IS~codename blade nine~ 作:きりみや
短いけど冬休み
「IS学園が動きだしたわねえ。ま、あそこまであからさまにやってあげたんだから当然よねえ」
『わざと?』
「そういう事」
学園から最も近い街。そこにあるホテルの一室でカテーナは投影ディスプレイを眺めながら笑みを浮かべていた。ディスプレイは複数並んでおり、その中の一つにはIS学園で現在起きている状況が映されている。
『なぜばらす? あからさま。ざつ。いとふめい』
「ふふふ、これも勉強よ。考えてみなさいな」
彼女が話す相手は人間では無い。学園の状況を映す物とは別のディスプレイに浮かんだ文字。それが彼女の話し相手だ。その文字――無人機の意思は数秒間の沈黙の後答えを出した。
『べつのもくてき。ふくすうそうてい。わな。おとり。……あそび?』
「あら、鋭いわねえ。全部正解」
無人機の答えにカテーナは賞賛を上げる。この無人機は日に日に成長してきている。以前は理解していなかった『遊び』という概念を知り、カテーナという自分の性格を読み取り、そしてその答えを出したのだ。それが嬉しくてカテーナは上機嫌になる。
「一つは織斑一夏から川村静司を引き離す為。オータム達の悪巧みに彼は邪魔だからねえ」
うふ、笑いながらコンソールを叩く。映し出されたのは学園上空を飛ぶラファールの姿。あれが索敵パッケージに換装し、教員が操縦する機体だろう。
「二つ目がこれ。学園に侵入した敵の発見に扱いの難しいパッケージを使用。ならば当然、それを扱うのはそれなりの実力者の筈。恐らくは山田とかいう教員ね。織斑千冬の影に隠れがちだけど彼女の能力は目を見張るものがあるものねえ」
何せ今IS学園には生徒教員含めて1000人以上の人が居る。その中から限られた敵を見つけ出すのは相当困難だ。その為の索敵パッケージだろうが、いくら物が良くても使う者が追い付けなければ意味が無い。
『それは、おかしい』
だが無人機はそのカテーナの答えに疑問を持ったようだった。
『さんまのようどう。だけどあいえすがくえん、さくてきとっか。さんまばれる。ほんまつてんとう』
「さんまってオータムの事よね? ……これはシェーリの影響かしらねえ。まあいいけど」
当の本人であるオータムが聞けば激怒しそうな言葉を吐きつつ、カテーナは深く感心していた。本当に、この無人機は自分が考えている以上に成長している。
「確かにそうねえ。索敵によりオータムがバレるでしょう。けどまあ少しでもやっかいな戦力である川村静司と教員を引き付けてあげたのだから良いのよ。川村静司は正体を隠している様だし、不用意にISも使えないもの。あとは生徒会長が残ってるけどそれ位は自分でなんとかしてもらいましょう。そして最後の理由は……これよ」
そういってコンソールを叩くと聞き慣れた声で返事が来た。
『お呼びでしょうか』
「ええ、シェーリ。そろそろ頃合いね」
『了解しました。では後ほど』
カテーナの言葉で通信の相手であるシェーリは理解した様で直ぐに通信は途切れた。
『しぇーり?』
「そう。彼女には大事な仕事を頼んでいたのよねえ」
『しごと?』
その問いに対し、カテーナはとても楽しそうな顔で頷き、
「そう。不思議なイレギュラーの調査のお仕事よ」
自分は父とどうなりたいのだろうか。
それはずっと考えていた事。悩んで悩んで、しかし明確な答えが出てこなかった自分自身の疑問。今も解けない、疑問。
そう、解けていないのだ。しかしいつまでも放って置くわけにもいかない。あれから時間も経った。いい加減自分自身の方向性を決めるべきなのか。しかしそう簡単に決まる問題ならそもそもこんなに悩みはしない。
だけど、
今目の前でその問題が消えようとしている。解決せぬまま、永久に手の届かない悩みとなってしまう。
良いのでは無いか? 自分を悩ませる種だと消えてしまえば。そもそも自分を道具の様に扱ってきた相手だ。きっとこれはその報い。罰。因果応報。
だけど、
『あの子を怯えさせるような存在は――――私一人で十分だ』
あの子と、そう言った。それは初めて自分の事を子と呼んでくれた瞬間だった。それを聞いて自分はどう思った? わからない。本当に?
