IS~codename blade nine~   作:きりみや

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56.who are you? ②

「はあ」

 

 IS学園生徒会室。その主たる更識楯無が漏らしたため息に虚はキーボードを叩く手を止め顔を上げた。

 

「仕方のない事……なのかしらね」

「例の件ですか?」

「ええ。跳ねのけるだけの言い分がこちらにはもう無いわ」

 

 虚の問いに楯無はうんざりした様子で頷いた。そして書類を摘まみひらひらと振る。

 

「IS学園と生徒の安全の為に部隊を派遣する、ってね。聞こえはいいけど本当の狙いはそこじゃないでしょうに」

「無人機及び川村君達に対する監視……並びに捕獲が狙いでしょうか」

「でしょうね。両方とも各国の注目の的だもの。それにここには最新鋭のISを持つ箒ちゃんや一夏君も居る。その辺りもあるのでしょうね」

 

 元々は全てを日本に丸投げしていたくせに、と楯無は忌々しげに呟く。最新鋭のIS。学園を襲撃する謎の機体。そしてそれと戦う謎のIS。それらの存在は各国の興味を引くのには十分だった様だ。そして学園祭の事件で侵入を防げなかった学園と更識家には、それに反抗する手段が無かった。

 

「建前はIS委員会の招集ですけど、実際は違うのでしょうね」

「まあね。委員会だって一枚岩じゃないし、各々の国の思惑があるんでしょ。ま、うちはうちのやり方でやらしてもらうけど」

 

 暗に、おかしなことをしたら容赦はしないとという主の言葉に虚は静かに頷く。主がそう言うのなら自分はそれをサポートするだけだ。

 ふと妹に眼を向ける。妹の本音にはデータの打ちこみを任せていたのだがその手があまり動いていない。

 

「本音、手が止まってるわよ」

「あ、おねーちゃんごめん~」

 

 叱られた本音が打ちこみを始めたがやはりいつもより手際が悪く、どこか上の空だ。それを指摘しようかと思ったが辞めた。

 

(川村君の事ね)

 

 現在静司は学園には居ない。護衛としてそれはどうなのかという気もしたが、逆に言うならそれほど緊急を要する件だったのだろう。もしくはどうしても静司でなければいけなかったか。表向きにはK・アドヴァンス社での雑事と言う事にはなっているが実際は違う。正確な情報は聞かされていないがおそらく荒事だろうと、と予想していた。何故そう思うかと言うと、数日学園を空けると連絡してきた時、彼はどこかピリピリと張りつめた雰囲気をしていたからだ。そして自分にさえ分かった事を、彼の近くに居る本音が分から無い筈が無い。だから心配なのだろう。

 

「…………そういえば新しいクレープ屋が出来たそうです」

 

 だから思わず口に出したのは妹を叱る言葉では無く、全く関係の無い事。

 

「あら、それは気になるわね」

「ええ。クラスの方々から聞いたのですが中々に評判の様ですよ」

「それはますます期待が膨らむわ……」

 

 楯無は話に乗り興味気に眼を光らせる。本音はと言えば姉が振るには珍しい話題にきょとん、としていた。

 

(いつもならあなたが真っ先に反応するでしょうに)

 

 そんな事を考えつつ提案する。

 

「ではこれが終わったら行くとしましょう。本音、今日は私が奢ってあげます」

「え! おねーちゃんいいの?」

「ええ、最近頑張ってくれているからね。だから早く終わらせましょう」

「うん!」

「あ、私も!」

「では会長も早く仕事を終わらせてくださいね」

 

 お菓子で吊る、と言ったら人聞きが悪いが少しは効果あっただろうか? まあそれも見た目以上に聡い妹の事だ。こちらの思惑も薄々感づいている事だろう。だがそれでも少しでも元気になってくれるのなら構わない。大切な妹が暗い顔をしている所は見たく無い。

 

(全く、これで泣かせましたら怒りますよ……)

 

 ここに居ない少年へ文句を言いつつ、虚も自分の仕事を再開するのだった。

 

 

 

 夜空を数条の光が奔る。その光たちは場所や角度を変え何度も奔り、時たま何かにぶつかり紅蓮の爆発を引き起こす。その爆発の後にはスクラップと化したISが地面に落ちていき、落下の衝撃で完全に機体をバラバラに砕けさせていた。

 

「これで、二機!」

 

 その光の主は静司の黒翼が放つR/Lブラスト。両翼から放たれる三対六本の光線は敵の無人機を狙う。対してその無人機達も両腕の砲口からビームを放ち黒翼を撃ち落とさんと迫っていた。

 現在極寒の大地の上空に飛ぶ影は8つ。1つが黒翼で残りは全て無人機だ。そしてその無人機達は全機それぞれ形がバラバラだった。片腕が異様に巨大な機体。両肩にガトリングガンらしきものを乗せた機体。逆に一見何も装備が無いように見せて、その両手両足を鞭の様にしならせ襲い掛かってくる機体。他の機体もそれぞれ形が異なっており随分と統一性が無い。

