IS~codename blade nine~ 作:きりみや
納得がいかない。理解できない。
篠ノ之束は薄暗い部屋で一人、怒りでその身を震わせていた。その眼前には二つのISの画像が映し出されている。
片方は黒い翼のIS。散々自分の邪魔をしてきた忌々しい謎の機体。そして搭乗者も不明。
そしてもう一つはイギリスから奪取された蒼いIS。名はサイレント・ゼフィルス。こちらも搭乗者は不明だ。
「なんで……なんで出てこないのかな!」
ばんっ、と子供の様に八つ当たりで机を叩く。ここ最近の自分の中の最優先事項であるこの二つのIS。それが見つから無い事に彼女は苛立っていた。
束がこのような事をする理由は学園祭の事件が原因だった。元々はそれほど介入する気は無かった。何せ学園祭では一夏や箒は直接ISで何かをする訳では無い。だから学園に放った機械のリスからの情報を元に見物でもしようかと考えていた。
だがその学園祭も途中からキナ臭くなった。川村静司への襲撃に始まり、最後には謎の無人機の集団と各国から奪われたISを扱う者達の登場。だが束はそれだけなら対して介入する気は起きなかった。むしろ一夏や箒を鍛えるいいチャンスとでさえ考えた。危なくなったらこっそり助けてやればいい。その程度の考え。
川村静司への襲撃もそうだ。成功しようかしまいがどうでも良かった。確かにあの男は気に入らない。だからわざわざ助ける必要は無いし、死んだら死んだでそれまでだ。臨海学校で手を出したのは自分の立場を分からせる為。途中で黒いISに邪魔されたがあれで自分の立場を思い知った事だろうと束は考えている。
だが学園祭の戦いの中で黒いISが現れたのなら話は別だ。あれは気に入らない。倒し、調べ、そして分解する。搭乗者もこれまでのツケを必ず払わせる。だからこちらからも無人機を出そうとした。だがその束の行動を止めるものがあった。
「Valkyrie project……」
忌々しげに呟くその言葉は彼女にとっても最悪なもの。親友のコピーを造る等といった凶器の計画。そして自分がこの世から消し去った筈の計画。そして自分が初めて人を殺す理由を作った計画。
その計画の名をあのサイレント・ゼフィルスの搭乗者は発し、あろうことかあの黒いISもそれに反応した。それの意味する事は一つ。あの計画を知っていると言う事だ。だがそれはおかしい。あの計画は、自分が破壊しつくしたあの研究所のみで行われ、その情報は完全に外界と遮断されていた。そして束はあの研究所を破壊した際、少しでも知る可能性の有る者達も根こそぎこの世から消した。それから何度も何度も調べつくし、遂にはそれを知る者はもはやこの世には存在しないと確信したのだ。だがならば何故あの二者は知っていたのか? 自分が見落としたのか?
違う。
そんな筈は無い。自分は十全たる存在。そんなへまはしない。ならば何故。
そんな疑問には一つだけ答えがあった。認めたくない答え。忌まわしい答えが。
自分はあの施設と、その存在を少しでも知る者から順にたどっていき情報を消していった。だが世界中の施設やデータを探しきった訳では無い。全く関係の無い所にある物は流石に調べていない。ならばそこにデータが合ったと言う事だ。だがならばどうやってそのデータは得られた? 密かに移されていた? いや違う。そういった痕跡も含めて自分は調べきったのだ。そんなものは見逃さない。つまりあの研究所の消滅以降に新たに情報を手に入れていない限り、自分が見過ごすことなどありえないのだ。
そしてそれはつまり一つの答えを示してる。研究所の破壊以降、全く別の方法で情報を手に入れた者が居る。
つまり、何らかの形で生き残った者がおり、そしてそいつが情報を持っていた。
ぎりっ、と己の歯ぎしりの音が耳に響く。生き残り。失敗。殺しそこね――
「うっ……!」
一瞬こみ上げてきた吐き気に口元を押さえる。意識が朦朧とし、指先が震える。これまで何度もなってきた忌まわしい衝動。それは生まれて初めて人を、それも大量に殺した時時に生まれた恐怖と気持ち悪さだ。未だにそんなものを引きずっている事に腹が立つ。あんな連中、死んで当然なのに。
だが当時の自分はやはりどこか怖かったのだろう。だから無人機の下となった自動兵器に全てを任せ命令だけを送り自分はその現場を見なかった。だがその結果、生き残りを生む結果となってしまった。
これは己の汚点だ。だから今度こそ、確実にこの世から消さなければならない。
だからそれを知る黒いISとサイレント・ゼフィルス。それを探した。正確にはその搭乗者をだが。だがそれが上手くいか無い。確かに臨海学校の時黒いISは自分の命令に逆らった。だからISコアを起点に探しても見つからない可能性は予想していた。
