ソードアート・オンライン~運命を穿つ者~   作:エンジ

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第六話 サボテン頭と少女たちの再会

 

 

 一人の男の一声により、トールバーナーの端まで聞こえそうな大きな歓声がぴたりと止まる。それに伴って、前方の人垣がふたつに割れた。その空隙の中央に小柄ではあるががっちりとした男が立っていた。どうやら先ほどの声の主はこの男のようだ。

 俺の位置的に顔までは見えない。だが今の俺には、その声主の顔よりもさらに気になっていることがあった。

 

(あれって……サボテン、だよな……)

 

 本人に聞けば十中八九、サボテンではない、と答えるだろう。だが、彼の髪型は誰にどう聞いても「サボテンヘアーじゃん」と答えるはずだ。それほど彼の髪は尖っているのである。

 サボテンヘアーは二つに割れた集団をちらりと見ると、そのまま一歩踏み出しながら口を開いた。

 

「そん前に、こいつだけは言わしてもらわんと、仲間ごっこはでけへんな」

 

 どうやらイケメン勇者の意見に不満があるらしい。いや、「仲間ごっこはでけへんな」と言っているということは、少なくともこのボス攻略に参加する気でここに来たのだろう。問題は、彼が『言いたいこと』だ。

 ディアベルは唐突な乱入に動揺する様子を見せず、それどころか笑顔のまま手招きをしながら口を開いた。

 

「こいつっていうのは何かな? まあ何にせよ、意見は大歓迎さ。でも、発言するならいちおう名乗ってもらいたいな」

 

「…………フン」

 

 サボテンヘアーは盛大に鼻を鳴らすと、大きく前に進み出て、噴水の前に達したところで勢いよく振り向いた。

 

「わいは《キバオウ》ってもんや」

 

 なかなか思い切ったキャラネームだ。名前だけで勇猛さが感じられるほどだが、このSAOにはおそらくこの名前よりも数倍迫力のあるプレイヤーネームをつけているプレイヤーも少なくはないはずだ。

 キバオウはこの場に集まっている一同を睥睨し始める。たっぷりと時間をかけて見渡し終えると、キバオウはドスの利いた声で言った。

 

「こん中に、五人か十人、ワビぃ入れなあかん奴らがおるはずや」

 

「詫び? 誰にだい?」

 

 背後で噴水の縁に立ったままの《ディアベル》が、様になったしぐさで両手を上げる。そちらを見ることなくキバオウは吐き捨てた。

 

「はっ、決まっとるやろ。今までに死んでいった二千人に、や。奴らがなんもかんも独り占めしたから、一か月で二千人も死んでしもたんや! せやろが!!」

 

 キバオウが言い終えるのと同時に隣で息をのむ気配が伝わってきた。とっさに隣に顔を向けるが、フードに隠れていて顔はよく見えない。

 気のせいか、と視線をゆっくりキバオウに向ける。

 先ほどまで低くざわついていたプレイヤーたちはいつの間にか押し黙っていた。おそらくキバオウが何を言おうとしているのか理解しているのだろう。俺にはまったくわからないが。

 重苦しい沈黙の中、NPC楽団が奏でるBGMがこの噴水広場をやさしく包み込む。その間、俺はずっとキバオウが言う《奴ら》について考えていた。

 

 

 《奴ら》と言っている時点で複数いることが分かる。それに加え、この場に《五人か十人》いるという情報をもとに、標本調査で計算するとSAO全プレイヤーの約一割、1000人ほどいるということになる。

 女性プレイヤーの人数だろうか。いや、それでは《死んでいった二千人》に謝る理由がない。それに女性プレイヤーが1000人もいるとは考えられない。

 

(1000人ほどいる《奴ら》が《独り占め》したから《二千人が死んだ》……)

 

 そこまで考えてようやく《奴ら》の正体を理解した。

 

「ああ……βテスターのことか!」

 

 思わず手を打つ。

 だがすっきりしたというのに、妙に心地よくはない視線が俺に集まっているのを感じ、周りを見渡した。隣に座っているカナとその先にいるリナは、ぎょっとしながらこちらを見ている。それを見て眉をひそめながらもう一度周りを見渡して、ようやく今の状況を思い出した。

 

 

 先ほどまでプレイヤーたちが黙っていたのは、何かを言えばその《奴ら》の一員だと思われる恐れがあったからだ。そんなことも知らずに俺は口を開いてしまった。

 正直、自分的にはあまり大きな声で言ったつもりはなかったのだが、誰もが神経を研ぎ澄ましている重苦しい沈黙に加え、疑問を解決した喜びが悪い方向でマッチし、聞かれてしまったようだ。何故こんなにも運が悪いのだろうか。

