朝起きたと思ったら目の前に美人がいた。
いや、正確には寝てた。
別に意味深とかいうわけじゃないぞ!
俺が自分の部屋のベッドで寝てたのは分かる。だが、こんな美人さんと一緒に寝てた記憶なんて一切ない。
目が覚めてなんとなく寝返ったら横には女の子が眠ってるとかそれなんてエロゲ?
何を言ってるか意味わかねぇと思うが俺の方が何言ってんのかねぇんだ。
黒い髪に黒くクッキリとした瞳。
猫のような人間にはあるまじき耳。
そして着崩した着物を着ることによって、扇情的な雰囲気を作っている。
素直に言おう。
エロい!
ケモミミっ子って現実にいたんだね。
そしてこの着崩した着物のおかげで、頑張ればこのケモミミっ子のその豊満な胸を見ることが出来るか出来ないか微妙なところがさらに引き立てている。
気づいたら上からこのケモミミっ子の胸を覗きこもうと必死になってた。それでも俺は悪くないと思う。
だって俺、童貞だし?
あと少しなんだ!
あと少しで見れるんだ!!
「何してるニャン」
ギクッと俺の身体が反応する。
恐る恐るケモミミっ子の顔を見るとジト目で俺を静かに見ていた。
「・・・」
「・・・」
俺とケモミミっ子の視線が交差する。
そして流れる沈黙の間。
沈黙に耐え切れず、俺はケモミミっ子の顔を観察する。
改めて見ると猫を思わせる大きな瞳。しっとりと濡れたような綺麗な黒い髪。
いやさ・・・誰?
「お前誰だよ?」
「胸を必死になって見ようとした変態に普通教えると思うかニャン。まずは言うことがあると思うニャン」
こっちをじっとジト目で見てくる。
とりあえずベッドの上に正座をする。
背骨がまっすぐに伸ばす。まっすぐ伸ばす時、一本の木をイメージする。
「ごめんなさい」
俺は言うと同時に額をベッドにつける。
その正座はまごうこと無く、人生で一番ちゃんとした土下座だった。
「いくら童貞だからって自分の知らない女の人の胸を覗き込もうとするなんて論外ニャ。全く、これだから童貞は」
頭をベッドにつけてるからケモミミっ子の表情は分からない。それでも声色でそんなに怒っていないことが分かる。
と言うか童貞、童貞言い過ぎじゃない?確かに童貞だけどさ、結構精神的に来るものがあるんだよ?
いつまで土下座してればいいんだよ・・・
「もう顔上げていいニャン」
俺はベッドから顔を上げた。
そしてケモミミっ子の顔を見ると「してやったり」とでも言いたげな満面の笑みを浮かべていた。
「何ニャその表情は?何か言いたいことでもあるかニャン?」
笑みを深くして俺を煽ってくる。
「それであんたは誰なんだ?」
「うわ、露骨に話をすり替えたニャン。あまりの露骨さに衝撃が隠せないニャン」
・・・まだ煽ってくるのか。
もうやめてくれ・・・
「あんたは誰なんだ?」
俺の反応を見てこれ以上いじっても無駄だと判断したのかやれやれと肩を竦めた。
「仕方ないニャ〜。私は黒歌っていうニャン」
「で、その黒歌さんはなんで俺の家にいるんだ?」
そう、本当になんで俺の家にいるのか?俺はこんな可愛い子と知り合いになった経緯もさっぱり何にもない。
「酷いニャ〜。一緒に暮らしたり寝たりした仲なのに、忘れるなんて最低ニャン」
は?一緒に寝たってのは今の状況的に分かるが暮らしたとなれば話は変わる。
一緒に暮らした仲と言えばクロくらいしかいないだろう。
しかし、クロは猫。
そういえば俺、クロがメスかオスか知らなかったな・・・
そういえば、こいつの頭に猫の耳みたいのが付いてるな・・・
いや、まさかな・・・
「黒歌さんはもしかしてクロなのか?」
「何言ってるニャ?クロじゃなくて黒歌ニャ」
確かにクロじゃなくて黒歌だけど。あーややこしい。
「あなたは俺がクロと名付けた猫ですか?」
「そうニャ」
どことなく嬉しそうに胸を張りながら言う。
胸を張ることによって、豊満な胸がさらに強調される。
それを見て思わず鼻の下を伸ばしそうになってしまう。
「これだから童貞は」
またやれやれと肩を竦めた。
いやさ、童貞だけどさ。ひどくない?
