ソードアート・オンライン~運命を穿つ者~   作:エンジ

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第四話 迷宮区での出会い

 

 全てが始まったあの日から、もう一か月近くが経過しようとしていた。

 しかし、未だにアインクラッド第一層を攻略できていない。そもそもの話、第二層へ上がるための部屋、簡単に言えば第一層のボス部屋すら見つかっていないのが現状だ。

 

 

 俺が今いるここ、第一層迷宮区にはそのボス部屋が隠されている。一週間ほど前に発見されたこの場所――いや、発見というのは語弊があるだろう。攻略が開始されたこの場所は、ほとんどがマッピングされており、おそらくもう直にボス部屋も見つかるはずだ。そうなれば、この迷宮区最寄りの町《トールバーナ》辺りで、第一層ボス攻略会議が開かれるだろう。どのみち、どこで開かれようが俺はそれに参加する。そのために今日までレベルを上げていたのだから。

 

 

 三度目の攻撃を軽い足取りで躱し、大きく大勢を崩したレベル6の亜人型モンスター、《ルインコボルド・トルーパー》に単発ソードスキル《ホリゾンタル》を直撃させる。

 必殺技に等しいソードスキルが弱点に直撃したため、コボルドに一時行動不能化(スタン)が発生する。その隙を逃さず、他人の目から見たらやや早めであろう通常攻撃を四、五回浴びせると、コボルドのHPはレッドゾーン(危険域)に突入した。それと同時に、コボルドがスタン状態から回復するが、俺のターンを明け渡すつもりはない。

 すぐさま単発ソードスキル《バーチカル》発動させる。最後の斬撃の軌道上、この技が最も早くモーションに入れるからだ。

 水色に光る剣先がコボルドの体を上から下へ振り下ろされると、亜人は奇妙な断末魔と共に、無数のポリゴン片へと姿を変えた。同時に、俺の目の前に獲得経験値、金、アイテムなどが表示されたウインドウが出現する。それに一目もくれず、ウインドウを閉じると大きく息を吐いた。

 

 

 先ほどのコボルドに表示されていたカーソルの色はストロベリー、ピンクに限りなく近い赤だ。

 つまり、今の俺がルインコボルド・トルーパーを何百体狩ったって、レベルが上がることはない。おそらくこの第一層に、俺と同等レベルのモンスターはもういないだろう。

 

 

 剣を空中で一回転させると、慣れた手つきで掴み、鞘にしまい込む。

 俺が使っているのは《ブロンズソード+6(1S2Q3D》だ。相変わらずブロンズソードだが、ただのブロンズソードではない。通常よりも少し強化してあるものだ。

 武器の強化パラメーターには、《鋭さ(Sharpness)》《速さ(Quickness)》《正確さ(Accuracy)》《重さ(Heaviness)》《丈夫さ(Durability)》の五種類存在する。鍛冶職人に頼めば、特定の素材で任意に強化することができる。

 武器の後の数字が全体的に強化されている回数で、その後の内訳は、回数に強化しているパラメータの頭文字を付け加えたものだ。つまり、俺のブロンズソードは、鋭さが1、速さが2、丈夫さが3というわけだ。

 《はじまりの街》の北西方面に、《ホルンカ》という村があり、そこにあるクエストで《アニールブレード》という、強化すれば第三層まで使える武器がもらえるらしいが、必要最低筋力値が4と超ギリギリ満たしている俺にとっては、非常に重く感じる武器なため取りには行っていない。

 そもそも最初に向かったのが《ホルンカ》と逆方面だったことと、その情報をレベル12に上がった直前に入手したことが、主な原因だ。

 

 

 大きな伸びをしながらひたすら前に歩き続ける。

 レベル14になった現状では、レベリングのついでに行っていたマッピングを主体に、行動せざる負えなく、今もひたすらマップに表示されていないエリアを歩き続け、それっぽい部屋を探している最中だ。

 正直、すぐに終わると思っていたのだが、思った以上に迷宮区は広く、入り組んでおり、なかなか苦戦中である。

 

「はぁ。どこまで続くんだよ、これ。どうせ、この先には何もないってオチだろ? そういうのはいいからいい加減、潔く見つかってくんないかなぁ?」

 

 最後にもう一度大きなため息を吐くと、数十メートル先にグリーンのカーソルが二つ表示されているのに気が付いた。そして、それをとり囲む数十体のストロベリーのカーソルも。