違う。
どんなに道具の様に扱われても従ったのは結局は繋がりを求めていたからでは? ずっと連絡を取っていなかったのも、父に怒られ完全に縁が途切れてしまうのを恐れた居たからではないか? わからない。わからない。わからない!
だがしかし、それでも一つだけ分かる事がある。
「駄目だよ……」
もしここで何もせず、そして目の前の人が倒れてしまったらもう二度と話す事は出来ない。何も解決せぬまま、全てが終わる。そんなのは……嫌だ。なにより自分はまだ、あの父に対して文句を一言も言えていない。そうだ、そんな理由で良い。どんな理由でも良い。なんでもいいから理由を付けてこの体を動かせ。でなければ必ず後悔する。
ならば――
「リヴァイブ!」
自らの意思を奮い立たせ、叫ぶ。緊急展開の命令を受けたISが己の腕を光で包み、その光が収束していくと愛用のアサルトライフル《ガルム》が現れた。シャルロットはその銃口を父に迫る者達に向け、そして引き金を引く。
「!?」
ユーグに襲い掛かろうとしていた女たちの足が止まった。そしてその足の先数センチの距離にたった今シャルロットが放った銃弾の跡があった。
「次は当てます。だから
そのシャルロットの言葉に最も驚いたのはユーグだった。彼はまるで信じられないといった表情でこちらを振り返っていた。その表情にシャルロットは思わず歯ぎしりしてしまう。
(そんな顔は……やめて)
娘が父を助けた。それだけの構図なのに、そんな顔をする父。これが今の二人の距離なのだ。その事実が無性に悲しい。だが襲い掛かる女たちの行動がシャルロットに悲しむ暇を与えない。女たちは一瞬怯んだが、直ぐにまた動き出したのだ。
「そんなっ!?」
慌てて銃口を女達へ向ける。しかし引き金を引けない。対ISを想定しているこの武装では生身の人間相手では間違いなく殺してしまう。先ほどのはあくまでブラフだったのだ。シャルロットにはまだ人を殺す勇気は無い。接近戦ならまだ何とかなった。しかしもはや瞬時加速でも間に合わない程の距離に、父へ刃を向ける凶器があった。
「駄目だよ!」
目の前で消えてしまう。ずっと恐れていて、しかし焦がれていたかもしれないものが目と鼻の先で。しかし自分にはもうどうする事も出来ない。父を助けに行くのも。父との距離も。父との和解も。親子という関係も。何もかもが遠くて、遅すぎたのだ。
「
悲鳴の様に叫ぶ。だが時間は止まらない。もはや数センチという距離まで迫ったナイフがユーグの首を薙いだ。
「あ、ああ……」
地面に膝を付き、シャルロットは絶望の声を漏らした。涙を流し、呆然とナイフを振りきった女達と、血に染まった父を――
「え?」
思わず間抜けな声を漏らしてしまう。ナイフは明らかに父の首を切り裂く軌道を取った筈なのに、その父は血を流していない。それどころか、
「言った筈だ。十分だと」
ユーグは女の一人の腕を掴み引き寄せ足を駆ける。そのまま地面に引きずり倒しその背中を踏み抜いた。女はうめき声をあげもがくが、腕を極められている為碌に動けない。
「ど、どういうことだ……!?」
もう一人の女が取り乱しながら己のナイフを振りかざす。しかしそれはもはやナイフと呼べる代物では無かった。柄より先、刃の部分が消えている。見れば倒れた女の物も同様だ。その奇妙な光景にシャルロットも意味が分からない。だがその答えは直ぐに知れた。
「随分と無粋な連中っすね。お祭りだからってはしゃぎ過ぎっすよ」
ゆっくりとこちらに近づいてくる人影。その人物にシャルロットは見覚えがあった。
「理沙さん……?」
「正解っす。お久しぶりっすねー」
ひらひらと手を振るのは一度だけ会ったことある人物。K・アドヴァンス社に見学に行った際に案内役をしていた麻生理沙だった。何故彼女がここに居るのかは不明だったが、それ以上にシャルロットの眼を引いたのは彼女が手に握る物だった。
