虚になったけど質問ある?   作:明太子醬油

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暇つぶしに描きました。


旧校舎のディアボロス
虚になっちゃった日


 俺はいたって普通の存在だった。

 両親は小さい時に交通事故に巻き込まれたことを除けば。

 それでもおばあちゃんに引き取られ寂しいと思うことはほとんどなかった。おばあちゃんには感謝してる。

 こっちに引っ越してきたときに猫を拾った。黒い猫だった、

 その猫は他の猫と存在感が違った。

 一目見て欲しいと思った。

 最初は全然懐かなかったが、今では家に普通に入ってくるようになった。

 その猫のために猫用の入り口を作ったりとあの時は色々と楽しかった。

 一人暮らしも悪くないなとか柄にもなく思ったんだ。

 その黒猫にクロという名前をつけた。

 でも少し嫌そうにしていたのはなぜなんだろうか?

 神様だとか悪魔だとか天使だとかそんなすごい存在というわけでもない。

 普通。

 身長は180センチ。少しみんなより背が高いくらい。

 だからと言って異常ではない。

 顔立ちも中の中。黒い目に黒い髪。痩せていることもなく太っている事もない。

 普通過ぎて第一印象は普通だ。それか背が高い。

 頭も普通だ。

 得意な事もないし、苦手な事もない。

 たまに逆に普通じゃないんじゃねと思う時があるが普通であると言っておこうか。

 

 なんでこんなことになったんだろうか?

 

 今目の前に同じクラスメイトであり、変態として名高い兵藤一成が殺されていた。

 

 何と無く夜にコンビニに行く途中に近くにある公園に行って見たんだ。

 そうしたらこれ。

 なんか目の前に黒い羽生やした人間がいる。

 顔立ちはとてもいい。

 是非とも彼女にしたいくらいだ。

 

 でも、こいつが兵藤を殺したんだろうな・・・

 

 

 こんだけ回想しといて秒数としてはまだ一秒しか経っていなかった。

 いわゆる超加速ってやつ?

 脳がフル回転してだわ。

 

 すると目の前の女が俺に気づいたのか目を大きく見開いた。

 

「あら、人払いの結界を張ったはずなんだけどどうしてこんなとこにただの人間がいるのかしら?」

 

 人払いの結界ってマジかよ。それなんてアニメ?

 そんなこと思ってる間にも兵藤の腹からメッチャ血出てるんだけど。

 ・・・人ってあんなに血が出るのか。

 

「おい。なんでそいつを殺したんだ?」

 

 ・・・まだ生きてるかもしれないけど・・・

 

「私に説教でもするつもり?ただの人間が?笑わせないで」

 

 女が冷たく言い放つ。美人が言うとなんつうか迫力?が違うわ。

 説教するつもりもないんだけどな・・・

 あれ?俺ってピンチじゃね?

 

「安心して頂戴?あなたも今からあれと同じ風になるから」

 

 そう言うと女の手をかざした。

 するとそこには凝縮されたような光の槍があった。

 

(いつあんなもん出したんだ?)

 

 一切目を離したつもりはなかったんだがな。

 おそらくあれで俺を殺すつもりなんだろうな。

 ・・・よく俺こんな他人事みたいに思えるな。

 

 女が俺に向かって光の槍を投げた。

 

 その光の槍の速さは何時もの俺なら気づかずにやられたかもしれない位早かった。

 なぜか顔面コースまっすぐだし。あれ当たったら見るも無残なことになるのだろう。

 なんで今こんな悠長に考えていられるのだろうか?

 恐らく俺はあれに貫かれるのだろう。

 だからと言って別に死ぬことに恐怖はない。

 

 でもおそらく今は家にクロがいる。

 脳裏にクロがにゃーと家で鳴いている映像が思い浮かんだ。

 俺が死んだらクロは悲しんでくれるのだろうか?

