IS~codename blade nine~   作:きりみや

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珍しく2話同時更新していますのでまだの人は76話からどうぞ

本編とのギャップをお楽しみください


小話:もうしょうもないひとたち

□悪夢、再来

 

「わたくし、感動しましたの」

 

 昼の食堂。何時もの面子が集まる中、唐突にセシリアが切り出した。

 

「何よいきなり。何に感動したの?」

 

 鈴がラーメンを啜りながら対して興味無さそうに訊く。他の者達も不思議そうにセシリアを見ていた。

 

「先日本音さんに日本の漫画を借りたのですが、その中のシーンがとても素晴らしくて。スポーツ漫画だったのですが、自暴自棄になった選手に向けて監督が『諦めたら、そこで人生終了ですよ』と。その言葉に選手は今までの自分を反省し、そして新たな道に進むのですわ」

「ああ、あれか。あの漫画面白いもんな」

 

 一夏が腕を組んで頷く。他にも本音を始め、静司、癒子、ナギの日本組もしきりに頷いていた。全員本音に借りたのだ。ちなみに箒は漫画をあまり読まないらしく借りていない。

 

「そうですわ。だから私も諦めずにもう一度やってみようと思いますの」

「ふむ。挑戦する事は良い事だ。で、何をやるというのだ?」

 

 興味を持ったラウラが問うと、セシリアは満面の笑みを浮かべ宣言した。

 

「もう一度、料理を」

 

 からーん、と突如静まり返った食堂に何かが落ちる音が響いた。そして食事をしていた者、談笑していた者、何を食べるかメニューの前で悩んでいた者、そしてその料理を作っていた者までも全てが一斉に凍りつく。窓ガラスにヒビが入りテレビに突然ノイズが走りどこかで黒猫がにゃあ、と鳴いた。

そんな食堂の中、静司はまるで壊れたロボットの様にギギギギと首を動かしセシリアを見た。

 

「せ、セシリア……? 今、なんと……?」

「ですから、私は料理をします。今日、この後に」

「…………………………」

 

 カタッ、と音がした。その音は次第にあちこちで響き渡りやがては手元からも。そして静司は気づく。この音は自分が震えて皿と箸がぶつかる音だと。

 そのまま十数秒の沈黙が流れた後、セシリアが席を立つ。自信満々な笑みを浮かべ、

 

「では下ごしらえに行ってきますわ」

 

 そう言うが否や、まるで逃げ出すかのように素早く去っていくセシリア。そして数秒遅れて食堂の各所から耳を劈く悲鳴が上がった。

 

「いやあああああああああああああああああああああああああ!?」

「誰か、誰かオルコットさんを止めてぇぇぇっ!」

「し、しっかりして!? 急にこの子が倒れたわ!? 誰か先生を!」

 

まさに阿鼻叫喚の地獄絵図と言った喧噪の中、静司や一夏達もようやくショックから立ち直る。そして直ぐに事の重大さに気づいた。

 

「しまった……セシリアに逃げられた!?」

「くそぉ! 直ぐに追撃するぞ! ラウラ! 追撃班の編成を――」

「駄目だよ静司! ラウラが前回のトラウマ発症して群れから逸れた小鹿の様な眼で震えてる! ちょっと可愛い!」

「何ぃぃ!?」

 

 シャルロットの叫びに慌てて振り返った静司が見たものは、虚ろかつどこか潤んだ視界を虚空に飛ばしながら椅子の上で震えているラウラの姿だった。

 

「ふふ、ふふふふふ。駄目です教官……部下たちが見ている……ふふふふふ」

「………………くそっ、とにかく追撃しなければ―――」

「お前達、何を騒いでいる!」

 

 突如食堂に声が響き渡った。その声の主は騒ぎを聞き付けてやって来た千冬と真耶だ。千冬は鋭い眼光で騒ぐ生徒達を制しつつ声を張り上げる。

 

「ここは食事をする場で馬鹿騒ぎをする場所では無い! 一体何をやっている!」

「そ、それが織斑先生……」

「大体お前達は落ち着きが無さすぎだ! 淑女となれとまでは言わんがもう少し大人に――」

「セシリアが、料理を……っ」

「―――――――班を分ける! 凰と織斑が率いるαが追撃! デュノアと篠ノ之率いるβは別ルートから家庭科室へ急げ! 他の者はあらゆる機器を利用して情報を収集、追撃チームに逐一報告しろ! 何をちんたらしている!? 急げ! GO! GO! GO!」

『イエス、マム!!!』

 

 おりむらちふゆ(せかいさいきょう)がなかまになった!

