IS~codename blade nine~   作:きりみや

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58.反逆の子

『アメリカ軍の基地が?』

「ああ、襲撃を受けたらしい」

 

 EXISの通信室。皆から課長と呼ばれる彼は息子であり部下でもある静司と話していた。

 

『確かに気になる情報ではありますが……』

 

 通信越しの静司はなぜその情報をわざわざ自分に告げたのが分からない様だった。確かに、事件ではあるがIS学園で仕事に付いている静司にとっては直接関係ある物では無い。

 

「その襲撃の犯人だが、どうもサイレント・ゼフィルスの様だ」

『……!』

 

 通信越しでも静司が息を飲むのが分かった。だがあえてそれを無視して課長は進める。

 

「襲撃されたのは米軍の秘密基地。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が保管されている場所だ。襲撃者の目的はそれだったようだが幸い奪われることなく撃退したらしい。ま、そもそも秘密にしている基地に襲撃受けた時点で米軍としては大打撃だろうがな」

 

 因みにその秘密な筈の基地の情報を何故EXISTが知っているかは簡単だ。アメリカ政府・軍にもEXISTのビジネスパートナーは居る。そこから手に入れた情報である。

 

「奴らはISを集めている。その最終的な目標は不明にしてもそれだけは覚えて置け」

『……IS学園が狙われる可能性も十分にある、と言う事ですね』

「そうだ。前回は織斑一夏が狙われたが、別にISが欲しいという理由だけならそれこそ訓練機が狙われてもおかしくない。そして連中にそれを渡すような事だけは避けたい」

『わかっています。今度こそ……必ず捕らえます』

 

 ふむ、と課長は顎にてをやり考える。通信越しの静司の雰囲気がどこか危うい物に感じたのだ。そうなる事は予想していたがやはり今の状態はうまくない。

 

「ところでだ、B9」

『なんでしょうか。他にも何か問題が?』

「いや、先に聞いておきたいんだが―――孫は何時できるんだ?」

 

 げほっ、と隣に居たオペレーターの女性が噴きだした。

 

「いやー昨日孫の名前で妻と喧嘩してな。私は男の子を想定してたのだが妻は女の子でな。どちらが正しいかで夜な夜な3時間にわたるファイトを少々。最終的に両方作ってもらおうという事で解決したんだが―――進捗はどうなんだ?」

 

『アホか!? 用が無いならもう切りますよ! それではっ!』

 

 がしゃん、という音と共に途切れた通信機を見つめながら課長は首を捻る。

 

「む? 何が拙かったんだ?」

「その芸風やめないといつか本気でB9がキレますよ」

「何を言うか。パパとして大事なことだぞ。名前も由香里と決めなきゃならんしなぁ」

「何言ってるんですか。そんなの社内投票で決めるに決まってるじゃないですか」

 

 何をほざいてるんだこのおっさんは? と冷たい眼差しで見つめる女性。

 

「……最近俺の知らないところで色々進んでて社内が怖いなぁ」

「はいはい怖いですね。どうでもいいからとっとと仕事してください。それと息子を励ましたいのならもうちょっと手段を変えて下さい」

「む、バレバレか」

「そういう事です。まあ今すぐどうこう出来る事じゃないんです。なので私たちの出来る事をやりましょう」

「まあそれしかないな。じゃあ――」

「ということで焼きそばパン買ってきてください」

「……」

 

 

 

 月曜日早朝。IS学園アリーナ。

 ここでは数人の生徒が自主練を行っていた。ISの数が限られている為に普段の授業だけでは足りないと感じる生徒達が思い思いの訓練を行っている。そしてその一角で二つの機体が模擬戦を行っていた。

 

 目前を青い光線が通り過ぎてゆく。

 静司は打鉄を右に左に揺らしながら地面すれすれを飛びそれらを躱していく。だが光線は雨の様に幾重も放たれ静司を追いかけていく。

 

「ちぃ!」

 

 このままでは埒が明かない。静司はオプションで装備していたアサルトライフルを空に居る敵に向け引き金を引いた。同時に打鉄の最大の特徴とも呼べる近接ブレードを地面に突き刺し無理やりブレーキをかける。無理な行動に機体の一部が悲鳴を上げるがお構いなしに強引に速度をゼロにすると、全くの逆方向へ方向転換した。

