こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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追記:16年5月18日、18年1月8日、誤字報告により修正しました


18.将来について

 3月の最初の土曜日。

 マクゴナガルの事務所に生徒が訪問した。

 教頭にして、グリフィンドールの寮監である『変身術』の教授は、その地位と責任に見合う能力と性格を持つ。故に教師陣・生徒からそれに見合う信頼を得ている。

 そんな彼女には土日でも多くの相談者が訪れる。

 しかし、本日は寮監が贔屓目に見ても問題児・ウィーズリーの双子だ。

 一卵性双生児の2人は一見すれば、見分けはつかない。それは観察力のない輩の戯言だ。足の運びや、手の動きなどの細かい部分に見慣れれば2人の区別は簡単につく。その性格もフレッドは無鉄砲で行動派だが、ジョージは慎重な穏便派だ。

 そんな彼らの相談内容はマクゴナガルを驚かせた。

「決心は変わらないのですね?」

 眼鏡の縁を押さえ、マクゴナガルは確認する。彼らに限らず、生徒の決心に反対しない。それが本人達の能力に見合っているなら、尚更だ。

 成績の記録として彼らは落第ギリギリだが、見せかけだと寮監は知っている。

「「はい、決して後悔しません」」

 真っ直ぐな2人の視線は同じ感情を宿していない。野望と好奇心、希望と確信だ。

「よろしい。ミスタ・ウィーズリー、双方の自主退学を認めます。将来に関する計画は、寮監として『E』を与えたいくらいです。開店の際はお祝いを贈りましょう」

 マクゴナガルからの承諾を得て、双子は破顔した。

「しかし、よく私に相談しに来ましたね。貴方たちなら、誰かの許可など求めず、勝手に学校を辞めていきそうなものですが?」

 素朴な質問に双子はお互いの顔を見ながら、得意げに笑う。

「俺達は次に進みたいんです。その前に学生である事にケジメを着けないといけない。そう思ったんです」

 笑みを消したジョージは、この部屋にいない誰かへ真摯に答えていた。

 ムードメーカーでトラブルメーカーの双子。だが、過去に在籍していたとある学生達に比べれば、人を楽しませる才能に溢れている。

「寂しくなりますね」

 本心を聞かれぬように、マクゴナガルは呟いた。

 

☈☈☈☈☈

 日曜の『必要の部屋』はバスケ部用だ。普段と違い、天井が透明となって青空を見渡せる仕様に変化している。

 【日刊予言者】を読むクローディアは、呼び出した張本人ジョージを今か今とまちわびた。

【バグマン大臣の辞任は、新大臣の決定により速やかに行われる。バグマン大臣の内政により、自己破産した職員は少なくとも二桁に達していると噂される。早急に新大臣就任を望む声は多い】

 無茶苦茶な内政を糾弾されているにも関わらず、写真のバグマンは余裕綽綽に笑顔でピースを繰り返す。

〔次、会ったら、修正してやるさ〕

 腹ただしい笑顔を指で弾き、クローディアは宣言した。

「お、ついにバクマンは退職か?」

 ひょいっと現れたジョージは記事を覗き見る。背後からの気配に気づいていたので、驚きもしない。

「綺麗な空だな。やっと冬が明けて、短い春が来る」

「春が終われば私は『O・W・L試験』、ジョージは『N・E・W・T試験』さ。ちゃんと、卒業しないと悪戯専門店の開業が出来ないさ」

 新聞を畳み、クローディアは近づいてくる試験の日に緊張する。まだ、イースター休暇もあるといっても、油断は出来ない。

 経験者のセドリック達に言わせれば、魔法省から試験官が来る以外、学期末試験と変わらないそうだ。魔法省直々の監督下に置かれると聞き、ネビルやハンナが胃痛で呻いていた。

