やはり俺がボーダーに所属しないのはまちがっている。   作:犬ころ大佐

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遅れてきたバレソタイソ。もうホワイトデーの方が近い罠。





【番外編】バレソタイソ

 

 

今日は2月14日バレンタインデーである。

 

午前0時を回り親が寝静まった後、薄暗いキッチンで那須玲はチョコを作っていた。

 

 

「ふふふ、美味しくなーれ」

 

 

溶かしたチョコに愛おしい彼の顔を思い浮かべながら、テンパリングをしている那須。

 

 

「あ、そうだわ。隠し味を入れるのを忘れてたわね」

 

 

おもむろにスコーピオンのような鋭利な刃を取り出し、自らの腕に突き立てた。

刃が深く刺さった腕から溢れるようにソレが漏れ出し、チョコに滴り、混ざり合っていく。

 

 

「私の愛に、私の味に気付いてくれるかしら? 」

 

 

傍から見れば、彼女の笑みは恋する乙女の表情そのものであった。深く切り裂かれ、床に落ちている彼女の腕がそれを台無しにしていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、頭いてえ」

 

 

そんなバレンタインデー当日、比企谷八幡は風邪をひいていた。

さすがの八幡もバレンタインのことは知っていたし、既に朝に妹の小町や由比ヶ浜親子からチョコを貰っている。

そして例年通りならば学校終わりの小南がチョコを届けてくれるに違いない。

自称ぼっちな彼もバレンタインにおいては勝ち組であった。

 

ただし懸念が一つ。

 

 

「はあ、戸塚からチョコ、欲しかったなあ……」

 

 

その夜、寝ている八幡の枕元に可愛くラッピングされたチョコが眩い光と共に現れるのは別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八幡君がいないっ!!!! 」

 

 

那須は激昂していた。普段の物静かな雰囲気はどこへやら。

特製の本命チョコを渡すべき相手、比企谷八幡が学校に来ていないのである。

 

どうやら風邪で休みという情報を綾辻遥からノーマルチョコと交換で手に入れ、すぐに小町にメールで確認を取った。

 

比企谷八幡は風邪で休み、つまり外出することが出来ない。それは那須にとって大問題であった。

 

 

「八幡君に会えない……」

 

 

さっきとは打って変わって、涙を流す。精神面が不安定なのはいつものことだが、八幡が風邪で苦しんでいるのに看病も出来ずチョコも渡せないショックからかいつ暴発してもおかしくない状態にあった。

せめて八幡の家を知っていたら、と那須は端正な顔立ちを歪めて唇を噛み締めていた。

 

八幡と小町の住んでいるセーフハウスの場所はボーダーでも最重要機密に類している。

住所を知っているのは旧ボーダー時代からの人間や現ボーダーでも玉狛支部やレベル7の権限を持つ職員だけである。

 

ちなみにB級隊員である那須の権限はレベル3相当で、どう逆立ちしても八幡の住所を知ることは出来ない。

そして仲の良い小町であっても住所に関しては決して教えてくれない。

 

完全に手詰まりだった。

 

 

「あれ? 那須さん? 」

 

 

「……綾辻さん」

 

 

呆然としているところに声をかけてきたのは、先ほど情報をくれた綾辻遥だった。

綾辻は学校で貰ったであろうチョコをパクつきながら小首を傾げ、疑問を言葉にする。

 

 

「まだ帰ってなかったの? 」

 

 

そう、ここはまだ学校の校門。辺りは既に薄暗くなっており、綾辻も生徒会の仕事を終えてからの帰宅である。

進退窮まった那須は泣く泣く事情を説明した。もしかしたらA級の綾辻なら八幡の家を知っているかもしれない。そんな期待も込めて。

 

 

「比企谷君のお家は知らないなー」

 

 

終わった。

 

もうバレンタインにチョコを渡すことは叶わない。那須に流れるトリオンが熱くなり、身体から溢れ出る。

 

 

「――でも」

 

 

しかし、綾辻の言葉はまだ終わっていなかった。

 

 

「探そうと思えば探せるよ」

 

 

熱されたトリオンが急速に冷却され蒸気のように霧散した。その余波で校門の一部が破損したが、至近距離に居た綾辻には何故か被害は無かった。

 

 

「それ、本当? 」

 

 

再度確認の意味を込めてもう一度聞き返す。

 

 

「うん。比企谷君の美味しそうな匂いはどこに居てもわかるよ」

 

