やはり俺がボーダーに所属しないのはまちがっている。 作:犬ころ大佐
「今日、総武高校職場見学を担当する嵐山隊の嵐山准だ。みんなよろしく!」
あー、空がグレーだ。今日もいい天気、絶好のボーダー見学日和だな。
俺は嵐山隊の自己紹介を聞き流しながらずっと上を向いている。ああ、空じゃなくて天井だったわ。
ボーダー見学ということで、俺はトリオン体で行こうとしたが平塚先生に止められた。
なんでも訓練体験でトリガーを使うから、生身じゃないといけないらしい。
俺も訓練やんのかよ。あれって立候補とかだろ? リア充共に存分に楽しんでもらってくれよ。
「トリガーやボーダーの説明は去年したと思うから、早速訓練体験に行こうか!みんなも
つまんない話を聞くより実際にやってみたいだろ?」
そう言ってにっこり笑う嵐山さん。去年は半分以上が説明で訓練体験は一部の人しかやれなかったらしい。
せっかく今年もボーダーに来たなら、時間丸々みんなで訓練体験をしようってことか。
さすが嵐山さん、ガキの扱いに慣れてらっしゃる。でも俺は困ってますよー。
生徒達の歓声に耳を塞ぎながら俺はそう思った。
最低限の説明を聞いた俺達は嵐山隊について、訓練室に向かう。
「訓練楽しみだね、八幡!」
「ああ、そうだな」
戸塚と訓練・・・・・・ゴクリ。いやなんの訓練だよ。
「っべーわ!隼人君とかぜってー強いっしょ!」
「ボーダーにスカウトされるんじゃね?」
「ははは、俺もやったことないから楽しみだな」
るせーぞ、葉山と不愉快な仲間共。高校生にもなって見学先で騒ぐなよみっともない。
そうこうしているうちに訓練室に着いた。広いな。
「さあここが訓練室だ、A組から順にクラス毎で体験してもらうぞ。対戦相手はバムスター、君達がよく目にするネイバーだ。」
モニターにバムスターの姿が写し出される。
おおーとか、きゃーとか全体から声が上がる。バムスターなら楽勝だな。
「一応、初心者レベルだから安心して戦ってくれ。制限時間は5分、1分を切れた者には
ボーナスステージがあるぞ。では始めっ!!」
一斉にバムスターに向かっていくA組の生徒達。さすがに巨大モニターでも30分割くらいだと小さいな、これならあまり目立たないだろう。それに正隊員や訓練生もいるしな。
「比企谷、見学が終わったら私と残れ。逃げるなよ?」
モニターをぼーっと眺めていると平塚先生が話しかけてきた。
「いまさら逃げませんよ、それよりこの訓練って玉狛にもあるんすか?」
「あるぞ? だがトリオン兵なんぞより私が相手をしてやった方がいいだろう?」
そう言って人差し指から順番に指を折り曲げ、最後に親指を曲げ拳を作りニヤリと笑う先生。
こええよ、ちなみに先生との訓練だと1分もてばいい方だ。マジで一発でシールド割るの勘弁だわ。
「せ、先生との訓練さいこー」
完全に棒読みになっちまった。やめて拳をこっちに向けないで。
「なにやってるんですか、平塚教官」
「んん? おお時枝か、いや比企谷に教育的指導をだな」
平塚先生を止めたのは嵐山隊のできる男、時枝である。平塚先生はそそくさとどこかへ行ってしまった。
とっきーナイスだ!あと先生のそれは指導じゃなくて体罰ですからね?