 

 

 

 

 

「うふふ。今度こそ成功させて皆さんを驚かせてやりますわ」

 

 セシリアは顔に笑みを浮かばせてながら調理室を目指していた。既に食材は手配済み。今頃調理室へ届いている筈だ。後はこの自分が辿り着き腕を振るってやればいい。前回は少々失敗してしまったが今回は大丈夫。うん、根拠は無いけど自信はある。自信を持つことは何よりも力だ。

 

「待っていてください一夏さん。私は見事料理を完成させて貴方の心をノックアウトして差し上げますわ」

 

 前回、一夏の心の臓の方をノックアウト寸前まで追いやった事は都合よく忘れたセシリアは不敵な笑みを浮かべつつ廊下を走る。だがその前方に3人の生徒が立ちはだかった。

 

「そこまでよオルコットさん!」

「これ以上は進ませないわ!」

「私たちが相手よ!」

「くっ、小癪な! ですが止まれるものですか!」

 

 進路を塞ぐ生徒達。しかしセシリアは速度を緩めずそこへ突っ込んでいく。

 

「止まらない!? 皆、捕まえるよ!」

「甘くてよ!」

 

 セシリア一人に対し相手は三人。人数で言えばセシリアが不利だ。だがセシリアは恐れる事無く突っ込んでいくと、まず一人目の腕を掴み引き寄せ足をかけた。バランスを崩して倒れた生徒を後ろへ押し出す様にして前進。二人目に肉薄すると体を回転させつつ、流れる様な動作で首筋へ手刀を送り叩き伏せた。そんな一瞬の出来事に驚き思わず動きを止めた三人目には掌打を浴びせ道を切り開く。

 

「ぐ……流石は代表候補生……っ」

「油断……した……。だけど……!」

「第二、第三の私たちがきっと貴方を止め……あふっ」

 

 三人の生徒は意識を失う。それを尻目にセシリアはふっ、と笑った。知り合いでも何でもない、ただ同じ学園に通うと言うだけの相手だったが、やはり同じ制服の相手を倒す事には痛みを感じる。罪悪感もある。だが!

 

「申し訳ありませんが、これだけは引くわけにはいかないのです」

 

 その痛みを乗り越え、悲壮な覚悟でセシリアは進む。

 誰も望んでいないのに!

 

 

 

 

『織斑先生! γ4分隊がやられました! 当初の目的である時間稼ぎもあまり……』

「……いや、たとえ数秒でもそれは貴重な時間だ。Σ4分隊は負傷者を救出して離脱しろ。続いてγ2、γ3分隊を展開。数で圧倒などと考えるな。あくまで物量を見せつけ侵攻を鈍らせるんだ。可能ならポイント3へ誘導しろ! その隙にβ2達がそちらへ向かう!」

了解っ!(ザーベルグ)

 

 

 

 

「これは……誘導されていますね」

 

 相変わらず廊下を走るセシリア。しかしその顔には先ほどまでの笑いは無い。何故なら進むたびに教室から、廊下の角から、トイレから、ロッカーから生徒達が飛び出してきては妨害してくるのだ。初めは相手をしていたが、キリが無いと判断するとセシリアは極力戦闘を避ける方向にシフトしていた。しかしそれ故に思う様に進めず歯噛みする。

 

「この統率された動き……誰かが指揮をしていますわね」

「その通りだ!」

 

 響き渡る凛とした声。そして現れたのは竹刀を片手にした箒と静司。そして真耶が居た。何気に珍しい組み合わせである。

 

「ふ、まさか別ルートで来た私たちの方が早いとはな……」

「そうだな……。だがこれ以上は進ませない!」

「オルコットさん! 大人しくしてください!?」

 

 鋭い眼光で竹刀を構える箒と、腰を低くし構える静司。そして涙目で訴える真耶。生徒二人共代表候補生では無いが、他の生徒よりは腕が立つ方だ。特に箒の剣術は侮れないと判断するとセシリアも緊張した赴きで構えを取る。

 

「何故……何故そこまで邪魔をしますの? 私は料理がしたいだけですのに!」

「その目的が問題なのだ! 『戦乙女の陥落事件《ヴァルキリーフォール》』を忘れた訳ではあるまい!?」

 

 因みにそれは前回千冬がセシリアの料理を前に沈んだ事件の事である。

 

