IS~codename blade nine~   作:きりみや

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27.学習

 眼と鼻の先を銃弾が通り過ぎていく。それに肝を冷やしながらも、ラウラは攻撃の手を緩めなかった。高速で動く相手に大型レールガンは不向きだ。しかしラウラにはワイヤーブレードがある。まるで網を張る様に、宙で踊るワイヤーがイーグル型の動きを牽制する。イーグル型は器用に方向転換してはいるが、少しずつ与えたダメージが利いているのか、その動きに最初の様な精細さは無い。

 

「捕らえたぞ!」

 

 イーグル型の進路を読み、先回りをする。それでもここで攻撃しても躱される事だろう。だがラウラのISにある特殊武装がそれを可能にする。

 

『!?』

 

 AIC。シュヴァルツェア・レーゲンに搭載された停止結界とも呼ばれるそれがイーグル型の動きを止める。そこに出来た隙に、プラズマ手刀を叩きこむべく間合いに入る。だが、突如イーグル型の腹部が光り出す。

 

「なっ!?」

 

 腹部は閉じられたままの筈だ。しかしお構いなしに放たれた光学兵器は、腹部装甲を破壊しつつも放たれた。その反動でイーグル型が傾き、ラウラのプラズマ手刀は掠るに留まった。更にはAICが解かれると至近距離のラウラに向けてもう一度その腹部が光る。

 

「味な真似を!」

 

 スラスターを全開で吹かし、その光の一撃から逃げ出す。放たれた光学兵器は遥か遠く、海上に着弾し大きな水しぶきと蒸気を上げた。それを横目に見ながらお互い再び距離をとる。

 イーグル型との戦いはラウラの予想とは違う展開を見せていた。その原因は福音にある。

 イーグル型から注意を逸らさずに、ちらり、と福音を見る。福音は一夏達の撤退以降、追う事も、こちらに攻撃を仕掛ける事も無く微動だにしていない。まるで興味が無いように。いや、そもそも暴走していたはずなのに今はそんな様子が見えない。

 

(何かを狙っている……? 違う。待っているのか?)

 

 その意図は読めないが今は助かっている。お蔭でイーグル型との戦闘に集中できる。しかしそれもそろそろ終焉だろう。セシリア達も安全圏まで逃げ延びた筈だ。後は自分も撤退するのみ。

 再びイーグル型が動き出す。ラウラも反応し、一気に下降。海面スレスレを高速で駆ける。イーグル型もそれを追うように飛び、銃弾を浴びせてきた。その一撃一撃を右に左に回避しながらラウラはレールガンを後ろ向き、海面に向けて放った。

 大きな衝撃。海面が爆発し蒸気が湧きあがる。衝撃で吹き飛ばされた海水が雨の様に降り注いでいく。だがISのハイパーセンサーはこの程度で相手を見失ったりしない。

 ラウラはレールガンで巻き起こった海水による雨の中反転。両手にプラズマ手刀を展開すると海面を斬りながら迫るイーグル型へ突進する。斬られた海水が蒸発し、更なる蒸気を巻き上げる中、二機は激突した。

 

「痛っ……!」

 

 すれ違った二機。傷を負ったのはラウラだった。腕の装甲が砕かれ、シールドを抜けたその攻撃はラウラの肌にも血を流させていた。だがそんな事を構うことなく再び反転。再度挑みかかる。イーグル型もまた、同じように向かってきた。その様子を見たラウラの口が笑う。

 

「馬鹿め」

 

 呟きつつ一つの信号を送る。同時にイーグル型の真下の海面が突如爆発した。予想外のその衝撃に姿勢を崩し、水を切る様に転がるイーグル型にラウラが迫る。その肩には、先程まであったレールガンが無い。

 

「終わりだ!」

 

 姿勢制御を取り戻せないイーグル型。それに今度こそプラズマ手刀が直撃した。装甲が砕かれ、シールドエネルギーがゼロとなる。一瞬もがいたものも、これまでの蓄積ダメージもあったのかイーグル型は遂にその動きを止めた。

 だがラウラに喜んでいる暇はない。今までは静観していたと言ってもこの隙に福音が攻撃を仕掛けてこないとは限らないのだ。ワイヤーブレードで機能停止したイーグル型を捕獲すると即座に戦域から離脱する。

 

「上手くいったか……」

 

 イーグル型の真下で起きた爆発。それはひそかに海中に忍ばせたレールガンのユニットだった。水蒸気と雨で攪乱した隙に切り離したそれを海中に忍ばせ、敵が通ると同時に自爆させる。上手くいくかは賭けだったがどうやら勝ったようだった。

 ちらり、と背後を確認するが福音に追ってくる様子は無い。その事に安堵しつつラウラは速度を速める。これで終わった訳では無い。連絡が取れない花月荘や、一夏の様子が心配だ。蓄積ダメージが大きい為、思った以上に速度が出ない。そんなISにやきもきしつつ、はやる気持ちを抑えながらラウラは花月荘へ向かい飛び続けた。

