IS~codename blade nine~   作:きりみや

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43.新たなるステージ

「何やってるんだ、お前ら?」

 

 静司は諸々の用事を終え、一夏達と合流すべくシミュレーター室へと向かったが、部屋に入るなり目に映った光景に対しての感想がこれである。

 

「ありえない……ありえないですわこんなの……」

「くっ……もう一回、もう一回よ……!」

「あはは、やっぱ強いなぁ…………はぁ」

「流石教官のデータなだけある。ああ、この場合は流石サウ子ちゃんというべきか」

「こ、こんなはずでは……」

 

 セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、箒。5人それぞれ呆然としていたり渇いた笑いを漏らしていたり、感慨深げに頷いていたり、地に手をつけていたりと様々だ。

 

「あ~、かわむーおかえり~」

「ああ、ただいま。それでこれは一体?」

「えーとね、皆サウ子ちゃんにやられちゃったんだ~」

「……ああ、成程」

 

 その言葉で静司は全てを理解した。理由は単純、自分も通った道だからだ。

 

「まあ、気にするな。相手はデータとは言え世界最強のを使ってるんだから」

「だからと言ってあれはないぜ……」

 

 一夏もどこか渇いた笑いを浮かべている。彼も負けたのだろう。

 

「開始直後の一撃必殺……。それを何とか躱してもニ撃、三撃目が早すぎて追いつけませんわ……」

「つーかおかしいわよ。何なのあの動き!? 千冬さん本当に人間? なんとか距離を取ったと思ったら急に気配が消えて、その後の奇襲とか怖すぎるわよ」

「サウ子ちゃんは引っ込み思案な斬鉄系女子っす。気持ちが昂るとつい切なくなって奇襲を始める設定っす」

「意味わからんわ!? というかその性格設定いる訳!?」

 

 キーッ、と噛みつかんばかりの勢いで鈴が怒鳴る。静司も似たような経験をしたので気持ちはわかる。

 

「そういえば本音たちはどうだったんだ?」

「私達じゃ織斑先生には勝てないよ~」

「だから普通に初心者設定で使わせてもらったんだ」

「学園じゃ使えないような装備も使えたし色々為になったよ」

 

 本音、ナギ、癒子は専用機もちでも代表候補生でも無い。なので自分達のレベルに合わせてやったらしい。まあ当然だろう。

 

「こうなったら静司! あんたもやってみなさい!」

「俺か? 言っておくが俺だってサウ子ちゃん相手には対して戦えないぞ」

「けど川村さんはこれで訓練してきたのでしょう? ならば私達より慣れているかもしれませんし」

「そう言われてもな……」

「私もかわむーvsサウ子ちゃん見てみたい~」

「僕も見たいかな」

 

 こうまで言われると静司としても断り辛い。ここでやらないのも興ざめだろうし、別に絶対にやりたくない訳では無いのだ。必要なのは程ほどの成績を残す事。

 それに本音とシャルロットに若干の期待の眼で見られると、やはり男として良い所を見せたい気にもなる。

 

「わかったよ。けどあんまり期待するなよ」

 

 静司は降参するとシミュレーターへと向かっていった。

 

 

 

 

 静司がシミュレーターを起動し皆が観戦する中、本音に声かかけられた。

 

「やあ、嬢ちゃん」

「あれ? かちょーさん?」

 

 一夏達はモニターに注目しているので気づいていないが、部屋は人が増えており、その内の一人が本音も何度か見た事がある人物。静司の上司だったのだ。

 

「楽しんでるかな?」

「うん、とっても~」

 

 モニターでは静司のラファールが全力でサウ子ちゃんから逃げまわっており、それを観戦する一夏達はやれ攻撃しろ、逃げてばかりだと野次を飛ばしている。

 

「それはよかった。何せ息子が初めて連れて来た友人だからな。私達としても楽しんで貰えれば嬉しい」

「……かちょーさん、いつもと雰囲気違う?」

「私だってたまには真面目になるさ。たまには」

 

 ふっふっふっ、と顎鬚を撫でながら笑う課長。その視線は熱くなっている一夏達、そしてモニター上の静司へと向けられている。サングラス越しで見えないが、どこか大切なものを慈しむような、そんな印象を本音は持った。

 