「確かにあの時は失敗しました。ですが今回は大丈夫です! 様々な資料を参考に高級食材を集めましたし料理の勉強もしました! 私のやる気も十分ですわ!」

「……因みに実践はしたのか?」

「やはり一番最初は一夏さんに食べて頂きたく」

「まずそこを学べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

 渾身のツッコミと共に箒がセシリアに踊りかかる。いくらセシリアが代表候補生と言ええど、接近戦では圧倒的に不利だ。しかし彼女は慌てる事無く懐に手を伸ばし、そして取り出した物を宙へ放った。

 

「目くらましか? だがそんもの―――――っ!?」

 

 邪魔だと言わんばかりにそれを叩き斬ろうとした箒だが、その並外れた動体視力が投げられたものの正体を見極めその眼が大きく見開かれた。そんな箒の前でセシリアは笑い頷く。

 

「ふ……それは先日出来た超有名テーマパークの抽選でしか手に入らないカップル特別優待券ですわ! 応募倍率はおよそ100倍ッ! しかし手に入れれば一日中最上級のアトラクションと料理を堪能でき、そして宿泊すら出来る超プレミアチケット!」

「あ―――」

 

 箒の眼がそのチケットに吸い寄せられる。もしアレを手に入れたら。そして一夏を誘えたら……。きっと素敵なデートになって夜なんかはそりゃもうつまりアレがコレで――

 

「隙ありですわ」

「ぐふぅ!?」

 

 箒がそのチケットに気を取られた隙に接近したセシリアの掌底が決まり、箒は倒れ伏した。倒れた箒の隣、セシリアは憐憫に満ちた表情で箒を見下ろしふっ、と笑った。

 

「それは手向けとして差し上げますわ。良い夢を見て下さい」

「……いいのか? セシリアだって一夏と行こうとしていたんじゃ」

「これ、確かにカップル優待券ですけど『同姓限定』ですの」

「うわぁ……」

 

 昏い笑みを浮かべて語るセシリアに思わず静司は引いた。というかなんだ同姓限定って。百合か、百合なのか!? という疑問を浮かべつつも構える。

 

「だが例えそれが男女ペア券でも俺にはそれは通じない。それに山田先生にもだ! 何故なら先生には誘う相手が居ないっ!」

「ぐぬぬっ!」

「……川村君、後で話し合いましょうか?」

 

 額に青筋を浮かべた真耶が静かに静司の肩に手を置くが静司は決して振り返らなかった。

一方セシリアは己の不利を悟ったのか少し悩んだ様子をした挙句、何故か静かに首を振った。

 

「山田先生……わたくしは悲しいですわ」

「な、何がですか」

「教師とは本来生徒を導くもの。そして時には無謀や無茶であっても、生徒が足踏みしていたのなら優しく背を押してくれるものの筈ですわ」

「…………っ!!」

「というかお前今自分で無謀って―――」

「そう! 例え過去に失敗したとしてもそれを乗り越えようとする生徒が居るのなら! 教師である貴方がわたくしを応援してくれるべきなのですわ!」

「そ、それはっ……! 私は……っ!?」

 

 静司のツッコミを無視したセシリアによって突如突きつけられた教師としての有り方。その言葉に真耶の眼が揺らぐ。自分がやっている事は正しいのか? ここはセシリアを応援する事が教師としてやるべきことなので無いか? 現実と理想の間で葛藤する真耶にセシリアはまるで聖母の様な笑みで笑いかけた。

 

「大丈夫ですわ。山田先生はまだ間に合います。ほんの少し、わたくしの背を押してくれるだけで貴方は最高の教師となるのです」

「お、オルコットさん……。私は……私は――」

 

 真耶の瞳から涙が溢れ、そしてゆっくりとセシリアに手を伸ばす。セシリアも慈愛の笑みを浮かべてその手を握ろうとして、

 

「騙されるな山田先生!」

「えっ?」

「ちぃっ!?」

 

 背後から真耶を羽交い絞めにした静司が無理やり真耶をセシリアから引きはがした。

 

「は、離してください川村君! 私は教師としての責任を!」

「騙されちゃいけない! 確かにセシリアの言う事は一理あるかもしれない。だけど、だけど貴方が押そうとしているのは生徒を成長させるのではなく世界を奈落に突き落す破滅へのスイッチだ!」

「ちょっと酷すぎませんかそれ!?」

「黙れセシリア! 世の中には押さない方がいいボタンだってあるんだ!」

「わたくしの料理は核か何かですか!?」

 

