IS~codename blade nine~   作:きりみや

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今回はかなり大きめ独自設定


44.見えない心

「基地への襲撃だと?」

 

 夏休みが続くIS学園。その寮の自室でラウラはその報告に思わず訊き返した。

 

『はい。データは送った通りですが、不審な点がいくつか』

 

 相手は部下であるクラリッサ。ドイツからのプライベート・チャンネルを使用した報告だ。ラウラはその報告内容に目を通しながら難しい顔で頷く。

 

「正体不明の無人機による突然の襲撃……だが何故うち(ドイツ軍)に? 意図が読めんな」

『はい。その上、無人機も情報にあった物とは随分と異なりました。コアの反応が有りませんでしたし、何より歯ごたえが無かった』

「ふむ……」

 

 ラウラの知る無人機はデータ上のアリーナ襲撃した機体と、臨海学校に現れた機体。そのどちらも性能は高かった。だが今回の報告にある機体は随分と勝手が違う。

 

「コア反応に関しては、以前学園に現れた機体は『完全なる消失(ステルス)』をしていたと情報にある。それと同じかもしれない。だが性能については……何かの試験機か?」

『こちらでもその線で回収した残骸を調査しています。しかし重要な部分は完全に破壊されており期待はできません』

「そうか。しかし無人機となるとやはり篠ノ之博士か」

『その線が濃厚です。例の画像の件もありますし上層部もその判断です。ですが決めつけるのも早計かと』

「博士以外にも無人機を作る技術があると?」

『わかりません。しかし、存在する筈のなかった男性操縦者の発見。これまでのISの概念を無視した無人機の存在。そしてあのツンツンだった隊長の変わり様。ここ最近で私は見解を広めることに決めたのです』

「ちょっと待て、最後のは何だ」

 

 思わず訊き返したラウラにクラリッサは若干興奮気味に、

 

『言葉の通りです。最初はどうなるかと思った黒兎隊ですがここ最近は隊の雰囲気も良くなりました。これも隊長が変わったのがきっかけです』

「う……」

 

 ラウラは思わず言葉に詰まる。今思えば学園に来るまでの自分の隊での態度は御世辞にも良いとは言えなかった。隊長故の威厳を出す為というのもあったが、何より自分が他者との接触を必要としていなかったため、部隊の空気も悪かったのだ。それがわかるからこそ何も言えない。

 

『気にしなくていいのですよ、隊長。過ぎた事ですしあの頃は私達にも問題がありましたので。それより隊長、例の悩みについては何か変化がありましたか?』

「……いや、まだだ」

 

 クラリッサの問いにラウラの声のトーンが下がる。それを察したのかクラリッサは若干優しげなトーンで続ける。

 

『焦らなくても良いと思います。この件に関しては隊長自身がじっくり考える必要があるので』

「ああ、わかっている」

 

 臨海学校の後、ラウラはクラリッサにある相談をしていた。それは敬愛する千冬に対して芽生えた若干の不信。そしてその想いに対する自身の戸惑いだ。

 修学旅行の件。やはり千冬の判断は間違えていた様に思えたのだ。更には無人機の存在と篠ノ之束の登場がラウラの不信を募らせる。第四世代機の唐突な登場。都合よく発生した事件。それの対応に適任のセシリアを差し置いての箒の出撃。まるで千冬と束が協力して舞台を整えようとしたのでは? そう勘ぐってしまう。そしてそんな事を考えてしまう自分に対しての戸惑いがあった。

 

「学園に来るとき、私の中では教官が全てだった。だがそれが揺らいでいる。その度に思うのだ。私の想いはこんなに脆かったのかと。そして一夏を想う気持ちも同じく脆いのでは無いか。そもそもその気持ちは本当なのか。わからなくなる」

 

 どこか悔しそうにラウラが言葉を漏らす。自分自身が見え無いと言う感覚に不安と苛立ちが募る。だがそれに対するクラリッサの答えは意外な物だった。

 

『良いのではありませんか?』

「何?」

『人は変わる物です。その変化の良し悪しは結果が出ないとわかりません。隊長の変化が隊長にとって良い物なのか、悪い物なのか。そこまでは分かりませんが、変化すること自体には意味があります。何も変化しない人間など、進化すら捨てている様なものですから』

