IS~codename blade nine~   作:きりみや

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61.仮面の下

 麻生理沙。K・アドヴァンス社技術開発部門試験2部。またの名をEXISTの一人であり、コードネームはcover12。但し有事にはblade5となりISを駆る。その実力は普段の下っ端根性や、パシリ気味な扱いとは裏腹に確かなものであり、それ故にblade5の名を持つことが許されている。

 だがそんな彼女も目の前の光景には流石に肝を冷やしていた。

 

「これはちょっと……キツイっすね」

 

 彼女の前には灰色のISブラッディ・ブラッディが武器を構え滞空している。それだけならまだ良かった。だがそのブラッディ・ブラッディの背後には己が敵を撃ち落とした件の戦艦型が小型兵器と共に待ち構えているのだ。つまりB5は一人でこれら全てを相手にしなければなら無い事になる。

 

「と、いうかもうこの段階で時間稼ぎも足止めも意味ないっすよね」

「そうでしょうね。私一人があなたを相手してれば後は彼女(・・)がやってくれるのですから」

 

 そう言ってシェーリはちらり、と背後の戦艦型を見やる。確かにその通りだ。いくらB5でもあれら全てを相手にすることなど不可能である。

 

「まあ、だからと言って諦める訳にも行かないっすよ」

 

 一人呟くと己が機体を構える。この黒に染め上げられたラファール・リヴァイヴは機体自体は以前B2が使用した物と同じである。但しパッケージは変更して有り自分にあった物を選んでいる。これでどこまでいけるかは定かではないがやるしかあるまい。

 

「ん?」

 

 ハイパーセンサーに反応。それに続く様に海中から4つの影が飛び出した。直ぐにラファールがその影をズームし姿を捉え、その姿にB5は眉を寄せた。

 

「……そういうことっすか」

 

 姿を見せたのはストライク・イーグルⅢ、テンペスタⅡ型、メイルシュトローム、そしてアグニの4機だ。それらの機体はいくらかの傷は見えるが動く事には問題ない様に見える。そして4機は二手に分かれるとテンペスタⅡ型とメイルシュトロームは大会会場の方へ、そしてストライク・イーグルⅢとアグニはこちらに進路を向けた。その姿を見てB5は彼女らの狙いを悟る。

 

「初めから狙いはB9でこっちはオマケっすね……そっちは眼中にないらしいっすよ」

「まあそんな所でしょう。最も、彼女の存在を知っていたら判断は違ったかもしれませんが」

 

 笑うシェーリが視線を背後の戦艦型へ移すと、合図のつもりなのか戦艦型はその場でくるりと回転した。

 

「で、一体何なんすかあれ」

「れっきとしたISですよ。まあISの定義をパワードスーツとするのなら別かもしれないですが。因みに名前はレギオンです。……さて、それでは再開するとしましょうか」

「できれば遠慮願いたいんっすけどそうも言ってられないっよね……」

 

 とは言ったものもこの状況は不味い。亡国機業側もIS委員会側も機体は複数なのに対しこちらは自分一機のみ。集中的に狙われればおしまいだ。IS委員会側は本来な味方でもおかしくないのだが、彼らの目的を鑑みるに期待しても無駄だろう。

 どうしたものか、と冷や汗を流すB5。そんな戦場に新たな声が響く。

 

「随分と派手な事をやってるわね。おねーさんも混ぜてくれないかしら?」

 

 声を共に現れたのは水のヴェールを纏い、左右一対のアクアクリスタルを従えたIS、ミステリアス・レイディを操る更識楯無だった。楯無は蛇腹剣《ラスティー・ネイル》をその手に不敵な笑みを浮かべている。

 

『大っぴらには無理だけど援護するわ。とりあえずは目先の敵よ』

「……感謝するっすよ」

 

 プライベートチャネルでの密かな連絡にB5は安堵したが問題が一つ片付いただけで根本的な問題である目の前の連中を何とかしなければならない。覚悟を決めるとB5は戦闘を再開した。

