「納得できません」
「まだ言ってるのか……?」
達也の言葉に俺は苦笑いしながら同意する。
面倒になりそうなので、声には出さないが。
今日は第一高入学式の日。しかし今はまだ開会式二時間前の早朝だ。
そんな時間に入学式の会場となる講堂の前で、達也と深雪は言い争いをしていた。
「何故お兄様が補欠なのですか? 入試の成績はトップだったじゃありませんか! それに零夜君も! 本来なら私ではなく、お兄様か零夜君が新入生総代を務めるべきですのに!」
「お前が何処から入試結果を手に入れたかは置いておくとして……魔法科学校なんだから、ペーパーテストより魔法実技が優先されるのは当然じゃないか。零夜は別として、俺の実技能力は深雪もよく知っているだろう? 自分じゃあ、二科生徒とはいえよくここに受かったものだと驚いているんだけどね。零夜は別として」
突然俺の名前が何度も呼ばれて驚く。
……俺、関係なくない? 巻き込まれたくないから黙ってたんだけど…
「なんで二回も強調するんだよ、達也。それに深雪、俺の成績は総合50位なんだから新入生総代になんかなれるわけないだろ?」
俺がそう言うと達也と深雪は呆れたようにため息をついた。
「何故お前まで入試の成績を知っているのかはともかくとして、お前は狙って手を抜いたんだろ?」
「お兄様の言う通りです。狙わなければ50位なんてきりのいい順位になるわけがありません!そういうのは零夜君の得意分野ですし。…まったくそんな覇気の無いことでどうしますか! 勉強も体術もお兄様並みなのですから負けるはずがありませんのに! 魔法だって私よりも…」
「わかった、わかった、悪かったって!」
いつの間にか責められてるのが俺になっているのに戸惑いながら、俺は深雪を押し止める。
学年上位になるなんて面倒だから手を抜いたのがここにきて仇となるとは…
50位っていう順位は完全に偶然なんだけどね。
それに得意分野って何だよ…
「…ほら、深雪はこれからリハーサルだろ? 早く行かないと、な?」
「……分かりました。今更何を言っても仕方がありませんしね。それでは、行って参ります。…しっかりと見ていてくださいね、お兄様、零夜君」
「ああ、行っておいで。本番を楽しみにしてるから」
「俺も楽しみにしてるよ」
「はい、では」
深雪が会釈をして講堂へと消えたのを確認して、俺と達也はやれやれとため息を吐いた。
「さて、俺たちはこれからどうする、達也?」
「さあ? とりあえず何処か座れる場所を探すとしよう」
「そうだな」
俺たちは入学式が始まるまでの時間を潰すため、座れる場所を求めて歩き始めた。
俺は達也共に座れる場所を周囲を見渡しながら歩いていた。
携帯端末に表示した構内図と見比べながら歩き回ること五分、ベンチの置かれた中庭を発見した。
雨じゃなくてよかった、と埒もあかないことを考えながら、三人掛けのベンチに隙間なく座り、達也は携帯端末を開きお気に入りの書籍サイトへアクセスし、俺は端末を開きゲームを始めた。
そんな俺たちの前を式の運営に駆り出されているのだろう在校生が二人の前を横切って行く。通り過ぎる彼ら、彼女らは一科生徒と二科生徒が並んで座っているのを見て不思議そうな顔をしながらも、結局は何も言わなかった。
「これは零夜が居て助かったな」
「確かに、達也だけだと面倒なことになってそうだな。…それにしてもウィード、か。試験だけで人を判断するなんてどうしようもないクズばかりだよな…」
「そう言ってやるな。俺も二科生であることは承知してこの学校に入ったのだから、そのような目で見られても仕方がないさ」
「まぁ…達也がそう言うなら…」
俺はいまいち腑に落ちないが、これ以上話してもどうせ無理だろうと諦めて端末のゲームへと意識を向けた。
「そろそろ時間だぞ」
達也の声が聞こえて意識が現実に引き戻される。
端末に表示されている時計を確認すると入学式まで、あと三十分だった。
「新入生ですね? 会場の時間ですよ」
端末を閉じてを立ち上がろうとしたその時、突然声をかけられる。
声のかけられた方を向くとそこに立っていたのはフワフワに巻いたロングヘアの美少女だった。
俺は思わず目を奪われたが、すぐに意識を戻し彼女を見据える。
すると達也が彼女に向かって返答する。
「ありがとうございます。すぐに行きます」
達也の返答にはあまり関わりたくないという意識が感じられる。
もしかしたら有名人なのだろうか?
「感心ですね、スクリーン型ですか」
そんな俺の考えを遮るかのように目の前にいる女性は俺たちに話しかけてくる。
「当校ではディスプレイ端末の持ち込みを認めていません。ですが仮想型を使用する生徒が大勢います。ですがあなた達は、入学前からスクリーン型を使っているんですね」
「仮想型は読書に不向きですので」
達也の返事はあまりにも素っ気ないものだった。
達也が素っ気ないのはいつものことだが、ここまで初対面の人に素っ気ないとなると深雪関係か…?
