IS~codename blade nine~   作:きりみや

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12.Monday attack ③

 IS学園で起きている異常事態。それは当然、更識家やEXISTだけでなく学園の教師たちも気づいていたが、状況把握に関しては最も劣っていた。これは学園の地下は一部の人間しか知らなかったことが原因だった。

 元々あそこは日本政府が極秘に作った場所。一方的に負担を強いられ学園を創設した日本だが、それでは面白くない。折角、各国からISの操縦者が集まるのだ。その情報を元に研究する施設を極秘に作っていてもおかしくは無い。

 ISの技術は基本的に開示することが義務だ。だが『あらゆる法の適用外』であるIS学園だけはその義務から外れる。しかし日本政府は学園の運営を任されたことを利用し、独自に情報を収集していた。そしてその為の施設が地下のそれだ。

 だがそこで戦闘が起きている。それは日本政府にとっては悪夢の様だろう。このままでは世界中にバレてしまうのだから。今はまだ小さな揺れ程度だか、段々とそれが激しくなり、さらには音も響いてきている。外は豪雨な為、なんとか誤魔化せているが、これ以上は危険だった。

 

「だからと言って、このままにはしておけません」

『だがな織斑君……』

「学園に侵入者が居て、そいつらが警備システムを完全に掌握しているのです。このままではどんな干渉をされるか分からない。故に一度、敵の支配を遮断する必要があります」

『だがそうなると一時的に学園は無防備になる。その間に各国の諜報機関が何をしでかすか……』

「このままではそれ以上の大失態が起きると言っているんです。どちらが貴方の首が飛びやすいか、考えてみると良い」

『…………分かった。許可する』

「感謝します」

 

 学園の総合管制室。そこで通信を切ると千冬は苛立ち気に顔を顰めた。その様子を見ていた真耶が心配そうに尋ねる。

 

「織斑先生」

「山田君か。やっと許可降りた。更識に連絡を取ってくれ」

「わかりました……しかし本当に良いんでしょうか?」

「良くは無い。だが他に方法も無い」

 

 学園の警備システムの遮断。本来ならいい筈が無い。だが現在システムは完全に掌握されており、このまま使用するのは危険だ。つまりこれは賭けだ。

 

「更識が用意しているというサブシステム。切り替えにどれくらいかかる?」

「先ほどデータは確認しました。元々準備はある程度整っていたようですが、それでも30分はかかります」

「長いな……しかし山田君がそう言うならそれが最速なのだろう」

 

 普段はどこか頼りないが、彼女の能力が高い事を千冬は知っている。これは信頼だ。

 

「けど本当なのでしょうか? 植村先生がスパイだったなんて……」

「更識からの情報だ。こんな状況で冗談を言うとは思わん。だが、」

 

 植村加奈子がスパイ。ではもう一人、下で戦っているのは何者だ?

 地下の情報は完全に遮断されており、情報は掴めていない。更識家は何かを知っているようだが、あれは味方です、という答えが返ってくるのみ。教えるつもりがないその返答に不信感を持つのも無理は無かった。

 だが、いまはそれに頼るしかない。

 

「システムカット、準備できました!」

「よし、各自IS展開! ハイパーセンサーの範囲を広げろ! 学園のシステムがダウンしている間はISが頼りだ!」

『了解!』

 

 現在学園の周囲でISに搭乗し警備に当たっている教員たちに告げる。範囲はある程度限定されてしまう上に、今夜は豪雨に加えて雷も酷く索敵には向いていない。だが何もしないよりは遥かにましだ。本来は千冬も出たい所だが、IS戦闘を最も熟知している彼女が臨時指揮官を任されていた。

 やがてシステムが一時遮断され、管制室の明かりが一瞬消える。直ぐに非常灯に変わり、薄暗くなった管制室で残った教員たちが復旧作業を急ぐ。そんな中、

 

『緊急連絡! 上空に所属不明のISを確認! ……高エネルギー反応!』

「何っ!?」

 

警備に当たっていた教員からの報告。それを確認しようとした途端、轟音と同時に学園が静かに揺れた。

 

「きゃああ!?」

「落ち着け! 今の音は雷だ!」

 