「そのことなんだけど……、俺、復活祭の休暇……、今学期で学校を辞めるわ」

 一瞬、躊躇うような口調は、確かな宣言を告げた。

 聞き違いかと、耳を疑う。

「え? なんて言ったさ? どうしてさ? 後ちょっとで、卒業さ。もしかして、落第になりそうさ?」

 動揺のあまり、早口で捲りたてるクローディアをジョージは抱きしめる。2度と離さぬよう、愛おしむ抱き方に彼女は身を預ける。

「俺達はもう開店の準備は出来ているんだ。資金も十分だし場所も確保できた。後は商品を充実させるだけだ。学校に縛られず、開発したい」

 将来を語るジョージは、口説くように熱がこもっている。

「資金って! 売っては開発、売っては開発の繰り返しで開店資金には程遠いって言ったさ!」

「ハリーが援助してくれたんだ。ほら、賞金の一千ガリオン。商品を遠慮なく、開発できたのもその御陰なんだよ」

 ロンのドレスローブ代を買えた理由も納得した。ハリーらしい賞金の使い道にも、尊敬の念を抱く。

 しかし、ジョージが早く学校を去る理由としては、不足だ。

 胸中には不安と不安が入り混じり、クローディアは駄々を捏ねる。

「……いや、いやだあ。卒業したら、離れ離れになるのに……。こんなに早く辞めるなんてさ。折角、ジョージの気持ちにも、応えられるようになってきたのにさ!」

「応えられるようにって、上から目線だなあ」

 蚊の鳴くような声で喚き、ジョージの胸に八当たりの拳を繰り出す。彼は抵抗せず、少しだけ淋しそうに微笑んだ。

「俺はずっとクローディアを好きだ。でも、君は全然気づいてくれなくて、俺はヤキモキしっぱしだった。だから、今度は君が俺の為にヤキモキしてくれ」

「最悪の仕返しさ」

 ジョージの胸に顔を埋め、クローディアは感情が高ぶり目に涙を浮かべる。彼の逞しい指が、彼女の涙を拭う。濡れた指は、そのまま彼女の唇に触れる。

 触れた指をジョージは舐めた。

「間接キス、今はこれが精一杯……」

 その名台詞を聞いた事がある。ジョージがその作品を知るはずはない。だが、神出鬼没の怪盗、人の意表を突く様々な技術、大胆に見えて冷静な分析能力。

 今のジョージは、かの怪盗に引けを取らない。

 沸々と湧き起こる高揚感は、愛と呼ぶに相応しい。

「……月がキレイですね」

 クローディアが今、口に出せる言葉はこれだけだ。夏目漱石を知らぬ者は、これを愛の言葉とは気づかない。日本でも通じる者は稀である。

 月もない夜でもない空を見上げ、ジョージは白昼の残月に気づく。

「おお、残月か、確かにキレイだな」

 案の定、通じなかった。

 通じなくていい。クローディアが卒業した後にでも、夏目漱石の逸話をジョージに聞かせてやろうと思う。それで、彼女の心情に彼が気付くかどうかが今から、楽しみであった。

 

 ハグリッドの弟・グロウプのお披露目はきちんと教育をすませるか、いくつかの英語が喋れるようになってからのはずだった。

 クローディアの予想通り、『魔法生物飼育学』の教材にされていた。ブランクだけでなく、『闇払い』まで授業の見学に訪れていた。

 ドラゴン並に大きい巨人を警戒しての処置にも思える。

「本物の巨人だ」

 若干、ジャスティンは興奮して近寄ろうとしたが、真っ青になったザカリアス達に引き留められる。

「こんにちは、グロウプ。さあ、皆と遊んでみようか?」

 ブランクが杖を一振りし、グロウプを見る見る縮ませる。やがて、人間の少年と同じ身長になった。それでも生徒よりは背がデカイ。

 自分の体を確かめるように眺め、グロウプは表情を輝かせて生徒へと突進してくる。一番にセシルは待ち構え、彼を受け止めようとした。細みの彼女には、危険すぎる。

 慌てて、テリーがグロウプを抱きしめるように受け止めた。

 相撲のような取っ組み合いに、テリーは足を踏ん張る。

「いいぞ、その調子だ! グロウプ。ほれ、テリー。もうちっと、力入れろ!」

 小屋から授業を見学していたハグリッドのヤジが飛ぶ。

「ブランク先生。グロウプのお披露目は、成績上位の生徒からだと聞きましたが、よろしいのですか?」

「ハグリッドが毎日、毎日……。いつですか? いつですか? と煩くてな。それに私や『闇払い』の方々だけでは、グロウプも退屈だろう。希望者には彼に英語を教えさせようかな」