 流石に抗議の言葉を発するセシリアを静司はきっ、と睨んだ。

 

「分かってないなセシリア! お前のは本当の料理じゃない!」

「何ですって!?」

「勢いに任せて手に入れたであろう超高級食材。けどセシリアはその食材に腕が追い付いていないんだよ!」

「そんな事っ!」

 

 セシリアが接近して掌打を繰り出す。静司は戦意を喪失してしまった真耶を放り捨てそれを迎え撃ちつつ叫ぶ。

 

「闇鍋みたいに、突っ込んでいるだけだ!」

「くっ!?」

「だから味覚も壊れる。食材と調理の腕の融合……それこそが料理の有るべき姿だ!」

 

 叫び、そして静司は懐かそれを取り出す。銀色に輝く、彼に取っての秘密兵器。その銀色が反射する光にセシリアは思わず目を覆った。

 

「その輝きは!?」

 

 そしてセシリアは見た。静司が手にするそれの正体を。

 それは大きさにしては文庫本程。少し膨らみがありその表面にはデカデカと文字が印刷されていた。それを見た真耶が目を見開いて叫んだ。

 

「ボ○カレー!」

「ということでこれで妥協を――」

「馬鹿にしてますのっ!?」

 

 怒りに満ちたセシリアの拳が静司の鳩尾にめり込んだ。

 

 

 

 

 シャルロットが現場にたどり着いた時、既に勝負はついていた。

 

「せ、静司!? それに山田先生についでに箒!? これは一体……」

 

 地に付した静司。体育座りで教師の責任やら理想やらをブツブツ呟いている真耶。そして意識を失いながらもチケットを握りしめて涎を垂らしながら笑う箒。一体何が起きたと言うのか。

 

「しゃ、シャルロット……」

「静司、しっかりして!」

 

 駆け寄りその体を起すと静司は薄く目を開いた。

 

「俺は……ク○カレーの方が……げふ」

「静司!? 言っちゃ悪いとは思うけど意味不明過ぎてちょっと正気を疑ってるよ僕!」

 

 シャルロットの腕の中、静司はよろよろと腕を伸ばしふっ、と笑った。

 

「後は任せ……た……」

「静司!? ここに来て丸投げしたね!?」

 

 

 

 

『β1より報告! 先行したβ2分隊は全滅したとの事です! β1はそのまま対象の追撃に移った模様!』

「山田先生がやられたか……β1にはそのまま追撃させろ。α1達にも連絡。最短ルートを示せ!」

 

 通信で指令を下しつつ千冬は走る。それは勿論セシリアを止める為だ。彼女は携帯端末で各部隊の展開を確認しつつ静かに頷いた。

 

「私がそろそろ追いつく! 持ちこたえさえろ!」

『イエス・ユアハイネス!』

 

 

 

 

「遂に出てきましたわね」

 

 後少しで調理室。そんな廊下でセシリアは緊張に冷や汗を流しつつ正面に立ちふさがる己が敵を見つめていた。

 

「もう諦めろオルコット。ここで終わりだ」

 

 そう。そこに立ちふさがるのは世界最強の女、織斑千冬。通常ではそもそも楯突こうとも思えないチートキャラ。だが今日のセシリアは一味違った。

 

「織斑先生……今日ばかりは引けません。なので私は……行きます!」

「ふっ、その心意気は勝ってやろう。ハンデだ。武器を展開すると良い。一応教師なのでな。ステゴロと言う訳にはいかん」

「……わかりました」

 

 セシリアは頷きそしてその手に光が灯り武器を握った。この狭い中でライフルは危険。ならば自分が今持っている最強の近接兵器を使うほかない。

 

「来い」

「行きます!」

 

 おぉ、と遠巻きに見ていたギャラリーが沸く中、二人の姿が交差する。鎮まり返る廊下。そして数秒の沈黙の後、

 

「馬鹿……な……」

 

 千冬が、倒れた。そのありえない光景にギャラリーたちが唖然とする中、セシリアがゆっくりと面を上げた。

 

「ふ……やはりこれを使って正解でした」

 

 そう笑いながら自らの武器を掲げるセシリア。それを見たギャラリーが驚きの声を上げる。

 

「《インターセプター》じゃ……無い?」

 

 セシリアの近接武器と言えば皆が思い浮かべるのはナイフ状のそれだった。しかしよく見るとセシリアが持っているのは違う。

 それは銀色の食器。なだらかな曲線と、小さいながらも複雑な模様が刻まれたスプーンだった。だが何故だろう? そのスプーンの、料理をすくう部分がピンク色に変色しているのは。そして何やら禍々しいオーラを放っているのは。その答えはセシリアの口から発せられた。