「嬢ちゃんには一度ちゃんとお礼を言っておきたくてね。いつも静司が世話になっている」

「そんなことないよ~。私がかわむーと居るのが楽しいんです~」

「そういって貰えると助かる。だが、それでもだ。特に臨海学校の件では嬢ちゃんのお蔭で静司が助かったんだからな」

 

 臨海学校の件。それは重症の静司を救うために学園のE・パックを持ち出した件だろう。アレを提案し、そして協力したのが本音だ。

 

「ここ数年、特に今年に入ってから世界は大きく動き出している。男性操縦者の発見。不可侵であるIS学園への襲撃。そしてISの暴走と第四世代機の登場。いくらなんでも一度に起こり過ぎな位だ。そしてそれら全てに篠ノ之束が関わっている」

「ほえ? おりむーにも?」

「私たちはそう踏んでいる。いくらなんでも出来過ぎているからな。世界最強の弟。幼馴染はこれまた世界最高頭脳を持つ女の妹。その妹の学園入学寸前に男性操縦者として発見。しかもその発見の経緯が経緯だ。試験会場を間違えてISに触った? 馬鹿げている。確かに試験会場を間違える位ならありえるかもしれない。しかし素人が簡単に入れるような場所に、世界でも限られた数しかない貴重なISを置くか? 誰だって不審に思う。だからこの経緯を知る人間の中でこう考える者が出る。『ああ、そういうストーリーにしたのか』と」

「すとーりー?」

「本当はもっと別な方法で発見したかもしれない。それこそ世界最強の弟だからという理由だけで無理やり協力させたら本当に動いた。そういう話なのかもしれない。だけどそれを言う訳にはいかないから、適当な理由をでっち上げた。そう考えてもおかしくは無い。つまり裏を読みすぎると言う事だ。私達だって最初は疑った。しかしどんなに調べても裏なんて出てこなかった」

 

 事実は小説より奇なり。最も、その事実すら仕組まれた物かもしれないが。

 

「ならばそんな馬鹿げた奇跡が本当に起きたのか。そう考えていたが、ここ数か月の博士の動きを見ていて考えが変わった」

 

 無人機の襲撃。福音の暴走。IS学園に対する干渉と、邪魔な存在となってきた静司への攻撃。それらを思い出し本音も身を震わせた。

 

「たまたま織斑一夏がISを動かしたから博士は干渉を始めたんじゃない。干渉を始める為に、目的があったから織斑一夏にISを動かさせた。私たちはそう考えている」

 

 その目的は分からない。単純に二人を目立たせ、それこそ英雄の様にして満足なのか。それともその先があるのか。もし『先』があるのなら、学園への干渉はより強くなっていくことだろう。何せ今回の福音の暴走では静司達に邪魔をされたのだから。

 

「だからこそ、これから戦いは激しくなる。それは静司の負担も増えると言う事に他ならない。だからこそ、嬢ちゃんにお願いしたい。あいつを頼むと。あいつは馬鹿だから、きっと無茶をするだろう。そして私達もそれは止めない。それが必要ならあいつに強いる事すらある。それでも心配なんだよ。上司として、仲間として、そして父として」

 

 すっ、と課長は懐から小さなメモリーカードを取り出した。

 

「今回、整備と調整と一緒に黒翼を一部改修した。早い話が強化だな。なあ嬢ちゃん、黒翼で一番消耗が激しいのは何処だと思う?」

 

 問われ本音はうーん、と首を傾げたが直ぐに思いついた。

 

「左腕?」

「正解だ。常時部分展開。それはつまり常にその部品を使っているって事だ。だから消耗も早い。ISの自己修復機能もあるがそれも繰り返していけば劣化していく。だからこそ定期的な物とは別に、左腕のメンテは念入りに行う様に静司には伝えている」

 

 だが、と課長は掌のメモリーに視線を移す。

 

「今回の強化でより黒翼は扱いが難しい機体になった。それでも乗りこなすのは問題ないと思うが、メンテはより念入りにやる必要がある。だが静司の奴は実はメンテがそれほど得意じゃなくてな。だからこれはお願いだ。静司のメンテをどうか手伝ってくれないか?」

