やはり俺がボーダーに所属しないのはまちがっている。 作:犬ころ大佐
「高校生活を振り返って」
ボーダーとは嘘であり、悪である。
ボーダーに所属せし者達は常に自己と周囲を欺き自らを取り巻く環境の全てを
肯定的にとらえる。
例を挙げよう。とあるA級部隊の隊長は公衆の面前でトリガーを使い、定期テストのため登校中だった人間を襲撃した。にもかかわらず自分の単位が危うく味方からも見捨てられた彼は敵であるはずの人間にレポートの執筆を手伝わせようとする。
彼らは命令の2文字の前ならばどんな一般的な解釈も社会通念もねじ曲げてみせる。
彼にかかれば嘘も秘密も、罪科も敗北さえも戦闘のスパイスでしかないのだ。
そして彼らはその悪に、その敗北に特別性を見出す。
自分たちの敗北は拠所ない事情があったと主張するが、他者の敗北はただの
任務失敗と断ずるのだ。
仮に敗北に拠所ない事情があることで責任を逃れることができるとしたら、両親の形見を守る為に逃亡し、ボーダーというネイバーから市民を守る強大な組織から狙われている人間もまた拠所ない事情で敗北しており責任を逃れることができなければおかしいではないか。
しかし彼らはそれを認めないだろう。
なんのことはない。すべては彼らのご都合主義でしかない。
なら、それは欺瞞だろう。嘘も欺瞞も秘密も詐術も糾弾されるべきものだ。
彼らは悪だ。
ということは、逆説的にボーダーに属さずネイバーと戦っている者のほうが正しく真の正義である。
結論を言おう。
ボーダーの愚か者ども、砕け散れ。
「で、昨日わざわざ忠告したにもかかわらずこんなレポートを書いてきた言い訳を聞こうか」
「言い訳も何もちゃんとテーマに沿って書いたでしょう。どこに問題があるってんですかね」
放課後、平塚先生に呼び出され職員室で説教を受けている。ちゃんとレポートは出したのに何故だ。
「問題だらけだ。どうしたらボーダーに対する犯行声明文なるのかね。
君はテロリストか何かか? ああ、似たようなものか」
短くなったタバコを灰皿に押し付けながら憐れみの表情で俺を見つめてくる平塚先生。
おい、誰がテロリストだ。本部吹っ飛ばすぞ。
「俺の人生は高校生活も含めてボーダーの連中によって脅かされてきましたからね。
恨み言の一つや二つ書きたくもなりますよ。あと、言っときますけど
こっちの都合を無視して襲ってくるのはあいつらです。だから正当防衛ですよ」
これは間違いない。俺からボーダーに喧嘩を売ることはまずない。というか基本的に
あいつらから突っかかってくる。やれ俺と戦えだの、やれボーダーに入れだの、やれ
俺のチームに入れだの。
・・・・・・あれ、俺モテてる? モテ期きた? って男にモテてどうすんだよ。
「それについては私もどうにかしようと忍田さんと話し合っている。だが比企谷、そのことだけが高校生活をまともに送れない原因とは思えないのだがね」
「はあ・・・・・・」
「なぜ友人を作らないのかね? 高校内には私がいるからボーダーを心配する必要もない。せっかくの高校生活だ。楽しんでみてはどうかね」
「先生・・・・・・」
惚れ惚れするような笑みを浮かべ平塚先生は新しいタバコに火をつける。
かっこいいな、ちくしょう。母親が生きてたらこんな感じなんだろうか。本気で
俺のことを心配してくれることがたまらなくうれし――――
「――――だが」
ん?
「こんなレポートを書いてきた罰は受けてもらう。着いてきたまえ」
「は? え、ちょっと!」
タバコをふかしながら颯爽と職員室から出て行く平塚先生を慌てて追いかける。
いったいどこいくのん。罰ってなに?