 

その問いを肯定し、三日月のように口角を上げる。その笑みは普段の綾辻からは考えられないほど邪悪なものだった。

 

 

 

思わず身構える。

 

那須は八幡に異性としての好意を持っている女性を識別することができる。八幡を独占するにはそういった女性達をマークする必要があった。

しかし目の前の綾辻からはそれが感じられなかった。

 

それもその筈である。綾辻遥は恋愛感情を持って比企谷八幡を見ていない。

そもそも綾辻に恋愛感情は存在しないのだ。あるのは食欲のみ。

 

この世の贅の限りを尽くしたご馳走。

 

綾辻は八幡をそう見ている。好きということは間違っていない。ただし好物という意味でだが。

これを綾辻なりの恋愛感情だとすると、食べてしまいたいくらい大好きということになる。

 

彼女は危険だ。

 

那須の中に警鐘が鳴り響く。始末の二文字が浮かんだ所で、綾辻が自分の鞄を凝視していることに気付く。

 

 

 

「あれ? それって比企谷君に渡すチョコ? 」

 

 

「え? 」

 

 

「私にくれたのとは違うんだね。ふふっ、那須さんも結構美味しそうかも」

 

 

気付かれた。鞄にしまってあった特別なチョコに。彼女の嗅覚が優れていることはわかっていたが、このチョコの中身に気付かれたのはマズイ。

 

 

「でも比企谷君にそれを渡すのはどうかと思うよ。彼が食べたらお腹壊しちゃうんじゃないかな」

 

 

ピキッ

 

 

綾辻の何気なく言った一言によって、那須のこめかみに血管が浮き出る。

自分の愛を否定する綾辻を敵だと認識した那須はトリオンを両腕から溢れさせる。

 

それを見た綾辻は大きく開かれた口から、涎を垂らす。

 

 

「……いいよ。全部食べてあげる」

 

 

「……コロす」

 

 

両者が対峙する。綾辻はそのまま立っているだけだが、那須からは禍々しいほど赤くなったトリオンが溢れ、彼女の周りを揺蕩っていた。

それは普段彼女が使っているバイパーとは一線を画していた。

 

 

「綺麗……」

 

 

食事には味だけではなく、香りや見た目も重要だ。那須から溢れ出るトリオンの美しさに目を惹かれ、綾辻の食欲が増進する。

 

その言葉で神経を逆撫でされた那須が、赤いトリオンをバイパーのように飛ばす。綾辻は身構えもせずにただ立っているだけだ。

那須の攻撃が綾辻に届く刹那、側面から放たれたアステロイドがそれを全て撃ち落とした。

 

自分の邪魔をする奴は誰だと言わんばかりに、鬼の形相でアステロイドが放たれた方向を見やる。

綾辻は介入してくる者が居ることを匂いによって気付いており、どこか残念そうな表情をしていた。

 

 

「せっかくのトリオンが勿体無いよ。私なら全部食べれるのに」

 

 

そう言いながら視線を向ければ、そこには両手に、銃身が上下に二本ついている特殊なライフルを持った少女が居た。

 

 

「でも、あなたのアステロイドも美味しそうだったよ。留美ちゃん」

 

 

嬉しそうにそう言う綾辻に、鶴見留美は眉を潜めた。

 

 

「二人とも、ボーダー隊員同士の私闘は禁止されています。直ちにトリオン体を解除してください」

 

 

二人に銃口を向ける。

 

鶴見留美。玉狛第三B級雪ノ下隊のメンバーで、中学生ながらもガンナーとスナイパーでマスタークラスを取っている才媛である。

彼女はチョコを渡す為に、八幡の家に向かっていた。その途中でこの事態に遭遇したのだ。顔見知りが公の場所で暴れようとしているところを見ては、ボーダー隊員として無視する訳にはいかなかった。

那須と綾辻と言えば、ボーダーの中でも市民に認知されている存在で、ボーダーの顔とも言えるべき二人が問題を起こせばボーダーにとってもマズイ事態になる。

 

 

「留美ちゃんもチョコ持ってるんだね。比企谷君にあげるのかな? もしかしてお家に行くところだったりして」

 

 

「えっ」

 

 

警告を聞き流され、逆に自分の持っているチョコと目的を言い当てられた鶴見はたじろぎ顔を紅潮させた。

それは綾辻の問いを肯定したも同然だった。

 

