ほのかたちを助けてから数日後それは突然起こった。
『全校生徒の皆さん!』
耳をふさぐほどの大音量がスピーカーから鳴り渡った。
「きゃあ! 一体何!?」
突然の出来事に隣の席に座っているほのかは大きめの声を出す。
「何だろうな…。面倒事なのは間違いない。それだけは言える」
ある程度事前情報を得ていた俺はだいたい何が起こっているか分かっているのだが、混乱させないためにも今は黙っておいた。
『―――失礼しました。全校生徒の皆さん!』
音量ミスに気付いたのか謝罪してから再び同じセリフを繰り返す。
『僕たちは、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です』
『僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します』
続けて流れた言葉に教室にいた数人が大声で怒鳴る。
プライドの高い一科生としては、許しがたい出来事なのだろう。
「対等……か」
そう思っているのはあんたらだけじゃないのか?と俺は思うが、言っても仕方のないことなのでこの場は黙って聞いていた。
「深雪、生徒会から呼び出しはないのか?」
「ちょうど今来たところです」
俺の問いに深雪はすぐに答えた。
その言葉には少し不安げなものがあったことを俺だけは見逃さなかった。
「では行ってきますね」
「あ、うん、気を付けてね」
「頑張って」
「ファイト~」
ほのかと雫と俺の声援を背に深雪は放送室に向かった。
***
「零夜くん、深雪大丈夫かな…?」
深雪が教室を後にしてすぐほのかが不安げに話しかけてきた。
まぁいきなりあんなことが起これば無理もないか。
「大丈夫だろ。相手は二科生だ。一科生で構成されている生徒会、部活連、風紀委員を相手に何か出来るとは思えない。…魔法でなら、な」
「魔法でなら?」
俺の言葉に雫が反応する。
「あぁ。魔法でならすぐに決着がつくと思うが、それも向こうは考えているだろう。きっと話し合いに持っていくことはずだ。もしそうなれば向こうに頭のキレるやつがいれば…と思ったけど、そういや生徒会長は七草先輩だったっけ。これはもう先が見えてるな」
「あっ、そういうこと」
俺の言葉を理解した雫がそうつぶやく。
「そういうことだ。まぁ俺たちに出来ることなんて何もないんだから静かに見てようぜ」
俺は自分に言うようにそう告げた。
次の日
「明日の集会深雪も行くの?」
ほのかが疑問に思っていたことを深雪に尋ねる。
「そうね…あまり気が乗らないけど」
「気が乗らない?」
深雪のそんな言葉に疑問を抱いたほのかがそう告げた。
「だって興味が持てないもの。主義主張のためなら何をやってもいいと考えている人たちなんて」
「同盟の主張内容についてはどう思う?」
深雪のセリフに今度は雫がそう尋ねた。
深雪のことだからどうせ…
「甘いと思うわ。評価してほしいなら―――――」
案の定深雪は同盟に対して容赦なく自分の考えを告げた。
まぁ言ってることは分かるけど、さすがにいいすぎだろ…
同盟の連中だって必死に考えたことなんだから。
「深雪の言ってることはその通りだと思うけど…」
「深雪意外と容赦ない性格?」
深雪の長い文句ともいえるセリフにほのかと雫はやや驚きながらそう告げた。
まぁ初めてこんな姿見ればそうも思うよな…
「そうよ。私って冷たい女なの」
「深雪ったら~」
そんな3人の話を俺は黙って聞いていた。
…冷たいってのは物理的にも精神的にもだよな。
そんなくだらないことを考えながら…
***
そして討論会当日。
俺は討論には興味もないので校内をうろうろしていた。
達也から実力行使するメンバーがいるかもしれないと言われたので見回っているためだ。
何で俺がこんな面倒くさいことを…と文句を言っても始まらない。
と、その時轟音が鳴り響いた。
俺はすぐさまあたりを見渡す。
するとそこには見知った顔…ほのかや雫があった。