 

 

 

 

 その日の街はいつも以上に賑わっていた。それもその筈、市のアリーナで行われる一大イベント、キャノンボール・ファストの為だ。それを観戦するために訪れた人々。そしてチケットは取れずとも近くでその空気を味わいたい人々や、単純にお祭り騒ぎに惹かれてやって来た人々などが入り乱れ賑やかさを増していく。近くにIS学園がある事から、この街は国際色も豊かであり、各国から訪れた観客や企業関係者などもその空気を楽しんでいた。

 そんな賑やかな街に突如妙な音が響いた。重く、連続したその音は途切れ途切れに響き、道行く人々は首を傾げつつその音の元を探した。そしてその音の主達は突如人々の前に姿を現す。

 ビルとビルの合間を縫う様に高速で飛んでいく濃蒼のISとそれを追う黒い翼のIS。2機のISはかなりのスピードを持って人々の上を飛んでいく。それを見て人々は歓声を上げた。通常でならありえない事だ。しかし今日行われているイベントの特性からして、なんらかのイベントかショーと勘違いしたのだ。普段TVやパソコンの画面越しにか見ないISが自分達の直ぐ傍を飛んでいると言う事に、彼らは興奮していた。

 だが誰もがそうだった訳でも無い。一部の企業関係者。そして政府関係者はこの事態が異常だと気づいていた。飛んでいる2機のISはイギリスから強奪された機体と、時折現れる謎の黒い機体というのが何よりの証拠だ。彼らは直ぐに自分達の上司に連絡し、自らもすぐさま逃げだそうとする。しかし既に遅かった。

 先を行く濃蒼のISから何らかのパーツが展開される。それはビットと呼ばれる遠隔兵器である事に気づいたのは極少数だった。だがそれの持つ力はすぐさま全ての人が知る事となる。複数展開されたビットが青く光るレーザーを発射したのだから。

 

「え?」

 

 その呟きは果たして誰のものか。彼らの目の前で発射されたレーザーを黒い翼のISは機体を捻らせる事で紙一重で回避した。そして躱されたそれは、射線上にあった巨大な広告看板を貫きその先にあったビルをも貫通をもしていく。

 貫かれた看板はそこを中心に融解しており、更には支えとなる部品が壊れたのか、徐々に傾いていき、そして遂に音を立てて落下した。

 

「う、うわああああああああ!?」

 

 落ちた看板はアスファルトを突き破り地面に突き刺さった。そしてその周りでは逃げ切れず、看板落下の衝撃を間近で受けた人々が血を流し倒れている。そこに来てようやく人々は理解した。いや、理解させられた。これがイベントでも何でも無い事に。目の前で流れているのは本物の血であり、自分達の真上で戦闘が起きているという事に。

 街は一気にパニックに陥った。

 

 

 

 

『B9、街に被害が出ている。飛び道具には注意しろ!』

「分かっている! だがどうしろと言うんだ!」

 

 C1からの通信に怒鳴り返しつつ、静司は先を行くサイレント・ゼフィルスとそれに搭乗するエムを追っていた。先を行くエムはまるでからかう様に右に左に進路を変えてはビル街の間をすり抜けていく。そんなエムに静司は右腕のガトリングガンを向けるが、射線上に建造物が多いために思う様に攻撃が出来ないでいた。エムもそれが分かっているのだろう。あえて静司と黒翼がギリギリ追いつけない程度の速度で街中を駆けていく。

 

「くそっ!」

 

 銃が駄目なら近距離で仕留めるしかない。黒翼の出力を上げ、スラスターを大きく吹かすと静司は一気に距離を詰める。だがそれをそう簡単に許すエムでは無かった。追いすがる静司と黒翼をビットのレーザーが狙う。静司はそれを避けようとしたが、その射線上にビルがある事に気づき舌打ちした。

 

「ちぃっ!」

 