 

 

 

 

 

「いい加減、しつこい!」

 

 鈴の放った衝撃砲がイーグル型の足を掠る。その衝撃に態勢を崩した所に、地上から放たれた銃弾がイーグル型に叩きこまれた。

 

「これ以上、やらせません!」

 

 撃ったのは真耶だ。一度は墜落したものも鈴に助けられた後、彼女も復活していた。だが機体のダメージはそうはいかず、これ以上の飛行は危険であるために地上からの援護射撃に徹していた。同時に、もし敵の攻撃がこれ以上花月荘に及ぶようなら身を挺しても守る為でもある。

 

『……!』

「これ以上アンタに構ってる暇は、無いのよ!」

 

 真耶の銃撃の隙に接近した鈴が《双天牙月》を振り下ろす。その一撃がイーグル型のシールドエネルギーを更に削っていく。

 元々最初に彼女達が苦戦したのは状況が悪かった性もある。三体三とはいえ、機動力は相手の方が上なのに加えて、敵は花月荘の上空から離れようとしなかった。故に流れ弾に注意しなければ戦わなければならなかった。しかし今は二対一。三対一の時の様に圧倒的とは言えないにしても、地上は真耶が守りつつ援護を行い、その間に鈴が攻撃を仕掛けるという戦術で少しずつ相手を疲弊させていた。暴走した敵機に体力という概念があるのかは不明だが、エネルギーは確かに存在する。そして無限のエネルギーなど存在しない。二人のコンビネーションにより、少しずつ戦局は有利に傾いている筈だった。しかし二人の顔には安堵や喜びは無い。

 

「織斑先生! 花月荘に突入した敵は!?」

『今向かっている! お前達はそちらに集中しろ!』

「集中なんて……出来る訳!」

「凰さん、来ます!」

 

 迫るイーグル型を切り払いながらも、花月荘を気にして焦る鈴に真耶が注意を促す。いつもならここで千冬も何かしら言う所だろうが、彼女は今花月荘に突入したイーグル型を抑えるために動き出している。本来、花月荘にはあと一機ISが残っていたが、イーグル型突入の衝撃で瓦礫に埋まってしまった為、生身で向かうしかないのだ。

 

(ティナ、本音、シャルロット、川村、それにクラスの皆……無事でいてよ!)

 

 ルームメイト、友人、そしてクラスの仲間たちの事が心配で堪らない。しかし千冬の言う通り、目の前の敵を野放しにする訳にはいかないのだ。焦る気持ちを怒りに変えて鈴はイーグル型を睨みつける。《双天牙月》をもう一基呼び出すとそれを連結。

 

「山田先生!」

「はいっ!」

 

 鈴の意図に気づいた真耶がイーグル型へ銃弾を放つ。正確無比なその射撃はイーグル型腕を捕らえ再び怯ませる。

 

「く、ら、えぇぇぇぇぇ!」

 

 鈴が《双天牙月》を振りかぶり投擲。しかし真耶の射撃に比べて大ぶりなその攻撃は躱されてしまう。だが、それでいい。

 

「その態勢で、攻撃を回避しようと思えば、その方向は限られます!」

 

 ゴゥン、と鈍い音が響く。イーグル型の胸部装甲が砕かれ火を噴いた。動きを読んだ真耶の射撃が、今度こそその正面に直撃したのだ。そして、

 

「落ちなさいよぉぉぉぉ!」

 

 叫びながら鈴が最大出力の衝撃砲を叩きこむ。もはや回避どころでは無かったイーグル型にそれは直撃し、その装甲をまき散らしながら墜落していく。シールドエネルギーも切れたのだろう。だが、まだ動くだけのエネルギーはあるのかわずかにもがいている。そのイーグル型に影がかかる。

 

「私たちの学園に喧嘩を売った報いよ、その身に刻めええええええええ!」

 

 それは《双天牙月》を振り被り、太陽を背にした鈴の影。投げた武器をもう一度呼び出した彼女が、最後の一撃とばかりに振り下ろす。回避は不可能。直撃を受けたイーグル型は遂に力を失い、そのまま砂浜に叩き落された。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

 肩で息をしながら砂浜で倒れるイーグル型を注視する。破壊された装甲の内側、気を失った女性の姿が見える。少し動いている事から死んではいない。だが機体の方は完全に停止した様だった。

 

「よし、これで――」

 

 花月荘に突入した最後の一機に集中できる。そう考えた矢先だった。

 突如、その花月荘から黒い影が空に飛びだした。

 時折赤い光が走る黒い全身装甲。異様に巨大な鉤爪の様な手足。そしてその肩から左右に広がる巨大な翼。それはかつて自分と一夏を救った黒いISだった。

 

「アイツは!?」

 

 何故ここに? それにアレはいま花月荘から出てこなかったか? 中は一体どうなっている? 様々な疑問が浮かぶ中、その黒いISはゆっくりとその体を海とは逆側、山の方に向ける。一体何を? という疑問の答えは直ぐに出た。