「比企谷先輩、ご無沙汰してます。いつも大変ですね」
「ああ、もう慣れた・・・・・・何か用か? 」
「本部にいる先輩が新鮮だったのでつい。ほら木虎も嬉しそうですよ」
そう言われ、木虎のいる方をチラ見する。
「俺には睨んでるようにしか見えないんだが・・・・・・」
雪ノ下ばりに睨んでるじゃないですかやだあ。
「木虎は素直じゃないですから」
「烏丸呼んで来いよ」
嵐山隊の木虎、彼女の対人欲求は年上からなめられたくない、同い年には負けたくない、年下には慕われたいというものだ。だが年上である玉狛の烏丸には素直なのだ、というかデレまくっている。
そういう意味では木虎はツンデレだ。俺達にはツンツン、烏丸にはデレデレ。
「あ、比企谷先輩のクラスの番ですよ。早く行ってください」
「もうそんな時間たったか、じゃあな」
そんなことを考えてると時枝に急かされたのでクラスの連中についていく。部屋に入る前、嵐山さんと目があった気がするがスルーだ。ああ佐鳥いたのか、木虎はずっと俺を睨んでいる。
トリガーは何にしようか・・・・・・あれ、一つしか選べないの? 合成弾使えないじゃねえか。
俺はボーダーのトリガーで一番好きなのは合成弾だ。トマホークとかギムレットとかかっこいい・・・・・・なんか材木座みたいで嫌だな。
まあ一つならアステロイドでいいか。ボーダーのトリガー使うの初めてだからわくわくしてきた。
全員の準備ができたのか嵐山さんがスタートの合図をする。
「それではF組、戦闘訓練始めっ!!」
合図を聞いた瞬間に目の前のバムスターにアステロイドを撃つ。狙う必要はない、俺の
トリオン量なら当たればバムスターの堅い装甲も貫ける。
俺から放たれたでかい豆腐はまっすぐバムスターの頭部を貫く。おお良いとこに当たった。
バムスターの残骸が消え、今度はさっきより至近距離にモールモッドが出現する。
「おおっ」
振り下ろされたブレードを懐に潜り込んで回避し、アステロイドを3発腹に撃ち込む。
そのまま動かなくなったモールモッドは消え、訓練終了の文字が出た。
ボーナスステージってこれかよ、ボーダーの奴以外じゃ倒せないだろ。攻撃の早さは訓練を受けた俺でもきつい。
普通のトリガーでまともに戦うって大変なんだな。俺がどれだけブラックトリガーの性能に頼ってたかよくわかる。
さて訓練も終わったし、一息ついたら部屋から出るか。
・・・・・・あれ? なんでみんなこっち見てるの?
俺が部屋から出てから最初に見た光景、それは他クラスの奴らからの視線だった。
俺の自意識過剰か? 左右を見れば他にも部屋から出てきている名の知らぬクラスメイトもいる・・・・・・なぜかこいつらも俺を見ているが。
気のせいだな、上にあるモニターを見てるだけだろ。そう思い、振り返って上を見上げる。
モニターを見た俺は、開いた口がふさがらなかった。
No.26 1秒 暫定1位
結果と俺の顔がでかでかとモニターに映し出されていたのだ。
はああああああああああああああああああああああああああああ?!!
なんで順位がついてんだよ、学校のテストかよ!いや問題はそこじゃない!なんで顔が出てんだよ!
早く消せええええええええ!!
「いやあ、すごいな比企谷君!ボーダー最速記録じゃないか!」
パチパチパチと拍手とともに混乱してる俺に賞賛を送る嵐山さん。いや名前出さないで
くれませんかね、自己紹介してないでしょ。俺とあんたは初対面、OK?