 どうやらプレイヤーがモンスターの大群に襲われているらしい。とりあえず、プレイヤーたちを視認して、残りHPおよび状況を確かめるため、手前の角まで駆け出す。

 もしもこれが、故意によるレベリングだったら、俺が手を出す必要はない。というか、出してはいけないのがマナーだ。だが、仮にピンチな状態だった場合は、手を貸さなければこの世界から新たに二人のプレイヤーが永久退場してしまうことになる。それは、どうあっても避けたい。

 

(まあどうせ、レベリングなんだろうなぁ)

 

 そう頭で思いながら角にたどり着くと、顔を出す。その先の光景を見た瞬間、俺は目を見開いた。

 約三十メートルほど先、カーソルの表示されている通りにプレイヤーたちがコボルドの群れに囲まれているが、その背後には壁があり逃げ道はない。俺と同じくマッピングしていたところ、モンスタートラップに引っかかったのだろう。しかしそれ以上に気になったのは、そのプレイヤーたちのHPだ。どちらも、イエローゾーン(準危険域)まで減っている。

 それを確認した直後、俺は駆け出していた。十数体いるコボルドのうちの一匹の背後に、単発ソードスキル《スラント》叩き込む。背後攻撃(バックアタック)により、目前のコボルドはスタン状態になる。

 その攻撃により、その場にいたコボルドと共に二人のプレイヤーが俺の存在を認識した。

 

「俺も加勢する! できるだけ引き付けるから、一匹ずつ確実に仕留めてくれ!」

 

 プレイヤーたちの返事を待たずに俺は近くにいたコボルドに片っ端から斬りかかる。それにより、俺に対する憎悪値(ヘイト)が高まり、ほとんどが攻撃対象を俺に変更してきた。こうすれば、プレイヤーたちに、数秒の回復時間を稼ぐことができる。

 何十、何百とコボルドを倒してきた俺にとって、一匹だろうが複数だろうが同じようなものだ。

 口元に笑みを浮かべながら、小さく唸るコボルドたちに斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が加勢したからか、プレイヤーたちの戦闘スキルが高かったからかはわからないが、ものの五分程度で十数体いたコボルドを殲滅することができた。

 息を乱しながらその場に座り込むプレイヤーたちに近づき、それぞれにポーションを渡す。そこで俺は、そのプレイヤーたちが《女性》であることに気付いた。

 このデスゲームが始まってから一ヵ月、本物の女性に会うのはこれが初めてだ。

 

 

 一人は腰上まで伸びた薄い茶色の長髪にツーサイドアップの髪型。瞳の色は髪色同様で、見た感じ明るく元気な印象を与えるような少女だ。

 もう一人も腰上まで髪を伸びているが、その色は黒で、俗にいうストレートヘア。お淑やかな雰囲気を漂わせており、ポーションを飲む姿も実にお上品だ。

 どちらも顔つきが似ており、おそらく姉妹か親戚なのだろう。

 黒髪の女性が俺の視線に気づくや否や、慌てて立ち上がって小さく頭を下げてくる。

 

「あの、先ほどはありがとうございました。それにポーションまで頂いてしまって……」

 

「気にしなくていいよ。困っている人は見過ごせない性分でね……そんなことより、どうしてこんな深くに? マッピングでも壁を見れば、ここまでくる必要はないのに」

 

 女性は困ったような表情をし、言おうか言いまいか迷っているようだった。

 さすがに他人に言い難いことを言わせるほど俺はSではない。だが、口を開こうとした俺よりも早く、その女性が口を開く。

 

「実は宝箱を見つけまして……」

 

 それから先は言われなくてもわかるだろう。俺の予想通り、モンスタートラップに引っかかってしまった結果のようだ。

 ああなるほど、と頷いた俺にどこか恥ずかし気に髪をいじる女性は苦笑する。すると、先ほどまで黙ってポーションを飲んでいた少女が口を開いた。

 

「私は止めようって言ったんですけど、お姉ちゃんが聞かなくて……」

 

「だってしょうがないじゃない。宝箱は開けるものよ?」

 

「その結果こんな危ない目にあったんでしょ……もう」

 

 どうやら二人は姉妹だったらしい。

 茶髪の少女はため息をつきながら立ち上がる。よくよく見ると、二人とも身長は少し高めだ。160ちょっとはあるだろう。

 とりあえず俺は、この場所から離れるように二人に促す。もしこの場にとどまり続け、再びコボルドの大群遭遇してしまったら元も子もない。

 

「まあコボルドの数が十体と少しでよかったかもな。この手のトラップは多くて二十から――」

 

「四十二体いましたけどね」

 

