IS~codename blade nine~   作:きりみや

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19.シャルロット

『説明をしてもらおう』

 

 薄暗く、陰気な部屋に男の声が響く。

 

「勿論ですよ。その為に今日はお集まりいただいたのですから」

 

 応えたのも男の声。ぽっちゃりとした体形と微笑みを絶やさないその人物は桐生だ。

 彼は今、大きなモニターの前に笑顔で立っている。そのモニターは幾つかに分割され、それぞれ映っているのはIS委員会のメンバーだ。

 

 

『川村静司の件、君のあげた報告書だけでは足りない。故に今回集まる形となった。納得のいく説明を期待しているよ』

「当然ですとも。では、お話ししましょう。川村静司の正体を」

 

(まあ嘘だけど)

 

 ニコニコと笑いながらも、桐生は内心苦笑していた。

 

「まず、先日のドイツのIS暴走事件。これの原因はVTシステムであり、それを止めたのが、織斑一夏、シャルル・デュノア。そして川村静司。しかしその経緯において、川村静司に不審な点がある。ここまでは良いでしょうか?」

『そうだ。彼は元々一般人と聞いている。しかし資料を見る限りとてもそうは思えない』

『VTシステム相手にあの立ち回り。彼には何かしら秘密がありますね。それに君にも』

 

 モニターの中、忌々しげに桐生を睨む男と、興味津々といった様子で首を傾げる女性。二人の言葉に桐生は頷いた。

 

「その疑問は正しいものですよ。単刀直入に言いましょう。川村静司はある企業と契約しており、そこで訓練を受けています」

 

 桐生の言葉に参加者たちがざわめく。口々に質問をぶつけようとするが、それを桐生が手で制した。

 

「まずはお話をお聞きください。さて、川村静司ですが、実は織斑一夏が発見される以前から私はその存在を掴んでいました。しかしとある事情からその事を明かさずにいました」

『その事情とやらを聞かせて貰おう』

「はい。まず一つは彼の安全です」

 

 ぴっ、と人差し指を立てる。

 

「川村静司は元々は本当に唯の一般人です。織斑一夏や、シャルル・デュノアの様に後ろ盾がありません。ここまで言えば理由は分かりますよね?」

『成程。下手をしたらそのまま実験動物行きか。確かにその可能性は否定できないな』

『そうですね。織斑一夏が無事だったのは姉と篠ノ之博士がネックだったから。シャルル・デュノアもまた、世界的に有名な企業の子。それに比べて唯の一般人だったのなら、黙殺される可能性もあります』

『しかし、何故我々にも黙っていたのだ? IS委員会で保護をすれば問題なかった筈だ』

「いいえ、むしろそこが問題だったのです」

 

 大げさに首を横に振る桐生に訝しげな視線が集まる。

 

『どういうことだね?』

「確かにIS委員会で保護をするという手もありました。しかし考えてみてください。もし、委員会のメンバーによからぬこと(・・・・・・)を考える人間が居たらどうなりますか? そう、例えば――IS委員会副委員長、ヘンドリックスさんとか」

『何っ!?』

 

 全員の視線が一つのモニターに集まる。とは言っても、桐生からすれば全員並んで見えるのだが。そして視線が集中したモニターに映るのは50台半ば、顎鬚を生やした茶髪の男だ。彼は一瞬、肩が震えたものも、直ぐに佇まいを直すと口を開く。

 

『何の事だ』

「白々しいなあ。前々から怪しいと思ってたんですよ。貴方の就任以降、ISの違法実験が異様に増えた。そしてその度に見つかるのが【ケージ】と呼ばれる生体ポッドと、捜索願の出ていた少女たち。おそらく委員会に保存されていた適性チェックの結果から、目的にあった対象を選んでいたんでしょうね。そして男性操縦者発覚後は異様に執着していたのもあなただ。その事から察するに、目的は自らもISを使う事」

 

 この場に居る誰もが唖然としながら桐生の言葉を聞いていた。それに気をよくしながら桐生は続けた。

 

「自らもISを使いたいが故に、【ケージ】によるIS適性の底上げ実験。そして男性操縦者は現れてからはその秘密を、それこそ解剖でもしてでも知ろうとした。しかも二人のうち一人は非常に狙い易く、これならいけると思ったんでしょうねえ。面白い様に動いてくれたおかげでアッと言う前に証拠が揃った。ああ、反論するのなら、まずこの資料を読んでからにしてくださいね。多分読んだら無駄だと分かるから」

 

 桐生が手元のコンソールを叩くと、全員に資料が送信される。それはヘンドリックスの悪事を証拠と共に纏めた物だ。それを見たヘンドリックスの顔が青くなっていく様を、桐生は楽しそうに見ていた。

 

『す、全て貴様の憶測だろう!』

「資料ちゃんと見て下さいよ。まあいいや。これは事実ですよ。証人も居ます。誰だと思います? あなたと一緒に【ケージ】の研究を行っていた男ですよ。既に逮捕済みなのでご希望なら呼びましょうか?」

 

 桐生が笑顔で笑いかける。その笑顔に男は怯み、しかし資料に目を見やるとやがて肩を落とした。無駄だと悟ったのだろう。その様子を見ていた他の面々が一斉に怒声を上げる。

 