 

「ふ……かつて織斑先生を沈めたスプーンです。戒めの為に持っていましたがこんな所で役に立つとは。織斑先生もこれを間近で見た途端動揺しておりましたわ」

 

 その言葉にギャラリーは戦慄した。つまりあれはかつての惨劇でブリュンヒルデを沈めた神器に等しき武器。いや、この場合呪われたアイテムな気がしたが。そしてそれを見て動揺した千冬の口元にそのスプーンを突っ込みセシリアは勝利したと言うのか。

 

「織斑先生と一撃で仕留めるなんて……なんて恐ろしい武器……っ!」

「もはやあれは《インターセプター》じゃないわ。《人生セプター》よ!?」

 

 恐怖に駆られたギャラリー達。そんな彼女らにセシリアがスプーン改め《人生セプター》を向けるとモーゼの十戒が如くギャラリーが割れていく。その間をセシリアは悠然と歩き、ついに調理室の直ぐ傍へととたどり着いた。そしてその美しい唇を上品に釣り上げる。

 

「やはり……最後には来ると思っていましたわ」

 

 そう笑うセシリアの前方。調理室の扉を護る様に待ち構えていたのは三人の戦士。一夏、鈴、シャルロットである。

 

「過ちは、繰り返させない!」

 

 荷電粒子砲を構える一夏。そして最後の戦いが始まった。

 

 

 

 

「どうして、どうしてこんな残酷な事が平然とできる!?」

「例えなんと言われようと、引けない事情があるのです!」

「セシリア、アンタは(味覚が)歪んでいるわ!」

「そうさせたのは貴方です! 一夏さんという存在です!」

「それは責任転嫁だよ! もう辞めようセシリア! このままではみんな倒れちゃうよ!?」

「それだけの業、重ねてきたのは誰か!?」

『お前だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』

 

 

 結局。

 長きにわたる死闘の末、シャルロットの高速切替によって出来た一瞬の隙に一夏と鈴の合体攻撃《日中閉和勇攻乗殺(にっちゅうへいわゆうこうじょうさつ)》が決まりセシリアはようやく地に沈んだ。

 そしてそれ以降、調理室には厳重なセキュリティが敷かれ、学園側の許可が無ければ入れないと言う最高レベルのロックがされたとか。

 

「…………で、本音ちゃんはこの騒動に参加しなかったの?」

 

 生徒会室。先の騒ぎの報告書を読んでいた楯無は正面でケーキを食べている本音に聞いた。

 

「知らぬがのほとけ~」

「…………貴方やっぱ大物ね」

 

 一人知らない振りして騒動を避けた少女に対し、楯無は一筋の汗を流したとか。

 

 

 

 

 

□一夏と静司のカンケイ

 

 きっかけはあちこちにあった。

 

「静司ー、早く更衣室行こうぜ」

「ああ」

 

 二人仲良く歩いていく姿を箒とセシリアは微妙な視線で見つめていた。

 

 

 

 

「一夏、それ美味そうだな」

「おう、少し食うか? 代わりに静司もそれくれよ」

「OK」

 

 昼の食堂。お互いのランチの一部を交換して食べる二人。その姿を鈴とシャルロットは頬を引き攣らせて見つめていた。

 

 

 

 

「静司! 今日は俺達が大浴場使える日だぜ! 早く行こうぜ!」

「あー先行っててくれ。これが終わったらいく」

「そうか? じゃあどうせだし待ってるとするか」

「いいのか?」

「おう! やっぱ一緒に入った方が楽しいししな」

 

 夜の談話室。そんな会話をしている二人をラウラと本音は怪訝そうに見ていた。

 

 

 

 

「納得がいかないわ!」

「突然何なんだ」

 

 風呂から出てきて自室に帰ろうとした矢先、静司と一夏は鈴達によって拉致された。意味も分からず談話室へと連れてこられた二人は首を傾げている。そしてその二人を囲むように何時もの面子が勢ぞろいしていた。

 そして静司の疑問に答えたのは少し顔を赤くしたセシリアだ。

 

「簡潔に言いますわ。お二人共……その、妙な関係にはなっていませんわよね?」

「はあ!?」

 

 当然ながら二人は素っ頓狂な声を上げる。だが鈴を始め箒やセシリア達の眼がマジだった。更には今回は楯無や簪も参加しているが、その二人もどこか視線が白々しい。

 

