やはり俺がボーダーに所属しないのはまちがっている。 作:犬ころ大佐
俺は今、マイホームで夏休みを満喫している。冷房の効いた部屋でするゲームは格別だ。
時刻はもう20時、少し前に玉狛合宿から帰って来たばかりだ。やっと俺の夏休みが
始まったのである。
合宿で既に宿題は終わらせたし、小町と宇佐美から四塚マリンワールドで何をしたか
という追及も上手くかわした。
もう当分、玉狛に行くこともないだろう。というのも最近平塚先生を見ない。
前はあれほど干渉してきたのに今となっては少し寂しさを感じるほどだ。
そんなことを考えているとスマホが鳴った。どうやら着信のようだ。
スマホを手に取り、相手を見る。
平塚静
噂をすればなんとやらだな。どうせ碌なことじゃないだろうが、久しぶりの先生からの
電話に少し安堵感を感じつつ電話に出る。
「もしもし」
『おお、比企谷、久しぶりだな。元気にしてたかね』
「ええおかげさまで。玉狛合宿で宿題も終わりました」
『それは上々だ。時に比企谷、君はパスポートは持っていたな?』
ん? またやばい話の流れになってる気がするぞ。
「一応、持ってますけどそれが何か?」
『出校日、学校が終わり次第SGCに行く予定だからそのつもりでな』
「は」
いやいやいやいや、SGCってアメリカじゃないですかやだあ。
平塚先生の話によると、最近先生はボーダーからの人材派遣という名目で、スターゲイト計画に参加してネイバーフッドに行っていたらしい。見ないと思ったらアメリカにいたんですか。
そこで今後の経験の為、俺と小町に安全を確認したネイバーフッドを案内したいとのこと。
まあ、安全って言うなら・・・・・・べ、別に行ってみたい訳じゃないんだからね!
『だからアメリカに行く前に、奉仕部での合宿を行うことにする。明日10時に海浜幕張駅に集合だ、いいな?』
「だからの意味が全くわかりませんし、玉狛合宿から帰ってきたばかりで疲れているのでお断りします」
ここにきて奉仕部でも合宿とか、マジで俺の夏休みがなくなる。本来、玉狛の合宿にさえ行くつもりはなかったのだ。玉狛、奉仕部、アメリカ・・・・・・スケジュール詰まりすぎだろ。
『ほう、断ると言うのかね? 四塚マリンワールドでは桐絵とずいぶん楽しそうにしてた
そうじゃないか・・・・・・私への当てつけか?』
いや"四塚"だからって"静"とかけてるわけじゃないですからね。そんな場所で遊んでる
リア充を殺したくなる気持ちは分かりますけど俺達は違いますからね?
『それはともかくだ、君が断ることを見越して戸塚を呼んであr――
「行きます。平塚先生、大変かとは存じますが合宿の引率、何卒よろしくお願い致します」
『あ、ああ・・・・・・』
俺は電話越しの平塚先生に頭を下げる。戸塚が来るなら早く言ってくれ。
やっと夏休みらしくなってきた、戸塚と合宿・・・・・・同じ部屋・・・・・・同じ布団で・・・・・・
「ぐふっ」
『ひ、比企谷?』
「なんでもありません。では準備があるので失礼します」
そう言って電話を切る。いかんいかん、あまりにも興奮して鼻血が出るところだった。
「ごみいちゃん・・・・・・なに一人でにやけてんの?」
うおっ、いたのか小町。いきなり話かけるなよ、ビクッてしちゃうだろ。
「別ににやけてない。それより明日から奉仕部の合宿に行くんだが・・・・・・」
そういえば小町を連れて行っていいのだろうか。奉仕部の合宿なら中学生の小町はダメなのか? 平塚先生が俺と小町を離れ離れにするとは思えないが、もし小町に留守番させるようなら俺はボイコットせざるをえない。
それに戸塚と小町の夢の競演・・・・・・すごく見たい。
「やっぱにやけてんじゃん!」
べしっと頭にチョップしてくる。
そこでふと小町を見る。小町が持っているのは玉狛合宿にも持って行った大きいバッグ。
「小町、奉仕部の合宿のこと聞いてたのか?」
「へ? お兄ちゃん聞いてなかったの? 玉狛支部に行く前に静さんから連絡あったよ?」
え、そんな前から決まってたの? なんで俺には前日連絡なの? カラオケの
予約じゃねえんだから。
ともかく小町と一緒に合宿には行けるなら問題はないな。
「そんなことより小町はもう寝るからね!お兄ちゃんが寝坊しても小町が起こしてあげるよ!あ、今の小町的にポイント高い!」