 

「それがどうした」

 

 務めて冷静に。自分自身に言い聞かせつつ、接近戦を仕掛けてきた片腕が巨大な無人機の一撃を右腕で受け止める。一瞬停止したその隙を狙い更に背後に一機。鞭の様にしなる両腕を持つ機体はがこちらの翼を狙っていた。

 

――《アサルトテイル》機動。

 

 命令と同時に黒翼の尾が展開。その鋭い切っ先が背後の無人機目掛けて突き放たれた。同時に目の前の無人機には左腕のガトリングガンの砲口を向ける。

 

「くたばれっ!」

 

 超至近距離からの射撃。それをまともに受けた無人機はその胴体をズタズタに引き裂かれ、火を噴き地上へと落ちていく。同時に背後の無人機には《アサルトテイル》が突き刺さり、その身を串刺しにする。そして静司はそれを串刺しにしたまま瞬時加速を発動。両腕の砲口でこちらを狙っていた無人機に接近すると、黒翼を回転させ慣性を乗せた《アサルトテイル》での一撃を叩きこむ。串刺しにされた無人機と、砲撃を加えようとした無人機同士がぶつかり合い、金属が潰れる鈍い音が夜空に響いた。そして衝撃によろめく無人機と、衝撃により串刺し状態から逃れた無人機それぞれに向け、両翼のR/Lブラストを発射。その機体を貫き行動停止に追い込んだ。これで残り5機。

 ちらり、と下の様子を確認する。無人機襲撃の際に発生した施設の火災とその噴煙で視界は悪いが、あそこでは今C12達が仲間の捜索、及び救出を行っている筈だ。周囲一帯の通信妨害のせいで距離が離れると連絡をとりづらいが全く出来ない訳でも無い。救出が終わり次第連絡が入る筈だ。

 状況を把握し、再び無人機達に向かおうとした時だった。地上に向けていた静司の目に異様な物が写る。

 それは既に沈黙した対空砲だった。恐らく射手は逃げたのだろう。そしてその対空砲の周りに何かが蠢いているのだ。

 

「あれは……?」

 

 無人機達を警戒しつつ視界をズームし、それを確認する。数秒睨み、そして静司の顔が強張った。

 それは機械の仕掛けの小動物。恐らくリスを模したであろうそれが、対空砲を喰っていた(・・・・・・・・・)

 

「何を……」

 

 しているんだ、という言葉は口には出さなかった。何故ならその理由は直ぐにわかったから。

 対空砲を喰べたリスたちは次にお互いの体を貪り合う。いや、違う。あれは合体しているのだ。対空砲と機械仕掛けのリス。それらは一つの集合体となっていき、ありえない速度でその形を整えていく。そして出来上がったのは、左腕に対空砲を身に付けた無人機の姿。そしてその無人機の対空砲が持ち上がり、静司を狙う。

 

「くそっ!?」

 

 地上から放たれる銃撃を身を翻して回避する。その隙に接近してきた別の機体をガトリングガンで牽制し距離を取っていく。そしてそれを囲む様に展開する8機の無人機。そう8機だ。倒した筈の機体が復活している。

 

「馬鹿な――」

 

 驚く間にも無人機達は一斉に襲い掛かってくる。ブレードによる攻撃を受け止め、蹴り飛ばす。上下左右から斬りかかってくる無人機達に対し、両腕と両足。そして尾である《アサルトテイル》を用いてそれを受け止める。だがその隙に残りの無人機達が一斉に黒翼に銃撃を叩きこんだ。爆発と衝撃。そして熱さと痛みに歯を食いしばりつつ、静司は両翼を左右に展開。R//Lブラストを左右の無人機にお返しとばかりに叩きこんだ。直撃を受けた2機はその機体から炎を上げつつ落下していく。

 だが、その途中でその機体が不自然に爆ぜた。バラバラになった機体の破片たちは地上へ散らばり、そして自らの意思で動き始める。周囲の兵器、建造物、機械。様々な物をその身に取り込み、そしてお互いに取り込み合う。足りない部分は造り出し、元々施設にあった武器を己が武器へと取り込み、そして再び歪な形の機体へとその身を造り変える。

 吸収と合体。それぞれ形が歪なのも、統一性が無いのも。地上で見た光景の様にまわりの物を取り込んでいるからか。そんな機能を持つ機械など聞いたことが無い。だがそれを成してしまうのが篠ノ之束だと。静司は嫌でも理解させられた。

 だがいくら復活できると言っても、完全に消し炭にしてしまえ別の筈だ。もしくはそれすら出来ない程に砕いてしまうか。選択肢は二つ。だがそれをする為には一機一機念入りに破壊しなければならない。だがこの時間稼ぎの間、それほどのエネルギーが持つか?

