IS~codename blade nine~   作:きりみや

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17.二人目の天災

「はははははははは! やっぱ面白いなあ彼は!」

 

 アリーナを離れた桐生は、更識楯無が確保していた学園の通信室で心底楽しそうに笑っていた。その横でC1が呆れた様に呻く。

 

「うるせえよ馬鹿。悪いな嬢ちゃん。こんなの連れてきて」

「い、いえ。仕事ですので」

 

 布仏虚が若干顔を引き攣らせ笑う。アリーナの避難が進む中、桐生がどうしても様子を見たいと言い、無理やりやってきたのだ。

 因みにC1は依頼人の護衛と言う形で学園に堂々と入り込んでいる。無論、桐生にも元々SPは居たが、無理に捻じ込んだのだ。桐生曰く、『もっと身近で自分の弟分を見たいだろう? これはサービスだよ。さあ優しい雇い主を敬いたまえ!』との事。無論、その後殴り飛ばした。慌てたSPたちの姿は見ものだった。

 

「しかし川村君は一体どうしてしまったのですか。先ほどまでと様子が全く違いますが……」

「なあに簡単だよ。ヤケクソになってるだけさ」

「は?」

 

 予想外の答えに虚は思わず訊き返す。桐生はニヤニヤと笑いながらC1に促す。C1はため息を一つ漏らすと説明を始めた。

 

「ここに来てから随分と溜め込んでいたからな。ストレスが限界値を振り切れてヤケクソになってんだよ」

「や、やけくそ?」

「元々そんなに器用じゃない癖にあれこれ考えすぎたんだよ。で、そこの馬鹿が発破をかけてドカン」

「まあ良いじゃないか。お蔭で良い方にいったんだし。さっきまでと違って、明らかに余裕のある動きだよ」

「あれが良いとは言い切れないんだがな。しかしあいつどうやって収集付ける気だ」

 

 C1も静司の実力は疑っていない。しかし限界ギリギリの打鉄と、怪我人の静司ではアレの相手は少々キツイだろう。だからと言って黒翼を使えば潜入どころではなくなる。無論、もしもの時は使うべきだが。

 

「そういえば川村君。傷口からの出血が止まってる……?」

「ふむ」

 

 ちらり、と桐生がC1を見やりC1も頷く。おそらく黒翼の生体再生能力が働いているのだろう。部分展開状態で発現したのは初めてだが。それを分かっていながらも、黒翼の秘密をあまり他所に晒したくないのでC1は全く別の事を言った。

 

「おそらく元々そんなに傷が深くなかったんだろ。それより更識の嬢ちゃんはどうした?」

「あ、はい。来賓の避難の護衛に付いています。本当ならアリーナに向かいたかった様ですが……」

「お偉いさんの言葉でそうもいかなくなったか。男性操縦者が貴重だ貴重だと言っておきながらも、いざとなったら我が身優先。ま、そんなもんだ。学園の鎮圧部隊は?」

「そちらは既に――」

 

 ズンッ、と遠くから鈍い音が響いた。続いてC1に通信が入る。それを聞いたC1の顔が険しくなっていく。

 

「どうかしたのかい?」

「学園に保管してあるラファールが一機、奪われた」

「なんですって!?」

 

 桐生の眼が細まり、虚が悲鳴を上げる。だがC1は首を捻った。

 

「このタイミングでわざわざラファールだと? 確かにコアは貴重だが」

「騒ぎが起きてるとは言え、学園のIS格納庫にまで入り込める奴がラファールを一機だけか。確かに怪しいねえ。しかしこれで鎮圧部隊の動きも変わってくるね」

「だろうな。更識の援護もある。来賓や生徒達も殆ど避難している事を考えるとアリーナは後回しにされるだろうな」

 

 隣で慌てて学園の各所と通信を取る虚を横目に見やりながら、C1も静司に連絡すべく通信を始めるのだった。

 

 

 

 

 打鉄の近接ブレードを構えた静司に黒いISが標的を定め、予備動作無しからの瞬時加速で一気に静司の眼前に現れた。刀は中腰に引いている。先ほど一夏の雪片弐型を弾いたのと同じ動き。ならば次に来るのは――

 一閃。黒いISが必殺とも言える居合いを放つ。しかしそれは静司の眼前を通り過ぎ宙を斬った。

 別に静司は対して動いていない。ただ一歩、横に移動しただけだ。だが、その一歩は敵にとっては致命的な距離――静司の射程だ。

 

「お返しだ」

 

 自らも中腰に構えブレードを引き、放つ。それは黒いISと同じ動きだ。だが速度が、そして練度が違う。より早く、より鋭い斬撃が黒いISを切り裂く――筈だった。

 

「ちっ! こっちもガタが来たか」

 

 バギンッ、と鈍い音を響かせ、シールドを突破した斬撃が黒いISを斬り飛ばす。だがそのブレードは中心から無数の罅が入り、そして砕けてしまった。先ほどまでの撃ち合いによる積み重ね、そして今の激突に耐えきれなかったのだ。

