IS~codename blade nine~   作:きりみや

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つなぎ回なのでマイルドに


81.亡霊たち

 亡国機業による襲撃とISの強奪。それは被害を受けた組織や軍がいくら隠そうとしても隠しきれるものでは無かった。誰かが漏らしたのか。それとも勘の良いものが状況を見て気づいたのか。原因は定かではないが、重要なのは『ISがテロリストに奪われた』という事実だった。

 強力な兵器となり得、そして数の限られているIS。それが奪われるという事はその脅威のバランスが崩れる事に他ならない。各国の報道機関は奪われた機関、軍を徹底的にバッシングするのも無理は無かった。無責任な憶測を事実の様に流し、要らぬ情報まで嗅ぎまわり、そしてそれを見た人々が恐怖する。情報を統制しようとしてももはや流れ出した水は止まらない。徐々に、なおかつ確実にそれは人々の間に浸透していく。さらには先日のIS暴走事件がそれに拍車をかけていた。

 最初に行動に移したのは男性権利団体だった。ISの登場により男性の地位が蔑にされていると『信じている』彼らはここぞとばかりにISの危険性。それをたやすく奪われた女性の愚かさを唱えた。そしてそれに対抗するように女性主義の団体がその男性権利団体こそ愚かだと。お前らを守ってやっているのは女性なのだと唱え、元々良くなかった両者の関係には徹底的な亀裂が入った。

 そしてそれに呼応するように様々な組織が活発になっていく。それはどれもISを元々持たぬ組織。彼らはここぞとばかりに攻勢を仕掛け、世界各地での小競り合いが徐々に激しくなっていく。

 

「くだらないわね」

「スコール!」

 

 ホテルの一室でそんな事を垂れ流しているTVを見ていたオータムは、新たにやってきたスコールの姿に顔を綻ばせた。

 

「会議は終わったのか?」

「ええ。待たせたわね」

 

 まるで恋する乙女の様に走り寄ってきたオータムの頭を撫でつつ、スコールは微笑む。そしてTVに視線を移し、小さく笑った。

 

「誰もかれも好き勝手騒いでいること。中には私たちに協力を申し出てくる奴らまでいるそうよ?」

「はっ! そんな連中要らねえよ。私とスコールが居れば十分だ」

「私も忘れないでほしいけどねえ」

 

 そう言いつつ笑ったのはカテーナだ。彼女は同じ部屋のソファーの上でだらしなく寝そべっており、その隣にはシェーリも控えている。

 

「そうですよサンマ女。カテーナ様やレギオン無くして今の状況はありえません。何ですか? 秋が過ぎて冬になってきたらあなたの脳も凍りついてそんな事もわからなくなるのです?」

「……うるせえよオタク野郎。殺すぞ」

「同じ言葉を返しましょう。後悔しなさ――」

「はいはいやめなさい貴方たち」

 

 ぱんぱん、とスコールが手を叩くと今にも身を乗り出しそうだった二人が動きを止める。

 

「オータム。シェーリの言うとおり仲間は他にも居るのだから無下にしちゃだめよ?」

「シェーリ? あなたもねえ、すぐそうやって喧嘩腰になるのは悪い癖ねえ」

 

 スコールがオータムを諌め、カテーナがシェーリを叱る。言われた二人はしゅん、となって素直に引き下がった。その事にため息をつきつつスコールにカテーナが問う。

 

「それでぇ、お偉いさんたちは何て言ってるのかしらあ?」

「予想通りよ。いい加減学園を叩けと」

「あらあらぁ」

 

 コロコロとカテーナは笑い、そして手を軽く振る。すると全員に見える位置に投影型のスクリーンが浮かび上がった。

 

「確かにねえ、いい感じに世界も混乱してきてISもそれなりに集まってきたわあ。ならば不安材料である白式、それに織斑千冬を叩くというのはおかしくないかもねえ?」

 

 笑いながらカテーナが手元の投影型コンソールを叩くと、スクリーンにIS学園の戦力図が浮かび上がる。

 

「しかし改めて見て異常よねえ。貴重なISが訓練用とはいえ30機。更には学生の専用機や委員会の子飼い。自衛隊に各国各組織のISまで集まって総勢何機かしら? これだけのISが一か所に集まってたら世界征服できそうよぉ?」

「だからこそ狙うのよ。こちらもようやく戦力が整ってきたし、私たちの傷も癒えてたからね」

 

 スコールが笑いながらその手を軽く振る。以前の襲撃の際に付けられた傷は既に完治している。

 