「そうそう、よくわかっていますな。四十とちょっt―――え?」

 

 思わずそう聞き返してしまった。

 この少女は今何といったのだろうか。俺の耳がイカれてなければ彼女は――

 

「四十二って言ったんですけど、どうかしました?」

 

「四十二ぃ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げると、二人の女性プレイヤーはびくっと肩を揺らす。茶髪の少女からは、何かまずいことを言ってしまったのだろうかと、後悔の色が徐々に顔に現れ始める。

 もちろん、まずいことではない。むしろすごいことだ。口をあんぐり開けている俺に、黒髪の女性は心配そうな眼差しを向けてくる。

 

 

 正直驚いた。

 モンスタートラップが発動したとき、彼女が言うように四十二体のコボルドが現れたとしたら、俺が加勢する前に約三十体をさばき切ったことになる。それも、たった《二人》で。

 俺は今も続いているだろう間抜け面を慌てて直すと、あははと苦笑いする。

 三十体のコボルドを二人だけで捌ききったということは、どう考えても相当な実力を持っていると伺える。もしかしたら近い未来、この二人も最前線で攻略を行うプレイヤーに成りえるかもしれない。

 

「……聞いたところ二人ともすごく強そうだし、第一層ボス戦に参加する予定はあるの?」

 

 先ほど駆け出してきた道を引き返しながら尋ねると、黒髪の女性は小さくうなずいた。

 

「ええ。顔は出してみようかと思っています」

 

「そっか。実は俺も参加する予定なんだ。その時はよろしく頼むよ。まあ、ボス部屋が見つかればの話だけどな」

 

 再びあははと、小さく笑うと後ろで息を呑む気配を感じ、振り返る。そこには案の定、少々驚いた表情をした二人の女性が見て取れた。

 今の発言はまずかったのだろうか。確かによくよく考えれば、初対面の人にいきなり『よろしく頼む』なんて言われても困惑するだけだ。もしくは新手のナンパかと、勘違いされたかもしれない。最近の女子は、そういうのに敏感だと親父から聞いたことがある。

 慌てて弁解しようとした俺に黒髪の女性は小首をかしげながら口を開いた。

 

「あの……第一層ボス部屋ならもう見つかっていますよ?」

 

「……え?」

 

「今日の夕方、ここから最寄りの《トールバーナ》で第一層フロアボス攻略会議が開かれるんですけど、そのことを仰っていたんですよ……ね……?」

 

「…………」

 

 最後に歯切れが悪くなったのは、おそらく俺の表情から状況を察したからだろう。俺の二回目の間抜け面は、『イッタイナニヲイッテイルノ』と言っているも同然な表情だった。

 そう。俺はまったく知らなかったのだ。ボス部屋が発見されたことも。今日の夕方、ボス攻略会議が開かれることも。

 黒髪の女性は、俺の表情が停止していることから完全の状況を把握したのか、おろおろと俺をフォローする言葉を探しているようだった。それはそれで、悲しい。

 心の中が、ありがたいような虚しいような、妙な気持ちに包まれる。すると、突然クスッと、小さな笑い声が耳に入り込んできた。そちらの方向へ顔を向けると、俺の状況に対してなのか、俺の間抜け面に対してなのか――おそらく後者――わからないが、口を手で覆いながら少女が小さく笑っていた。

 おそらく姉であろう黒髪の女性は「こら!」と小さく叱咤するが、少女の笑いは止まらない。遂には腹に両手を押さえて、しゃがみ込んでしまった。

 

(こいつ……笑いすぎだろ……!)

 

 心の中で文句をあれこれ言うが、俺は自称紳士なため表には出さない。

 やがて、ようやく心に平穏が戻ったのか、「ごめんなさい」と小さく謝ってきた少女に「別に気にしてないよ」と、心とは真逆のセリフを口にしながらと手を差し伸べる。

 正直、少し強めに握ってやろうか、と考えたが、敏捷値にガン振りしている俺の筋力値では、おそらくバランスよく振っているであろう少女にとって、あまり効果がない。表向きには紳士的に対応し、心の中で愚痴る方が俺の精神面的にいいかもしれない。

 

「ありがとうございます」

 

 少女は迷いなく俺の手を取る。しかしその瞬間、思いもよらぬ激痛が脳内を電流のごとく流れ、俺は小さく顔をしかめる。 

 おそらく睡眠を最小限にし、バカなレベリングを行っていた無理がたたったのかもしれない。一瞬の激痛から回復した俺は、今の状況を思い出し、はっとする。

 