 

(不可能だ)

 

 今回は予備動力は持ってきていない。臨海学校の戦いで使い、そして廃棄した物も多いため未だ余裕が無いのだ。そもそもそう簡単に用意出来る物でも無い。

 ならば仲間の救出が終わり次第逃げるか? だがそれも難しい。無人機達は明らかにこちらに標的を絞っている。もはや倒さない限りどこまでも追ってくるだろう。

 

(使うか?)

 

 ちらり、と左腕を見る。その腕使えるあの武器なら敵を再生不可能なレベルまで破壊できるだろう。だがその為には仲間が安全圏に脱出し、尚且一瞬の隙を狙わなければならない。

 

『聞こえ――っすか。B9――』

 

 丁度その時、C12からノイズ交じりの通信が届いた。

 

「聞こえる。そちらの状況は?」

『先行――は回収したっすよ。後は、撤退をする――っす』

 

 その報告に安堵する。細かい所は聞こえなかったが、どうやら救出は終わり撤退を開始した様だ。ならば自分もアレが使える。

 

「C12。可能な限り早くこの場から離れてくれ」

『そちらはどうす―――気っすか?』

「こいつらを片付けないとどこまでも追ってくる。一気に片付けるが巻き添えにする可能性がある」

『―――了解っす。そちら――無理は――っすよ』

「了解」

 

 おそらく地上からこちらの戦闘の様子を見ていたのだろう。意図を察したC12からは直ぐに返事が返ってきた。ならば後はC12達の撤退が済むまでこの無人機達を足止めするのみ。簡単ではないが時間稼ぎなら不可能では無い。戦っていて気づいたがこの無人機達の特性は厄介だが、その分攻撃や防御面が若干疎かだ。それに機動力もそれほど高くない。ならばその隙を突いて戦うのみ。

 覚悟を決めると黒翼のスラスターを一気に全開で吹かす。急激なGをPICでコントロールし抑え、こちらを伺っていた無人機の胸部を鋭利な鉤爪で切り裂く。その結果を確認せずまま、その無人機を足場にする様に蹴り方向転換。別の無人機に向け《アサルトテイル》を振り抜いた。同時に黒翼を半回転。残りの無人機目掛け、両腕の火器を一斉に発射し牽制する。そして直ぐにその場から離脱。再び無人機達から距離を取る。

 一撃離脱。それが今の静司の戦法だ。時間を稼ぐとは言え。多勢に無勢では逆に追い込まれる可能性もある。ならばこちらから敵をかき乱すしかない。

 一際大きい射撃音が響く。対空砲を装備した無人機だ。直前に気づき静司は再び回避行動を取る。だがその先には巨大な両腕をしならせる無人機の姿。

 

「ちぃっ!」

 

 咄嗟に両腕をクロスし防御態勢を取った。一瞬遅れて無人機の重い一撃が当たり、黒翼ごと背後に飛ばされた。そしてそこにも待ち構える様な無人機の姿。

 回避不能。静司はそのまま無人機の下へと突っ込んだ。だがおかしなことにその無人機は攻撃をしてこない。奇妙に思いつつ態勢を立て直そうとして振り返りそして目にした光景に静司の肌に鳥肌が立った。

 

『……』

 

 無言の無人機。その両腕が分裂し、機械仕掛けのリスが幾重にも生まれる。そしてそのリスたちが黒翼の機体表面に群がっていた。そしてその無機質な牙が機体の装甲に突き立てられる。

 喰おうとしている。その事実におぞましさを感じ静司は慌ててその身を振った。

 

「離せ!」

 

 こちらを離さんと抱き着く様に組み付いてくる無人機を強引に蹴り飛ばす。しかし機体表面にはまだリスがおり、黒翼を取り込もうと牙を突き立てている。ガリガリガリ、と直ぐ傍から聞こえる音に静司は恐怖を感じた。このリスたちがもし装甲を突き破ったら、今度は生身の体に群がり食べるのではないか、と。

 

「俺から――離れろっ!」

 

 スラスター全開。機体を独楽の様に回転させそのリスたちを振り払う。だがそれでもリスたちは離れず、絶えず黒翼の装甲に牙を突き立てていた。

 

――右腕ライフル破損。機動不可

 

 機体が警告を鳴らす。その右腕の内臓ライフルはリスに喰われ、そして既に取り込まれていた。そしてそのライフルを起点にリスたちは黒翼の右腕そのものと合体しようとしている。

 

「っ、解除(パージ)!」

 

 このままでは不味い。静司は黒翼の右腕の装甲の大部分を躊躇うことなく切り離した。がくんっ、という反動と共に巨大な鉤爪とそこに内蔵されたライフルが落ちていく。それに向け左腕ガトリングガンを撃ちこみリスごと破壊した。後に残った右腕は既に武装は無く、表面を装甲が覆っているだけの状態だ。今度ここにリスが牙を立てれば直ぐに生身にたどり着くだろう。そしてリスはまだ取りついている。

 

「いい加減、しつこい!」

 