「……」

『その変化に戸惑うと言う事は自分を見つめ返す良いチャンスです。答えは自分で出す必要はありますが、その行動は必ず隊長の糧となります。一番やってはいけないのは思考を放棄して投げ出す事です。確かに織斑教官の行動には疑念が残りますが、何か考えがあったのかもしれない。教官にとっても予想外の事があったのかもしれない。逆に最初から狙っていたのかもしれない。あらゆる可能性があるでしょう。その原因については調べる必要は有りますが、隊長自身の心に関しては自身で決着をつけるのが最も良いかと』

「それが出来れば苦労はしないのだがな」

『悩む事も大事なのです。直ぐに答えを見つける必要は有りません。他の人に意見を聞くのも良いでしょう。その上で自分自身で決断を』

「……まったく、部下にここまで言われるとはな」

 

 ふう、と息を吐きつつラウラは苦笑する。その行為自体、以前の自分なら考えれらなかった物だ。それを思いラウラは再び笑う。

 

(確かに私は変わっているのかもしれない)

 

「わかった。もう少し、考えてみるとしよう。年寄りの意見は大事だ」

『ちょっと待って下さい! 確かに年上ですがそんなに変わりませんよ!?』

「そうだったか?」

 

 無論知っている。こんな冗談も今までは考えた事も無かった。だが実際やってみると相手の反応が中々面白い。これも自分が変わったからだろうか? 

 そんな事を考えながらラウラは通信越しに慌てるクラリッサを宥めるのだった。

 

 

 

 

 東京都内。繁華街の中にある小さな喫茶店で男女が向かい合っていた。一人は草薙由香里。K・アドヴァンス社社長。そしてもう一人はIS委員会の一人、桐生だ。

 

「日本政府が?」

 

 由香里は持ち上げていたティーカップを降ろすと眉を潜めた。その向かいに座る桐生がパフェを口に運びながら頷く。

 

「うん。どうもそちらに干渉したいようだよ。まあ狙いは件の新型ラファールでしょ」

「ISのコアは国家に帰属する。確かに共同開発とは銘打ってるけど、新型ラファールはあくまでフランスの物なのよ? うちは表向きは『ISコアを借りているだけ』」

「それでも日本の企業であるK・アドヴァンスが関わっているのも事実。この機会に新型ラファールの情報をすっぱ抜いて、あわよくば日本のどこかの企業で使うつもりなんじゃないかな」

 

 特大のイチゴを頬張りつつ呑気そうに語る桐生に由香里はうんざりした顔になる。

 

「ISの情報公開も全てという訳じゃないからそれを狙うのは分かるけど、それが嫌だからIS委員会に例のお願いをした筈なんだけど?」

 

 以前IS委員会とK・アドヴァンスは取引をしている。それは静司の存在を委員会が利用する代わりにK・アドヴァンスが求めた事。K・アドヴァンスに静司が所属する事の容認。他の国や企業の干渉を認めない事。事業に口出しをしない事。そしてシャルロットの事だ。

 

「それは承知してるよ。だから釘は刺しているけど日本も必死だからね。ISに関して最初は最も優れていたけどあっという間に地位を落とされた。IS学園の運営費用の負担なんかいい例さ。それでもISを生んだ国。世界最強が居る国という事で矜持は保っているけどやはり面白くないだろう」

「学園の地下にこっそりあんな物作ってたものね。あれって各国の試験機データとか集めて利用しようとしてるんでしょ? アラスカ条約なんて完全無視よね」

 

 実際に整備なども学園で行われる。その際に公開されていないデータを少しずつ読み取っていき、利用するための施設が地下にあるのだ。そんなものがバレたら日本は世界中から非難を浴びるだろう。

 

「まあ誰だって後ろめたいことはあるさ。それより問題はフランス側だよ。デュノア社がもし第三世代を発表したらイグニッションプランの選考にエントリーされる可能性が高い。そしてそれはフランス国内の競合他社にとっては面白くないだろう」

「つまり妨害の可能性があると言う事ね。まあそれは予想してたけど」

「だろうね。ただここ最近ちょっとキナ臭い動きしてる連中が居るからその辺りは気を付けると良いよ」

「道理で、ここ最近ストーカーが増えたと思ったわ」

 