「にしても疑わないのかニャ。普通は疑うニャ」
まぁ、虚になる前だったら疑っただろうけどさ。精神世界で殺し合いしたり、色々あったから擬人化程度ではもうどうにも思わないな。
「色々あったんだよ。そんで黒歌さんはウチで何してたの?」
「色々って何ニャ・・・。あと黒歌でいいニャン」
黒歌は顎に右手をつき、うーんと唸る。
おそらく、何から話したらいいのか考えているようだ。
「質問の前に自分は名乗らないのかニャン?」
「あぁ、俺は知ってると思うが黒峰薫だ。黒峰とでも薫でも好きなように呼んでくれ」
「じゃカオル。突然だけど_________カオルは一体何者ニャン?」
「は?」
唐突な質問。
さっきまでのおちゃらけた雰囲気を一変して聞いてきた。
あまりの唐突さに思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
それにさっきまで俺が質問してたのに今は俺が質問されている状況になった。
「俺は・・・」
_________虚だと言いかけてやめた。
考えてみれば俺は虚と呼ばれている悪霊になったはずだ。なら黒歌はなぜ俺を見ることが出来るのか。
「その前に黒歌、俺は生きているのか?」
「生きてるから今話してるニャン」
「いやそうじゃなくて、俺の心臓は動いてるのか?」
「ベッドの中では動いてたニャン」
おかしい。俺が虚なら俺は生きてないはず・・・
_________まぁいいか。
「俺は多分人間だよ」
「それはないニャン。普通の人間は生き返らないニャン。その左目の穴が空いてる時点で確実に人間じゃないニャン」
そんなこと言われても知らねぇよ。
「そんなこと言われても知らねぇよ」
・・・心の声が出てしまった。
と言うか普通じゃない人間は生き返らるのかよ。
「・・・もういいニャン」
黒歌は呆れたと言わんばかりにため息をつく。
・・・さりげなく「これだから童貞は」って言うのやめろよ。
「それより黒歌は何者なんだよ。さっきまでの質問といい、人間じゃないんだろ?」
そう、俺を殺したやつは背中から黒い羽を生やしていた。あれは確実に人間じゃない。もしかしたら普通じゃない人間はあいつのことだったかもしれないが・・・
「そうニャ、私は人間じゃない。私は猫又兼悪魔ニャン。ちなみに猫又っていうのは妖怪のことニャン」
何その和洋折衷。
妖怪は日本なのは分かるけど悪魔って西洋だよね?
というか悪魔とか妖怪とかって本当にいたんだ。
「その妖怪兼悪魔の黒歌はなんでウチにいるの?」
「カオルを看病してあげてたニャン。いきなり死んだと思ったら襲い掛かってきてビックリしたニャン」
「よく分からんが済まん」
とりあえず言葉だけ謝っておく。
だって記憶にないし・・・
「あーとりあえず風呂に入っていいか?俺何日寝たきりだったか知らんけど長い間寝てたんだろ?」
「分かったニャ。あと1週間は寝たきりだったニャン」
「・・・そっか。看病してくれてありがと」
俺はそう言って立ち上がった。
久し振りに見た自分の部屋は壁紙が白く、ベッドのすぐそばには勉強机がある。勉強机の上は相変わらず何も置いてない。
_________何にも変わってない。
当たり前か。寝てただけで何にもしてないんだから。
ベッドから一歩踏み出すと、ずっと立っていなかったからか脚の筋肉な悲鳴を上げる。
それでも痛みを我慢しながら進み、浴室に入った。
頭をジャンプでゴシゴシと洗う。
洗うたびに数日洗っていなかったからか溜まっていた垢がボロボロと出てくる。
身体も垢がたくさんついていた。
そして、ふと鏡に目をやった。
「___!?」
鏡には目を大きく見開き驚愕している自分の顔が写っていた。
俺の顔はずっと寝たきりだったから少しやつれていた。
だがそれよりも驚いたのが俺の左目があったであろう場所だった。
そこには黒く大きな穴が空いていた。いや、貫通していた。
そしてその穴を囲むように歯が並んでいる。
これは虚になった証?