「そ、その銃は」
「これっすか? 護身用兼護衛用っす。うちの社長も来てるっすよ。学園側にも許可取ってるっすよ」
そう言いつつサイレンサー付きの自動拳銃をしまう理沙だが、本来なら許可など出る筈が無い。彼女の場合はEXISTという特殊な立場故だ。だがシャルロットが驚いたのはその事だけでない。状況からするに、理沙があの拳銃で女たちのナイフの刃を正確に撃ち抜いたと言う事になる。生半可な実力では無い。
「くっ……」
残った女は突然の乱入し怯みはしたが引く気は無い様だった。再び臨戦態勢を取ろうとする。そんな女達に理沙は呆れた様に忠告する。
「やめとくっすよ。これ以上怒らせない方が良いすっよ」
「私たちは……貴様の怒り程度で止まるつもりは無い」
「いやー私のことじゃないっすよ」
「何を――」
「やってるんだろうな、お前達は」
背後からの声に女が振り返るとその顔が正面から掴まれ、持ち上げられた。そして勢いよく地面に叩き付けられた。女は悲鳴すら上げる間もなく気絶してしまう。
「静司!?」
「無事か、シャルロット」
声の主はシャルロットが良く知る人物、静司だった。静司は女が完全に意識を失ったのを確認すると、シャルロットと本音の姿を確認しほっとした顔になる。続いてもう一人の女を取り押さえているユーグに向き直った。
「無茶をしますね。そもそも敵がまだいるのにその行動は危ないと思いますよ」
「こいつらのナイフが砕けたのを見たからな。誰かしらが救援に来たとわかったからこうした。そうでなければ別の方法を考えていた。最も、その救援が君たちとは思わなかったが」
ユーグがため息を付く。しかし静司を見るその眼はどこか疑わし気だ。その視線が先ほど女を掴み上げた左腕へと移る。
「随分と怪力なんだな」
「……ええ、まあ」
静司は深くは語らず視線を理沙に移す。理沙は小さく頷き女を取り押さえる役をユーグから引き継いだ。
「父さん!」
我に返ったシャルロットがユーグに駆け寄るが、数歩手前で失速してしまう。そのままユーグと数歩離れた所で立ち止まってしまった。ユーグはそんなシャルロットの様子を見ても表情を動かさずに立ち上がる。
「無事か?」
「え!? う、うん」
その問いかけが意外過ぎて慌てて頷いてしまう。しかしユーグは気にすることなく、「そうか」とだけ言うとそのまま黙ってしまった。そのままお互い無言で向き合っていたが、このままではいけない。そう思いシャルロットは勇気を振り絞り声を出す。
「どうして、あんな事を?」
自分を守る様に立ち塞がった父の姿。それは今迄の印象からは考えられない事だ。だからその理由を聞きたかった。
「……」
「教えて……下さい」
無言の父の圧力にシャルロットの声が消え入りそうになる。
「……自分でもまだわからん」
ようやく来た返答。だがそれはどうとでも取れる無機質な答えだった。その事にシャルロットの肩が下がる。
「だが、そうしなければならない。そう思った」
「え……」
「先ほどクラスでの姿を見た時、クレールを思い出した。本当に良く似ているのだな。今まで気づかなかった自分が馬鹿らしい」
クレール。それはシャルロットの母の名前。そして父の愛人であった人の名前だ。その名前を父の口から聞いたのは初めてだった。
「クレールを思い出し、そして何故彼女を愛したのか、その事を思い出した。今はまだ、それだけだ」
「そうですか……」
想ったのは母の事。自分の事では無かった。しかしそれでも構わないと思う。今までずっと、住む場所も心の距離も離れた場所に居たのだ。突然自分の事が大事になったと等言われても、信じられないかもしれない。だがまずは母の事を想ってくれた。自分も大好きだった優しい母。その事を想ってくれただけでも嬉しい。そしてその事で自分を守ろうとしてくれた事も。まるで母も一緒に守ろうとしてくれた様で。