 飛ばされた黒いISは空中で姿勢を直し、地面に着地した。その装甲には肩から斜めに傷を負っているが、あの程度ではまだ動けるだろう。事実、再び刀を構えている。

 静司は砕け、刀身が半分ほどになったブレードを軽く振り小さく頷く。問題ない。まだ使いようはある。

 黒いISが再び動き出す。刀とは別に、先ほどシャルロットに使った小刀を呼び出した。本来の織斑千冬のデータには無い武器。だが不思議な事では無い。VTシステムは別に織斑千冬のみを模倣しているわけでは無く、過去のモンド・グロッソの部門受賞者のデータも入っているのだ。

 再び接近。黒いISが雪片の模倣(コピー)で斬りかかる。静司もブレードでそれを受けるが、あえて力は込めずそのまま後ろに倒れるように体を逸らした。その眼前を小刀による突きが通り過ぎていく。その動きのままPICを制御。更に加速しながら足を振り上げ、黒いISの顎を捕らえた。

 シールドバリアーの一瞬の抵抗を突き破り繰り出された蹴りにより、黒いISが一瞬制御を失う。その隙に蹴りの動きそのままに一回転した静司は砕けたブレードの残りの刀身を突き入れた。

 

『!?』

 

 突き入れられたブレードは更に刀身が砕けたが、黒いISの装甲の一部を破壊することに成功した。プログラムに従って動いているだけの筈の黒いISが一瞬、驚いた様な挙動をする。己の動きが悉く読まれ、躱され、カウンターを受けているのが理解できないのだろう。その隙に繰り出された蹴りが黒いISを再度壁へと吹き飛ばした。

 

「……さて」

 

 ちらり、とブレードを確認するともはや刀身は殆ど残っておらず、ほぼ柄の部分だけになってしまった。打鉄の武装として持ってきたのは基本武装のこの近接ブレードと、オプションのマシンガンと手榴弾のみ。だが今はマシンガンは破壊され、ブレードはこの有様。ついでに物理シールドはシャルロットとの戦いで既に壊れてしまっている。つまりは手榴弾と柄だけのブレードのみだ。

 数秒、考えるが、

 

「ま、どうにかなる――」

「わけないよ!」

 

 声に振り向くとどこか呆れた様子のシャルロットが静司を睨んでいた。

 

「シャルル? 逃げろと言った筈だが」

「この状態で逃げれるほど僕は無関心じゃないんだけどなあ。大体静司も静司だよ。理由も言わずに逃げろって言われても逃げれるわけないでしょ」

 

 ああ、言われてみればそうだ。そもそも量産型で一応、素人扱いだった静司が足止めし、専用機持ちが逃げろ、などと言われても理由が無ければ納得できないだろう。どうやら先ほどまでの自分はそんな事すら頭に無かったらしい。

 

「挙句の果てに一夏斬り飛ばして大笑いし始めたかと思ったら、いきなり凄い戦い初めるし。静司、僕が言えたことじゃないけど今まで嘘ついてたね? ものすごく強いじゃない」

「さて、何の事だ」

「惚けるならもうちょっとマトモに惚けようよ……。けど――」

「ん?」

 

 静司の顔をシャルロットが覗き込む。その顔は少し赤い。そしてうん、と頷く。

 

「何か雰囲気が何時もと違うね。上手く言葉に出来ないけど、無理してない感じ」

 

 その言葉に静司は軽く驚いた。

 

「今まで無理してる様に見えてたのか?」

「うーん。僕も今気づいたけどね。だって何時もと全然顔が違うもん。なんか自然な感じかな」

 

 それに眼鏡を取り、髪をかきあげたその姿は格好いいよ。そう言おうとしたが恥かしくなりシャルロットは口を噤んだ。

 一方静司は『やっぱり周りからもそう思われてたんだなあ』と改めて実感していた。

 

「まだ色々訊きたいことはあるけど、後にするよ。それで静司はどうする気なの?」

「どうもこうも、あのISをドツきまわしてぶっ壊す」

「武器がそんな状態でそこまで言い切るのは一体どういう自信なのさ……」

 

 シャルロットは苦笑するが、いざとなれば黒翼を使えるので生死の心配はいらないと考えている。だが、それを使ったら最後、学園に居られなくなるのでそれは避けたい。それは任務の為だけじゃない。川村静司が『ここに居たい』と思っているからだ。こんな風に考える事さえ、今までは出来なかった。

 

「それに打鉄だって限界でしょ? ここは時間を稼いで学園の部隊が来るのを――」

「いや、部隊は来ないらしい」

「え?」

「さっき連絡が来た。なんでも侵入者にISが奪われたんだと」

「それって一大事じゃない! 何でそんなに落ち着いてるのさ! というかさっきって何時!? 誰から!?」

 

 戦闘中、C1からとは流石に言えない。奪われたISも気にはなるが、今は目の前の問題が先だ。別に無関心なわけでは無い。

 さて、どうやって誤魔化そうかと考えてると、一夏が動いているのが見えた。

 

「痛ってえ……一体何が……」

 

 頭を押さえふら付きながら立ちある一夏はどうやら記憶が混乱しているらしい。キョロキョロとあたりを見回している。

 

「一夏、大丈夫?」

「シャルルか。俺は一体――」

「え、えーと……」

「ああ、一夏。ありがとな」

「は?」

 