もしかして生徒会メンバーとか。
「あっ、申し遅れました。私は第一高校の生徒会長を務めています、七草真由美です。よろしくね」
「ッ!」
俺は名乗られた名前に驚く。
彼女が十師族が一人、七草の令嬢か…
…確かにあまり関わりたくはない相手だな。
「俺、いえ、自分は、司波達也です」
「…俺は令式零夜です」
「司波達也くんと令式零夜くん……そう、あなた達が、あの……」
何か意味ありげに頷く生徒会長。
俺たちに何かあるのだろうか?
と、思っていると期待通りと言わんばかりに彼女が話してくれた。
「先生方の間ではあなた達の噂で持ちきりよ。前代未聞の高得点を出した司波達也くんに、すべて平均点ぴったしの令式零夜くん。先生方の間では零夜くんは狙ってこの点数を出したんじゃないかって言われてるわよ?なんせ正答率の低い問題ばかり当たってるんだもの」
まじかよ…
正直満点とれるテストだったから適当な箇所を間違えた答えにしたってのに、まさか直してないところが難しい問題だったとは…
目立たないようにしようとしたのに早速失敗である。
「それに零夜くんは魔法もペーパーテストもとても丁寧で模範的だったて言ってたわよ」
その内容に頭を抱えそうになるのを必死に堪えた。
隣で達也が笑いをこらえていることに殴りたいという衝動を抑えつつ俺はその場を後にした。
***
生徒会長と別れた俺たちは入学式のために講堂にやって来ていた。
講堂に入り周囲を見渡すと席は自由なようだが、前と後ろで一科生と二科生が別れて座っていた。
…ここまでするのかよ。
「どうやら、ここまでのようだな」
「そうだな、達也。また後で」
とはいえわざわざ波風を立てる気もないので、達也と別れると座れる席を探す。
やはりというか、一科生のいる前方の席は空いてる席がほとんど無かった。
頼まれたことだし、深雪の姿を近くでみたいと思ったのだが…
と思いながら席を探していると、右斜め前に一つ空いてる席を見つけた。
俺はその席まで行き隣に座っている女性に話しかける。
もちろん笑顔は忘れずに。
「隣いいですか?」
「あっ、ごめんなさい。この席の子今お手洗いに行ってて……」
突然話しかけられたことにも驚いた様子を見せない少女だったが、顔を上げ俺の顔をみると少し驚いたような表情に変わった。
どうしたのだろうと思った俺は彼女に問いかける。
「あの、どうかしましたか…?」
と言ったところで俺は違和感を覚える。
この少女どこかで…
そう思っていると、その少女が、ゆっくりと話し始める。
「もしかして……零夜…?」
「雫…なのか?」
ガチャリ
俺の中で何かが解けた音がした。
「うん。久しぶり」
雫はそう一言だけ告げ手を上げる。
この感情を表に出さない感じ…まさしく雫だ。
「あぁ…本当に久しぶりだな!十年ぶりくらいか?ってことはこの席の子ってもしかしてほのかか?」
俺は気になったので雫に問いかける。
雫がいれば常に隣にほのかはいるためおそらくはそうであろうが…
「そうだよ」
返ってきた答えは予想通りのものだった。
とは言え純粋にうれしいの一言だ。
「そっかそっか。いやぁ本当に懐かしいなぁ」
と言ったところで周りからの視線を感じた。
前の席で大きな声を出しながら話していたのでどうやら目立ってしまっていたようだ。
…ひとまずどこか座るか。
話ならいつでもできるんだし。
そう考えた俺は雫に告げる。
「なんか目立ってるようだから俺は後ろの方の席に座ってるな。色々積もる話もあるだろうがとりあえずあとで」
「うん。分かった」
返ってきたのは素っ気ないものであったが、俺はうれしく感じた。
かつての友人とこんなところで再会できるなんて…
そんなことを思いながら俺は後ろの空いている席へと座った。
***
「お待たせ~」
「………」
零夜が去ってから5分ほど経った後、少し息を切らせながらほのかは私に近づいてくる。
「入学式だからかな、ものすごく混んでて……って雫?どうしたの?」
ずっと黙っている私を不自然に思ったのだろう。
ほのかが心配した声で私に尋ねてくる。
…今言うべきなのかな?
きっと言ったらほのかのことだし、喜ぶことだろう。
それだけなら良い。
問題はそれで騒がないかどうかだ。
………間違いなく騒ぐ。
確信をもって言える。
やっぱり言うのはやめようかな。
零夜は前に来て座る場所を探していたから一科生なのは間違いない。
だからもしかしたら同じクラスかもしれない。
…その時零夜に全部任せよう。うん、そうしよう。
そう決めた私は、
「何でもないよ」
と、一言だけ告げ、意識を式へと向けた。
***
深雪の答辞は予想した通り見事なものだった。
もちろん深雪が失敗するとは思っていなかったので、心配なんてさらさらしていなかったが。
ただ、答辞のなかに「皆等しく」とか「一丸となって」とか「魔法以外にも」とか「総合的に」とか、結構きわどいフレーズが多々盛り込まれていることに若干の焦りを覚えたが。
そんなことを考えている内に入学式は終わり、俺は1人窓口でIDカードを受け取る。
「A組か…」
果たして深雪やほのかや雫とは同じクラスなのだろうか?
出来れば深雪とは違うクラスがいいなぁなんて思いながら、俺は達也との集合場所へと向かった。