 苛立ちながら身を振る静司。だが無人機はそんな静司にお構いなしに襲い掛かる。遠距離からの射撃を放ちつつ接近戦を仕掛けてきた。あれに当たればリスは剥せるだろうが結局ダメージを喰らってしまう。だがリスに喰い殺されるよりはマシだ。

 静司は合えてその銃撃の中に飛び込んだ。途端に全身に衝撃と痛みが走る。装甲を貫いたビームが肌を焼き、銃弾の衝撃が肺を詰まらせる。油断すれば気を失いかねない痛みと衝撃の中で、リスたちが同じように破壊されていくのを確認するが否や、即座に真下へ飛び、攻撃の嵐から抜け出した。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ」

 

 無人機達から距離を取った静司は肩で息をしつつ機体の状況を確認する。リスたちに喰われ、銃撃を受けた機体は各所が火を上げ不調を訴えている。だがまだ動けなくなったわけでは無い。それに肝心の切り札は最優先で守ってきたために無事だ。だがこれ以上は長く持たない。完全に敵の力を見誤っていた。時間稼ぎなら何とかなる? 馬鹿が俺は。性格どうであれ、篠ノ之束が天才である事は間違いなく、それの生み出す物は常に他社の想像を超えている。そんな事も忘れていたのかと。

 不意に遠くの空が輝いた。視線を向ければ打ち上げられた閃光弾が光を撒き散らしながらゆっくりと落ちてきている所だった。あれはC12の合図。撤退が完了したのだろう。

 

「やっとか……!」

 

 ふら付く体に鞭を打ち身構える。これで準備は整った。後は実行するのみ。その為に途中から瞬時加速も使わず、R/Lブラストもセーブしていたのだ。生半可な攻撃では復活するであろう無人機達を一気に葬る為のエネルギーを残す為に。

 残る勝利条件は二つ。可能な限り敵を一か所に集め、そして一瞬でも隙を作る事。

 再度上空の無人機達が迫ってくる。それに対し静司も真正面から突っ込んだ。但し今回は敵の攻撃に当たる為では無い。両膝のワイヤーブレードを射出。動きの鈍い無人機を狙う。ブレードは幸い二本とも突き刺さり無人機が身じろぎした。それに構わず今度はそのワイヤーブレードを巻き取っていく。必然的に無人機達に突っ込む黒翼と巻き取られて黒翼に近づく無人機達は正面からぶつかった。

 

「捕まえたっ!」

 

 既に黒翼の右腕には武装は無い。故に《アサルトテイル》と左腕で巻き取った無人機を掴み上げると一気に出力を上げた。左腕の武装《プラズマクロー》が起動し、超高熱のプラズマが掴み上げた無人機を焼く。同時に《アサルトテイル》にも出力を回し同じように焼く。そして動きが鈍くなった二機を地上へと叩き落した。

 その隙に迫ってきた別の無人機のブレードでの一撃を左腕で受け、そして受け流す。バランスを崩したその無人機に巨大な足の踵落しを見舞い、同じく地上に叩き落した。

 静司の突撃はまだ終わらない。左腕ガトリングガンを残弾を気にせず一気に全弾発射。狙ったのは取り込んだ対空砲を装備した無人機だ。その無人機の撃った砲撃とガトリングガンの銃撃が交差する。静司は機体を捻る様に紙一重で回避したが、無人機は直に静司の銃撃を浴びた。機体各所に穴を開けボロ雑巾のようになった無人機が落下していく。

 残り4機。

 再びワイヤーブレードを射出する。但し今回は突き刺すのではなく、鞭の様にしならせて相手を打ち払うのが目的だ。黒翼の機体をしなる様に捻らせ、勢いを乗せたその鞭が無人機を打つ。態勢を崩したその無人機に追い打ちとばかりにもう一撃叩きこみ、地上へ落とす。同時に静司は残りの無人機達とすれ違い、上を取った。そして無人機達が反応するより先にR/Lブラストを叩きこむ。威力は無いが、相手を怯ませる事には成功し、無人機達はふらふらと若干の後退をした。

 

「《プラズマブラスト》set」

 

左腕を構え、命令を送る。命令を受諾した黒翼がその両翼を切り離した。そして切り離され両翼が合体し、鋼鉄の翼が形を変える。羽を折り畳むように変形していき、やがては長身の砲台と変わる。そこから5本の羽が飛び出し黒翼の前に展開。互いを光で繋ぎ光のリングとなった。

 

――砲身形成完了。収束機展開完了。チャージ開始。

 

「収束中止。広域射撃」

 

――広域射撃へ移行。収束機カット。チャージ率32%

 

 リングを形成していた5本の羽が飛び散り、改めて収納される。黒翼の残る全エネルギーが左腕に集まっていき、重く唸り声のような音が響く。抑えきれないエネルギーが形成された砲台の周囲から漏れ、淡く光っていく。