 お蔭でちょっとスッキリしたぜ、という気持ちを込めて礼を言うが、一夏は何の事か分かっていない様だった。一瞬きょとんとした一夏だがやっと思い出したのかその顔を怒りに染めた。

 

「そうだ静司! お前よくも!」

「一夏、今は戦闘中だ。仲間割れしている場合じゃない」

「シールド突破して斬り飛ばした人がそれを言うんだ……」

『貴様ら! 油断しすぎだ!』

 

 突如、アリーナに千冬の声が響く。風の流れる気配を感じた静司がシャルロットと一夏の前に飛び出し体を回転させた。そのPIC制御で遠心力を増した回し蹴り。それは二人を襲おうとした黒いISへのカウンターとして決まった。

 

「土産だ。もってけ」

 

 動きを止めた黒いISに手榴弾を放る。シャルロットと一夏の顔が引きつり、慌てて背後に下がるのを確認しつつ静司も背後に跳んだ。一瞬遅れて起きた爆発が黒いISを包む。

 

「どうやら行動パターンが変わったらしいな」

 

 先ほどまでは敵対行動をとった相手を狙っていたが、無差別に変わったらしい。だとすると、尚更このまま放って置くわけにはいかなくなった。

 静司の鮮やかなカウンターに唖然としていたシャルルと一夏だが、思い出したのか一夏が雪片弐型を構え、黒いISへ突っ込んでいく。

 

「そうだ、あの野郎! こいつで――」

「だから無理だって」

 

 それなりの速度で飛び出した筈の一夏だが、静司の左腕一本で止められた。

 

「離せ静司! 俺がやるって言ってるだろ!」

「また繰り返すのか。いい加減にしてくれ」

 

 うんざりしてきた静司にシャルロットが話しかける。

 

「静司、今の一夏は何言っても無駄だよ。下手に放って置くより活用した方が良いんじゃないかな」

「……まあ、確かに」

 

 黒翼以外に決め手に欠けるのは確かだ。それに黒翼だと加減が効かないので、下手したら中身のラウラごと破壊しかねない。故に地道に殴り壊していこうかと考えていたが、あのISの行動パターンが変わってきた以上、あまり時間かけるのは得策では無い。それに奪われたラファールも気になる。散々一夏の参戦を否定して、斬り飛ばしておきながら言うのもアレだが、確かに一夏の――白式の特性なら一気にカタがつく。

 何よりあれだけ言ったのにも関わらずいう事を聞かない一夏だ。放って置いたら何をするかわかったもんじゃない。もう一度、今度は殴り飛ばして気絶させるのも考えたが、先の時間の事もある。あまり悠長にはしていられない。短期決戦の方が総合的な安全度は上がる。

 

「……わかった。但し俺のいう事を聞け。いいな?」

「あ、ああ」

 

 威圧感とはまた違う静司の鋭い雰囲気に、一夏が思わず頷く。

 

「なら零落白夜を展開しろ。一回でいい。エネルギーを絞り出せ」

「……駄目だ。展開できても一瞬が限界だ。エネルギーが少なすぎる」

「それって静司が斬り飛ばしてなければまだ行けたんじゃあ……」

「過ぎた事は忘れるんだシャルル。それに別に一瞬で構わない。俺が奴の動きを止める。そこに斬りこめ。シャルルはその援護」

「なっ!? 何言ってんだ静司! お前が危な過ぎ――」

「問題ないからいう事を聞け、一夏。それが嫌ならもう一度気絶させるぞ」

 

 もちろん本気だ。これがギリギリの妥協点。これが認められないのなら直ぐにでも有言実行するつもりだ。

 一夏は納得できない様で、何かを言おうとしたがそれを止めたのは意外な事にシャルロットだった。

 

「一夏、大丈夫。静司は強いよ」

 

 それは一夏は勿論、静司にとっても驚きだった。そんな静司にシャルロットは笑顔で静司に振り向く。

 

「そうでしょ? 静司が何を隠しているのかは僕は知らない。だけど、こんな私を(・・・・・)信じて傍に置いてくれた優しい静司の事を、僕も私も(・・・・)信じるよ」

「だけど俺は、」

「うん。嘘ついてたね。それにずっと苛々してたよね。だけど気を使ってくれて、時たま突然面白くなって、いざという時は守ってくれて、ちょっと怖い時もあるけど、優しい。それが静司だもん。だから信じるよ」

 

 ね? とちょっと顔を赤くして告げるシャルロットに、その言葉に、静司は笑った。

 

「く、くくくく、ははははははっ!」

 

 全く、面白い事だ。彼女はblade9である静司を知らない。blade9が演じようとしてた(・・・・・・・・)川村静司という存在しか知らない。彼女も、今まで静司が嘘をついてきたことに気づいている。

 だけど、だけどだ。そんな自分を優しいと言い、信じてくれると言う。それが嬉しくもあり、そして散々悩んでいた自分が滑稽でもあった。

 

「そうか、なら期待に応えるとしよう」

 

 黒いISが再度動き出す。それを確認すると静司もゆっくりと動き出す。

 

「シャルル、奴の周りに銃弾をばら撒いてくれ。出来るだけ派手な方が良い」

「ばら撒くだけでいいんだね、了解だよ」

「一夏、俺が合図したら突っ込め。お膳立てはしてやる」

「……わかった」

 