 黒いISの翼。そこにある砲口が光ったかと思うと、収束された光線が山に向けられた発射されたのだ。

 

「なっ!?」

 

 放たれたのは六発。その光線は着弾すると爆発と轟音を撒き散らし山を焼いた。その突拍子もない行動に混乱するが、黒いISは微動だにせず、翼の角度だけずらすと再び発射を繰り返す。自然豊かだった筈の山は一瞬にして炎と煙が舞う地獄の様な光景に変わっていた。しかしそんな事を気にせずに黒いISは砲撃を繰り返してゆく。

 

『山田先生、凰!』

「っ、織斑先生! 花月荘の皆は!?」

 

 黒いISが作り出す光景に唖然としていた鈴だが、千冬からの通信に気を取り直すと最も気にしていた事を尋ねる。

 

『数名負傷したが命に別状はない! それと敵はすでに無力化されている!』

「無力化?」

 

 あの黒いISがやったのか? それとも静司やシャルロット達が? 疑問に思い訊くが千冬からもわからない、という返事がきた。どうやら千冬が突入した時には事は終わっていたらしい。

 

『こちらは生徒の救助にあたりたい。だが、あの黒いIS……奴は一体何をしている?』

「わ、わかりません……。無造作に山に砲撃している様にしか……」

 

 真耶が困惑しながらも答える。確かにあのISは無茶苦茶に砲撃してる様にしか見えない。その目的は何だろうか? 考える鈴の視界にその山の中を走る人影が見えた。

 

「あれは……」

 

 ハイパーセンサーの感度を上げズームする。逃げているのは日本人では無い、北欧系の男や女。山の木々に紛れるような服装をしており、鈴は直感的にそれが軍人だと気づいた。

 

「山田先生、あれを」

「え……? っ、成程」

 

 真耶も気づきその眼を悲しそうに細める。その様子を見た鈴もなんとなくだが察しがついた。アレはどこかの国の諜報機関だ。

 IS学園はいかなる干渉を受けない。それが大前提。しかしだからと言って本当に何もしない程、世界は温くない。秘密裏に様々な組織が監視や調査を行っている事は鈴も知っていた。知っていて、しかし知らない振りをする。それはおそらくセシリアやラウラ、シャルロットも同様だろう。そして教師陣も。本音と建前。そういったものが複雑に絡み合った事情がある。全ては国の為だ。

 よく見てみれば、他にもいくつかの場所で人影をセンサーがキャッチしていた。中にはアジア人らしき姿も見える。普段は学園の中で、監視も思う様にはいかないだろうが、今回はその学園から出ている為、ここぞとばかりに各国が情報取集に動いているのだろう。

 しかしこうなってくると、あの黒いISの目的はその諜報機関の燻りだしか? しかし逃げていくそれらには全く興味が無いように、黒いISは砲撃を続けている。だがそこに変化が起きた。

 黒いISが放った六発の砲撃。その内の一発が、山にあたる前に弾かれたのだ。

 

「え?」

 

 そこは何の変哲もない木々の筈だった。だが確かに黒いISの攻撃は弾かれた。

 黒いISが砲撃を止めそちらに向く。

 

『ソコカ』

 

 鈴のハイパーセンサーが、黒いISから漏れた声を拾う。それは機械により無機質な電子音声に変えられていたが、何故だか鈴はそれがとてつもなく恐ろしい物に感じた。そして肩を震わせる鈴の視線の先で、黒いISは山に向かって飛び出した。

 

 

 

 

簡単な話の筈だった。

 

束は花月荘より少し離れた山中で首を捻る。

世界初の第四世代と血を分けた妹のデビュー戦。更には大切な友人の弟に箔をつける。その為にも銀の福音は格好の素材だった。

 お膳立ても彼女にとっては造作もない。福音に小細工をし、ある程度の指向性(・・・・・・・・)を持った暴走をさせる。紅椿についても、箒がパーソナライズを始めた時点で適性をSに変える様に命令した。その結果、箒は自らが思っている以上に自在に動かすことが出来た筈だ。

 IS適性。それは正確に言うならば、『コア意識との相性』と言う事になる。全てのコアには意識がある。未熟なものから成熟な物まで様々にだ。そしてコアには性格もあり、それが適正に大きく関わってくる。

 搭乗者が初めて触れたコア。そのコア意識との相性によって適性ランクは決定するのだ。触れられたコアは搭乗者を認識し、自らとの相性を認識し、それを他のコアにも共有化する。情報を受けたコア・ネットワーク上のコア達はその人物の適性を共有する。つまり、IS適性の可否は初めて触れるコアによって左右されるというギャンブル的な側面を持っているのだ。

 箒が初めて触れたのは打鉄。その打鉄のコアの意識と箒はあまり馬が合わなかった。それ故に彼女の適性はCとなり、その情報が共有化された。

 しかし紅椿は違う。箒との相性を最高ランクで更新する様にあらかじめ命令を加えておいた。更にはその更新を他のコアにも共有させた。それ故に、箒は自らが考えている以上に紅椿を思い通りに動かすことが出来たのだ。

