IS~codename blade nine~ 作:きりみや
あの話の後にこの話なのでもしかしたら不満に思う方もいるかもしれませんが、自分なりに考えた故の話なので楽しんでいただければと思います。
勿論ご意見ご感想はウェルカムです。答えられる範囲で答えたいと思います。
「これは……」
目の前のモニターが示す数値に息を飲んだ。
最初は何かの間違いかと思った。次に自分が寝ぼけているのではと疑った。それとも疲れているのだろうか。今日は色々あった。だからそのせいだと。
しかしいくら確認しても数値は同じ値を示し、いくら頬を摘まんでも痛みしか得られず、何本栄養ドリンクを飲んで、サプリまで試したが結果は変わらなかった。つまりこれは現実であり、正しい数値と言う事だ。
「こんな事が……」
彼女が見ているのはある2機の打鉄の戦闘データ。その数値は途中までは正常だったのだが、ある一点が異常な数値を叩きだしている。
それは2機の打鉄が数度の激突の末、一機の武器が飛ばされた後の事。片方がよろめき、もう片方が一瞬動きを止めた。問題はその後だ。よろめいた打鉄が急に動きだし己の左腕を振りかぶり、そしてそれをもう一機が斬り伏せようとする。その時のよろめいた方の打鉄。その左腕から異常な熱量が感知されている。
打鉄の腕に固定武装は無い。ましてや、これほどの熱量を生み出す程の兵器などある訳が無い。念の為確認したがこの打鉄の操縦者が左腕になんらかの武器を仕込んだ記録も無い。だが確かにそこで『何か』が起きようとしていたデータがここにある。もし2機の対決が途中で止まって居なかったら……そう考えると身震いがした。
「これが織斑先生があんな事をした理由……ですか?」
尊敬している先輩の突然の行動。その真意は分からない。だがこの熱量の正体こそが、原因な気がする。だがそうなると別の問題が生まれてくる。
「川村君。あなたは一体何者なんですか?」
誰も居ない部屋で、山田真耶は一人頭を抱えるのだった。
「織斑千冬が、ね」
『意外に冷静っすね。もっと怒るかと思ってたっす』
K・アドヴァンス社の奥。EXISTの通信室でC12と話す課長の顔は微妙な物だ。映像通信で有る為にこちらの顔が見えるC12は、そんなこちらの反応が意外だったらしい。
『てっきりキレてIS学園に乗り込んでくるかもしれないと思ったっすよ。まあそうしたら騒がしいんで面倒っすけど』
「俺一応上司だからな? と、まあそれは別として、今回の件では織斑千冬ばかりを責める事は出来んな。難しい所でもあるが」
『一応理由を聞いても良いっすか?』
「極端に言ってしまえば、織斑千冬から見たらB9の存在は確かに不気味だろう。正体不明目的不明。挙句に果てに自分の動きをトレースして生徒を病院送りにしたISの操縦者かもしれない男。そんな不審人物が唯一の肉親に一番近い所に居るんだ。多少強引な手を使ってでも正体を見極めようとしたのだろうよ」
何も知らない人間から見れば織斑千冬の行動は訳が分からず混乱するだろう。特に織斑千冬の様に大切な存在が近い場所に居る場合は尚更だ。だが事情を知る人間からするとそう簡単にはいかない。確かに教師としては悪手だが、リスクを侵してでも確認しようとしたのだろう。
『ん? けどそれっておかしくないっすか? 課長の言い方だと織斑千冬がB9と黒翼の関連性を疑っているって事っすけど、今までそんな素振りは……まあ無いとは言えないにしても今回の行動は極端過ぎっすよ』
「そうだ。むしろ問題はそこなんだよ」
煙草を取り出し吸おうとして隣に居たオペレーターに奪われた。視線で不満を訴えると代わりに募金箱を手渡される。そこには『禁煙。違反の度に500円』と書かれているのを見て肩を落とす。
「今回織斑千冬は突然行動を起こした。その理由は当然、弟の事や生徒の事があったからだろう。だが原因は別だ。織斑千冬が強硬手段に出るまでの原因が必ずある筈だ」