平塚先生についていくといつの間にかあまり人が立ち入らないであろう特別棟の、ある一室の前に来ていた。扉のプレートには何も書かれておらずなんの教室かもわからない。
俺がついてきていることを確認した平塚先生は扉を開けて中に入ったため、俺も続く。
「平塚先生。入る時はノックを、とお願いしたはずですが」
「ああ、すまん。だがノックしても君は返事をしないだろう」
「先生が返事を待たずに入ってくるからです。それで、そちらの目が特徴的な人は?」
入った部屋には黒髪でとても美しい女子がいた。
平塚先生と彼女のやりとりを聞きながら、ふと思う。
なんか誰かに似てる気がするな。・・・・・・ああ、A級の雪ノ下さんだ。雰囲気はまったく
違うが顔のつくりが似てるんだな。顔が似てるだけで嫌悪感が・・・・・・胃が痛い。
「彼は入部希望者だ。」
は? 入部ってなんだよ。ってかここ部活なのかよ。
俺の追及する視線に気づいた平塚先生がにやりとした表情で答える
「君にはレポートの罰としてここでの部活動をしてもらう。異論反論抗議質問口答え
その他一切は認めない。しばらくの間ここで反省しろ」
「いやいや、平塚先生。なに勝手に入部希望者にしてんすか。それにこんな雪ノ下さんに似てる人と部活とか気まずいっす。それが罰ですか?」
「あなたは私の顔を知らないのかしら。 私が2年J組の雪ノ下雪乃よ。それであなたは?」
雪ノ下? ・・・・・・え、まじで? 妹かなんかなのか? だとしたらやばい。
いきなりのことに面食らってしまってフリーズした俺を不審に思ったのか雪ノ下が声をかけてきた。
「あなたは自己紹介も満足にできないのかしら。もう一度言うわ。
私は雪ノ下雪乃よ。あなたの名前は?」
「ああ・・・・・・比企谷八幡だ」
ぎこちなかったがなんとか声を出せた俺の肩を平塚先生がぽんと叩く。
「お互いの名前も知れたようだな。そこでだ雪ノ下。私からの依頼だ。こいつの孤独体質を治してやってくれ。捻くれていて手を焼くかもしれんが話してみると面白いやつだぞ。それに見た目に反して面倒見がよくて優しいやつでもある」
ちょっと恥ずかしいんでやめてくれませんかね。disられてんのかほめられてんのか
八幡わかんない!
「なるほど・・・・・・わかりました。先生の頼みであればむげにもできませんしお受けします」
なにうんうん頷いてるんですか雪ノ下さん。
入部決定ですね。わかりたくありませんがわかります。
「そうか。なら頼んだぞ。ああ、そういえば彼は君の姉と知り合いだぞ」
ちょ!なんで最後に余計なこと言うんですか。ってか帰らないで!ちっちゃいほうの雪ノ下がすげえ睨んでるから!何がちっちゃいかって? そりゃあ・・・・・・身長に決まってるだろ。
あぶねえ、ここで胸って答えてたら死んでたわ。脳内なのに。 あ。
「比企谷君といったかしら。少しお話を聞かせてちょうだい? それと何か不愉快なことを考えているのではなくて?」
あれえ、さっきまで睨んでた雪ノ下さんがとても良い笑顔でいらっしゃる。
こんな笑顔見せられたら、どんな男でも惚れちゃうね。惚れた勢いで告白して振られるまである。
って振られちゃうのかよ。当たり前だ。この笑顔の裏には苛烈な怒りが渦巻いてる。
「別になにも考えてねえよ。ってかお前、雪ノ下さんの妹なのな。どうりで似てるわけだ」
こいつはあの雪ノ下さんの妹だ。油断せずにいこう。
「何かを考える頭を持ち合わせていないのね。ごめんなさい。私の配慮が足らなかったわ。それで微生物にも劣るような存在のあなたが何故、姉さんと知り合いなのかしら」
いやもう無理。八幡泣いちゃうよ? なんで初対面でこんなdisられるんですかね。
あの外面だけは完璧超人と俺みたいなやつが知り合いなのが納得できないんすか。
ああシスコンね。雪ノ下はシスコンなんだな。言ったら殺されそう。
「なんで微生物さんが引き合いに出されたんですかねえ。ってかなんでそんなこと知りたいの?なにお前、シスコンなの? 姉の交友関係把握しときたいの?」
言っちゃった。てへっ八幡ったらおっちょこちょい。
「――っ!あなたはなにを言ってるのかしら。私がシスコンな訳ないでしょう。単純な疑問として聞いただけで他意はないわ。ましてやシスコンだなんて、比企谷君はシスコンの意味をわかっているのかしら? 確かに姉はなんでもできて人から好かれていて私から見ても自慢の姉よ。でもどちらかといえば私は姉が苦手だわ。だからシスコンなんてありえないのよ。わかったかしらシス谷君」
「ああ、すまん」
すげえ捲し立ててきたなおい。顔真っ赤だぞ。ってか何回シスコン言うんだよ。めちゃくちゃコンプレックス持ってるじゃねえか。妹の雪ノ下でもあの人は苦手なのね。
あと最後のシス谷ってなんだ。シスコンの比企谷の略か? まあ当たってるから何にも言えねえけど。
妹がこんな毒舌女じゃなくて良かった。小町最高!