『ヘンドリックス、貴様……』

『恥を知れ。馬鹿者が』

『君は委員会から除名だ。無論、しかるべく措置は受けてもらう。逃げても無駄だと言うことも伝えておこう』

『い、委員長! 私は――』

『黙れ。君はもうここに居る資格が無い。消えたまえ』

 

 委員長と呼ばれた男の言葉で、モニターの一つが消えた。委員長はその後どこかに連絡を取っていたようだが、それが終わるとため息を付いた。

 

『つまりはこれは理由だね?』

「ええ、そうです。外にも中にも敵が居たので下手に明かせなかったのですよ。委員長にも黙っていた事は謝罪しますが、副委員長があの様でしたので慎重にならざるをえませんでした」

『実際にヘンドリックスがやらかしているのだ。それに気づけなかった私が言える事は何もないよ。むしろ良くやってくれた。このリストを見る限り他にも居る様だね』

 

 どこか呆れた様子の委員長に桐生は頷く。

 

「そちらも全員、僕が信用を置ける者たちがマーク中です。合図ひとつで捕縛できます」

『構わん、やりたまえ。頭の痛い話だ……。それで隠していた理由は分かったが、彼の所属する企業とはどこかね?』

「K・アドヴァンス社ですよ。日本の企業ですが、デュノア社程の力はありません。故に、仮に彼がK・アドヴァンス社所属という情報をあらかじめ流していたとしても、効果は対して見込めませんでした。故にこんな方法を」

『K・アドヴァンス社……確かISコアは3つ所持だったか。確かにその程度の規模では、それこそヘンドリックスに言い様に利用されたかもしれんな』

 

 IS関連の企業の価値は、ISコアの所持数に比例する。強く、大きな会社ほど数が増えるのは当然だ。そしてK・アドヴァンス社の3つというのは少ない方だ。何故なら、ISは現代最強の兵器。それの開発となると、当然ながら防衛も必要になる。そしてその防衛もISが行う事を考えると、実際に通常の研究・開発に回せるのは2つのみになってしまうからだ。

 

「これはK・アドヴァンス社と川村静司にも協力を約束させています。そしてその代わりと言っては何ですが――」

『見返り……だな。奪われる可能性があったとはいえ、その程度の規模の会社なら男性操縦者所属という言葉はこの上ない広告塔になっただろうからな。それなりの物を要求してくるだろう』

「そういう事です。まず、K・アドヴァンス社ですが自社に川村静司が所属することを公式に認める事。他の国や、企業の参入する隙を与えない事。自社の事業に口出しをしない事、です」

『口だしか。状況にもよるだろうが、基本的には認めよう。無論、行き過ぎたものには介入するが』

「ありがとうございます。そしてもう一つですが、これは川村静司の願いでもあるのです」

『ふむ……?』

 

 興味深げに聞く委員長に桐生はにやり、と笑い返し、言う。

 

「それは彼の友人――シャルル・デュノアに関してのお願いなのです」

 

 

 

 

 フランスにあるデュノア社本社。その大会議室は空気が張りつめていた。

 コの字型に並べられた机に座るのはどれもが社の重鎮達。そして彼らの視線は会議室の大スクリーンとその前に立つ女に向けられていた。

 黒く、ウェーブのかかった長髪。胸元を開き、豊満な胸を強調するようなシャツとスーツ。整った顔立ちとその活力溢れる肌から20代と言われても通用するであろう容姿。しかし実際の彼女の年齢は40を超えている。そんな女が口を開く。

 

「さて、そろそろお返事を頂きたいのだけれど?」

「易々と言ってくれる……」

 

 女の挑発するような言葉に、集まった重鎮たちの一人が苦々しく呻く。そんな彼に女は呆れ気味に顔を向けた。

 

「前々からお話はずっとしていたでしょう? 考える時間はあったはず。今更時間稼ぎなんて許さないわよ?」

 

 それに、と続ける。

 

「そちらにも時間は無い筈よ。デュノア社最大のスキャンダルに世界が気づくのはもはや秒読み。もしそうなったら、会社は終了ね」

「まだそう決まったわけでは――」

「本当にそう思ってる? あんな事いつまでも隠しておけるわけないでしょう。現に私が知っている。フランス政府に知られるのも時間の問題。いえ、政府だけならまだマシかもね。けどマスコミや世論はそうはいかないでしょ。なにせ社長の実の娘を男装させて男性操縦者に近づけさせ、情報を盗む様に仕向けたのだから」

「……っ」

 

 女の言葉に会議室でも上座に座る、金髪の男が顔を顰める。女はそちらに顔を向けた。

 

「唯でさえ経営危機なのに、第三世代の開発も遅れていてイグニッション・プランのトライアルも絶望的。そうなればIS開発権利も剥奪されるっていうのに、こんなスキャンダラスな話がそのまま発覚したらどうなるか」

 

 わかるでしょう? と視線で問うと、金髪の男――デュノア社長も苦い顔で頷いた。

 