 そして一夏についてもそう。本来なら男性との相性は皆無の筈だが、一夏だけは除外する様にコア・ネットワークに命令を流しそれが共有化されたのだ。

 そうして出撃した箒と一夏達。お膳立ても完璧。後は福音を倒して華々しいデビューを飾る……筈だった。実際は何故か一夏は撃墜され、箒は戦意喪失し二人は撤退。イーグル型はドイツ人が倒していた。

 そしてもう一つの計画。生意気な二人目にちょっと痛い目を見せるという計画もどこからか狂い始めた。花月荘を襲撃し、アレと一緒に居た女を少しだけ痛めつける。彼女には何の恨みも無い。そもそも束はその女に対して何も思っていない。大事なのは、アレと一緒に居たという事だ。

 己の目の前で大切なモノが傷つき、そして自分が何も出来なければ己の無力を思い知るだろう。加えて、一夏達が福音を倒して帰ってくればそれは際立つ。チープではあるが、それ故に効果的であると束は考えていた。

 束はこの行為が残酷であるとは考えていていない。別に殺す気は無いし、ちょっと痛い目を見てもらい自分の立場を思い知らせる。それだけの理由。それはまるで子供の嫌がらせ。

 そもそもアレがISを使うこと自体、本来おかしいのだ。束が許可を出した男は一夏のみ。ならば何故使えるのか? おそらくどこかのコアが自己進化の過程で、アレを受け入れる進化をしてしまったのだろう。そしてそれが共有化された。そのコアについては後々探し出して『調整』する必要がある。

 そうして始まった花月荘襲撃。途中までは順調だった。追ってきたアレのISを強制停止させ、捕らえた女もこれ見よがしに見せつけた。追ってきたもう一人の女も、ついでだから演出の道具とした。あれの顔は中々に滑稽で、すっとする思いがあった。

だがその直後に理解できない現象が起きる。

突如、アレのISが自爆したのだ。ハッキングしたイーグル型の視界越しに見たその光景に束は一瞬青ざめた。殺すつもりなんて無いのだ。あんな思いは二度と(・・・・・・・・・)感じたくない(・・・・・・)

 だがその恐れも驚きに変わる。至近距離での打鉄の自爆にセンサーが白に染まった一瞬。その一瞬の先、束が見たのは視界いっぱいに広がる黒い何か。その直後センサーは死に、イーグル型もほどなくして機能を停止した。

 そして状況は分からず、首を捻る束の前にそれは現れた。

 

 黒いIS。

 

 かつて自分の無人機を破壊し、不快な気分にさせた謎のIS。そのISは無差別に山を砲撃したかと思えば、こちらに迫ってきている。その姿に束は言い様も知れない不快さを感じた。

 

「なんのかなこいつは」

 

 束がいる辺りにはIS学園のアリーナとは比べ物にならない程の強固さを持つシールドが張られている。そのシールドが周囲の木々に紛れるように偽装されており、束の姿を隠していた。何せこの山の中にはあちこちにネズミが居るのだ。見つかっては相手をするのが面倒だった。しかしそのシールドの偽装も先の砲撃で暴かれた。何せ、辺りは焼かれているのに自分の周囲だけは無事なのだ。これほど不自然な物はないだろう。

 そしてそのシールドに黒いISが衝突した。青白いスパークと波紋がシールドに広がる。激突の衝撃は波となって、周囲の炎を消し飛ばす。しかし破られることは無い。それは当然だ。この自分が作ったのだから。

 束は目の前でシールドにその巨大な鉤爪を突き立てる黒いISを見やる。全身装甲。巨大な両翼。時折その装甲の表面を赤い光が走るのが不気味さを感じさせる。更には、このISはシールドを展開していない様に見える。折角の防御機能を使わないとは頭がおかしいのだろうか?

 

『―――ッネェ――――』

「ん?」

 

 黒いISを観察していた束だが、黒いISから漏れた声に首を向ける。全身装甲のその頭部。赤く光る眼の様なセンサーと視線が重なる。その瞬間、ぞくり、と肩が震えた。

 

『シィノノノォ、タァバネェェェェェェェェェェェェェ!』

 

 それは怨嗟の声。束に向けられた地獄の底から這い出るような、殺意。だが束にはこのISにそれを向けられた理由が分からない。だが嫌な感じがする。

 

「五月蠅いよ、お前」

 

 吐き捨てるように呟くと手を上げる。それを合図として、黒いISに遥か上空から放たれた銃弾が直撃した。その衝撃で黒いISは吹き飛ばされ地面を転がる。続いてシールドの外に二機の無人機が降りてくる。今まで戦域から少し離れた上空で待機させていた無人機達だ。二機の無人機はその両腕の銃口を倒れる黒いISに向けたままゆっくりと近づいていく。そしてその砲口が光った瞬間、二機の無人機の腹は貫かれた。