でもそれは俺の胸にあったはず・・・
「やめだやめ。考えても分からん!」
そして俺はシャワーを済ませて浴室から出た。
#
黒歌サイド
私はさっきまで話していた少年、カオルのことを考えていた。
「あの態度は本当に何にも分かってない反応ニャ」
自分の左目にあんな大きな穴が空いていたら普通すぐに気づくだろう。痛みがないとしても、左目が使えなくなって気づかないのは異常である。
しかも気づくどころか、まるでそれが当たり前だとでも言っているような態度であった。
「分からないニャ」
私はベッドの下に置いてある8の字の得物を取り出す。
なぜベットの下に隠しておいたかというと、またあの時のように暴れる可能性があったからである。
一応結界を張っといていつ襲われてもいいようにしていたが、どうやら杞憂に終わったようだった。
・・・そしてカオルはこの得物についても気づいていないようだった。
「分からないニャ」
これは一体何なんなのだろうか?
神器でもない。
ただの得物?
こんな形の得物がどこにあるだろうか。
私が8の字の得物を眺めていた時、カオルが部屋に戻ってきた。
#
俺が部屋に戻ってきたら、黒歌が8の字の得物を持っていた。
それは俺が精神世界で使っていたものであった。
というかどこにあったんだ?
「それどこにあった?」
「ベットの下ニャン」
なんでベットの下にあるんだよ・・・
「カオルはこれが何かわかるのかニャン?」
「あぁ、それは斬魄刀って言うんだ」
「ザンパクトウ?何ニャそれ。聞いたこともないニャン」
「斬魄刀ってのは_________何だ?」
考えてみればなんでこれが斬魄刀だと俺は知っていたのだろうか? 俺はそんな言葉すら聞いたことなかったのに・・・
「私に聞かれても分からないニャン」
「済まん。やっぱり俺も分からん」
「じゃーなんで名前は分かるニャン?」
「俺も知りたいんだが・・・」
黒歌はため息をついた。
それに合わせて俺もため息をする。
「なんか済まん」
「別にいいニャン。元々期待なんてしてないニャン」
「そ、そうか・・・」
そう言って黒歌は斬魄刀を壁に立てかけた。
そして沈黙が流れる。
・・・気まずい。
俺はこの沈黙を破るために机に向かった。
そして引き出しを開けて中を探す。
「ん?何してるニャン?」
「ちょっと探し物だ」
俺はガサガサと音を立てながら探す。
そして黒い布のようなものを手に取った。
「お、あったあった」
俺はそれを自分の左目が有っただろう場所に付けた。
そう、これはただの黒い眼帯だ。
「どうだ似合ってるか?」
「その前になんでそんなもの持ってたニャン」
「いや、これにはちょっと黒い歴史があってだな・・・」
男には中学二年生になったら現実と夢が混じり合って恥ずかしいことが堂々と出来る期間があるんだよ!
「・・・もういいニャン。似合ってるかどうか自分で鏡で見てみたらいいニャン」
「分かった」
俺は浴室に行き風呂にある鏡を見る。
黒い眼帯は見事に穴を隠していた。
そして_________
「_________似てるなぁ」
ノイトラに。
もしかしてノイトラも左目に穴が有るのかもしれない。
・・・いや別に嫌ではないけど考えるものがあるな。
#
あれから時間がたって今はもう正午の12時だ。
今俺はリビングで黒歌と向かい合って椅子に腰掛けてご飯を食べている。
ちなみにご飯は黒歌が全部作ってくれた。
・・・うん、うまい。
「あ」
「どうかしたニャン?」
「いや、学校に行かなくていいのかなって思ってさ」
「もう行かなくていいニャン。今から行くにしても遅いし、何日も行ってないから今更変わらないニャン。それに_________カオルは死んだことになってるニャン」
「は?」
なんで俺が死んだことになってるんだ?