「ちょっと待ってくれ。そもそもどうしてそんな発想になったんだ」

「あくまでシラを切るのね静司……。なら言うわ。アンタ達、一緒に居すぎなのよ!」

 

 どん! と幻聴が聞こえるじゃないかと言う位の勢いで鈴が指さしてくるが静司も一夏も首を傾げる他無い。

 

「いやだって……なあ?」

「男二人しかいないし自然とそうなるもんじゃないのか……?」

「限度があるのよ限度が! だっておかしいじゃない!? いろんな子がアプローチしてもスルーしてみせるその力! ここまで来ると女性に興味ない様にしか思えないわよ! それに静司も静司よ! 何よ、おはようからお休みまで一緒って事!? 何それ羨ましい!」

「本音が漏れてるぞ」

「とにかく! アンタ達が変な関係になってないか調べる必要があるの!」

 

 強引に鈴が押切り、周囲もうんうんと頷いていた。何とも心外な話である。

 

「ということで、まずは一夏。アンタからよ」

「な、なんよ鈴。俺は何もしてないぞ?」

 

 雰囲気に気圧され気味の一夏が顔を強張らせる。鈴はそんな一夏の顔をじっと見つめるとおもむろに携帯を取り出した。

 

「電話……?」

「ええそうよ。待ってないさい………………ああ、弾? 私よ」

『鈴か? どうしたんだよいきなり電話なんて珍しい』

「弾?」

 

 鈴がスピーカーに変えたので声が聞こえてくる。それは紛れもない一夏の友人の五反田弾のものだった。

 

「ちょっと聞きたいことがあるの。一夏の事なんだけど」

『一夏? そういや元気なのか? 最近電話くれないんだよ』

「元気よ。元気すぎる位に。それよりも質問だけど、アンタ一夏と仲良かったわよね? しょっちゅう一緒に居たし」

『あ、ああそうだけど……』

「その時何か違和感を感じた事は?」

『は? どういう意味だ』

「そのままよ。一夏の視線とか行動とかに何かを感じた事は無いの?」

 

 真剣な顔で質問する鈴とそれを聞く箒達だが当の一夏は呆れていた。

 

「おいおい、いくらなんでもそんな事は――」

『ああ、そういやよくあったな』

「だぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」

 

 状況を知らない親友の言葉に一夏が悲鳴を上げた。

 

『あいつのスキンシップは独特だからな。よく『体格がいいな』とか『ちょっと触らせてくれ』とか言われたなそういや』

「一夏……お前……」

「一夏さん……?」

「ご、誤解だ! 確かその頃千冬姉に腕相撲で秒殺されて悔しくて色々と筋トレを――」

『そういやそういう行動のせいで誤解したのか男に告白された事もあったな』

「だぁぁぁぁぁぁん!? それは、それだけはやめろおおおおおおおおおお!?」

「ちょ、どういう事!? そこんとこ詳しく!」

『いや詳しくも何も。女子にも人気の良い奴で俺達もよく遊んでたんだけどさ、なんか次第に一夏に変な気持ちを抱いた様で勢いのままに』

「け、結果は!?」

『いやそれが告白した本人が『ごめん、やっぱり聞きたくない!』って乙女チックに逃げちゃってさ。いやーあの時ばかりは流石に俺も焦ったわ』

「…………情報提供感謝するわ弾。じゃあまた」

『え? もう終わり? というか結局何だったん――』

 

 鈴が携帯を切り静かにしまう。そう、静かすぎる程に。そんな中でだらだらと脂汗を流す一夏を一瞥すると鈴は顔を上げる。

 

「判決は?」

『ギルティ』

 

 箒とセシリアがハモった。その判決に一夏が頭を抱えたのは無理も無い。まあ自業自得な部分もあるのだが。

 

 

 

 

「さて、一夏さんの判決は出ましたがそうなると」

「川村の問題が出てくるな」

「ちょ、ちょっと待て! 俺は何とも無いぞ!」

「けどあんな一夏を受け入れてるって事はつまり……」

 

 かかる疑いの視線に静司は必死に反論する。助けを求めて視線を巡らせると楯無と簪と目が合った。

 

「た、助けてくれ!」

 

 藁をも掴む思いで投げかけた言葉。しかし簪は難しい顔で首を振ると楯無に問う。

 