 

 

 ・・・あぁ、死にたくないな・・・

 

 

 俺は顔に向かってくる光の槍を俺は全身の筋肉を総動員させて体を右に倒す。

 それでも光の槍はどんどん進んでくるのに俺は全然動くことができない。

 

 どんどん近づいてくる「死」の匂い。

 無慈悲に近づいてくる「死」の匂い。

 それはまるで今から処刑執行される咎人のように。

 ギロチンに一歩づつ近づいて行く咎人のように。

 

 

 

 そして光の槍は俺の頭を貫いた。

 

 

「がああァァァ!!!」

 

 顔の感覚がない。

 目は見える。でも左目は何にも見えない。

 脳が焼けるような感覚。

 それでも徐々にだが、痛みが体から引いて行く。そして体が侵食されるかのように動かなくなっていく。

 それでも叫ばずにはいられない。

 自分でもなんでこんなに叫んでるのがわからない。

 痛いわけでもないのに。

 

「あら、殺し損ねたみたいね。そのまま素直に当たった方がすぐ死ねて楽だっただろうにね。かわいそうね」

 

 女はクスクスと笑いながら哀れむようにこっちに視線を向ける。

 それを見て俺の中にどす黒い感情が溢れ出す。

 テメェがやったんだろうが。

 ・・・絶対に俺が殺す!

 

「どうやら長居し過ぎたようね。せいぜい苦しみながら死んでね」

 

 女は背中の黒い羽を羽ばたかせて飛び立ってしまった。

 あいつの体がどんどん小さくなって行く。

 それと同時に自分の体温がどんどん抜けて行く感覚。

 

「・・・帰らなくちゃ」

 

 俺は公園を出て家に帰ろうとする。

 その時、だるい体で自分の左目を撫でる。

 するとそこには何もなかった。

 比喩じゃなくて何もなかった。空洞がポカンと会いているかのようだった。

 完全な致命傷。

 絶対に死ねる自信がある。

 

 それでも最後にクロに会いたい。

 家でクロとじゃれていた光景が遥か遠くに感じる。

 家まであんなに近いと思っていたのに今ではこんなにも遠くに感じる。

 

 体を引きづりながら進む。

 途中から意識が飛ぶこともある。

 それでも最後に・・・

 

 その時、俺は誰かに抱きかかえられているような気がした。

 それは幻覚でも暖かくて、優しくて・・・

 眠ってしまいたくなるようなものだった。

 

 

 あァ・・・死にたくないな・・・

 

 

 

 #

 

 

 

 

 気づけば俺はどこも見えない真っ暗な世界にいた。

 どこに続いているのかもわからない闇に落ちて行く。

 重力に引っ張られるように、それでいて空気の抵抗とか風も感じることもない。一言で言うなら無だ。

 これが死ぬってことなのか?

 このまま落ちて行けば死ぬのか?

 そうわかっていても体が全く抵抗出来ない。

 俺はどこまで落ちて行くのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして俺は地面に着地した。

 着地した場所は今までの闇が嘘かのようだった。

 さっきまでとは打って変わってどこまでも続く白。

 俺の眼下にはどこまでも続いていそうな白い砂漠があった。

 そこには本当に砂しかない。

 時々白い枯れたような木があるのみだった。

 空は夜のように真っ暗で星はない。

 ただポツンとでっかい月が一つある世界だった。

 

 

「おい」

 

 後ろから誰かに呼ばれたような気がした。

 後ろを振り向くとそこには白くでかい城がそびえ立っていた。

 あまりの衝撃からポカンと口を開いていたとおもう。

 こんなにも巨大なものをなぜ気づかなかったのか自分でも不思議なくらいだった。

 その城はあまりに白い巨大で、あたかも威圧されていると錯覚するほどだった。

 

「おい」

 

