IS~codename blade nine~   作:きりみや

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今更ですが、日曜日の投稿。
メンテナンス終わったし大丈夫かと思って投稿してしまいましたが、まだ完全に安定と言えなかった時に連続投稿してしまい申し訳ありませんでした。
以後、気を付けます。


30.騎士

 EXIST通信室。小さな会議室程のその部屋の正面には巨大なスクリーンがある。薄暗い部屋の中にあるそれには、現在様々な情報が映し出されていた。その中でも特に大きい二つ――花月荘周辺の地図と、黒翼の状態を表示するウィンドウを、静かに見つめる男が居た。男は刻一刻と変わっていく情報に眼を巡らせながら、近くに居たオペレーターに問う。

 

「状況は?」

「無人機を4機破壊。敵戦力は索敵範囲内で無人機5。それに福音です、課長」

「黒翼の状態はどうだ」

「第一装甲をパージ。現在第二装甲で戦闘中。予備動力は既に1基廃棄しています」

「そうか……。第一装甲は元々突撃限定の装備だから問題ない。予備動力の消費も今の所予定通り。しかしこれもデュノア社とのIS共同開発恩恵だな」

「はい。ただでさえ黒翼はエネルギーを喰いますからね。デュノア社様々ですよ」

「だがそれとてホイホイ用意できるようなものでもない。それに――」

「敵が敵です。いつまでも予定通りにいくとは思えません」

「ああ、そうだ。だからこそ急がなくてはならない」

 

 課長は頷くともう一人のオペレーターに目配せする。オペレーターは頷きコンソールを叩くと、スクリーンにまた新たなウィンドウが現れる。そこに映し出されているのは『C1』という文字だ。

 

「C1、そちらはどうだ?」

 

 課長の問いに数秒の沈黙の後、男の声が返ってくる。

 

『目標は未だ発見できず。これより海岸線を調査します』

「急げよ。B9もいつまでも持たない。それに米軍にも不穏な動きがある。早ければ早いほどいい。こちらからも情報を送る。ハッキングでも何でもいい、何としてでも見つけ出せ」

『了解……B9は大丈夫なのか?』

「今は、な。だがまだ姿を見せていない無人機がいる可能性も高い。油断はできん」

『そうですか……保険は?』

「もうじき到着するが、時間的にもギリギリだ」

『って事はやはりこちらで何とかするのがベスト、ですね。捜索にもど――っ!? なんだって!?』

 

 突然慌てた様なC1の怒鳴り声に課長は眉を潜めた。その間にも通信の向こう側では何かを言い交す声が聞こえる。

 

「C1どうした。報告を――」

「課長!」

「だーっ、今度は何だ!?」

 

 オペレータの焦った声に課長がそちらを向こうとして、しかしその途中で視線が止まった。その課長の視線は現在花月荘周辺の地図を見つめている。

 その地図には現在戦闘中の黒翼達や米軍の輸送艦などが光点表示されていたのだが、そこに新たな光点が現れたのだ。それは花月荘から現れ、真っ直ぐに海上――黒翼と銀の福音達が死闘を繰り広げている空域に向かっている。その数は5。

 まさか、と思った瞬間、識別コードから判別されたデータがその光点に追加された。

 

 甲龍、ブルー・ティアーズ、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ、シュヴァルツェア・レーゲン、そして紅椿。

 

 IS学園1年の専用機持ち達である。

 

『……課長』

「ああ、こっちも今確認した。なんというかまあ、怖れを知らない嬢ちゃん達だなあ」

『いやしかしこれって命令違反なんじゃあ……』

「……今確認したがIS委員会からIS学園の応援依頼は解除されていないらしい。おそらくあちらも慌てて手が回っていないんだろうが」

『つまり、やりようによってはこの責任は全部IS委員会に?』

「まあ嬢ちゃん達も何もないって事は無いとだろう。それにIS学園もだが」

 

 しかしこれにはどう反応したらいいのか。課長もC1も困っていた。通常なら意地でも止めている所だ。何せ一度敗北した相手なのだ。こちらの任務は織斑一夏とその周囲の護衛。つまり彼女達も守る対象にあるのだから尚更だ。

 しかし今現在、彼女達を止められる人物は居ない。何せ静司は戦闘中。学園に置ける協力者であり、権力もある更識は不在。この状態で彼女達が出撃したと言う事は、織斑千冬が許可したか無断かだが、おそらく後者だろう。まさか課長達も彼女達が再び出撃するとは予想だにしていなかったため、外の警戒はしていても中はしていなかった。

