「だから、誤解だってば」
「うっさい変態。話しかけないでくれませんか変態」
「だかr……」
「変態……変態」
(変態変態うっせぇぞこのクソアマァァ!!)
もはや語尾が変態になっている少女の文句を背中に浴びながら、《トールバーナー》へと足を運ぶ。後ろには相変わらず、黒髪の女性と茶髪の少女がついてきており、黒髪の女性が少女を叱咤する絵は十分前から変わらない。そして、汚物を見るような視線とともに延々と文句を言い続ける少女の絵も。
全国の変t……マニアックな方々に失礼だろ! とツッコミたいのだが、さして俺に向けられる視線は変わらないだろう。人懐っこそうな少女が、あのような事故から驚くべき程に豹変してしまった。女性を外見と雰囲気だけで判断してはいけない、親父の言ってたことがここにきて立証されるとは……これからは気を付けようと思う。
俺は先ほど殴られた右頬に手を当てる。HPが減らない程度の力で殴られたが、思いのほか小さい痛みが発生している。
結局、充分ハラスメント行為に抵触していたであろう俺の行為は、何故か認識されることはなかった。おそらくシステムが、被害者側プレイヤーの思考を認識し、行為として成立させるか否かを決めているのだろう。まったくわからないが。
(もしそうなら、内心は嫌がってなかったってこt…………いや、それはあり得ないな)
自分にとって都合のいい解釈を切り捨てると、メインメニュー・ウインドウを開き、現在の時刻を見る。
午後三時半。黒髪の女性から聞いた限り、第一層フロアボス攻略会議が開かれるのは午後四時からだ。トールバーナーにはあと十分ほどで着くため、ぎりぎり参加することができるはずだ。
「おっ、見えてきたぞ」
そう声をかけると女性プレイヤーたちは、視線を俺の先に移す。巨大な風車塔、それがトールバーナーの目印だ。
トールバーナーの北門にたどり着くと、二人の女性は立ち止まり、メインメニュー・ウインドウを開き始める。俺が疑問を含んだ眼差しを向ける中、二人の女性はウインドウを操作していき、ウインドウを閉じる頃には二人とも武器類を完全にストレージにしまい込んでいた。そして、武器の代わりにフード付きのマントを装備し始める。戦闘では邪魔になるから外していたのだろう。
身なりが軽くなった――といっても、茶髪の少女は片手剣。黒髪の女性は細剣をしまいマントを装備しただけ――二人は、俺に視線を向けると「行きましょう」と言って、北門をくぐる。もちろん俺に対する少女の視線は相変わらずのため、主に黒髪の女性のことを指している。
(絶対俺の印象最悪だよな。姉のほうは満更でもない気がするけど……なんかいろいろと気まずい……)
ため息をつきながら二人のプレイヤーの後ろをついていく。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
四十七人。
それが、第一層フロアボスを倒すべくトールバーナの噴水広場に集ったプレイヤーの総数だ。人数的には上々だろう。
このSAOでは一パーティが最大六人、それを八つまで合わせて、計四十八人の
「思った以上に多いですね」
右隣で黒髪の女性がつぶやく。
どうやら彼女は少数人数でフロアボスに挑むことを覚悟していたようだ。正直、俺自身もそれを覚悟していた。
この世界の今のところ、一番危険な場所へ赴くのだ。おそらくこの中には俺を含め、第一層フロアボスの姿かたちを知らないプレイヤーも少なくないはず。そんな相手に堂々と戦える肝の据わったプレイヤーがこの世界に何人いるのだろうか。ほとんどの者は恐怖心を抱き、畏縮するはず。それでもこの場に来たということは、それほど現実世界へ戻りたいという気持ちが強いということだ。
「ま、立って聞くのもなんだし、とりあえず座ろうぜ」
「はい」
「なんであんたと一緒に座らないといけないのよ」
茶髪の少女が愚痴をこぼす。
確かによくよく考えれば、彼女たちと行動していたのはトールバーナまで安全にたどり着く、簡単に言えば護衛のような立ち位置だ。目的が達成された今、彼女たちと行動する理由がない。
「そういえばそうだな。じゃ俺は向こうのほうへ行くわ」
「あ、あの……」
彼女らから離れようと振り向いた俺の背中に、控えめな声がかけられる。
「……?」
「あの、よかったら、パーティを組みませんか?」
「え?」
いきなりの誘いに思わず目を丸くする。しかし、すぐにその理由が分かった。
この場に集まっているのは四十七人。レイドを完成させるためには、少なくともあと三人見ず知らずの人とパーティを組まなければならない。いくらゲームとはいえ容姿は現実世界と同じなのだ。まったく知らない人よりも、少しでも知っている人と行動したほうが気持ち的に楽なのだろう。俺自身もできればそっちのほうがありがたい。
「リナもいいわよね?」
「うっ……わかった」
リナと呼ばれた茶髪の少女は渋面を作ったが渋々了承する。どんだけ嫌われてんだよ、と少々悲しくなるが彼女たちとの関わりもこのボス攻略戦だけだ。これが終わり第二層へ行くことができれば、俺はまたソロに戻るだろう。誰よりも強くなるためには、危険だがソロのほうが効率がいいのだ。