「おお、おやすみ」
小町に迷惑をかけるのは本意ではないため、俺も早く寝ることにしよう。
朝10時、遅刻することなく海浜幕張駅に俺達は居る。
「ヒッキー、小町ちゃん、やっはろー!!」
「結衣さん、やっはろー!」
だから小町ちゃん、その挨拶やめなさい。
由比ヶ浜の後ろには雪ノ下も居るようだ、相変わらず一緒に居るな。
「雪乃さんもやっはろー!」
「やっ・・・・・・こんにちは小町さん、比企谷君」
今、小町の挨拶に釣られそうになったろ。言えよ、その馬鹿っぽい挨拶。
まあ、それよりも―――
「由比ヶ浜、戸塚はどこだ」
「ヒッキー、彩ちゃん好き過ぎだし!」
何を言う由比ヶ浜、戸塚を嫌いな奴がこの世界のどこに居るというのだ。つまり皆、戸塚が好き、これは真理だ。
「はちまーん!」
その時だ、俺の名を呼ぶ声が聞こえる。この声が誰かなど言うまでもないし間違うはずもない。
俺がわざわざ合宿に来た目的でもある人物、いや天使。
「八幡、おはよう!」
きっと俺に会うために走って来てくれたのだろう、軽く息を切らせながら挨拶をしてくる戸塚はとても魅力的だ。
「ああ、おはよう戸塚」
「お、お兄ちゃんお兄ちゃん・・・・・・」
小町が服の端を引っ張ってくる。
「どうした小町」
「なんであんな可愛い人がお兄ちゃんを名前で呼んでるの?!」
ああ、そうだった。戸塚と小町は初対面だったな、とうとう夢の競演の始まりだ。
「もしかして妹の小町ちゃん? 八幡の友達の戸塚彩加です、よろしくね」
「は、はい!比企谷小町です。よろしくです戸塚さん!!」
小町は戸塚の可愛さに当てられて緊張しているようだ。
ああ、なんて素晴らしい世界だ。ここが天国。
あと小町ちゃん? 小南と那須がどうとか、ぶつぶつ言ってるけどどうしたの?
強力なライバルって何? 戸塚はボーダーじゃないからな。
「お兄ちゃん、雪乃さんと結衣さんと戸塚さんに囲まれてハーレムだね!!」
おい、どこでハーレムなんて言葉覚えた。それに勘違いをしているぞ。
「小町、戸塚は男だからハーレムじゃないぞ」
「へ? またまたー、お兄ちゃんの冗談面白くないよ?」
「あ、あの、僕・・・・・・男です」
なんでいつも頬を赤く染めてもじもじしながら言うの? 未だに戸塚が男だって信じられない俺がいる。
「ホントに・・・・・・?」
小町も信じられないようだ、気持ちはわかるぞ。
そんなやりとりをしていると、俺達のいる場所に面した道に一台の車が止まった。
黒のSUVでドアにはボーダーの文字がある。
「みんな、集まっているな!結構、では乗りたまえ」
平塚先生、あんたボーダーの車で来ないでくださいよ。マジで焦ったじゃないですか。
全員車に乗り込み、俺達はどこかへ向かっている。そういや行き先も聞いてないな。
てっきり電車でどこか行くかと思っていたが。
「平塚先生、どこに行くんですか?」
「ん? ああ君には言ってなかったな。千葉村だ、そこで林間学校に来ている小学生の
サポートスタッフをしてもらう」
なんで俺だけ聞かされてないことがこんなにあるんだよ。
「そんなことより先生!この車ってボーダーのですよね? 先生ってボーダー関係者なんですか?」
由比ヶ浜、あまりボーダーについて聞くな。ここには小町もいるし俺のことがバレたら
どうすんだ。
「由比ヶ浜さん、平塚先生はボーダーで教官職をしていると入学式で説明があったでしょ?」
マジか。生徒には平塚先生がボーダーって知られてるのかよ。
「あ、そうだっけ? ヒッキーのことで頭いっぱいだったから全然聞いてなかったよ・・・・・・」
「そ、それなら仕方ないわね・・・・・・」
そこから無言になる二人、未だに事故のことで微妙な雰囲気になる俺達は事故の話は
タブーだと暗黙の了解になっていた。
「俺のことで頭いっぱいとか遠まわしな告白か? 由比ヶ浜」
だからこうやって話題を逸らすことしか俺にはできない。
「は、はあああああ?! ヒッキー何言ってんの!マジきもい!」
顔を真っ赤にして怒る由比ヶ浜。話題逸れたのはいいけどきもいはやめろ、傷つくだろ。
「比企谷君、それはセクハラよ」
「いや悪かったから、手に持った携帯を置け。110を押そうとするな」
通報されると確実に警察からボーダーにいっちゃうからやめて!