だからシャルロットは笑い、しかし同時に瞳を涙で潤ませながら父に告げる。
「今すぐでなくても良いです。僕……私自身にも気持ちの整理が必要ですから。だけどいつか、その答えを教えて欲しいと思います」
もはや自分の気持ちはわかった。父に危機が訪れた時、明確に自覚した。やはり自分は父と親子という絆で結ばれたいのだ。だからあれほど焦り、そして一度は絶望した。しかしその絶望のお蔭で自分の気持ちは知れた。だが今は気持ちが高ぶっていると言う事もある。だから冷静になって落ち着いて、時間をかけつつ考えよう。この気持ちに偽りはないか。そして問題が無ければ少しずつでも前に進む。もう、停滞はしたくない。
「……わかった。必ず答えを出そう」
ユーグは頷き、少しだけ。そう、ほんの少しだけ口元を緩めるのだった。
「かわむー」
シャルロット達を見守っていた静司の下にいつの間にか起きていた本音がのんびりとやってきた。静司も顔を崩し、穏やかな表情で手を上げる。
「本音も無事だな。良かった」
「そ~だね~。わたしもしゃるるんも大丈夫~」
ぱたぱたと手を振る本音。しかし直ぐに心配そうな顔になった。
「また何か起きたの?」
「……ああ。そうだ」
手短に本音に説明する。侵入者が居る事。その狙いは自分と、そして本音やシャルロットだと。嘘は付かず、正直に全てを話した。
「済まない。また俺の――」
「せいだ、なんていっちゃ駄目だよかわむー」
どこか気落ちした感じの静司に本音は相変わらずの笑顔でぺし、と静司の胸にチョップを入れた。
「前も言ったよね~。それ以上言ったら怒るって~」
「っ、そうだったな」
自分のせいで。その考え自体は消えない。しかしそれでへこたれている訳にいかないのだ。そしてそれを理由に居なくなる事も許されない。それは臨海学校の時、本音にも言われた。そして自分はその時誓ったのだ。今度こそ守りきると。
「うんうん、良い顔だねかわむー。かっちょいい~」
表情からこちらの考える事を読み取ったのだろう。本音は嬉しそうに頷き静司の左手を手に取った。
「言ったよね? 私もかわむーを守りたいなって。私は戦っても強くないけど、それでもこれから無茶を始めるだろうかわむーを信じて待つことは出来るよ~。それだけじゃ駄目かな?」
こてん、と首を傾げつつ本音に問われ、静司は首を振った。
「とんでもない、十分すぎる程心強い」
戦う力は無くても、自分の事を信じて待っている人が居る。それだけでも力の湧き方が違う。だから静司は笑い、そして本音の頭にいつもの様にぽん、と頭を乗せる。
「なら……いってきます」
「はい、いってらっしゃい~」
二人頷くと、静司は再び学園祭の喧噪の中に駆けて行った。
因みに、
「……はっ!? 親子ドラマと青春ドラマ見てるうちに置いてかれたッす!? もしかして状況説明含めて投げられたッすか自分!?」
「くっ、離せ――」
「うっさいっすよ!」
C1達が到着するまで、ユーグから女の拘束を引きついでいた理沙が暴れる女を頭を何度も地面に叩き付け黙らせていた。
『B9。二人はC1とC12が護衛に付いた。人目のつかない場所へ移動させる』
「了解。敵については?」
『先に捕まえた奴含めてC5が拷も――尋問する。それと件のIS学園の索敵だが――』
その時、学園祭に湧くIS学園の上空を一機のISが駆けた。その光景に来場者たちは盛り上がり歓声が沸く。何かのショーと勘違いしている様だ。
「今確認ました。乗っているのは山田先生ですね」
『らしいな。スキャンを開始した。この結果も直ぐ転送する。だが連中が不法侵入以外で入り込んだ場合は、あの方法でも見つけられんかもしれん』
「ですね。だからこそ自分は今ここに居る訳ですし」
そういって静司は周りを見渡す。ここはIS学園の正面入り口近く。多くの人が行き交い、出店も並んでいるエリアだった。