 避けようとしたその挙動を途中で止め、腕を交差し防御態勢を取る。直後レーザーが黒翼に直撃し機体が炎を上げた。その衝撃で高速で飛んでいた黒翼の機体がふら付き、バランスを崩す。その先にはビルの外壁が待ち構えていた。

 

「こんっっっのぉ!」

 

 意味の無い雄たけびを上げながら、強引に軌道を修正しようとしたが完璧とは行かなかった。黒翼はビルの外壁を削る様に滑り、その軌跡にそってビルの外壁が砕け散っていく。静司はその衝撃すらも利用して強引に態勢を立て直すと再びエムを追い始めた。

 

「機体ダメージは!?」

 

 視界にエムを納めながら確認する。腕部装甲一部破損。右翼スラスターに軽微のダメージ。稼働率82%。作戦続行――可能。大丈夫だ。まだ動ける。だがこのままでは埒が明かないのも確か。近づくなら一気に近づかなくてならない。

 

「やってやるさ……!」

 

 即座に作戦を組み立てると静司は更に速度を上げた。同時に黒翼の出力も上げ、一気にスラスターを全開にして瞬時加速を発動する。途端に視界が一気に狭まり、風景が超高速で背後へ駆け抜けていく。だがこれだけでは駄目だ。先を行くサイレント・ゼフィルスはビルの合間を縫う様に飛んでいるのだ。ほぼ直線にしか飛べず、持続性の無い瞬時加速では、敵には届かない。実際、サイレント・ゼフィルスは黒翼が追い付く寸前に横に舵を取りそれを躱した。そして静司の目の前に広がるのはビルの外壁。このままではぶち当たってしまう。だが、この状況は織り込み済みだ。

 

「っぅ!」

 

 強引に機体を上昇させる。確かに瞬時加速はほぼ直線にしか動けないが全く動けない訳では無い。それも事前にそうすると決めていたのならやり方次第では可能なのだ。だが無理な挙動は機体にも搭乗者にも負担を強いる。事実黒翼の機体は軋み、静司もまたPICで制御しきれないGに歯を食いしばっていた。

 あまりにも強引な急上昇。だがそれはギリギリで成功する。ビルの外壁を黒翼は急上昇していき、遂にはビルの高さを越していく。だがこれだけの速度を出した物がそう簡単に止まれるはずない。事実このままでは黒翼は慣性に従い上昇していきサイレント・ゼフィルスを見失ってしまうだろう。だからこそ静司はビルの屋上が見えると同時にその屋上へ黒翼の両膝の固定武装であるワイヤーブレードを打ちこんだ。奥深く打ちこまれたブレードは支点の役目を果たす。急上昇していた黒翼がある一点で急停止すると、今度は振り子の要領で弧を描く様にしてビルを飛び越え地上へとその軌道を変えることに成功した。

 

「捉えた!」

 

 その最中、眼下のビル街の中にこちらの行動は予想出来ていなかったサイレント・ゼフィルスの姿を捉えるとその勢いのまま落下する様に突っ込んで行く。屋上へ打ちこまれたワイヤーブレードが支えきれなくなり外れてしまうがもはや関係ない。静司は今度こそサイレント・ゼフィルスへ接近戦に持ち込むことに成功した。

 静司は黒翼のその巨大な鉤爪を全力でエムへと振るう。エムもまたその手の巨大な銃剣でそれを受け止めた。金属がぶつかり合う音と一瞬の抵抗。

 

「器用な事だ」

「黙れ!」

 

 エムが銃剣に込める力を強くし鉤爪を打ち払う。だがやっと近づけたこのチャンスを易々と逃す気は静司には無かった。再び左腕の鉤爪を相手を引き裂くが如く振り下ろす。それを迎え撃つエムの銃剣。ぶつかり合った互いの武器が火花と紫電を散らす。その至近距離でエムが繰り出した槍の様な蹴りを《アサルトテイル》で受け止め絡め取ると、更に引き寄せつつ右腕を振りかぶる。鉤爪を中央に束ね槍の様にした黒翼のその突きを、今度はエムが展開したエネルギーナイフが受け止めた。