しかしサイレント・ゼフィルス。こちらも見つからないのは理由が付かない。何故ならサイレント・ゼフィルスに関しては、イギリスがコソコソと作っていた段階からその在り処から情報まで、全てを知っていたのだから。その後奪われてからは興味を無くし、調べた事は無かった。だが今回、居場所を探るために調べようとした所、その情報を全く追えない事に気づいたのだ。そしてそれは一緒に居たアラクネと無人兵器達に関しても同様だった。
「どうして……っ!」
あれは消さなければならないのに。あってはならないのに。なのにそれに関する情報が何も見つけ出せない。自分の思い通りに行かない。それが束を苛立たせる。だがその苛立ちを消し去る物が、突然画面に現れた。
「……え?」
画面には新たなウィンドウが開きそこに簡潔に一言『発見』と記されていた。
訝しみつつコンソールを叩く。すると画面にはロシアの地図と、そこで光る光点が示されていた。そのコアのシリアルを確認するとサイレント・ゼフィルスの物である。
「……この束さんを馬鹿にするとはいい度胸だね」
もしサイレント・ゼフィルスがこちらに捕捉されない何らかの技術を有していたとすれば、これは罠の可能性が高い。もしくは故障か何かか。だがそんなものはどうでもいい。そこに居るのなら捕まえに行くのみだ。有象無象の張った罠など無為に等しい事を思い知らせてやる。
束は昏い笑みを浮かべると、無人機達に指示を飛ばした。
眼下に走る雪原を静司は無感動に見つめていた。目に移るのは雪と木々。そして岩のみ。生物らしいものは見えない。
耳の直ぐ上では高速で回転するヘリのローター音。室内も時節揺れ、物と物がぶつかる音が響いている。窓の外の景色は次第に暗くなっており、夜の訪れを示していた。
そんな光景を眺める静司の正面。向かいの席に座っていたC12は密かにため息を付いた。
(空気が重いっす)
先ほどから静司は一言も喋らない。ヘリの室内は重い沈黙に包まれている。だがそれも仕方の無い事なのかもしれない。
(原因が原因っすからね)
事の始まりは3日前。学園祭の事件の混乱もようやく冷めてきた頃に静司の携帯に届いた一通のメール。仕事用でなく、学園生活に必要だろうと言う事で用意した市販の携帯に届いたそのメールの送信者は知らない相手。だがその内容は静司を動揺させるのに十分でもあった。
『V・P。知りたければ向かえ』
文面らしい文面はそれだけ。後は下に座標が記され、最後にアルファベットのMと記されているのみだ。
V・P。その意味として真っ先に静司が思いつくのは一つだけだ。だが何故それが静司の携帯に届くのか。そもそも送り主は誰なのかは全く分からなかった。唯一の可能性は学園祭に現れたサイレント・ゼフィルスの搭乗者だが、ならば狙いは何か。全く分からない。
だが静司はそこに行くことを主張した。例え罠の可能性があろうとも、何かが分かるかもしれないから。
当然、課長達は渋った。この件は静司の過去に直接関わる事であるから知りたいのは当然。だが罠の可能性の方が高いのも事実だからだ。それに静司自身が行くと言う事にもだが。だが最終的には許可を出した。例えそれがどんなものであろうとも、静司の過去に関わる事であるのなら、捨て置くことは出来ず、そしてその想いが最も強いのも静司で有る為だ。それに学園際の時に現れたサイレント・ゼフィルスが関わっているのなら捕らえる必要もあった。
「いいっすか、B9。タイムリミットは12時間っす。それ以上の長居は許可されてないっすよ。学園は今C1やB2が見てくれてるけど、それも無理やりなんすから」
「わかっている」
静司がここに来ると言う事は当然一夏達の護衛が出来ない。その為に課長はC5にISを渡し、B2への変更を既に済ませている。だが学園祭の様な事件があったばかりだ。最も護衛対象の近くに居られる静司をそう長期間離れさせる訳にはいかない故の措置である。
「はあ、分かってるならいいっすよ。さて、先行した仲間からの情報っすけど、送られた座標の位置は『表向き』は唯の山っす。だけどその中身は違法なIS技術の研究施設ってとこっすね。VTシステム程では無いにしても、それなりに不味い物がある様っす。ただB9の事と直接関わる様な物は今の所見つけてないっす」
「今の所、か」
「そうっすね。まあ後は実際B9が行った時どういう反応が出るかっす。さて、そろそろ着くっすかね」
今の静司は気が立っている。それを感じ取っているC12はそれ以上は深く語らず、代わりにヘリのパイロットに聞いた。返答はYES。もうじきとの事だ。その返事を聞き二人も準備を進める。当然向かっているのは自分達だけでは無い。機内に居た他の者達も準備を進めていく。
『……おい! 様子がおかしい!』
不意にヘリのパイロットから無線を通じて報告が入った。続いて静司とC12の間に投影型スクリーンが浮かびそこに外の様子が映し出された。
「赤い……燃えている?」
「どういうことだ?」
先程よりも日も落ち、ますます暗くなった外の景色。そして遥か先、目的地があるあたりの空が赤く照らし出されている。更には黒煙らしきものも見える。何かが起きているのは明白だ。