少なくともつい先日までは表面上は何も無かったのだ。それが休校から明けて早々にこの事態が起きた。ならばキャノンボール・ファストから今日までの間に何かがあった筈なのだ。
「織斑千冬が亡国機業の襲撃の際にB9の居場所を確認しようとしたのは記録に残っている。その時は更識家が別途保護したと伝え、彼女も納得した」
『つまり事が起きたのはそれ以降ってことっすね。黒翼の装甲が破損した際に気づいたと言う事は?』
「それならもっと反応しても良かった筈だ。だが当時の戦闘ログを見る限りそんな様子は無い。だからそれより後だ。しいて言うなら今日桐生が学園に諸々の報告に行った際に、色々と話した事が切っ掛けの一つかもしれん」
『あのおっさんは余計な事を。まあそれが仕事ってのはわかってるっすけどね。むしろ問題は委員会そのものっす』
「桐生の話で織斑千冬が焦ったのも事実だろう。だがそれだけじゃ足りない。もう一つ、何か重要な情報があったからこそ織斑千冬が行動を起こしたと考えたい。彼女は謀り事に向いてるとは思えないが、自分の行動が問題な事くらいは分かっている筈だ。だからこそ、それを分かっていながらも行動するに至った理由がある」
『それも織斑千冬が信用もしくは多少なりと信じれる程の情報っすか。もしそうだとするとその情報の提供者は……』
「篠ノ之束……か? それとも亡国機業? そこは分からん。だが後者にはB9の事が既にバレている様だからともかくとして、前者の場合はかなり不味い事態だ。碌な結果にならない」
そもそも亡国機業が正体を知りながらも黙っている事も不気味なのだ。流石に課長も、静司の正体ことをカテーナやシェーリ。そしてエムが亡国機業内でも隠しているとは思い当たらなかった。
『けど篠ノ之束の場合、確信があればもっとストレートにアクションを仕掛けてきそうっすよ。それが無いって事は疑いのレベルじゃないっすか?』
「そうだな。それも問題だが状況からするにその可能性が高い。そしてその話を織斑千冬にして、そして織斑千冬が煽られる様にして行動を起こした……か」
その場合、果たし絵篠ノ之束が何を思って話したのかは分からない。利用しようとしたのか、それとも友人だからこそ弟の危険を訴えたのか。あの二人の間にあるのが信用なのか打算なのかは本人達にしか分からないのだ。
「とにかく状況はどんどん悪くなっている。お前達も気を付けろよ。B9と黒翼が結びつくと言う事は必然的に俺達にも繋がるんだからな」
『了解っす。課長も気を付けるっすよ。所で一つ聞いていいっすか?』
「何だ?」
『さっき一方的に責められないって言ってたっすけど、それは『課長』としてっすよね。じゃあ『川村静司の父』としては?』
「決まってるだろう。保護者面談の際にまずグーパンから始まる」
『やっぱり怒ってるんじゃないっすか……』
どこか呆れた様なC12に課長も苦笑した。
「立場故って奴だよ。織斑千冬も、俺もな」
感情としては許せなくても、立場としては分かる部分もある。それ故の葛藤だ。
『面倒っすねぇ、本音と建前のシーソーゲームは。私は下っ端で良かったっす』
「社会人としてその発言もどうかと思うがなぁ」
C12の呑気な返答に課長は苦笑するしかなかった。
「一夏」
鈴は寮の廊下を速足で進んでいく一夏に追いつく為に声をかけた。先を行く一夏が立ち止まり、振り返る。
「鈴? どうしたんだ」
「どうしたんだ、じゃないわよ全く。……千冬さんの所に行くんでしょ?」
鈴の指摘に一夏は静かに頷いた。
アリーナでの模擬戦騒ぎの後、静司は大事は無かったが念の為に今日の訓練は引き揚げ、一夏達もこれ以上続ける気配でなかった為にそれに続くことにしたのだ。
ラウラは何かを考える様に自室に戻り、シャルロットは静司を無理やり救護室へ連れて行った。セシリアと箒は自室だ。一夏も先ほどまでは一人自室に居たのだが、どうしても千冬に聞きたいことがあり部屋を出た所だった。
