大会七日目。
今日は新人戦モノリスコードが行われる日だ。
昨夜無頭竜とかいうふざけた名前の組織を消したため、今日以降はもう何もないはずだ…と信じたいところではある。
などと考えていると正面にいる男から声がかかった。
「いいか。あの二科生だけにこれ以上いいところは見せてられない。俺たちだってやるってことを見せ付けてやるんだ」
確か森崎とか言ったっけ。
こいつ俺に命令と言わんばかりの指図をするから好きじゃないんだよなぁ。
それにあの二科生って達也のことだろ?
チームメイトなんだから、いい功績を残していることは良いことだと思うんだが。
「おい、聞いているのか。令式零夜!」
「はいはい、聞いてますよ。だからそんな大きい声出さないでくれ。迷惑だ」
「何ぃ!」
「お、おい駿。落ち着けって!」
「そうだぞ。試合開始はもうすぐなんだから落ち着いたほうがいいぞ」
「だ、誰のせいでこうなってると思ってるんだ!」
「さぁ?」
「お、お前なぁ…!」
はぁ…
これじゃあ本当に優勝なんて無理だよ。
悪いな将輝。どうやら今年お前と戦う機会はもうないらしい。
と、その時試合を開始を告げる合図が始まる。
はぁ、まぁ出来るとこまではやるか…
そう考えながら俺は試合に意識を集中させる。
ブーッ!
試合開始の合図が鳴り響く。
それと同時に俺は
そして相手モノリスの位置情報を認識したところで、
を発動。
一瞬にして相手モノリスの背後へと回りこむ。
ここまで一秒とかかっていない。
さて、相手選手を倒すかコードを打ち込むか、と考えたところで、何かが崩れるような大きな音がした。
…誰か魔法を使ったのか?
しかし音のした方角は俺たちが開始直前までいた方角だ。
こんなのは予定に無い。
ってことは相手の魔法か?
俺がそう思ったところで、試合の中断を告げるブザーが鳴った。
***
「零夜くん!!」
零夜たちのモノリスコードを見ていたほのかは、零夜たちがいた廃ビルが急に崩れたことにあからさまに驚いた。
声こそ出さなかったが、隣にいた雫もかなり驚いているようだ。
「し、雫…」
ほのかの不安げな声に雫は、
「…とりあえず本部へ行こう」
と提案する。
本部へ行けば多くの情報が手に入る。
そう雫は考えたのだ。
そのことに遅れて気がついたほのかは、うなづきながら席を立つ。
そして足早に歩きながらほのかは雫に質問する。
「ど、どうしてこんなことになったんだろう?」
ほのかのそんな問いに雫は数秒考え、口を開く。
「おそらく相手選手のフライング。それ以外は考えにくい…かな」
大好きなモノリスコードをしっかりと見ていた雫はそのような結論を出す。
というか彼女にはそれ以外の結論を考えることが出来なかった。
そのことに少し怒りを覚えながら、ふとディスプレイを見る。
すると雫はとても驚いた顔をして、
「ほ、ほのか!」
と、普段は出さないほどの大声を出して、ほのかの足を止める。
雫の声に立ち止まったほのかは雫同様ディスプレイを見上げる。
するとそこには…
「……えっ?」
頭にクエスチョンマークを浮かべた零夜が呆然と相手モノリスの背後に立っていた。
***
試合中断後、俺は七草先輩に呼ばれホテルの一室へと来ていた。
話を聞く限り開始直後に相手選手がフライングをし、廃ビルを崩したそうだ。
その影響で森崎ともう一人(名前は忘れた)が瓦礫の下敷きになってしまった、ということらしい。
「零夜君、まだ十文字君が話している途中だからどうなるか詳しいことは分からないけど、私は新人戦でも優勝したいと思っているわ」
それじゃあ最初は新人戦なんてどうでもいいって思ってたのかよ!なんて突っ込みたい衝動を抑えながら俺は答える。
「はぁ…。でもメンバーはどうするんです?俺、負傷したメンバー以外の男子のことあんまり知らないですよ?」
それはまず俺が疑問に思ったことである。
例え優勝したくても、メンバーがいなければ出場すら出来ない。
はたして暇な一年男子がいるかどうか…
流石に俺一人で相手3人を相手にしろなんて無茶は言わないと思うし。
…言わないよな?