―――しまった。

 

鶴見がそう考えるより先に那須の方からゾワッとする感覚が襲って来た。

視線を向けようと顔を動かすと、鼻先スレスレの位置に那須の顔面が迫っていた。

 

 

「――――っ」

 

 

まるで能面のような感情を失った表情を至近距離で見せられ、声にならない悲鳴を上げる鶴見。

普通ならばこの時点で鶴見はベイルアウトしていてもおかしくはない。だが、鶴見は那須隊メンバーである日浦茜と特に仲が良かった。大規模侵攻後、日浦が中学卒業後に引っ越す為にボーダーを辞めるという事態を解決した件にも鶴見は関わっている。

それがあって那須の中にある一欠片の理性が鶴見を蜂の巣にしないように踏ん張っていたのだ。

 

 

「留美……ちゃん。八幡君の家、教えて? 」

 

 

那須は残された理性を総動員して自身が持てる最大限の優しい口調で訊ねたが、鶴見にとっては脅迫にしか聞こえなかった。

八幡の家はトップシークレット。鶴見もそれを知っている。それに改めて那須のことを間近で見たが、表情は別としてやはり美人であった。

 

八幡に好意を持つ者は多く、鶴見もその一人。

家を知っている、そのアドバンテージを失いたくない鶴見が選んだ答えは―――

 

 

「ベイルアウト! 」

 

 

自らの頭を撃ち抜くことだった。

 

 

一条の光がボーダー本部へと向かって行く。

 

 

「逃げられちゃったね」

 

 

「これで良かったのよ」

 

 

わざとらしく残念がる綾辻に対し、那須はあっさりとしたものだった。

 

 

「まだ貴女が居るもの。八幡君の家、教えてくれるよね? 」

 

 

そう言って、トリオンを纏った右腕を綾辻に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2月14日バレンタインデー。その日、総武高校が消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――時は遡る。

 

 

 

 

 

 

八幡が風邪で休みと聞いた奉仕部二人は、ボーダー奉仕部を休みにして家に向かっていた。

 

 

「ヒッキー、ちゃんと寝てるかなあ」

 

 

「なぜ私が彼の家に行かなければならないのかしら」

 

 

「ほら! 今日バレンタインだし、ゆきのんもヒッキーにチョコ渡さなきゃ! 」

 

 

「べ、別に私は……」

 

 

八幡への好意丸出しの結衣と違い、雪乃は未だに八幡への好意を素直に示せないでいた。

 

 

「もうっ! ゆきのんがそんなんじゃヒッキーはあたしが貰っちゃうからねっ! 」

 

 

「由比ヶ浜さんがそうしたいなら……」

 

 

結衣はそんな雪乃をどうにかしようと発破をかけているのだが、成果は出ない。

 

 

「はあ……一緒に暮らせばゆきのんも素直になれるかなあ」

 

 

八幡の家に居候している結衣は、たまに寝床に潜り込んで甘えたりしている為、八幡に対しての好意を曝け出すことに遠慮が無くなっていた。

 

 

「ほらっ、ゆきのん! 行くよっ! 」

 

 

「ちょ、ちょっと由比ヶ浜さん、押さないでちょうだい! 」

 

 

今日も奉仕部は平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって玉狛支部。

 

 

 

 

 

「ちょっと!! なんであんた達までついてくんのよ! 」

 

 

レイジにチョコ作りを教わった小南桐絵は、さっそく手作りチョコを渡す為に八幡の家に向かおうとしていた。

そこに何故か三雲修が着いていくと言い出した。

 

 

「ぼ、僕も比企谷先輩にチョコを作って来たんで」

 

 

「バレンタインって女の子がチョコを渡す日なんじゃないの? オサムは女の子なのか? 」

 

 

「そんな訳ないだろ!! 」

 

 

「ふふふ、修君は八幡さんのこと大好きだもんね」

 

 

「おい、千佳まで変なこと言うな! 」

 

 

「嘘でしょ、まさか修まで八幡狙いだなんて……! 」

 

 

小南が八幡に好意を持っていることは、玉狛支部では公然となっている。

そもそも玉狛に所属している女子のほとんどが八幡に好意を抱いてるのだが。

 

 

「それにしてもハチマン先輩はモテモテだな」

 

 

空閑遊真の何気ない一言に小南と三雲が反応する。

 

 

「ホントよね……ちょっと前までには考えられなかった光景だわ……」

 