 また自分を呼ぶ声。

 上から下に目を向けるとそこには異様な男が白い椅子に座っていた。

 その男は黒髪で黒目。長身の細身の男。

 左目は白い眼帯をしていて、睨むかのような細い目。

 背には8の字のでかい得物をしょっている。

 全身真っ白な死装束。胸元はポッカリと空いている。正直、女ならまだ評価出来るだろうが男の露出は見ていてあまりいいものではない。そして真っ白な眼帯。

 だが、最も異常なのは威圧感だった。

 なぜこれを気づかなかったのか自分でも分からない。

 ねっとりと重く思わずに膝を屈してしまいそうになるほどの威圧感。

 その細い目で見られるだけで射殺されると思ってしまうほどであった。

 

「やっと気づいたか。バカが」

 

 なぜかいきなり罵倒された。・・・解せぬ。

 

「あんた誰だ?」

 

「俺が誰かだ?そんなもんなんでテメェに言わねぇといけねぇんだ?バカじゃねぇのか」

 

 バカにし過ぎたじゃね?こいつ。

 目の前の男は、いきなり俺の胸に指を指した。

 そしてなぜか口を愉快とまでに吊り上げる。

 

「お前いつまでもそんな悠長にしてていいのかよ。

 

 

  本当に死ぬぜ?」

 

 

「は?」

 

 俺は指さされた胸を見る。

 俺の胸には鎖がついていた。

 

「なんだよ・・・これ・・・」

 

 すると周りから崩れ落ちる音が聞こえた。

 辺りを見回すと、延々と続いていると思っていた白い砂漠がどんどん下に崩れ落ちていた。

 

(これはまるで世界の終わりみたいじゃないか)

 

 後ろからもかなり近くから崩れる音が聞こえる。

 急いで振り返ると椅子に座っている男の後ろにある白く巨大な城は上から徐々にチリになっていた。

 

「なんだよここは!?何がどうなってるんだよ!?」

 

 すると男はケラケラと笑いながら言った。

 

「ここはな簡単に言うなら精神世界ってやつだ。ここがお前の精神の中の姿だ。で、何がどうなってるのか、だったか?簡単なことだ。この世界がこんままだと崩れ落ちるだろう?そん時、お前は死ぬ。それだけのことだ!」

 

 そう言うとケラケラと心から愉快そうに笑う。

 なんだこいつは。

 

「あんたはそれでいいのかよ?」

 

 笑うのをやめてこっちを見る。心からどうでもいいとでも言っているかのようだ。

 

「俺はどうすればいいんだよ!?」

 

 半ば叫ぶように叫ぶ。

 まだ俺は生きてる。ならまだ生き残る方法があるはずだ。

 

「第一テメェの体は死んでる。でもな、まだ魂はまだ死んでねぇんだよ。テメェの胸についてる鎖はな『魂魄』っていうやつでな。その鎖はテメェの魂と体を繋いでるもんなんだよ。でだ、今テメェの魂は体に引きつられて死のうとしてるんだ。じゃどうしたらいいのか?簡単な話だ。

 

 

 その鎖を自分で引きちぎれ」

 

 

 簡単だろ?とまたケラケラと笑う。

 

 まぁ、何と無く話は分かった。こいつの話が全て正しいかは知らない。でも今はするしかない。

 だがどうやってこの鎖を取ればいい?

 俺の身体じゃこんなもん引きちぎれる気さえしない。

 とりあえず鎖を手にかけてみる。

 感触はそのものの鎖と同じ。鎖に触れたことはないが鉄独特の冷たい感触がする。

 それを思いっきり引っ張る。

 

「うがぁ!!」

 

 激痛。

 あまりの激痛に息をすることさせ忘れる。

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

 再度手に取る。

 そして引っ張ると今まで味わったことのないような激痛が走る。

 鎖は全く千切れる気配すらない。

 世界はどんどん崩れ落ちて行く。

 このままじゃ本当に_______

 

 

「死ぬぜ」

 

 ・・・こいつエスパーかよ

 気づくとあんなに巨大だった城はもうほとんど残っていなかった。

 

「くそ、どうやってこの鎖を千切ればいいんだよ!?これ本当に千切れるのか!?どうせ無理なんだろ初めから!?」

 

 焦りからか気づけば俺は叫んでいた。

 

「ゴタゴタうるせぇぞ。ゴミが!テメェが無理だと思うなら一生無理だ。そうやって負けヅラ晒してろ!」

 

 くそ、何も言い返せない!