 目を輝かせて催促するハグリッドの姿を想像し、クローディアは呆れて眉間のシワを解す。

 授業時間を全てグロウプとの交流で終えた。彼へ英語を教授する生徒は、セシルしか希望者がいなかった。彼女の勇気ある行動は、20点の寮点を与えられた。

 夕食の席で、クローディアはハーマイオニー達にグロウプの話を聞かせた。

「ひぃい、巨人サイズのグロウプの相手とか、僕には無理、無理」

 想像しただけで、ロンは怯えた。

「僕もグロウプに英語を教えに行こうかな……。楽しそうだし」

 ハリーの発言に、ロンは席から転げ落ちる程、驚いた。彼らに聞かれぬよう、ハーマイオニーはクローディアに耳打ちする。

「ハリーったら、夜中にシリウスと話していたの」

 昨晩、ハーマイオニーは監督生として夜更かしする生徒を見張っていた。『目くらましの術』で姿を消した彼女は、談話室でハリーを目撃した。いつものように『両面鏡』を使い、シリウスと話していたはずが、途中から口論に発展したという。

「ハリーと……ブラックが? どうしてさ?」

「わからないわ。悪いとは思ったけど、近寄ろうとしたら、ベッロに気づかれちゃって……。ハリーは怒らなかったけど……、追及しないで欲しいって言われたわ」

 つまり、話したくないのだ。

 誰の為でもない。ハリーは自身の為に、話さないと決めた。

「ハリーはどんな悩みにも、ハーマイオニーやロン、そして、私が力になれると知っているさ」

 そこまで話し、ハーマイオニーは察した。

 念の為、『説明書』でベッロに事情を聞く。誰に見られるかわからない大広間ではなく、寮の自室でだ。

[ハリーが何も言わんなら、言えん。しかし、これが……彼の心を搔き乱すかもしれん]

 浮かぶ文章は、不吉な予感を与える。

「夢に現れるボニフェースは、どうしたさ?」

[あいつは己の配下を取り戻した時から、主人への未練を失いつつある……。その証拠に、扉は開かれている]

 扉の意味は何かの暗喩だとしても、ヴォルデモートにとってボニフェースに価値はない。ならば遠慮なく、クローディアにも罠のようなモノを仕掛けてくるに違いない。

 試験とは違う緊張が胃を刺激し、闘争心が脳髄に冷静さを与えた。

 

 DAでは『守護霊の呪文』が登場し、皆は大いに盛り上がる。

「この呪文は、意思の強さが関係してくる。吸魂鬼に怯えていては、守護霊は創りだせない。絶対に怯えない事。楽しく、幸せな気持ちを失わないように」

 注意事項を述べたハリーは、見本として牡鹿の守護霊を創り出す。幽霊とは違う銀色の輝きは、慈しみと優しい気持ちにさせてくれる。リーマスの授業で受けそこなった魔法を間近で体験できた。