 まだどこか納得していない一夏だったが、渋々と頷く。それを確認すると静司はゆっくりと歩いていく。黒いISも静司を確認し、その眼を光らせた。

 

「そろそろお開きだ、後輩(・・)。それはあってはならないんだよ」

 

 その言葉と同時、

 

「静司、行くよ!」

 

 アサルトライフル。アサルトカノン。グレネード。マシンガン。ショットガン。ありったけの武器を高速切替(ラビット・スイッチ)で呼び出しては消しながら放つ。それらの銃弾は静司と黒いISの周りに無造作に撃ちこまれ、砕けた地面や爆発の衝撃によって辺りが硝煙に包まれていく。

 静司と黒いISは互いに加速し、その硝煙の中に突っ込んで行った。一瞬、視界がゼロとなる。しかし敵の位置は見誤らない。周囲から閉ざされたその空間で二機は激突した。

 先手は黒いIS。小刀が静司の首を狙う。それを右腕に持った柄だけになったブレードを叩き付け、弾く。柄が砕け、無手となった静司に刀が迫る。だがそれを回避することなく、静司は左腕を伸ばした。

 ギィィィィンッ、と金属音が響く。そして再び黒いISが理解不能な出来事に硬直した。

 

「VTシステム。『Vプロジェクト』の成れの果て。その上位互換が俺だ。動きも行動も太刀筋も、全部お前より知ってるんだよ。だからこんな事も出来る」

 

 静司の左腕。黒翼の部分展開でもある機械のその左腕が刀を掴み、そして、

 

「こいつをお前に乗せたやつは必ず潰す。俺が、俺で有る為に」

 

 握り、砕かれた。そのまま動きが止まった黒いISの首を掴み宙へ飛ぶ。

 

「そうだ。それが俺の夢であり、姉さん達の願いだったから」

 

 一瞬の滞空。そして地面に向けて加速する。

 

「頭を空っぽにして馬鹿になってやっと気づいたんだよ。だからお前はここで終わりだ――、一夏!」

「うおおおおおおおおおおおお!」

 

 地面に急降下する静司と黒いIS。その着地地点に一夏が突っ込む。その手には展開された零落白夜。

 地面に叩き付けられた黒いISに零落白夜の一撃が決まった。エネルギー無効化の特性を持つその一撃はシールドバリアー、そしてラウラを包んでいた装甲を切り裂く。零落白夜の特性故か、エネルギーを失ったその装甲は変身した時の様に形を崩し、ラウラから剥がれ落ちていく。そして中から崩れ落ちるようにラウラが現れた。

 気を失うであろうその一瞬、ラウラと一夏の眼が合う。その瞬間、一夏は何かに引き込まれるような感覚がした。

 

 

 

 

 白く何もない空間。そこで一夏とラウラは向かい合っていた。

 

――強さとは何なのか。

 

 それはラウラの疑問であり、求めるもの。そしてそれの具現が織斑千冬だった。だがそれ以外に出会ってしまった。二人に出会ってしまった。

 未熟ながらも強い意志で、強敵に挑む織斑一夏。

 そして、圧倒的な力を秘めていた川村静司。

 

――強さとは何のか。

 

『それは心の在り処だろ。自分がどうありたいかと常に思う事だと俺は思う』

 

――意味がわからない。

 

『自分がどうしたいか。どうなっていきたいかも分からなければ強さの求める先が分からないって事だよ』

 

――自分が?

 

『自分自身の芯を持って、そしてやりたいことをやりたいようにやっていけばいいんだよ。遠慮や我慢なんてしてたら、芯も捻じれて見失っちまうからさ』

 

――ではお前は?

 

『俺は皆を守りたい。守られるだけでなく、守りたいから強くなりたいんだ』

 

――それがお前の強さ

 

『強いかどうかは分からないけどな。けどこれは譲れない。だから、お前も守ってやるよ』

 

 

 

 

 そんな二人の問答を静司は少し離れた位置で見ていた。その顔には苦笑が浮かんでいる。

 

耳の痛い話だ。

 

 自分がどうしたいか。どうなっていきたいか。それはまさしく自分の悩みであった事。無論blade9である事に不満は無い。しかし無理に『川村静司』を演じようとすることで一夏の言う、『我慢』を、自分でも知らずにしていたのだろう。そもそも自分はblade9だけでなく、川村静司でもあったのだ。演じること自体が間違っていた。それにやっと気づいた。

 そもそもなぜ自分が分からなくなってしまったのか。blade9に縋ってしまったのか。その原因は一つ。それこそが『Vプロジェクト』の――

 

 突如世界が歪んだ。まるで壊れたテレビの様に世界がブレ始める。白い世界に黒い世界が薄く重なっていく。

 一夏とラウラも世界の突然の変容に動揺している。だが静司はこれから何が起きるか、何となく気づいていた。この空間はIS同士の情報交換ネットワークによる相互意識干渉《クロッシング・アクセス》領域。静司の意識を読み取ったそれが、世界に投影を始める。

 

『おは――うEx02。これ――り実験を始――る。今日も壊れ――事を期待する』

 

 突如響く白衣の男の声。そして椅子に固定され、頭に様々なコードを取り付けられた少年の姿が映る。

 