こんな日まで部活するのかよ…とやや呆れ気味に近づこうとするが、その瞬間草むらからナイフを持った男がほのかに向かって走りだした。
それに気づいたほのかは驚いているのか身動きできないでいる。
チッ…
何でこんな場にばっかりあうんだよ、と自分に舌打ちして俺はすぐさま行動を始める。
走っていては間に合わない。
そう感じた俺はすぐさま魔法を展開させる。
『暗黒空間《ブラックゲート》』
俺の作った空間に相手を落とす魔法だ。
その空間では何かが入ると摂氏3000度まで温度が上がり黒い炎ですべてのモノを燃やし尽くす。
とは言っても中で何が起こっているのか知っているのは俺だけであるため証拠を残すこともなくこのような時とても便利な魔法である。
俺は暗黒灼熱空間をほのかに向かっているやつを含め周りで武装した連中全員に使用した。
彼らは悲鳴を上げることもなく突如現れた落とし穴に落ちていく。
永遠に上がることのできない落とし穴に…。
「ほのか、大丈夫か?」
腰を抜かしているほのかに俺は手を差し出しながら告げる。
「えっ?あっ、うん。大丈夫だよ。…また助けてもらっちゃったね」
俺の手を掴んで立ち上がったほのかだったが、その顔は自分を責めているようなものだった。
とは言え、いつまでもここにいるのは得策ではない。
「落ち込むのは後だ。今は安全な場所に避難した方がいい。…雫、頼めるか?」
今のほのかは危険だと判断した俺は雫へとほのかを託す。
「分かった」
「任せたぞ。俺は学校に入り込んだ連中を殲滅しに行ってくる」
そう言い残し俺は気配のする場所へと走り出した。
一時間もすると校内にいるテロリストたちはほとんど戦闘不能になっていた。
生徒会、風紀委員、部活連…この3つがそろえば魔法を使えないテロリストなど造作もないことなのかもしれない。
他にも教員たちも優秀な人たちばかりでこの件はだいぶ収まっているように見えた。
起こる前にどうにかしてもらいたかったという思いを胸に抑えつつ、俺は達也から連絡のあった保健室へと向かっている最中だ。
これでしばらく面倒事が起こらないでくれると嬉しいなぁ…と考えていると後ろに気配を感じる。
そして振り返ると…
「お久しぶりでございます、零夜様」
面をつけた二人組が俺に頭を下げ、そう告げた。
……何者だ?
それが俺の頭に真っ先に浮かんだ言葉である。
人違いともとれるが、零夜様と言った以上、俺に用があるのは間違いないはずだ。
とは言っても俺はこんなやつらのことは知るはずもない。
せめて面をとって顔を見せてくれればわかるかもしれないけど…
「前当主が残した遺言により零夜様をお迎えにあがりました」
「突然の来訪をお許しください。零夜様のガードは固く、このような事態になるまで機を待っていたのです」
前当主?遺言?
一体何なんだこいつらは…
色々疑問に思うことがあるが、この二人から敵意は感じられない。
むしろ俺に会えての安堵感を感じるほどだ。
「…一ついいか?」
「何でございましょう?」
とりあえず俺はまずこいつらに聞かなければいけないことがある。
「今日の…このテロリストたちを送り込んだのはお前たちか?」
もしそうなら俺は敵意はなくともこいつらを消さなければいけない。
とは言っても雰囲気から察するに違うと思われるが。
「いえ、違います」
案の定否定の意を唱えられた。
でもまぁ予想していたことなので驚くことではない。
「ただ、今日このテロが起こることは知っておりました」
嘘……ではないな。
声から察するに事実だけを言っていることが分かる。
「…そうか。まぁテロの関係者でないならその話はおしまいだ。…じゃあ次の質問、お前たちは何者だ?」
ここで俺は今一番尋ねたい疑問をした。
こいつらは俺の一体何なのか?
それが分からないことには話が進まない。
「お忘れですか?唯と沙希でございます」
俺の質問に面女は戸惑う様子もなく平然と答えた。
唯と沙希…?