「すごいよ、ハリー。僕、全然、知らなかった……」

 目を輝かせたディーンは感嘆の息を吐く。他の皆、同様に牡鹿に魅入っていた。

 早速、練習に励む。

 幸福を最高潮に満たせる思い出を回想する。これは存外に難しい。本人が良い思い出として記憶していても、守護霊を創り出すには不十分では意味がない。

「ペネロピー達が教えてくれなかったのは、自分達が守護霊を創れなかったからだわ」

 クララも難解に挑む顔つきで、必死に幸福な記憶を辿る。杖先には銀色の糸が垂れ下がるだけで形にならない。

「これをハリーが3年生の時に、会得したっていうのかい!?」

 降参と万歳し、シェーマスは発狂して杖を放り投げる。彼の杖はナイジェルのこめかみを掠めた。

「見て下さい! 私、やりましたわ!」

 唯一、成功したのはリサのみ。

 しかし、リサの守護霊には皆、度肝を抜かれた。それは彼女と同じ姿をしていた。銀色に輝く以外は、彼女そのものと言ってもいい。

「人も哺乳類だから、動物の守護霊に当てはまると思うわ……」

「確かに……日本じゃ、守護霊は寧ろ、人間の霊が多いさ」

 守護霊のリサは幽霊のように浮遊して室内を踊る。ハリーの守護霊と戯れる姿は、神秘的で美しかった。

「分身したいって、よく言ってたけど……。まさか、こんな形になるとはね」

 魔法の成功に浮かれるリサをパドマは感心しつつも、先を越された悔しさで複雑そうに笑っていた。

 

 アンブリッジがいなくても、試験は近づく。クィディッチの試合に向け、選手は特訓する。

 レイブンクローの模擬試験、クローディア達は初の免除に少しだけ喜ぶ。その分、本番の重要さに緊張したモラグが胃腸炎で倒れた。

 ルーナは文句なしの突破だ。だが、シーサーは筆記でしくじり、己の兄が監督する補習試験を受ける羽目になった。

「あんなに怖い兄は、初めてです」

 愛想笑いを忘れたロジャーに恐れをなし、シーサーは縮こまっていた。

 そして、『例のあの人』の復活についても、生徒を不安にさせる。我が身は学校に守られても家族の身が心配だ。

 以前、多くの身内を亡くしたスーザンは様々な新聞や雑誌を購読して『死喰い人』に関する最新情報を集めた。

「扉の意味をハリーに問いただしたわ。全く、……夢で『神秘部』に入っていたの! そんな夢を見るなら、課外授業を受けなさいって言ったら逃げたわ」

 自衛の為に『閉心術』を習得したにも関わらず、ヴォルデモート側の情報欲しさに夢へ入り込んだらしい。ハーマイオニーは激怒して、スネイプの研究室へ連行しようとしたが、ハリーは『透明マント』を被って、今朝から文字通り姿を眩ました。

 あまりの無謀さを知り、心臓が痙攣する。クローディアは男子トイレで用を足していたハリーをひっ捕らえた。

 『必要の部屋』で、クローディア、ハーマイオニー、ロンに囲まれたハリーは固く口を閉じる。ロンは彼の庇うように言い繕うが、無視した。

「ハーマイオニーから聞いたさ、どういう事か説明してもらうさ」

 コブラツイストを仕掛け、ハリーへ身体的にお仕置きしながら追及する。身動きできない彼は、襲ってくる関節の微妙な痛みに悶え苦しむ。

「1回だけ! 1回しか、やってないから……。校長先生にも怒られたし……」

「校長先生に、どうしてバレたさ? ベッロが教えたさ?」

 その質問で、ハリーは苦しみながら目を逸らす。

「スネイプ先生の……課外授業が終わってから、週一で校長先生に、……『閉心術』が作用しているか……確認してもらってます」

「まあ、ハリー。そんな大切な事を黙っていたのね?」

 引き攣った笑顔で、ハーマイオニーはハリーに卍固めを仕掛けた。

「他に何を隠しているんだ? 全部、吐かないと関節ヤバいぞ」

 諦めた顔つきで、ロンはハリーに警告した。技をかけられ、必死に声を出す。

「校長先生に、魔法を教えて貰ってます。母さんが……僕を護ってくれた……魔法。ノットに教える為に……」

 衝撃の内容は、ハーマイオニーは技の力を抜いた。解放されたハリーは、床に這いつくばるように転がる。

「知らずに、ノットとあんな取引を持ちかけたさ?」

「……え~と、『閉心術』を無事に会得できたら、校長先生が個人授業してくれるって言ってたんだ。その時に、母さんの保護魔法を習おうと思って……、一応、僕なりに考えてたんだ」