 ライフルの牽制と突然の方向展開に敵が戸惑い光線の雨が一瞬止まる。それを好機と見て機体のスラスターを一気に全開。上空にいる敵目掛けて突撃を敢行した。だが敵も馬鹿では無い。直ぐに気を取り直すと己目掛けて突っ込んでくる静司に銃口を向ける。同時に周囲に展開されていたビット兵器も全て静司の打鉄に照準を合わせた。

 

「これでっ!」

 

 決める、と言わんばかりに金髪の少女――セシリアが吠え彼女のIS、ブルー・ティアーズの持つ武器の全ての銃口に光が灯る。対し静司は、それが分かっていながらもセシリアから――否、ブルー・ティアーズから目を逸らさなかった。

 

(ブルー・ティアーズ。サイレント・ゼフィルスと同系統の機体……)

 

 例え搭乗者が違っていてもその似通った特徴からどうしても思い浮かべてしまう。その存在はここ最近静司の心を大きく占めていた。Vプロジェクトについても何かを知っている素振りがあり、それどころか自分と同じ……いや、それ以上の動きをする謎の女。

 目的は一体何のか。そもそも何者であり、自分の過去とどう関わってくるのか。一人で考えていても解決しないのは分かっている。だがそれでも頭から離れない。

 

「終わりですわ!」

 

 ブルー・ティアーズとそのビット達から一斉にレーザーが放たれる。もしこれに当たれば打鉄のシールドエネルギーは尽き、勝負はつくだろう。そしてそれはなんらおかしい事では無い。川村静司と打鉄がセシリア・オルコットとブルー・ティアーズに負けた、という結果は表向きでは普通なのだ(・・・・・・・・・・)。だが、

 

――お前は私より、弱い

 

「っ!」

 

 つい先日の事が思い出される。ISでなく生身の戦いであったが、自分を圧倒した少女の言葉を。もしあれがIS戦だったらどうなっていたのか? 分からない。だが一つはっきりしているのは目の前の機体はあのサイレント・ゼフィルスに比べれば劣っていると言う事。言うならば、この打鉄で圧勝する位の力が無ければいくら黒翼を使おうともサイレント・ゼフィルスには勝てないのではないか?

 これは己の任務を考えれば愚かな考えだ。しかしどうしてもサイレント・ゼフィルスの姿を連想してしまう相手故に考えてしまう。そして静司は行動を起こしてしまった。

 

 

 

 

 幾重も迫るレーザーの雨。静司はそれらを機体を捻り、物理シールドで防ぎ、更には近接ブレードで受け流した。

 

「なっ!?」

 

 セシリアから見れば当たった筈の攻撃が全て通り抜けた様に見えた。それほどの高速でその動きを行った静司と打鉄がセシリアの目前に迫りブレードを振りかぶる。

 

「そう上手くはいかなくてよ!」

 

 ブルー・ティアーズ腰部から広がるスカート状の装甲。その突起が外れ動き出す。レーザーを放つビットと違うミサイル型が二基、静司に迫る。 一方静司は己に迫るミサイル型ビット兵器が回避不能と悟るとブレードを一閃。その二基を切り裂いた。既に起動してたミサイルは二つに断たれつつも光を放ち大きな爆発を引き起こす。白い閃光と轟音が響き渡り、静司もその炎の中に消えていく。奇しくもこの展開はかつて一夏とセシリアのクラス代表決定戦に酷似していた。それ故にセシリアは慢心せず、近接武器《インターセプター》を同時に呼び出し構えた。

 

「…………来ましたわね!」

 

 セシリアの予測は当たる。炎と煙を引き裂いて静司の打鉄が姿を現した。だがその手にはブレードもライフルも無く、物理シールドもどこかへと消えている。爆発の衝撃で弾き飛ばされたのだ。

 

「今度こそ終わりですわ」

 

 セシリアは近接戦は得意では無い。だが何も訓練していない訳でも無い。故に武器を失った打鉄相手なら問題ない。そう考え迫ってくる静司を見つめ返し、そしてその肩を震わせた。

 

(――――――――――っ!?)