「それで、この話ということか……」

「そう。悪い話では無い筈よ? 私たちK・アドヴァンス社が助けてあげる。資金の援助とフランス政府への口添えをね」

「そしてその代わりにISを寄越せという事か」

「失礼ね。そもそもコアの委譲は禁止されているでしょう? こちらが望むのはISの共同開発よ」

 

 ただし、うちに有利な条件も付けるけどね、と付け加える。

 

「我が社は規模はデュノア社程じゃない上に、ちょっとマイナー路線なの。だからISコアも3つしかないのよ。これじゃあやりたい事が一杯あっても捌ききれないわ。けどデュノア社との共同開発が実現すればそれも解消される」

「結局はコア目当だな」

「そりゃ善意100%な訳ないじゃない。こちらにも得が無ければこんな話持ってこないわ。それにそちらにだっていい話よ。第三世代開発に遅れているんでしょう? 我が社はマイナーでも技術力はどこにも劣らない自信がある。その力は役に立つわ」

 

 会議室が静まり返る。全員がこの話の損得を改めて考えている事だろう。今まで何度もここでこの話をしてきたが、まだ話は決まっていない。しかし今日、女は決着をつけるべくこの場に来ていた。故に、この隙を逃さない。

 

「さあ、どうする? おそらくうち以外からも似たような話は来ているんでしょう? だけどシャルロット・デュノアの事を知っているのも、こんな好条件を出しているのもうちだけじゃない? 何せ、私たちは会社を乗っ取ろうという訳じゃない。潰そうという訳じゃない。デュノア社の名前はそのまま残るのだから」

 

 あと一押しだろう。ならば切り札を切るべきか。話しながらも思考する女のそれを中断させたのは、デュノア社長だった。

 

「だが分からない点がある。以前から君はフランス政府への口添えを語っているが、たかだか日本の一企業がそれを出来るという根拠が無い。それが無ければシャルロット――娘の事が発覚した際も意味が無い。それにIS委員会の件もある」

 

(来た……!)

 

 切ろうと思ってきた切り札。それを使うのに絶好の質問。しかしその前に一つ、やる事がある。

 

「その質問に答える前に、この場にいる全員に問うわ。今回の件、シャルロット・デュノアのIS学園編入に関してこの場にいる全員は知っていたのよね。どうして誰も止めなかったの?」

 

 何度目かの沈黙。その中である者は顔を逸らし、またある者は目を瞑り黙考している。

 

「その様子だと多少の罪悪感はあった様ね。それで社長はどうお考えで?」

「誰かがやらねばならず、そしてアレが適任だった。それだけの事だ」

 

 デュノア社長は真っ直ぐに女を見返す。

 

「罪悪感は無いと?」

「今更そんな言葉で取り繕うつもりもない。もとよりあれとは父娘として接したことも数度だ」

 

 シャルロットは愛人の子。この場に居る全員はその事を知っていながら、公表していない。それは会社内での結びつきが大きく、社長を引きずり下ろすような事を考える人間が居なかったが故。そういう意味では(・・・・・・・・)彼らは善人なのかもしれない。しかし、そこに会社の危機が入って来たとき、一人の少女を生贄にすることを決定した。そのちぐはぐな彼らの善悪感に女は嫌悪の表情を浮かべる。

 

「私も一人の母親として言わせていただくけど、最低ね」

「自覚はしている。だが私たちには会社と、その従業員たちの未来を守る義務がある」

「その為に娘の未来を生贄にすると言うのは、会社として正しいのかもしれないけど、賛同できるものじゃないわね」

「ならどうする? 自分から話を持ってきておきながら、白紙に戻す気か?」

「いいえ。ただ一つあらかじめ宣告しておくわ。例えデュノア社が生き残っても、貴方達それぞれにはそれなりの報いがあるという事を。会社の為に少数の犠牲はやむを得ないでしょう? ならば――お前達も贄となれ」

 

「…………」

 

 誰も何を言い返さないのは、ある程度覚悟していたからか。それでも会社の存続を願うのは、自分たちが築き上げてきた会社を無くしたくない為だろう。ここに居るメンバーは、誰もがIS第一世代から実績を積み上げ会社を成長させてきた人物達だからだ。

 

(歪んでいるわね)

 

 会社の為と少女の未来を奪い、そして会社の為と自分たちすら差し出す。これを歪んでいるといわずになんと言うべきか。

 

「反論は無いわね。一応体制が整うまでは今のままだけれど、その時は必ず来ると思っていて頂戴。では、フランス政府とIS委員会の件について説明するわ。とは言ってもこれを見て貰った方が早いわね」

 

 スクリーンに一枚の書面が映る。その内容に全員が驚愕した。何故ならそこにはフランス政府とIS委員会のサインが記されていたからでもあるが、何よりもその内容だ。要約すると、

 

『シャルロット・デュノアはフランス政府、及びIS委員会の支援の元、不穏分子の排除の為、囮として男装していた』

 

 そういう事になる。

 

「これは一体……」

「文章の通りよ。彼女は実力もあり、またその存在を今まで知られていなかった。それに目を付けたIS委員会がフランス政府に要請。ISの開発権利を継続させる事を条件に囮として学園に潜入した、と言う事になるわ」

 

(どこかで聞いた話ね)

 

 心の中で苦笑しつつ続ける。

 