 そう言って由香里は詰まらなそうに紅茶を飲むが、桐生はぎょっ、として肩を震わせた。

 

「尾行されてるのかい?」

「ええ。今も外に何人かいるわよ。ああ、窓は見ない様に。バレるから」

 

 窓に向けようとしていた視線を慌てて戻しつつ桐生は呆れた顔になった。

 

「なんでそんなに冷静なんだい?」

「対して脅威に感じてないもの。粗方私を脅してラファールの情報を聞き出そうとしてるのでしょうけど、特に問題は無いわ」

「理由を聞いても?」

「今日のヒール。実は爪先に鉄板を仕込んでるの」

「……」

 

 思わず桐生は内股になった。

 

「それに私だって一人でうろついている訳じゃないから。あの程度の連中なら3分で泣きながらごめんなさいしか言えない様にできるわよ」

「そ、そうかい。それは頼もしい……」

「ま、そういう訳だから私たちは今まで通り開発を進めるわ。新型ラファールはデュノア社だけじゃなく、共同開発したうちにも恩恵があるもの」

 

 そう言い放つと由香里は話は終わったとばかりに立ち上がり、伝票を取ろうとしたがそれを桐生が遮った。

 

「ここは僕が出すよ」

「あら、珍しい。何が望み?」

「すっぱりしてていいなあ。じゃあ新型ラファールの名前でも教えて貰おうかな」

 

 あら、そんな事? と由香里は笑う。

 

「試作段階のコードネームは【ラファール・アヴァンセ】よ。まあ完成はまだ先になるけどね」

 

 それだけを言うと由香里は店を出ていった。その後ろ姿を見送りながら桐生はふむ、と頷く。

 

「アヴァンセか。シンプルだなあ」

 

 意味は前進・進歩だったか。恐らく社名のアドヴァンスと似た意味を持つ故にその名にしたのだろう。新型ラファールの発表はK・アドヴァンスの名を広める絶好のチャンスになる。

 

「さて、僕もそろそろ帰るかな」

 

 必要な事をは伝えたし、知れた。後は帰って報告書を作るとしよう。そう決めると桐生も席を立つのだった。

 

 

 

 

 

 

(懐かしいな……自分の家だった筈なのに)

 

 8月も盆に入り、IS学園の休みも残り僅かという頃。箒はとある神社に居た。

 その神社の名は篠ノ之神社。箒が転校するまで住んでいた場所であり生家である。だがここも、IS発表後の混乱による重要人物保護プログラムによって永らく離れていた。

 敷地内を歩いていると板張りの剣道場が視界に入る。昔はここでよく一夏と勝負をしていた。何度も挑んできては負ける一夏と、一夏が訪れるのを待ちわびていた自分。そしてそれを時に呆れ、笑い、時に厳しく見つめていた両親や千冬。そして――――姉である束。

 篠ノ之家が離れた後は、近所に住む馴染みのあった警官が定年退職後に剣道教室を開いているらしい。神社そのものは親戚が維持してくれていた事もあり、廃墟となっている事は無かった。

 

(もし、ここを離れることが無かったら……)

 

 自分は一夏と一緒に居れた。もっと多くの時を過ごしていけた筈だ。しかしそれは叶わなかった。姉が作ったISという存在によって。

 

(あの人が、あんな物を作らなければ……)

 

 考えずにいられない。姉の作ったISによって自分の人生は大きく変わった。その事を思うと箒の顔が険しくなる。

 

(だが、これをくれたのもあの人だ)

 

 左腕に眼を落とす。幅一センチほどの交差した紅い紐。その先端には金と銀の鈴が付いており、これが紅椿の待機形態だった。

 紅椿。世界初の第四世代のIS。一夏の隣に居たいが故に、姉に願い、そして受け取った物。姉は自分の我儘を快く応じてくれた。それも事実だ。そして自分が姉を頼った時、姉の声がとても嬉しそうだった。あんな声は久々に聞いた気がする。

 

(そうだ……昔は違った)

 

 まだISが発表される前。箒は姉の事が好きだった。確かに変わっている所も多く、俗に言う変人だったが、その頭脳は当時から飛びぬけており各所から賞賛されていた。そしてそんな姉を誇らしく思っていた事もある。だがそれも全て変わってしまった。