 慌てる真耶を叱咤しつつ、通信を繋げる。

 

「何があった!」

『所属不明のISが地面に何かを撃ちこんでいます! これはまさか――』

 

 再び学園が静かに揺れる。豪雨と雷で千冬たちには分からないが、外では低く、唸るような音が断続的に響いていた。

 

『爆弾です! 奴は爆弾を地下に撃ちこみ起爆させています!』

 

 状況に気づいた教師の一人の報告に全員が青ざめた。まさかそのISは――

 

『下にいる人間もろとも、生き埋めにするつもりです!』

 

 

 

 

 上空にISが現れる少し前。学園の地下でゆっくりと動く影があった。

 

 熱い……それに息苦しくて、痛い。

 

「んっ……」

 

 鼻に付く煙の臭い。そして何かが崩れる音と、パチパチと燃える音。その音に起こされるようにシャルロットはゆっくりと目を開いた。

 

「ここは……?」

 

 何か狭い空間に押し込まれている。目の前には壁があるが、穴が開き、そこから外の様子が見えた。天井が崩れ炎に照らされ赤く揺れている。ここはいったいどこだろうか? そもそも僕は何故ここに……?

 起きあがろうとして違和感に気づく。手足が動かない。何かに拘束されている様だ。シャルロットからは見えないが、彼女は両手両足を棺桶に固定されていた。

 自分は捕まっている。それを理解すると同時、記憶が蘇る。夜に鳴るまで隠れていたアリーナ。そこの管制室の前で植村加奈子に襲われた事を。何か、箱の様な物に押し込まれ、薬か何か匂いが箱の中にしたかと思ったとたん、意識を失ったのだ。

 

「このっ……」

 

 体を強く動かすがびくともしない。しかし自分には別の手段がある。

 

(おいで、ラファール)

 

 自らのIS。ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡを呼び出す。光の粒子が体を包み、そして拘束を強引に引きちぎり、箱を内側から破壊するようにISがその姿を現す。

 ISに搭乗したシャルロットは状況判断の為、ハイパーセンサーを作動した。

 

――12時の方向。距離5にIS反応。

 

「!?」

 

 自分の真後ろを示す警告に驚き慌てて振り返り、そして絶句した。

 そこに居たのは巨大な両翼を広げた黒いIS。その後ろ姿はどこか神秘的で、そして威圧感に溢れており、思わず後ずさってしまった。

 

ぴちゃ

 

「え?」

 

 ふと、足元で聞こえた水音。そこに目を向けシャルロットは悲鳴を上げた。

 

「きゃあああ!?」

 

 それは血だまり。丁度皿の様に窪んでいたその場所に、血が溜まっていた。

 何故? どうして? これは誰の――

 はっ、と気づく。それと同時に黒いISがゆっくりと振り返る。

 

「気が付いたか……無事か?」

 

 それは機械によって変えられた合成音声。しかし声の端端に苦痛の色が見えた。だがシャルロットのは別の事に意識が向いていた。

 それは黒いISの惨状。右腕は完全に潰れ、装甲も彼方此方が剥がれている。肩には針が数本刺さっており、今も血を流している。そして一番ひどいのがわき腹。そこは大きな裂傷が見受けられ、黒いISの装甲を流した血で赤く染めていた。

 何が無事か? だ。自分こそ大怪我をしているではないか。

 

「あなたこそ傷がっ!」

「構わない。お前が無事ならば」

 

 何を言っているのだ? 自分はこのISの搭乗者を知らない。当然だ。初めて会ったのだから。だが、ISの姿だけは見たことがある。

 それはIS学園で行われたクラス対抗戦。その時にこのISは現れている。学園は箝口令を敷いていたが、空であれだけ戦ったのだ。その姿は各国が捉えており、フランスも然りだ。だが映像はかなり荒く、時間も短かった。だが、今はそのISが目の前でしかもボロボロの状態で佇んでいる。おそらく父が知れば大喜びで捕獲を命じるだろう。しかしシャルロットにはそんな気は無かった。

 

「傷……! 早く手当を!」

「呆れたな……。敵かどうかも確認せずに手当してどうする。それに――まだ終わってない」

「え……?」

 