 

「次はなんだ?」

 

 お互いに両手を塞がれ、エムは片脚も封じられている。しかし静司と黒翼にはまだ脚がある。間髪入れずに両脚膝部のワイヤーブレードを射出しようとするが、そこをサイレント・ゼフィルスの周囲に展開されたビット達がレーザーで撃ち抜いた。

 黒翼の両膝が小さな爆発を起こし、炎に包まれる。その衝撃でふら付いた隙にエムは《アサルトテイル》の拘束から抜け出すとそのまま一気に下降する。静司も炎の熱さと痛みに歯を食いしばりながらそれを追う。

 エムが降下していったのはこの街の駅だ。IS学園や世界的大会を開ける規模の会場があるこの街の駅はかなりの広さを持っている。その中のホームまで降下するとレールに従う様にエムが進路を変えていく。あそこを飛ばれては射撃武器は使えない。その為に静司もまた同じように降下しエムに斬りかかる。その一撃をエムは器用に反転すると後ろ向きに飛びながら打ち払った。そのまま続く二撃目、三撃目もエムは容易く躱し、受け止め、弾いていく。

 

「襲撃の理由は何だ!? 一夏か!? それとも専用機か!?」

「知りたければ倒せと以前も言った筈だ」

 

 武器がぶつかり合う金属音と火花。そして紫電を撒き散らしながら2機は地上すれすれを高速で飛びながら接近戦を繰り広げる。その先には地下鉄に続くトンネルがあり、2機はそのままトンネル内へと突入した。

 

「ならば、今日こそお前に全てを話させる!」

 

 一際強く振った鉤爪の一撃をエムは再度銃剣で弾くと速度を上げ黒翼との距離を離す。そのエムの背後に小さい光が見えた。このトンネル内を走る列車だ。

 

(まずいっ!?)

 

 このままでは列車とサイレント・ゼフィルスがぶつかってしまう。そうなれば列車は唯では済まない。だがエムは速度を緩めることなく、むしろ加速していく。

 

「何を――」

 

 焦る静司だが、その後にエムが取った行動に思わず絶句した。エムはあろうことかISの装甲の大部分を解除したのだ。後に残ったのはISスーツとバイザー。そして申し訳程度の装甲のみ。そしてエムはそのまままるで背面飛びの様に体を捻らせた。トンネルの外壁と列車の車体。その間をこれまで加速した慣性を利用してすり抜けていく。高速ですり抜けていくエムと列車。時間にしては数秒程度ではあるがエムは見事に列車を躱すと再び装甲を展開し飛び去っていく。そして静司の目の前には今しがたエムがすり抜けた列車の姿があった。もはや静司に残された手段は一つだった。

 

「くそっ!」

 

 同じように静司も黒翼の装甲の大部分を解除。全身を覆う装甲のみの準待機状態へ移すとその身を地面に水平させつつ、列車とトンネルの間に飛び込んだ。途端に空気の波を受けバランスを崩しそうになるのをPICで制御するが完璧とはいかなかった。軌道が逸れトンネルの外壁にぶつかりかけそうになるが、咄嗟に左腕を壁に押し付けた。装甲とトンネルの外壁が擦れ合う甲高い音が響き火花が散る。それでも強引に態勢を立て直すとほぼ同時、列車が通り過ぎていった。すぐさま黒翼の装甲を再展開するが時間をロスし過ぎた為にエムの姿はだいぶ先まで行っていた。

―――このまま逃してしまうのでは無いか。

その考えが静司に焦りを生む。即座に瞬時加速を発動し追跡を開始した。暗いトンネルの中を2機のISが駆け抜けていく。やがて出口らしき光が見えてきた。そこから一足先にエムが飛び出し数拍遅れて静司も飛び出し高度を上げる。そして飛び出した静司の目の前には銃剣を構えたエムの姿があった。

 

「しまっ――」

「焦り過ぎたな」

 