 

「一つ教えておいてやろう。これはどの生き物でも当たり前なことだ。この世は奪うやつと奪われる奴しかいないってことだ。だから、お前はここで諦めて死ね。俺がテメェの身体使って復讐しておいてやるよ。ここで俺に奪われろ!テメェは黙って奪われろ!」

 

 奪う者と奪われる者。

 俺は奪われる側で、あいつは奪う側。

 そういえば、俺はあの女のせいでこんなことになってるんだよな。

 なんで俺はあの女に対して何も思わないのだろうか?

 元はと言えばあいつのせいで・・・!!

 

「・・・憎い・・・」

 

「アァ!?」

 

「憎い!憎い!憎い!俺はあいつを絶対に殺す!!俺は奪われる側じゃない!!俺は奪う側の人間だ!!!」

 

 

 男は俺を見てニヤリと笑う。

 

「なら成ってみろよ。奪う側によ!」

 

 俺は鎖を手に掛ける。

 もう目の前の城は全部チリになった。

 ここで引けば俺は死ぬ。ずっと奪われる側の人間として生まれて来たことになる!

 絶対に嫌だ。

 俺は_____

 

「なってやるよ!奪う側によ!!」

 

 

 

 全力で鎖を引きちぎった。

 

 

 

 

 

 #

 黒歌サイド

 

 その少年との出会いはある意味突然だった。

 ある日散歩しているとなぜかどこから出したかもわからないエサを私に食べさせようとしてきたからだった。

 

 初め会ったときいつも餌を持ち歩いているのか?と聞きたくなった私は悪くないと思う。

 

 それからなぜか、会うたびにエサを与えられ、いつの間にかあの少年の家に私はいるようになっていた。

 どうやったらそうなったのか自分でもわからない。

 それでも家に居たのは単に心地よかったからだった。

 

 その日少年はコンビニに買い物に行った。

 しかし帰りが遅い。

 だから少し探っていると人払いの結界が張られているのが分かった。

 最悪の結果を思い描きながら、結界があった方向に進んでいると左目あたりから血が溢れ出ている少年を発見した。

 

 少年は無意識か意識が有るのか分からないがどうやら家に帰ろうとしていた。

 

 私は人型になって少年を抱きかかえた。

 この少年の命は長くはないだろう。

 それでも恩返しのつもりで家に送ってあげようと思った。

 自分はあの心地よい環境が好きだった。その恩返し。

 彼には両親がいなかった。

 なぜかは知らない。

 だから私が最期を娶ってやろうと思った。

 

「こんな美人に最期を見送られるなんてきっとこいつは幸せだニャン」

 

 

 

 二日後の朝。

 _______少年は息を引き取った。

 顔にあんな大穴を開けられて正直よく二日も持ったなと思ってしまう。

 仙術を使えばあと一日位命を引き伸ばせたかもしれない。

 それでもしなかったのは少年に恩を感じていたから。

 

 黒歌は柄にもなく泣いた。

 失って初めて気づくとはよく言ったものだと思う。

 

 その日の夜。

 黒歌はこの家を去ろうとした。

 これ以上ここにいても仕方ない。

 

 そして最後に少年の顔を見ようと思った時だった。

 

 

 

「があああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 突如少年の顔から白いロウのようなものが溢れ出てきた。

 そのロウのようなものがやがて仮面のように少年の顔を覆った。

 鋭い目に剥き出しの歯。

 少年だったものは叫ぶ。

 