 

 何を言われてもいいように心の中で覚悟しながらじっと成り行きを待つ。だが、思いのほかキバオウは俺を一瞥しただけで、そのまま話をつづけた。

 

「そうや。ベータ上がりどもは、こんクソゲームが始まった日にダッシュで始まりの街から消えよった。右も左もわからん九千何百人のビギナーを見捨てて、な。奴らはウマい狩場やボロいクエストを独り占めして、ジブンらだけぽんぽん強うなって、その後もずーっと知らんぷりや。……こん中にもちょっとはおるはずやで、ベータ上がりっちゅうことを隠して、ボス攻略の仲間に入れてもらお考えてる小狡い奴らが。そいつらに土下座さして、貯め込んだ金やアイテムをこん作戦のために軒並み吐き出してもらわな、パーティメンバーとして命は預けられんし預かれへん!」

 

 キバオウに対して声を上げる者はいない。

 確かにキバオウの言っていることは筋が通っている。ベータテスターやある程度情報を持ったプレイヤーたちが、しっかりビギナーたちにレクチャーをしていれば、0とはいかないにしても、《一ヵ月で二千人》という犠牲者を出さずに済んだかもしれない。

 だが、その《二千人》の犠牲者の中にベータテスターは何人いただろうか。キバオウが言うように全員が全員ぽんぽん強くなっていったはずはない。もし仮にそうならば、この場にはもっと大勢のプレイヤーが集まっていたはずだ。

 

 

 しかし、現状はどうだろうか。一レイドも組むことができない人数しか集まらなかった。もちろん死にたくないからこの場に集まらなかったベータテスターもいるだろう。だが、キバオウが言うような小狡いことを考えるような奴らなら、ボスを倒して出現するレアアイテムを見逃すはずはない。

 それに加え、ボス戦に参加しないのなら何故危険を冒してまでレベルを上げる必要があるのだろうか。生き残るためなら、二、三レベル上げて、《始まりの街》の周辺でPoPする雑魚モンスターを狩って、その金でパンや水を買えばいい話だ。そのぐらいのことは簡単に考えられるだろう。

 

 

 なら、何故この場に大勢のプレイヤーが集まらなかったのか。

 答えは簡単。『ベータテスターの大半がボスに挑戦できるほどレベルが上がっていない』だ。

 ということは、一部のベータテスター以外のベータテスターとビギナーにはほとんど差がないことになる。

 そう考えると、死んだ二千人の中にベータテスターも大勢含まれていたはずだ。もちろん決定的な証拠はないが、ありえない話ではない。むしろ、相当あり得る話だ。

 だからキバオウの言っていることは、筋は通っているが正しいとは言えない。

 俺は思わずため息をつくと、同時に張りのある声が噴水広場に響き渡った。

 

「発言、いいか」

 

 声の方向へ顔を向けると、人垣の左端あたりからぬうっと進み出るシルエットが見えた。そして目を見開く。

 

(めっちゃ大きい……)

 

 そう。先ほどの声の主は大きいのだ。見た感じ、身長は百九十ほどあるだろう。

 頭は完全にスキンヘッドで、肌はチョコレート色。正直、正面で対面したら、迫力だけで尻餅をついてしまうかもしれない。

 巨漢は、四十数人のプレイヤーに軽く頭を下げると、猛烈な身長差のあるキバオウに向き直った。

 

「オレの名前はエギルだ。キバオウさん、あんたの言いたいことはつまり、元ベータテスターが面倒を見なかったからビギナーがたくさん死んだ、その責任を取って謝罪・賠償しろ、ということだな?」

 

「そ……そうや。あいつらが見捨てへんかったら、死なずに済んだ二千人や! しかもただの二千人ちゃうで、ほとんど全部が、他のMMOじゃトップ張ってたベテランやったんやぞ! アホテスター連中がちゃんと情報やらアイテムやら金やら分け合うとったら、今頃はここに十倍の人数が……ちゃう、今頃は二層やら三層まで突破できとったに違いないんや!!」

 

 ――それはあり得ないな。

 と思わず出そうになった言葉を慌てて飲み込む。

 正直、現状でこれなのだ。ビギナーを見捨てた結果、ぽんぽん強くなっているはずのベータテスターが十人ほどしか集まっていないのだ。

 単純に考えると、キバオウが言うようなことをやって今頃二層や三層へ到達できているのなら、この現状ならその倍は到達できているだろう。

 これはあまり思いたくないのだが、現状がトップ集団の平均レベルが最も高いはずだ。こんな状況でさえ、第一層に一ヵ月もかかっている。キバオウのやり方であったら、さらに何日かかかっているかもしれない。

