ユーベルーナサイド
「所詮は人間ね」
ユーベルーナはそう呟き、ため息を吐いた。
このゲームで唯一の人間。
そして人間とは思えない身体能力を持つイレギュラー。
その力は、こちらの『兵士』であるミラの一撃を軽く受け止めてしまう程だった。
悪魔と人間。
もはや種族が違うこの両者の差は例えるなら、ライオンと猫と言ったところだろう。
その差を身体能力だけで埋めてしまった眼帯の男。
ライザー様は興味深いと思われたようだが、結局は人間。
その差はどれだけ異常でも埋めることは出来なかったようだ。
ユーベルーナは黒峰がいるだろう場所から背を向ける。
向かうのは我が『王』であるライザー様がいる場所。
(と言っても必要はないだろうけど・・・)
そして歩き出そうとした瞬間だった。
「!?」
ユーベルーナの身体が突如として体が重くなった。
まるで重量が増したように感じた。
身体を動かすこと自体がキツく感じる。
それはまるで自分では絶対に敵わないものと相対した時のプレッシャーのようであった。
「何よ、これ...」
呟いた瞬間にその重圧が消える。
時間にしたら一瞬だが、ユーベルーナは自分の知らない未知に触れ、得体の知れない恐怖を覚えた。
しかし、初めは一体なんなのか分からなかったユーベルーナだが、無意識のうちに足を止め黒峰がいた場所を見つめていた。
確信はない。
しかし、それしか考えられなかった。
その時、土煙の中からさっきまで無かった人影が現れたのだった。
#
俺が目を覚ますと俺は土煙の中にいた。
未だに全身がムチで打たれたように痛い。
しかし起き上がれない程でもない。
「よっと」
手をつきながら体を起こす。
そのあと背筋をピンと伸ばす。
そのあと、手を開いたり閉じたりする。
どうやら体は問題なく動かすことができるようだ。
そして、体中から今までに感じたことがない力のようなものが溢れてくるようだった。
俺は地面に落ちている斬魄刀を拾う。
そして、思いっきり横薙ぎに払った。
その素振りは今までよりも鋭くなっていた。
そして一瞬遅れて土煙が割れる。
割れた先から俺を見て驚きの表情を見せるあの女がいた。
しかしその驚愕も一瞬。
すぐに余裕の表情になると右手を俺にゆっくりと差し出した。
「人間ごときがまだ立てるなんて驚いたわ。ゴキブリ並みね」
ユーベルーナはあざ笑う。
空中という圧倒的な有利。
確かに黒峰はその強靭な胆力で距離を詰めることができるだろう。
しかし、それでも黒峰の一撃を躱せないことはない。
最初は驚いたが、今の警戒した状態で当たるとは思えなかった。
「人間、人間、てよ。俺はもう人間じゃねぇんだよ」
黒峰はボソッと小さな声で呟く。
「何か言ったかしら?」
どうやら黒峰の呟きは聞こえていたようだ。
何を言ってるのか分からないようだったようだが。
「なんでもねぇよ」
今、黒峰はムカついている。
なぜならユーベルーナは勝ち誇ったかのように余裕の態度を崩さないからである。
黒峰は斬魄刀を強く握る。
「来いよ、雑魚」
軽い挑発。
しかし、ユーベルーナは絶対に引っかかると黒峰は確信していた。
なぜならユーベルーナは自分よりも格下と思っている黒峰から雑魚と呼ばれたからだ。
それを許すのは彼女のプライドが許さない。
故に挑発。
今までの態度と言い、俺を見下す傾向が強いからな。
「人間風情が生意気な...!!」
ユーベルーナはやはり挑発に乗ってきた。
刹那、地面が爆ぜる。
そして爆発の瞬間、俺は右に思いっきり飛んだ。
「な!?」
ユーベルーナは驚愕の声を上げる。
どうやらアレで決めたと決めつけて居たらしい。
ユーベルーナが驚いている間に、俺は斬魄刀をユーベルーナに向かって槍投げのように投げた。
「ッ!!」
二度目の驚愕。
ユーベルーナは投げられた斬魄刀を身を逸らして避けようとする。
そして、もともと狙いが甘かったため、外してしまった。
外すのは狙ってたんだけどね。
「残念だったわね!!私の勝ちよ!」
ユーベルーナは黒峰の奇行に確かに驚愕した。
武器を投げたのである。
それも黒峰の唯一の武器を、である。
と言っても黒峰はそんな無駄なことはしないのだが。
しかし、ユーベルーナは黒峰が鎖のようなものを引っ張る動作を見て、その鎖をある方を見て、三度目の驚愕をする。
「な!?」
ユーベルーナの背後には、自分めがけて黒峰の得物がUターンしてきていた。
それはユーベルーナ一直線に向かってきている。
慌てて躱そうとした瞬間だった。
ユーベルーナの右手首を誰かが掴み、その回避を許さなかった。
ユーベルーナは右手首を掴んだ人物をみる。
そこにいたのは黒い眼帯の黒髪の男。
黒峰だった。
「俺から目離したな?」
黒峰はユーベルーナの右手首を握る手に力を入れていく。
まるで万力に手を挟まれているかのようだった。
着実に圧力が加速していく。
そして、ゴキッ、と右手から骨が砕けた鈍い音が響いた。
「____!!!?」
痛みのあまり、叫び声すら上げることができなかった。
そして痛みに悶える暇も無く、黒峰の右手にはあの8の字の得物が握られていた。
「終わりだ」
黒峰は短く言い放つ。
そして黒峰は斬魄刀を振り下ろした。
#
ユーベルーナは肩から思いっきり切り裂かれ地に落ちた。
俺も重力に身をまかせ地面に降り立つ。
そして、地面に足をつけた瞬間、地面が爆発した。
衝撃から身を守るように体を丸めて地面を転がる。
ダメージは思ったよりも少なかった。
ユーベルーナが落ちた場所を睨む。
するとそこから"無傷の状態"のユーベルーナが現れた。
「なん・・・だと?」
切り裂いた時、確かに手応えはあった。
しかしユーベルーナは無傷だ。
訳が分からない。
悪魔には高速再生でもあるというのか?