 これは本来なら止めなくてはならない事態。しかし止めようがない事態。

 

「……今更後悔しても遅いか。C1はとにかく急げ。彼女達の参戦で少しでも黒翼の負担が減るかもしれないが、彼女達が落とされては元も子もない」

『了解です。ああ、畜生。こういう時にIS使えない事を恨みますよ』

「恨みは全部あの兎にぶちまけろ。だからこそ一刻も早く――兎を狩り出せ」

 

 通信を切り、課長は再びスクリーンを見やる。これで6対6。但し敵が増えないとは限らない。

 不安はある。心配もしている。だがそれでも戦うしかないのだ。それが自分たちが選んだ道なのだから。そしてその道に立ち塞がるなら、どんな手を使ってでも排除するのみ。

 

「なんでも思い通りに行くと思うなよ」

 

 小さくつぶやくと、再び部下への指示を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 世界か赤い。

 それを認識した瞬間、続いた衝撃と痛みに静司は呻いた。

 

「くっ!」

 

 無人機より放たれたグレネード。福音の攻撃を避けた絶妙のタイミングで放たれたそれを、静司は防ぐすべも無く直撃したのだ。黒翼が炎に包まれ、またどこか装甲の一部が悲鳴を上げる。しかし停滞は許され無い。何故ならこの戦場には敵しかいないのだから。

 増設されたスラスターに命令を送る。一瞬で世界が変わり、視界は炎の赤から空と海の青へと移った。数秒遅れて、先ほどまで炎が上がっていた場所に敵の無人機のビームが突き刺さる。

 その光景に冷や汗をかくのもつかの間、背後からのプレッシャーに反応した静司は振り向きざまにその巨大な鉤爪を振るった。

 ギンッ、と金属が擦れ合う音と衝撃。襲ってきたのはブレードを展開していた無人機だ。その無人機は更にスラスターを吹かせ、刃を押し込んで来る。静司も対抗すべくスラスターの出力を上げていく。両者の力が拮抗した所でもう片方の腕のガトリングガンを無人機に向け撃ちこんだ。

 ガガガガガッ、と至近距離で銃弾を浴びた衝撃で無人機が仰け反っていく。静司は敵の力が弱まった瞬間に敵のブレードを弾き、その場から退避した。

 

『La♪』

「っ!? 今度はこっちか!」

 

 上空。静司と無人機を射程に収めた銀の福音がその体を捻りその翼から広範囲殲滅兵器《銀の鐘》が放たれる。

 

「R/Lブラスト!」

 

 回避不能。一瞬で判断すると黒翼の2対4枚の翼を広げ、そこから放たれた12本の光が黒翼に向かう光弾を撃ち落としていく。

 光弾は一部は黒翼の放った光に飲み込まれ消滅したが、残りは全て海上と、無人機達に降り注いだ。無人機達も回避行動を取るが、先ほど静司によって弾かれた機体のみ回避が間に合わず着弾してしまう。

 

『……!』

 

 一度当たればその衝撃でふら付いた隙に更なる追い打ちがかかる。光弾の雨に晒された無人機はその腕を吹き飛ばされ、フレームがむき出しにされていた。あれでは先ほどまでの様な戦闘は無理だろう。静司としては思わぬ誤算だが、敵の数が多い事は変わらない。

 

『LaLaLa♪』

 

 再び福音が歌い、その翼に光を灯す。

 

「させるかよ!」

 

 先の《銀の鐘》回避の為に距離を取った為、無人機が傍に居ない今が好機。静司は瞬時加速で一気に福音への間合いを詰めるとその左腕で襲いかかった。

 

『La!』

「いい加減、五月蠅いんだよ!」

 

 福音もまた、《銀の福音》の発射を中断すると、その手にブレードを展開し真っ向かた迎え撃つ。

 激突。火花が散り、衝撃に空気が揺れる。静司と福音が鉤爪とブレード越しに超至近距離で睨み合う。力の均衡により、互いの動きが一瞬止まった。だがこのチャンスを逃す程お互い甘くない。

 

『La!』

「消し飛べぇ!」

 