「おねえちゃん、さっきからずっと思ってたんだけどこの話の時系列って何時なの? 私が登場してからこのテンションの話を挟む隙なんて無かった筈じゃ……」

「おーーーーーーーっとメタなツッコミは駄目よかんちゃん!? 世界の法則が崩れるわ!」

「け、けど時系列が、整合性がっ」

「それ以上は駄目よかんちゃん! 日本一有名な海産物一家も、関西人の何割かに喧嘩売った江戸前子供探偵も毎年何食わぬ顔で夏が来てるでしょ!? そういう理屈よ!」

「け、けど!」

「それ以上言ってしまうと私たちの出番が減るの! ほら、かんちゃん、あっちでお姉ちゃんとお話しましょう?」

「じ、時系列が! 整合性がぁ!」

 

 ずるずると楯無が簪を引きずってどこかへと去っていく。駄目だ、役に立たない!

 

「静司……何か弁明はあるの? 私達を納得させるような」

「くっ……」

 

 一体どうすればいいのか? 勿論自分はホモでも何でもない。だがホモでは無い証明などと、どうすればいいと言うのか。難しすぎるその問いに静司の額に脂汗が浮かんでいく。そんな時だ。

 

「安心して川村君!」

「私達に任せなさい!」

「お、おお! 谷本さん! 鏡さん!」

 

 現れたのは本音と仲の良い二人組、谷本癒子と鏡ナギだ。二人は絶対の自信の笑みで静司の隣に立った。

 

「凰さん! 心配する気持ちは分かるわ。だけど安心して。少なくとも川村君はそっちの気は無いから公園でツナギをきて待ち構えるなんて真似はしないわ」

「しょ、証拠は? 証拠はあるの!?」

 

 鈴の問いにナギがふっ、と笑う。

 

「証拠ならある。それは皆も知っている筈よ」

「何だと……?」

「証拠ですか……?」

 

 箒とセシリアが首を傾げる。ナギはそんな二人に頷くと癒子と顔を合わせて笑う。

 

「みんな忘れたの? 川村君は…………そう、川村君は姉萌えメイド萌え巨乳萌えの三拍子そろった男の子だと言う事を!」

「ちょっと待て」

 

 嫌な予感がして顔を引き攣らせた静司が咄嗟に静止するがもう遅い。ナギの言葉を繋ぐように癒子がぐっ、と拳を握りしめた。

 

「それだけじゃないの。最近は何処かの誰かさんたちの影響でケモミミ属性と僕っ娘属性も追加されたんだよ!」

「そう! つまり川村君は姉萌えメイド萌え巨乳萌えケモミミ萌え僕っ娘萌えという5ジャンルを制覇した男の中の男の子! こんな彼がホモな訳がない!!」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぃい!?」

 

 とんでもない事を盛大に言い放った二人は振り返りグッ、とサムズアップ。ってちょっと待て! 何とんでもない事言い放っていい仕事した~って顔をしているのだあの二人は!? 抗議しようと身を乗り出そうとして、周囲から浴びせられる視線に気づいた。

 

「か、川村お前……」

「ちょっと……欲張り過ぎな気が……」

「静司……なんて業の深い奴なの……!」

「HAHAHA殺せーー! いっそ俺を殺せーーーーーっ!?」

 

 その視線に耐えられなくなり頭を抱えながら笑う静司。

 

「……ところでケモ耳とは何だ?」

 

 そんな中、無垢なラウラの質問が心に痛かった。

 

 

 

 

「……さて、これで静司については解決したわけだけど」

「お、俺だってホモじゃない!」

 

 一夏が必死に叫ぶがそれを証明する手段が無い。それ故に一夏が焦っていく。

 そんな一夏の肩を静司が叩いた。

 

「静司!? 復活したのか!」

「あ、ああ……。一夏、俺はお前の疑いを晴らす方法を思いついた」

「何だって!?」

 

 それは願っても無い言葉だ。一夏は縋る想いで静司に懇願した。

 

「だがこの方法には犠牲が伴う……その覚悟がお前にあるか……?」

「何だっていい! ホモ扱いされるよりは遥かにましだ!」

「……わかった」

 

 ゆらり、と静司が立ち上がり鈴達の前に立ちふさがる。その様子に鈴や箒達が一歩後ずさった。

 

「な、何川村? アンタの疑いは晴れたわよ?」

「ああそうだ。だが一夏もホモでは無い。バリバリの思春期ボーイだ」

「川村さん? 頭のネジがどこか……?」

 

 酷い謂れであるが今更気にしない。

 