 

 

 俺には何が正しくて何が間違っているのかわからない。

 このデスゲームが始まった一ヵ月前、その時の俺が一人で行動せず誰かとパーティを組んで行動していたら、ここに集まる人数が違ったかもしれない。先ほど、カナとリナを助けなければまた違ったかもしれない。

 結局のところ、俺たちは様々な選択をして『今』があるのだ。

 それを今になって、ああすればよかったのだのこうすればよかったのだの、後悔しても何も出てくることはない。

 今大切なのはこの先どう選択をしていくかだ。

 

「あんたはそう言うが、キバオウさん。金やアイテムはともかく、情報はあったと思うぞ」

 

 そう言ったエギルは、腰についた大きなポーチから小さな本アイテムを取り出す。見たことがないアイテムだ。

 

「このガイドブック、あんただって貰っただろう。ホルンカやメダイの道具屋で無料配布してるんだからな」

 

(え……まじで? 俺、持ってないんだけど……)

 

 念のため隣の少女たちへ顔を向ける。

 カナは俺の視線に気づくときょとんと目を丸くする。そのまま数秒間見つめ合うと、俺が言いたいことを察したのか、ゴソゴソと懐をまさぐり、エギルと同じように一冊の小さな本アイテムを取り出した。表紙には鼠のマークが図案化されている。

 

「私とリナも貰いました。アキトさんは……その様子だと貰ってなさそうですね」

 

 クスッと笑うカナを見て、俺は渋面を作る。

 カナにそのガイドブックを貸してもらい、パラパラと中を適当に眺める。中身は、詳細な地形や出現モンスター、ドロップアイテムやクエスト情報まで網羅されていて、『SAO第一層攻略本』といっても過言ではないほどの細かい情報が記載されている。

 正直この一ヵ月間、効率のいいレベリングの方法しか考えておらず、モンスターの情報などまったく気にしていなかった。

 口をあんぐり開けた俺を見て、カナの隣に座るリナは小さく噴き出す。

 

「よく今日まで生きてこれたわね。どんだけ戦闘バカなのよ」

 

「戦闘バカじゃねえよ。効率厨と言いなさい」

 

「ほぼ同じじゃない」

 

「うぐっ……」

 

 それを聞いて言葉が詰まる。

 残念ながら、今回の話題にはこちらに勝算はない。彼女の言っていることは事実であり、うまくいなしても結局は『戦闘バカ』にたどり着いてしまう。

 完全に開き直り、あーはいはい、と適当に返事をすると、この話題を強制的に終わらせると、ちょうどエギルたちの話が再開したので、そちらに顔を向ける。

 

「―――貰たで。それが何や」

 

「このガイドは、オレが新しい村や町に着くと、必ず道具屋に置いてあった。あんたもそうだったろ。情報が早すぎる、とは思わなかったのかい」

 

「せやから、早かったら何やっちゅうんや!」

 

「こいつに載ってるモンスターやマップのデータを情報屋に提供したのは、元ベータテスターたち以外有りえないってことだ」

 

 プレイヤーたちが一斉にざわつく。

 確かにそうだ。町に到着して、その街の全容と周辺フィールドに出現するモンスターを調べるには一日二日じゃできるはずがない。つまり、事前に知って(・・・・・・)いなければ早々道具屋に置いてあるはずはないのだ。そしてそれが可能なのは、一度SAOを経験しているベータテスターたち以外ありえない。

 エギルは視線を集団に向けると、よく通るバリトンを張り上げた。

 

「いいか、情報はあったんだ。なのに、たくさんのプレイヤーが死んだ。その理由は、彼らがベテランMMOだったからだとオレは考えている。。このSAOを、他のタイトルと同じ物差しで計り、引くべきポイントを見誤った。だが今はその責任を追及している場合じゃないだろ。オレたち自身がそうなるかどうか、それがこの会議で左右されると、オレは思ってるんだがな」

 

 キバオウは何か言いたげな瞳でエギルをにらみつけるが、エギルの言っていることが真っ当すぎてるからか黙ったままだ。

 無言で対峙する二人の後ろで、噴水の縁に立ったままのディアベルが、夕陽を受けて紫色に染まりつつある長髪を揺らしてもう一度頷いた。

 

「キバオウさん、君の言うことは理解できるよ。オレだって右も左もわからないフィールドを、何度も死にそうになりながらここまで辿り着いたわけだからさ。でも、そこのエギルさの言うとおり、今は前を見るべき時だろ?元ベータテスターだって……いや、元テスターだからこそ、その戦力はボス攻略のために必要なものなんだ。彼らを排除して、結果攻略が失敗したら、何の意味もないじゃないか」