 福音が翼を広げ《銀の鐘》を。黒翼もまた2対4枚の両翼を広げR/Lブラストを。互いに超至近距離から、放つ。

 お互いの主力兵装の直撃により、ごうっ、と巨大な爆発が巻き起こった。その凄まじい衝撃は、再び黒翼に迫ろうとしていた無人機達をも吹き飛ばしてしまう。

 そしてその爆発の中心。爆炎の中から二つの影が飛び出す。

 片や装甲に罅が入り、一部からは火花を散らしつつも未だ健在の銀のIS――銀の福音。

 そしてもう片方は2対4枚の内、1枚が砕け落ち、その装甲の各所から炎を上げる漆黒の機体――黒翼だ。

 

――警告。第二装甲損壊率80%を超えました。通常機動に影響が有ります。

 

 ぜぇはぁ、と大きく肩を上下させつつ機体の警告音に眉を顰める。今の撃ちあい。この攻撃では押し切れないと判断するや否や、咄嗟に翼の一つを楯の様に展開した為、全壊は防げた。しかしそれでもダメージは大きい。それは機体だけでなくこの身もだ。

 それに無人機達も直ぐに態勢を立て直して向かってくるだろう。厄介なのはその無人機の動きが次第に鋭く、危険な物に変わってきている事だ。おそらくこの戦闘の経験を学習し、即座に反映しているのだろう。つまりは自己進化をしている。それ故に静司は段々と追い詰められてきていた。

 

 だが、それがどうした。

 

「予備動力、チェック」

 

――第一Eパック、廃棄済。第二Eパック、15%。第三Eパック、破壊。第四、第五は健在。

 

 予備動力。早い話がエネルギーパックの状況を確認する。そもそもISでの実戦において、予備動力の有る無しは大きな差がある。競技としてのIS戦ではエネルギーが切れればその場で負けだが、実戦に置いてそれは死に繋がる。特殊な武器を持てば持つほど、戦闘が長引く程エネルギーを消費するのならば、予備動力を持っている方が有利になるのが道理だ。

 しかしここで、どこからそのエネルギーを持ってくるかが問題となる。細かい電子機器やスラスターは別としても、ISそのものを動かす元となるエネルギーはISからしか生まれない。故に軍や企業は勿論、IS学園も普段は待機中のISが生み出したエネルギーをエネルギーパックに充填し、緊急時にはそれで急速補給させている。大規模な組織やIS学園の様にコアが数十機ある組織ならば、そのエネルギーパックも作り易い。しかしコアの数が少なく、日頃から研究開発を行うような企業などではそもそもエネルギーパックを作る程の余裕は無いに等しい。これはEXISTも同様だ。しかしデュノア社との合同開発が決まって以降、エネルギーパックの作成が以前よりも容易になった為、今回用意できたのだ。

 おそらくは銀の福音もどこかしらに積んでいるに違いない。そうでもなければこれほどの長期間、長距離を移動しつつ未だに戦闘が出来る理由がつかない。

 黒翼の残りの予備動力は3つ。それが尽きるまでに福音とこの無人機達を叩き落さなければならない。

 

「やるしか、ないんだ」

 

 右腕のハンカチと髪飾りを想う。彼女達の傷ついた姿を思い出し、怒りが湧く。その怒りに飲まれない様に、しかし自らを動かす発破として闘志を燃やす。この戦意は失う事は無いのだと。必ず、目標を達成するのだと己に言い聞かせる。

 

――敵機接近!

 

 ハイパーセンサーに反応。無人機が再度黒翼に襲い掛かる。3機は遠距離から射撃を。2機は直接斬りかかってきた。

 静司も迎え撃つべく、残った三枚の翼が空を打つ。射撃を回避しつつ、接近する無人機を真っ向から叩き潰すべく両の手の鉤爪を振るう。右腕は無人機が回避した為に空を斬ったが、左腕は無人機のブレードを打ちはらった。弾き飛ばされたその無人機目掛けて膝のワイヤーブレードを射出。ブレードの先端が突き刺さり、無人機が悲鳴の様な、機械の擦れるような音を上げる。回避した無人機に向けては残った翼からのR/Lブラストで牽制し、距離を取らせた。

 

『La……!』

 

 福音は好機とばかりにそこに光弾を撃ちこんでくる。動きの鈍った黒翼は格好の的だ。静司は急ぎ、ワイヤーを巻き戻すと、暴れる無人機の掴みそれを傘の様にして攻撃を防ぐ。だがそこに横からの無人機のビームが突き刺さった。

 

「がぁっ!?」

 