「俺は知りたいんだ。なんで千冬姉があんな事をしたのかって。あれは幾らなんでもやり過ぎだった」
「そうね。それは否定しないわ。それでアンタは聞いてどうするの? 千冬さんを糾弾する? それとも無条件で擁護する?」
鈴の辛辣な言葉に一夏は小さく首を振った。
「昔なら、昔の俺ならそれでも無条件で千冬姉を信じたかもしれない。けどさ、臨海学校の時にも鈴に言われただろ? 『自分で考えろ』って。だからついさっきまでずっと考えてたんだ。何で千冬姉があんな事をしたのかを」
「そう。それで答えは出たの?」
一夏は首を振った。しかしその顔には戸惑い以外に、真実を知ろうとする意志が見える。
「分からなかった。だけど絶対に理由がある筈なんだ。確かに千冬姉は言葉より体で語る時もあるけど、意味も無く暴力を振るう人じゃない。それは弟である俺がよく知っている。だからこそ聞きたいんだ。千冬姉から、その理由を」
「……けど話してくれないかもしれないわ」
「それでも聞き出す。そうじゃないと俺は千冬姉の味方にも敵にもなれないからさ。勿論基本的には俺は千冬姉の味方だ。俺をここまで育ててくれたのは千冬姉に対する感謝の気持ちは忘れた事は無い。だけどあの時鈴に言われた事だって覚えてる。だから俺は千冬姉から話を聞いて、そして自分でちゃんと考えて、それで納得できれば味方になれる」
「もし……もし納得できるような答えじゃなかったら?」
鈴の問いに一夏は腕を組み、うーん、と悩んだ後、
「そしたら俺が叱らなきゃな。何やってんだよ姉さん! ってな」
恥ずかしそうにそう語る一夏。その顔を見て鈴はため息を付いた。但し、口元には笑みを浮かべながら。
「そう。ちゃんと考えてるならいいわ。ならとっとと行きましょう」
一夏の腕を掴むと鈴が廊下を進み始める。そんな鈴の行動に一夏は慌てた。
「おい、行くって鈴もかよ!?」
「そうよ悪い? 私だって気になるんだから良いでしょ。それにあんた一人じゃ……やっぱ心配だしね」
先を歩く鈴の顔は少し赤い。しかし引っ張られる形の一夏はそれに気づかなかった。だが鈴がこちらを本当に心配してくれているのは分かり、どこか嬉しい気持ちが湧いてくる。
「そっか。サンキュ、鈴」
「う、うるさいわね。早く行くわよ!」
更に顔を赤くした鈴に引っ張られながら一夏は廊下を進んでいく。やがて千冬の部屋へと着いたのでドアをノックしてみるが反応は無かった。
「あれ? まだ学園の方に居るのかな」
気合いを入れて来たのに拍子抜けだ。だが明日明後日に伸ばすのももやもやとした気分を引きずる様で気分がよく無い。そこで二人は学園に戻ろうかと話していた所に真耶が通りかかった。
「あら、織斑君と凰さん」
「山田先生、丁度いい所に」
同僚の真耶なら千冬の居場所を知っているかもしれない。そう思い尋ねてみると真耶は少し難しそうな顔で首を振った。
「織斑先生は今日は帰りません。私もお会いしたかったのですけど先ほど連絡が来て外出されたそうです」
「外出? いきなりだな……」
折角気合いを入れて、頼もしい相棒同伴で来たと言うのに思いがけない事態に一夏は肩を落とした。そんな一夏に真耶が笑い補足する。
「明日か明後日には戻るそうですから大丈夫ですよ。お話があるならその時にすると良いです」
「まあ仕方ないわね。また来ましょう、一夏。安心しなさい。その時も私が付いて行ってやるわよ」
「そう、だな。居ないのなら仕方ない。山田先生、ありがとうございました」
二人で真耶に礼を言うと一夏達は部屋へと戻っていった。
「……IS委員会に呼び出されたなんて、言えないですよね……」
そんな二人の背後で呟かれた声に、二人は気づくことは無かった。
そして、たまたまその三人の会話を聞いていた少女が居た。
「家族を、信じる……」