「このまま人目の多い場所を移動していき、敵が釣れ次第掃討します」
『お前は余り派手に動くなよ。学園側もお前を守ろうと必死だが、そのせいでお前の行動は逐一見られている。間違っても黒翼が使えん』
「自分の為にやってくれている事なので文句は言えませんが……」
『そもそもお前を囮にする事でさえ大反対されたんだ。最後は桐生がいつも通りの力押しで通したが、教師陣は納得して無かったぞ。織斑千冬自らお前の下に行くと言っていた』
「なっ、指揮はどうするんですか」
『指揮できるのは織斑千冬だけじゃないさ。彼女が優秀だからその位置につく事が多いが、今回は彼女自ら出るらしい。臨海学校の件を相当悔やんでいたらしいからな』
「……そうですか」
その事に思わず静司は考え込んでしまう。やはり彼女もあの時の選択を悔やんでいたらしい。そして同じような事を繰り返さない為にも自らが動き出した。その想いは良い事だと思う。しかしそれにより静司自身の行動が縛られてしまうのがジレンマだ。
『焦るなよ、B9。既に捕らえた三人の様子からするに敵のレベルはそう高くない。直ぐに全員捕まるさ』
「確かにそうかもしれません。しかしだとするとおかしく無いですか?」
どんな手を使ったのかも分からず入り込んだ者達。しかし手際が良かったのはそこまでで、その後の行動はまるでお粗末。あっさり露見してしまいもはや計画通りとは行かないだろう。だがそれ故に侵入の手際の良さとのギャップが酷い。
『黒幕が居てその陽動……。しかしあからさま過ぎるのも確かだ。この件はこちらで調査を進める。まずはお前はお前の仕事をこなせ』
「そうですね。了解しました」
静司も小さく頷き課長との通信を切った。そして辺りを見回し目を細める。
「早速一人釣れたか」
自分を見つめる粘っこい視線。その位置をばれない様に確認しつつ、どうやって無力化するか考えながらその場所へ向かうのだった。
「ふむ……」
EXISTの通信室。そこで課長は顎を撫でつつ考え込んでいた。その内容は今しがた静司と話した内容。今回の事件の奇妙さだ。
「一応、織斑一夏の護衛戦力を削る陽動としては働いている。しかし本当にそれだけか……?」
「B2も居ますし、余程の事が無い限りはとは思いますが」
オペレーターである女性も不気味そうに漏らす。言い知れない違和感が彼女にその顔をさせるのだ。
「妙なのは確かだ。本当は何もないかもしれなくても、可能性がある限り用心するにこしたことはない」
「ですが――」
女性の言葉は突如響いた爆発音と震動で遮られた。警報が鳴り、周囲が一気に慌ただしくなる。
「何事だ!?」
「っ! 西棟で爆発! これは……」
モニターを確認したオペレーターの顔が強張る。
「襲撃です!」
「さて、どうしましょうか」
炎と煙が充満する通路をシェーリはゆっくりと歩いていた。灰色のIS。ブラッディ・ブラッディに搭乗しつつ歩く彼女は炎も煙も気にすることなく悠然と進む。
「確かこの会社のコア保有数は4つでしたか。さて何機出てくるのでしょうね」
そう呟きながら目の前で降りた防火シャッターに向け発砲。再び爆発音が響き、シャッターは跡形も無く吹き飛んだ。
「しかし誰も出てこないとは」
感心したようにシェーリは頷く。彼女は上空から一気に接近。建物の外壁を突き破りここへと侵入した。その時は何人かの顔は見れたのだが、彼らは直ぐに逃げだし、さらにそれ以降誰も彼女の目の前に現れていない。これは別に警備の怠慢という訳では無い。生身の人間では侵攻するISを止めることなど普通は出来ない。前に出るのは死に行く様な物だ。どうやらここの警備はそこを理解しているらしい。しかしだとすると、彼女の目の前に現れるのは必然的にISという事になる。だがそのISも姿を現さない。これは何故だろうか?