最速記録と聞いた他の生徒達もざわざわしだす。おい、目立っちゃうじゃねえか。
運のいいことに制限時間になったのか次々と残りの生徒も部屋から出てくる、俺はすぐにそこにまぎれこんだ。
F組の次は最後、国際教養学科のJ組だ。だが入れ替わる時に思いっきり雪ノ下に睨まれた。
「八幡すごいね!!僕なんて2分もかかっちゃったよ、えへへ」
列に戻ると天使のような笑みを浮かべた戸塚に褒められた。ああ1位でよかった・・・・・・
いやいや今回ばかりはダメだ!なんですぐ攻撃したんだ俺、スタートとか合図されると
反射的に身体が動いちゃうってあるあるかよ。
・・・・・・なんかどっかからそれあるっ!って聞いたことのある相槌が聞こえたような。
「ヒキタニ君すごいな、ボーダー入れるんじゃないか?」
「入る気はない。それよりお前はどうだったんだよ」
葉山が驚いたように声をかけてきた。回りの連中は奇異の目で俺を見ている、生憎と化け物扱いは慣れてんだよ。・・・・・・恥ずかしい。
「俺は58秒だった。ボーダー隊員を除けば2番かな。ボーナスステージはクリアできなかったよ」
マジかよ!他のクラスの奴なにやってんだよ!俺と葉山の間でそんな差があいてんのかよ。ってかモールモッド倒したのもまずかったか・・・・・・
「おっ、雪ノ下さんがもう倒したみたいだよ。ボーナスステージはどうかな」
「あいつもはええな」
モニターを見ると20秒でバムスターを倒した雪ノ下がモールモッドと対峙していた。
あいつはバイパーか、また難しいのを使ってるな。雪ノ下さんから習ったのか?
俺はバイパーを合成弾作る時にしか使わない、単発ならハウンドで十分だし。理系が苦手だからって軌道設定とかできないわけじゃないからね? 使えないんじゃなくて使わないんだからね?
まあ雪ノ下さんや那須みたいにリアルタイムで弾道を引くようなことはできねえけど。ああ出水もやってたっけ? あいつは感覚だけでやってんだろきっと。
意識をモニターに戻すが戦況は芳しくないようだ。モールモッドのブレードにバイパーが弾かれている。
まだ上手くバイパーを使えないのか? 雪ノ下のことだから訓練とかも割とやってると思ったが。
雪ノ下さんの芸術的とも言える弾道曲線を見慣れている俺にとっては、雪ノ下の描く軌道はお粗末なものに見えた。それでも上から大きく弧を描いたバイパーをモールモッドの目とブレードの間に入りこませ、目を貫くことで倒すことは出来たようだ。
「・・・・・・さすが雪乃ちゃんだな」
葉山がそう呟いた。雪乃ちゃんだと?
「なんだって?」
「うん? いやさすが雪ノ下さんだね、俺じゃ敵わないな」
いつものいけすかない笑みで答える葉山。
言い直しやがったな。雪ノ下と何か縁でもあるのか? テニスコートや部室でもそんな
気配はなかったが。
部屋から雪ノ下がでてきた。周りから褒めそやされているが、そんな連中など意に介さずこちらに向かって来ている。嫌な予感がする、葉山もいつの間にかいない。
「さすがに姉さんに目をかけられるだけのことはあるわね、でも次は負けないわ。」
それだけ言った雪ノ下は自分のクラスの場所に戻っていった。
ああ、そういや訓練受けてた設定だったわ。しかし罵倒されなかったのは意外だったな。
こうして訓練体験は終わり、全員がまた集まった。モニターには今回の順位がのっている。
1位 No.26 1秒 モールモッド撃破
2位 奈良坂透 3秒 モールモッド撃破 三輪隊A級隊員
3位 若村麓郎 8秒 モールモッド撃破 香取隊B級隊員
4位 材木座義輝 9秒 モールモッド撃破 B級隊員
2位から14位くらいまでは正隊員や訓練生が占めていた。
だが―――
8位 No.33 20秒 モールモッド撃破
これがおそらく雪ノ下、正隊員に混じってランクインしていた。
葉山は15位で、一般の生徒では一番だろう。そんなことよりだ。
これは非常にやばい、なんというか俺がやばい。
今俺は嵐山さんに呼ばれ雪ノ下、葉山と一緒に生徒全員の目の前に立っている。こんなに注目されたことねえから、まじで漏らしそうなんだが。冷や汗が止まらん。
「葉山君、初めてで1分切るのはすごいな!君は体格もいいしトリオンも十分だ、ぜひ
ボーダー入隊を考えてほしい」
「ありがとうございます。前向きに考えてみます」
嵐山さんが葉山を勧誘している。もしかして一人ずつこんなこと言われるのか?