「……私に?」

「嬢ちゃんは整備課志望と聞いていたし、その知識や技術は確かな物だと聞いている。勿論嬢ちゃんの都合が付くときだけでいいし、そもそも無理強はしない。だがこれは嬢ちゃんのご主人様にも為になると思う」

「かんちゃんの事知ってるの?」

「まあな。自分一人でISを完成させる。無茶をするとは思うがそういうのは嫌いじゃない。嬢ちゃんはメイドなんだろう? 黒翼のメンテで得た情報は使ってくれて構わない」

「けどそれって……」

 

 確かに黒翼に使われている技術はEXISTの技術・開発力の結晶だ。そこから得られるものは多い。しかしそれはつまり、黒翼のスペックを全て託すことに他ならない。

 

「それだけの事をお願いしているからこその見返りだ。得た情報をどう使うかは嬢ちゃんに任せるよ。もしOKならば、これを受け取ってくれ。ここに黒翼のデータが入っている」

 

 そうして出しだされた掌の上のメモリーカード。本音はそれを数秒見つめたが首を振った。

 

「かちょーさん。私はかわむーの為になる事ならしてあげたいと思うよ。だからそれに見返りとかは要らないよ~」

 

 本音はモニターに視線を移す。画面上の静司はいよいよ追い詰められながらも悪あがきをしている所で、それを観戦する一夏達の熱も上がっていた。そんな様子を眺めながら嬉しそうに笑う。

 

「私ね、かわむーの事を護りたいって思ってる。だからそのメンテナンスの事もかわむーの為にやってあげたいな。報酬とか見返りの為じゃなくて」

「……そうか。どうやら私は嬢ちゃんに失礼な事を言ってしまったらしい」

 

 課長は思わず笑い、そして自分を恥じた。自分の息子をここまで思ってくれている相手に取引の様な事を仕掛けた事に。だが同時に嬉しくもある。ここまで想ってくれている事に感謝すらした。

 

「ならば改めて、頼む。静司を……うちの息子の事を頼む」

 

 そうして改めて差し出された手。しかしこれの意味は先程とは少し違う。だから、

 

「まかされました~」

 

 本音も笑顔でその手を取った。そして渡されたメモリーカードを見つめ、大切な宝物のように胸元で抱きしめる。自分が託された物の重みを確かめるかの様に。

 

「本音、何してるの?」

 

 ふと、こちらに気づいたシャルロットが近づき、そして課長を見て一瞬固まった。知らない人物が突然いたのだから当然だろう。

 

「えっとね、かちょーさんとお話~」

「かちょー……課長さん?」

「正解だよ。一応静司君()が所属している部署の課長だ。初めましてかな」

「は、はい。初めまして」

 

 差し出された手をシャルロットもおずおずと握り返す。課長はうんうんと頷き、笑う。

 

「しかし静司君も幸せ者だな。こんな麗しい美女たちに囲まれて羨ましい限りだ」

「そ、そんな……」

「ほめられた~」

 

 照れるシャルロットとぱたぱたと腕を振りながら喜ぶ本音。そんな光景に課長も気をよくしたのか、ふむ、と考える。

 

「折角だ。何か聞きたいことがあれば聞きたまえ。大抵の事は答えられるぞ」

「え、えーと」

「それじゃあ、学園以外のかわむーの事がいいです~」

「あ、それ僕も気になる」

「よろしい。ならば色々語るとしようか」

 

 そうして三人は静司の話で盛り上がっていくのだった。

 

 

 

 

 

「ふう……」

 

 シミュレーターから出た静司は一つため息を付く。結果は惨敗。まあ攻撃もせず逃げ回っていたのだから当然と言えば当然か。

 

「おう、静司お疲れ」

「あんた逃げ回ってるだけだったわね」

「それでもあれだけ動ければ上等ですわ」

 

 確かに静司はひたすら逃げ回っていただけなのだが、セシリアは感心している様だった。

 

「確かにな。静司の動体視力云々にまつわる回避能力はこうやって訓練されたのだな」

 

 ラウラも頷いている。静司はそれに気恥ずかしさを覚えるが、

 

「だが攻撃を完全に捨てていては勝ちは永遠に無いぞ」

 

 続く一言でがくり、と肩を落とした。

 

「ん?」

 