「さっきはああは言ったけど、実はフランス政府の一部は既に彼女が女だと知っているわ。それを踏まえて交渉済み。政府としても何か理由を付けなければ国際的に立場は危ういからね。IS委員会も了承したからこれ幸い、と言った感じだったわよ。後は貴方達と、そして彼女が納得すればこれは有効となる」

 

 彼女、という言葉にデュノア社長が反応した。

 

「シャルロットの事か」

「ええ、そうよ。彼女にも選択させる。悪いけど彼女がそれを拒否したらこの話はおしまいよ」

「つまり私たちには元々選択権など無いに等しいという事か。例え私たちが望んでも、娘が拒否すれば全て終わる。随分な取引だ」

「ごめんなさいね。私、貴方達の事まだ嫌いなの。それに今まで散々彼女を振り回してきたんでしょう? だから今度は貴方達が振り回される番よ。ああ、間違っても彼女を脅そうとか考えないでね? その瞬間本当に終わるわよ、貴方達」

 

 にやり、と笑う女に会議室に集まった重鎮たちが冷や汗を流す。

 

「し、しかし何故フランス政府だけでなくIS委員会までが……」

「両方に貸しがあるのよ。大きな貸しがね。その内容は言えないけど必要ないでしょう? ここに事実として双方のサインが入った書面があるのだから」

 

 さて、と女が改めて会議室を見渡し、問う。

 

「まずは貴方達が決める番。さあ、どうする?」

 

 答えは決まりきっていた。

 

 

 

 

 

「うーん、良い風ね」

 

 デュノア社から出た草薙は大きく伸びをすると携帯電話を手に取った。メモリから相手を呼び出し、数度のコールの後、回線がつながる。

 

『由香里か。どうだった?』

「予想通り、デュノア社は受け入れたわ」

『ほう、そりゃいい報告だ。しかし案外早かったな。もっとごねると思っていたが』

「今回の話以外にもデュノア社のきな臭い話をそっちの子達が集めてくれていたからね。私もいつでも行ける準備は出来ていたから、後は貴方からの連絡が来れば直ぐにでも相手を脅し倒せたのよ」

『はは、おっかないな』

「私たちの大事な子が折角望んだんだもの。だったら最高の状態にしたいじゃない? その為なら私は手段を択ばないわよ」

『そりゃ俺も同じだ。で、発表は何時になる?』

「明日にでも出来るわよ。お膳立てはもう完璧」

『成程。なら後はこっちの彼女次第だな』

「そうね。まあ、彼女の性格なら結果は分かるけど、それでも自分に決めさせなきゃね」

 

 それが大事な事だから、と付け加える。

 

「そっちはもう夜でしょう? あの子は起きているかしら?」

『なんだ、電話でもするのか? 時間的には起きてるだろうが、もう寮の消灯時間だろうし、電話は難しいだろう』

「あら残念。まあいいわ。私も一度日本に戻るしその時に直接話をするわ。あー気になるわね。学園生活の事を直接聞きたいし、好きな子でも出来たかしら?」

『……まあ候補はいるかもしれん』

「…………今すぐ帰るわ。あの子から聞き出さないと!」

『おいおい、今日はまだ予定があったんじゃ――』

「何言ってるのよ!? これは大事な事よ!? そりゃ貴方は頻繁に会えるから良いでしょうけど、私は中々そうはいかないのよ!?」

『興奮しすぎだ。代表取締役『草薙由香里』の名が泣くぞ』

「ふん、今は『川村由香里』よ。そういう貴方もそうでしょう? 『川村章吾』。それとも今はまだ『課長』?」

『あー、わかったわかった。帰ってくるのは良いが、あまり無理はするなよ』

「初めからそういえばいいのよ。じゃあまた、日本で」

 

 電話を切るとその足を空港へと向ける。

 

「さあ、待ってなさいよ静司!」

 

 

 

 

 意味が分からない。

 今のシャルロットの心境を表すのならそれに尽きた。

 きっかけは朝、ある決意の元職員室へ向かっている最中の事だった。

 

「あら? 貴女(・・)がデュノアさん?」

「え? そうですけど……」

 

 部外者は入れない筈の学園敷地内で出会った一人の女性。胸元を大胆にはだけた、スーツ姿。その彼女はシャルロットを見つけると笑顔で近寄ってきた。

 初めは警戒した。先日あんな事件があったばかり。また侵入者が入り込んだのかと。しかし彼女の隣にはシャルロットも良く知る人物が居た。

 

「やあやあやあ。久しぶりだねえ」

「えっと、桐生さん?」

 

 笑顔で手を振るのはIS委員会の桐生。IS学園入学の際、彼女に説明を行った人物だ。

 

「僕にご用ですか?」

「ええ、そうよ。桐生さん、悪いけど二人きりになっていいかしら?」

「構わないよ。デュノアさんも安心して良い。彼女は信用がおけるから」

「はあ……」

 

 知らない人間と二人きりになるのは少し不安だったが、桐生の言葉を信用して女性と共に少し移動する。そしてたどり着いたのは何故か生徒会室だった。

 

「さ、入って」

 

 女性に促され中へと入る。生徒会室には誰もおらず、女性はずかずかと入り込むと、ソファーに腰を掛けた。シャルロットも促され、ソファーに座る。

 