それにしてもなんだこのイケメン二人、兄弟かよ。周囲の女子の歓声が煩わしい。
「さすがだね雪乃ちゃん、モールモッドまで倒せるなんて驚いたよ」
「いえ、訓練は何度も経験してますので。それに姉さんに比べたらまだまだです」
「ははは、相変わらずストイックだな雪乃ちゃん。ボーダー入隊を楽しみにしてるよ」
「はい・・・・・・その時は、よろしくお願いします」
今度は男子生徒から歓声があがった。
雪ノ下はボーダーに入るつもりなのか? まあ雪ノ下さんが入ってるから美人姉妹のボーダー隊員で売り出せば、ボーダーとしてもスポンサーの雪ノ下建設にしてもメリットはあるだろう。
だが高校2年生にもなってまだ入隊していないのはどういうことだ? 雪ノ下さんがいつ入隊したのか知らんが俺が初めて戦ったのは彼女が高校1年の時だ。明らかに今の雪ノ下は高1の雪ノ下さんより弱い。
そんなことを考えていると嵐山さんが俺の前に来た。最後は俺の番か。
「比企谷君、ボーダー最速記録おめでとう、君が正隊員じゃないのが惜しいな。それに訓練用トリガーであの威力はすごいぞ!」
え、普通のトリガーじゃなかったの? 訓練用とか聞いてないんだけど。
「それにトリオン任せじゃなく的確に頭部を狙った技術やアステロイドの展開速度も文句なしだ」
いや狙ったんじゃなくて偶然です、トリオン任せでどこ当たってもいいと思ってました。
「そしてボーナスステージで用意したモールモッド、あれは戦闘力が高くてC級隊員でも倒すのが難しいんだ。回避から攻撃までの流れもスムーズだったし、今の比企谷君ならすぐにB級隊員になれるぞ」
嵐山さんの言葉を聞いても誰からも歓声はあがらない。
まじでーとかあいつ誰って声が聞こえる。静かだから小声でも聞こえてんだよ!
おい木虎、佐鳥笑ってんじゃねえよ。
「八幡君かっこいいぞ~!」
ああ、俺にも歓声あったわ・・・・・・あいつは絶対面白がってるだけだ。
声の主は宇佐美だ。校内の美人ボーダー隊員からの名前呼び+かっこいいの声に学年全体でざわつきが起きる。恨めしそうに宇佐美を見ると、眼鏡を光らせサムズアップをしていた。
もうあいつ無視だ無視。
「八幡すごかったよー!!」
今度は戸塚の声だ、すぐに見てみると顔を真っ赤にしている。恥ずかしがってる戸塚可愛い。
「比企谷君、何をデレデレしているの。ここは公衆の面前よ、あなたの特殊な性癖を披露するのはやめてくれるかしら」
隣にいる雪ノ下からも歓声・・・・・・もとい罵声がとんできた。お前そろそろ睨み過ぎで顔面神経痛になるぞ。
「そんなもんねえよ。いつ俺がデレデレしたんだよ」
「鏡を見ることをお勧めするわ、あなた酷い顔してるわよ?」
「そこは例えろよ、公衆の面前で罵られるとか勘弁だわ」
「そうね、あなたにとってはご褒美になってしまうものね」
すると俺と雪ノ下を見比べた嵐山さんが火に油を注ぐ。
「おっ、雪乃ちゃんと比企谷君は知り合いなのかい? それにとても仲が良さそうだ!
やっと雪乃ちゃんも男の子の友達が出来たんだな!」
あの可愛い戸塚からの声と、嵐山さんによって友達認定された俺と雪ノ下に、周りはさらに騒然となる。嵐山さんわざとやってませんか?
「―――っ!、彼とは友達ではありません」
「へ? まさか恋人かい?」
辺りがシンと静まり返る、誰もが固まっているようだ。雪ノ下、氷雪系トリガー解除してくれよ。
あ、雪ノ下も固まってるわ。
早く否定しなくては・・・・・・
「「違います!!」」
・・・・・・やっちまったーーーーーーー!!
なんでこういうときにハモるんだよ、なんなの? 俺たちアーティストなの? 高音と低音でクオリティの高い音楽作りがしたい訳じゃねえんだよ!