「ところでカテーナ、先日奪った篠ノ之箒のISについては?」

「あれは駄目ねえ。他のどの子よりも身持ちが硬くていう事を聞かないわあ」

 

 お手上げ、とカテーナが両手を上げる。その姿にスコールは意外そうに首を傾げた。

 

「どういう事なの?」

「そのまま意味よお。流石は篠ノ之博士が妹の為だけに作ったISといった所かしら。他の子たちの様に簡単には心を開いてくれないのよ」

「なんだそりゃ、じゃあ奪っただけ無意味じゃねえか」

 

 オータムの疑問ももっともだ。だがカテーナは首を振る。

 

「確かに頑固者だけど、博士が死んだことには動揺してる様よ? 身持ちが硬くて頑固という事はそれだけ自意識が強いという事だけど、それ故に博士の死に対する衝撃も他の子に比べて強いようねえ? 少しずつ見せた隙から色々と情報は抜き取っているわあ。例えば、」

 

 カテーナが指を鳴らすとスクリーンにある武装が浮かび上がった。それを見たシェーリやオータムが目を見開き、スコールが小さく笑う。その様子に満足げに頷きつつカテーナも笑みを深く浮かべた。

 

「ね? 素敵でしょう? 次の戦いにはこれを使ってみたいと思うのよお」

 

 それはとても無邪気で、そして邪悪な笑みだった。

 

 

 

 

 

 亡国機業の各国各組織への襲撃が止んだ。だが一夏達にそれを喜ぶことは出来なかった。なぜならそれは戦力を整えた奴らの攻撃は間近に迫っているという事だからだ。

 それ故にIS学園内も以前に比べ緊張感が増してきており、張り詰めた雰囲気が漂っていた。

 

「けど本当に奴らはくるのか?」

「今更何言ってんのよ」

 

 どれだけ警戒態勢でも人は休みなしには戦えない。故に休息は必要だ。ましてや一夏に至っては前線に出ることは禁じられている。つまりありていに言ってしまえば、暇を持て余していた。

 そんな一夏がIS学園の食堂でチャーハンをつつきつつ漏らした言葉に鈴は呆れた様にため息をついた。因みにこのチャーハンは鈴が作ったものである。

 現在食堂にはちらほらと人がおりそれぞれ食事や休息を取っていた。そしてその中に混じる形で一夏達も食事をしている。同じ席には箒、鈴、セシリア、ラウラ、シャルロットがそろっており全員が今は休息を命じられていた。これは偶然でなく、少しでも気が休まる様にとの真耶や千冬の配慮である。

 

「ふむ……一夏、なぜそう思った?」

 

 同じようにチャーハンを食べていたラウラの問いに一夏は少し悩み、

 

「いやだってさ、鈴たち専用機持ちに各国や委員会に参集されたIS。挙句には学園の訓練機30機全てを実戦仕様に換装してそれに乗るのもエース級達なんだろ? こんな所に襲撃しかけるのは馬鹿げてる気がして」

「確かに一理ありますわ。ですが」

「言ってしまえばそもそも各国の基地、組織が襲撃されてまんまとISが奪われていたこと自体が予想外だったのだ。用心に越した事はない」

「それにIS暴走の件も解決してないからね。どんな予想外の状況にも対処できるだけの人員と手段が必要なんだよ。IS以外の兵器もいっぱいあるでしょ?」

「うーん……」

 

 セシリア、ラウラ、シャルロットの順にさも当然の様に言われて一夏は思わず唸る。確かに外を見ればIS以外にもヘリや歩兵らしき人々まで様々な人間が居るのだ。

 

「けどさ、IS暴走の危険性があるならなおさらこんなに集まるのは危ないんじゃないか? 今更だけど」

「確かにそうだがもうそうでもしないと亡国機業に対抗できないのが現実よ。もうなりふり構っていられないって話は前もしたじゃない」

「うん、そう、だったよな」

 

 鈴の言葉に一夏も今一度頷く。そうだ、もうなりふり構っていられないのだ。そしてそんな亡国機業を倒す為にも餌として自分がここに居て、奴らを迎え撃とうとしているのだという事を改めて思い出す。

 

「大丈夫、だよな」

「何よ一夏。この期に及んで不安なの? あんたらしくもない」

「いやそうだけどさ。俺は後ろの方だけど皆は前に出るんだろ? 心配位させてくれよ」

 