 こちらが何かよからぬことをしようとしていると気づいたのだろう。無人機達が一斉にその砲口を向け射撃を始めた。だが静司はそれに構わずチャージの完了を待つ。最低限の回避しかしない為、機体の各所に攻撃が当たり、痛みと衝撃で気を失いそうになりつつもその砲台だけは最優先で守り続ける。

 

――チャージ率84% これ以上は戦闘行動に支障が出ます。

 

「構う、ものかっ!」

 

 どの道これでやれなければ終わりだ。警告を無視してチャージを続ける。そして、

 

――チャージ完了。

 

 遂にそれが完了した。きっ、と眼下、未だ空中に居る無人機と地上へ落とした無人機達に眼を向ける。

 

「プラズマ……ブラスト……っ!」

 

 発射(ファイア)

 

 かつて学園の地下で脱出路を造る為に使用した黒翼の切り札。超高出力の砲撃が極寒の夜空から、大地を包み込むように放たれた。

 上空で放たれたその砲撃は地上へ向かうにつれ広がっていき、空中に居た無人機を、地上へ落下し再生を始めていた無人機を、そしてその部品とされつつあった施設を。全て纏めて巻き込み焼き尽くしていく。

 

「ぐっぅううぁぁぁぁっ!」

 

 あまりにもの威力による反動で黒翼の機体が軋む。その軋みはボロボロの静司の体にダイレクトに響き傷を抉っていく。しかし止める事はなく静司はその砲撃を続けた。

 どれくらい続いただろうか。次第にその砲撃は細くなっていき、そして消えていく。

 

――フェイズ終了。冷却開始。

 

 ブシュッ、と砲台が排気を始めた。それを横目に見つつ静司は今しがた自分が行った攻撃の成果を確認する。

 眼下の施設はもはや完全に廃墟と化していた。崩れ去った瓦礫の山のあちらこちらで炎が上がっており、他に動く物は無い。それは無人機も同じで、もはや影も形も無い。完全に焼き尽くしたのだろう。

 

「かはっ」

 

 乾いた咳を漏らす。黒翼最大の威力を誇る武装《プラズマブラスト》だがこれは使用するエネルギーも尋常でなければ反動もそれだ。静司は痛む体を押さえながらゆっくりと地上へと降りていった。

 

 

 

 

 地上は空から見た以上に酷い状況だった。燃える炎。砕けた建造物。生きている者など誰も居ないであろう、その光景。無論静司とて理解してる。もしかしたあの施設にはまだ誰かが居たのかもしれない事は。だがそれを確認せず静司は焼き尽くした。その事に対して特別思う事は無い。今までもやって来たこともある事だ。

 

「……」

 

 炎の熱風と、土地故の冷たい風。それが入り乱れ奇妙な感覚に襲われる。燃える炎。崩れた建造物。そして――倒れる5人の躯(ねえさんたち)

 

「っ、違う!」

 

 頭を振る。ここにそんな躯は無い。今自分が考えたのは別の物だ。だが何故だ? 何故そんな事を考えてしまったのか? 自分自身が分からない。

 頭痛を覚え頭を押さえる。そんな時、背後でがたり、と音が聞こえた。

 

「誰だ!?」

 

 頭痛を無視し振り返る。するとそこには少女が1人立っていた。その少女は濃い蒼色のISを身に纏い、その顔はバイザーで隠され見えない。だがこの姿には覚えがある。

 

「サイレント・ゼフィルス……!」

「……」

 

 少女は何も言わず立っているのみ。しかし静司には訊きたいことが山ほどある。

 

「俺を呼んだのはお前か。一体何を考えている」

「……」

「答えろ!」

 

 黒翼の左腕、未だに砲台を形成しているそれを向ける。

 

「お前は一体何者だ!?」

「……エム」

 

 少女がゆっくりとした口調で答える。同時にISを解除した。

 

「何……?」

「私の名だろう? エムだと言った。もっとも本名では無いがな」

 

 ISを解除した少女だが、顔のバイザーだけはそのままで口より上は見えない。しかしその唯一見える口元が吊り上った。

 

「知りたいのだろう? ならばこれで聞いてみろ」

 

 そういい少女が何かを放る。からん、と音を立て静司の前に放られたのは一振りの刀だった。そして少女も別の刀を持ちゆっくりとその刀身を露わにする。

 

「何を――」

「行くぞ」

 

 こちらにお構いなしに少女――エムは斬りかかってきた。そしてその刃で黒翼を切り飛ばす。

 

「なっ!?」

 

 本来、生身の刀などISの敵では無い。しかし今の黒翼はエネルギーはほぼ無いに等しい。だがそれでも生身でISを切り飛ばすなど通常ではありえなかった。

 

「どうした。何も知らずに死ぬか?」

「くっ!」

 

 それが挑発だと分かっていながらも静司は合えてそれに乗った。このまま質問をしても相手は答える気が無いのは明白。ならば力づくで聞き出すしかない。

 再び斬りかかってきたエムを身を転がらせるようにして躱し、地面に放られていた刀を掴む。同時にこちらもISを解除した。既にエネルギーが殆ど無い状態では重荷にしかならないからだ。それに『川村静司の携帯』にメールを送ってきたことからも、相手にはこちらの素性はばれている。ならば隠す必要は無い。