雪ノ下の顔はもう戦隊もののリーダーかってくらい真っ赤だ、僅かだがぷるぷる震えている。
「ああ、すまない。こんなところで言うことじゃなかったな」
謝りながら頭をかく嵐山さん。
言う前に気づいてくれませんかね、後が怖いから。
「とにかくだ、君はすごい才能を持っている。ぜひボーダーに入ってくれ!」
しかし嵐山さんはやけに俺を褒めるな・・・・・・俺がボーダーに入らないってのは知ってるはずなのに。
ご丁寧に生徒達にもわかりやすく説明してたし、まあ職場見学だからこういうもんか。
「ヒキタニー、ボーダー入れー!」
「ネイバーを倒せー!」
急にそんな声が投げかけられる、ヒキタニって誰だよ。だが俺のツッコミとは裏腹に一人、また一人と俺に声を投げかける生徒が増え、次第に学年全体に広がりヒキタニコールが巻き起こる。
「ヒーキタニ!ヒーキタニ!」
いったい何が起きてるんだ・・・・・・学校でぼっちだった俺が、あれよあれよという間に葉山や雪ノ下を凌ぐ歓声を受けている。これどうやって終わらすの・・・・・・。
その時、嵐山さんが手を上げヒキタニコールを止める。その表情はどこか硬く感じた。
ああ、そうか。これは俺をボーダーに入れるための芝居か、おそらく最初にコールに火をつけた奴も仕込みだろう。学校のお調子者は上手く扇動された訳だ。
「ボーダーに入ってほしいのは比企谷君だけじゃないぞ!ここにいる皆にも、もっとボーダーの事を知ってもらって入隊希望者が増えることを願っている。俺達と一緒に三門市を守ろう!」
「おおーーーー!!」
嵐山さんの言葉で感化された奴らが歓声をあげる。
「やっぱボーダーかっこいいよなー」
「俺も入ろうかなー」
口々にそんなことを言ってるのが聞こえてくる。お調子者共め。
しかし、俺への矛先を逸らしてくれたことには感謝だな。すでに学年全員の興味は俺から離れている。
さっきまで囃し立ててたくせに手のひら返すのがはええんだよ、レゴかよ。
嵐山隊は城戸派と玉狛派の中立とも言える忍田派に属している。俺にこんな三文芝居を仕掛けるなんて命令を忍田さんは出さないし、嵐山さんが独断でこんなことをするとも思えない。
つまり城戸さんの息のかかった奴らの仕業か? 学校で俺の居場所を無くすための?
確かにあの空気で俺がボーダー入隊を拒否したら学年一の嫌われ者になっていただろう。
さすがの俺もそれはキツイぞ。
職場見学は嵐山さんの解散の声とともに終了した。俺は平塚先生を待っているので残っている。
そういえば帰り際の雪ノ下にこんなことを言われた。
「さっきのことは忘れなさい・・・・・・あなたの記憶を消さなければいけなくなるわ」
雪ノ下の目は本気だった、さっきのことは俺も忘れたいです・・・・・・
「ヒッキー!遅い!みんなファミレス行っちゃったよー」
そんなことを考えてると由比ヶ浜が駆け寄ってきた。ああ、打ち上げか。なんで職場見学の後に打ち上げがあるのか俺には理解できん。
俺は誘われてないけどな・・・・・・
「俺は行かねえよ。悪いな、手間かけさせて」
「え?! そうなんだ・・・・・・」
由比ヶ浜は元気を失くしたように俯く。
「ねえヒッキー・・・・・・入学式のこと覚えてる?」
「入学式? いきなりなんだよ。俺は事故って入院してたから入学式には出てないぞ」
なんだ? 入学式になにかあったのか?