 そして黒歌に襲い始めた。

 

 

 

 

 

 #

 

 

 

「なんだこれ?」

 

 鎖が千切れたと思ったら鎖がついていた胸の場所にハッキリとした空洞があった。

 普通だったら、致命傷。

 完全に死ぬだろう。

 だが、全く苦しくないし、痛くない。

 穴に手を入れても普通に通り過ぎる。不思議だ。

 

「その穴はな、虚になった証だ」

 

「虚?」

 

「アァ、虚ってのは悪霊のことだ」

 

 悪霊?俺って結局死んだのか?

 

「どういうことだ?」

 

「テメェの魂は死を免れた。だが身体は違ぇ。完全に死んでる。つまりだ。今のテメェは体は死んだのに魂は生きてるチグハグな存在ってわけだ。普通なら成仏でもしてるんじゃねぇか?簡単に言うならテメェがバカだから成仏すら出来ない地縛霊になってるんだよ」

 

「俺は地縛霊になったのは分かった。だから俺は何をすればいいんだ?」

 

 全く意味が分からない。俺の魂が生きていたとしてそこからどうすればいいのか?

 てっきり、鎖取れば生き返れると思ってたんだけど・・・

 

 そういえばこの世界の崩壊も止まっるし。

 

「テメェのことだから鎖外したら生き返れるとでも思ってたんだろ。バカが」

 

 ほんとこいつどんだけバカにすれば気が済むんだ。

 しかも当たってるし。エスパーかよ。

 

「今のテメェはまだ虚に成りかけだ。本来ならもう虚になってるはずなんだが、俺がいるおかげでまだテメェは完全な虚にならずに済んでる。そうだな。あともって10分有ればいいんじゃねぇのか?」

 

「虚になったらいけねぇのかよ?」

 

 男はケラケラと笑いながら俺を見る。

 

「別にいいぜ!ただテメェが自我を取り戻した時にはテメェは人を何人も手にかけることになってるんだろうがな!!そのあとに俺が絶望したテメェの体のっとってやるからよ!」

 

 自我を取り戻した時、もう何人も手にかけている?どういうことだ?

 地縛霊はその土地に取り付いたただの幽霊じゃねぇのかよ?

 

「虚ってのはよ!化け物なんだよ!!普通の人型だったとでも思ってたのかよ、バァカが!!」

 

 愉快とまで男は笑う。

 俺はそんなもんにあと10分後になっちまうのか・・・

 だが奴の言い方だとまだ方法はあるようだな。

 

「・・・どうすればいい?」

 

「テメェに教えるとでも思ってんのか、バカが!現実はなそんなに甘くねぇんだよ!」

 

「な!?」

 

 思わぬ意趣返し。

 だが、男はニヤリとゾッとするような笑みを浮かべた。

 

「だが今回は特別に教えてやるよ。今回だけだぜ」

 

 すると男は椅子から立ち上がった。

 改めて背が高い。

 二メートルはゆうに越えているだろう。

 背中の8の字の異様な得物も合間って、独特な雰囲気を醸し出している。

 

「どこ見てんだよ?テメェの相手はこいつだぞ」

 

 眼帯の男の隣にはまるでずっといたかのように男が立っていた。

 その男は俺と瓜二つ。だが色彩が全てが逆。そしてなぜか目の前の眼帯の男の服装が同じ死装束。そしてその服さえ色は反転している。

 黒い死装束。

 白い目に白い髪。

 しかも8の字の得物を持ってるし。

 さらには得物の色も反転しているときた。

 

「誰だよそいつ?」

 

「こいつはテメェの中の虚だよ」

 

「は?」

 

「今からテメェはこいつと身体の主導権を巡って闘ってもらう。もしテメェが負けたら_______また死ぬぜ?」

 

 男が言い終わるや否や白黒逆転した俺が得物を手に取りながら一直線に俺に向かってきた。

 

