IS~codename blade nine~   作:きりみや

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繋ぎの話なので短め


21.蠢く悪意

 高速で二機のISが空を駆ける。一つは銀。そしてもう一つは蒼だ。

 速度は蒼が上。先回りし、優位な位置を取ると、その手に持つレーザーライフル《スターライトmkⅡ》 を放つ。しかしその攻撃は、空を自在に舞う銀――静司の打鉄には当たる事は無かった。

 

「相変わらず良く避けますわね!」

「取り柄なんでな」

 

 蒼――ブルー・ティアーズを駆るセシリアの叫びに、静司は苦笑しつつ返した。

 

「しかし避けているだけでは勝てませんことよ! 見せて下さいな、K・アドヴァンス社専属パイロットの力を!」

「そんな仰々しい物じゃないんだけどなぁ」

 

 二機が再び動き出す。セシリアは機体名と同じビット兵器《ブルー・ディアーズ》を射出。静司を囲む様に展開しつつ、自身も《スターライトmkⅡ》で狙い撃つべく移動開始した。

 

「ビット操作時でも立ち回れる様になったのか」

「当然!」

 

 以前のクラス代表決定戦の際、セシリアはビット操作時に立ち止まるという致命的な弱点を一夏に突かれた。だが、あれから時間も経ち、彼女も訓練を欠かしていない。更には今年は異様に多い専用機持ちの実力者達との訓練で弱点を克服したのだろう。

 

「これでっ!」

 

 静司を囲んだビットとレーザーライフルの銃口が一斉に光り、静司放たれる。

 だが、

 

「なっ!?」

 

 静司はそのレーザーを時には避け、時には物理シールドで防いで潜り抜けていく。シールドエネルギーも大きく減っていくが、致命傷では無い。更にはその動きの最中にも、セシリアにアサルトライフルを撃ちこんでおり、セシリアは慌てて回避した。

 

(思っていた以上に、やりにくいですわね)

 

 静司の戦い方は以前から大きくは変わっていない。持ち前の動体視力の良さとPIC制御で敵の攻撃をひたすら躱していく。だが今回、何時もと違うのは、彼が積極的に攻撃してくる事だ。

 回避の狭間。防御の狭間。移動の狭間。要所要所で正確な銃撃を放ってくる。それは想像以上にやりにくい相手だった。

 

「本当にいままで本気でなかったのですね。初めて戦った時も」

「こっちにも色々事情があったんだ。そこは勘弁してくれ」

 

 恨めし気に睨むセシリアに、静司は一応言い訳をする。セシリアも納得したわけでは無いだろうが、一応頷く。

 

「ならば今は本気ですか?」

「それはオルコットが判断してくれ」

「……いいでしょう」

 

 再び二人が動き出す。セシリアがレーザーライフルを構え、静司は近接ブレードをその手に距離を詰める。そしてセシリアが引き金を引く直前、静司は懐から黒い塊を数個投げた。

 

(っ、爆弾!?)

 

 咄嗟にライフルの照準を静司から爆弾へと移し、撃ち抜いた。

 ゴゥンッ! と数度の爆発音が響き渡り、セシリアの視界が爆煙で遮られる。

 

「この程度の目くらましなど!」

 

 ビットとライフルを一斉に煙に向けて発射する。もとよりそれほど大きな爆発では無い為、煙も範囲は狭い。これなら当たる筈だ。そう安心したのも一瞬だった。

 

――後方に敵影。

 

「!?」

 

 ハイパーセンサーによる機械音声の警告に咄嗟に振り返る。そこには近接ブレードを振り被った静司が居た。

 

「これで――」

「おしまいですわね」

 

 セシリアの腰部から広がるスカート状のアーマー、残り2機の弾道型ブルーティアーズが動き、

 

「え――?」

 

 突っ込んできた静司に直撃し、打鉄のシールドエネルギーをゼロにしたのだった。

 

 

 

 

「アイツあの武装の事忘れてたのかしら?」

「多分そうではないか? でなければあんな見事に決まらないだろう」

 