「まず先に言っておくわ。ここで話す事は誰にも聞かれないと保証する。最初は色々仕掛けてあったけど、全部無効化してるから安心しなさい」

「あの、仕掛けるって何を――」

 

 問いの答えは女子が手にもっていた小さな機械。それを見たシャルロットが目を見開く。

 

「盗聴器……ですよね」

「そ。全部は見つけてないけど、こちらで妨害してるから安心しなさい。今頃この部屋の主は悔しがってるでしょうね」

 

 どこかで肩を落としているであろうIS学園生徒会長の事を考え女性は笑うが、シャルロットには何の事かは分からなかった。

 

「それで話とはなんでしょうか?」

「そうね。これに関してはまず貴女に見てもらいたい物があるのよ」

 

 女性はそう笑うとソファーの横に置いてあった鞄のロックを外す。そして取り出した物を見てシャルロットの顔が強張った。

 それはIS学園の制服だ。それ自体は毎日学園生が来ているのを見ているので珍しいものでは無い。問題は、その制服が女子の物だったからだ。

 

「一体……なぜ僕にこれを見せるのですか?」

 

 内心の動揺を悟られない様に言葉を発するが、それが成功したかは分からない。だが目の前の女性は決定的な言葉を放つ。

 

「貴女の為に用意したのよ。シャルロットさん」

「っ!?」

 

 自分の本当の名前を言われシャルロットの肩が大きく震えた。しかし数度、深呼吸をすると顔を上げる。その顔にはどこかすっきりした物が浮かんでいた。

 

「バレて……いるんですね。貴方には」

「そうね。私は貴女が女だと知っているわ。ごめんなさいね、驚かすような真似をして」

「いえ……。それで目的は何でしょうか?」

「そうね。貴方をIS学園から追い出す為、と言ったらどうする?」

 

 一瞬の沈黙。シャルロットは一度顔を伏せ、そして再び上げた時の眼には強い意識が籠っていた。

 

「―――戦います。貴方と」

「それはつまり武力行使という事?」

「できればそれはしたくありません。ですが僕はもう人の言いなりになるのは辞めると決めました。自分が女である事も今日、明かすつもりでいました。なので貴方が僕の正体をバラすだけの目的だったのなら気にしません。しかし、追い出すというのなら戦います」

「それがどんな結果を招くと思う?」

「分かりません。どちらにしろ批判は承知の上です。ですが、僕には友達がいます。僕にここに居てほしい、と言ってくれた人もいます。そして僕もそれに応えたいと思っています。だから僕はもう揺るぎません。どんな脅しをされようと、ここを出ていく気はありません」

 

 強い意志を持って言い切る。もう裏切りはしない。他人に言い様に使われもしない。自分自身の意思で残ると決めたのだ。だからこその言葉。

 女性はどこか見定めるようにこちらを見ている。彼女の言う、追い出すというのが、どんな方法を取るのか分からないが、もし力に訴えるのなら自分も対抗するつもりだった。

 だが、

 

「うん、合格!」

「…………え?」

 

 パンッ、と手を叩き嬉しそうに頷く女性にシャルロットが首を捻る。そんな彼女に女性は苦笑した。

 

「驚かしてごめんなさいね。だけどそれだけの覚悟があるのなら大丈夫ね」

 

 そう笑うと女性は名刺を取り出した。受け取ったその名前には『K・アドヴァンス社 代表取締役 草薙由香里』と書かれている。

 

「K・アドヴァンス社? それって」

「そう。日本の企業よ。そして今後は貴方の所属する会社のビジネスパートナーね」

「え?」

 

 状況についていけないシャルロット。草薙はそんな彼女に一枚の書面を見せた。それを見たシャルロットが驚く。

 

「ISの……共同開発?」

「そう。我が社とデュノア社のIS共同開発の合意書よ。ちゃんとお父さんのサインがあるわ」

「父の……」

 

 確かにそこには父のサインが記されている。だがそれと、先ほどの制服の話が繋がらない。

 

「あの、一体どういうことなんですか?」

「気になるわよね。まあ簡単に言えば、第三世代開発に遅れているデュノア社は外部と協力して新しい風を。私たちK・アドヴァンスはデュノア社のISコアを使った共同開発を。お互いにメリットのあるお付き合いをしましょうって事ね。それと貴女に関しては男装の必要が無くなったので、女性に戻る事が出来るという事」

「け、けど! 僕は世界を騙したんですよ? それなのにそんなあっさり……」

「騙したのは貴女じゃなくってデュノア社よ。で、何故それが可能なのかと言う事だけど、早い話世界をもう一度騙すのよ」

「騙す?」

「そう。貴女は『フランス政府とIS委員会の要請により、男性操縦者を狙う不穏分子を燻りだす為に囮として男装した』と言う事になるわ」

「そ、そんな事」

「もうフランス政府とIS委員会の了承は取っているわ。ほら、この通り」

 

 草薙が新たに出した書類には確かに双方のサインが記されている。唖然とするシャルロットが聞く。

 

「ど、どうやってこんなものを……」

「言っておくけどそれ本物よ? どうやったかは企業秘密」

 