 

「本当ですよ! 今まで先輩に見向きもしなかった癖に、ちょっと有名になったからって掌を返して……!」

 

 

「そうよ! あたしがどれだけ昔から八幡のこと見てきたと思ってるのよー!! 」

 

 

「なっ! 僕だって先輩への想いだったら負けてませんよ! 」

 

 

「は?! あたしの方が八幡を好きに決まってるじゃない!! 」

 

 

何故かどれだけ八幡のことを好きかで取っ組み合いに発展する小南と三雲。

そんな二人を見て首を傾げる空閑とニコニコ微笑む雨取。

 

 

「なあ、チカはハチマン先輩のこと好きじゃないのか? 」

 

 

「え? わ、私はそういうのじゃないよ。八幡さんはお兄ちゃんみたいな感じかな」

 

 

「? チカの兄さんって……」

 

 

「うん……」

 

 

いつの間にか取っ組み合いをしていた二人も静かになっていた。

 

 

 

雨取千佳の闇は深い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2月14日朝。

 

 

バレンタインデーということで例に漏れず、香取葉子は渡せもしないチョコを作って来ていた。

 

 

「今年こそは八幡にチョコ渡さなきゃ」

 

 

「頑張って」

 

 

「は、華は渡さないの? 」

 

 

渡す勇気が持てない香取は染井と一緒なら、と期待を込めた目で見る。

 

 

「私は昨日渡したから。じゃ、予鈴鳴ったから行くわね」

 

 

そう言って、J組の教室に向かって足早に去る染井。

一瞬の内に希望を砕かれた香取は、呆然と立ち尽くした。

 

 

2月14日昼。

 

 

「はあああああ?! 八幡休みなんですか?! 」

 

 

「うん、風邪らしいよ。モグモグ」

 

 

友チョコと交換で綾辻から情報を手に入れた香取は絶望した。

 

 

 

2月14日夕方。

 

 

防衛任務に就いている香取は未だにショックから立ち直れないでいた。

 

 

「せっかく八幡とお喋りできて、今年はチョコも渡せると思ってたのに……」

 

 

「葉子ちゃん……」

 

 

「まあ来年頑張れよ」

 

 

『敵よ、座標誘導誤差5.33。』

 

 

今日の防衛任務は荒れた香取の独壇場だった。

 

 

結局渡せなかったチョコは若村と三浦が仲良く半分こしたとさ。

 

 

めでたし、めでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2月15日朝。総武高校跡地。

 

 

一日休んで、風邪もすっかり良くなった八幡。学校を休んだにもかかわらず、過去最大の数のチョコを貰った八幡は珍しく陽気な足取りで学校に向かっていた。

 

通いなれた道を歩き、違和感に気付く。

 

 

「……学校がねえ」

 

 

校門のあったであろう場所に立っている八幡。目の前にはただの更地が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦勝報告(チョコを渡せた人)

 

染井華(2月13日夕方)

比企谷小町(2月14日朝)

由比ヶ浜マ(2月14日朝)

由比ヶ浜結衣(2月14日朝)

雪ノ下雪乃(2月14日夕方)

小南桐絵(2月14日夕方)

木崎レイジ(小南に持たせた)

宇佐美栞(小南に持たせた)

林藤ゆり(小南に持たせた)

三雲修(2月14日夕方)

雨取千佳(2月14日夕方)

鶴見留美(2月14日夕方)

戸塚彩加(2月14日深夜)

 

 

 

戦没者(チョコを渡せなかった人)

 

川崎沙希(八幡休みにより断念、チョコは京華の元へ)

一色いろは(八幡休みにより断念、チョコは戸部の元へ)

香取葉子(八幡休みにより断念、チョコは若村、三浦の元へ)

那須玲(綾辻にチョコを喰われ、断念)

 

 

 




アベンジャーズに当てはめてみた。

キャップ→キャプテンボーダー三雲修
バッキー→空閑
カーター→千佳
ファルコン→迅
アントマン→ヒュース
アイアンマン→ゆきのん
ソー&ローディ→ガハマ
ヴィジョン→パンさん、カマクラ、サブレ
バートン→留美
ロマノフ→香取ちゃん
バナー→綾辻ハルク
ワンダ→那須カーレットウィッチ

シビルウォーも出来る配置だけど小南と一色が入らないな……
八幡はコールソン的な感じかな。



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