『B27――。インス――ルを開始』

 

 そして聞こえるのは子供の耳をつんざく様な悲鳴。その絶叫に一夏とラウラの顔が蒼白になっていく。静司のみ、淡々とその光景を眺めている。

 大きく世界がぶれ、景色が変わる。そこはアリーナの様に広い空間。その中心には白衣の研究者達。5人の少女。そして先ほどの少年が居る。

 

『……千冬姉?』

 

 一夏が声を上げる。5人の少女は全員、黒い長髪と狼を思わせる鋭い目つき。整った顔立ちとすらりとした長身。その全員がどこか織斑千冬に似ていた。

 

『それで――実験――始る――』

 

 ノイズ交じりの声に従い、5人の少女と少年が武器を取り戦い始めた。

 再び世界がぶれる。今度は白い小さな部屋だ。そこには5人の少女と少年が仲睦まじく談笑していた。彼らの姿は少し成長しており、先ほどは5人とも殆ど同じ顔だったが、多少変化が表れていた。鋭い雰囲気の子もいれば、温和な子も。陽気な子も居る。彼女達と彼はとても幸せそうにしていた。

 世界がぶれる。

 そこは再びアリーナの様な場所。しかし先ほどと様子が違う。天井が崩れ、炎が上がり、そして死体が転がっている。

 そんな地獄の中心に、5人の少女に囲まれて少年が居る。

 

『これ――だよ。ち――の―――なんて、許さ――。だから――した』

 

 だんだんとノイズが酷くなっていく。これは女の声だ。忘れる事の出来ない、悪魔の声。

 

 もういい、やめろ。

 これ以上は、いらない。

 忘れる事は無い。だからあの光景だけはやめてくれ。

 

 だが止まらない。彼と彼女らは宙を浮く機械の球体に囲まれていた。そしてその球体が光り始める。少女たちが動く。少年が抱きかかえられる。

 

 やめろやめろやめろやめろやめろやめろ!

 

 願いは叶わず、映像が光と炎に包まれた。

 そして再び世界がぶれる。

 瓦礫と炎しか残らない空間。その中心で5体の躯に囲まれて、少年が慟哭を上げていた。

 その左腕は黒く、硬質な金属でできている。

 世界のぶれが激しくなっていく。この投影が終わる。だがその最後、先ほどと同じ女の声が聞こえた。

 

『―――だから、こうな――だよ。でわ―――す。――――――――――――ぶいっ!』

 

 そしてその世界は閉じた

 

 

 

 

 

 IS学園の上空。誰にも気づかれない程の高度にそれは居た。

 全身装甲のそれはかつて学園を襲撃した無人機。しかしその装備は若干異なっている。

両肩、そしてその背中には巨大なドーム状のレーダーが搭載されていた。

 無人機は微動だにせず、静かに地上を観察している。しかしそのレーダーに別の反応が現れた。

 

――ISの接近を確認。照合――IS学園登録のラファール・リヴァイヴと確認。

 

 無機質な機械の眼が接近するラファール・リヴァイヴを確認した。その搭乗者は顔を半分覆うバイザーで隠しており、表情は見えない。彼女こそが、混乱の学園からISを奪った張本人だった。

 ラファール・リヴァイヴは無人機に向かい真っ直ぐ飛んでくる。その手に持つアサルトライフルの銃口が無人機に向けられた。

 

――ステルス機能は稼働中。しかし対象の敵対行動から、効果は無しと判断。作戦行動に支障の出る可能性大。――――命令を確認。遠隔稼働へ切替。

 

 赤く光っていた無人機の眼が黄色に変わる。途端にその様子が人間じみた物へと変化した。

 

『んー邪魔だなあ。今はちょっと忙しいから相手するのも面倒なんだよねー。なので君はここで退場!』

 

 無邪気な声を発しながら無人機が迫るラファールを見やる。その途端、ラファールの動きが急に鈍った。向けられていたライフルはその腕ごとだらりと下がり、スラスターもまた、機能を停止した。

 

『ちーちゃんが困るといけないから壊れない程度に着地できるようにして、と。私ってやっぱ天才だね!』

 

 それは誰に向けて放った言葉でも無い。完全な独り言。事実、ハイパーセンサーすら停止したラファールの搭乗者には聞こえていないだろう。

 突如、機能を停止させられたラファールとその搭乗者は飛ぶ力を失い、真っ逆さまに落下していった。

 それを見届ける事も無く、無人機だったものは再び目的の場所――アリーナへ眼を向ける。

 

『んー、イベントは終わったようだね。けど苛々するなぁ。ちーちゃんの真似事をする機械なんて。そうだね、そんなことを考えられなくしちゃおう』

 

 無骨な無人機が頷く。それはまるで似合わない動きで有り、見るものが居たら気味悪がるであろう光景だった。

 

『それとあのかませ犬君。あれもなんなんだろうねえ……。なんかあっちの方が苛々するよ。そろそろ退場して貰おうかなぁ……』

 

 ブツブツと呟きながら無人機は高度を上げ、撤退していく。

 もしその無人機が。いや、無人機を動かしていた者が、もう少し他の事を気にしていたら。例えば落下していくラファールの事を気にしていたら気づいていたかもしれない。

 地面へ落下していくラファール・リヴァイヴ。その搭乗者が悲鳴も何も上げず、バイザーで隠されていない口元が、薄く笑っていた事に。

 