それはどこか内向的な雰囲気を持つ眼鏡の少女、更識簪。彼女もまた、姉を持ちそして問題を抱えている。
「どう、して」
どうしてあれ程まで信じることが出来るのか。それが分からない。簪にとって姉とは憧れであり、そして決して手が届かない目標であり―――そして恐怖を覚えてしまう相手だ。
姉が優秀過ぎるが故に比べられ、そして自分自身でも比べてしまう。それが恐ろしくて堪らない。余りにも違いすぎて。余りにも遠すぎて。そんな想いから姉とは距離を取ってしまっている。
だが織斑千冬と織斑一夏の姉弟は自分たちほど距離が離れていない様に見える。織斑一夏は怖くないのだろうか? 世界最強と謳われる優秀過ぎる姉を持つことが。それと比べられる事が。
そこで気づく。一夏の隣を歩く少女の事を。
そうだ、彼には必要としてくれる人たちが居るから。世界が彼を必要としているからあんな自信が持てるのだろう。優秀過ぎる姉にも劣らない程の、人と世界にとっての重要な存在が彼なのだ。
(なら、私は……)
一瞬、姉の優しそうな笑顔が浮かんだが直ぐに掻き消えた。確かにあの人は優しい。だがそれは誰にでもだ。それに優秀過ぎるが故に、出来そこないな自分の事を本当は疎ましく思っているかもしれない。見下しているかもしれない。何も期待などしていないかもしれない。そんな負の感情が押し寄せ簪の心を黒く染める。
「ちが、う。私は、私は……」
それが嫌だから。少しでも姉に追いつき、そしてこの恐怖を払拭したいからこその打鉄弐式だ。これさえ完成させられれば、自分はきっと……
「調整、しなきゃ」
追い立てられるように簪は部屋へと戻っていく。脳裏に打鉄弐式のデータを思い浮かべながら。そしてその横で、果たして自分を必要としてくれる人など居るのだろうかと昏い気持ちを抱えながら。
「静司、本当に大丈夫なの?」
「ああ、問題ないよ」
「本当の本当に大丈夫~?」
「大丈夫だって」
救護室のベッドの上、シャルロットと本音の心配そうな目と問いに静司は苦笑しつつ頷いていた。そんな三人に養護教諭の丸川が呆れた様に声をかける。
「その問答は何回目? そろそろ二人共部屋に戻りなさい。彼は今日ここに泊めていくから」
ほらほら、と追い立てる様に二人を立ち上がらせ出口へと連れて行く。
「けど……」
「ここで寝ちゃ駄目~?」
「駄目に決まってるでしょ。全く最近の子は……」
消灯時間はまだ先なので本当ならまだ彼女らが居る余裕はある。しかし丸川は私にも仕事があるので気が散るから帰りなさい、と半ば強制的に二人を追い出した。
「静司、安静にしてなきゃ駄目だからね!」
「歩き回ったら後で罰ゲームだよ~」
シャルロットの声と本音のどこまで本気かよくわからない注意が最後に聞こえ、そして部屋の扉を丸川が閉じた。彼女ははあ、とため息を付くと静司に近寄る。
「で、実際の所はどうなの? 一応表向きはあなたは『無傷だった』所に『少々過激な指導』を受けたせいでダメージが残った、という設定なのだけど」
「先生の治療が的確でしたからね。本当に大丈夫ですよ」
「嘘言わない。本当は動くのキツイのは分かってるのよ。彼女達に心配かけたくないのは分かるけど二人はもう居ないんだから大人しく寝なさい」
少し怒った口調で丸川が静司を無理やり寝かしつける。
「……分かってるならなんでわざわざ聞いたんですか」
「問診って奴よ。自覚症状は大事だけど、川村君の場合は隠そうとするからちょっとした嫌味もあるわね」
「……」
不満を言いたいが、隠そうとしたのは事実なので素直に黙ると丸川は満足げに頷いた。
先日のキャノンボール・ファストで受けた傷は完治はしておらず、それに今回の千冬との模擬戦で開きかけたのだ。偽装皮膚の下は今中々に大変な事になっており、それを隠すのに必死だった。
「織斑先生は厳重注意、だそうよ」
「……そうですか」
丸川がつい先程得た情報を伝えるが静司は特に感慨も無く頷いただけだった。それが意外に思えたのか丸川が訪ねる。