 

 爆炎の中から飛び出した静司。その顔は無表情であるが、どこか昏い光を放つ目でこちらを見ていた。そして同時に浴びせられる背筋の凍る感覚。体が縛り付けられ恐怖に身が竦む。打鉄に武器は無い。しかし今このまま接近を許したら―――殺される。そんな感覚に襲われた。

 

「あ、あああああああ!」

 

 それはもはや絶叫に近かった。セシリアはその恐怖を振り払うかの様に我武者羅に《インターセプター》を振るう。それはこちらの首を掴みとろうと伸ばされた静司の腕を弾く事に成功した。だが静司はその弾き飛ばされた衝撃を利用し、くるり、と回転すると回し蹴りを放つ。放たれたその蹴りは腕に当たり、《インターセプター》を取り落してしまう。

 

(あ、ああ……)

 

 武器を失った事でセシリアの中で絶望感が増していく。クラスメイトとの唯の模擬戦の筈であるのに関わらず、全てが終わったかのような感覚に心が折れかかる。だがその目前、静司の顔が不意に歪み態勢が崩れた。それを見た瞬間、セシリアは叫んだ。

 

「ブルー・ティアーズッ!」

 

 レーザー型のビット達が一斉に隙の出来た静司にその銃口を向け、光を放つ。打鉄は防ぐことも叶わず直撃し、今度こそシールドエネルギーを失って地面へと落下していった。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ……」

 

 それを上空から見つめつつセシリアは荒く息を吐いた。そして今しがた味わった感覚を思い出し思わず肩を抱く。

 

「何だったと言うのですか……」

 

 先ほど感じたのは間違いなく殺気だ。だがそれを彼が発する理由と、たかが企業に所属する程度の男の殺気であれ程まで自分が怯える理由が分からない。そしてその事実がセシリアに苛立ちを生む。

 

「わたくしは……」

 

 未だに成功しない偏向射撃。そして専用機同士の模擬戦の事を思い出す。セシリアの勝率は徐々に下がってきているのだ。一年の中ではトップは軍人であるラウラ。次点をシャルロットと鈴が争う形となっている。そして一夏と箒とセシリアとなるのだがここに大きな問題があった。

 白式の第二形態である雪羅。それの持つエネルギー無効化と言う反則染みた楯の登場により、バランスが一気に崩れたのだ。何せブルー・ティアーズのメイン武装は全てエネルギー兵器である。それはつまりセシリアの攻撃は殆ど一夏に通用しないという事だ。無論、まったく手も足も出ない訳では無い。先ほどの様なミサイルや近接武器もあるにはある。それに白式のエネルギーが尽きるまで遠距離からの狙撃を続けるという手段もある。だがそれでも不利な事は変わらない。事実、つい先日の模擬戦でセシリアは一夏に一度負けてしまっていたのだ。これはセシリアのプライドを大きく傷つけた。

 幸い、イギリス側はこの件でセシリアを代表から降ろす事はしなかった。何故ならセシリアとブルー・ティアーズはBT兵器の実働データをサンプリングする事が目的とされて居るために、実弾兵器は想定されていないからだ。故にエネルギー無効化の楯を装備する白式に不利なのは誰が見ても明らかなのである。しかし未だBT兵器の稼働率は低く、偏向射撃も実現できていない今の状況では、いつかは本当に降ろされてしまう可能性もある。そして、

 

(何故サイレント・ゼフィルスは……っ!)

 

 その偏向射撃を行う敵が居る事が更にセシリアを焦らせる。あの存在はイギリス側にとっても大きなネックだ。自国で最も高い適性を持つセシリアが出来ない事を、機体を強奪したテロリストが自在に扱っているのだ。イギリス側の焦りも大きい。それが分かっているからこそ、セシリアもここ最近は自主練の量を増やしているのだが成果は中々上がらない。だがそれで諦める訳には行かない。

 

(負ける訳にはいかない……わたくしがわたくしで有る為に……!)