「はあ・・・・・・それで姉との関係は教えてくれるのかしら?」
雪ノ下が息を切らせながら聞いてくる。関係は明白。敵だ。だが見たところこいつはボーダー関係者じゃない。ってことはどう説明したもんか。迂闊に逃亡犯ってことがバレて通報されても困るし。
―――よし。
「ほら雪ノ下さんってボーダーにいるだろ。1年のときのボーダー本部見学で会ったんだよ。訓練の体験に参加したら筋がいいって褒められたんだぜ俺。そしたら平塚先生と
雪ノ下さんが知り合いだったみたいでさ。平塚先生のとこに来てた雪ノ下さんと何回か話したんだ」
嘘をついたのは見学云々の件だけだ。ボーダー本部の見学は休んだが何回か話したのは事実だし。
それに嵐山隊と雪ノ下っていう美人がいて訓練を見てくれたってのはクラスの連中から盗み聞きして知っている。姉ノ下が苦手な妹ノ下はわざわざ確認までしないだろう。
アリバイは完璧。そういえばそのときこの学校に妹がいるって誰かが話してた気がする。迂闊だった。
「そう・・・・・・そういうことなら素直に言えばいいじゃない。姉の目に留まるなんて中々ないわ。もっともその特徴的な腐った目のおかげかもしれないわね」
未だ疑念をもっているようだが、しぶしぶ納得してくれたみたいだ。そこで俺は話を最初に戻す。
「うるせえよ。んで、そもそもここは何部なんだ?」
「あなた、平塚先生から何も聞いてないのね。――そうね。クイズをしましょう。
ここが何部か当ててごらんなさい」
なんでここにきてクイズなんだよ。こちとらもう帰りたいんだよ。
辺りを見渡しても周囲には何もないな。机の上には読みかけの本か。文芸部・・・・・・いや、しかしさっきの先生との会話を考えると―――
「この部屋の中に特殊な環境、特別な機器が存在していない。そして平塚先生が言った俺の更生依頼。つまるところ依頼人によって成り立つボランティア部のようなもんか。」
「え、ええ。そんなところかしら。持つものが持たないものによって慈悲の心を与える。
人はそれをボランティアと呼ぶの。困っている人に救いの手を差し伸べる。それがこの部の活動よ。この程度のことを考える知能はあるようね」
そう言って悔しそうに睨みつけてくる雪ノ下。
あなた結構負けず嫌いなんですね。
「ようこそ奉仕部へ。歓迎するわ。あなたの問題も解決してあげるから感謝なさい」
「そいつはどうも。だが別に問題はないんだがな。孤立しているのは俺の意思だし、それでこの先も生きていける」
「そうは見えないわね。その捻くれた考え、社会的にマズイわよ」
「俺は大学まで行ったら社会には出ないから安心してくれ。だから別にいいだろ。
他人に迷惑はかけない」
立派に大人になったら腐るほどある金で小町とひっそり暮らすさ。ボーダーの目の届かない場所でな。もちろん忍田さんや玉狛の人にお礼はするぞ。いくら感謝しても足りないくらいだからな。
「そんな子供のような考えが通用すると思っているのかしら。どうやって独りで生きていくの? 親はいつまでも養ってくれないのよ」
・・・・・・親なんて当の昔にいねえよ。まあ遺産で半永久的に養ってもらってはいるが。
俺の考えとは裏腹に雪ノ下は続ける。