 ぽかんとしながら草薙と、書類と、そして制服と視線を移すシャルロット。彼女は混乱の極みにあった。

 

「何故……こんな事を?」

「そうね。こう言ったら恩着せがましいけど、貴女の為でもあるわ」

「僕の……?」

 

 予想外の返答に首を傾げる。

 

「貴女は優しい娘。だから例え自らの意思で決めたからと言っても、自分が女だと発覚した際に、会社や、そして父に浴びせられる批判に心を痛めるでしょう? それに貴女自身もその対象となる。それを避けたかったのよね」

「け、けどなんでそこまでしてくれるんですか?」

 

 今までの経験からして、父親がそれを望んだとは思えない。それに草薙の口ぶりから、社長である父が、保身の為にこの話を持ちかけた様子でも無い。ならばこの女性がこんな無理を通してでも自分を守ったのだろう。それがシャルロットには分からない。

 

「確かにデュノア社とK・アドヴァンス社がビジネスパートナーになったかもしれません。けどそもそもどうやって僕の事を知ったんですか? それに何故そこまでしてくれるんですか?」

 

 シャルロットの真摯な問い。しかし草薙は人差し指を唇に当てる。秘密、のポーズだ。

 

「その問いには簡単に答えられるわ。だけど今は駄目」

「ど、どうして?」

「ふふ、いずれわかるわ。何故知ったのか。何故私たちが動いたか。貴女は頭の良い子だからきっと気づく。だからその時、お礼を言いなさい」

 

 さてと、と草薙は立ち上がる。机の上には制服が乗せられたままだ。

 

「本当はここでWhich? ってカッコよく聞こうと思っていたのだけれど、貴女の中でもう決まっているのならそれは不要ね」

 

 ね? と問いかける草薙にシャルロットは一瞬戸惑ってしまう。

 確かに決めた。今度こそ、自分の意志で。その後に起きるであろう混乱も覚悟していたが、その混乱はいい方向に変化している。その事に戸惑いを覚えてしまう。

 だがこれはチャンスなのだろう。確かに父の事を完全に忘れるなんて事は出来ない。選択に後悔は無いが、それでも気にしてしまうであろう自分の姿が思い浮かぶ。ならばこの話に乗ってみるのもいいかもしれない。少なくとも自分が考えていた以上に悪い事にはならないだろう。だからシャルロットも真っ直ぐに草薙を見返して、返事をする。

 

「……はい!」

「よしよし。じゃあ私は別の用事があるからそろそろ行くわ。幸せになりなさいな」

 

 そう笑い、出口へ向かう草薙にシャルロットは頭を下げるのだった。

 

 

 

 

 

「千冬姉も山田先生も遅いな……」

「そうだな。それにデュノアや川村も来ていないぞ」

「どうしたんでしょうか? 川村さんには聞きたいことがあったのですが」

 

 一年一組の教室で一夏達がぼやく。すでにSHRの時間は過ぎていたが、一向に姿を現さない担任と友人たちに首を捻る。

 

「聞きたい事って静司の事だよな?」

「ええ。昨日は聞けませんでしたが、あの戦い方は只者ではありませんわ」

「確かに。川村がただの一般人とは到底思えん」

 

 セシリアと箒が互いに頷く。一夏も確かに気になっていた。昨日の静司は明らかに、普段と違った。その理由を知りたい。

 

「秘密の特訓をしていた……じゃないよな」

「その可能性は低いですわ。入学して2か月ではいくらなんでも無理です」

 

 そうだよな、と一夏も頷く。それに静司の動きは姉である千冬に似ていた。いや、同じと言っても良い。それが一夏の疑問に拍車をかける。

 三人が悩んでいると、不意に教室のドアが開いた。現れたのはどこかフラフラとした山田真耶だ。

 

「み、みなさん……おはようございます」

「山田先生の様子がおかしいな」

「どうしたのでしょうか?」

「朝飯にでも失敗したとか?」

「篠ノ之さん、オルコットさん、席に戻りましょう。あと織斑君、馬鹿にしてると怒りますよ?……はぁ」

 

 やはりどこか様子がおかしい。そんな真耶は教壇にたどり着くと、疲れた様な声音で告げる。

 

「今日は皆さんに転校生を紹介します……と言っても転校と言いますかなんというか」

「転校生? また?」

「せんせーどういう事?」

 

 つい最近、二人が転校してきたばかりなのにまたしても転校生。生徒達が疑問に思うのも無理はない。

 

「じゃあ、入ってきてください」

「失礼します」

 

 真耶の呼びかけに応え、入ってきた人物。それに全員が驚愕した。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

 それは女子の制服を着たシャルロットだ。全員がぽかん、唖然する中、どこか遠い眼で真耶が、

 

「ということで、実はデュノアさんでした。女の子でした。ああ、寮の割り振りしなきゃいけませんね……」

 

 とぼやく。

 

「お……んな?」

「美少年じゃなく、美少女?」

「負けた……どっちでも綺麗ってズルい……」

「ちょっと待って、川村君は同室だし、織斑君も一緒に着替えたり……」

 

 何故だろうか。一夏は嫌な予感がした。そしてその予感が直ぐに的中する。

 