 吃驚仰天のクローディアは、質問というより確認で問う。

「もしかして、ずっと色々な魔法をDAで教えてたのは、ハリーが保護魔法を習得するまでの繋ぎだったの?」

 ロンの素朴な疑問は、クローディアとハーマイオニーを大いに助ける。気まずそうにハリーは認めた。

「いえ、これは確認しなかった私の落ち度だわ。それに、ノットの辛抱強さを試すのにも、ちょうど良かった……。ハリー、その保護魔法が習得できたら、イの一番に私に教えてね」

 脅すような口調で、ハーマイオニーは語尾を強めた。反省したらしいハリーは、降参と言わんばかりに万歳した。

 

 『守護霊の呪文』は皆の希望もあり、復活祭の休暇前まで続けられた。

 今日までに成功したのは、リサ以外ではハーマイオニー、ルーナ、セドリック、チョウの4人だけだ。それぞれ、カワウソ、ウサギ、アナグマ、白鳥という自然な動物だ。

 守護霊の上達が早い。これがリサの幸福な気持ちに拍車をかけ、彼女の守護霊は簡単な単語を発するまでになっていた。

「強い守護霊は伝言の役目も果たすそうよ。貴女、凄すぎて変よ」

 呆れたミムの一言さえも、ただの称賛とリサは受け取った。

 クローディアは不安定な球体まで創れるが、動物の形にならない。杖の先から溢れる銀の光を見つめ、デレクは興味深そうに眺める。

「これ、バスケットボールに似てますよ? これが貴女の守護霊では?」

「……デレク、流石の私も無機物が守護霊は嫌さ」

 ただでさえ、クローディアの『動物もどき』は影なのだ。守護霊は動物にしたいのが、本音だ。

「では、今学期はここまで! 皆の知っての通り……、復活祭の休暇は、名ばかりだ。DAをしている暇もないだろう。皆、体を大事にね。解散!」

 ハリーの気休めにもならない締めに、皆、げんなりする。

 ぞろぞろと部屋を出て行き、クローディアも行こうとしたがスーザンに呼び止められる。

「ハリーもちょっといい?」

 声をかけられ、ハリーも皆がいなくなるのを待つ。勿論、ハーマイオニーとロンも一緒だ。アーミーとハンナも残り、スーザンは緊張した面持ちで皆の顔を見渡す。

「私、学校を辞める事にしたの」

 衝撃の宣言に言葉もない。アーミーとハンナは既に承知しているらしく、厳しい表情だ。

「私の叔母は魔法省で魔法法執行部部長を勤めているの。アメリア=ボーンズ、ハリーは知っているわあよね?」

 気づいたハリーは、肯定した。

「君の叔母さんが、僕の裁判を尋問してくれた。とても公平だったよ」

「ええ、叔母は公平な人で、人望も厚いわ。けど『死喰い人』にとって、目障りな相手だと思う……。現にね、脅しのようなモノが来ているんですって。だから、母と国を出るわ。本当は試験を終えてからがいいって、お母さんは言うんだけど、叔母さんがね、命があれば、試験はいつでも受けられるって……」