「あなたはただ現実から逃げているだけよ。今はよくてもこれから先もずっと逃げ続けるのかしら。」
「お前に何がわかる」
「――え」
自分でもびっくりするくらいの低い声がでた。今までの逃亡生活と重ねて結構イラついたみたいだな。
まだまだ感情のコントロールが上手くできていないらしい。雪ノ下もちょっと怯えた表情をしてるし。
どうしたもんかと思っているとふと扉が開く。
「更生に手こずっているようだな雪ノ下」
帰ったはずの平塚先生だ。大方、今までの話を聞いてて俺の地雷を踏んだ雪ノ下をフォローしに来たのだろう。先生を見た雪ノ下はコホンと軽く咳払いをし調子を取り戻したようだ。
「はい。彼は自分の問題をまともに自覚しようとしていません」
「だからしてるって言ってるだろ。その上で変わらなくていいと言ってるんだ」
「それじゃ悩みは解決しないし、誰も救われないじゃない」
そう言った雪ノ下の表情は何か思いつめていたように感じた。
「うむ。ならばこうしよう。これからの依頼でどちらが人を多く救えるか対決したまえ」
先生。俺に拳を向けて有無を言わせないようにするの卑怯じゃありませんか?
「お断りします」
どうやら思わぬ伏兵がいたみたいだな。拳を向けられていない雪ノ下がすぐさまそう言った。
先生は一瞬言葉に詰まったが、良いことを思いついたと言わんばかりの悪い顔を浮かべ口を開いた。
「さすがの雪ノ下雪乃でも勝つ自信がないとみえる。残念だよ。やはり陽乃とは違うな」
なんすかその見え見えの挑発は。
「―――いいでしょう。受けて立ちます。比企谷君を完膚なきまでに打ち倒します」
乗ってきたあああああああ。ちょろすぎだろ雪ノ下。ってか勝敗はどれだけ人を救ったかだよね。殴りあうわけじゃないよね。俺を今殺せば、俺は救えなかったけどこれから人を救えば勝ちとか思ってないよね。発言がいちいち物騒なんだよこいつ。
「決まりだな」
――勝手に決まった謎の対決。そこに俺の意思は存在しなかった。
こうして俺の学校生活は終わりを告げた。
比企谷八幡定時報告。
今日ははちま……比企谷が平塚先生に職員室に呼び出されていた。
会話を聞こうと思ったけど、二人で生徒指導室に入ってしまったため会話は聞こえなかった。
あの二人……そういう関係じゃないよね? そりゃスタイルは良いかもしんないけど八幡は
あんな年増がいいわけ? まあ、ありえないか。
ってかこれじゃ、アタシが八幡のこと好きみたいじゃん! 確かに助けてもらった恩はあるけど
あいつはボーダーの敵だし、アタシにはあいつを監視する義務があるってかアタシがそうしたいからやってるだけで八幡が好きとか関係ないし!
しばらく経って二人が出てきた。どこかに向かうようだ。……よし、衣服の乱れ無し。
追跡してみると、人気の少ない特別棟の教室に辿りついた。まさかここでいかがわしいこと
するんじゃないでしょうね。
会話を聞くため教室に近づこうとしたら急に平塚先生が出てきて見つかってしまった。
先生に捕まる前にアタシは逃げる。普段なら捕まっちゃうけどここは学校だから先生も本気で
走れないのか追って来ない。ざまあみろ年増。
はあ……防衛任務行こ。