「先行組からの連絡は!」
『駄目だ繋がらない! 何かに妨害されている!』
「それは不味いっすね……」
全員の顔に緊張感が走る。本来ならばこれ以上は接近せず様子を見たい所。しかし先行した仲間との連絡が取れないと言う事は、彼らがまだそこにいるかもしれないと言う事だ。そしてそれを見捨てる気は無い。だが悪い事は続く。
『おい、あれは……』
望遠レンズで映し出された映像。そこには火を上げる山とその合間合間から対空砲を放る兵器達。そしてそれをゴミの様に破壊していく小さな機影が見える。そしてその機影には見覚えがあった。
「無人機だと……!?」
そう。これまで散々好き勝手に場を荒らしてきた無人機。それらしきものが複数飛翔している。その形状は今まで見たことないタイプだったが、学園祭に現れた物とは違い、臨海学校などに現れたタイプに良く似ていた。つまりこれは篠ノ之束の手によるもの。
『おい、どうする!? これ以上近づいたら逃げ切れんかもしれんぞ!』
「課長と連絡は!」
「駄目っす! こっちも繋がらないっすよ! この辺り一体妨害されてるっす!」
「くそっ!」
悪態を付くと静司はヘリのドアを開け放った。途端に室内に風が吹き荒れ外気が入り込み急速に冷えていく。だがそんなものもお構いなしに静司には外へと身を乗り出した。
「どうする気っすか!?」
「俺が出る! あの連中を黙らせるからその隙に救助を!」
「……それしかないっすね。けど大丈夫なんっすか?」
それは静司の身を案じただけでは無い。篠ノ之束の無人機を相手に、冷静でいられるかという意味も含んでいた。それが分かっていたから静司も頷く。
「今までだって散々戦ってきたんだ。問題ない。……blade9、出るぞ!」
『無茶すんなよ!』
静司がその身を外に投げ出す。重力に従って落下していきながらも慌てることなく目的地を見据え、小さく呟く。
「そうだ、大丈夫の筈だ」
荒れ狂う風の中、小さな光が静司を包み込む。光は徐々に大きく広がっていき、やがては大きな翼を形成した。同じように手に、足に、体に、頭に光が広がりそれぞれの形を作っていく。やがて光が消えるとそこには漆黒の装甲に時節赤いラインが走る鋼鉄の機体の姿があった。
「いくぞ、黒翼」
スラスターに火がともる。巨大な翼をはためかせる。地面まで数メートルの地点の空中で一瞬停止。そしてすぐさま前傾姿勢になると、黒翼はそのスラスターを全開に吹かし敵へと一直線に向かって行った。
凍える夜空に赤い線が走る。その赤は破壊の弾丸。地上から放たれたそれは空を自由に飛び回る敵――無人機を撃ち落とさんと幾度も連射されている。しかし空を舞う無人機はそれを容易く躱し、お返しとばかりにそれ以上の破壊をばら撒く。地上の抵抗者達は為す術も無くその破壊に蹂躙され散っていった。
その破壊を終えた無人機は次のターゲットを求めその顔を巡らせる。だが不意に警告が入った。
――敵接近。
敵、それは破壊するもの。そう判断した無人機は迫りくる新たな敵に銃口を向けようとする。しかしそれよりも早く、抗い様の無い衝撃がその身に走り、その動きを停止する。
――重――損傷の――エラー――最優線――発見――
システムが異常を知らせる。ダメージレベルは戦闘続行不可能な値。それも当然だ。何故ならその機体の腹に鋭く、凶悪な鋼鉄の鉤爪が突き刺さっていたのだから。
「消えろ」
その鉤爪の主が小さく呟く。同時にその鉤爪が引き抜かれ空中に放り出された所で、襲撃者の翼が光そこから放たれた光が突き刺さり、その無人機は爆炎に包まれた。
そしてその爆炎の中から漆黒のISがゆっくりと姿を現す。この場に置ける破壊の具現者としてお前達を全て破壊してやると、明確な殺気を放ちながら。
無人機達が施設への破壊行動を止め一斉に最優先目標を変えた。応じる様に漆黒のIS――黒翼も構える。
極寒の地の炎に照らされる夜空で、戦いが始まる。
そしてその戦いを遠くから眺めている少女が1人。
「始まったか」
少女は口元を吊り上げ、どこか期待した眼でそれを眺める。
「さあ見せてみろ。お前はどこまで進んでいる?
その声には愉悦と凶気が含まれ、組んだ腕の指はとん、とん、と何かを待ちわびる子供の様でもあった。
「舞台は用意した。ここには
にやり、と笑みを深くし少女――エムは笑う。
「なあ、きょうだい?」
オリ回です。あまり長引かせず書きたいことを書いていきたい。
最近またAC4faで疑似黒翼を作って遊んでます。
クェィク・アンカーの代わりにとっつきを。右腕はガトリング。両肩はもちろんノブレスのアレ。
機体は見た目重視。制波性能? なにそれ美味しいの? という事でtuneは出力系に全振り。余った分も機動性やらなんやらにすることでシールドなしの黒翼と思い込んでます。
まあネクストはおろかマザーウィルに消し炭にされるんですけどね