「まあまあ三人とも落ち着いてください」
「そうだよ。僕はもっと平塚先生のこと聞きたいな?」
さりげなくフォローしてくれる小町と戸塚、素敵。好きだ!
「私のことはいいだろ、ボーダーは機密が多いから何を話していいかわからん」
そう言う平塚先生は自分の話をされるのが恥ずかしそうだ。そんな歳でもないでしょ。
・・・・・・すいません、睨まないでください。
「では一般人の私から話すわね。平塚静、ボーダー最強のトリガー使いで、シェルブリットの静という二つ名を持っているらしいわ」
「最強?!平塚先生ってそんなすごい人なの?!」
確かに平塚先生は最強だ。いくら改造トリガーとは言え、ブラックトリガーの俺と互角以上に戦えるのだ。ノーマルトリガー最強といわれる忍田さんでも俺には勝てないのに。
「シェルブリットってなんだろう?」
「それは私にもわからないわ、姉さんや先生も機密だから教えることはできないと言っていたし」
ああ、戸塚の質問に答えてあげたい!
「もうその辺にしないか。機密を知ったら記憶を消さねばならなくなる」
平塚先生はそう言うと、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。こわっ。
「あははー、やっぱり知りたくないかも・・・・・・」
先生の脅しに屈したのか、それから誰もボーダーについて話す者はいなかった。
「ちーばちばちばちーばちば」
「小町ちゃん、お外で歌うんじゃありません」
そんなこんなで千葉村に到着したが、なぜかそこには葉山たちリア充グループもいた。
こいつらもサポートスタッフに呼ばれてたのか。
俺は千葉村の駐車場を見渡して、あることに気づく。
そういえば思い出した、千葉村って中学の時に玉狛支部の皆で行ったとこだ。
「よーし着いたぞー。早く降りろ俺はこれから会議なんだ」
そうそう、仕事があるのにわざわざ送ってくれる林藤さんには感謝している。
「おおー!これはうまいぞ!らいじん丸も食べるか?」
「ちょっとー!それあたしのおやつじゃない!!」
そうそう、陽太郎が小南のおやつを食べて喧嘩してたな。
「おっ、静さん今日もお綺麗ですねー」
「なぜ響子の尻は触って私のは触らん!!」
「ぐえっ!!」
そうそう、セクハラ好きの迅さんにセクハラ対象外にされて怒る平塚先生とか。
あれ?
思い出に浸ってたはずが、全部目の前で繰り広げられてるぞ。なんでこいつらいんの?
「は、八幡?! なんであんたがここにいんのよ!」
陽太郎とおやつの取り合いをしていた小南が俺に気づいたようだ。短い別れだったな。
「いや俺は部活の合宿でな」
「はちまん!ひさしぶりだな!おまえもこれ食え」
玉狛支部のお子様隊員、林藤陽太郎からお菓子をもらう。
「ありがとな陽太郎」
「だからそれはあたしのおやつよ!!」
「雷神丸も久しぶりだな」
うるさい小南を無視しつつ、雷神丸に近寄る。雷神丸は俺に気づいたのかゴロンと仰向けになる。
俺は陽太郎から雷神丸のお腹触り放題の権利をもらっているため、いつでももふもふし放題なのだ。
「おお、お前は良い子だな」
雷神丸のもふもふのお腹を撫でてやると、無表情だがどこか気持ち良さそうに見える。
そもそも雷神丸ってなんだ? カピバラなのか? 小南は犬だと言っていたがまさかな。
おっと、こんなことをしている場合ではない。
「平塚先生、これはどういうことですか」
「ん? ボランティアスタッフには人手がいると思ってな。玉狛にも応援を要請したわけだ」
平塚先生は迅さんの背中を踏みつつ答える。迅さん・・・・・・南無。
「それにしては木崎さんや烏丸、宇佐美がいないみたいですけど」
戦力になりそうなメンバーがことごとく居ないんだが。シリアス状態ならともかく
普段の小南や迅さんは物の役に立たないだろうし、陽太郎と雷神丸は論外だ。
「レイジは大学、京介はバイト、栞は風間隊と何やら用事があると言っていたな」
それで暇そうな小南や迅さんだけが来たと・・・・・・不安だな。まあ葉山達がいれば問題
ないか。
「とりあえず自己紹介をしたまえ!桐絵、陽太郎」
平塚先生に言われ、奉仕部とリア充グループの面々の前に小南と雷神丸に乗った
陽太郎がやってくる。・・・・・・迅さんは踏まれたままだ。
「星輪女学院2年、小南桐絵です。八幡とは幼馴染よ、よろしくね!」
幼馴染って情報いるか? まあボーダーって言わないだけ良しとしよう。
「・・・・・・幼馴染」
「星輪ってお嬢様学校じゃね?!っべーわ!」
由比ヶ浜はなんか落ち込んでるし。逆にカチューシャの奴はテンション上がってるな、
まあこいつの性格を知らなきゃそうなるか。
さて問題はここからだ。如何にして俺とこいつらが関係ないことをアピールするかだ。
「おれは玉狛しぶ最強のボーダーたいいん、林藤陽太郎だ。こっちはらいじん丸」
うわあ、完全にボーダー隊員って言いやがったこいつ。
「ちょっ、何この子ちょー可愛いし!」
「わー、カピバラだー!」
そう言って陽太郎に抱きつく三浦と雷神丸を撫でる海老名さん。やっぱりカピバラだよね?