 着弾の衝撃に吹き飛ばされる。ワイヤーで捕らえていた無人機にも脱出され、無防備に宙に浮いた黒翼に銀の福音と無人機の射撃が襲い掛かる。

 何度目かの爆発と衝撃。頭が痛い。体中が悲鳴を上げている。上手く呼吸が出来ず、肺が空気を求めてもがくが、ようやく吸い込んだ空気は炎で熱く熱せられ、逆に肺が焼ける激痛に悩まされる。

 

「っ……ぃに、っこぅ……パージ!」

 

 もはや使い物にならなくなった二つ目の装甲を捨てる。途端に機体が軽くなった。更には炎で燃える装甲が外れた事により、新鮮な空気を取り戻す事が出来た。そのまま翼を打ち鳴らし、高度を一気に上げる。それを追うように福音と無人機の射撃が黒翼を襲う。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 静司は必死に空気を求めつつ、しかし全速で機体を動かす。黒翼の姿は大分元々の姿に近づいており、その機動力も本来なら取り戻してきている筈だった。しかし搭乗者である静司自身の限界が近かった。だんだんと視界が赤く染まっていく。これは血では無い。酸素が不足した脳の危険信号だ。途絶えそうになる意識を必死につなぎ止めながら、必死に回避行動を取るが、やがて限界が訪れた。

 

「――――っ」

 

 それは時間にして一瞬。しかしここでは致命的なその時間、静司の意識が途絶える。動きが止まった黒翼目掛けて、遂に福音と無人機の射撃が黒翼に追いつき撃墜する――と思われた。

 

 だが、突如、蒼い影が走った瞬間、黒翼の姿が消えた。

 

『La……!?』

 

 銀の福音が何かに気づき即座に《銀の鐘》の射撃を止めると、高度を上げる。そして置いて行かれた無人機には遥か彼方から高速で放たれた砲弾が直撃した。

 

『!?』

 

 突然襲い掛かった砲弾。それらは2機の無人機に直撃し、その機体がふら付く。その無人機の上に今度は紅い影が走った。そしてその影からもう一つ、巨大な刃を振りかぶった影――甲龍が急降下する。

 

「く、ら、ええええええええええええええ!」

 

 中国の第三世代IS、甲龍。その搭乗者である鈴の雄たけびが響き渡る。無人機達は咄嗟に回避しようとしたが、片方の機体――先ほど福音の射撃を浴びた機体は動きが遅れた。その無人機目掛けて甲龍が《双天牙月》を振り下ろす。

 元より機体が損傷していた無人機であるが、鈴が狙ったのはその中でも装甲が破壊され、むき出しになっていた部分。一寸のぶれも無く振り落されたその攻撃はシールドごと無人機を縦に両断した。

 二つに断たれた無人機は一瞬もがく様に手を伸ばし、しかしその手は何も掴むことなく爆発する。だが鈴の動きはそこで止まらない。

 

「っん、のぉ!」

 

 PIC制御一部解除。《龍砲》の反動低減を限定的に解除。

 ISに命令を送るや否や、《龍砲》を下に向けて最大出力で撃つ。更にはスラスターも全開。急降下の勢いを強引に消し、ゼロになった瞬間に瞬時加速を発動。ISの特殊性が無ければ確実にレッドアウトしていたであろう程の強引さで方向転換をし、まるでVの字を描くような機動でもう一機の無人機を下から《双天牙月》で切り上げた。

 ギギギッ、と金属が切り裂かれる。しかし致命傷では無かったのか、無人機は上昇していく鈴に向けてその両手の砲門を向ける。だが鈴はそれを尻目に見て、笑った。

 

「バーカ、私たちを舐めんじゃないわよ」

「その通りですわ」

 

 応えたのはライバルでもあり友人である女の声。同時に無人機に遥か彼方から放たれたレーザーが突き刺さった。その攻撃は鈴の付けた傷を正確に射抜き、無人機を貫く。

 胸部に大穴を空けられた無人機がぐらり、とその機体を傾かせる。そこに追い打ちの様に2発3発とレーザーが突き刺さり、無人機を焼いていく。

 

『……!』

 

 異常を悟った残りの無人機が鈴とレーザーの射手に迫るべく動き出す。しかしそれを邪魔するかの様に、その無人機達へ砲弾が襲い掛かる。そしてその砲弾の間をを縫う様にして接近した紅い影――紅椿が《雨月》と《空裂》による刺突と斬撃のエネルギー破を無人機達に叩きこんでいく。無人機達は撃墜こそされなかったが、回避と防御に追われた。