 

 ぐっ、と拳を握りしめ決意を新たにするとセシリアはゆっくりと下降していった。

 

 

 

 

 自室に戻る度既に一夏は起きていた様だった。部屋に入ってきたこちらを見ると声をかけてくる。

 

「おう、静司。どこ行ってたんだ?」

「ちょっと汗を流しにね。セシリアも居たから模擬戦をしてた」

「もしかして二人とも自主練か? だったら俺も呼んでくれよ」

「あー、悪い。今度から声をかける。俺はシャワー浴びるけど良いか?」

「ああ良いぜ。出たら飯に行こう」

 

 了解、と手を上げつつ静司は自室の風呂場へと入って行く。シャワーを全開にして冷たい水を全身に浴びつつふたり、と額を壁に押し付けた。

 

「馬鹿か俺は」

 

 先ほどの模擬戦。途中から自分はセシリアでは無く、サイレント・ゼフィルスと戦っていた。そして殺意をもって攻撃しようとした。唯のクラスメイト相手だと言うのに。幸か不幸か、回し蹴りを放った際に先日の傷が痛み動きが鈍った所に追い打ちを喰らい大事には至らなかったが。

 あの後、セシリアとも少し話し、やはりどこかぎこちない雰囲気が二人の間にあったがお互いにその事には触れずにその場は分かれた。だが彼女が自分に対しどこか警戒心を持ったことは確かだろう。少なくとも表向きの川村静司の印象とはかけ離れていたはずなのだから。

 

「何をやっているんだ……本当に」

 

 苛立ちと後悔が混ざった呻きが浴室に空しく響いた。

 

 

 

 

 シャルロットは目の前に表示されている情報に顔を引き攣らせていた。

 

「な、なにコレ……?」

 

 場所はIS学園第六アリーナ。ここは学園中央にそびえたつタワーに繋がっており、高機動実習が可能となっている。さながらチューブ型のレースコースの様な造りだ。そして今日からここでキャノンボール・ファストに向けた授業が行われる。既に専用機組は高機動用の特殊装備となっており、各々が調整を行っていた。

 高機動パッケージ《ストライク・ガンナー》を装備したセシリアのブルー・ティアーズ。スラスター等を調整して仮想的に高機動仕様となった一夏の白式。展開装甲の背部と腰部を開放し調整を行う事で高機動仕様となった箒の紅椿。そして追加ブースターを装備したラウラのシュヴァルツェア・レーゲンとシャルロットのラファール・リヴァイヴカスタムⅡ。他にも訓練機組は高機動戦闘仕様に既に調整された機体でそれぞれ設定を行っている。とは言っても、訓練機は複数人で使用するために機体そのものにはあまり手を加えられない。故にあらかじめそれぞれの操縦の癖やタイプを大まかに分類し、生徒達はそのタイプごとに調整された機体を割り振られている。後はデータ面での細かな設定を行うのだ。

 そしてシャルロットが見ているのはつい先程送られてきた新たなパッケージ。既にラファール・リヴァイヴカスタムⅡは追加ブースターで対応することが決まっていたのに今更なんだろうか? 疑問に思いつつそのデータを確認していた所だ。そしてそのデータが問題だった。

 

「パッケージ名《メテオ・ラインⅡ~シャルロットちゃんVer》って一体……」

 

 というかこのネーミングセンスはどこかで見た事がある。当然だ。送ってきたのはK・アドヴァンス社の技術開発部なのだから。何時だったか見た静司の謎ドリルの同じ雰囲気がそこにはあった。

 

「んーしゃるるんどうしたの~?」

 

 硬直していたシャルロットの下に本音がやってくる。どうやら専用機組の様子を見に来たらしい。通常の生徒達にとって、何倍も訓練をしてきている専用機持ちの設定や飛び方は大いに参考になる為、教師達もそれを許していた。

 

「うーん、実はこんなものが送られてきててね」

「どれどれ~? おお~! いいな~しゃるるん。早速つけようよ~」

「いやだけど量子変換にちょっと時間かかるから今すぐは無理だよ」

 

 あはは、と苦笑いしつつデータを本音にも見せる。本音は残念そうだったが、こればかりは仕方がない。

 

「ぬ~。……あれ、しゃるるん。なんか動画データもあるよ~?」

「あ、本当だ。どうもK・アドヴァンス社での試験した時のデータらしいね」

 