 

「そうだ、それでいい」

「っ!」

 

 エムが振り下ろした刃を受ける。見た目とは裏腹に重い一撃に、体の傷が響き苦悶の表情を浮かべる静司を見てエムは笑った。

 

「どうした? これで終わりか?」

「なめ、るな……!」

 

 痛む体に鞭を打ち、刃を押し込む。体格差や怪我があるとはいえ、パワーそのものは静司の方が上だ。抑えきれないと判断したのかエムは直ぐに背後に引いた。

 

「……」

「……」

 

 一瞬の静寂。そして、お互い一気に踏み込んだ。エムが繰り出すのは上段からの袈裟切り。対し静司は下からの逆袈裟。お互いの刃がぶつかり合い、甲高い音が響く。

 

(……?)

 

 感じたのは奇妙な違和感。眉を潜める静司に対しエムは再度刃を振るい、静司もそれを受け止めていく。二合、三合と刀を打ちあうにつれ、その違和感は徐々に大きくなっていく。そしてその違和感に静司は気づいた。

 

「まさか……」

「ほう、気づいたか」

 

 静司の呻きにエムは面白そうに笑う。対し静司は刀の切っ先を震えさせ、信じられ無い物を見る様にエムを見やる。

 

「お前の剣技は……」

「ふん」

 

 震える静司に対し、エムは一気に距離を詰める。静司も慌ててそれを受けるが、その動きはぎこちない。

 

「なんで……お前がっ!」

「言っただろう。知りたければこれで聞けと」

 

 防戦一方の静司に対しエムは息をつく間もなく連撃を浴びせる。それは刀だけにあらず、両手両足をも用いた猛攻。刃を受け止めたと思えば、鋭い蹴りが放たれ静司の傷を抉る。怯んだ隙にその身を回転させ回し蹴りを放つ。静司はそれを鞘で受け止め、自らも刃を振るうがその太刀筋は揺れておりエムには届かない。簡単に見切られてしまい躱され、逆に隙を作ってしまいエムの振るう刃が静司の体に傷をつけていく。

 切り裂かれ血が溢れる傷を押さえながら静司は背後へ飛んだ。しかしこれまでの戦いの痛みと失血により足元がふらつき膝をついてしまう。そしてそんな静司を見下ろす様にエムがゆっくりと近づいてくる。早く立ち上がらなければまた斬られてしまう。だが静司の頭の中は混乱の極みにあり、体がまともに動かなかった。

 何故目の間のエムは自分の知る太刀筋――それも自分と同じ物を使うのか。何故エムを見る度に奇妙な気分になるのか。彼女は一体何なのか。ぐるぐると頭の中が疑問で埋め尽くされる。だが答えを知るエムは何も答えず刃を振るうのみ。

 間近までやって来たエムが振り下ろした刃を身を転がす様にして躱し、その勢いで無理やり体を立たせる。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ」

 

 エムは言った。知りたければこの手の刃で知れと。ならばお望み通り力づくで聞き出す。その為にはここで倒れる訳には行かないのだ。だから今だけは目の前の敵に集中しなければならない。

 

「ふん、やっとその気になったか」

 

 ふん、と鼻を鳴らしエムも構える。その構えもやはり静司の知る物。静司と同じであり、そしてブリュンヒルデ――織斑千冬と同じ構え。

 

「……」

「……」

 

 お互い無言で睨み合う。施設破壊による噴煙と炎の生み出す煙。雪が蒸発する水蒸気が相まって視界の悪い中、そのまま数秒の時が流れる。だが不意に、直ぐ近くの瓦礫が崩れ落ち、音を立て砕け散った。それが合図。

 

「っ!」

「らぁっ!」

 

 お互いに一気に踏み込み、そして刃を振り抜いた。

 ギィッン、と金属がぶつかり合う音が響く。静司とエムはお互いに振り抜いた刀をぶつけ合い、至近距離で睨み合う。だがそれも一瞬の事だった。音は直ぐにばきり、と別の音へと変わり、そして宙に刀身が飛んだ。

 

「この程度か」

「……っ!?」

 

 飛んだのは静司の刀。半ばから砕け、刀身を失った刀とその刀越しに失望したかのように呟くエムの姿が静司の目に写る。

 

「お前は私より、弱い」

 

 その言葉を最後にエムは振り抜いた刀を翻し、静司を斬り伏せた。血が飛び散り、その返り血でエムのバイザーが赤く染まる。血と共に力も流れ出た静司が倒れていく。そして止めとばかりにエムが切っ先を静司の頭部に向け突き出した。

 

(死―――)

 

 霞む視界の中、刃が迫ってくる光景を見つめながら明確に死を意識した。肉体は動かず、精神は不安定。そんな今の静司にそれを避ける術は無い。だた絶望してその刃が自分を貫くのを見つめて――