どういう事か聞こうとするがそれは前方から聞こえてきた声によって遮られた。

 

「ふふ、ふふふふふ、ふふははははははははははははは!」

「植村先生……?」

 

 瓦礫の中かから灰色のISが這い出る。それはシャルロットを連れ去り、そして先ほどまで静司と戦っていた女。ISは黒翼以上に破壊され、膝と肩には黒翼の膝から放たれたアンカーが突き刺さっている。両腕両足の装甲は融解し、まだISが稼働しているのが奇跡の様な状態だ。そんな満身創痍の女は狂ったように笑っていた。

 

「消し炭にするつもりだったが、頑丈だな」

 

 シャルロットの無事を確認し、多少冷静になった静司が指摘すると、女は笑いを止め、ぐりん、と首を静司に向ける。その眼に宿るのは、憎悪。

 

「よくも……あの方から頂いたこのブラッディ・ブラッディをっ!」

「あの方……?」

「ふふ、ふふふう殺す殺す磨り潰して殺す叩きつけて殺す焼いて殺す串刺しにして殺す殺す殺す!」

 

 そこに先ほどまでの余裕は見られず、狂ったように呪詛を吐く。その姿にシャルロットは思わず後退してしまう。

 

「グダグダ五月蠅いんだよ。だったらこっちはシンプルに首をもぎ取って殺してやる」

 

 静司もまた、このままでは終わらない雰囲気を察し、左の爪を構える。体を動かす事で傷が広がり、更に血を流してしまう。それを見たシャルロットは唐突に気づく。

 

(もしかしてこの人は僕を助けるために?)

 

 自分を攫った者と敵対し、そして無事で良かったと心配された。その状況からも彼が味方だと分かる。そして彼の戦う目的は――自分。それを理解した途端、シャルロットの顔が青ざめた。

 

「やめて! これ以上無理をしたら……!」

 

 目の前のISの傷は深い。そして流れる血が操縦者の危険を知らせている。これ以上は命に係わりかねない。だが敵は止まる気配は無く、むしろ殺気を膨らませるばかり。それに呼応するように黒翼も唸り声を上げていく。駄目だ。このままではいけない。だがどうすればいい。巻き込んだのは自分だ。自分に何が言える? 何ができる?

 このまま何も出来ずにいれば2人が激突する。お互いのあの傷だ。下手したら両方死ぬだろう。だが見ている事しか出来ない。自分にはどうする事も――

 

『はいはいストップ。まったく血気盛んねえ』

 

「「!?」」

 

 突然響いた場違いな明るい声に2人の動きが止まった。

 

『あなたを今失う訳にはいかないのよねえ。だから戻ってらっしゃい。最初の目的は達したのだからねえ』

 

 声は地下で生き残っていたスピーカーの各所から響いている。

 

「何者だ」

『そのこの保護者であり上司である者よ。悪いけど今回は引かせてもらうわ』

「させるとでも?」

 

 言い放ち女には翼を向ける。だがスピーカー越しの声は笑った。

 

『させてもらうのよねえ。わかったわね、シェーリ?』

「はい、わが主」

 

 シェーリと呼ばれた女は先程までとは打って変わって落ち着いた顔に戻ると静司を無視して後退していく。

 

「ふざけるな!」

 

 散々好き勝手した挙句、このまま逃がす? そんな事許す訳がない。傷ついた体を動かし追撃しようとした瞬間、地下にこれまでとは比べ物にならない衝撃が響いた。

 

「っ!? これは……!」

「きゃあ!?」

 

 断続的に響く轟音と、衝撃。これは上からの衝撃だと静司は気づいた。天井が崩れ、唯でさえボロボロの地下が埋められていく。

 

『ではさようなら。黒い翼のイレギュラー』

「ちぃっ!」

 

 崩れゆく地下の中、飛び去る女にR/Lブラストを放つが当たることなく、壁を破壊するに留まる。その間にも2人の居る地下はどんどん埋もれていく。

 これ以上ここに留まるのは危険だ。それに最優先すべくはシャルロットの身柄。自分たちも脱出しなければならない。

 

「来い!」

「きゃっ」

 

 腕を掴み黒翼で地下を駆ける。最初は引きずられていたシャルロットもラファールを動かし直ぐに自ら飛び出した。

 

「どうするの!?」

「上に上がるエレベーターがある! そのシャフトから直接ISで地上に出る!」

 

 おそらくあの女も別のエレベーターに向かったはずだ。入口は複数ある。その一つを目指す。

 崩れていく地下を右へ左へ高速で駆ける。その間も衝撃は続き、瓦礫の山が降り注いでくる。

 

(あと少し……!)