「一夏ぁっ!」

「り、鈴!?」

 

 まさに鬼の様な形相の鈴がドアを蹴破る勢いで現れた。その両肩には部分展開された衝撃砲。

 

「ちょ、ちょっと待て鈴! 俺も知らなかったしやましい事は何も――」

「嘘をつけええええええ!」

 

 聞く耳を持たない鈴が衝撃砲を放つ。悲鳴と、どこか楽しむような声が混じる教室に衝撃音が響いた。

 

「…………あれ、俺、生きてる? ってラウラ?」

「無事か?」

「あ、ああ無事だけどなん助け――むぐっ!?」

 

 衝撃砲から一夏を助けたのは、いつの間にか現れたラウラだった。そして彼女はいきなり己の唇を一夏に合わせ、所謂キスをしていた。

 

「………………」

 

 教室が沈黙に包まれる。真耶は「きゃ~」と顔を赤くし、生徒達は口をあんぐりと開けている。ただその中で4人だけ(・・・・)、別の雰囲気を纏っていた。

 数秒間のキスの後、唇を離したラウラが、顔を赤くしながら宣言する。

 

「お前は今日から私の嫁にする! 反論は認めん!」

「いや意味わからん!? というか何で嫁!?」

「日本ではそう呼ぶと聞いた!」

 

 完全に状況についていけない一夏と、堂々と宣言するラウラ。段々と混沌が増していく教室で三つの影が動いた。

 

「あ、アンタねぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 双天牙月を振りかぶった鈴と、

 

「あらあら、一夏さん。随分と仲がよろしいですわねえ? けれどちょっと私とお話をしましょうか?」

 

 スターライトmkⅡを展開し、青筋を立てたセシリアと、

 

「…………斬る!」

 

 どこから取り出しのか、木刀を構える箒だ。

 

「ちょっと待ってくれ!? 俺は何から何まで事情が分からないんだよ!?」

「「「問答無用!」」」

 

 まさに、一夏の命が奪われかねない状況。だが救いの神は現れた。

 

「何の騒ぎだ貴様ら」

「あ、織斑先生」

 

 鬼教官、千冬の登場だ。頭に血が上っていた彼女達も千冬の登場で顔を青くする。

 

「はぁ。状況はなんとなく読めるが、ISの無断使用は禁止されている筈だ。それを知らない貴様らではあるまい」

「く……だけどっ」

「この怒りが収まりませんわ……」

「私はISではありませんし、合法的に斬り飛ばせるかと」

「……まあいい。やるなら私の話の後にしろ」

「千冬姉!?」

 

 面倒になったのだろう。状況を放り投げた千冬に一夏が悲鳴を上げるが無視。千冬は廊下に声をかける。

 

「入ってこい」

「了解です」

 

 千冬に呼ばれ、入ってきた人物を見た瞬間、

 

『ひぃっ!?』

 

 生徒達&真耶が悲鳴を上げた。それはその人物の顔にあった。

 健康的に日焼けした肌。鋭く、獲物を探す獣の様にギラギラと光っている(様に見える)相貌にセシリア達も含んだ女子達が、早い話ビビったのだ。

 

「せ、先生。その怖い人……誰?」

「お、男の制服着てるけどそんな人知らない」

「……怖い……ぐすっ」

 

 涙目で千冬に問いかける生徒達。

 

「何を言ってるんだ。お前たちも知っている人物だぞ。なぁ?」

 

 どこか楽しそうに千冬がその男子生徒に問いかけるが、その男子生徒はどこか遠くを見つめ、

 

「この反応は……新しい。新しいけど何故だ、この空しさは」

 

 ふふふ、と乾いた笑いを浮かべていた。

 

「え、えっと、それでこの方は結局誰なんですか……?」

「ふむ、それはだな――」

 

 千冬が答えを言おうとした時だ。その男子生徒に近寄る女子生徒が居た。

 

「ほ、本音!?」

「何やってるの!? 戻ってきて!」

 

 彼女の友人が悲鳴を上げるが、本音はゆっくりと首を振り男子生徒に近づく。良く見ると、男子生徒が冷や汗を流しているのが見えた。

 

「やあ、かわむー」

 

 え? と静司と本音、そして千冬を除いた全員が驚く。しかし本音はそれを気にせずに笑顔で、そう、怖いくらいの笑顔でその男子生徒に声をかける。

 

「髪切ったんだね? 似合ってるよ~」

「そ、そうか……」

「うん。所で、しゃるるんって女の子だったんだね?」

「あ、ああ」

「一緒の部屋に住んでたよね?」

「そ、そうだな……」

「一緒の部屋に住んでたよね?」

「その通り……です」

「一緒の部屋に住んでたよね?」

「……ハイ」

 

 一言本音が話す度に、静司の腰が下がっていき、やがて正座となった。

 それを見た生徒達が「あぁ」と頷く。

 

「確かに川村君だ」

「布仏さんに頭が上がらない何時もの川村君だ」

「というか本音があれ程怒るとは……」

 

 口々に納得していく。そんな中、正座した静司の前で、荒ぶる小動物のオーラを放つ本音が笑顔で続ける。

 