 この数年間で箒の周りは大きく変わった。そしてその原因は姉。箒はその事を恨んでいる。しかし自分の無茶な願いを嬉しそうに引き受けてくれたのも姉。一体自分はどうしたのだろうか。恨みたいのか、許したいのか。その答えが分からない。

 そんな風に考え事をしていたからだろうか。箒はいつの間にか同情の裏の雑木林の手前まで歩いてきていた。よくこの雑木林の中で一夏と遊んだのを覚えている。道場でやる稽古でなく、時代劇の殺陣の様にチャンバラをした。今思えば酷く女らしくない思い出だ。だが一夏と居れた事が彼女にとって何よりも嬉しかったのだ。

 そんな記憶を探りながら箒は雑木林に足を踏み入れる。夏の日差しは木で遮られ、どこか湿ったい空気を肌に感じた。だがそれを不快には思わず足を進めていく。辺りを見回しながら思い出に浸る。

 

(そういえば、この辺りで一夏が怪我を――)

 

 雑木林に入って少し。不意に気配を感じて箒は視線を正面に戻した。そこにはいつの間にか女が立っていた。女は麦わら帽子を深くかぶり、上下とも長袖の服を着ている。肩にはタオルを下げている事から農作業か何かの途中に見えた。だが雰囲気はどこかおかしい気がする。

 

「こんにちは」

 

 不意に女に声をかけられ、箒は慌てて返事をした。

 

「ど、どうも。あなたはここで何を?」

「直ぐに分かりますよ」

「え?」

 

 それは完全に不意打ちだった。女は一瞬で距離を詰め。箒の眼前に迫る。その手にはナイフが握られており、切っ先は箒の喉に向いている。余りにも突然のその行動に箒は全く反応できなかった。

 

「あ―――」

 

 殺される。そう思った瞬間だった。突然女が横に吹き飛んだ。

 

「がっ!?」

 

 吹き飛ばされた女は二度三度と地面を跳ね、やがて木に激突するとがくり、と力なく倒れた。箒は呆然とそれを見ていたが、不意に女の腹の付近に有る物に気づく。それはニンジン型のミサイルの様な形をしていた。こんな物を作る人間を箒は一人しか知らない。

 

「全く、こんな馬鹿がまだ居たとはね」

「……姉さん」

 

 雑木林の奥。そこから姉である束が姿を現した。箒と眼が合うと束は嬉しそうに手を上げた。

 

「やあやあやあ箒ちゃん、元気? ハツラツ? 先月ぶりだけど顔が生で見れて私は嬉しいよ!」

 

 相変わらずの妙なテンションで話しかけてくるが、箒は言葉を返さない。しかし束は気にした様子も無く笑顔で続ける。

 

「いやー箒ちゃんが今度のお祭りで神楽舞をやるって情報を束さんレーダーがキャッチしてね! これはデータブルーレイDVDビデオレーザーディスク8mmビデオとあらゆる方法でその姿を保存するしか無いと思ったので、やって来たんだよ! ぶい!」

 

 そういってVサインを作る束。しかし箒にはそれより気になる事がある。

 

「この女は?」

「ん? ああ、心配しなくていいよ。大事な箒ちゃんにちょっかい出そうなんて馬鹿だねー。後で簀巻にして刑務所に直接放り込んでおこうかな? データをちょっと弄れば無期懲役なんて簡単だしね」

「ふざ、ける、な……」

 

 女が震える体を支えながらゆっくりと立ち上がる。直撃を受けた腹を片手で押さえながら、もう片方の手には拳銃が握られていた。

 

「篠ノ之、箒……貴様の、ISを……渡して、もらう」

「何だと?」

 

 苦しそうに息を吐きつつ告げた女の言葉に箒は眉を顰めた。その様子が気に入らなかったのか、女の顔が歪む。

 

「貴様、はそのISの価値を……分かっていない、のか。所詮、子供かっ」

 

 紅椿の価値。それを一瞬考え、直ぐに理解した。このISはまだどの組織も持たぬ第四世代機。世界最高峰とも呼べるスペックを秘めた機体。ならばそれを狙う者が居てもおかしく無い。

 

「直ぐに、貴様らは包囲される。そうなれば、嫌でも渡してもらう」

 