 

 あと少しでエレベーターシャフトが有るはず。更にスピードを上げようと出力を回した瞬間、ぐらり、と静司の視界が歪んだ。

 

「くそっ……!」

 

 平衡感覚を失い壁に激突した静司はそのまま床を滑り、やがて落ちてきた瓦礫の山に激突した。

 

「大丈夫!?」

 

 シャルロットが慌てて傍に降りて声をかける。朦朧とする意識の中静司は原因に気づいた。

 血を流し過ぎたのだ。

 怒りに身を任せ、何も考えずに戦った結果。唯でさえ、このISは欠陥が多い(・・・・・・・・・・)のにそれを無視して戦った成れの果てがこれだ。だが、このまま2人仲良く生き埋めになる訳にはいかない。

 

「……行け」

「え?」

「この道を進めばエレベーターがある。シャフトを破ってそこから脱出しろ。まだここより可能性がある」

「そんな……! あなたを置いてなんて行けないよ!」

 

 今にも泣きそうにシャルロットが叫ぶ。その心にあるのは後悔。自分があんな行動をしなければ捕まらなかったかもしれない。自分がもっと自分の意思を持っていれば、状況に流されなかったかもしれない。そうすればこの人もこんな目に合わなかったかもしれない。なのに置いて行けと? そんな事できる訳がない。いっそ自分が死んでしまえば――

 

 暗い昏い感情に押しつぶされそうになるシャルロットの頭に固い手が乗せられた。

 

(―――えっ?)

 

 一瞬、ルームメイトの姿を思い出す。だが目の前に居るのは正体不明のIS。彼では無い。その黒いISはゆっくりと語る。

 

「そんな目をするな。お前のせいじゃないというのは簡単だが、お前はそう思わないだろう。だが、だからと言ってこの状況でお前が死んでどうこうなる事でも――ない」

「けど――」

「俺にも不安はある。後悔はある。分から無い事だらけで押しつぶされそうな日もある。それでも死んでやろうとは思わない。俺は俺を生かしてくれた人たちを、裏切りたくない」

「……」

「お前はどうだ? 今ここでお前が死んだら。この後お前が自分を呪って死んだら、俺のこの行動の意味が無くなる。傷を負った意味が無くなる」

「その言い方は……卑怯だよっ!」

「そうだな。だが聞いてしまったからにはお前は生きようとするだろ? お前を後悔させる理由が、お前の生きる理由にもなる。俺もそうやって生きてきた」

 

 そんな言い方をされたら。お前が死んだら俺は無駄に傷ついた事になる、だなんて言われたら死ねるわけないではないか。けど、生きて戻っても待っているのは父の傀儡という自分の役割。それが彼女を躊躇わせる。

 

「これは俺も人から言われて意味を考えている事だが」

「え?」

「『もっと楽に生きろ』だそうだ。どういう意味なのか。なぜ言ったのかは分からないけど、きっとお前にも言える事なんだろう。だから――行け。崩壊が激しくなってきた。」

 

 地下の崩壊が激しくなってきた。断続的な轟音は既に収まっていたが、限界を超えたダメージで地下施設はどちらにしろ崩壊を止められない。

 

「それでも、あなたを置いていくなんてできないよ!」

「言っただろ。俺は死ぬ気は無いって。何とかして生き残るさ」

 

 そうは言うがどんな手があるか? 手段は思いつくが、肝心のエネルギーが足りない。戦闘で使いすぎた上に、機体もボロボロだ。とても実用的では無いが――

 