その巨大な銃剣の先がぼう、と青く光り輝きそして破裂した。

 

「!?」

 

 エムの銃剣から放たれた極太の光線。それを避ける術は静司に無く、光に飲まれた黒翼は衝撃と共に背後のビルへと吹き飛ばされた。轟音と共に外壁を突き破り、ビル内部の支柱にぶつかり、静司は膝をつく。

 

「かはっ」

 

 全身装甲の仮面の下、小さく血を吐いた。黒翼にはシールドバリアは無い。その出力は全て攻撃と機動にまわされている。それ故に喰らったダメージは軽減されることなく機体とその搭乗者に響くのだ。そしてそれを持って知っても目の前の敵には届かない。

 

「ふざ、ける……なっ……!」

 

 それでもやらなければならない。それは自分の仕事の事もある。だが同時に自分自身の疑問の為でもある。目の前のエムと名乗る女。この女の正体を知る為の。

 ぜえはあと息を荒らげながらゆっくりと外に向かい歩き出す。自分が突っ込んだこのビルのフロアは幸い何かの資料室か何かだったらしく、目に見える範囲にけが人は居なかった。黒翼の周囲ではファイルから外れた紙面が舞い、炎に侵されている。ビルの火災報知器がけたましい音を鳴らし、壊れたスプリンクラーが申し訳程度のシャワーを起動する。

 

「おま……えには、聞かなくちゃ……いけないんだよ……!」

 

 不意に視界が暗くなったかと思った瞬間、黒翼の顔面をサイレント・ゼフィルスが掴み、そして投げ飛ばした。静司は為す術も無いままビルの壁を突き破り転がっていく。衝撃に頭がシェイク視界が定まらない中、エムはゆっくりと静司に近づいてきた。

 

「足りんな。この程度では」

「…………っ」

「まあいい。これは私からプレゼントだ」

 

 エムがその手にナイフを展開した。しかしそれは今までの戦闘で使ったものでは無く、刀身が白く濁っている。そしてエムはゆっくりと静司に近づくとその刀身を静司の胸へと突き刺した。

 

 

 

 

 悔しい。

 セシリアの心を占めるその言葉は怒りと苛立ちを孕んでいた。それはサイレント・ゼフィルスに簡単にあしらわれたからでもあるが、何よりも彼女の心を昏くするのはそのサイレント・ゼフィルスが偏向射撃を使いこなしている事だった。

 自分も、自分以外の本国の誰も扱えないそれをテロリスト風情が使いこなしている。その事実はセシリアのプライドを大きく傷つけた。

 

(一体、一体なにが違うと言うのですか!)

 

 BT適性は自分が最も高い筈。それなのに何故なのか。何が違うのか。どうすれば自分は愛機の本来の性能を引き出せるのか。疑問は苛立ちに変わりセシリアの心に昏くのしかかる。

 

「このまま、引き下がれるものですか……!」

 

 機体はまだ動く。ならば動かなくては。先ほど例の黒いIS――以前一夏が聞いた所によると黒翼と名乗るそれが現れた。恐らくいつもの様に自分達を助けてくれているのだろう。だが代表位候補生たる自分が。専用機持ちである自分達が毎回毎回助けられているというのはどういう事か。少なくとも全てを任せて安穏とする気はセシリアには無い。故にセシリアは再び動き出した。

 

「セシリア! 動けるのか!?」

「……ええ。大丈夫ですわ。私はサイレント・ゼフィルスを追います。一夏さん達はここで――」

「駄目だ。俺も行く。毎回毎回助けられっぱなしじゃいくらなんでも格好悪い」

 

 一夏がふら付きながらも名乗りを上げる。見れば鈴や箒。そしてシャルロットも理由はそれぞれ違いながらも追う気の様だ。

 

「鈴と箒は良いのか? それにシャルロットも」

「アンタ達だけに行かせられないわよ」

「そう、いう……事だ」

 

 鈴と箒は即答。だが箒は先程のダメージが大きかったのかその顔は苦し気だ。

 