「冷静ね。あなたはそれでいいの?」
「良いも悪いも
しかし、と考える。織斑千冬への処罰が厳重注意とは少々驚いた。だが同時に納得もする。恐らく上層部は千冬に対して強硬手段に出ることを恐れたのだろう。同時にここで恩を売って置いて、いざと言うときの為に貸しを作る気か。どちらにしろ織斑千冬にとっても今回の件は良い結果はもたらされないと言う事か。
(ままなら無いな。だれもかれもが)
眼を閉じ、左腕の黒翼に意識を寄せる。するとどくん、と意思を主張するかの様な鼓動とその奥にある棘の様な物が疼く感覚に身を震わせた。
その棘の正体はVTシステム。それは完全には消える事無く、今は完全に根付いてしまっていた。そもそも静司と黒翼の場合はラウラの時と違い完全な行動停止によってシステムを消去したわけでは無い。黒翼本来のシステムと静司の意思。そして何より二人の少女の助けによって自我を取り戻したに過ぎず、システムは残ったままなのだ。
無論静司とて消去を試みた。しかしVTシステムは完全に黒翼のシステムに根付き、同時に静司の頭の中にもしこりを残している。元々Vプロジェクトから派生的に生まれたのがVTシステムだ。そのVプロジェクトの被検体としてかつてインストールを受けていた静司の脳とVTシステムの親和性が高すぎたが故の問題である。
この影響は普段は何とか抑えられている。だが今日の模擬戦の時の様に感情が高ぶって来た時、自身の意思を塗りつぶして前に出てきてしまう。
だがこのままではいけない。自分はこの力をコントロールしなければ、もうここには居られないのだから
救護室のベッドの上で、静司は拳を強く握りしめた。
その後は何事も無く、静司も静かに救護室のベッドで安静にしていた。丸川も今夜はここに泊まるらしく、遅くまで仕事した後は隣のベッドで寝てしまった。聞けばここに泊まる事はよくあるらしく、彼女は慣れた様子で安眠している。
静司も何度か眠りにはついたが、どうしても眠りが浅く何度も目覚めてしまい、今も退屈そうに暗い天井を眺めていた。
現在一夏の警護にはなんと会長が付いている。どうも彼女も一夏に用があったらしく、一夏の周りの少女達を軽くいなして泊まり込んでいるらしい。生徒会長として、いやそれ以前にモラルどうのこうのはどうなのかと非常に疑問に思う静司だが、一夏の安全の為ならと見て見ぬふりをする事にした。因みについ数時間前までそんな楯無を一夏の部屋から追い出そうと箒、セシリア、鈴の連合軍VS楯無という他人からすれば非常にどうでも良い戦争が起きていたとか。意外な事にラウラは大人しく部屋に居たらしい。シャルロットが止めたのだろうか?
そんな事を思いつつやはり寝れずに過ごし、時刻は深夜の2時を周った頃。このままでは寝るに寝れないと判断すると静司は起きあがり、学園の自販機コーナーへと向かった。
深夜で有る為、学園の警備システムは全力稼働中だが救護室から直ぐ近くにある自販機コーナーと職員室。そしてトイレまでの間は通っても問題は無い。だから静司はほんの気分転換もかねて自販機コーナーまで行くとミネラルウォーターを購入。そしてベンチに座りキャップを開けようとした所でその手を止めた。
「…………なんだ?」
一瞬、視界の端を何かが横切った。それはとても小さく、暗闇に溶けてよく見え無かったが確かにそこに何かが居た。
自然と意識が警戒態勢に入る。ゆっくりと立ち上がり慎重に歩を進める。
かたっ
「っ!?」
背後から物音。だが振り向いてもそこには何も居ない。だが明らかに視線の様な物を感じる。これは一体、何だ?
警戒心を上げつつ懐から携帯を取り出す。勿論唯の携帯でなく、高度に暗号化された特別性である。何か違和感を感じたらすぐに報告。当然の行動だ。だがいくらキーを叩いても繋がらない。いや、違う。これは妨害されている……?