「………………それでも、僕はあなたを見捨てる気は無い!」

 

 そう言い放つとシャルロットは黒翼を抱えるようにして掴むと動き出す。ISの出力は元々かなり高いため、本来なら一機抱えたぐらいでは機動力が落ちるだけだ。しかしここは地下。そして崩壊した瓦礫が降り積もり、進行を阻害する。静司が自由に動ければまだマシだが体が動かなかった。

 

「おい、いいから――」

「うるさい! あなたは勝手だ。助けてくれて、傷ついて、それで今度は1人で逃げろ?  楽に生きろ? 僕はここまで恥知らずなことしてきたのに楽になんてなれるわけないよ!」

「……っ」

 

 そうだ、とシャルロットは憤る。それは自分への怒りであり目の前の謎のISの搭乗者への怒り。自分でも我儘だと思う。自分が招いた事態なのだ。それでも、この人を置いていく。それだけはしてはいけない。それだけは許せなかった。

 瓦礫によって道が塞がれば破壊し、突き破り、シャルロットは進む。そこにあるのは何としてでも共に生き残る覚悟。今までの傀儡の様な自分とは違う、強い意志と覚悟をもって突き進む。

 

(あと少し、あと少しの筈!)

 

 希望を目指してシャルロットは奔る。だが、

 

「行き止まり!?」

 

 進む先。そこは完全に崩壊し道は無い。突き抜けようにも瓦礫の山は厚く、今もまだ崩壊し続けている。

 ここで終わりなのか。折角ここまで来たのに。

 再び訪れた絶望を前に、肩を落とすシャルロットの方を静司は掴む。

 

「そうだな……勝手だったかもしれない。残される気持ちも置いていく気持ちも知っていたはずなのにな……」

「どういう――」

「よく、頑張った。これくらいなら―――行ける」

 

 ふら付く機体を立て直し黒翼を展開する。しかしそれは肩にではない。翼の根元から腕に装着するように、左腕に両翼が現れる。

 

「《プラズマブラスト》Set」

 

 両翼が合体し、鋼鉄の翼が形を変える。羽を折り畳むように変形していき、やがては長身の砲台と変わる。そこから5本の羽が飛び出し黒翼の前に展開。互いを光で繋ぎ光のリングとなる。

 

――砲身形成完了。収束機展開完了。チャージ開始。

 

「ぐっ……」

 

 左腕に残ったエネルギーが集まる。元々通常のISと異なり欠陥機(

(・・・)であるが為に降りかかる反動を強引に押しこめる。

 

――チャージ12%。これ以上はISの展開に影響があります。

 

「十分だ……っ!」

 

発射(ファイア)

 

 普段使うR/Lブラスト。その全ての出力を纏めた高出力の砲撃が放たれた。静司はその大きすぎる反動を残った力で押さえ付け、何とか踏みとどまる。

 放たれたそのプラズマ砲は瓦礫の山に突き刺さり、そのまま全てを巻き込んで消滅させていく。

 

「す、すごい……」

 

 唖然とシャルロットが見守る中、やがて光は細くなり消えていく。同時に黒翼がその場に倒れこむ。

 

「! 大丈夫!?」

「なんとか、な」

「そうは見えないよ……早く脱出して手当を!」

 

 シャルロットは倒れこんだ黒翼を抱え、空いた穴へと突入する。黒翼が開けた穴は周囲が完全に焼け焦げエレベーターシャフトまでの道を開いていた。

 そして今の砲撃の影響もあるのだろう。崩壊はいよいよ激しくなり、今すぐにでも崩れ落ちそうだ。焦りながらもボロボロのISを気遣うようにしてシャルロットはシャフトへ飛び込むと、出力最大でシャフトを飛び上がる。

 

「いっっっっっけええええ!」

 

 シャフトの上からも落ちてくる瓦礫をアサルトカノン『ガルム』で砕き、邪魔な天井へグレネード弾を放つ。砕かれ、雨がしたり落ちるその穴からシャルロットと静司は飛び出した。

 その直後、地下が完全に崩壊した音が学園に響き渡った。

 

 

 

 

 2人が脱出したのは学園の第5グラウンド。その脇にある変電室の傍だった。巧妙に隠されていたそこは今、シャルロットが破壊したことによりその姿を晒している。

 その穴の直ぐ傍でシャルロットが叫んでいた。

 

「しっかりして! 直ぐに、直ぐに人を呼ぶから!」

 

 泣きそうな顔で彼女が語りかけるのは黒いIS。静司と黒翼だ。脱出して安心したのもつかの間、まったく動かなくなった黒翼にシャルロットの不安が積もる。

 

(ISが展開しているって事は、まだ生きてるはず。だけど、このままじゃ治療もできない!)