 

『……』

 

 瞬時加速。倒れた状態からの一瞬の奇襲で二機の無人機を鉄屑へと変えた黒いISがゆらり、と束を睨む。その両腕には鉤爪で貫かれた二機の無人機。それをまるでゴミの様に投げ捨て、再びシールドへと飛びかかる。その姿は最新鋭の兵器であるのにも関わらず、どこか追い詰められた獣の様であった。

 

「不愉快だよ」

 

 束は投影ディスプレイを呼び出すとコンソールを叩きだす。コアネットワーク接続。現在稼働する全てのISに命令を送る。内容は自分への攻撃行為を行うISの全停止。これで問題な――

 ガキッン、と音が響く。目の前で黒いISが再びシールドに爪を突き立てている。

 

「あれ?」

 

 きょとん、と目をぱちくりさせる。おかしい、命令は出した筈だ。もう一度同じプロセスを通してみるが結果は同じ。目の前のISは相変わらずシールドに攻撃を仕掛けている。

 ならば、とばかりにコアネットワークを検索。目の前のISのコアナンバーを確認しようとするが、その結果は『該当なし』と出た。おかしい、そんなもの存在する筈はない。

 

「どうして……?」

 

 得体のしれないIS。それに対して束は初めて恐怖感を覚えた。

 

 

 

 

「あらあら、面白い事になってきたわねえ」

 

 そんな様子を眺めながらカテーナは楽しそうに笑っていた。その横ではシェーリが無表情でその戦場を眺めている。その様子はどこか不機嫌そうだ。それに気づいたカテーナが訊く。

 

「あら、どうしたの?」

「いえ、少々見苦しいものでして」

「へえ……ああ、成程」

 

 シェーリが見ているのは黒いIS。川村静司だ。かつて自分と死闘を繰り広げた相手の、様子が気に入らないらしい。

 

「貴方と戦った時も似たような状況じゃなかったかしら?」

「はい。しかし自業自得であの状況です。それが無様でして」

 

 ふむふむ、と興味深げに訊くカテーナ。彼女は機械に繋がれたコアに視線を向ける。

 

「貴方はどう思う?」

『わからない。なぜ、あのISは、おこっている?』

 

 コアの意識が言葉となって画面に映し出される。

 

「それはね、大切な人たちを傷つけられたからよ」

『たいせつ』

「そう、大切。貴方にもあるかしら?」

『それは、はは、のみ。なぜなら、わたしは、IS』

「あら? だけどよく見てごらんなさい。博士に攻撃を仕掛けるのもISよ?」

『……』

 

 揺らいでいる。悩んでいる。それこそがカテーナが望んでいた展開。笑みを強めると再び語りかける。

 

「じゃあ質問を変えましょう。シェーリが言った自業自得の意味について、どう思う?」

『わからない』

「そう、じゃあ教えてあげましょう。あの黒いISはもっと早く出すべきだった。しかしそれをしなかった。それは何故か?」

 

 カテーナはシェーリへと視線を移す。シェーリは頷くと語り始めた。

 

「これは推察ですが、壊したくなかったのでしょう。今ある日常を」

『いみが、わからない』

「勿論任務の為や隠ぺいもあったのかもしれません。ですがおそらくあの少年は、あのISを使い、もし正体がばれた後の事を恐れていたのですよ」

『しょうたい、かくす。それがばれるのを、おそれる。それは、ふつう』

「確かにそうです。しかし彼が恐れたのはその更に先。正体がバレ、彼は更に世界的に特殊な存在になる。そうなれば学園にはもう居られない。意識か無意識なのはわかりませんが、それを恐れていたのでしょう」

『がくえん、たいせつなひと。はなればなれ?』

「正解。よくできました」

 

 カテーナがコアを撫でる。だがコアにはまだ疑問があった様だ。

 

『なぜ、わかる?』

「あら?」

『あのISはてき。なのに、どうして、わかる?』

 

 それは当然の疑問なのかもしれない。しかしその当然をこのコアが、問いかけた事には大きな意味がある。だからこそカテーナは応えた。

 

「それが推察すると言う事。自分達で情報を集め、正しいと思う答えを導きだすと言う事。私たちはあの少年の日常を調べ、その性格を分析し、そしてある程度は理解した。そこから導き出された答えよ」

『みちびきだす』

「そう、だからね、私は期待してるの。この出来事が終わった後、あなたが何を考えどんな答えを導き出すか」

 

 このコアは優秀だ。きっと大きな変革の核となる。

 カテーナは未来への核心に笑みを深めながら戦場を眺めていた

 

 

 

 

「B9! 応答しろ、B9! ……くそっあの馬鹿が!」

「まずいわよC1。黒翼の姿が世界各国の誇る盗撮軍団(諜報機関)に丸見え。最も見てる暇も無さそうだけど」

「どっちにしたってこの状況は不味い。ああ。本当に不味い!」

 