 その数分後。落下したラファールとその操縦者の拿捕に向かった鎮圧部隊の面々は困惑していた。

 そもそも、アリーナの異常を察知し出撃準備をしていた時、突然ラファール・リヴァイヴの一機が動き出した。困惑しつつも、止めるために動いたがあっさりと返り討ちにされたのだ。何機かのラファールは中破。辛うじて動ける者たちが追跡する中、逃走者が突然空を目指したかと思えば、急に落下してきたのだ。力なく落ちたその事態に驚きつつも、その現場に向かった。

 木々が折れ、衝撃で地面に亀裂が入ったその場所の中心にラファールは居た。しかしそこに搭乗者の姿は見えない。

 

「逃げたのでしょうか?」

「わざわざISを置いて? 確かに一度動きは止まった様でしたが」

「チェックしていますが、機体に異常は見られません。しかし、だとすると何が目的だったのでしょうか……」

 

 ISを奪ったのにかかわらず、正常な機体を置いての逃走。そのどこかちぐはぐな行動に全員が首を捻る。

 

「とりあえず機体を持ち帰ってログを見てみましょう。アリーナの方も片が付いた様です」

「了解しました」

 

 どこか釈然としない気持ちのまま、彼女達は帰還していった。

 

 

 

 

「一夏! しっかりしなさい一夏!」

「う……鈴?」

 

 体を強く揺すられた一夏がゆっくり開いた一夏の眼に心配そうに見つめる鈴達の姿が映る。

 

「俺は一体……?」

「ボーデヴィッヒさんを零落白夜で斬った後、突然倒れたのですわ。何も覚えていないのですか?」

「何というか……変な夢みたいのを見た気はするんだが」

 

 どこか靄がかかって思い出せないが、確かに不思議な空間でラウラと話した気がする。そしてその空間が途中から変わり――、そこから先がよく思い出せない。夢の内容が眼が覚めると思い出せない、そんな感覚。だが確かに自分にとって大切な何かを見て、良く知る何かを聞いて、そして全く知らない何かに恐怖した気がする。

 

「っ、そうだ! 他の皆は!?」

「落ち着きなさい。ボーデヴィッヒならあそこよ」

 

 鈴が指さした方向を見ると丁度応急処置が終わり、ラウラが担架で運ばれていく所だった。そこでようやく自分がアリーナの端で寝かされていたことに気づく。

 

「多少怪我はあるけど大事は無いそうよ。一夏、アンタもね。ただ川村だけど――」

「何かあったのか!?」

 

 そういえば先ほどから静司とシャルルの姿が見えない。嫌な予感が過るが、それに箒が首を振る。

 

「お前達と違って川村は無事だったが、いつの間にか姿を消したのだ。今はデュノアと布仏が探している」

 

 どうやらあの黒いISを止めた後、後始末のどさくさに紛れて姿を消したらしい。

 

「どこいったのかしら。アイツが一番怪我してた筈なのに」

「全くですわ。それに訊きたいこともありますし」

「……」

 

 以前は何だかんだで誤魔化されたが、先ほどの静司の動きは本物だった。アレが唯の偶然で済まされる訳が無い。それにシャルロットの銃撃による硝煙で見えなかったが、そもそもどうやってあのISの動きを止めたのか。訊きたいことは山ほどあった。そしてそれは一夏も同じだ。

 さっきの自分は確かに熱くなっていた。それは尊敬する姉の力を相手が使ったからから。そしてその相手と、友人である静司の高度な戦いを見てしまったから。しかも静司の動きも又、どこか姉に似ていたのだ。

 最初の一撃。静司の助けが無ければ自分はあっさりとやられていた。その相手に静司は互角以上の戦いをしていた。打鉄の不調が無ければあのまま戦えたと思うほど。

 

 悔しかった。

 

 別に一夏は静司を見下しているわけでは無い。戦っても勝てるか? と聞かれれば断言はできない。だが、自分もここに来て強くなった。日々の訓練は一夏に自信を付けさせていた。『皆を守る』という思いを叶えるための強さ。それを確かに実感し始めていた。

 だが実際はどうだろうか。守るどころか守られ、そしてそれを成したのは専用機持ちでも無い静司。その力に、その姿に嫉妬してしまった。

 

「カッコ悪ぃ……」

 

 自分がやりたいからやる。その想いに偽りはない。だが心の片隅で、静司に対する嫉妬もあった事も事実。その結果、静司の忠告も聞かずに敵に挑もうとしていた。冷静になった頭で考えると、酷く情けない話だ。夢の様なあの空間で、ラウラにアレだけ偉そうに言ったが、現実は厳しい。だからこそ、

 

「強くなる」

「は? アンタいきなり何を――」

「鈴、俺はもっと強くなりたい。想いだけじゃなく、それに見合った力を」

 

 強く、意思の籠った目ではっきりと宣言する。突然言われた鈴はその一夏の姿に顔を少し赤らめた。

 

「ふ、ふん。だったら、今まで以上に鍛えてやるわ」

「そ、そうですわ! 覚悟なさいませ、一夏さん」

 