 そんな無人機達が翻弄される姿を上空で観察していた福音だが、直前までの脅威である黒翼探すべくその顔をめぐらせ、遥か彼方にそれを見つけた。その横では蒼いISが無人機へ向けて巨大なライフルで砲撃を行っている。一瞬の思考の後、手負いである黒翼を破壊することを優先したのだろう。その翼を広げ《銀の鐘》を向ける。

 

「させないよ!」

 

 突如、福音に影がかかる。見上げた福音のセンサーは自らに向かって突っ込んでいる巨大なドリルが映った。

 

『La!?』

 

 流石に撃ち落とせないと悟ったのか、福音は《銀の鐘》の発射を中断しその場から飛び退いた。その福音を追う様に、ショットガン、アサルトライフル、グレネードと言った様々な銃弾が福音に襲い掛かる。福音はその攻撃を上下左右に自在に動きながら躱していくが、その代わりに黒翼からは更に離されてしまった。

 ようやく福音が安全圏まで脱出した時、戦況は大きく変わっていた。

 彼方に浮かぶ黒翼。その周りには5機のISが浮かんでいる。

 

 危機の黒翼を超高速で掴み、救っただけでなく、その巨大なレーザーライフル《スターダスト・シューター》で無人機を射抜いたセシリアと、その愛機ブルー・ティアーズ。

 そのセシリアと共に戦場に飛び、途中で別れ上空から奇襲を仕掛けたシャルロットのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ。

 高速で接敵し、無人機の牽制に徹した箒の紅椿。

 その紅椿から急降下し、奇襲を仕掛けた鈴の甲龍。

 そしてこれらの作戦を立案し、砲撃による援護に徹したラウラのシュヴァルツェア・レーゲン。

 

 それらが黒翼を囲む様にしてそこに居た。

 その光景は福音だけでなく、静司にとっても予想外であり、思わず目を見開く。

 

「何故……ここに……」

「リベンジだ」

 

 応えたのはラウラだ。彼女の機体は普段と異なり、両肩にレールカノンを装備している。しかしその機体の各所には先の戦闘の爪痕が残っており、本来なら戦闘行動は厳禁だろう。そしてそれが分からない彼女では無い筈だが、ラウラははっきりと言い切った。

 

「お前が何者かは分からない。だが今この時は共に空を駆けよう。そしてあのふざけた連中を叩き落す!」

 

 

 

 

 それは夢か幻か。

 いつかの学園別トーナメントで、不可思議な光景を見た時と似たような感覚が一夏を包む。そしてその感覚に押し上げられるようにして、一夏の意識は唐突に目覚めた。

 

「……え?」

 

 しかし目覚めた一夏が見たのは、迫りくる敵でも、大事な友人たちでも無く真白の海岸。そこに裸足で立っている自分だった。

 

「海……なのか……?」

 

 足から伝わる細かな砂の感触。照りつける太陽によって熱せられたその白砂はかなりの熱さを持っているが逆にそれが心地良い。そしてその砂浜の先には青く広がる海。一夏は見知らぬ砂浜に一人立っていた。

 自分は何故ここに居るのだろうか? いまいちはっきりしない意識の中、あても無く歩き始める。砂浜に果ては無く、どこまでも続く青と白の光景に一夏は一抹の不安を覚えた。

 

「ん?」

 

 少し歩いた時だった。どこからともなく声が――歌の様な物が聞こえた。その歌に引かれるように一夏は足を進める。

 

「――♪ ――♪ ――♪」

 

 次第に歌に近づくにつれ、一夏はその歌が女性の物だと気づいた。更に足を進めると波打ち際に何かが見えた。

 

「女の人……だよな」

 

 更に近づき、それが歌いながら波とじゃれている少女だと気づく。この太陽の下でも日焼けの伺えない白い肌。白く長い髪は彼女が動くたびに風に揺れる。白い帽子と白いワンピース。全身を白に染めた少女がそこに居た。

 

「――♪ ――♪」

 

 女性は歌い、波打ち際で舞い続けている。どうしようかと悩んだが、何となくその歌に懐かしさや穏やかさを感じた一夏は声をかけず少女を見守り続けることにした。

 それから暫くした頃だろうか。

 不意に少女が動きを止めた。そして無言で空を見上げる。先ほどまでの楽しそうな雰囲気は消え失せ感情は見えない。その様子に不安を覚え一夏は少女に声をかける事を決心した。

 

「なあ、どうしたんだ?」

 

 問いに対し少女は視線を動かさず小さく首を縦に振り、

 