 悪態をつきながらC1はたった今逃げ出してきた山の方へ向き直る。先ほどまで彼らが居た辺りは今や焼野原。逃げていなければ今頃どうなっていた事か。

 彼らが逃げる事が出来たのは黒翼の砲撃直前、静司より通信があったからだ。

 

「一言『退避しろ』だけだぞ? 説明も何もなしだ。教育方法間違えたかな俺達!?」

「帰ったら家族会議ね。課長と社長の予定聞いとかないと」

「現実逃避してないで下さい! どうするんっすかこの状況!」

 

 肩で息を鳴らしながら土まみれのC12が悲鳴の様な声を上げる。その周りの仲間も全員今や土まみれだ。静司の度重なる砲撃によって山肌は荒れるに荒れ、木々はなぎ倒されるか焼けている。そんな中を走って来たので当然とも言えた。

 

「どうするもこうするも。あの馬鹿は止めなきゃならんだろうが」

「だからどうやって!?」

「知るか! あの馬鹿人の話なんて聞いてやいねえ。いや、聞こえてないのか……?」

 

 苛立ち気に地面を蹴りながら、空を見上げる。そこでは黒く巨大な翼を持つISがその武器をある一点に向けて撃ち続けている。そしてC1達はその攻撃点に何があるのか……いや、何が居るのか(・・・・・・)を知っている。知っているからこそ苛立つのだ。

 可能性はあった。ISの暴走と言う時点からC1達は篠ノ之束の関与を疑った。そしてもし本当に関与しているのなら近くに居るのではないかと予想を立て、密かに捜索していたのだ。静司には秘密で。本来なら伝えておくべきだったのだろう。しかしあえてそれをしなかった。もし本当に束が関与していた場合、静司が冷静でいられるかという判断がつかなかったのだ。しかし今はそれが裏目に出てしまった。

 あらかじめ言っておけば、もう少し冷静で居られたかもしれない。自分たちが早く篠ノ之束を確保していれば、こんなことにはならなかったかもしれない。いや、それ以前に捜索などせず、学園生を守る事に徹していれば。結局自分たちは何の為にここに来たのか――

 

「C1」

 

 C5の手が肩にかかる。彼女はゆっくりと首を振った。

 

「何を考えているかはわかるわよ。けど、『たら』『れば』は無意味よ」

「……ああ、わかっている」

 

 深呼吸を一つ。そして気持ちを入れ替える。どうやら自分自身も相当に焦っているらしい。悔やむのも反省も後だ。今はやるべきことをやる。振り返ればC5や他の仲間たちが指示を待っている。だからC1は気合いを入れ直し、告げる。

 

「チームを二つに分ける。俺とC5だ。C5は花月荘へ。まさかとは思うが、この機会に潜入しようとする盗撮野郎が居るかもしれないからその排除だ」

「C1は?」

 

 問われC1は肩を竦めつつ背後をちらりとみやり、

 

「一つはアイツが破壊した無人機の回収。そしてもう一つは――あの馬鹿の世話だ」

 

 そう言った。

 

 

 

 

――殺す。

 

その体を引き裂き、脳髄をくり抜き、四肢を押しつぶし、頭蓋を砕き、塵すら残さずこの世から完全に抹殺する。

 黒く染まりゆく思考の中、静司は黒翼のその巨大な爪を篠ノ之束に振り下ろす。その動きには一切の容赦も、躊躇も無い。だが、

 

「クソがぁぁぁぁあぁぁあぁっ!」

 

 目の前に。後一歩先に居るのだ。篠ノ之束が。憎むべき仇が。忌むべき悪魔が。眉を潜めてこちらを見つめているのに、しかしその一歩から先へと進めない。束の周囲に張られた不可視のシールドが静司を、黒翼を阻む。そのもどかしさに怒り、あふれ出る殺意に押され、黒翼の両翼が大きく広がる。

砲門展開。チャージ開始。目標までの距離、3メートル。R/Lブラスト――発射。

黒翼の主力装備である六本のエネルギー兵器が超至近距離から放たれる。光の柱がシールドに直撃し、爆発的な衝撃が荒れ果てた山肌を更に削っていく。しかしそれですらシールドは弾き、分散されたエネルギーの奔流は周囲を破壊しながらも撒き散らされていく。

明らかに異常な強度。しかしその異常性こそが篠ノ之束。稀代の天才にして天災と言われる力。

 

 だが、それがどうした?