 隣ではセシリアも顔を赤らめている。だが一夏はそれに気づかず拳を握りしめた。

 

(そうだ。ラウラにも宣言したんだ。だから俺は強くなる。それで今度こそ皆を守って見せる)

 

 強く想う一夏と、それを見つめる鈴とセシリア。しかしその一歩、後ろで箒は複雑な表情をしていた。

 

「強さ……私には……」

 

 その呟きは誰にも聞かれる事は無かった。

 

 

 

 

 空が青い。

 

「あー」

 

 芝生の上に大の字で寝転がりながら、静司はそんな当たり前の事を考えていた。その口からは意味の無い言葉が流れ出ている。

 

「やらかしたなあ」

 

 アリーナでの騒ぎの後、侵入者を捕らえるべく抜け出したのだがその侵入者は既に逃亡したと連絡が入った為、やる事が無くなってしまった。無論、今も仲間たちが捜索や警戒活動を行っているが、それを手伝おうとしたら止められたのだ。怪我人の自分は大人しくしていて、もしもの時だけ動け、と。

 その結果、早い話ヒマになってしまったので一度、色々考えようと思い、ここで一連の流れを思い出していたのだが。

 

「これからどうしようか」

 

 一夏を斬り飛ばした挙句、無人機相手の立ち回り。おそらく戻ったら追及される事だろう。それに前回のラウラの砲弾を弾いた件もある。何だかんだで有耶無耶になっていたが、もうそういう訳にはいかないだろう。そしてもう一つ。

 

「姉さん……」

 

 あの不思議な空間での映像。あれを一夏とラウラにも見られた事だろう。一夏とラウラからは離れた位置に居たため、二人が静司の存在に気づいていたかは分からない。しかしもし気づいていたならあの映像と関連付けられる可能性はある。

 

「そっちは流石に誤魔化すしかないな。……しかし折角、人がスッキリしてた所に最悪な物見せやがって」

 

 躯に囲まれた慟哭を上げる少年。忘れることない、忘れられない地獄の記憶。今、こうしてある程度の平常心を保っていられるのは何度も夢に見て、何度も涙を流したからか。しかしそれは悲しみに慣れた訳では無く、決意を新たにしたに過ぎない。姉達の願いを叶えつつ、二度と繰り返させないという決意。

 

「こんにちは。川村静司君」

 

 声がかかりそちらに視線を向ける。そこに居たのはスーツを着た若い女だった。身長はそれほど高くなく、髪は鈍い金色。片手に煙草を持ち、眼鏡をかけたその眼差しは面白そうに静司を見据えていた。

 

「どなたでしょうか……?」

 

 一応、年上なので敬語を使っているが静司は訝しむ。ここはアリーナとは反対方向。一人で考え事をする為に、わざわざ人が居る方向とは別の場所に居たのにも関わらず、この女は現れた。格好からするに今日の来賓の誰かだとは見当をつけるがここに来た意味が分からない。

 

「私はカテーナ。偽名だけどねえ」

「随分な自己紹介ですね」

 

 堂々と偽名を宣言する女に静司の警戒心が上がる。その様子にカテーナはくすくすと笑い始めた。

 

「貴方に訊きたいことがあったのよねえ」

「訊きたい事?」

「そう。あなたが何者なのか知りたくて」

「―――意味がわかりませんね」

「そうかしら? 世界で二人しかいない男性操縦者。その事を知りたいのは普通だと思うのよねえ」

 

 その女の言葉に静司の眼が細まる。

 

「二人? いや、三人で――」

「シャルル・デュノアは女よ。あなただって知ってるんじゃない? ルームメイトですものねえ」

「っ、あんたは一体……」

 

 別に隠している情報でもないが、外部の人間が寮の割り振りを知っている。それはつまり何かの目的があって調べたという事だろう。そしてシャルロットの正体を知っている。唯の女では無い。

 

「そうねえ、あなたが教えてくれたら話してもいいかしら。それで、どうしてあなたはISを使えるのかしら?」

「知らない。ただそういう人間も稀に居るという事じゃないか」

「いいえ、違うわ。織斑一夏が使えるのは彼が織斑千冬の弟だから。それだけよ」

「……」

「篠ノ之束は織斑千冬と親友。故にその弟である織斑一夏とも知り合っている。そしてそれだけの理由で博士よりIS使用の許可が出た。シャルル・デュノアは男で無く、シャルロット・デュノアという名の女。故にISが使えてもおかしくは無い。では、あなたは一体何故使えるのかしらねえ」

「何故、そう言い切れる。ISのコアは――」

「解析不能。確かにそう。私も完全な解析はまだ(・・・・・・・・)出来てないのよねえ。だけど最近面白い物を手に入れてから色々分かったのよねえ」

 

 カテーナがにやり、と口元を歪ませ笑う。

 

「無人機という存在を」

 

 ダンッ!