「……箒は駄目だ。ここで待っててくれ」

「なんだとっ!?」

 

 声を荒らげ抗議しようとした箒が痛みで顔を顰める。

 

「さっきのダメージだよね? 駄目だよ箒、無理して取り返しのつかない事になったら皆悲しむよ」

 

 シャルロットが箒の肩に手を乗せ首を振る。それでも箒は何かを言おうとしたが、やはりダメージがきついのだろう。体を震わせ俯いた。そんな箒の背中をさすりつつシャルロットは一夏に答える。

 

「僕は行くよ。それにあの黒いIS……黒翼の人も気になるんだ」

 

 シャルロットは一人うん、と頷くと機体を宙に浮かす。

 

「……私は無理だな。飛ぶことは可能でも戦闘機動は不可能だ。ただの足手まといになってしまう」

「そうか……わかった。きっともうすぐ先生たちが来るはずだ。それまで待っててくれ」

「ああ」

 

 悔しそうに顔を顰めるラウラだがこればかりはどうにもなら無い。一夏達は機体ダメージを再度確認すると飛びだそうとするが、そこにラウラの声がかかる。

 

「先に言っておく。追撃すると言う事はおそらく教官の想いとは別のものだ。それでいいんだな?」

「……ああ。俺はあのまま放って置くなんて出来ない」

 

 一夏の答えに全員が頷く。これは愚かな行為だ。この場に千冬や他の大人たちが居れば絶対に許可しない行動。それでも止まる気が無い一夏達の姿にラウラはため息を付いた。

 

「わかった。ならば無事に帰って来い。それとセシリア」

「? なんでしょうか?」

 

 突然声をかけられ訝しげなセシリアにラウラは少し考える様に首を捻りつつ告げる。

 

「お前の悩みの答えになるかどうかは分からんが、私が感じた事を一つ。戦いに置いて銃とは何だ?」

「……? 敵を撃つ為の物ですわ」

「そうだ。究極的にそれが目的だ。銃は撃って目標に当てるものであって、曲げなければいけないものでは無い」

「!?」

「それだけだ。参考になればと思う」

「……ありがとうございます」

 

 何かを考える様に頷きつつ礼を言うセシリアにラウラも頷く。そして一夏達は市街地へと飛び立って行った。

 

 

 

 

 黒翼が突っ込んだビルから脱出するとエムは空を見上げた。そこにはテンペスタⅡ型とメイルシュトロームの姿があった。それだけで2機の狙いを悟るとエムは小さく笑みを浮かべた。

 

『サイレント・ゼフィルスの搭乗者に告げる。これ以上の戦闘行為を直ちに中止しこちらの指示に従え。さもなくば撃墜する』

 

 テンペスタⅡ型からの警告には耳も貸さずエムはその銃剣を向けようとしたが不意にスコールから通信が入った。

 

『はあい、エム。そちらはどう?』

「専用機達は話になら無い。時間の無駄だ」

『成程ね。わかったわ。今回の目的は達したし、帰ってきて頂戴。あなたの用事も終わったのでしょう?』

 

 全てはお見通しと言う事か。エムは表情を変えることなく、内心で舌打ちした。

 

「了解した。帰投する」

 

 通信を切ると銃剣をしまい明後日の方向へ機体を向ける。ちらり、と上空の2機を見ると追う気は無いようだ。

 

『投降の意思なしか。これは追撃するしかないか?』

『けどここで戦闘はじめたら日本人に被害がでるわね。許可が必要だわ』

『ああ、そうだな。許可が必要だ』

 

(白々しい事だ)

 

 もはや追う気は無いのだろう。何故なら奴らの目的であった黒翼はあのビルの中で機動停止しているのだから。だが別に構わない。むしろその方が面白い。

 エムは小さく小馬鹿にする様に笑うとその空域を離脱していった。

 

 

 

 

 エムが飛び去った後、テンペスタⅡ型とメイルシュトロームは破壊されたビル内部を確認し、思わず笑いを漏らした。

 