 

「しぃ゛ノぉのぉの・・・・・たぁばァねェぇッぇェえぇぇぇ!」

 

 再度R/Lブラストを放つ。爆発と衝撃は至近距離の自分自身すら襲い、黒翼の装甲の一部が砕けていく。構わずに何度も突き立て続けた爪もまた、その鋭さを失いボロボロになっていた。そんな静司を見つめていた束が口を開く。黒翼とシールドの激突の余波で起きる電気が弾ける様な音のせいで上手く聞き取れないが、口の動きで何を言っているのかは分かった。

 

『無駄なんだよ』

 

 確かにそう言った。

 

「ふざぁけるぅなあああああ!」

 

 まるで駄々をこねる子供の様に、両腕をシールドに叩き付ける。そのまま宙に上がるとその左腕をシールドに向けた。その左腕の鉤爪が合わさり、槍の様な形状へ変化していく。爪の周囲には黒と赤の混じった光が収束し、唸り声をあげる。まるで巨大な槍の様になったその左腕の武装の名は《クェイク・アンカー》。かつてとある研究所をこの世から消し去った殲滅兵器。その最大出力が篠ノ之束に向けられた。

 

『おい!? B9! いくらなんでもそれは不味い――』

 

 専用回線から声が聞こえる。しかしその声に耳を傾けることなく、静司はその引き金に手をかける。

 

「死――」

 

 引き金を引く直前、黒翼の翼が彼方より飛来したビームに貫かれ爆発し体勢を崩した。 しかしそれに構わず《クェイク・アンカー》は発射された。放たれたそれは本来の狙いを逸れ、篠ノ之束で無くその後方にある別の山肌に着弾した。着弾点から赤と黒の光の波紋の様に広がっていく。元々先の静司の無差別砲撃で荒れ果てていた山だが、その波紋が広がるにつれあらゆる木々は倒れ、砕かれ、山そのものも形を崩していく。地響きと破壊の波紋はそれに留まらず広がっていき、その周囲一帯を砕いていく。やがてその波紋も徐々に収まっていき消えていった。後に残ったのはもはや緑は見えず、砕かれ、その中身を露わにした山だった物。それだけだ。

 凄まじいほどの破壊の波紋。それを引き起こした静司だが、その本来の目的であるシールドの破壊は狙いが逸れた事により失敗した。更には黒翼に攻撃をしかけた無人機が取り囲んでいく。その数は4機。先ほどより多い。

 

「邪魔を……するなああああああ!」

 

 静司が、黒翼が吠え、正面の敵機に迫る。だが無人機はそれを紙一重で躱すと4機の砲口が全て静司に向けられる。静司もまた、それを回避しようと動くが片翼が半壊した今、その機動力は落ちており着弾を許してしまう。

 衝撃と激痛。耳鳴りが響き、視界が霞む。黒翼にシールドバリアーは無い。何故ならその分のエネルギーを攻撃と機動に割いているからだ。そうでなければ《クェイク・アンカー》の様な武装はそうそう使える訳が無い。シールドバリアーは通常のISには当然の様についているが、近代兵器を容易く破壊する武器からその機体を守ると言う事は、凄まじいほどのエネルギーが使用されているのだ。その全てを攻撃に回すからこそのあの破壊力なのである。逆に言うなら、黒翼にはその強力なシールドバリアーが無いと言う事は、近代兵器でも落とされかねない危険性もある。

 

「だからどうした!」

 

 痛みも、耳鳴りも、全てを無視して静司は吠え続ける。無理やり体制を立て直し瞬時加速を発動。無人機の一機の頭部を掴みあげ、そして握りつぶした。

 

『!?』

 

 頭部を破壊された物も未だ動く無人機が黒翼を殴りつける。再び宙に投げ出された静司だが、両膝のワイヤーブレードを射出。自分を殴りつけた無人機と、もう一機に突き刺さる。

 

「鬱陶しいんだよ!!!」

 

 ワイヤーを巻き上げる。同時に自らのスラスターも全開で噴かす。まるで引き伸ばされたゴムが元に戻るかのように、お互いが高速でぶつかり合った。小さな爆発が起き、3機が炎に包まれる。残った2機の無人機は両腕の砲口をその炎に向けると躊躇なく発砲した。

 炎の中、新たな爆発が起きる。それに構わず数十秒間2機の無人機は射撃を続けた。炎と煙が広がっていく。その中から1機のISが飛び出した。

 

『!』

 

 2機のISは即座に反応しその飛び出したISへ照準を合わせる。だが、

 

『!?』

 

 その動きが止まる。何故なら飛び出したISは黒翼でなく、原型を留めない程に破壊された無人機だったからだ。そしてそれに気づいた時にはもう一つ、炎の中から飛び出してきた影――黒翼の鉤爪が目前まで迫っていた。

 

「人形が……邪魔をするなあああああああああああああ!!」

 

黒翼の右腕が無人機を貫く。コアごと貫かれたその無人機が機能を停止する。静司の動きは止まらない。その体を大きく回転させ最後の1機に向き直る。ワイヤーが突き刺さったままの無人機がその軌道に沿って叩き付けられた。

 衝撃。ワイヤーブレードが外れる。あの程度ではダメージは対して無いだろう。だが牽制にはなった。

 R/Lブラスト。片翼は破壊されたがもう片方は生きている。そこから放たれた3本の光が最後の無人機に直撃した。無人機は己が手を交差させ、ダメージを軽減しようとしていたがそこに隙が出来る。その隙に接近した静司が無人機をシールドへ――束に向けて蹴りつける。