 

 さすがは勇者様。見事な弁舌だ。聴衆の中にも深く頷いているものが何人もいる。元テスター断罪すべし、という雰囲気はだんだん消えていく。

 さすがのキバオウも引きどころは弁えているのか、「ここはあんさんに従うといたる」と言ってエギルとともに元いた場所に戻っていく。

 

「よし、それじゃあ会議を再開させてもらうよ」

 

 パンパン、とこの場に流れていた微妙な空気を一蹴するように手をたたくと、凛とした声が響き渡った。

 思いもよらなかった乱入に早くも解散を匂わせる攻略会議だったが、エギルとディアベルの機転で何とか持ち直すことができた。さすがにもう横やりは発生しないだろう。

 

「まずは、仲間や近くの人とパーティを組んでみてくれ! レイドの形を作らないと役割分担ができないからね」

 

 ディアベルの言葉にこの場が再び騒めきだす。最も、今回の騒めきは動揺などの類ではなく、お互いにパーティの勧誘などのようなものだ。

 人数は合計四十七。六人パーティが七つと五人パーティが一つという計算になる。

 こちらはすでに三人パーティが出来上がっているので、ボス戦に参加するためにはあと二人か三人をパーティに引き入れなければならない。

 

 

 そう考えているうちに、前のほうに集まっていたプレイヤーたちが早々とパーティを組みはじめ、あっという間に七個の六人パーティが出来上がってしまった。つまりこの場には、俺たちのほかに二人、プレイヤーが余っているということになる。

 あたりを見渡すとすぐ見つけることができた。

 ちょうど俺たちと反対側に座っている二人のプレイヤー。一人は男性プレイヤーと当目からでもわかるが、もう一人は、カナやリナと同じようにフード付きのケープを羽織っているため性別はわからない。だが、二人の距離的にあちらはあちらでパーティができているのだろう。

 

「じゃあ俺はあっちの二人を誘ってくるな」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 わざわざお礼を言ってくるカナに、気にするなと一言いうと、その二人のもとへ向かう。

 残り五メートルほどで男性プレイヤーのほうが俺の存在に気付くと、そのプレイヤーにそのまま声をかける。

 

「えーっと、よかったら……と言ってもこの様子じゃ、パーティを組んでもらえないとボス戦に参加できないわけだけど……パーティを組まないか?」

 

「あ、ああ。ありがとう。ちょうど余ってるところがないか探していたところなんだ。二人なんだけど、大丈夫かな?」

 

「ああこっちも三人だから大丈夫だ。じゃあ今から申請するな」

 

 俺はそのまま視界に表示されている二人のカラー・カーソルに触れるとパーティ参加申請を出す。

 二人のプレイヤーは慣れた手つきでYesボタンを押すと、視界左側に新たな二つのHPゲージが出現する。どちらがどちらの名前なのかわからないためとりあえず目の前の男性プレイヤーに自己紹介をする。

 

「俺はアキト。呼び捨てでも構わないよ。よろしくな」

 

「俺はキリトだ。こっちも呼び捨てで構わない。よろしく」

 

 キリトと名乗るプレイヤーは、よくよく見ると中性的な顔立ちをしており、女性と間違われてもおかしくはないだろう。

 幼いころに大変な思いをしてそうだな、と心の中で思いながら握手するために手を出す。キリトは迷うことなく俺の手を取った。

 

「向こうであと二人のパーティメンバーがいるんだけど、どうする? 向こうまで移動するか?」

 

「……そうだな。パーティ内での役割分担もあるし、そっちに移動するよ」

 

「了解」

 

 カナとリナの元へ戻るために踵を返すと、後ろから二人の足音が聞こえてくる。

 先ほどの男性プレイヤーの名は〖Kirito〗。となると必然的にフード付きケープを装備しているプレイヤーが〖Asuna〗という名のプレイヤーになる。名前からして女性プレイヤーだろうか。もしくは女性アバターでこの世界に参戦した残念なプレイヤーなのだろうか。よくわからないが、余計な詮索はマナー違反だろう。

 カナとリナのもとにたどり着くと、カナが二人に軽く自己紹介を始めた。

 

「私はカナ。こちらはリナと言います。よろしくお願いします」

 

 顔を見せないで自己紹介はマナーが良くないと感じたのか、顔が見えるようにフードを後ろへ寄せる。

 

「……え?」

 

 すると先ほどまで無言だったAsunaというプレイヤーが、驚きの声を上げる。

 その場にいた四人の視線がAsunaに集中するが、それを気にも留めないようにカナの目の前に立つと少し震えた声を出す。

 