 

 目の前の人物の生存を証明している全身装甲が、逆に治療の妨げになっている。それにどの道こんな場所では治療は不可能だ。誰かを呼ぼうと通信を繋げようとしたシャルロットに声がかかる。

 

「安心しろ。もう来ている」

「!? 誰……?」

 

 それは妙な集団だった。全員が黒い戦闘服の様な物を着ており、顔はガスマスクで隠している。とてもじゃないが医者には見え無い。そう判断するとシャルロットは威嚇するようにガルムを構えた。

 だが先頭に居る男は首を振った。

 

「怪しいのは重々承知だが敵じゃない。そいつの仲間だ」

「…………」

「参ったな……どうしたもんか」

 

 当然信用できないシャルロットと困ったように首を捻る男。その男に後ろから声がかかる。

 

「そろそろ時間がヤバいっす。それにB9も早く治療しないとやばいっす」

「わーってるよ。なあ嬢ちゃん、このままじゃそいつは死ぬ。それに見ての通りそいつの中身を知られるわけにはいかないんだ。俺はそいつを死なせたくないし、嬢ちゃんに危害を加えるつもりなら声をかける前にやってる。信用してくれないか?」

「……確かにそうです。だけど――」

 

 まだちゃんとお礼も言えていない。なのにここで別れたらそれは叶わなくなってしまうのではないか? しかしそんな事よりもこの人の命の方が遥かに大事だ。だが、それだけで信用するのも――

 

「だい、じょう……ぶだ」

「! 気が付いたの!?」

 

 背後からの呻きに驚き振り向くと、ゆっくりと体を起こそうとする姿に目を見開いた。

 

「無茶しないで!」

「嬢ちゃんの言うとおりだB9。ここは俺達に任せて寝てろ」

「C1、か……。だが、俺、は……」

「良いから寝てろってんだ。嬢ちゃん、いいか?」

「……はい」

 

 今の会話で二人が知り合いだと分かったシャルロットも大人しく引き下がる。

 

「よし、C12。出番だ」

「了解っす。ではcover12改めblade5行きます」

 

 blade5と名乗った女が前に進み出る。その体を光が包み、ISが現れた。

 

「黒い……ラファール?」

「ま、そういうことだ。よし、撤収!」

 

 その黒いラファールは黒翼を抱え上げると低空で男たちと共に去っていく。その後ろ姿にシャルロットは叫んだ。

 

「あの!」

「ん?」

 

 気が付いた男が振り返る。そんな彼に疑問をぶつける。

 

「一体、何があったんですか?」

「うーむ、答えてあげたいのも山々だがあまり言えないんだなこれが。まあ俺達もやっと学園に入ったと思ったら敵には逃げられ、結局やったのはあいつの回収位だから笑えない」

 

 自嘲する様に語る男にもう一つ、重要な事を聞く。

 

「あの人は……」

「必ず助けるさ。だから安心しろ。――そうだな、アイツが回復したら一言くらい言いに来させるさ。ま、中々難しいがな。じゃあ時間が無いから俺達は消える。あーそれと俺達の事は秘密な? アイツの為にも。そこに居れば嬢ちゃんにも助けが来るから、少し雨は冷たいが我慢しててくれ」

「……わかりました。あの人を、よろしくお願いします」

 

 深く、深く頭を下げるシャルロットに頷くと男も去って行った。

 

 それから少しして、学園の教師たちによってシャルロットは保護された

 




月曜日終了

黒翼の奥の手は自分の好きな某戦艦から名前を借りてます。
あんなAIがほしい・・・

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