「おおお、きみたち可愛いね。おれとけっこんするとらいじん丸のお腹さわりほうだいだよ」
陽太郎は三浦に抱きしめられて嬉しそうに、アホなことをのたまっている。
う、羨ましいとか思ってないんだからね!
それにしても陽太郎が言ったボーダー隊員発言はスルーされたらしい。まあ子供だしそうなるか。
迅さんは明らかにボーダーの隊服だが平塚先生に踏まれているためスルーされている。
ってか迅さん、俺に目で助けを求めないでください。むしろ平塚先生を貰ってあげてください。
「いや、静さんは年上すぎて・・・・・・ぐえっ」
ナチュラルに心を読まないでくださいよ。心を読むサイドエフェクトでも持ってんすか。
そういや迅さんや平塚先生たちもサイドエフェクト持ってるかもしれないのか。
そう考えると怖いなおい。
「さて全員の自己紹介も済んだし、早速仕事だ。着いてきたまえ」
そう言って俺達を先導する平塚先生。いや迅さんの紹介してないよね? 片足だけ掴んで
アスファルトの上をガリガリ引きずってるけど大丈夫なの?
無論、誰も迅さんに触れる者はいなかった。お前ら空気読みすぎだろ、全員由比ヶ浜かよ。
「無様なものね・・・・・・」
・・・・・・雪ノ下さん聞こえましたよ? 迅さんと面識はありそうだけど、何か恨みでもあんの?その何の主張もない身体にセクハラでもされたの?
「比企谷君、いやらしい視線を私に向けるのはやめなさい。気持ちはわかるけれど気味が悪いわ」
「お前のどこをいやらしい目で見ろってんだ」
「ひ、ヒッキー!あたしは・・・・・・いいよ?」
「小町のお義姉ちゃん候補がこんなに!!」
「あんた・・・・・やっぱり小町ちゃんのメールは事実なのね!!」
なんだこのカオスな状況は・・・・・・ツッコミが追いつかねえ。ああ・・・・・・戸塚、勘違い
しないでくれ。俺はお前一筋なんだ、だからそんな苦笑いで俺を見ないでくれ。
「私の前でいちゃつくんじゃない!衝撃のファーストブリットォォォ!!」
「げぷろぱ!」
ぐおお・・・・・・なんで俺が殴られるんですか。迅さん、あんた嬉しそうだな。俺とあんたは仲間じゃないんだからその爽やか笑顔でピースすんのやめろよ、ギリシャだったらボコされるぞ。
ああもう平塚先生にボコされてたか。ってことは平塚先生がギリシャ人な可能性が微レ存。
そんなしょうもないことを考えてたら、なんだか感覚が無くなってきた・・・・・・
こうして俺は意識を失った。
「んん・・・・・・ここは・・・・・・」
目を覚ますと俺と迅さんは木陰に寝かされていた。
「起きたのね、セクハラ谷君」
「俺を迅さんと同類にすんなよ」
近くには雪ノ下が本を読みながら座っていた。
まったくもって心外だ。ああ・・・・・・腹が痛い、まだダメージが残ってるな。
「そういや皆はどうした?」
「もう小学生への挨拶も済んで、オリエンテーリングのサポートをしているわ。サボっているのはあなた達だけよ」
「お前はなんでここで本読んでんだよ」
そう言うと雪ノ下は本を閉じ、立ち上がる。
「あなたが起きるのを待ってたのよ。早く仕事に戻りましょう」
「お、おう」
雪ノ下はそのまま小学生達がいるであろう方向に歩き出す。
素直にそんなことを言われると照れるだろうが。しかもいつも俺をdisる雪ノ下に言われると余計にな。ギャップ萌えで八幡ポイント1点あげちゃう。
そんなことを考えていると、雪ノ下の背中が小さく向こうに見えているので、置いて
かれないように軽く小走りで追いかける。
あ、迅さんのこと忘れてた・・・・・・まあ、いいか。
ルミルミ出なかった・・・・・・