 感情が高ぶり、スーザンは涙を流す。

「私、DAの……皆を忘れない。ハリーが教えてくれた魔法で、家族を守ってみせる」

 ボーンズ部長の言い分は、正しい。命あっての物種だ。何年かかるかわからないが、安心して家族と過ごせる日が来るまでスーザンは、国を離れる。

 事態はそこまで追い詰められている。

「……スーザン、月並みだけどさ。気をつけて」

 慎重な声で、クローディアはスーザンを抱き、別れを告げる。ハリーやハーマイオニーも、彼女と別れのハグを交わす。ロンだけ握手で済ませた。

 アーミーとハンナに肩を抱かれ、スーザンは部屋を後にした。

「寂しくなるわね」

 ハーマイオニーの呟きに、クローディアは同意する。

「……フレッドとジョージも今学期で学校を辞めるのに……、どうせなら、お別れ会とかしたかったさ」

「「「ええ!? 2人も辞めるの!?」」」

 3人からの音程のズレた叫びに、クローディアが驚いた。

「……知らなかったさ? 『W・W・W』の商品開発に取り組むって聞いたさ……。そういえば、ハリー。競技大会の賞金、2人に渡したって聞いたさ」

 ハーマイオニーとロンは、驚愕に目を見開きハリーを凝視する。視線を受け、ハリーはビクッと肩を痙攣させる。

「すごいよ、ハリー! よくやってくれた、最高じゃん! 通りで2人が僕にドレス・ローブを買ってくれたはずだ!」

 はしゃいだロンは、ハリーとハイタッチして抱きしめた。

「ちなみに、クローディアはその話を誰から聞いたの?」

「ジョージからさ」

 ハーマイオニーの質問を素直に答え、脳裏にその場面を思い返す。互いに抱きしめ合い、遠まわしな愛の言葉を告げた。急に恥ずかしくなり、全身が熱くなる。

 クローディアの様子を見て、ハーマイオニーは口元を愉快そうに曲げる。

「何があったの? 2人っきりだったんでしょう? ひょっとして、ひょっとして?」

「期待させて悪いけど、間接キス止まりさ」

 嘘偽りない報告に、ハーマイオニーはあからさまにガッカリした。

「クローディアって、結婚するまでキスを守るつもりかな?」

 可笑しそうに笑いロンは、からかう。しかし、ハリーは無表情にクローディアを眺める。

「……ジョージと付き合っているんだろ? それって生殺しだよね。それも嫌で離れるんじゃない?」

 冗談に聞こえない推測は、部屋の空気を重くした。

 

 何事もなく終わると思いきや、フレッドとジョージは夕食の時間、大広間へ特大花火を打ちこんだ。

 緑と金色の花火はドラゴンの形となり、何匹もそこら中を火の粉を撒き散らして音を立てる。2メートル近いショッキングピンクの鼠花火が空飛ぶ円盤のように、破壊的に飛び回る。

 それらの火は触れても熱くないし、痛くない。

 鬱蒼とした城の雰囲気に爽やかな風を呼び込ませた。花火見たさに、補習中の生徒や教職員も大広間へ集まって来た。ドラコ達、親衛隊は恐怖に慄き、声を失っていた。

「只今、実演しておりますのは『デラックス大爆発』。お買い求めになりたい方は、ダイアゴン横町913番地までお越しください。『ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ店』でございます。我々の新店舗です!」

 フレッドのよく通る声に、生徒が歓声を上げる。

「いつでも、いつまでもお待ち申し上げております」

 大広間に集った人々の顔を1人1人見渡し、ジョージは満面の笑みで告げた。その笑みがクローディアに向けられていると、少しだけ自惚れた。

 ダンブルドアから拍手が起こり、マグゴナガルは見た事もない穏やかな笑みで手を叩いていた。やがて、大広間は2人の為に拍手喝采が湧き起る。

 これが双子なりの最後の挨拶だと全校生徒が気づいたのは、休暇明けになる。

 

 復活祭の休暇は、本当に名ばかりだ。

 これまでの学年で味わった勉強が生易しく思える日々を過ごす。クィディッチ戦を控えた選手だけは、僅かな休息といえる時間をも特訓に回した。

 キャプテンのロジャーは最高潮に神経を尖らせた。勉強に関係のない雑談を耳にしては、鋭い眼光で相手を睨みつけた。

「アグアメンティ……(水よ)」

 『闇払い』を目指しているクララは、天井を見ながら呪文を呟く姿が当たり前になってきた。

「これまでの授業を真面目に、しっかりと身に着けていれば大丈夫だから、そんなに緊張しなくていいからね」

 僅かな精神的余裕を残したザヴィアーだけ、上級生に怯える下級生を宥めた。

 

 実践においては、クローディアに不安はない。問題は筆記である。

 ルーン文字の単語帳を捲り、図書館を何度も往復する毎日だ。教科書を眺めるだけで、日が暮れてしまう。

「出て行け、この不届き者!」

 マダム・ピンスの怒声共に、ハリーとジニーが追い出される姿を目撃した。彼らから事情を聞けば、図書館でチョコレートを食べてしまったらしい。

「飲食厳禁の図書館でさ? 勇気あるさ、2人とも……」

 頭が上手く働かないクローディアは、深い意味もなく呟いた。

「クローディアもチョコ食べる?」

 ハリーから差し出された久しぶりのチョコ、それはリーマスを思い出させた。

「気持ちだけ、貰っておくさ」

 クローディアが断ると、ジニーの安心した表情が見えた。後から聞けば、モリーによる手作りイースターエッグだったそうだ。

(そういえば、お母さんからの荷物とか、手紙とか……何にも、ないさ)