 静司とセシリアの戦いを観戦していた鈴と箒が呆れた様に呟いた。その近くには一夏、シャルロット、ラウラ、そして本音が居る。

 

「けど静司がセシリアの背後に現れたのは」

「ふむ。瞬時加速だな。静司も使えたのか。やはり実力を隠していたのは本当の様だ」

「そうだね。手榴弾で気を引いた隙に、瞬時加速で背後に回るまでは良かったんだけどね」

「あ、戻ってきた~。かわむーおかえり~」

 

 口々に感想を漏らすそこに、セシリアと静司が戻ってきた。静司のその顔には疲れがありありと浮かんでいる。

 

「戻りましたわ」

「……疲れた」

「静司は随分と疲れてるな」

「専用機持ちの代表候補生と連戦だぞ? 疲れん方がおかしいだろ」

「……確かに」

 

 静司の言うとおり、セシリアと戦う前には鈴と。その前とはラウラと模擬戦をしていた。何故そうなったかと言えば、

 

「お前が実力を隠していたというからだ」

「私も興味あったしね」

「私は以前戦った時とどれ程違うのか、確認したかったのですわ」

 

 つまりは、今まで実力を隠していた静司の力を見てみたい、という訳だ。静司は渋ったが、有無を言わさぬ流れで結局戦う事になった。因みに静司の全敗である。

 

「それにしてもアンタ、もうちょっと頑張りなさいよ」

「無茶言うな。いいか、俺は確かに企業に所属してるけど、それだけなんだよ。専用機持ちの代表候補生相手に勝てるか」

 

 正直に言えば、やりようによっては勝てる自信はある。しかしこんな所で本気など見せたら、またややこしい事になってしまう。それ故に、静司はある程度加減して戦っていた。先の攻撃も、忘れていたわけでは無く、あえて当たったのだ。それを聞いたら彼女達はまた怒るだろうが、任務が優先なのでそこは譲れない。鈴も「まあそうよね」と納得した様だった。

 

「よし、じゃあ次は俺とだな!」

「一夏か……もう明日にしないか?」

 

 張り切る一夏に静司は疲れた声音で返すが首を振られる。

 

「とか言って逃げられそうだからな。俺も静司と戦ってみたいんだ」

 

 シャルロットと静司の事が発覚したのは今日の朝。あれから色々と二人は質問攻めに合い、一段落したかと思えば今度はデュノア社とK・アドヴァンス社がISの共同開発を行うというニュースが流れたお蔭で、またしても質問攻めに合った。それを何とか乗り越えた放課後。今度は生徒会室で色々話あってからの模擬戦だ。静司としては正直勘弁したかったが、一夏はやる気満々だった。

 因みに由香里はと言うと、あの後しばらく話した後、学園から去っていった。デュノア社との事で会見を開くためらしい。去り際にもう一度静司を抱きしめて頬を摺り寄せると言う場面もあったが、ここでは多く語らない。

 

「だけど一夏、そろそろアリーナの使用時間は終わるよ。今からやると中途半端に終わって消化不良になるんじゃないかな?」

 

 シャルロットが時計を見ながら告げる。元々遅い時間から始めたのでそれほど時間が無いのだ。

 

「う……確かにそうだな。仕方ないか。じゃあ静司、明日は絶対だぞ?」

「あー気が向いたらな」

「おい静司!」

「はいはい、騒いで無いでとっとと帰るわよ」

 

 喰いつく一夏と、面倒そうに躱す静司。それを追いたてるような鈴の言葉を切っ掛けにアリーナを去っていく。

 

「……ん?」

「かわむー? どうしたの?」

 

 ふと、何かを感じ振り返った静司に本音が不思議そうに尋ねる。

 

「いや……なんでもない」

「そっか。そうだ、かわむー。部屋に帰ったらゲームしよ~」

「いいけど、今度は何をやるんだ?」

「えっとね、『ポケットくりーちゃー』。捕まえたくりーちゃーを育てて宇宙一を目指すゲームだよ」

「へえ、面白そうだね。ネーミングセンスが微妙な気がするけど」

 