(誰よりも強くなった自分を恨んでんのに、結局誰よりも強くなりたいと願ってしまっている。皮肉なもんだな……)
思わず苦笑すると、目の前にウインドウが出現する。パーティ参加申請だ。
ウインドウには、〖Kanaからパーティに誘われています。〗という文字と〖Yes No〗ボタンが並んでいる。どうやら黒髪の女性の名前はカナというらしい。現実世界離れした名前ではないことから、俺と同じように本名をプレイヤーネームにしているのかもしれない。
ゆっくりと〖Yes〗ボタンを押すと、視界左側に新たなHPゲージが二つ出現する。一番上はもちろん俺のHPゲージだ。HPゲージのすぐ下に〖Akito〗という名前が小さく表示されている。その下に、黒髪の女性〖Kana〗のHPゲージと、茶髪の少女〖Rina〗のHPゲージが順に並んでいる。
それを確認したのと同時に、パン、パンと手をたたく音が聞こえ、よく通る叫び声が広場に流れた。
「はーい! それじゃ、五分遅れだけどそろそろ始めさせてもらいます! みんな、もうちょっと前に……そこ、あと三歩こっち来ようか!」
堂々たる喋りの主は、長身の各所に金属防具をきらめかせた片手剣使いだ。広場中央にある噴水のふちに、助走なしでひらりと飛び乗る。あの装備であの高さをワンジャンプとは、筋力・敏捷力ともに相当高いだろう。敏捷力ばっか振っている俺はあの程度の高さをワンジャンプで上ることぐらい容易いが、その装備を付けてジャンプするとなると話が変わる。まず、ジャンプ愚かその場から一歩動くだけでも相当な体力を消費するだろう。
筋力値もうちょっと上げようかなと悩みながら、片手剣使いを眺めていると、その片手剣使いが勢いよく振り向いた。それを見たこの場にいる数人が小さくざわつく。俺も目を丸くしていた。その理由は彼が原因だ。
「うわっ、すごいイケメン……」
「そうね」
どうやら隣の二人もびっくりしているらしい。
そう。この場にいる四十七人の視線の先にいる片手剣使いの男は、何故こんな奴がVRMMOをやっているのか、と思わずにはいられないレベルのイケメンなのだ。もし俺が女性だったら、一瞬でメロメロになるかもしれない。いや、ないな。
変なことを考えていると、片手剣使いはこれまた爽やかな笑顔を浮かべると口を開く。
「今日は、オレの呼びかけに応じてくれてありがとう! 知っている人もいると思うけどお、改めて自己紹介しとくな! オレは《ディアベル》、職業は気持ち的に《ナイト》やってます!」
すると噴水近くの――おそらくディアベルのパーティメンバーだった――一団がどっと沸き、口笛や拍手に交じって「ほんとは《勇者》って言いてーんだろ!」などという声が飛んだ。
確かに見た感じ性格がよさそうなディアベルなら《勇者》になれるかもしれない。まあSAOには、システム的な《職》があるとは聞いたことがないため、《騎士》や《勇者》を名乗ろうが個人の自由だ。
「さて、こうして最前線で活動している、言わばトッププレイヤーのみんなに集まってもらった理由は、もう言わずともわかると思うけど……」
ディアベルはさっと右手を振り上げ、街並みの彼方にうっすらとそびえる巨塔《第一層迷宮区》を指示しながら続ける。
「……今日、オレたちのパーティが、ようやく第一層ボス部屋を発見した!」
どよどよ、とプレイヤーたちがざわめく。どうやら、カナの言っていたことは本当だったらしい。まあそもそも人柄のよさそうな彼女を疑ってはいなかったが。
「一ヵ月。ここまで、一カ月もかかったけど……それでもオレたちは、示さなきゃならない。ボスを倒し、第二層に到達して、このデスゲームそのものもいつかきっとクリアできるんだってことを、始まりの街で待っているみんなに伝えなきゃならない。それが、今この場所にいるオレたちトッププレイヤーの義務なんだ! そうだろ、みんな!」
再びの喝采。
今度はディアベルの仲間たち以外も、彼に拍手を送るプレイヤーがいた。俺も思わず彼に拍手を送っている。
今までバラバラだった最前線のプレイヤーたちをまとめ、この世界から脱出することを最優先にしている彼を非難する者などいないだろう。先ほどの冗談は撤回しよう。彼はこの世界の《勇者》に相応しい人間だ。このイケメンは性格もイケメンらしい。
「ちょお待ってんか、ナイトはん」
歓声の中、そんな声が低く流れた。
今回はちょっと短いです。申し訳ありません。
何がともあれ、ようやく! 主人公たちの名前が出ました!
え? 普通すぎ? その普通がいいんですよ! 普通って素晴らしい!!
……すいません、取り乱しました。
今回は原作とはちょっと違う設定にしています。まあ、本当に気にならない程度の違いですが。それが分かった方は、ソードアート・オンラインのプロフェッショナルですね!(笑)
ちなみにラ行が名前の始めに来る人のローマ字表記は、RとLのどちらでもいいらしいですよ。パスポートの場合はRでないと外務省が受け付けてくれないらしいですが。
そう考えるとRが正しいような気がしますね。それが理由で、リナを〖Rina〗にしました。個人的には〖Lina〗のほうが好きなんですけどね(笑)
というわけで次回はサボテンが出てきます(笑) お楽しみに!
これからもこの作品をよろしくお願いします!