 蹴りつけられた無人機は地面に叩き付けられ、バウンドしつつ束のシールドの直前に転がっていく。束が目を見開いてそれを見つめる先、その無人機の頭を潰すかのように黒翼が着地する。足元で金属が押しつぶされ、もがく無人機の音を聞きながら静司はシールドに再度鉤爪を叩き付けた。

 

「出てこいよ……逃げんなよ……ふざけた物ばかり作るその四肢を切り裂いてイカレタその脳髄を抉ってふざけた服ごと磨り潰して何も見ない目を握り潰してガタガタ五月蠅い喉を切り裂いて首を跳ねて殺してやるからそこから出てこい篠ノ之束ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 二人の間はほんの数メートル。その距離から放たれた怨嗟の声に束の肩がぴくり、と震える。だがそんな様子すら静司の怒りに拍車をかける。まるで怯えた女性のような(・・・・・・・・・)そんな動きはお前には似合わないと。

 

「もういい、もう殺――」

 

 がしり、と足に違和感。見下ろすと踏み潰していた無人機が黒翼の足に縋りついている。何を? と疑問に感じたのは一瞬。その無人機が何かを量子変換し装備した。黒翼のハイパーセンサーがそれを即座に解析する。その結果は――爆弾。つまりは、自爆。

 無人機の狙いに気づいた瞬間、無人機から光が溢れ静司を包み込んでいく。

 そして静司の世界は光と熱に包まれた。

 

 

 

 

 パチパチと炎が燃える音が聞こえる中、静司はゆっくりと目を開いた。視界は半分赤く染まっている。どうやら頭部から出血している様だった。ふら付く体を起きあがらせ、しかし直ぐに崩れ落ちる。足を見てみると無人機に取りつかれていた足の装甲はボロボロに砕けており、その下の肉体もまた大きく傷つき血を流している。本来なら生きているのが奇跡なのだ。直前で残った片翼で体を包み防御をしたが至近距離の爆発は全てを防ぎ切れなかった。その翼も今や骨組みだけを残すのみ。

 そんなふら付く体と機体で静司は周囲を見渡す。だがそこにはもはや何もない。木々も、無人機の残骸も、そして篠ノ之束も。

 

「く……そ、があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 ガンッ、と地面に腕を叩き付ける。衝撃で更に装甲が崩れ痛みが走る。それすら構わずに何度も何度も地面を叩き付ける。

 逃がした。逃げられた。結局、博士の好き勝手を許し、何も変える事が出来なかった。そんな自分は酷くみじめで、酷く、憎い。

 

「無様ですね」

 

 一人慟哭を上げる静司に声がかかる。炎の中からISを纏った女がゆっくりと進み出てきた。

 

「貴様は……」

「無様で滑稽で……見苦しい。こんな男に私は撃退させられたのですか」

 

 それはかつて学園地下で死闘を繰り広げた女。シェーリだ。

 

「黙れ……殺すぞ」

「今の貴方が言っても負け犬の遠吠えにしか聞こえませんね。本当に無様。いっそ私が殺してあげましょうか?」

 

 チャキ、とシェーリのIS、ブラッディ・ブラッディがその手を振りあげる。だが、

 

「―――そんなものでどうにかなるとでも?」

「ならねえな。けど無抵抗ってのは嫌いなんだよ」

 

 新たな声。静司の背後から進み出たのは銃を構えたC1だ。その背後には同じく銃を構えたC12達が居る。

 

「成程。しかしほんの一瞬で私はあなたを殺すことが出来る」

「ああ、出来るだろうな。だがその一瞬を重ねて数十秒にしてでも俺達はこいつを連れて帰る。ここは俺に任せて行け、ってな」

「分かりませんね。その男の今回の行動は貴方達としても見過ごせない物だと思いますが?」

「そうだろうな。だがそれはこちらの話だ。てめえが関与する事じゃねえ。で、どうするんだ? 俺達の壮大な死亡フラグの嵐を見たいか? 全員言うぞ? 『ここは俺に任せて行け』ってな」

 

 数秒の沈黙。シェーリは腕を下げると踵を返した。その行動が意外だったのかC1が問う。

 

「逃がしてくれるのかよ?」

「ええ。元々殺すつもりはありませんでしたし。私は主の伝言ついでにこの男の無様な姿を見に来ただけです」

「伝言だと?」

「ええ、『貴方のお蔭でとてもいい勉強が出来た。そのお礼として逃がしてあげる』以上です。それでは」

 

 それだけ告げるとシェーリは隠密機動を展開し、炎の中に消えていった。

 静司はそれをただ見ている事しか出来なかった。

 




主人公が黒翼を使うとき大抵キレているという・・・
誰だコイツ? とかもはやギャグじゃね? みたいに思われればある意味狙い通りです。マジギレ主人公
目指したかったのはカズマvs劉邦時のリュゥゥゥホゥゥ! キャァァズマァァ!的な物だったのですがどうにも難しいです。結局ただ叫んでるだけになってしまった気がする。

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