 そう、今でこそ休息で学園内に居るがラウラやセシリア。それにシャルロットは代表候補生。つまりはこういった有事の際は前に出される戦力なのだ。

 

「嬉しい事を言って下さいますわね。ですがご安心を。私たちとて簡単にやられるつもりはありませんわ」

「そうだ。それに私たちは前線と言っても最前線と言う訳ではない。悔しいが私たち以上の実力者は居るからな」

「そうだよ。だから一夏は奥で控えててね。けどもしもの時は、鈴。よろしくね」

「任せなさい。だけどアンタ達がだらしない戦いしてたら私が殴り込みに行くわよ」

 

 鈴のおどけたような言葉に全員が小さく笑う。それにつられる様にして一夏も表情を緩めた。そしてちらりとシャルロットを見る。彼女の両目の下はまだ腫れたままであるが、ここにいる面子はあえてその事には触れ無い。その理由を知っているからだ。だが彼女の様子は少しずつ変わってきている。以前はそれこそ死人の様な顔をしていたが、だんだんと顔色が良くなってきているのだ。シャルロットの様子は皆の心配事でもあったので、理由は分からないが彼女が少しでも元気になっている事に一夏も安堵していた。

 

「へえ、頼もしいな若者たちは」

「私達にもこんな時代あったのよねー」

 

 そこに現れた新たな声。全員が振り向けばISスーツを着た二人の女性が笑顔で手を振っていた。

 

「えーと……」

「ああ知らないのも仕方ないか。私はケイト。ケイト・マイラスよ」

「私はペギー。ペギー姉さんと呼びなさい」

「は、はあ」

 

 差し出された手に握手を返しつつ一夏が呆けた様に頷く。

 

「私たちも今回の防衛線には参加するの。中々大変そう戦いだけど頑張りましょうね」

「オキナワから呼び出されたと思ったらいきなり防衛しろって話でたまげたけどねー。ま、私に任せておきなさい。クソッタレなテロリストなんて速攻で潰してあげるから」

「あ、あはははは」

 

 口調こそ軽いが彼女たちの言葉には自信が込められていた。確証はないが、彼女たちが相当な実力者であるとその場に居た全員がそれとなく気づく。

 

「まあ少年の疑問ももっともだけどねー。こんだけ厳重に防衛線張ってるのに仕掛けてる馬鹿なんてほんといるのかね」

「どちらにしろ私たちは守るだけよ。敵がなんであろうと関係ないわ」

 

 実力者を思わせる二人の言葉に一夏も小さく頷き、食堂の窓から外を見る。IS学園は学園そのものが一つの島であるが、それを守るためにこの視線の先、彼方の空ではISやヘリが飛び、海岸線には戦車まである。海上には船が浮かび全方位に警戒線を張っている。

 地上も同じでもっとも近い陸地も厳戒態勢だ。これだけの防御、そして仲間が居る。ならばきっと乗り越えられる。

 

「ああ、その筈だ」

 

 一人では無理でも力を合わせれば――――――

 

 その時だ。一夏が見つめていた外の景色。そこに赤い光が射した。

 その光は天から射し込んで海に突き刺さり、まるでなぞるかのように真っ直ぐとこちらに向かってきた。

 

「え?」

 

 何が起きているのか。それを理解する前に、光が通った道筋が一斉に爆発を起こし、一夏の目の前が炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 一夏がその光を見る数十秒前。空を哨戒していたISの一機が奇妙な物を捉えていた。

 

「あれは……?」

 

 その奇妙なものは空ではなく海にあった。レーダーにもハイパーセンサーにも反応が無いのに、確かに巨大な何かが徐々に海中から浮き上がってきているのだ。彼女はそれに気づくや否や直ぐに本部に連絡を取り、そして注意深くそれを観察する。だがそれ故に反応が遅れた。空に現れたその光に。

 

「っ……!? 高エネルギー反応!?」

 

 気づいた時は遅かった。そらから突然降ってきたその光が彼女のすぐそばを通り抜け海面へと突き刺さり、そして学園に向かってなぞる様に一文字を描く。そしてその直後、光が射し込んだ海面が大爆発を起こした。

 

「なん……だっ……!?」

 

 真下からの凄まじい衝撃と海水に彼女のISが翻弄される。それでもすぐに冷静さを取り戻した彼女は姿勢を制御しすぐに周囲に気を配った。

 

「視界最悪。レーダーは……使い物にならないか! だがハイパーセンサーなら―――こっちもだと!?」

 