 どんなものなんだろう、とそのデータを呼び出すよ端末その光景が写る。場所は野外らしく、どこまでも続く海とそれを背景にした船の甲板が見える。そしてその甲板では赤い追加装備を纏ったラファール・リヴァイヴが待機していた。

 

『ほ、本当に大丈夫なんっすか? 急に呼び戻されたかと思ったらなんかいやな予感しかしないんっすけど?』

 

「あ、この声」

「理沙さんだね~」

 

 どうやらラファールに搭乗しているのは何度かあった事のある理沙らしい。直ぐに分からなかったのは、そのラファールが大きなバイザーを頭部に装備していたからだ。

 

『安心しろ。俺達の作る物に今まで失敗はあったか?』

『…………いやあるっすよね!? ありまくるっすよね!? というかそもそもアンタらの頭の中身が失敗品っすよ!』

『ははは、キビシー!』

『誤魔化さない下さいっす!?』

 

「……ねえ本音。なんかものすごく嫌な予感がするんだけど」

「え~、でも面白そうだよ」

 

 若干冷や汗を流すシャルロットに本音は笑う。そんな二人はお構いなしに動画は続く。

 

『さーてそれでは実験を開始しよう。今回のいけに――じゃなくて担当者は麻生理沙さん。彼女の上司の推薦によるものです』

『やっぱ課長っすね!? あの親バカヒゲジジイっすね!? というか生贄って――』

『それではカウントダウン開始。5、4、3と見せかけてファイヤー!』

『ちょ、それ酷!? って課長の馬鹿ああああああぁぁぁぁぁぁ………………!』

 

 画面が大きく閃光し、一瞬で遥か彼方まで飛び去っていくラファールの姿が写った所で映像は途切れた。

 

「……ってなんだよこコレは!? 参考どころか恐怖感煽ってるだけじゃないか!」

「一応試験は成功って載ってるね~。データも一応あるけど……」

 

 流石に本音も冷や汗を流している。動画は発進して数秒で途切れたが、その数秒の間に遥か彼方まで飛び去って行ったのは確認できた。つまりそれほどの加速度をもっていると言う事なのだろうが。

 

「何やってるんだ二人とも?」

「あ、かわむー」

「いやどちらかと言う僕がこの人たちに聞きたいよ……」

 

 様子を見に来た静司にシャルロットは今しがた見せたデータを静司に見せる。すると静司の顔もまた引き攣っていた。

 

「こ、これは……」

「静司、前から思ってたけど今まで言えなかったけどさ――――控えめに言ってもこの人たち頭おかしいよ!?」

「落ち着けシャルロット。気持ちはわかるが。うん、本当に分かるけど」

 

 若干涙目のシャルロットを静司が宥める。

 

「それよりこれから飛ぶんだろ? 俺の居た班の人達も専用機持ちのを見たいって言うからさ、直接映像(ダイレクトビュー)をお願いできないか?」

 

 直接映像とは視界情報の共有機能である。ロックを解除しチャンネルさえ合わせれば同じ視界を見ることが出来る物だ。

 

「う、うん。それは良いけど……。そういえば静司と本音はどちらを使うの?」

「俺は打鉄だ。まあこっちの方が慣れてるしな」

「私はラファール~」

 

 はーい、と本音も手を上げる。因みにラファールは元々打鉄よりスラスターの数が多く機動性にも優れている為、今回の割り当てもほとんどの生徒がラファールだ。一方打鉄は速度や機動性はラファールに劣るが、防御面では優れている。だが攻撃面はラファールと同等か少し下程度なので数は少ない。

 

「そっか。企業所属だからちょっと難しい方を当てられたんだね」

「そうだな。専用機は無いけどその辺はバランスって事だと思う」

「じゃ、じゃあさ! 静司も一緒に飛ばない?」

「ん? 別にいいぞ。丁度俺の番も来た様だし」

 

 ちらり、と静司が背後に視線を向ける。他の班よりは若干数が少ないが、数人の生徒達が打鉄の周りで話し合っている姿が見える。おそらくあれが静司の班だろう。

 

「じゃあ行こうよ! 本音もどう?」

「じゃあ私も行く~」

 

 わーい、と相変わらずの呑気さを放ちながら本音の参加も決定し、三人はそれぞれ準備を済ませると空へと飛びだって行った。

 