『キミハ』
「誰だっ!?」
突如聞こえた奇妙な電子的な声。その声がした方に視線を向けるとそこに妙なモノが居た。大きさはほんの手のひらほど。滑らかな流線型の銀色の体。申し訳程度に生えた耳の様な物と手足。そして赤く光る眼。それは鈍い銀色の機械で出来たリスだった。
『キミハナニモノ?』
『チョットムチャシタ』
『サスガ―――チャン。ワタシモビックリ』
『ジブンデタシカメナイトネ』
『ダカライイナヨ』
『キミハナニモノ?』
自販機の影から。壁の隙間から。天井から。床から。次々と現れる機械仕掛けのリス達。それらが静司を取り囲み、そして耳障りな音を立てていく。
「こいつは……!」
知っている。忘れる筈が無い。かつてロシアの地で見たあの凄惨な光景。あらゆる機械と兵器を喰い、自分達すらも喰いあってその身を作っていった奇怪極まりない機械仕掛けの小動物の存在を。そしてそれを指揮する存在も。更にはこの小動物たちの発する言葉から静司は気づく。織斑千冬が行動に移した、その原因を作ったのが誰なのかを。
『キミハダレ?』
その言葉を皮切りに、機械仕掛けのリスたちが一斉に静司に飛びかかった。
「何……?」
更識簪はコンソールを叩く手を止め顔を上げた。
ここは彼女の自室。夜も深い為にルームメイトの本音は既に寝ており部屋は薄暗い。だが簪は一夏達の話を聞いて以来、休むことなく自らのISの調整を行っていた。そんな彼女に本音は何度も休むように薦めて来たのに、彼女は聞くことなく続け、結局眠気に負けた本音は先に寝てしまったのだ。これはよくある光景なので簪は気にしていない。むしろ本音の事は少し苦手なので、やっと静かになったとも思ったりもする。
今はISの部分展開をしつつハイパーセンサーの調子を確かめている所だった。比較的センサー類は良好なのでつい気が乗って学園のシステムに接続してみたのだ。本来なら厳重なセキュリティが成されているそれだが、学園内部におり、更識家故に多少の権限がある彼女からすればよくやる事だ。これを使って人気のない所を探してそこでISの調整を永遠と行っていた事さえある。
だが妙な事に、学園校舎側のセキュリティが部分的に落ちている。それなのに警備が動いていない。それはつまり警備部の人間が気づいていないと言う事だ。試しに警備部のシステムを覗いた所、『表向きは』正常な状態でありこれでは気づきようが無い。簪が気づいたのはたまたま正規のルート以外から学園のシステムを覗いていたからである。
「システムに介入されている?」
ふと、以前も似たような事があった事を思いだす。あの時はシャルロット・デュノアが行方不明だった時か。その時もシステムは介入され、正確な情報は隠されていた。多少違うものも、あの時に似たような事が起きている?
「……」
ここで。ここで連絡する事は簡単だ。姉か虚か。隣で眠る本音にだっていい。一言内容を伝えれば姉は直ぐに動くだろう。
だがその事を躊躇う自分がいる。まるでやっかい毎を全て姉に任せる様で。自分には何も出来ないから、姉にやってもらう。そんな構図が頭に浮かび簪は慌てて首を振った。
「そんな事、無い。私にだって……」
彼女はあまり行動的な性格では無い。しかし姉への思い。そして一夏達の会話を聞いていたせいか、彼女に言い様もしれない意地の様な物を生ませていた。
小さく頷くと簪は直ぐに着替え始めた。制服に身を通し、そして自らを叱咤激励する。
(大丈夫。打鉄弐式も調子が良い。それにただ確認するだけ。本当に大変な問題なら先生たちに連絡すればいい)
一人頷くと簪は部屋を出ていった。
感情としては怒っているし、教師としても悪手かもしれないけれど、いざ自分がその立場となったらなぁ、という話。
自分の大切な人の隣に居たのが実は正体不明で危険な兵器を持ち、危害を加えるかもしれない男です、と言われたらやはり感情的な物が先行するんじゃないかなぁと思ったが故の前回です。
作品として極端な千冬ヘイトも千冬擁護もするつもりはなかったのですが、《川村静司の正体》という部分を主軸置くとやはり一番動くのはヒロインズを除けば束と千冬だと思うんですよね。この辺りはうまく言葉にできず試行錯誤してたり
立場って面倒だよね、と課長もおっしゃってます。
ええ、私だって営業と客という立場さえ無ければ・・・・・・畜生っ畜生っ
地味に成長している一夏やその周り達。
そしてリスさん再登場でした。地味にこいつら好きです。