 シャルロットも話に参加する。本音は面白いよ~、と手をぶんぶんと振りながら説明を続ける。

 

「シリーズも一杯あってね、国民的ゲームなんだよ。因みに略称はポックリ」

「……一気に不安が増したというか、不吉過ぎないかその略称」

「こういうブラックジョーク的な部分も人気の秘密~。体験版があるから、しゃるるんも一緒にまずはそれからやってみよ~」

「あ、あははは……」

「構わんが、飯食ってからな」

「は~い」

 

 ガヤガヤと騒ぎながらアリーナから出ていく静司達。最後に一度、静司はもう一度アリーナを振り返ったが、直ぐに視線を前に戻すとそのまま帰っていった。

 

 

 

 

 静司達が去ったアリーナ。そこではまだ数人が訓練を行っていた。その中の一人が不意に首を傾げる。

 

「あれ?」

「どうしたの?」

 

 一緒に訓練をしていた友人の声に、彼女はうーん、と呻きながらハイパーセンサーを全開にして周囲を索敵するが、直ぐに諦めた。

 

「一体どうしたのよ?」

「えーとね、今一瞬あっちの方にリスが見えた気がしたんだけど」

「リス? こんな所に?」

「うん。なんか銀色のリスみたいのが。けど居る訳ないよね。ウチはペット禁止だし」

「見間違えでしょ。疲れてるんじゃない? そろそろ時間だし私たちも上がりましょう」

「そうだね」

 

 二人は特に気にする事も無く帰り支度を始めるのだった。

 

 

 

 

 それは闇の中を進んでいた。

 人間の眼では何も見分け出来ないであろうその空間。しかし人間でも、そして生物でも無いそれは構わず進んでいく。

 行き止まりがあれば回り道をし、隙間があればそこから進み、それでも道が無ければ、穴を開ける。そういった作業をこなしながら奥へ奥へと進んでいく。

 やがて開けた場所へ出るとそれは周囲を観察し始めた。

 大きさは30㎝程。銀色の表面は流線型。無機物ながらもどこか生物を感じさせるフォルムを持った尻尾と耳。そして赤く光る眼。機械仕掛けのリスと呼べるそれは、暫く周囲を見渡した後、目的の物を見つけたのか走り出す。

 そしてたどり着いたのは妙な場所だった。あちこちが瓦礫と土に埋もれているが、よく見ると円形の穴が横に伸びているのが分かる。

 機械仕掛けのリスがその穴の表面に眼を寄せると解析を開始する。

 

――高威力のエネルギー兵器による融解跡と確認。該当兵器……不明。既存のレーザーライフルでは不可能と判断。

 

 そのままあちこちに移動しては、その融解跡を解析するがやはり不明。

 ここには欲しい情報は無いと判断し、更に進んでいく。そして周囲を探っていく。すると数個の薬莢を発見した。リスはそれを手に取ると、齧った。

 

――デュノア社製、アサルトライフル《ガルム》より排出された薬莢と判断。

 

 齧り終えると再び動き出す。薬莢が落ちていた周囲を重点的に探索していると遂に目的の物を見つけた。

 それは染み。既に時間が経ち、黒ずんで薄れかけているが、これは人の血だ。

 リスはその血が付いた部分をそのまま齧り取ると、目的は達したとばかりに撤退を始める。近くの鉄骨を上り、隙間を抜け、上へ、上へと登っていく。

 やがてリスの眼に月の光が映る。地面から這い出る様にして出てきたのはIS学園第5グラウンド。その脇にある変電室の傍。

 かつて、静司とシャルロットが地下から脱出した場所だった。

 

――32号、目標達成。撤退開始。

――21号、第二目標の監視継続。

――3号、引き続き、地下の調査を継続。

 

 一通りの通信を終えると、機械仕掛けのリスは夜の闇に消えていった

 




原作にも登場してるあのリスです。

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