何て少し不安になるも七草先輩はこの質問は予想していたのか、すぐに答える。
「一人は達也君にお願いしようと思っているわ」
また意外なところから選んだな。
一科生もまだ多少はいるだろうに、あえて二科生から選ぶなんて。
「そうですか…。達也に…」
「あなたたちは従兄弟だって聞いているわ。それならお互いをよく知っているでしょ?」
なるほど。
確かに筋が通ってはいるな。
達也と俺がペアを組めば正直敵はいないと思われる。
三高の将輝のところのペアでも相手にすらならないだろう。
深雪なんかも喜んで賛成するだろうし、それはそれで面白そうではあるが…
「まぁそれなりには…。もう一人のメンバーは誰です?」
「それはあなたたちで決めて頂戴。あなたたちが選んだメンバーだったら私や摩利、それに十文字君も説得に協力するわ」
あんたら3人に言われたら断るやつなんていないだろうに…
下級生からしたらそれは一種の拷問かもしれない。
なんせ十師族の二家がいるんだから。
「そうですか。分かりました。達也には七草先輩から言うつもりですか?」
「ええ。そのつもりよ」
しかしまぁあと一人くらいなら達也がどうにかしてくれるはずだ。
正直俺は作戦とか考えるのは得意じゃないからな。
後のことは全部あいつに任せよう。
「…分かりました。では達也に話すとき俺も呼んでください」
「分かったわ」
そう答えを確認して俺は部屋を去った。
と、そのとき俺の端末がメールの知らせを告げる。
何だ?と思い、メールを見るとそこには………
***
その後達也はミーティングルームに呼び出され、七草先輩や十文字先輩、摩利さんなどの幹部たちにモノリスコードの出場を薦められていた。
その様子を俺は黙ってみている。
「……二つほど、お聞きしてもいいですか?」
「ええ、何かしら」
七草先輩の許可をもらい達也は競技の予定について質問する、答えは予想通りのもの。だが、達也にとっては次の質問が一番重要なことだった。
「…何故自分に白羽の矢が立ったのでしょう? 」
遠回しの拒絶、そして達也にとって今の質問は純粋な疑問でもあった。その問に七草先輩は困った顔をして口を開く。
「達也君が適任だと思ったからだけど…」
その後達也が七草先輩を追い詰めるように色々言葉を投げかけるが、十文字先輩の甘えるなという言葉で何やら意識が変わったようで、達也は結果的に了承することになった。うんうん、いい兆候だ。
「それでメンバーは誰なんでしょう?」
「それは俺が答えるよ」
達也の質問に答えようとした七草先輩を差し置いて俺が発言する。
急に俺がでしゃばったことで何人かは驚いているようだが、知ったことじゃない。
「七草先輩からは誰でもいいっていう言葉をもらっている。俺と達也でメンバーを決めてくれと。だから俺はメンバー選択を達也に全て任せようと思う。俺も含めてな」
俺は笑顔でそう告げる。
が、笑顔でいられない人物がこの中にはいたようで、
「ちょ、ちょっと零夜君!?」
七草先輩が慌てた声で俺を呼ぶ。
何気なく周囲を見ると、達也以外は全員驚いているようだった。
まぁピラーズブレイクで優勝するような…十師族に勝つような選手が出場を辞退する、なんて言ったら驚くのも無理は無い。
「何です?」
しかし俺は驚いている理由を知りながら、七草先輩に聞き返す。
そんな俺に七草先輩は、不安げな顔をしながら、
「俺も含めてって…零夜君がモノリスコードに出ないってことはないわよね…?」
と、告げた。
そんな七草先輩に俺は苦笑しながら答える。
「さぁ?それは達也次第です。七草先輩は俺たち二人で決めるなら、メンバーは誰でもいいとおっしゃっていた。つまり俺が出なくてもいいってことですよ。達也の作戦の上で俺が不必要なら俺は出ません。モノリスコードはチームワークも大事ですからね」
そう。全ては達也に委ねたのだと。
俺がそう告げるとこの場にいるメンバーの視線は達也一人に集まった。
注目を浴びた達也は俺を恨めしそうに見るが、俺は視線をそらし知らん顔をする。
この場にいるメンバーは達也の言葉を待つように視線を強める。
達也が悩むそぶりを見せていると、待ちきれなくなったのか十文字先輩が、
「それでは司波。お前の選ぶメンバーを聞かせてくれ」
と尋ねる。
やっぱりこういう場面で十文字先輩は頼りになるなぁなんてことを考えながら、俺も視線を達也に向ける。
すると達也はあきらめるようにため息をついた後告げた。
「俺の選ぶメンバーは……」
◆
話は少しさかのぼる。
七草先輩との話を終えた後、端末を見るとそこには、
『件名:ごめんなさい!