 

 

 

「エム。エム? 居ますか?」

「……なんだ」

 

 薄暗いマンションの一室。そこに突然響いた声に部屋の主は気だるげに返事をした。

 

「突然失礼します。それと電気を付けますね」

 

 言葉と共に部屋が一気に明るくなる。突然明るくなったために眩しく感じ目を細めるエムの前にシェーリが歩み寄った。

 

「あら、寝ていたのですか。ごめんなさい」

「構わん。それより要件は何だ」

 

 エムは下着姿のまま寝ていたベットから起きあがるとシェーリを睨む。しかしシェーリは気にした様子も無く頷いた。

 

「二つほど要件が。一つは先日のロシアの件です。コードRは問題無かったですか?」

「ああ。あの兎女はこちらを見失っていたから今回も成功だ」

「それは良かった」

 

 コードリベリオン()。反逆の名をもつそのシステムこそ、亡国機業が動き出した理由の一つである。ISでの戦闘行為は今までも幾度と行ってきながらも、つい最近までIS学園や織斑一夏を狙わなかったのは篠ノ之束の存在があった為だ。不用意に彼らにちょっかいを出せば、いつ博士が出張ってくるかわからない。そしてISを掌握でもされればこちらの計画は一気に崩れてしまうからだ。

 だがカテーナが無人機との交流を深め、研究を進めた結果その対策が生まれた。それこそがコードリベリオン。ISのコア、その意識に作用し篠ノ之束と言う名の呪縛から解き放つための物。コアの意識に対し『篠ノ之束は絶対では無い』と思い込ませる為の物だ。これが有る為に学園祭の襲撃も行われ、ロシアの際もこちらの反応を一時的に発し、篠ノ之束と川村静司をおびき出す事に成功したのだ。

 

「気を付けてくださいね。あれは何時まで持つかわかりません。それまでにコアを説得する必要があります」

「ふん、わかっている」

 

 このコードRにも欠点はある。確かに一時的に呪縛からは時放つが、それはあくまでも錯覚させているに過ぎない。時間が経てばその錯覚から目覚め再び篠ノ之束の手の内に戻る。それまでにコアの意識が自分自身で篠ノ之束から独立する様に説得する必要がある。そしてその説得には仲介役として無人機であるレギオンの力を借りることになる。

 

「わかっているなら構いません。まあサンマ女は苦戦している様ですが、あなたならそんなに時間はかからないと思いますよ」

「その言い方からすればお前はもう終わったのか」

「ええ。私のブラッディ・ブラッディは説得が終わっています。もう篠ノ之束の干渉を受ける事は有りません」

 

 シェーリは笑顔で頷くと懐からカード型のデータ端末を取り出して見せた。

 

「それではもう一つの件です。これを」

 

 端末をエムに渡す。エムはその端末を弄りその中にあるデータを確認すると笑みを浮かべた。

 

「ふん、随分と早いな」

「ええ。カテーナ様も興味があったようなので最優先で取りかかりました。それを密かに研究している機関はまだありましたからね」

 

 ふふ、と薄く笑うシェーリ。

 

「川村静司……普通では無いとは思っていましたが、彼は知れば知る程面白い存在ですね。それに彼の組織はともかくとして、彼の目的そのものは私達にも近い。そうは思いませんか、エム」

「だからどうした。勧誘でもする気か」

「それもいいですね。ですがその前に一度叩き潰さないと気が済みません。その後にじっくり、丁寧に指導してやるのも良いでしょう」

 

 ふふ、と笑みをこぼすとシェーリは出口へと向かっていく。

 

「あなたに彼を取られるのは私としては微妙です。なので早い者勝ちと行きましょう。どちらが先に彼を仕留めるか」

「勝手に言っていろ。こちらも勝手にやらせてもらう」

「ええ、そうですね。ではまた」

 

 最後に一礼して去っていったシェーリには見向きもせず、エムは手元の端末に表示されているデータを見つめていた。

 

「そうだ、好きにやらせてもらう。だから待っていろ川村静司」

 

 そう呟くエムの手にある端末にはVTシステムのデータが映しだされたいた。

 


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