虚になったけど質問ある?   作:明太子醬油

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ちょっと短いです。
特に読まなくてもいいかもです。


黒歌の憂鬱

 俺が家に帰ると黒歌が出迎えに来てくれた。

 

 でもね、なんか黒歌の様子がおかしいんだ。

 

 俺が「ただいま〜」って言ったら、黒歌も「おかえりなさい」っていうやり取りが毎回あったんだ。

 しかし今回は違った。

 

「ただいま〜」

 

「・・・」

 

 黒歌がなんか知らんけど俺を警戒してる件。

 

 普通に悲しいんだけど。

 俺なんか嫌われることしたっけ?

 それともあれか。

 思春期特有のもう私に話しかけるな的なアレか。

 

「・・・誰ニャン?」

 

 ヤベェ。

 めっちゃ悲しい。

 

 一日会わなかっただけで「誰?」って酷くない?

 まず俺に似てる奴がたくさんいるならまだ分かる。

 でもね眼帯してる奴いる?

 俺未だに見たことないんだけど。

 俺以外。

 

「不用意に動いたら殺すニャン」

 

 しかも不用意に動いたら殺す発言。

 マジで黒歌さん俺を疑ってきてる。

 

 黒歌さんマジで構えてるんだけど。

 何それ怖い。

 

「俺だよ、俺」

 

 なんか詐欺みたいになっちゃった。

 というかマジでこれ以外にどう返したらいいの?

 

「誰ニャン?」

 

「俺は黒峰薫。バリバリの高校二年生」

 

 黒歌の目つきがめっちゃ厳しくなったんだけど・・・

 

 バリバリの高校二年生ってふざけ過ぎたのかな?

 でも実際バリバリの高校だし・・・

 

「真剣に答えるニャン。人の皮を被ってることくらい分かるニャン」

 

 俺、人の皮被ってないんだけど・・・

 確かに人の皮被ってるって言ったは被ってるけどみんな同じでしょ?

 

「だから俺は黒峰だって」

 

「違うニャン」

 

「なんでだよ?」

 

「カオルの気を感じないニャン」

 

 気ってなんですか?

 ドラグソボールのことですか?

 マジでそれなら黒歌には、かめはめ波を撃って欲しいな。

 

「・・・気ってのはなんだ?」

 

「気は生き物は必ず持っているものニャン。それなのに貴方にはそれを感じないニャン」

 

 生き物は気を必ず持っていると。

 そして俺には感じないと。

 そりゃあ、俺生きてないしね。

 

 前の俺は虚だけど完全に虚じゃなかったからまだ生きていた。

 だが今はどうだろうか?

 俺は"あの時"人間の俺を殺して俺は完全な虚になった。

 虚とは悪霊。

 つまり死んだ後の存在。

 

 生き物が気を持っているなら死んだ俺は気がないのだろう。

 

「黒歌、俺は人間をやめたんだ」

 

 頭の中で、「俺は人間をやめるぞ、ジョジョーー!!!」と流れる。

 そもそも、いきなり「俺は人間やめた」なんて言われてちゃんと受け止める人は何人くらいいるだろうか?

 

 

「何バカなこと言ってるニャ。たとえ人間やめたからといって、気が無くなることはあり得ないニャン

 

「いや、俺もう心臓止まってるんだわ」

 

「何言ってるニャン」

 

 確かに目の前の人間が、俺心臓止まってるんだ、と言われたらそりゃあ頭狂ったと思われるはなぁ。

 

「俺の左目のとこに穴あるじゃん?やっぱり俺死んでたんだわ」

 

「もういいニャン。ならなんで今頃心臓が止まったのかニャン?そしてなんで動いてるニャン?」

 

 なんでって言われてもう止まったもんは止まったんだしさ。

 そもそも虚のこと言っても信じないだろうし。

 

 Q:なんで心臓止まってるの?

 

 A:死んだから。

 

 もうこん位しか返す言葉がないんだけど・・・

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 お互い何も言わずに沈黙の間が続く。

 

「そんなに言いたくないならもういいニャン」

 

「・・・ありがとう」

 

 こうして俺の日常(?)が戻ったのだった。

 

 

 #

 

 

 黒歌サイド

 

 

「ただいま〜」

 

 いつもの声が家に響く。

 私はすぐに玄関の方へ向かって行った。

 

 そして、おかえりなさいと言おうとした時だった。

 私は彼に『気』が無い事に気づいた。

 

 生き物には必ず気がある。

 しかし目の前の者は普通に存在しているし、生きているようにも見える。

 

 だから余計に黒歌は混乱した。

 普通ならあり得ない現象。

 これが夢だと言われた方がまだ納得出来るような気さえする。

 

 目の前の人物について観察する。

 気は一切流れていない。

 しかし動いている。

 それも黒峰の姿で。

 

 彼は私を見て不思議そうにしていた。

 

 敵ではないのかもしれない。

 しかし、相手が得体の知れない分だけ、その表情すら演技に見えてしまう。

 

 黒歌は考える。

 

 相手は一体何の為にこんなことをするのか?

