Fate/Grand Order その後の日常   作:文房具

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もう一つのほうが行き詰ってしまったので書きました。

すごく不定期になる予定。


プロローグ

「それじゃあ、乾杯!!!」

「「「「「「乾杯!!」」」」」」

 

グラスがいい音を立てる。

 

カルデアのオカンことエミヤやブーディカさん、頼光さんの手料理がふるまわれ、テーブルを彩っていた。

 

2日前、人理崩壊の原因となった事象がすべて取り除かれ世界は救われた。今日はそのことを祝してのパーティーだ。

 

1年間のプレッシャーから解放されたカルデアのスタッフやサーヴァントたちは、みんな笑顔で食事を始めた。

 

みんなのおかげで何とか成し遂げることができたが、予想外のことも起こった。

 

今まで必死に集めた聖杯がどういう化学反応を起こしたのか、レフ・ライノールが仕掛けた爆弾によって死んでしまったカルデアの職員や、俺の他のマスター(コールドスリープになっていた人たちも含む)が生き返ったばかりではなく、俺が今まで召喚してきたサーヴァントすべてが受肉してしまったのだ。

 

特異点の聖杯すべてを回収し、サーヴァントとの繋がりも切れたため、俺のマスターとしてのすべての役割が終了。晴れて世界は救われることになった。

 

……サーヴァントが受肉したことを除けば。

 

そのことで俺には責任ないし、上の偉い人がいろいろ考えるんだろう。所長も生き返ったから、今頃自室で書類の整理で缶詰め状態らしいし。

 

もう一生分の仕事をした感じがする。

 

父さんの海外出張に母さんと妹が付いてき、苦労して合格した高校に入学したかった僕だけが日本で一人暮らし。仕送りだけではきつく、高額だったバイトに目をつけてしまったのが運の尽き。

 

バイト先に行ったところで急激な眠気に襲われ、気が付けばカルデアに連れてこられていた。

 

そして、俺は夏休みを利用して長期の住み込みのバイトにしに来ただけだったはずの俺は、いつの間にか世界を救うことになってしまっていた。

 

「君はこれからどうするのかね」

 

エルメロイさんが手に持ったグラスを傾けながら聞いてくる。

 

「どう、って、そりゃあ、学生なんで、何日かしたら家に帰りますよ?」

 

体感時間では1年と少し、かなり長い夏休みになってしまった。ひと夏の冒険にしては壮大だ。だが、幸いにも、外での時間は2週間ほどしかたっていないらしい。忙しすぎてやる暇がなかった宿題も、2週間もあれば終わるだろう。

 

「帰る、か。そうだろうな。君にはマスターとしての才能はあっても、魔術師としての才能はない。妥当な判断だ」

「はい。それが何か?」

「ここにいるサーヴァントは、みな受肉し、この時代に第2の生を受けた。それはわかるな?」

「はい。そのおかげで僕からの魔力供給がなくてもこの世界に入れるようになったんですよね?」

 

改めて確認するように言ってくる。俺の隣に座ってこようとした何人かのサーヴァントを押しのけ、さらに部屋の隅のほうの席に座らせたのは、やっぱり大事な話が合ったからなんだな。

 

「え……あ、あのっ! 先輩は、その……帰ってしまうん、ですか?」

「……まあ、うん。さすがに学校もあるし」

 

眼鏡をかけた白衣の少女、このカルデアで始まりから終わりまで一緒に戦い続けてきた俺の一番の相棒であるマシュは、グラスをテーブルにおいて呆然とつぶやいた。

 

この子も諸事情から寿命が短い体だったが、聖杯のおかげで長く生きれるようになったことが、検査で判明している。

 

向かい側に座っているのにその目が潤んでいるのが分かる。口が動いているが何も聞こえない。かと思うと固く閉ざして、うつむいた。なんだかすごい悪いことをしているみたいだけど、こればっかりはしょうがない。

 

「そのうち、遊びに来る……ことは可能なんですかね?」

「難しいだろうな。もともと、君は数合わせのはずだったんだ。すべて終われば、魔術に関する記憶を消す手はずになっていた」

 

でしょうね。この魔術師の世界については時間があるときに色々説明してもらっていた。正直、絶対に関わりたくないと思う話だったけど。

 

「だが、状況が変わってしまった」

 

ふん?