 

――おかえりなさい、せーじ

 

「っ!」

 

 不意に脳裏に過ったのはここには居ない少女の姿。死を意識した時思い浮かべたのは、自分の帰りを待っていると、こんな自分の傍に居たいと言ってくれた少女の姿。もしここで自分が貫かれれば、それは叶わずきっと彼女は泣くだろう。以前の自分ならいざ知らず、今の自分にもそれぐらいはわかる。そしてそれは―――嫌だ。

 かっ、と目を見開き迫る刃を睨む。肉体は動かなくとも、まだ残り少ないわずかなエネルギーで動く左腕を強引に振り上げ、その刃を掴んだ。

 

「何……っ」

 

 突然の行動にエムが身じろぎした。だが静司はお構いなしに刃を握りしめる左腕の力を全開まで上げる。果たして、刀は強力な握力によって砕け散った。

 

「っらああああああああ!」

 

 最後の力を振り絞りエムに殴り掛かる。狙うはエムの顔面。顔を隠すバイザーを狙う。

 だが、届かない。

 エムは咄嗟に砕けた刀の残る刀身で静司の左腕を串刺し、そしてそのまま地面に叩き付ける様にして縫い付けた。一瞬の早業に静司は為す術も無く膝を折る。

 

「ぐ……かっ……」

「その腕、まさかISだったとはな」

 

 串刺しにされた事での直接的な痛みは無い。しかし縫い付けられた時の衝撃と、これまでの戦いの傷の痛みにうめき声をあげてしまう。そんな静司をエムは面白そうに口を歪めて見下ろす。勝者と敗者。それが決定的となる。

 

「お前は……お前は誰なんだ……っ!」

 

 もはや為す術は無い。だがそれでも聞かなければならない。自分と同じ――織斑千冬と同じ太刀筋を持つこの少女の正体を。

 こちらの問いに対してエムの答えは砕けた刀を突きつけることだった。

 

「刀で聞けと言った。だが貴様の刀はそれを知る前に砕けた。ならば何も言う事もあるまい」

 

 パチパチと炎が瓦礫を焦がすし、雪も降り始めた夜空の下。見下ろすものと、見上げる物の視線が交差する。

 

「だが楽しませてくれた礼だ。この場では殺さん。精々あの女(天災)の眼から逃れる事だな」

 

 それだけを告げるとエムは刀を捨てISを展開した。深い蒼色の機体が現れエムの身を包んでいく。

 

「待て……!」

「次は遊びで無くこれで(IS)聞いてみろ」

 

 呼び止める静司の声も空しく、エムは夜空へと消えていった。

 後に残された静司は虚ろな瞳で己の左腕とそこに突き刺さった刀を見つめる。

 エムは何も教えないと言った。だが刀で打ち合ったその事事態が、1つの答えを示している。それはラウラのVTシステム暴走事件の時と同じでありつつ、尚且つそれ以上に洗練された力。そしてその力の正体。Valkyrie projectと呼ばれる禁忌の実験による産物。つまりエムは――

 

「……俺はどうすればいい……姉さん」

 

 誰も居ないその空間で漏らした言葉は縋る様な響きを持っていた。

 

 

 

 

『どうだった彼は?』

 

 夜空を飛翔するエムは通信を繋いでいた。相手はカテーナであり、彼女の声には抑えきれには好奇心が含まれている。

 

「思っていたよりかは楽しめた。それにやはりあいつはV計画の被検体で間違いない」

『あらあらそうそう。なら手に入れた情報はやはり正確だったのねえ。それで貴方はどうしたの?』

「……殺してはいない。それにまだジャミングも効いているからあの女にばれる事もないだろう」

『あら、心配なの?』

「黙れ。あまりふざけた事を言うと殺すぞ」

『うふふ。ごめんなさいねえ』

 

 食えない女だ。絶妙な距離感で自分と会話するこの女に対して、エムは同じ組織にいる人物、という以上の感情は持っていない。

 

『けど貴方の方が強かったという理由は何かしらねえ。それこそハード面かソフト面か。気になるわぁ』

「ふん、私の方が強かった。ただそれだけだ」

『これは手厳しいわねえ』

「……これ以上無駄口を叩くつもりは無い」

 

 そう言い捨てて通信を切った。そして夜空を駆けながら先ほど戦った男の事を思う。

 

「お前は誰だ、か……」

 

 それはあの男が発した問い。それに対する答えは簡単だった。

 一度は詰まらないと思った。『きょうだい』であるのにもかかわらず、動揺するばかりでこちらが一方的に痛めつけるのみ。最後には失望してそのまま殺そうかとも考えた。

 だがその最後の最後で見せたあの気迫。こちらには届かなかったが死にもの狂いで抵抗したあの瞬間は心が躍った。ああ、やはりこいつは私と同じ存在だと。だから生かした。次にもっと楽しむ為に。もっと知るために。