 段々と息を整えてきた女が笑う。しかしそれに束は詰まらなそうに言い返す。

 

「あーそれは無理だねえ。仲間は殆ど掴まってるし。全く、IS委員会ももうちょっと早く動いてくれないと唯の馬鹿の集まりだね。今度ミスしたらお仕置きしなくちゃね」

「何……!?」

「だから無駄だって事だよ。と、言う事で君は退場!」

 

 束の宣言と同時、その手に光が集まりその光派ニンジン型の銃の様な形へと変わる。ISの量子変換だ。

 そのニンジン型の銃を女に向け引き金を引くと、先端のニンジンそのものが射出。再び女の腹にめり込み、今度こそ女は気を失った。束はそれを興味なさ気に一瞥すると、箒に笑顔で振り返る。

 

「さて、と。じゃあ私は帰ろうかな。ああ、箒ちゃんの雄姿はちゃんと見るから楽しみにしてるよ!」

「待ってください」

 

 そのまま去ろうとする束を箒は飛びとめる。ここまでの成り行きにはついていけず見ているだけだったが、姉にはどうしても聞きたいことがある。

 

「お、おぉ!? 箒ちゃんに呼び止められた♪ 何かな? 束さんになんでも言ってみよう!」

「姉さん。貴女は私たちの敵ですか?」

 

 箒が思い出すのは臨海学校での事件。そして無人機と共に居る姉の画像。その二つの結びつき位、箒でもわかる。だからこそ本人から聞きたかった。

 

「んー? 不思議な質問だねえ。答えは決まってるよ。私は箒ちゃんやちーちゃん、それにいっくんの味方だよ」

「……っ!」

 

 当たり前の様に答えた束の言葉に箒は身震いがした。姉の言葉はまるで、それ以外は敵だと(・・・・・・・・)言っている様な気がしたのだ。

 

「姉さん。私はあの画像の真偽を知りたい。それに私達と言うのは一夏達の事だけじゃなく――」

「けど邪魔だと思ったことは無いかな?」

「何を――」

「たとえばあの中華女とか」

「!」

 

 一瞬、箒の息が詰まる。

 

「それにイギリスやドイツにも居たね。他にもちらほらと居るいっくんに近づく馬鹿な連中を邪魔だと思ったことは無いかな?」

「そ、そんな事は……」

 

 箒にとっては友人であると同時に恋敵でもある。疎ましいと思ったことが無いとは言えない。彼女達さえ居なければ、一夏の隣は自分だけの物だったと思ったことは有る。そんな箒の心境を知ってか知らずか。束は慈愛に満ちた、しかしどこか狂気じみた笑顔で続ける。

 

「安心していいよ箒ちゃん。箒ちゃんの場所は私が作ってあげるから」

「何を……! 元々奪ったのは姉さんではないですか!」

 

 ISさえなければ。先ほども感じた怒りをぶつける。

 

「うん、確かにそうだね。あの時はまだ準備が足りなかったから。だけどもうすぐそれも終わるよ。種は撒き、そして根付いた。だから大丈夫」

 

 準備? 種? 根付く? 意味が分からぬ姉の言葉に箒は言葉を返せない。だが姉は。世界最高の天災はそれに気づかず、歌う様に続けた。

 

「必要なモノだけを残し、不要な物は世界から切り捨てる(ワールド・パージ)。大丈夫、束さんは完璧だからね!」

「姉さん? 貴女は一体何を……」

「ふ、ふ、ふ。それはお楽しみだよ。じゃあそろそろうるさい連中も来そうだから私は帰るよ。箒ちゃんと一杯お話出来て楽しかったね! 今週がこれでご飯十杯は行けるよ!」

「待って――」

 

 止めようと伸ばした手は空を切る。大きな風が吹き、思わず目を閉じてしまう。そして次に目を開いた時、そこには誰も居なかった。誰も居ない空間。それを呆然と見つめながら姉の言っていた言葉を反芻する。

 

「切り離す……? 何を考えているんですか、姉さん」

 

 そのまま呆然としてた箒は、彼女を密かに護衛していたIS委員会の人間が駆け付けるまでその場で立ち尽くしていた。

 




一応箒にも護衛はいます。EXISTは少数で残りはIS委員会からの護衛です。

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