「ヒャッハー!!」

 

 白黒逆転した俺は世紀末のような叫び声を発する。

 そして上から繰り出された一撃を俺は全力で左に避ける。

 避けた瞬間にはもう次の攻撃が繰り出されている。

 あんなにデカイ得物にも関わらずにまるで木の棒を振り回すかのような攻撃速度だった。

 

「おいテメェ!!そっち武器アリで俺には無しとのそんなの卑怯じゃねぇのか!?」

 

 必死に避けながら大声で叫ぶ。

 白黒逆転した俺は笑いながら言い返した。

 

「有る物使って何が悪いんだよ?卑怯?勝てば卑怯でもそれが正義なんだよ!!第一によ、お前も持ってるんだろうがよ!!」

 

 持ってる?俺が?

 そんなもん俺は持ってないぞ!

 バカはあっちじゃねぇのかよ!!

 

「大体お前はよ奪う側になったんだろ?だったら俺から自分の身体を奪ってみろよ!!俺からよ!!」

 

「くそ、知ったこと言いやがって・・・!」

 

 暴風の嵐かのような剣戟。

 躱すたびに身体を突き抜ける風。

 俺は必死に躱してるのにあいつは笑いながら俺を攻め続ける。

 

 一体俺はこの一連のやりとりを何回繰り返しただろうか?

 

「分かるか?3分だ。この数字の意味が分かるか?」

 

 白黒逆転した俺は突然話を切り出してきた。

 

「あと3分でよお前は完全に虚になる!この戦いはよ初めっからテメェに有利なことなんて一つもなかったんだよ!」

 

 白黒逆転した俺は勝利を確信したかのように叫ぶ。

 それを俺は睨みつけることしかできなかった。

 くそ!ふざけるな!

 焦るな!

 考えろ!

 まだ時間はある!

 時間はあるのか?

 どうしたらいい?

 どうすればいい?

 俺に何が出来る?

 何か出来るのか俺は?

 

 

 

 

 

 

 

「だからテメェはバァカなんだよ。チマチマ考えてんじゃねえよ。やることは一つだ。闘え。そして奪え。それだけだ。そんなこと考えてる暇があるなら攻撃しろ。今のテメェも虚なんだからよ。あいつを殺すことぐらい出来るんだぜ?」

 

 眼帯の男は俺に詰まらんとでも言いたげな口調で言う。

 

「虚とか殺せるとかなんだよ!!俺に力なんてないじゃないか!!」

 

「いちいちうるせぇんだよテメェはよ!!何が奪う側になるだ!そうやって奪われ続けるのかよテメェはよ!?」

 

 そうだよ。

 なんでまともに闘ってもないのに諦めてるんだよ俺は?

 なんで奪われることが前提になって考えてるんだよ俺は!!

 俺は奪う側の人間なのによ!!

 

「・・・そうだ。奪うんだ俺は。俺はあいつから奪うんだよ!!」

 

「そうだよ。それでいいんだよ」

 

 俺は白黒逆転した俺に向かって走る。

 策なんて何もない。

 ただ奪う。

 ただその二文字が俺を突き動かす。

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

 いつの間にか俺の手には8の字のデカイ得物が握られていた。

 不思議と手に馴染む。

 まるでずっと持ち続けていたかのようだ。

 

「ッ!!」

 

 白黒逆転した俺は驚いた表情で俺を見る。

 そして8の字の得物が互いに交差した。

 白黒逆転した俺は口を三日月のように嗤いながら叫ぶ。

「そうだな!そうじゃなきゃな!!」

 

 白黒逆転した俺は叫びながら俺に攻撃を繰り出す。

 俺はそれを必死に避ける。

 必死に躱し続けていくうちにまるで世界がゆっくりと動いているように感じた。

 右から左に繰り出される攻撃。

 それを俺は右から左へと得物を思いっきり打ち出す。

 そして反撃をされて焦ったのか上から大振りに得物を振り下ろす。それを俺は身を左に捻って無理やり回避する。

 得物が躱しきれなかったのか思いっきり身体を引き裂かれる。

 

 ________痛い。

 すぐにでも背を向けて逃げ出したい。

 ・・・でもここで逃げたら何も変わらない!!

