変はなかった。
…考えすぎか?
それにこしたことはないが……
そう難しい顔をしながら考えていると、
「どうかしたの…?」
ほのかが不安げに話しかけてきた。
っと、今はほのかの試合に集中しないとだな。
「何でもないよ。ほのかが優勝したら何かひとつ願いを聞いてやろうかなって考えててさ」
自分でもこんなでたらめがよくすらすらと口から出るものだと驚く。
「そ、それって本当に!?」
正直冗談のつもりだったのだが、ほのかは目の色を変えて俺に詰め寄りそう告げた。
…まぁいっか。
「あ、あぁ。俺にできる範囲だったらだけど…」
「分かった!!私絶対優勝するね!」
ほのかはそう告げると立ち上がり熱意をあらわにする。
…俺はいったい何をお願いされるのだろう?
しかし雫でなくほのかだったことに俺は少し安堵する。
雫だったらかなりの無茶振りさせられるだろうからな。
「光井さん競技30分前ですよ~って零夜君来てたんですか?」
そう考えていると部屋に中条先輩が入ってきた。
彼女はほのかのエンジニアであり、俺のモノリスコードの担当者でもある。
そのためそれなりに仲のいい先輩だ。
「こんにちは中条先輩。ほのかに頼まれて話し相手になっていたんですよ。緊張しちゃうからって」
「そうでしたか。…それにしてもどうやって光井さんをあそこまでやる気にさせたんですか?」
そう告げる中条先輩の視線の先には、やる気で炎が見えるほどのほのかがいる。
「まぁ…色々ですかね。でもやる気がなかったり緊張してるよりはよっぽどいいと思います」
俺はなおもやる気に満ち溢れているほのかに苦笑いしつつ中条先輩にそう告げる。
「それもそうですね」
そんな俺の言葉に中条先輩も苦笑いしながら答えた。
って30分前だったっけ。
中条先輩の言葉を思い出した俺はほのかへと話しかける。
「ほのか30分前ってことだから俺は戻るぞ。…頑張れよ」
「うん!任せて!!」
いつものほのからしからぬ言葉に少しの不安を覚えつつも、俺はほのかの控え室を去った。
***
「零夜くん!見ててくれた!?私勝ったよ!」
試合が終わり選手控え室へと行くと、ほのかが泣きながら俺の手を握りぶんぶんと縦に振る。
「あ、あぁ。見てたよ。だから少し落ち着けって…」
そんなほのかに俺はあたふたしながら対応する。
だって試合前と態度が全然違うんだもん…
「私…私いつも本番に弱くて…運動会とか対抗戦とかこういう競技会で勝てたことってなかったんだ…」
小学校のときはそうだったけど…
そう思い隣にいる雫に視線を向けると小さく頷いた。
つまり俺の認識で間違いないってことか
「それと達也さんもありがとうございました!今日勝てたのは零夜くんの応援と達也さんのおかげです」
いやいや…
達也は分かるけど俺の応援で勝てたって言うのは言いすぎ…っていうか関係ない気がするんだけど。
視線を達也に向けるとどうやら反応に困っているようだった。
まぁこんなこと過去なかっただろうから仕方がないか。
助け舟を出そうとして俺は雫に視線を向けアイコンタクトをする。
それに雫は頷くとほのかに話し始めた。
「ほのか、この後も試合あるんだから準備しないと」
「そうだぞ。それにこの場にいつまでもいると迷惑だし、次の作戦でも確認したらどうだ?」
そんな俺たちの言葉にほのかはハッとすると、こぶしを握り締めながら立ち上がり大きな声で話し始める。
「そうだね!なんとしても優勝しなきゃ!お願いのために…!」
表情がころころ変わるほのかを見て俺や雫以外はきょとんとしていた。
まぁ俺たちでもここまでの切り替えの早さには驚かされるが。
にしてもそこまでしてお願いしたいことっていったい何だよ……
何だか少し胃が痛くなってきた気がした…
次回からついに主人公が競技に登場します!!