「あの、ね・・・・・・ヒッキーが事故に遭ったのあたしのせいなの。うちのサブレが飛び出したから、ヒッキーが助けてくれたから・・・・・・怪我までさせて・・・・・・」
そう言いながら制服の端をぎゅっと握る。そういうことか、こいつが俺の助けた犬の飼い主だったのか。
道理で前から俺を知ってるはずだし、今まで俺なんかに優しくしてたわけだ。
まあほんとは無傷だったんだから悪いことしたな。やっぱり由比ヶ浜は優しい奴だな。
仕方ない、負い目を無くしてやるか。
「由比ヶ浜、そこまでだ。お前ん家の犬、助けたのは偶然だし入院してなくても俺はぼっちを貫いてた。お前が気に病む必要は全くねえよ。悪いな逆に変な気遣わせたみたいで、もうこれからは気を遣って優しくすんのはやめてくれ」
うむ、バッチリだ。これで由比ヶ浜も負い目なく俺に接することができるだろう。
「いやあ、なんだろうねえ。別にそういうんじゃないんだけどなあ・・・・・・」
ふと彼女を見ると、その目には涙が浮かんでいた。あれ?
「―――バカ」
そう言って駆けて行ってしまう由比ヶ浜。俺はそれを呆然と見ていた。
ああ、そんなに俺が嫌いだったのか。気を遣う必要が無くなったから最後に罵声を浴びせて、もう俺に用はないと・・・・・・
うわああああああああああ、恥ずかしいいいいいいいいいい!!!!
また勘違いしちゃったあああああああああ!負い目が無くても俺と普通に話してくれるとかありえねえよ!!
なんで考えればすぐ分かることなのに、いつも大事な場面で間違うんだ!
「ひ、比企谷・・・・・・そんなところで転がって何をしているんだ・・・・・・」
こちらを見て、どん引きしている平塚先生と目が合う。そう俺は誰もいないボーダー本部の一角でゴロゴロ転がって悶えている。
俺は何事も無かったように立ち上がり先生のところに向かう。
「遅いですよ、早く行きましょう先生」
「あ、ああ」
何も追及させないという俺の濁った目を見て、先生も見て見ぬふりをしてくれるようだ。
だいぶ歩き、会議室の前まで来ている。遠すぎだろ、ショートワープ使えばいいのに。
コンコン
「失礼する」
いつも奉仕部ではノックをしない先生でもさすがに本部ではノックをするらしい。
警戒しつつ中に入ってみると、そこには城戸司令を筆頭にボーダー上層部、玉狛支部長の林藤さん、A級の風間さん、B級の二宮さん、そして知らない外国の軍人3人がいた。誰だこの人達。
「よく来てくれたね、比企谷君。かけたまえ」
城戸さんの挨拶に応え、椅子に座る。
「ボーダーのメンバーはみんな知ってると思う。まずはこちらの方の紹介を」
そう促された軍服を着て座っていた若い外国人が立ち上がる。後ろの二人は護衛か? ちょっと待て、俺は英語なんか話せないぞ!
俺の考えに気づいたのか、外国人はスマイルを浮かべる。なんだよスマイルって。
「自分は、合衆国統合参謀本部のポール・デイビス少佐であります。日本語も話せるのでご安心を、比企谷君」
おお、さすが軍人さん。ってアメリカじゃねえかあああああああああ!!
もう用件はわかった、鳩原さんの件だ。俺が千佳の兄貴に誘われたのが知られてたのか。
「ははは、どうも。アメリカの軍人さんが何の用なんですかね」
「もう見当はついているだろ、無駄な誤魔化しはやめろ。お前は知ってることを教えればいいんだ」
「二宮君」
忍田さんに諌められたのはB級の二宮さん。鳩原さんとチームを組んでA級にいたが、今回の事件でB級に格下げされたらしい。ちなみにあの雪ノ下さんを超えるNo.1シューターとかなんとか。
「鳩原さんが向こう側の世界に逃亡した件ですよね」
「やはり比企谷君は知っていたか」
「ええ、俺も誘われましたから」
そう言った瞬間に全員の視線が俺に向く。あれ知ってたんじゃないの?