「本当に……カナとリナなの……?」

 

「えっと……はい、そうです」

 

 いきなり詰め寄られ、動揺するカナだったが、Asunaは慌ててフードをたくし上げる。

 

「私よ! アスナ!!」

 

「アスナ!?」

「アスナお姉ちゃん!?」

 

 カナとリナの声がかぶる。どうやら三人は知り合いのようだ。

 俺とキリトは顔を見合わせると、感動の再開は後回しにしてもらうために口を開く。

 

「感動の再開のところ悪いんだけど、今は会議を優先にしないか?」

 

「あ……ええ、そうね」

 

 アスナは静かに答えると、カナの隣に座り込む。俺とキリトは三人から一メートルほど離れたところで座り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は午後六時半。ボス攻略会議が終わってから三十分ほど経った今、俺たちは噴水広場から少し離れたところで集まっていた。

 

 

 《勇者》ディアベルの作戦は実に見事なものだった。

 出来上がった七つの六人パーティーを検分し、最小限の人数入れ替えを行うとその七つのパーティを目的別の部隊へ編成しなおしたのだ。重装甲の壁部隊が二つ。高機動力高火力の攻撃部隊が三つ。そして長モノを装備した支援部隊が二つ。

 壁部隊はボスのタゲを交互に受け持ち、火力隊は二つがボス攻撃専門、一つが取り巻き殲滅優先。支援隊は長柄武器に多く設定されているらしい行動遅延スキルをメインに使い、ボスや取り巻きの攻撃を可能な限り阻害する。俺たち五人パーティーは、取り巻き殲滅優先のE隊のサポートだ。

 

 

 正直なところ完璧な作戦だろう。もちろん不服がないわけではない。俺たちの役割は取り巻き殲滅の《サポート》。つまり、ボスへ攻撃することがほぼできないのだ。できたとしても、取り巻き殲滅後。戦闘の終盤だろう。

 だが俺たちの目的はあくまで《ボスを倒すこと》だ。ボスを倒すためには、取り巻きの存在が大きな邪魔になる。取り巻きを倒すことも十分ボス攻略へ貢献していることなのだが……

 

「はぁ……」

 

 約一名、いや正確には二名、不満の空気が体からにじみ出ている。

 

「リナもアスナもそんな顔しないの」

 

「だってぇ~」

 

「『だってぇ~』じゃないの。取り巻き殲滅だって、重要な役目でしょ?」

 

 カナにたしなめられるが、さすがは人を変態呼ばわりするひねくれた性格の持ち主か、ぶー、と唸り、納得はしていないようだ。

 そのやり取りを少し離れた位置で見ている俺とキリトは苦笑していた。

 

「さっきあの子に『変態』って言われてたけど……何かしたのか?」

 

「ああ……あれね。話せば長くなるような、ならないような……まあとにかくアレなんだよ」

 

「なるほどな……」

 

 キリトは何かを察したのか、それ以上は何も聞かなかった。

 俺は肩をすくめると、キリトと共に三人のもとへ歩き出す。

 

「今日はとりあえずここで解散するけど、大丈夫か?」

 

 いつの間にか俺がパーティーリーダーみたいになっているが、そんなつもりは毛頭ない。この場だけなら許してくれるだろう。

 

「ええ、わかりました。今日はありがとうございました」

 

「いや、こちらこそ教えてくれてありがとう」

 

 一言交わすと、三人のプレイヤーはおそらく自分たちの宿があるほうへ歩き出す。

 それを数秒見届けると、俺はキリトと共に町を歩き出した。

 

「どうする? 親睦を深めるために食事とかするか? こっちの誘いを承諾してくれたわけだし、どうせなら奢るぞ」

 

「そうだな。会議前に黒パンを食べたけどお腹がすいたから、お言葉に甘えるよ」

 

 黒パンとは一コルで購入することができる、値段の割には大きなパンだ。もちろん一コルという値段である通り、おいしいとは言えない。だが、何故かその食感にはまってしまった俺はほぼ毎日のように食べている。

 

「んじゃあの店にでも入るか。まあ入ったことがないからどんなメニューがあるかわからないけど」

 

「それもレストランに入る楽しみの一つだろ?」

 

「それもそうだな」

 

 俺は肩をすくめると、キリトと共に小さなレストランへと歩き出した。

 

 

 

 

 

 





中途半端に加え、長くて申し訳ありませんm(_ _)m
最近は忙しく、なかなか小説が書けない状況です。休日なら書けると思うのでおそらく遅くても一週間に一話は投稿できると思います。

これからもこの作品をよろしくお願いします!
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