「なんだろうね? 黙っていた理由は何となく予想がつくから、これでかわむーを怒るのは筋違いだとは分かっているんだけど、それでも何故か怒りたいんだ」

「えーと、ですね。できれば軽くスルーしていただけると」

「駄目だよ~。多分おねえちゃん達も知りたがるだろうし、何より私も納得したいよ? だからまず生徒会室にいこう~」

 

 相変わらずの笑顔だが、有無を言わさない様子の本音が静司の制服を掴み生徒会室に向かおうとするが、それを千冬が止めた。

 

「まて、布仏。私の話が先だ。その後は構わんが」

「いや構って!?」

「やかましい。それでこいつは川村静司な訳だが、皆も気になっていただろう。昨日の事だ」

 

 千冬の言葉に全員が耳を傾ける。確かに皆気になっていたのだ。

 

「早い話、川村は企業に所属するIS操縦者であり、今まで訓練を受けていた。今までは訳があって隠していたが、今回の件で公表することになった。以上だ」

「え」

『ええええええええええええええ!?』

 

 余りにもざっくりとしか言いようのない千冬の説明に何度目かの驚きの声が響く。

 

「企業って事は、シャルル君……じゃなくってシャルロットさんみたいな!?」

「何で黙ってたの!?」

「というかどこの企業!?」

 

次々に発せられる疑問に答えたのは千冬だ。

 

「K・アドヴァンス社だ」

「!」

 

 千冬の言葉にシャルロットの眼が見開く。驚いた様に静司に視線を向ける。

 

「もしかして静司が……」

「……」

 

 視線には気づいたが、静司は合えて気づかない振りをした。だがその態度が逆に確信を持たせてしまったようだ。シャルロットは驚きと、そして嬉しさを込めた眼で静司に話しかけた。

 

「静司……ありがとう」

「……なんの事だ?」

「ふふ、意地っ張り」

 

 顔を逸らす静司にシャルロットが笑う。その眼には少し涙が溜まっていたが、これは歓喜の涙だ。草薙の話と静司の所属。この二つを聞けば、結び付けるのは容易い。シャルロットの正体を知っており、なおかつここに居ろと言ってくれた人。そしてその彼のお蔭で自分は今、ここに居る。それが何よりも、嬉しい。

 

「選んだのはお前だ。俺は何もしてない」

「本当に意地っ張り。だけど今はそういう事にしておいてあげる」

「ふむ。良くわからんが良い話の様だな。流石私が見込んだ男だ!」

 

 ラウラが良くわからないながらもうんうん、と頷いている。それを疑問に思った一夏が問いかける。

 

「本当に俺は置いてけぼりなんだけど、ラウラと静司は仲良くなったのか?」

「ああ。お前の件も、静司に相談したからこそこうしたのだ!」

「おい!?」

「「「…………へえ」」」

 

 ギギギギギと壊れた機械の様に静司が首を回す。するとそれぞれの武器を構えた箒たちが静司を睨んでいた。

 

「つまり、アンタのせいなのね」

「おほほほほ、余計な真似をしてくれやがりましたわね」

「その首、斬り落としてやろう」

「おい、ちょっと待て!? それは洒落にならんぞ!? というか止めろよ担任!」

「さあ、私には何も見えんな」

「なっ!? アンタ黙ってたのを根に持ってるな!?」

「かわむー、話は終わってないよ?」

「静司、大人しくした方が良いんじゃないか?」

「一夏ぁ? アンタもよ?」

「え!?」

 

 にじり寄る箒たち。後ずさる静司と一夏。緊迫した空気の中、千冬が出席簿で教壇を叩く。それを合図として、静司と一夏にとって、地獄の鬼ごっこが開始されるのだった

 




 経営難で、IS開発権利さえ奪われそうな状態だったのに、実は女だったんです、なんて言われればもう会社おわりじゃね? と思ったのがきっかけ。

 原作だとその後のデュノア社がどうなったのかがいまいち分からなかったので、自分なりに納得する理由を考えた結果、取引&脅しという結果に。自分が読み飛ばしているだけで、どこかにちゃんと理由が書いてあるのかもしれませんが……
 それとシャルロットが代表候補生というのも、いつの間にかそうなっていた様な記憶しかなく、どこに記述されているか場所が見つからなく探し回りました。結局なろうの時に読者の方に教えて頂いたのですが。
 けど具体的に《シャルロットが代表候補生です》と説明されたのっていつになるんでしょう? 引き続き、ほかにもここがある、という情報があったら教えてもらえると助かります。今のところ、表紙の裏と、男装バレの時しか見つかってないんですよね・・・・・。


 展開自体はこの作品を書き始める前から考えていたんですが、いざ書こうとするとうまく説明できず試行錯誤するうちにどんどん深みに嵌っていくはめに。
 結局最後はご都合主義も入ってしまいました。
 ちなみにデュノア社のIS開発権利も、委員会との話の中で継続になった設定です。じゃないと共同開発する意味がないので、見返りとして要求しました。

 時系列は超タイトです。フランスは日本より数時間遅れていますが、由香里は母の愛の力で超ガンバりました。

 そしてデュノアとK・アドヴァンスの共同開発によりラファール魔改造フラグ。ついにドリルの出番か


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