「そうか、君がここにいるということは誘いを断ったのかね」
「そりゃ俺には妹の小町がいますから」
「君の知ってることを教えてくれないか?」
忍田さんに言われ、事のあらましを話す。千佳の兄貴と鳩原さんに誘われたこと、アメリカ政府に協力者がいると聞いたことなどだ。その話を難しい顔で聞いていたデイビス少佐が一枚の紙を渡してきた。
「これは秘守義務の誓約書です。今から言う話は、国家機密に該当するのでサインを頂きたい」
おいおい、話がキナ臭くなってきたぞ。聞きたくないんだけど帰っていいかな? そう思って平塚先生を見る。
「書け」
返ってきたのはたった一言だ。しぶしぶペンを取り、サインをする。
「ありがとう比企谷君」
デイビス少佐は宣誓書を一目見てからファイルにしまった。
そして一呼吸して話し出す、内容はこうだ。
アメリカではゲートのことをスターゲイトと呼称していて、開かれるゲートに対応するためスターゲイト計画を立ち上げた。
そしてボーダーとは違い、合衆国政府がスターゲイト計画を統括し、合衆国空軍がコロラド州シャイアン山地下のスターゲイト基地<SGC>で運営を行っている。
当初、通常兵器では対抗できないトリオン兵に対して苦戦したが、旧ボーダーの協力を受けトリガーの開発、研究を進めることでネイバーに対抗するトリガーや遠征艇の生産に成功し、現在ではSGチームが様々なネイバーフッドに遠征している。
しかし、SGチームの一つであるSG-3のリーダー、ロバート・F・メイクピース大佐が友好国のトリガーを盗み逃亡したらしい。
それに呼応するかのように今回の鳩原さんの事件があったため、ボーダーと協力して調査を行うことになったとのこと。
「比企谷君の話によれば政府の中に内通者がいるとみて間違いはないでしょう。たとえSG計画に選ばれたエリートといっても、一兵士にできることではありません」
「確かに、それに鳩原に協力している雨取麟児という男をもっと調べねばな」
俺はもう情報が多すぎて頭が痛い・・・・・・
ふとデイビス少佐が話しかけてくる。
「比企谷君はボーダーに入らないと言っていると聞いたが、どうだい? 妹さんと一緒にSGCで働く気はないかい? もちろん軍属ではなく民間からの協力者という形でだ。安全なネイバーフッドへの旅を体験してみたくないかい?」
スカウトまでされちゃったよ。確かにネイバーの世界に行ってみたいとは思うが、そもそも言葉が伝わるここでも、人とコミュニケーションが取れないのに言葉のわからないアメリカ軍の基地で働くとか無理だろ。
「少佐、引き抜きは困る。比企谷君を軍に渡すつもりはない」
城戸さん、ボーダーに渡るつもりもないですよ。
「比企谷君ご苦労だった。もう帰ってもらって構わないぞ。後は我々で協議する」
「待ちたまえ」
助け舟を出してくれた忍田さんに感謝しつつ、帰ろうとすると城戸さんに止められる。
「なんですか」
「学校での生活は平塚君から聞いている、だがボーダーは君の唯一の居場所だ。いつでも君を歓迎しよう」
「そうすか、まあ俺に居場所なんてどこにもないと思いますけどね」
そう言って俺は会議室を後にした。
まさかアメリカでもゲートが開いていたとは、三門市だけだと思ってたわ。それにしてもサインしたからってこんな話を俺にしていいのかよ、しかもスカウトまで。
もう今日あったことは全て忘れよう。
そう思いながら、重い足取りのまま帰路についた。
比企谷八幡定時報告。
今日ははちま……比企谷のボーダー職場見学の日。
結局三輪隊をはじめどことも防衛任務を代わってもらえなかった。
そういえばC組にあざとくてウザい女がいるらしい。ちょっと可愛いからって調子に
乗ってるってクラスの女子が言ってた。どんなのか知んないけどぶっちゃけアタシより可愛いとか
ありえないよね。はあ……八幡に会いたい。
みんな大好きスターゲイトです。あれ?知らないですか?
SGは今のところ、こういう世界があることを伝えたかっただけなので
本筋には関わってきません。ワートリ原作がもっと進んだら絡ませていく予定です。