 コンラッドは元々、放置気味だ。しかし、母・祈沙が手紙はおろか荷物も寄越さないのは、不思議に思えた。思ってしまうと淋しさが急激に強くなった。

 フクロウ小屋で借りれるフクロウを飛び立たせた。どんな些細な事でも良いので、連絡して貰いたい旨を手紙に託した。

 

 5年生にとって最大の難問。それは魔法界の職業紹介の小冊子・チラシの山が教えてくれた。将来の進路である。談話室の掲示板には、進路指導に関するお知らせが貼り出されていた。

「私は……、月曜日の午前11時にフリットウィック先生の事務所に行くさ。進路相談って、授業を潰してやるもんさ?」

「休日に進路の話もしたくないけど……。あ、私は午前10時だわ。これってアルファベット順か……」

 【魔法事故・惨事部でバーンと行こう】を手にしたマンディは、掲示板の文字を撫でた。

「でも、モラグは一番最後だね。時間がかかるのかな?」

 割って入ってきたルーナは、モラグの名を指差す。モラグ本人は、本棚の本を何度も陳列しては崩し、陳列しては崩してを繰り返して現実逃避していた。

「ルーナは将来の夢とかあるさ?」

「……目標はあるよ。口に出したら、真似されるから秘密なの」

 両手で口を覆うルーナを可愛らしく思えた。

 勉強疲れの生徒は、自然と違う話題の職業案内に目を通す。

「出来れば、プロのクィディッチチームに入団できればなあ」

「うわ、あぶな!」

 自前の箒を振り回し、テリーはアンソニーに注意された。

「ドラゴンの研究もいいけど、トロールも捨てがたい……。ああ、おもしろそうなものがいっぱい……」

 悩むセシルの隣で、サリーは報道関係の小冊子を読み耽る。

「有名人にインタビューしてたら、そのままプライベートでも会いましょうってって……、でへへ」

 銀行員、報道、魔法省……。様々な職の中から、クローディアは骨と杖が交差した紋章を表紙にしたパンフレットを手にした。

 聖マンゴ魔法疾患傷害病院の案内だ。

 ドリスは癒者だったが、その働き振りを目にする機会はついになかった。しかし、医者であるトトの職場も見学した事はない。

 人の死から、目を逸らしていた。

「クローディアはマグル関係の職に着くんじゃないのか?」

「……決めてないさ」

 マイケルに聞かれ、言葉を濁す。去年なら、マグルの大学へ進学し、バスケに少しでも関われる職を選んだだろう。バスケに固執しなくなっている。心境の変化に我が事ながら衝撃を受けた。

 

 新学期の最初の月曜日、クローディアはバブリングの許可を得て『古代ルーン文字学』を抜ける。

 寮監の事務所には、普段通りのフリットウィックがいた。生徒と目線を合わせるため、座高を稼いだ椅子に腰かけている。

 しかし、何故か事務所にもう一人分の気配を感じ取った。

「時間通り、さあ掛けなさい。ミス・クロックフォード」

 一礼してから、クローディアはフリックウィックと向かいあう。躊躇いなく、問う。

「フリットウィック先生、どなたかがお部屋に紛れ込んでいます。誰ですか?」

 一瞬、目を見開いたフリットウィックは微笑んだ。

「スネイプ先生、彼女に隠し事は無用ですぞ」

 部屋の隅、扉の影から黒衣の教授が文字通り現れた。『目くらましの術』だと見受けられる。それよりも、他寮の寮監が居合わせた事態に驚くべきだろう。

「スネイプ先生がどうしても、君の進路をその目で確認したいというのでね。……決して口出ししない約束で、同席させる事にしたのです。置物か何かだと思いなさい」

 苦笑してから、フリットウィックは青い手帳を取り出す。

「知っての通り、この面接はミス・クロックフォードの進路に関して話し合い、6・7年生でどの学科を継続していくべきか、指導していくものです。まずは貴女の将来の希望を聞きましょう」