 

「さっきも言った通り、当初は記憶を消して元の生活に戻ってもらうはずだった。それはサーヴァントが座に帰り、この魔術世界とのつながりがなくなると予想されていたからだ。名のある魔術師は基本的に、数合わせのマスターには目もくれないだろうからね」

 

俺がエルメロイさんから聞いた通りの考えの持ち主ならそうでしょうね。

 

「しかし、ここにいる英霊はすべて、君の呼びかけに答え、召喚に応じた。そして、受肉した今、彼らはこの時間を生きる存在になってしまった。人理崩壊という事象を甘く見てしまったツケだな。その爪痕も特異なものとなってしまった」

「……なんとなく、わかってきました」

 

もし俺がここを去ると言ったら、確実について来ようとするサーヴァントが数名思い当たる。しかも、俺の記憶を消すなんてことを許すわけない。ここは戦場となり、せっかく生き返った職員が犠牲となるのは必至だ。

 

しかも、令呪もなくなった今、受肉した英霊は完全に自由な存在なのだ。

 

そこまでしない英霊についても、世界を救い受肉した今、このカルデアにいる理由はないのだ。むしろ第2の生を謳歌しようとするものが出てもおかしくない。

 

そして、英霊がこの文明社会で好きなように過ごしてしまえば、神秘の露見は時間の問題となってしまう。

 

「どうすればいいんでしょう……」

「解決するのは、そこまで難しい話じゃない。君が彼らをつなぎとめる鎖になればいいんだ」

「……まさか」

「君の就職先はカルデアに決定だ」

 

俺の就職先が決定してるぅぅぅぅぅぅ!!!!???

 

「よかったじゃないか。これで君の未来は安泰だ」

「いやいや、おかしいですよ! 俺には魔術師としての才能はないって言ったじゃないですか!」

「そうだな。マスターとしての才能はあるとは言ったが」

 

くそう。何簡単な言葉遊びに引っかかってんだ、俺は!

 

「そもそも、これ以外の方法はとれないんだ。もちろん聞き分けのいいサーヴァントもいるだろうが、一部のサーヴァント……具体的な名前は出さないが、何人かの王様はこちらの言うことを聞く可能性はゼロといっていいだろう」

「俺の言うことを聞くって保証もないんじゃないですかね……?」

 

このカルデア(というか俺)は普通に王様とかも召喚しちゃってる。そんな人たちが、誰かの命令を聞くとは思えないというのには賛同できるけど、俺の言うことなら聞くというのもなかなかにめちゃくちゃな理論だと思う。

 

あの人たちが手を貸してくれていたのは、あくまでも令呪の縛りと、世界を救うという目的があったからだろう。この戦いを経験したとはいえ、英霊に比べれば足元にも届かない実力しかない俺の指示にみんなが従ってくれるわけがない。

 

そのことを素直に話すと、エルメロイさんは意地悪な笑みを浮かべる。

 

「そうか、そうか。そう思うか。よし、では実際にそうか試してみたまえ」

「今すぐですか?」

「早いほうがいいだろう。一応防音の魔術を使っているが、『耳の良い』サーヴァントにいつまで効くかわからないぞ」

 

耳の良い、か。少しゾッとするな。

 

確かに、この祝いの席で神妙な顔して話してれば不審に思われるのは当たり前だ。周りの視線が僕とエルメロイさんを盗み見るようなものになり始めているこの状況、いろいろつんでいる気がしないでもないけど。

 

「じゃあ、行ってきます。何かあったら守ってくださいよ?」

「まったく、君は私のことを酷使しすぎだと思うがね。善処しよう。行きたまえ」

 

ああ、わかる、わかるよ。みんなが表面上は楽しく食事と会話を楽しんでいるようで、視線では僕の挙動をしっかりマークしてるってことが。

 

作家陣、ニヤけてんじゃねーよ。ネタの気配を感じ取るな。

 

取りあえず、緩衝材になってくれそうな人が2人いるエジプトファラオ組の席に行こうかな。

 

ちなみに緩衝材になってくれそうなのはニトクリスさんとクレオパトラさんだ。この2人とは仲良くなってよくお茶もするようになった。問題はオジマンディアスさん。いきなりスフィンクス出したりビーム撃ったりはしないと思うけど、やっぱり少しビビってしまう。

 

いや、そもそも、なんていえばいいんだろうか。

 

僕の顔を立ててここで静かに過ごしてください、とか?