「あ……」

「え……?」

 

 俺と少女の声が重なる。

 俺の足には先ほどの頭痛により少女を支える力を失い、少女の引く力に逆らわず、足の角度が八十度強に達していた。それに対して少女は、完全に俺を頼りにしていたため大きく体勢を崩してしまう。

 比較的反射神経がいいであろう俺は、いつもならここまで体勢を崩しても足を踏み入れ立て直すことができる。だが、今回は目の前に少女がいるため、足を踏み出すわけにはいかない。

 あらゆる回避パターンを即行で脳内に組み立てた俺だったが、最終的に『何をしても無駄』という結論に至ってしまった。やれることは、『できるだけ少女と触れ合わないような倒れ方をする』ぐらいだろう。触れ合う面積が大きければ大きいほど、ハラスメント行為としてシステムに認識される可能性が高くなる。もしそうなり、被害者がyesボタンを押せば俺は間違いなく、この世界の牢獄《黒鉄宮(こくてつきゅう)》に強制送還されてしまう。それは何としてでも避けたい。

 

 

 意地の執念が神様に届いたのか、俺の右手は何とか地面を捉え、少女に覆いかぶさることは回避することができた。しかし、利き手の右手しか意識を送ることができず、左手の行方は分からない。

 まあうまい具合に少女と腕の間についているであろう、と右手が地面に接したときに思っていた。そう。左手が、『何か』を捉えるまでは。

 

 

 くにゅ。

 そう表現していいのかどうかわからないが、俺の左手が捉える物体はずいぶん柔らかい。友人の頬をつねた時と似ているようで違う感触だ。

 その感触に似ているものが思い浮かばない俺は、もう二、三度物体をつかむ。『つかむ』というより、『揉む』と表現した方が正しいかもしれない。二、三度揉むと、頭の中に疑問が浮かび上がる。

 

(ん……? 揉む? ……揉むって、何を? 迷宮区の道に、こんな好ましい感触があるわけが…………まさか……!?)

 

 俺は眼を見開くと、すぐさま視線を右手から左手へ移行させる。左手の着地点は、俺の予想を大きく裏切るものだった。

 慎ましくも確かにその存在を主張する柔らかいもの。それは女性の――

 

 

 俺はガガガガ、と音の出そうな動きで少女のほうへ顔を向ける。

 少女の目元は少し潤んでおり、頬小さく赤らめ、唇がワナワナと震えていた。

 

「なっ……なっ……」

 

「7?」

 

 うん。この返しは、まずいと思っていた。頭の中ではわかっていた。だが、不思議と声に出てしまっていた。

 少女は俺の返答に耳もくれず思い切り歯を食いしばると、叫びと共に鉄拳を俺の顔面に浴びせる。

 

「変態っ!!」

 

 『な』から始まんないんかい! と心の中でツッコミながら、二メートルほど吹っ飛ばされる。

 先ほどの頭痛とはまた違った痛みを感じながら、すぐさま上半身を起こすと両手を胸元で交差させ、キッと睨みつけてくる少女と目が合う。そして、俺が弁解する前に敵対心をむき出しにしながら少女が先に口を開いた。

 

「バカッ! 変態ッ! ストーカーッ! さっきのはやっぱりこういう意味で…………変態変態変態~!!」

 

(一瞬で『紳士』から『変態』に成り下がったぁぁぁぁ!!?)

 

 心の中で自分に驚愕すると、すぐさま立ち上がる。

 早く弁解しなければ非常にまずい事態になってしまう。いや、もうなっているが……。

 

「いや、今のは完全な不可抗力だ。断じて故意でやったわけじゃない! ……確かにいい感触だったけど……決してやましい気持ちで何度も揉んだわけじゃないんだ! 信じてくれ!」

 

「も、『揉んだ』って言うなぁ~!!」

 

 ギャーギャーと身に覚えのない文句まで言い出す少女と、必死で弁解する俺。そのやり取りを黒髪の女性は微笑ましく見守っていた。

 

 

 

 




ようやくヒロインたち? が登場しましたね。
相変わらず主人公同様、名前が出ていませんが(笑)
あともう少しですよ!(小声


ところで、ラッキースケベって実際に発生するものなのでしょうか? 
実際に遭遇してしまったらおそらく私は笑ってしまうかもしれません。そしてそれを見られ、警察沙汰になり留置所送りに…………なりませんよっ!? そんなつまらないことで、御用となるのは勘弁です(笑)

何がともあれ、これからもこの作品をよろしくお願いします!
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