 

 とりあえず目の前のこれは人形だろう。

 それしかあり得ない。

 なぜなら生きていないのだから。

 

 そして、油断した隙に黒歌を取り押さえるつもりなのかもしれない。

 

 黒歌は悪魔の中で犯罪者である。

 それもSSランクのはぐれ悪魔だ。

 いくら妹を守るために主を殺したと言っても犯罪者は犯罪者なのだ。

 

「誰ニャン?」

 

 このまま考えていても仕方ないと黒歌は考え、相手側に"私は貴方が偽物だと分かっている"アピールをする。

 普通ならここで相手は何らかの行動をする。

 もしかしたらバレたことに気づき、私に特攻をかけてくるかもしれない。

 相手の同行を探りながら、いつでも対応できるようにしておく。

 

 

 しかし、目の前のこいつは困ったような表情をするだけだった。

 

 その何もしないといった雰囲気がさらに私の防衛本能を高ぶらせる。

 

「不用意に動いたら殺すニャン」

 

 相手はまた困ったような表情をするだけで何もしない。

 

 こいつは一体何を狙っている?

 

「俺だよ、俺」

 

 いきなりそう言い出した。

 まさかここで自分の名前を出さずに来るとは思わなかった。

 もし仮に自分が相手側なら「俺だよ、俺」とは言わないだろう。

 せめて名前を言うはずだ。

 

「誰ニャン?」

 

「俺は黒峰薫。バリバリの高校二年生」

 

 こいつの狙いは一体なんなんだ?

 全く分からない。

 ただ、こいつがカオルが高校二年生だという情報を持っているということしか分からない。

 その情報を私に渡して一体何になるのだろうか?

 

「真剣に答えるニャン。人の皮を被ってることくらい分かるニャン」

 

 そう、貴方は人形。

 カオルにとても似ているただの動く人形。

 

「だから俺は黒峰だって」

 

「違うニャン」

 

「なんでだよ?」

 

「カオルの気を感じないニャン」

 

 そして奴はまた困惑の表情を覗かせる。

 

「・・・気ってのはなんだ?」

 

 正直教えてあげる義理はないのだが、あえて教える。

 

「気は生き物は必ず持っているものニャン。それなのに貴方にはそれを感じないニャン」

 

 そう、これが人形の欠点。

 命の無いものに気は宿らない。

 これで完全に相手は私が騙されないということを分かったはず。

 

 さぁ、どう出る?

 

「黒歌、俺は人間をやめたんだ」

 

 

 思わず「は?」と言いたくなった。

 

「何言ってるニャン」

 

「俺の左目のとこに穴あるじゃん?やっぱり俺死んでたんだわ」

 

 なんと無茶苦茶なことだろうか。

 いきなり人間をやめたと言い出しては、俺はやっぱり死んでいた発言。

 チグハグ過ぎて意味が分からない。

 

 

「もういいニャン。ならなんで今頃心臓が止まったのかニャン?そしてなんで動いてるニャン?」

 

 

 あの時はまだ生きていた。

 なのに今更死んだと言われても意味が分からない。

 時間差で死んだなんて聞いたこともない。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

 互いに沈黙が続く。

 このままだと一生沈黙したままかもしれないと思うほど静まる。

 

 ・・・つまりは沈黙が答えというわけか。

 

「そんなに言いたくないならもういいニャン」

 

 黒歌の心の中ではもうどうにでもなれと思っていた。

 これでだまされたならそれはそれでいいのではないかと。

 

「・・・ありがとう」

 

 今日は警戒しておかなければ。

 心の中でそう思う黒歌だった。

 

 #

 

 

 その日からまた普通に生活がはじまった。

 

 あの日は結局何も起きずにそのまま日を跨いだ。

 

「おはよう」

 

 彼はいつも通り私に挨拶する。

 

「おはようニャン」

 

 やはり彼は黒峰だった。

 




気は生き物しか使えないという設定です。
Q妖怪って生きてるの?
A生きてると思う。
詳しいことは気にしないで下さい

すいません。小猫のこと子猫と書いていました。訂正します。

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