 ふと本音とシャルロット近くに居ない事に気づく。一体どこに行ったのだろうかと部屋を見渡し、見つけた。部屋の隅でいつの間にか現れた課長と何やら盛り上がっている様だ。気になり近づいてみる。

 

「つまりだ、静司の衣装物(コスプレ)が好きなのは他の社員の影響らしいんだが、中でもメイド物が好きらしい」

「おぉ~」

「そ、それで!?」

「ああ。だがナースとかそっち系は駄目だ。あまり食指が働かないらしい。だがメイドは別だ。以前我が社でちょっとした仮装パーティをした事があるんだが、メイド服を着た人に対する眼が尋常じゃ――」

「アンタが犯人かあああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 絶叫と共に放たれたドロップキックが課長の腹にめり込み、更には吹っ飛ばされ壁に叩き付けられた。その前にぜぇはぁと息を荒くして黒いオーラを纏った静司がゆらり、と現れる。

 

「せ、静司何を――」

「何をじゃねえええええ! アンタだな、こないだもアンタが余計な事を吹き込んだんだなぁ!? アアッ!?」

「落ち着け。バッチリだっただろう?」

「やかましい! あの後な、虚さんにも説教されたんだぞ!? 『あんまり妹に変な事吹き込むな』ってな! 濡れ衣も良い所だ!」

「けど観たんだろう?」

「……………………それとこれは話は別だ」

「目を逸らすな、目を」

 

 ぎゃーぎゃーと騒ぐ二人を他の面子は唖然と見ていた。

 

「え、えっとあれ偉い人なのよね? 一応」

「その筈ですけど」

「だが綺麗にキックが決まっていたな」

「ああ、躊躇いが無かった」

「いやーすごいね川村君。この光景は珍しい」

「そうだねー。ところで、あの二人が何を話しているのか何となく読めて来たけどさ、織斑君も観たの?」

「谷本さんその話題は!?」

 

 一夏が慌てるが、時すでに遅し。谷本癒子の背後で修羅が生まれていた。

 

「一夏、詳しい話を聞かせなさい」

 

 にじり寄る鈴達に後ずさる一夏。ラウラだけは良くわかっていないのか首を傾げていた。そしてそれらの隣では本音とシャルロットが、

 

「うーん、学園で着て来たら怒られるかな~?」

「メイド服? そんなの普段着れないよ……。そもそも持ってないし。いや、だけど噂の秋葉原なら……?」

 

 二人首を傾げつつ何やら呟いていた。

 

 

 

 

 

 同日夜。ドイツ軍の基地を歩く女性が居た。平均より高めの背丈を闇夜に溶け込む様な黒の軍服で包み、きびきびと歩いている。髪は肩にかかる程。鋭く、冷たい印象を持つその眼の片方は眼帯で覆われている。

 ドイツIS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』副隊長。クラリッサ・ハルフォーフ。彼女は手元の通信機に眼を落としているのにも関わらず、まるで前が見えているかの様な速度で歩いていた。

 

「ふ……隊長からの定期報告にこんなに和むとは……っ!」

 

 冷静な顔からは想像を突かないような浮ついた声がその口から洩れる。日本との時差は約8時間。今はもうあちらは深夜だろう。この報告は彼女の隊長こと、ラウラが就寝前に送った物なのだが彼女はそれを何度も読み返しては笑みを浮かべていた。

 

「やはり日本に行って頂いたのは正解だったな。これほど変わるとは。……嗚呼、可愛い!」

 

 目つきは鋭いのに不気味な笑顔を浮かべながら歩く彼女を遠巻きに見た者は不気味そうに逃げていく。しかし彼女はそんな事を気にしたりしない。

 

「ふむ。今日は例のもう一人の男の会社に行ったのか。川村静司といったか? 彼も中々面白そうだな」

 

 ラウラからの報告には今日あった事が色々と書かれている。当初はそれこそ千冬の事や一夏の不甲斐なさについてなどを厳しい言葉が並んでいたのだが、最近はもっぱら一夏や友人たちの事が多い。だが最近その彼女から新たな悩みの様なものを持ちかけられており、その報告が内容に移っていくと共にクラリッサも真面目な顔になっていく。

 

「ふむ。これはもしや――」

『大尉!』

 

 顎に手を当て考え込んでいた矢先、突然それを遮るかのように緊急通信が入った。クラリッサは即座に思考を入れ替えると返答する。

 