 即答しかねる。後ろでスネイプが睨んでくるからではない。改めて、自問自答しているからだ。

(私はバスケが大好き……。バスケの強い大学に入って……、サークル活動して……)

 だが、クローディアは魔女であり、ホムンクルスだ。それにクィレルの存在が脳裏を掠める。奴との決着がいつになるかわからない。よしんば、着けれたとしても、意気揚々と仲間とバスケを楽しむ自分の姿が浮かばない。

 浮かんだのは、やはりドリスの笑顔だ。働きながら私塾に通い、『N・E・W・T試験』を突破して癒者になった。

「……癒者になれればと……考えています」

 驚愕したフリットウィックは思わず、スネイプと目を合わせる。彼も息を飲んでいた。

「では、『N・E・W・T試験』で何を必要としているか、ご存じですね?」

「はい、『魔法薬学』、『薬草学』、『変身術』、『呪文学』、『闇の魔術への防衛術』、この5つは『E』を必要としています」

 確認に澱みなく答える。

「その通りです、『E』以下の成績は例外なく受け入れられません。そして、性格と適性を見る為に、癒学生として最低でも5年は勉学を要します。2・3年で何人も脱落者していきます……、脅しではありませんよ。それを終えれば、研修癒の資格を得れます。ここからが本当の試練です。正式な癒者と認められるには、早くても更に10年かかります。ちなみに、マダム・ポンフリーはたった3年で研修癒から、癒者となりました。この記録は、未だ破られていません」

 一気に話し終えたフリットウィックは深呼吸する。

「さて、貴女の成績ですが、……5科目とも、現時点では問題ないと断言します。しかし、『魔法薬学』と『薬草学』は、決して油断してはいけません。今までの小テストやらを見る限りでは、記入ミスや記憶違いが多々見受けられます。昨年度の学期末は、見事、学年一位でしたが、試験で点を取るだけで身に着いているとは言い難いですしね!」

 確かに、4年生の学期末と同じ試験内容をもう一度出されても、同じ点数は絶対取れない。

(バレて~ら……)

 後ろから、スネイプの鋭い眼光を肌で感じた。

「ですが、ミス・クロックフォードが癒者となるべく必要な成績を得られるように、私は全力で援助していきたいと思っています。時間をかけてもね」

 微笑んだフリットウィックの強い語尾は、『逆転時計』を意識させた。しかし、彼はクローディアが『逆転時計』の存在に気づいているなど知るはずもない。

 警戒心で背筋を伸ばすと、闇色の声が発せられた。

「ミス・クロックフォード、希望があれば、我輩はいつでも補習授業を差し上げよう」

「必要あれば、……お願いすると思います。ないように努めます」

 普段通りの嫌味な笑顔に、億することなくクローディアも引き攣った笑顔で返した。

「これにて、進路指導を終わります」

 勝手に笑顔で睨み合う2人をフリットウィックは呆れた口調でこの場を締めた。

 

 余談として、モラグの進路指導は2時間もかかった。フリットウィックが根気よく彼の長所を述べ、成績に見合う進路を勧めた。

「トロール使いに、俺はなる!」

 見た事ないテンションで、モラグは宣言していた。

 




閲覧ありがとうございました。
ちなみに私は双子の見分けがつかない派です。2人一緒ならともかく、一人一人は厳しい。映画のパドマとパーバティは二卵性なのかな?結構、見分けられた。

リサの守護霊は自分自身です。人間も動物ですから、問題ないですね!
クローディアはまだ、不安定なので守護霊が定まってません。決してボールではありません。

進路は癒者にしました。研修癒は原作にもいますが、癒学生などのカリキュラムはなんとなく書きました。

夏目漱石と「月がキレイですね」についてわかる人が何人いるのか、ドキドキしています。
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