確かに数日間学校に行かなかった。だからって死んだってことにはならないはず...
「言い方が悪かったニャン。この地域は悪魔が管理してるニャン。そんなところで堕天使が暴れたら一発ニャン。さらにそこに居合わせた人間がいなくなったら死亡判定されても仕方ないニャン」
マジで悪魔有能過ぎない?
というか俺を殺したのは堕天使なのか。
確かに可愛かったけどさ。
だからって堕天使って言われてもな。
「なら俺はどうすればいいんだ?」
「知らないニャン」
えー。
「別に悪魔の中で死亡判定されただけニャン。だから学校には行けるニャン。その代わり学校に行ったら堕天使とか悪魔の記憶が消されるニャン」
何それ怖い。
というかどうやって記憶消すんだよ。
「だから好きなようにやればいいニャン。学校に行って普段の生活を取り戻すのもいいし、このまま死亡判定されたまま生きてもいいニャン。それでも私は学校に行かない方がいいと思うけど」
「なんでなんだ?」
「記憶消されたらその左目のこともきっと忘れるニャン。それで普通の生活を過ごせると思うかニャン?」
・・・なるほど。
「まあ、今日はゆっくり休むニャン。まだ筋肉が衰えてるから明日考えればいいニャン」
「ん、ありがとう」
そうだな。明日考えよう。
「そういえばなんで黒歌はこんなに俺に親切にしてくれるんだ?」
「うーん、そうだなぁ。あえて言うなら気に入ったからニャ」
気に入ったから助けてくれるのか。
てことは気に入らなかったら俺はどうなってるんだろ?
「黒歌には感謝だな」
「別にいいニャ。ただ私がしたかったようにしたいだけニャ」
「そうか。ありがと」
俺はそう言ってから椅子から立ち上がった。
「飯うまかったぜ。ごちそうさま」
そう言ってリビングを出た。
#
誰もいない自分の部屋はひどく寂しく感じた。
自分一人だけ。
いつもこうだったのに、黒歌と話したからか急にこの部屋が広く感じる。
「・・・寂しいな」
ベットに横になる。
なぜか久し振りに寝るような気がする。
ベットの中は暖かく、どこまでも沈んでしまいそうに思えるほど柔らかい。
・・・まるで死んだ時のようだ。
思考はどんどん闇の中に沈んでく。
そしていつの間にか俺は寝ていた。
俺は夜に目が覚めた。
なぜ目が覚めたか?
それは直感にも等しいものを感じたから。
何を感じたのか?
_________戦闘の匂い。
しかもあの時俺を殺したやつの力の波動を感じる。
なぜそいつだと分かるのか分からないがなんとなく分かる。
それなのに絶対だとそいつだと断言できる感覚。
左目がチクチクと痛む。
まるであの時の痛みが蘇ってくるようだ。
俺はベットから身を出した。
すぐにタンスから服を出し、それを着る。
白いシャツに黒いズボン。さらに上から黒いコートを羽織る。
そして壁に立てかけてある斬魄刀を握る。
斬魄刀の持ち手の冷たい鉄の手触りが掌に伝わる。
そしてつかの部分にある鎖を自分の腰に結びつけた。
それを背中に担ぐ。
そして気付く。
自分の姿がノイトラと全く同じになっていることに。
「ハハ」
乾いた笑いが部屋に響く。
「待ってたぜ。この時を」
奪ってやる。
俺が全部奪ってやる。
俺を殺したのを後悔させてやる!
「ククク」
俺は家から飛び出し、戦闘の匂いに誘われるがままに走り抜けた。
やっぱりエスパーダで一番好きなのはノイトラなんだよな〜