IS~codename blade nine~   作:きりみや

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閑話 底なし沼一歩目

 日曜日。午後6時。

 静司とシャルロットの部屋は異様な雰囲気に包まれていた。

 

「かわむーかわむー次はこれ~」

「ふむ、じゃあセットするか……ん? どうしたお前ら?」

「どうしたもこうしたも……」

「2人ともタフだね……」

 

 自室から持ってきた鞄からDVDを取り出す本音とそれをデッキにセットする静司。その後ろで一夏達がぐったりしていた。

 

「朝の8時から今までずっとぶっ通しでアニメ見てんのよ……? 流石に疲れた……」

「僕もちょっと……内容が面白いから見始めると何とかなるんだけどその合間に一気にくるね」

 

 始まりは昨日の夜になる。

 

『かわむーはもっと色々楽しいものを知るべきだよ』

『アキバに行く前に予習だね~』

 

 夕食時の本音の言葉に静司も『ああ、予定が合えばなー』と答えていた。

 

『じゃあ明日は予習しようー。おりむーは明日暇~?』

『ん? ああ、俺は特に用事ないけど』

『よーし、じゃあ明日は皆で鑑賞会だね~。しゃるるんもいい?』

『へ? い、いいけど……そのしゃるるんって?』

『シャルルだからしゃるるんなのだよ。因みにこっちはおりむーかわむーのむーむーコンビだね~。しゃるるんもむー付けたかったけど、しゃるむーじゃなんかおかしいからしゃるるん』

『そ、そうなんだ……』

 

 何か本音の雰囲気に圧倒されるシャルロットだったが了承。そして一夏と女子生徒が同じ部屋に!? と反応した箒、セシリア、鈴も又参加を表明。

しかしその時は誰しも、朝8時に本音が来るとは思っていなかった。

 静司は驚いたものの、一夏も出かけないしまあいいか。と招き入れ、一夏も「俺も構わないぜ」と参加。他の面子も元々休日でも早く起きるような面子だったので問題なし。

 そしてアニメ鑑賞会が始まった。

 

朝8時時点。

 

「よーし、じゃあどれがいい~?」

「と、言われてもな……。幾つか本音のおすすめを教えてくれ」

 

 うんうん、と全員が頷く。異論は無いようだ。本音は「んー」と悩みながらも携帯端末を部屋のテレビに繋ぎ、全員に見えるようにするとに幾つか作品をピックアップした。

 

「じゃあこれ~ 『駐車王 グゴガイガー』」

「なんか言いづらいタイトルだな」

「というか駐車?」

「うん。決め台詞は『足りない切符は気合いで補え!』だよ」

「違反してるじゃない!?」

「つまり歩いて帰るという事でしょうか? その……気合いで?」

「私が知るか!」

 

 全員のツッコミで却下。う~ん、と唸りつつ次のデーターへ。

 

「次はこれ~『マドダックス』。耳に残るテーマ曲と無敵の銃撃シーンが印象的」

「……なあ、本音。俺にはとっても可愛らしいダックスフンドが舌を出してハァハァ、してる写真にしか見えないんだが」

「うん。主人公はダックスフンドだよ~。印象的なセリフは『野犬に……しないで』」

「何があったんだその主人公(犬)!」

「というか、まず銃撃シーンとやらに突っ込むべきでしょうか?」

「……しかしパッケージは可愛い」

 

 次。

 

「これも面白いよ~。痛快娯楽収集癖『ガン・ドーゾ』」

「難儀そうな主人公だね」

「というか収集どころか人にあげてないか? タイトル的に」

「有名なセリフはね、『俺(の家)は豪邸だ!』」

「腹立つわ!?」

「なんで、こう、ツッコミどころ満載なのばかりなのだ?」

「ちっちっちっ、普通の作品じゃつまらないのだよ、ほうきん」

「ほ、ほうきん……?」

 

 首を捻る箒を余所に、本音はふむふむ~頷きながらデータを弄っている。

 

「次が本音さんの一番のおすすめだよ~」

「ふむ。ばっちこい」

 

 他の面子がツッコミ疲れしてきた中、お~、と本音がデータを変えた。

 

「じゃ~ん、『猛省のバグエリオン』」

「……一応、簡単な内容を聞こうか」

「えっとね、人類が自然を壊した事で怒った虫たちと戦う話~」

 

 へえ、とシャルロットが頷く。

 

「bug、つまり虫との戦いって訳だね」

「猛省とは人類が反省しているという事でしょうか?」

「ちょっと不安だったけど意外にまともそうじゃない」

「ふむ、悪くないな」

「それにパッケージにロボット映ってるし面白そうだな」

 

 それでいいんじゃないか? という雰囲気の中、何か予感がしていた静司が聞いてみる。

 

「因みに決め台詞は?」

「『あなたと伐採したい……』」

「「「「反省しろよ!?」」」」

「むしろ開き直りすら感じるな。面白そうだしそれでいこう」

 

 そうして鑑賞会は始まったのだった。

 

 

 

 流石に多少食事などの休憩も挟んだが、殆どぶっ続けで見続け、終了したのは午後10時。

 

「自然は……大地は偉大だった……っ!」

 

 一夏は一人空を見上げ、握りこぶしで熱く頷いていた。

 

「虫があの様に進化したら……私に斬れるか? いや、自然の代弁者である彼らを斬る覚悟は……」

 

 箒もブツブツと何かを呟いている。

 

「私……これから一勝するごとに木を植えるわ……ぐすっ」

 

 何故か泣きながら自然保護に目覚めた鈴。

 

「虫怖い虫怖い虫怖い……」

 

 新たなトラウマが増えたらしいセシリア。

 

「伐採依存症になった主人公達を敵だった虫たちが体を張って正気に戻させる……。どんなに見た目や行動が残忍でも彼らの行動原理は一つなんだね。譲れない思い、か。僕にも見つかるかな……」

 

 涙を拭きながらちょっとアンニュイなシャルロット。

 

「なんだこの状況?」

「だからお勧めと言ったのだよかわむー」

 

 カオスとなった自室を見渡し唸る静司と、皆の反応の良さに機嫌が良い本音。

 

「それで、かわむーはどうだった~?」

「ん? ああ面白かったよ」

「んー、かわむーこっちに顔を向けるのだよ」

 

 なんだ? と振り向いた静司の顔を固定すると、本音の手が眼鏡を外し、前髪をかきあげた。

 

「ほ、本音?」

「……むう、まだまだだね~」

「? ?」

 

 何かを悟った様に頷く本音と訳が分からない静司。

 

「うひひ、次はもっとびびっ、と来るものを準備するので待ってるがいいのだよ~」

「あ、ああ。期待しとく?」

 

 良くわからないままに頷き、部屋を見渡す。流石に一日中籠っていたので色々とゴミが散乱し、掃除が大変そうだ。だが、たまにはこういうのも良いだろうと思う。今までの人生では経験したことの無かった、何かがそこにはあった。

 

(これがわかればスッキリするのかね……)

 

 それは誰にもわからない。自分で見つける事だ。だからもう少しこの空気に浸っていたい。

 結局見回りに来た千冬に一喝されるまで、静司の部屋のカオスは続いたのだった。

 




本音の静司オタク化計画

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