「ほう、随分と粋な置き土産だな」

「全くね。こちらの手間が省けたわ」

 

 彼女らの前には横たわりピクリとも動かない黒翼の姿があった。搭乗者は意識を失っているのだろうが、IS自体は解除されていない。

 

「ここから運び出すぞ」

「了解」

 

 メイルシュトロームは数本の拘束用ワイヤーを展開すると黒翼に巻き付けていく。そしてがんじがらめに縛り付けると黒翼をビルから引っ張り出した。メイルシュトロームに吊るされるような形となった黒翼だが全く動く様子は無い。それでも念の為にメイルシュトロームは更に数本のワイヤーで拘束した。

 

「意外にあっけないものだったな。まあいい。こちらも帰るとしよう」

「待て!」

 

 帰投しようとした2機の前に複数のISが現れた。一夏達一年専用機持ち達である。一夏は周囲を見渡しサイレント・ゼフィルスの姿が無い事を確認すると首を傾げた。

 

「サイレント・ゼフィルスはどこだ? それにお前達は!?」

「なんだ、学園のガキどもか。正義感かざして追跡か? 馬鹿な事だ」

「なんですって!?」

 

 テンペスタⅡ型の言葉に鈴が激昂する。だが2機は気にした様子も無い。

 

「身の程を知れと言われたのよ。追ってきた所で貴方達に何ができたの? 気合いや運で勝てるとは思わない事ね」

「なんだと……! そもそもお前達は誰なんだよ」

「IS委員会からの使いだよ。聞いてるだろ? 警備に委員会に召集された部隊が参加すると」

 

 話は終わりだとばかりに2機は動き出すがその前にシャルロットが立ちはだかった。

 

「何の真似だ?」

「その人を……どうする気ですか?」

 

 シャルロットの視線の先には拘束され全く動かない黒翼の姿があった。問われたテンペスタⅡ型はふん、と鼻を鳴らす。

 

「簡単な事だ。未登録尚且つ強力なISが野放しになっていたんだぞ? 拘束するのが当たり前だ」

「だけどその人は!」

「何度も助けてくれた、か? だからどうした。アラスカ条約を知らぬわけでもあるまい」

「くっ……」

 

 悔しそうに呻くシャルロットを見てテンペスタⅡ型の搭乗者は意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「だがそうだな。お前達にも多少は知る権利があるかもしれない事だしサービスしてやろう」

「何の……事ですか?」

「決まっているだろう。この仮面の下の素顔だよ」

「!?」

 

 全員の肩がびくっ、と震える。そう、確かに気になるのだ。何度も自分達を救ってくれたあのISの正体は。だがそれを知られたくないからこそ、黒翼はいつも直ぐに姿を消すのだと言う事も理解している。その思いの板挟みで硬直したシャルロット達を尻目にテンペスタⅡ型は拘束された黒翼の正面に回り込んだ。

 

「銃や剣では下手したら殺してしまうか。なら少々面倒だが」

 

 そう言うと黒翼の頭部。装甲に覆われ素顔を隠したそこを掴んだ。そしてその握力を高めていく程に金属が軋む音が響いていく。

 

「さあ、その素顔見せてもらおうか」

 

 テンペスタⅡ型が更に握力を高めていき、そして遂に黒翼の頭部装甲に亀裂が入った。

 




市民大迷惑! けど市街地戦って書いてみたかったんです
そしてリベンジしようと思ったら敵がすでにいなかったセシリア


新刊遂に出ましたね。自分はまだ読んでないですけどちらほら噂は聞いています。
本当は8巻出るまでに終わらせるつもりだったんですがうまくいかないものですね

しかし聞いた噂の一部でも今まで書いてきた捏造設定とか独自解釈とか伏線が自分の首を絞めているという事実。まあプロットは決まってるので8巻部分は参考にしつつ大筋は変えずにやっていこうかと思います。というかそうでもないと書き直ししまくらなければならんもので……

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