「腑に落ちないって顔ね」
ユーベルーナは俺の動揺を見抜いていたようだ。
「どうせ悪魔ならすぐに回復するとでも思ってるんじゃない?」
おい、ノイトラと同じでこいつらエスパーかよ。
ユーベルーナは俺の心情を読み取ったのかクスクスと笑う。
「残念だけどタネはちゃんとあるわ」
そう言うと懐からからの水晶瓶を取り出す。
それを俺に見せつけるかのように前に差し出す。
「これは『フェニックスの涙』って言うの」
フェニックスの涙ってフェニックスの羽と名前違くない?
FFなら戦闘不能のやつを復活させるやつだろ?
「これを使えば腕がもげても再生することができるわ」
簡単に言うならリアルビ○コロですね。分かります。
「おい、そんなもんいくつもあったらゲーム勝てねぇじゃねぇか」
そう、そのフェニックスの涙が何個もあったら格下相手でも格上に勝ててしまう。
「そう、その通りよ。これがあればゲームのバランスが崩れてしまうわ。だからレーティングゲームではこれを使う回数が決められているわ」
「何回なんだ?」
正直、起き上がるたびに倒してやるからいいけどな。
「だいたい一回ね」
なんだ、もう一回やればいいのか。
「安心したぜ。____弱え奴を嬲る趣味はねぇからな!!」
俺はそう言った瞬間にユーベルーナに向かって駆け出す。
完全に虚になったからなのか、はじめよりも身体能力が飛躍的に上がった。
はじめの俺ならユーベルーナにフェニックスの涙を使わせることすら出来なかっただろう。
その強くなったという実感のせいで、俺はユーベルーナを完全に舐めていた。
「さっきまでの私じゃないわよ!」
ユーベルーナはそう言うと俺に手を差し出す。
その時、俺の第六感がアラームを鳴らす。
そして、目の前が真っ白に染まった。
後ろに吹き飛ばされる。
(さっきの爆発ヤベェな)
躱しきれないほどの範囲攻撃。
そして威力の高さ。
やっと本気を出したのだろう。
「クソが」
俺は立ち上がり、愚痴を言う
しかし内心は相当焦っていた。
(あれはヤバイな。さっきのは運が良くダメージが少なかったが、次はないだろうな...)
そんな俺の内心が顔に写っていたのか、ユーベルーナは優越に満ちた表情で俺に言う。
「確かに貴方は強いわ。でも近づかなければ怖くないのよ!!」
ユーベルーナは俺に暇を与えることなく爆発させる。
そして俺は爆発を避けるために横に走る。
そして俺は内心必死になって考える。
斬魄刀をもう一度投げたらどうだ?
おそらく斬魄刀を投げるという手段は通じないだろう。
あれは不意打ちという意味合いが強いからだ。
ではどうするか?
やはり近づくしかない。
ユーベルーナは俺の速度に慣れてきたのか爆発させる場所の正確さが増してきているように感じる。
だが、近づいたら、攻撃の格好の的だろう。
だがこれしかないだろう。
俺は駆ける。
そして、俺はユーベルーナの方に駆け出した。
その瞬間、ユーベルーナは冷酷な笑みを浮かべる。
それもそうだろう。
相手からしたら、どんどん的が大きくなっていくようなものなのだから。
俺は直感に頼りながら横に避ける。
着実にだが、確実に近づいている。
しかし、俺の直感もこれが限界だったようだ。
近づいて行くたびに俺は躱しきれなくなっていった。
(___躱し切れねぇ!!)