 

 響いたのは静司の足が地面を打つ音。それを踏み込みとし、静司はカテーナの首を掴むべく左手を伸ばした。だがその手は突如、カテーナの前に現れた物体に阻まれた。

 

「っ……ISか!」

 

 カテーナの前に現れたのは鋼鉄の棺。そして静司はこれを見た事がある。

 

「ご無事ですか」

「あら、お帰りなさいシェーリ」

 

 地下で戦ったISブラッディ・ブラッディに搭乗したシェーリが現れる。

 

「その様子だと実験は予想通りだったようねえ」

「はい。ラファール・リヴァイヴは強制的に機能を停止させられました。やはり博士はISに干渉できるようです。落下後はこちらの命令を受け付けませんでしたので捨ててきました」

「下手に持ち帰っても一度博士の手に付いたISだし危険なのでそれは正解よ。しかし恐ろしい話ねえ、対策を考えましょう。さて、ところで随分な反応。やはり唯の生徒じゃなさそうねえ」

「黙れ。ラファールを強奪したのも地下に現れたのもお前らか」

「地下の事を知っているという事はあなたも関係者ね。アリーナでの戦いといい、ますます興味が湧いてきたわ。もしかして地下での黒い翼のISはあなただったりするのかしら?」

「そうであろうとなかろうと関係ない。お前はここで捕まえる」

 

 静司の気配が変わる。こうとなっては隠す必要が無い。むしろ下手に隠してこの二人を逃す方が危険だと判断し黒翼を呼び出そうとした時、背後から声が聞こえた。

 

「静司!」

「かわむー!」

 

 シャルロットと本音だ。静司を心配し探していたところに、正体不明のISと対峙している姿を見つけた二人は顔を直ぐに状況を察した。

 

「っ、ラファール!」

 

 シャルロットがISを展開しアサルトライフルをカテーナとシェーリに向ける。その眼には困惑と恐怖。それもその筈だ。目の前のISは以前、自分を攫いかけた機体なのだから。

 

「邪魔が入ったわねえ」

「蹴散らしますか?」

「いえ、増援が来たら面倒だし帰りましょうか」

 

 シェーリがカテーナを抱きかかえ背後に跳ぶ。静司の隣にはシャルロットが並び、その少し背後に本音が立つ。

 

「逃がすと思うか?」

 

シャルロットが居るがこの際関係ない。黒翼の姿を晒すことも厭わない。それ以上にこの二人を逃してはならない。

 

「あらあら怖い顔。だけど逃げさせてもらうわ」

 

 カテーナは笑うと懐から携帯端末を取り出した。

 

「古典的な手段だけど効果的。私そういうの好きなのよねえ」

 

 女が端末のボタンを押す。その途端遠くで爆発音が響いた。

 

「っ! あれはIS格納庫の方向!?」

「てめえ……」

「言わなくてもわかるわよね? 逃がしてくれないと色々と吹き飛ばす。それは嫌でしょう? ああ、安心して。逃げた後にドカン、なんて事はしないわ。つまらないもの」

 

 くすくす、と笑うとシェーリのISが宙に浮き始める。

 

「信じろと?」

「そうするしかないでしょう?」

「……ちっ」

 

 確かにこのまま戦っても双方にデメリットしかない。

 

「今日は楽しかったわ。色々と見れてね。だからお礼に一つだけ忠告。ISをあまり信用しない方が良いわよ。それが作ったのがどんな人間かを考えて、ね」

「何? どういう意味――」

「後は考えて見なさい。ではまた会いましょう。不思議な男性操縦者、川村静司」

 

 そう告げるとそのISは空へと消えていった。

 

 

 

 

 空へと敵が逃亡した後も静司は空を見上げていたが、不意にその両腕が掴まれた。

 

「さて、かわむー」

「僕たちが何を言いたいか分かってるかな?」

「ん? いきなり何……を……」

 

 振り返り映った光景に静司の顔が引きつった。

 

「かわむー、前も聞いたけどやっぱり君はマゾなのかな?」

「一番怪我してるくせに一人で居なくなって、僕たちがどれだけ心配したと思う?」

「ホ、ホンネサン? シャルルサン?」

 

 二人は笑顔だ。但しその背後からはゴゴゴゴゴ、と効果音が聞こえた気がした。

 

「言いたいことはいっぱいあるけどまず治療だねかわむー。しゃるるんお願い~」

「わかったよ布仏さん」

「本音? 何で手をワキワキしながら近づいてくるの? シャルル? 何故ISを使ってまで俺の手足を拘束する? お兄さんちょっとわかんないや」

「キャラ崩壊させて誤魔化しても駄目なんだよかわむー。またどこか消えちゃう前にここで治療しよ~」

「僕は逃げない様に抑えてるだけだよ。治療中も、その後の説教の為にも」

「え、ちょっと待って。流石に俺もこうやって服脱がされるのは抵抗が……って本音!? なんでメスなんか持ってる!? というか必要なのかそれは!? シャルルも何故そんな巨大な杭を俺に向ける!? 逃げない様に? この状態でこれ以上の脅しは逆効果じゃね? なんか違くね? これ俺のキャラじゃなくね? というか二人とも顔赤らめて恥ずかしがるくらいならやめようか!? 俺もちゃんと救護室行くから!?」

 

「「ふふふふふ」」

 

 どこか目の笑っていない二人に若干ビビる静司。それに構わず二人は静司の応急処置と説教を開始したのだった

 




元々静司はツッコミ:ボケを7:3くらいで考えてました。
今後は学園でも色々と素を出していきます。

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