「何事だ」

『所属不明の機体が当基地に接近中! 数は3!』

「っ! 位置はどこだ!?」

『今送ります!』

 

 即座にISを展開。彼女の機体【シュヴァルツェア・ツヴァイク】はラウラのシュヴァルツェア・レーゲンに良くて似ている。それもその筈、第三世代機であるこれは姉妹機なのだ。ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンは両肩に大型レールカノンを装備しているのに対し、シュヴァルツェア・ツヴァイクは大型ガトリングガンを装備している。他にも様々な点が変更されていた。

 

「位置は……ここから近い! 私が先行する!」

『我々も直ぐに向かいます!』

「ふ、急げよ。出ないと出番がなくなるぞ!」

 

 送られてきたデータを確認するが否や、クラリッサは空へと飛びだした。そして迫る未確認機へ向かう。

 

「あれか!」

 

 ハイパーセンサーが彼方からこちらに向かう機体を補足した。しかしその情報にクラリッサは眉を顰める。

 

「戦闘機でもヘリでも無い……。だが、あれはISか?」

 

 ハイパーセンサーが捉えた物は異質な形状をしていた。逆三角形の胴体から鋭利な三角錐の様な腕が生えている。脚部は無く、代わりにスラスター取り付けられ、その頭部はまるでフルフェイスのヘルメットの様で金属に覆われている。

 特殊装備のIS。そう考えるのが普通だ。だがそれにしても特殊すぎる形状にクラリッサの警戒心が増す。彼女は基地のデータベースにアクセスすると敵の正体を知るべく検索をかける。

 

「該当する機体データ……無しだと? ならば」

 

 機密ファイルへアクセス。認識番号、パスワードを入力。そして新たなファイルを開く。そこにはIS学園や臨海学校に現れた無人機の情報が載っていた。本来なら箝口令が敷かれている筈のそのデータ。そもそも無人機である事を知っているのもごく一部の筈だが、そこにはそのデータがある。これは全てラウラから報告された物だ。例え箝口令が敷かれていたとしても、それが母国の危機と成り得る存在であるのだ。軍に所属するラウラが報告しない理由は無い。以前学園に現れた物のデータは流石に少ないが。

 

「こちらにも該当せず。無人機ではないか……? いや、新型という可能性もあるが」

 

 だがこれまで無人機が出てきたのは決まってIS学園絡みだ。それが突然ここに現れる理由が分からない。ならばやはりあの機体には搭乗者おり、ただのテロリストか?

 

「ならば、直接聞かせてもらう!」

 

 警告はしない。何故なら既に未確認機はその両腕から砲口を覗かせているのだ。敵対する意思は明白だ。クラリッサは両肩のガトリングガンを起動させ、一斉に銃弾の雨を叩きこむ。敵機は三機それぞれ上、右、左と分かれそれを回避したが予想通りだ。

 

「ふん、甘い」

 

 ワイヤーブレード射出。左右に逃れた敵機をそれで狙いつつ機体は上へ逃れた敵へと向かう。そして再びガトリンガンを発射。必死に逃れる敵を追う様に砲門が稼働し追い詰めていく。更には左右に放ったワイヤーブレードは、一つは外れたがもう一つが突き刺さっていた。敵機が火を上げ、その機体をふら付かせる。その様子を見てクラリッサの口元が歪む。

 

「かかったな。調教してやろう」

 

 ひゅ、とワイヤーブレードを撓らせる。突き刺された敵機は振り回され、そしてクラリッサがワイヤーを下に打ち払うと同時に地面に叩き付けられた。更に、

 

「鳴け」

 

 ひゅごっ、と勢いよく落下してきたクラリッサのシュヴァルツェア・ツヴァイクの踵。まるでヒールの様な形のそれが敵機へ突き刺さった。びくん、と敵機が揺れその頭部、目の様な部分が点滅する。その様子にクラリッサは踵をぐりぐりと捻らせながら笑った。

 

「ふふふ、どうした? 何か言ってみたらどうだ? それともやはり中身が無いのか? 一枚一枚その装甲を剥いで確かめてやろう」

 

 笑いながら足元の機体へ手を伸ばす。しかしそれを遮るかのように、上空の残り二機がその両腕の砲門から銃弾を放つ。

 