「凰、お前だって本当は知っているんじゃないか?」

「な、何をよ……!」

 

 何やら怪しげな雰囲気を纏う静司の様子に鈴が後ずさる。対して静司が静かに首をふった。

 

「確かに一夏は様々なアプローチを華麗にスルーしてきた。それはISスーツを着た時だって同じだ。妙に色っぽくて思春期には中々健康に悪いあのスーツの時も、一夏は直ぐに視線を胸元から逸らす。そうだな?」

「え、ええそうよ。そうよね?」

「確かに一夏さんは見ようともしませんわ」

「折角成長したのに……」

 

 セシリアと箒も頷いている。

 

「違うんだよ三人とも。一夏が見たいのはそんな物じゃないんだ」

「え……?」

「おい静司?」

 

 まるで先程の静司の様に、嫌な予感に狩られた一夏が声を上げるが無視。

 

「教えてあげよう。一夏が見ていたのは胸じゃなくて―――――太ももだ!」

『な、なんだって!?』

「静司ぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

 ダッシュ。捕獲。肩シェイク。凄まじい速度で静司を捕獲した一夏が肩をガクガクと震わせるが静司は構わず続ける。

 

「それだけじゃない! 俺は知っているぞ一夏! 学園祭で凰がチャイナドレスを着ていた時の事だ!」

「っ!?」

「わ、私!?」

 

 突然名前を出された鈴が素っ頓狂な声を上げる。そんな彼女に頷き静司は続けた。

 

「あの時お前は彼女の脇と太ももを見ていた! その時ばかりは目つきが鋭くなったのを俺は知っている! つまり、つまり一夏は――――」

 

 すうっ、と息を吸いそして吐きだす。渾身の一言を。

 

「腋&太ももフェチだ!」

「静司ぃぃぃぃぃテメエぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「ハハハハ一夏、俺だけ変態扱いされて溜まるか。共に地獄に落ちようぞ」

「お、お前俺を巻き込む気だったな!?」

「ちゃんと疑いを晴らしたぞ! 見ろ! 彼女達の顔を」

 

 二人が視線を移した先では顔を赤くした鈴が『え? え?』と何やら悶えていた。そしてその鈴に忍び寄る箒とセシリアとラウラ。

 

「そうえいば鈴はいつも腋を見せる制服を着ていたな。なんであんな奇怪な改造をと思っていたがまさか……」

「最初から知っていたのではないですか?」

「なあ、フェチとはなんだ?」

「ちょ、知らない! 知らないわよ私は!?」

 

 疑いの目をかける箒とセシリア。それに若干一名無垢な子供が混じったカオスの様な空間と化しており、先ほどまでのホモ疑惑は既に消え去っていた。

 

「これで解決だ。はははははははは……ははははは……!」

「新たな問題生んだだけだろこれ!? どうしてくれるんだよ静司ぃぃ!?」

 

 完全にカオスと化した談話室。そんな光景をギャラリー達は生暖かい眼で見物していた。

 

 

 

 

 

 因みに後日。静司の元に本音とシャルロットがやってきた。

 

「せーじ、どれがいい?」

「ど、どうかな?」

 

 二人が持ってきたのは奇妙な物体。それは俗にケモミミだったが、種類は多種に渡っていた。一体彼女達が何を考えてそれを持ってきたのか。静司は腕を組んで目を閉じしばし考え、そして結論をだした。

 

「あ、自分犬耳派なのでそれで。あと尻尾もあると最近いい感じで」

「もうヤケクソだね静司……」

「じゃあ犬っぽいこの狼耳で行こう~ホロホロホロ~」

 

 試練を一つ乗り越えた少年は、新たな楽しみを知ったとか。

 




一つ目の悲劇

ネタ多め。忙しさと疲労MAXの中変なテンションで書いた結果がこれだよ
けどこんなセシリアが大好きです
ちなみにインターセプターは本当は車の名前だったりなんかの戦闘機の名前だったりするらしいので人生セプターは色々単語的におかしいけどその辺りはノリでのり切る方針で


二つ目の喜劇

定番のネタその2
そして一夏の性癖発覚。やったね鈴ちゃん!
あと本編ではあんな状態の静司君が楽しそうで何よりです
ずっと暗い展開ばかり書いてた反動もあるので

本当はこのほかにも読者の方に頂いたネタの記憶喪失&本音さん崩壊とか最大のライバルは山田編みたいな小話もあったけど長くなり過ぎたのでまた今度で


PS バルドゼロ届た! これで勝てる

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