 

「私はお前だ、川村静司」

 

 口元が歪む。心が躍る。姉さん以外にももう一人、自分のきょうだいと呼べる者が居る事に歓喜した。

 

「だが私にも、そしてあの人にも届かない」

 

 そうだ、足りない。川村静司は完全にはあの力を受け継いでは居ない。だがそれではつまらない。それではここには届かない。

 そこでふと、ある物を思いつく。直ぐに先ほどまで通信をしていた相手であるカテーナに繋ぐ。

 

『あらエム? つけたり消したりは感心しないわよ?』

「知った事か。それより今から言う物を準備しろ」

『いきなりねえ。まあ、他でも無い貴方のお願いだもの。構わないわよ。それでなにかしらねえ?』

 

 カテーナの問いにエムは笑みを深くして答えた。

 

「VTシステム―――」

 

 

 

 

 

 結局、学園に戻ったのは戦闘から三日たった後だった。怪我の治療と黒翼の修復の為に当初の予定を大幅にオーバーしてしまい、その分課長や由香里にも厳しい言葉を貰った。これは当然だ。元々は自分が志願したのだから。勿論二人も一方的に静司を責めたてる様な事はしていない。むしろ、エムと出会い不安定なこちらの心を繋ぎとめる為とも思えた。そんな二人に心配させた事を後ろめたく思いつつも、やはり静司の顔は晴れない。

 時刻は夜の9時を過ぎている。正門の横にある守衛の詰所に寄り、入園許可を貰った静司は静かな学園を歩いていた。治療したと言ってもあれ程の傷が三日で直る訳も無く今は人工皮膚で隠している下では傷が痛む。その為にゆっくり重い足取りで歩く静司だが、ふと、寮に向かう道の街灯の下に誰かが立っているのが見えた。暗がりでよく見えないが、そのシルエットから見知った少女だと気づく。

 

「本音……?」

 

 

 

 

 数日ぶりに見た彼の顔は酷かった。

 

「本音……?」

 

 こちらを見つけるなり無理やり取り繕うとしていたが無駄だ。既に自分は見てしまったし、隠そうとしていても分かってしまう。それだけ彼を見ていたのだから。

 

「待っててくれたのか?」

「うん。かちょーさんが、今日帰ってくるって言ってたから~」

「そうか、ありがとう。それと待たせてしまったみたいで悪いな」

 

 そうしてバツの悪そうな顔をする。違う、そんな顔を見たくて待っていた訳では無い。

 

「大丈夫だよ~。それよりかわ……せーじも大丈夫? また怪我してるね?」

「……バレたか」

 

 静司が苦笑する。その笑みもどこか儚く見えて、胸が苦しくなる。だが今すぐには理由は聞かない。今のこんな状態の彼から聞くのは余りにも酷に思えたから。だから自分は出来るだけ笑顔で、だけど少し怒りつつ注意する。

 

「また無茶したんだね~。体は大事にしなきゃ駄目だよ~」

「面目ない」

 

 身長はこちらが下なので少し見上げる形で叱る自分と、粛々と頭を下げる静司。何とも奇妙な光景なんだろうな、と少し笑いそうになってしまう。

 だがそれも見上げる形で覗き込んだ静司の瞳。そこに映る影を感じ取った途端に消え去った。今の静司は酷く弱々しい印象がある。自分より高い筈の体が、とても小さく思えた。

 

「せーじ」

「ん、なんだ?」

 

 ちょいちょい、と手招きする様にして静司の身を屈ませる。そして首を傾げながらも素直に従った静司の頭を抱き込んだ。

 

「よしよし」

「ほ、本音?」

 

 まるで子供をあやす様に抱き込んだ頭を撫でる。静司は慌てた様だが、こちらに離す気が無いと悟ると直ぐに大人しくなった。

 

「せーじにとって、何かとっても大変な事があったんだよね」

「……ああ」

「そっか~。今のせーじはとっても悩んでるもんね。だからもし、何か力になれる事があれば、いつでも言ってね」

 

 これが今の精一杯。無理に聞き出すことはしない。だけど心配する事くらいは良いだろう。強いようで、弱い。そんな彼だから。

 

「だから今だけはおねーちゃんな本音さんなのです」

「……すまない」

「前も言った気もするけど違うよせーじ。私が聞きたいのはそれじゃないかな~」

「そう……か。そうだな。理由も後でちゃんと話す……いや、聞いてほしい、君に」

 

 ぐっ、と抱き込んでいた静司の頭がより深く、自分の胸に沈み込む。

 

「だから今だけは、ちょっとだけこのままで。それと……ただいま」

「うん。良くできました」

 

 きっと重い話になるのだろう。それでも話してくれると言った事を嬉しく感じながら、本音は深く頷いた。

 




個人的に束はチートすぎるくらいが丁度良いと思ってます
そして切り札過ぎて今まで一回しか使われてなかったプラズマブラスト再登場

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