「馬鹿が。お前達も調教してやろう」

 

 ぴしゃん、と鞭の如くワイヤーブレードを地面に打ち鳴らし、瞬時加速で空へ戻る。敵機は片や射撃を続け、もう一機はその腕に光を生やし斬りかかってきた。エネルギー系の斬撃だろう。だがさしたる脅威は感じない。既に彼女は敵の力をある程度把握していた。

 ワイヤーブレードを更に二本射出。だがあえて敵には向けず展開しただけだ。しかしこれで十分。

 

「総合的な戦闘力では隊長には劣るが、これの扱いは私が一番上手い。存分に味わえ」

 

 そこから始まったのは一方的な蹂躙。敵の射撃は容易く躱し、斬りかかってきた機体はその腕を鞭の様に変幻自在の軌道で襲い掛かるワイヤーブレードによって打ち払われる。出来た隙に尖った足での蹴りが付きこまれ、更には近距離からのガトリンガンの射撃。一瞬にしてボロ雑巾のようになった敵機が墜落していく。

 そして残り一機も抵抗の猶予は無かった。一瞬にして迫ったワイヤーブレードが全身を殴打し、切り刻み、そしてその機体を縛り付けた。

 

「つまらんな。この程度で何をしに来た?」

 

 ふん、と鼻を鳴らしクラリッサは縛り付けた機体を睨みつける。各所が破壊され中身も殆どむき出し。その様子を見てやはり搭乗者が居ない事を確認すると、その眼が細まる。

 

「やはり無人機か。しかしデータとは随分と違ってお粗末だったな。何を考えて――」

 

 不意に感じた危機感。それに従い即座にワイヤーを切り離すとクラリッサは距離を取った。数瞬遅れて大きな爆音と共に所属不明機が赤い炎に包まれた。自爆したのだ。見れば墜落した二機も同じように自爆していた。

 その光景をクラリッサは黙って見つめる。何故無人機がここを襲撃したのか。そして何故あれ程までに弱かったのか。疑問を整理している所に通信が入る。

 

『大尉、ご無事で』

「ああ、ただの雑魚だった。だが妙な感じだ」

『はい。実はその事で一つ報告が』

「なんだ?」

『先程の機体からコアの識別コードが出ていませんでした』

「む? 当然だろう? 確か隊長のデータにも奴らは識別コードを持たないと――」

『いえ、正確にはコアの反応すらなかった(・・・・・・・・・・・)のです』

「なんだと……?」

 

 予想外の答えにクラリッサはもう一度、炎に包まれる機体を見下ろす。その中身がどうなっていたのか、それはもはやわからない。だが、何かよからぬことが始まろうとしている。それだけは感じ取る事が出来た。

 

 

 

 

 

「あらあら、とんでもないドSが居た物ねえ。シェーリ、大丈夫?」

「……はい。ですが正直3機同時は辛いです」

 

 軍施設から遠く離れたドイツのとあるホテル。そこで目を瞑り立っていたシェーリはISを待機状態に戻すとため息を付いた。その様子を見てカテーナも苦笑する。

 

「まあ、仕方ないわねえ。人間は一度に複数の体を扱う様には出来ていないから」

「申し訳ありません」

「別に責めてないわ。今回のは簡単なテストだったから。それにこのシステムはそもそも彼女用(・・・)に作ったのだからねえ。後は実験を繰り返していけばいいわ。どうせ罪は篠ノ之束が被ってくれる」

 

 無人機の様な機体の襲撃。それを聞けば、そして無人機の存在を知っている者達は思い出すだろう。篠ノ之束と無人機が共に移っていたあの画像を。

 

「折角だから私達もあの画像を利用させてもらいましょう。しばらくは博士が隠れ蓑になってくれる。その間に完成させましょうねえ。まずはこのビット兵器(・・・・・)からかしら」

 

 そうして笑うカテーナが見つめる投影ディスプレイ。そこには既存のISとは大きく形が異なる機体のデータが映しだされていた。

 




ドSなクラリッサ
なんか似合いそうな気がしたんですよね、鞭。


最後の部分。無人機あるのになんだそれ、というツッコミあるかもしれませんがその辺りは後々語る予定です。

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