 明らかなジャミング。つまりこれは敵の襲撃だ。蒸発した海水による水蒸気と、天高く吹き飛ばされた海水のシャワーを浴びながら彼女は直ぐに武装を構えると本部へと通信を開く。

 

「本部! 奴ら……が……はっ……!?」

 

 胸に衝撃。そして燃えるような熱さと痛み。震えながらも顔を下に向けた彼女が見たものは、己の胸から生えている血塗られた銃剣だった。

 

「この、ぶぅぎっ、は……!?」

 

 背後に感じる圧倒的な死の気配。凄まじい胸の激痛。それらに体と心を震わせながらも肩越しに振りむいた彼女が見たのは深い青色のISに搭乗し、深くバイザーを被った少女の姿。その姿に彼女は見覚えがあった。他でもない。出撃の前に渡された資料に乗っていたものと同じ姿だからだ。

 

「ざぃぇイレんトっ・ゼぇフィルぅス……!」

「死ね」

 

 カチン、と無機質な音が響く。途端に胸に感じていた熱さと痛みが膨れ上がっていく。

 自分は死ぬ。それを理解しながらも彼女は叫んだ。まだ繋がっている通信に、この事実を知らせるために。

 

「亡国っ、機業!」

 

 刹那、彼女の身体は炎に包まれ爆散した。

 

 

 

 

 今しがた搭乗者を殺害し墜落していくISの破片を眺めつつ、エムはIS学園の方角へと視線を移し目を細めた。

 

「レギオン。どういうことだ」

『ごめん、はずした』

 

 応えたのは無機質ながらもどこか幼さを感じる機械音声だ。そして空からゆっくりとその声の主が降りてくる。亡国機業のISであり一員でもある無人IS、レギオンだ。

 

「馬鹿が。お前の一撃で学園を叩く筈だった」

『だけどえむ、このぶき、つかいにくい』

 

 そう言って不満そうにレギオンがその巨体を揺らす。

 レギオンの今の姿形は以前に増して巨大になっていた。通常のISの10倍とも言えるその姿は相変わらずの戦艦型だが、今はその下部に巨大な砲台が装備されている。その砲台はどこか奇妙な形をしており、砲身を支えるように左右に翼を広げており、巨大なクロスボウの様でもある。

 

「そんな事は知らん。とっとと二射目を撃て」

 

 そういいながらエムが再びIS学園の方角へと視線を向ける。距離はまだあるが、先ほどの光――レギオンの砲撃が通った場所は波が大きくうねり天高く水蒸気が上がっている。そして学園にまで届いたその光の砲撃はその道筋にあった建物や兵器。そしてISやその搭乗者などを一斉に焼き払っていた。学園そのものは炎と黒煙を上げ、校舎の一部は完全に崩れ落ちているが、微妙に砲撃がそれた為か壊滅までは行っていない。当初の予定では最初の一撃ですべてを焼き払う予定だったのにだ。

 

『にしゃめ、じかん、かかる。だから、えむ、がんば』

「……ちっ」

「そうですよエム。それにこれも想定内です」

 

 レギオンに呼応するように空から降りてきたのはシェーリだ。彼女もまた己のIS、ブラッディ・ブラッディに搭乗している。

 そして更に彼女たちの遥か下、海中からもゆっくりと浮かび上がってきたのは戦艦だった。それもただの戦艦ではない。レギオンと同じく、ISが核となる亡国機業の仲間である。そしてその戦艦のハッチが開くと次々とISが飛び上がっていく。それらは全て、これまで亡国機業が奪ってきた物だ。そしてそれに乗るのも亡国機業の実働部隊達。全員がエムと同じく素顔を隠すバイザーを深く被っている。

 ギリギリまでステルスによる接近を敢行し、その後にレギオンの超高威力の砲撃による奇襲。その作戦はまだ続いている。最初の一撃で相手がまだ健在ならば、今度はISで直接叩くだけだ。そしてレギオンの準備が整ったら止めを刺せばいい。ひどく単純で、そして簡単な作戦だ。それを思い返しシェーリは満足したように笑う。

 

「さあいきますよエム。レギオンが二発目を撃つまで、私たちが時間を稼ぐとしましょう。オータムたちも反対側から攻め始める頃ですしね」

 

 まあ尤も、と炎と黒煙を上げる学園を見据えシェーリは小さく笑い、

 

「IS学園にまだ反抗する気力はあるかは謎ですけどね」

 

 その言葉を皮切りに、亡国機業の本格的な攻撃が開始された。

 




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