「まさま全ての戦力を外に出しているのでしょうか? だとすると作戦は大成功と言う事なりますが」
「それは興味深い話だな」
障害物を排除しつつ進行するシェーリだったが、幾つ目かの防火シャッターを破壊した時、声が聞こえた。だがその声にシェーリは眉を潜める。
「是非、話を聞かせて貰おうかお嬢さん」
「男……? ISも無しに何を」
破壊したシャッターの先。そこには一人の男が煙草を吹かして待ち構えていたのだ。オールバックの黒髪に黒のサングラス。黒のスーツに身を包み、不敵に笑う男が。
「なに、話をしてみたいと思ってな。まさか本命がここだとは思わなかったよ」
「成程。既に理解しているのですね」
「まあな。あからさまなあの侵入者たちはやはり陽動。しかしその目的がうちだとは思いもよらなかったな」
IS学園は勿論、EXISである課長や静司達。そして由香里も学園にばかり目が向いていた。その為に黒翼を持つ静司の他にも予備戦力としてB2も現場には居る。ISは今は持っていないがB5もだ。そして複数の歩兵チームと学園に戦力が集中していたのだ。そしてその隙を狙ってシェーリは襲撃を仕掛けた。それも事件が起こり始め、彼ら彼女らがこちらに戻り難くなった状態でだ。
「これは一本取られたな。しかしただ暴れに来ただけが目的じゃないだろう?」
「ええ。ですがそれをわざわざ教える必要もありません。それであなたはどうするのですか? わざわざ目の前に来ると言う事は自殺願望でしょうか?」
ガチャ、と丸みを帯びた右腕の装甲に取りつけられた銃口を向けるが男は動じることなく煙草をふかしていた。
「言っただろう。話してみたかったと。君だろう? 学園の地下で静司と戦ったのは。散々やらかしてくれたそうじゃないか」
ふぅ、と煙を吐きつつ指で灰を床に落とす。
「そうですかそれが何か?」
「ふむ。つまりはだ、こう言いたかったんだ。――人の大事な息子に何してくれやがるんだド阿呆」
先ほどまでのにこやかな表情は消え、睨みつけてくる男の気迫にシェーリは思わず一歩引いてしまった。そして自分のその行動に苛立ち男を睨み返す。
「成程。彼はあなたの息子でしたか。ではあなたを殺せば彼はさぞかし悔しがるでしょう」
「出来るか? お前に」
「眼が見えていないのですか? 今の状況を見てよくそんな口が叩けますね」
見せびらかす様に男に向けた銃口を揺らす。しかし男は表情を変えない。
「なあ嬢ちゃん。なんでISが最強の兵器と呼ばれると思う?」
「何を今更」
その理由は単純だ。異常なまでの機動性。バリアシールドによる搭乗者の保護。ハイパーセンサーによる知覚増強。そしてその小さな機体で強力な兵器を扱えるそのパワー。いくらでも理由はある。
「そうだな……確かにISの機動性やパワーは脅威だ。それまでの兵器が玩具の様に思える程に。だがそれ故に勘違いする奴は多い」
男は吸っていた煙草を捨て自らの革靴で磨り潰しながらゆっくと告げた。
「ISはな、最強の兵器であっても
「戯言を――」
直後、シェーリはISごと吹き飛んだ。
シャルパパの安否や活躍を気にしてくれた方も多かったですが、今回は娘が頑張りました。
お互いに歩み寄るきっかけがこれでできました。後はお互いの頑張りです。パパはきっとツンデレだ。
そして主義者のストーリー上の役目はEXIST襲撃の為の陽動とでましたが、もう一つについてはもう少し先に語る予定です。
めずらしく活躍した理沙ことC12。自分の設定メモには彼女の欄に『~っすね。という口調が特徴。不真面目に見えるが、仕事はちゃんとやる。たぶんやる。きっとやる』と書かれています。やったね! 仕事できてるよ!
それとIS再始動で8巻登場という情報がががが。8巻も楽しみですが、個人的に新絵のセシリアの見下すような目つきがなんかいいなぁ、と思ったけど私はMじゃない筈。とりあえずのほほんさんこと本音の挿絵はまだかー!
仕事明けで変なテンションで色々言っていますが年内の更新は最後になります。それと明日から実家に戻るのですが、あちらにネット環境が無いために返信や更新は戻ってきてからになりそうです。なのでこの場で先にお礼を。
今年の2月ににじファンで始めたこの作品ですが、皆様の温かいお言葉や厳しいご意見を糧にここまでやってこれました。自分でも嬉しく思い、より精進していこうと思います。本年もありがとうございました。そしてまた来年もよろしくお願いします。