 

いや、まずは今の現状の説明をしてから、その反応を見て、それから決めよう。相手はファラオ、僕のちっぽけな想像なんて軽く超えてくるかもしれない。

 

「席、いいですか?」

「もちろんです、マスター。さあ、どうぞ」

「まったく、なぜあんなに離れた席に……。見たところ、肉ばかり食べていましたね。しっかりバランスよく食べなければ……、ああ、貴方は何もしなくていいです」

 

ニトクリスさんは笑顔で席を引いてくれ、クレオパトラさんはぶつぶつ言いながら、空いていた取り皿にサラダを中心に盛り付けてくれる。

 

何の抵抗もなく俺はニトクリスさんとクレオパトラさんの間のスペースに座る。すべてが最高クラスの美女人に挟まれるというこの状況。緊張がないこともないが、1年半も美男美女と顔を突き合わせてきたのだから嫌でも慣れる。

 

オジマンディアスさんは俺のことを正面から見てくる。英霊と向かい合った時たびたび感じてきた感覚。心の中まで見透かされるような感覚だ。

 

「えっと、今日は2人、というか3人、いや、全員に関係がある結構重要な話がありまして……」

「なんですか? そのしゃべり方は」

「眼がすごく泳いでますよ?」

 

ええい! 不審に思われるくらいなら堂々と言い切ってやるぜ。つらいことがあっても、逃げちゃいけない。だってこれは僕の力ではどうすることもできない自然な逃れなんだから!

 

「人理崩壊がなくなってマスターとしての役割が終わったので僕の自分の家に帰ることになりました。僕は魔術師じゃないので神秘の秘匿のためにここでの記憶が消されるそうですがこれについてはどう思いますか!! ……、……、……あ」

 

テンパって超大声で口走ってしまった。遠く離れた俺の席でエルメロイさんが頭を抱えてため息をついているのが見えた。や、やっちまったぜ。

 

そもそも、僕は何しに来たんだっけ? 『記憶が消されることについてどう思いますか』じゃねーだろ。これからは、僕じゃなくてこのカルデアの指示に従ってくれるように頼みに来たんじゃないか。

 

「ますたぁ……つまりわたくしをますたぁの実家に連れて行ってくれると、そういうわけですね?」

「どういうことですか? まさか、母を捨てるというのですか……?」

「大丈夫です。私はアサシン。陰ながらマスターを見守っています。たとえマスターが私を忘れても」

 

一部ヤバイ声が聞こえた気がする。そこまでいかない人たちも顔はしてないみたいだ。人によってはロマンに詰め寄ってる。

 

「それがいいだろう」

 

その一言で、食堂が静まり返る。

 

「こんな血にまみれた世界、抜け出せるなら抜け出したほうがいい。まして、無理やり巻き込まれたならな」

 

いつもと同じ調子で淡々と告げたアサシンエミヤさん。

 

その意見にみんな悲痛な面持ちで下を向いた。

 

「でも、記憶も消えるなんて……」

 

誰かが言った。

 

……あれ? ちょっと待って。俺って、カルデアに就職するの嫌なんだっけ?

 

嫌、ではないよな。魔術師としてへっぽこすぎて、マスターでもなくなった俺に英霊のみんなの指揮が取れるかってことを気にしただけで。

 

みんながそれでもいいって言うなら。いいじゃないか。

 

「みんなが、俺でもいいんだったら。これからもここにいたいと、思ってますけど」

「いや、立香君……それは、こちらとしてはすごくありがたいんだけど、君の人生すべてを支払うことになるよ? それでもいいのかい?」

「はい……ああ、でも、ここに来るのは学校を卒業してからでもいいですか? 親が入れてくれた学校だったし、せめて卒業はしたいんですけど」

「もちろんだ。確か君は高校1年だったな。高校卒業と同時にここに来ればいい。このくらいが妥協点だろう?」

 

後半の言葉は僕じゃなくて周りのサーヴァントに向けて言ったことだろう。

 

「ちょっといいかな?」

 

立ち上がるのはダ・ヴィンチちゃん。

 

「私的には、普通の人になったマシュにはそれなりの社会経験が必要になると思うんだよね。具体的には学校に行ったり」

「学校って、どこの?」

「うん? 翔君の学校でいいんじゃないのかな?」

 

それはつまり、マシュを家に連れて行って2年間一緒に暮らせということか。なんて素晴らしい。素晴らしいけど……当然反対の声が上がる。マシュさんを連れていくなら私も、主殿をお守りするために私も、などなど。

 

「それについても問題はないさ。要は、カルデアと翔君の家とを行き来できるようにすればいいんだろう?」

 

決して大きくないその声に、食堂にいた全員の目が点になった。

 

「すべてこのダ・ヴィンチちゃんに任せなさい!!」

 

すべてはこの一言から始まったように思える。

 

命をかけた戦いから、奇妙は日常になったのは。

 




・主人公

ぐだ男。両親は海外出張で、仕送りによる一人暮らしという便利設定。仕送りだけではやっていけず、夏休みに怪しいバイトに手を出してそのままカルデアに。
サーヴァントとの好感度は最低で再臨4、絆5、誕生日ボイスを言ってくれるくらい。


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