「呼んでる、行かなきゃ」

「呼んでるって誰が――えっ?」

 

 意味が分からず一度少女と同じ方向を見やり、そこに何もないのを確認するともう一度訊こうと視線を戻す。するとそこには既に少女はいなかった。

 

「ど、どうなってるんだ?」

 

 慌てて周囲を見渡すがそこには誰も居ない。いよいよ本気で混乱してきた一夏が首を捻っていると、不意に背後から声がかけられた。

 

「力を欲しますか?」

「こ、今度は何だ!?」

 

 肩を跳ねさせ慌てて振り向くと波の中、膝下までを海に沈めた騎士が立っていた。

 その甲冑は先程の少女の様に真白に輝き、大きな剣を自らの足元に突き立て、その柄に両手を乗せている。目を覆うようにガードが付いており顔ははっきりとは分からないが、その口元や体つき。そしてガードの横から流れる純白の長髪から彼女が女であると、一夏は気づいた。

 

「何故、力を欲しますか?」

 

 騎士の問いはどこか期待と、そして切実な想いが籠っている様に思えた。突然の展開についていけなかった一夏も、何故かその問いに応えなければと思える程に。

 

「何故かって……前に静司にも訊かれたなあ……。俺が強くなりたいと思う理由。それはやっぱり守りたいからだ。色々な物から俺の大切な世界を」

 

 ぐっ、と拳を握る。

 

「俺一人で出来る事なんてたかが知れてる。それに力だけじゃどうにもならないって事は分かってる。それでもどうしても立ち塞がる、不条理や敵意もきっとある。だからそれに打ち勝つための力が欲しい」

「……しかし」

 

 騎士が口を開く。その声はどこか試すような、そして悲しみが混じっている。

 

「貴方は何故守りたいと思うの?」

「それは皆が大切で――」

「皆とは誰? 家族? 恋人? 友人? クラスメイト? 顔も知らぬ人? どこまでを指すの?」

「そ、そんな質問……」

 

 卑怯だ、と一夏は思う。そんなもの答えられる訳が無い。気持ちでは全てを守ると言い切りたい。だがそんな事不可能だ。そしてそれを不可能だと言うのが嫌で、一夏は首を振る。そんな一夏に騎士は優しく諭すように告げる。

 

「その想いが間違っているとは言わない。だけどその『大切』という言葉にもきっと重さの違いがある。それら全てを背負う事は出来ないわ」

「だけど! それじゃあ……」

 

 どうすればいいのか。その質問に騎士は首を振る。

 

「それは私にも分からない。だけど覚えておいて。何時か重大な取捨選択を取らざるを得ない時が来るかもしれないと。その時の選択によって貴方の未来が変わる事を」

「……」

 

 正直に言えば、目の前の騎士が何を言いたいのか、抽象的すぎて分からない。しかし自分の事を案じてくれている。その事だけは一夏にも理解できた。

 

「よくわからない……分からないけど考えてみるよ。君が言ったことを。その時俺がどうするのかを」

 

 何とも情けない答えだ。しかし騎士は頷く。

 不意にその手が後ろから掴まれた。驚き振り向くと、先ほどまでのワンピースの少女が手を引っ張っている。

 

「そろそろ、行かなきゃね?」

 

 人懐っこい笑みを浮かべて手をひく少女に引かれ一夏はゆっくりと歩きだす。途端に世界の白が増し、境界線が分からなくなっていく。

 

「それと――」

 

 最後に騎士が一夏に何かを告げる。その姿はもはや周りの白と同化し辛うじてしか見えないが、その言葉だけは一夏に届いた。

 

――姉さんを助けてあげて――

 

 騎士の伝えた言葉。それをぼんやりと考えつつ、一夏は白に包まれていった。

 




 戦いは数だよ! な話。
 予備動力に関しては完全に捏造です。だけどそうでもしないと銀の福音も超時間行動&戦闘なんてできないんじゃないかなーと思ったり。
 ちなみに予備動力はかなり大きく、それに超貴重な為そんなにホイホイ持ち出せないという事にしてます。IS学園もなんだかんだで一日中IS動かしてますしそう簡単に作れません・・・・・・ という事で。正直強引ですが。
 それと無人機との戦いは長引けば長引くほど大変です。主に自分が。
しゃべるのが静司しかいないのでほとんど独り言になってしまうというジレンマ。


 そして鈴さんの天空剣Vの字斬り的な活躍と本当に役立ったドリル。

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