「零夜様、失礼を承知でお聞きしますが、もしかして私たちのこと…」
どっちが唯でどっちが沙希か分からないが、先ほどとは違う面女が不安げにそう尋ねてくる。
初めて声に気持ちが乗っていた感じがする。…不安の気持ちが。
とは言っても俺は…
「知らないな」
「ッ!!」
「過去を振り返ってみても俺の知り合いに唯と沙希なんていう人はいなかった気がするんだが…」
驚いている2人に向かって俺はそう告げる。
実際知らないのだから仕方がない。
でも……この2人と話しているとなんだか心が休まる気がするんだよな…
「なんとっ!!もしやこれは渡様がおっしゃっていたことが現実に起こってしまったということか…」
「そのようです…。あの女狐め…!零夜様になんてことを…!…これは一度色々考え直さくてはいけないようです」
「そのようです。…零夜様、一度私たちは失礼いたします。ですが覚えておいていただきたい。一年後の零の日、あなたは零式家当主として零をまとめ、この世界を零で塗り替える使命があることを…。行くぞ沙希」
「分かりました。では零夜様、またお迎えに上がります」
そう告げると唯と沙希と名乗る人物は音もなく消え去った。
余りの剣幕に俺は口を挟む暇がなかった。
何やら怒っていたようだったけど一体何なのだろう?
分かったことと言えば、面女の名前が唯と沙希ということくらいだろう。
しかし最後に口にした『零の日』って一体…
それに零式家当主って…
「…ガッ!?」
零式家ということに考え始めたとたん頭に割れるほどの激痛が走った。
「な、なん、だ……こ、れは……」
理由も分からぬまま俺はそのまま意識を失った。
***
「ほのか、あんまり無防備だと危ない」
「大丈夫だよ!それより零夜くんどこかな?しっかりとお礼を言いたいのに」
ほのかは零夜を探していた。
零夜に助けられ安全な場所まで避難したあと、彼女は冷静に先ほどの出来事を振り返ったのだ。
そして次は絶対失敗しないと誓って今に至る。
「もう帰ったんじゃない?零夜ってこういう面倒事嫌いだから?」
「やっぱりそうなのかな?出来れば今日お礼を言いたかったんだけど」
なんて本人以外の誰もが納得しそうなことを言いながらほのかは道を曲がった。
そして次の瞬間、
「ぜ、零夜くん!?」
取り乱しながら走り出したのだ。
「ほ、ほのか!?」
余りにも急な出来事に雫も慌ててほのかを追いかける。
そして追いつき何事かとほのかをのぞき込むようにして見ると、そこには倒れている零夜がいた。
「零夜!?」
「零夜くん!零夜くん!お願い、しっかりして!零夜くん!!」
「ほ、ほのか一旦落ち着いて…」
ほのかのあまりの慌てっぷりに雫は狼狽する。
かつてここまで慌てるほのかを見たことがなかったためだ。
「落ち着いていられるわけないじゃん!零夜くんが倒れてるんだよ!?何で雫はそんなに落ち着いていられるの!?」
「落ち着かないと何も進まないし解決しないから。…ちょっとどいて」
雫はほのかを何とか落ち着かせようと、そう告げると零夜の脈を確認する。
「うん。息はある。…私たちだけじゃ運ぶのが厳しいから応援を呼ぼう」
雫はそう告げると端末を操作して応援を呼ぶ。
そんな雫の姿を見てやっと我に返ったほのかは、
「ごめん、雫……。私、また……」
泣きそうな顔でそうつぶやいた。
同じことを繰り返しているようできっと落ち込んでいるのだろう。
そう思った雫は慰めるようにほのかに告げる。
「大丈夫、私もすごく驚いた。きっとほのかが慌ててなきゃ私が慌てていたと思う。…それよりも今は零夜のこと考えなきゃ」
「う、うん。そうだね」
ほのかがそう告げると同時に雫が呼んだ応援の人たちが来て、零夜を医務室まで運んだ。
***
「真夜様、ご報告が」
「何かしら?」
真夜は笑顔を崩さないまま執事の葉山にそう告げる。
まるでこれから告げられることが分かっているかのように。
「零式が零夜様に接触したとのことでございます」
「…そう」
「いかがいたしましょう?」
「今はまだ様子見でいいわ。きっとこれから少し作戦でも練ってから動いてくるでしょうから、こちらから動くのはその時でいいわ」
葉山の問いに真夜は紅茶を口に含み少し考え、そう告げた。
「仰せのままに」
「それにしてもまさかこんなに早く接触してくるとは思わなかったわ。…零夜。これからはあなたの
真夜はそう言うと口角を吊り上げて微笑んだ。
これにて入学編終了です!