俺は横に避けようとするがもう既に遅い。
爆発は俺を巻き込もうとした。
普通は躱すことは出来ないだろう。
しかし、俺の本能が不可能を可能にした。
刹那、俺の視線の位置が変わる。
そして、爆発はすぐ横で起こった。
響転(ソニード)。
足に力を爆発させることによって出来る高速移動。
その速度は消えたように見えるほど速い。
「な!?」
ユーベルーナさえこれには驚愕している。
その驚愕の表情を見て、俺は心の中で舌を巻いた。
そして俺は思わず口を歪めた。
「行くぞ!オラァ!!」
俺は何度も響転しながらユーベルーナに近づく。
ユーベルーナはすぐさま対応するが、響転の速度について来れず、俺の一歩後ろで爆発する。
そして俺はユーベルーナを捉えた。
俺は斬魄刀を振り下ろす。
確実に入ったと俺は油断したのかもしれない。
その瞬間、ユーベルーナは自分の足元を爆発させて回避した。
そして、爆発の余波を俺に向けさせることによって俺を吹き飛ばす。
俺は吹き飛ばされながら、斬魄刀を地面に刺し無理矢理体制を整える。
「...今のは効いたぜ」
そしてユーベルーナにまた距離をつけられてしまった。
ユーベルーナは俺を見据えながらあざ笑う。
「確かにその瞬間移動みたいのには驚いたわ。でも近づかさせなければ怖くないわ!!」
確かにその通りだと思う。
今の俺なら近距離攻撃しか出来なかっただろう。
しかし今の俺は?
もう人間でなくなった今の俺は?
俺は左目があった場所を撫でる。
眼帯越しにわかるクッキリと空いた空洞。
虚になった証。
もう俺は人間じゃない。
心に空いた空洞を思い浮かべる。
ポッカリとした空洞。
もうこの穴は埋まることはないだろう。
それでもその空洞を何かで埋めたいと俺の本能が羨望する。
意味が無いのは分かってる。
それでも埋めようと足掻かなければいけないと本能が警告する。
「確かに今までの俺なら近かづかないと攻撃できねぇ。・・・だがな、いつ俺が遠距離攻撃できねぇなんて言った?」
ユーベルーナは更にあざ笑う。
それもそうだろう。
相手からすれば俺の言葉は苦し紛れにしか聞こえないのだから。
いきなり俺は遠距離攻撃が出来ます、と手ぶらの状態で言い出したら、それは戯言だと思うだろう。
俺は斬魄刀を地面に突き刺したまま、人差し指と中指をユーベルーナに向ける。
指先に力が収束していくようにイメージをする。
すると赤黒い光が指先に収束していた。
そしてその光を解放させる。
「虚閃(セロ)」
放たれる赤黒い閃光。
一直線にユーベルーナの元に向かっていく。
ユーベルーナは笑うのをやめ、驚愕の表情を作る。
「・・・クッ!」
ユーベルーナは避けようとするが間に合わず、右手を虚閃に飲み込まれる。
右手はまるで炎に焼かれたように黒く焦げる。
苦悶の表情を浮かべるユーベルーナ。
普通ならのたうち回るほどの痛みが走っているはずなのに立っていられるのは彼女のプライドが許さないからだ。
そんなユーベルーナであったが、黒峰は無慈悲であった。
黒峰は次の虚閃を放つ。
放つたびにユーベルーナ避けきれずにどこか負傷して行く。
そして虚閃を放つたびに黒峰はユーベルーナに近づいて行った。
ゆっくりと。
確実に。
相手を削り取りながら。
無慈悲に。
黒峰が彼女に近づくと、すでにユーベルーナはボロボロであった。
誰がこの決着を予想しただろうか。
一方的に人間が悪魔を嬲るという構造を。
真実を言えば黒峰は虚だ。
しかし現実に黒峰の正体を知る者は誰もいない。
「楽しかったぜ」
黒峰はボロボロになったユーベルーナに言う。
ユーベルーナは息を荒くしながらも戦意は衰えていないようだった。
「____じゃあな」
黒峰は斬魄刀を振り下ろす。
『ライザー・フェニックス様の女王、リタイヤ』
そして黒峰は勝負に幕を閉じた。
「クククククク」
黒峰は笑う。
「アハハハハ!!」
狂ったように笑う。
黒峰は今日、初めて闘いをした。
木場との試合とは根本的に違う。
そして初めての勝利。
体中に歓喜という感情が巻き上がる。
楽しかった。
クセになってしまいそうになるほど。
黒峰は笑う。
やがて黒峰は斬魄刀を担ぎ、その場を後にする。
残るは相手の『王』。
今ならなんでも出来るような気さえする。
足元が軽い。
そんな時だった。
それを耳にしたのは。
『リアス・グレモリー様の投了確認。以上でレーティングゲームを終了します』
「チッ」
他がどうなったかとか負けたとかそういうことはどうでもいい。
これ以上戦えないというのもある。
しかしそんなことよりも黒峰は違うことにムカついていた。
"リアス・グレモリーの投降"
つまり、リアス先輩は戦わずに負けを認めたということなのだ。
まだ敗北なら分かる。
しかし投降ということは戦うことさえせずに逃げたのである。
「クソが」
黒峰は悪態をつく。
しかしそこに彼を責める者は誰もいなかった。
そうしてレーティングゲームの終了したのだった。
何・・・だと?をやっと入れることができた(笑)
最近ノイトラがツンデレに見えてきたこの頃。