 

 白黒逆転した俺は攻撃が当たったのを見てニヤリと笑う。

 そして、当たったと確信した瞬間に生まれた確かな隙。

 前の俺なら気づくことなどなかっただろうわずかな隙。

 それでも確実に攻撃を当てれるだろう確かな隙。

 

 腕が痛い。得物を持ち上げるのが辛い。

 それでも俺は_________

 

「俺は絶対に勝つんだぁぁぁ!!!!」

 

 ________俺は得物をおもっいきり上から下に振り下ろした。

 

 

 

 #

 

 

 

「あと少しだったのによ」

 

 どことなく悔しそうな声で呟く。

 そして白黒逆転した俺は足から徐々に白いチリになって消えていく。

 

「今回はお前の勝ちだ。せいぜい目の前の平和に現を抜かしていればいいさ」

 

 空気に溶けるようにどんどん消えていく。

 そして白黒逆転した俺は消滅した。

 

「これでテメェは現実に帰ることができる。もうそろそろテメェはここからいなくなるだろうよ」

 

「・・・そうか」

 

「ここから出るまえに俺の名前を教えておいてやる。俺は第五刃(クイント・エスパーダ)・『ノイトラ・ジルガ』だ」

 

 正直、第5十刃ってなんなのか全く意味わからんけど知ったかぶりしとこ。

 ヤベ、時間がもうそろそろ無さそうな気がしてきた。

 

「・・・そうか。俺の名前は_________黒峰薫だ」

 

 視界が白く染まって行く。

 最後に俺の名前は届いただろうか?

 最後にノイトラが「じゃァな」と言ったような気がした。

 そして俺は現実に帰った。

 

 

 

 #

 黒歌サイド

 

 突然暴れた少年を結界で押さえつけていた時だった。

 

「もうそろそろ限界だニャン」

 

 暴れ始めてまだ10分もしない内に限界が近づいてきたのだった。

 人間とは思えないほどの力。

 圧倒的なまでの暴力の嵐。

 

「もう殺るしかないニャン」

 

 ここまで耐えていたのは少年が目を覚ますという可能性がもしかしたらあるかもしれないと心の何処かで思っていたからだった。

 しかし、もう抑えることが出来なくなり、自分の体力が尽きたら殺されてしまうだろう。

 だからその前に殺す。

 体力があるうちに殺す。

 

「あがあぁぁぁぁぁ!!!」

 

 突如、目の前の少年に変化が現れた。

 少年は己の白い仮面に手を掛け剥ごうとしだしたのである。

 

「あがぁぁぁぁ!!!!」

 

 さらに少年は叫ぶ。

 すると仮面にヒピが入り始めた。

 黒歌は呆然と目の前の光景を眺めることしかできなかった。

 

「あがあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 _________そして少年は仮面を剥ぎとった。

 

 そして剥ぎとった瞬間、突風が黒歌に襲いかかった。

 思わず目をつぶる。

 

 そして目を開けた時、黒歌は少年の姿を見て漠然とする。

 

 左目の部分には黒く大きな空洞があり。その左目があったであろう場所の周りに仮面の名残りなのだろうか白い歯が左目があったであろう穴を囲むようについていた。

 そして少年の手には8の字のデカイ得物。

 だからといって神器というわけでもない。

 

 そして少年は正面に倒れた。

 

 

 部屋に倒れた少年。

 それを見て上の空の黒歌。

 

 ________まだ少年の物語は始まったばかりである。

 




主人公はどんどん戦闘狂にする予定。

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