本文:ごめん、ぜろくん。昨日言った無頭竜のことなんだけど、アジトが違ったみたい。何でも昨日教えた場所は無頭竜のメンバーのうち何人かがよく使っていたシークレットルームだったらしいの。だから今至急本当のアジトの場所を調べてもらっているから少し待っててくれないかな?P.S もしかしたら今日のフライングも無頭竜の連中に何かされたのかもしれない』
…………はぁ。
もしかしてとは思っていたけど、まさかまだ奴らが動いていたのか…。
先ほどのフライングも奴らの仕業って可能性もある、と。
…懲りない連中だな。
全員ではないと言えメンバーの何人かは殺してやったっていうのに、まだ一高に手を出すなんてどうやらよほどアホらしい。
とっとと消さないとな。
そう考えながら自室へと向かっていると、正面からほのかと雫が歩いてきているのが見えた。
同じタイミングで俺を視認した彼女たちは俺の元へと駆けてくる。
「零夜くん、大丈夫!?」
俺の元へ一足早く駆けてきたほのかは開口一番そう告げた。
よほど心配してくれていたのだろう。
…ほのかにはいつも心配かけてばかりな気がする。
これからはもう少し周りのことを考えて行動しないとだな。
そう心の中で誓い、俺はほのかに無事を知らせる。
「あぁ、大丈夫だ。ビルが崩れたときにはすでに相手モノリスの後ろにいたからな」
「相変わらずチート。心配して損した」
俺の言葉に安堵したのか、ほのかの顔がほっとしたのが分かった。
そんなほのかとは対照的に、雫が何気にひどいことを告げる。
だが、心配してくれていたことは事実なので少し嬉しく感じた。
「おいおい、それはひどいだろ雫。少しでも遅かったら俺だってビルの崩壊に巻き込まれてたかもしれないんだから」
「でも零夜ならなんとかしちゃう気もする」
「はははっ…。でも零夜くんに怪我がないようで安心したよ。森崎くんたちは残念だったけど…」
そう普段の雰囲気になりかけるが、森崎の名前が出たところで俺たちの間に変な空気が流れる。
そんな空気を断ち切るように雫が、
「それでモノリスコードはどうなるの?」
と尋ねた。
そういえばまだ上層部以外には伝わっていないんだっけ。
別に隠すことでもないので、俺は先ほど聞いた話をそのまま二人に説明する。
「さっき七草先輩に聞いた感じだと、メンバーを変えて続けるらしい。何でも今、十文字先輩が大会委員と話しているところらしいぞ」
「そうなんだ…。もう何も変なことが起こらないといいけど…」
ほのかはそう告げ、不安げな顔をする。
幸いほのかの競技は昨日の時点で終わっている。
雫も同様だ。
そのため今回のように競技に直接かかわった事件に巻き込まれることはない。
しかし、奴らのことだ。
そのうちジェネレーターで襲ってこないとも限らない。
そうなる前に殺るしかないか…
ほのかをこんな不安な顔にした無頭竜のやつらを俺は絶対に許さない。
「…大丈夫だ。もう変なことは起こらないと思う」
そんな不安な顔はほのかには似合わない。
ほのかにはずっと満面の笑みでいてほしいと願う俺は、安心させるためにそう言葉を発した。
「何で?」
そんな俺の言葉にそう尋ねたのは雫だ。
まぁ何でと聞かれて理由は言えないよな…
犯罪シンジゲートがどうたらこうたらなんてこの二人には関わらないでいてほしいし。
そのため俺は、
「勘だ」
とごまかすように告げた。
そう笑いながら告げる俺に雫は、
「零夜らしいけど、零夜の勘なら信じてもいいかな」
と少し笑いながらそう答えた。
隣でほのかもにこにこしているし、今はこれで十分だな。
「ありがとな。まぁ後は応援頑張ろうぜ」
そう告げ、俺は自室へと戻った。
そして自室へつくと、俺はすぐに達也に連絡する。
『件名:頼んだ
本文:仕事が出来た。後のことは任せる』
そう打ち終わると、俺は眠りについた。
***
「ねぇ雫」
零夜が去り、二人で自室へと戻っている際にほのかが雫に声をかけた。
「何?」
「さっきの零夜くんの言葉、変に思わなかった?」
雫の短い返答にほのかはそう返す。
そう問われた雫は、先ほどの会話を思い出すが、特別変に思うところはなかったと思ったため、
「変?どこが?」
と聞き返す。
そんな雫にほのかは表情を真剣なものへと変えながら告げる。
「『応援頑張ろうぜ』って何だか変じゃない?零夜くんからしたら『応援よろしくな』っていう場面じゃない?」
そんなほのかの言葉に雫はそういえば、と思い出す。
それと同時に零夜の話を細かいところまでしっかり聞いているんだなと少し感心する。
「確かに…。もしかしたら出ないのかも」
「えっ!?」
雫は同意すると共に、自分の考えをほのかに告げた。
するとほのかは鳩が豆鉄砲を食ったような顔になると同時に声を上げた。
「さっき生徒会長と話してたって言ってたから、そこで何か言われたのかもしれない」
「そ、そんなぁ…」
雫の説明に、ほのかはあからさまに落ち込んだ。
それはもう誰が見ても分かるくらいに。
「試合になってみないと分からないし、そんなに落ち込むこと無いと思うけど」
「それはそうなんだけど…。やっぱり零夜くんの競技する姿を見たかったなぁって…」
そんなほのかに雫はため息をはく。
ほのかの頭は零夜のことで一杯なんじゃないかと思ったためだ。
まぁ100%そうだといいきれるが。
そんな落ち込むほのかを見ながら雫は、
「早くくっつけばいいのに…」
と、ほのかには聞こえないくらいの小さな声でつぶやいた。
本日出てきた魔法【