ホグワーツの大事件は試験後に起こる。
追記:16年5月21日、17年3月11日、誤字報告により修正しました
成人した生徒だけが挑める『姿現わし』試験。
クローディアも授業を潰しての参加だ。本格的な『姿現わし』を行う為、『ホグズミード村』へと向かう。マクゴナガルとハグリッド、『闇払い』のサベッジ=ガーションに引率された。
マリエッタやクレメンス、ローレンス、ケイティ等の6年生もいれば、リーやジャックのように昨年度に落ちた生徒の姿も見受けられた。
「夏の休暇中に試験、受けなかったさ?」
「やだ、休暇中にまで試験なんてよ。休暇は休む為にあんの。なあ、リー」
大げさに身震いしたジャックと違い、リーは憂鬱そうに黙りこんでいた。
「なんだ、リー。まだフレッドとジョージの事で、ぶつぶつ言ってんのか? そりゃあ、いなくなったのはショックだけど、ちゃんと書き置きがあったんだろ?」
「『実家に帰らせて頂きます』だけで、退学なんてわかるかあ!!」
アンドリューの慰めのような言葉をリーは喚いて一蹴した。
「アンジェリーナだって、フレッドから退学の話を聞いていたのに仲の良いリーが知らないなんてね」
「し~、黙っててあげて」
ケイティの呟きをアリシアが黙らせる。
雑談している間に、雪解けの美しい村へ到着した。
村の中心には、去年の指導官トワイクロスがいた。気配の薄い彼は、外にいるせいか意識しなければ見逃してしまいそうだ。
「こんにちは、皆さん。はじめましての方もいるので名乗りましょう。ウィルキー=トワイクロスです。この場においても、私は指導官と呼んでください」
生徒の顔を見渡し、トワイクロスは何の感情も持たぬ口調で試験内容を説明していく。
「皆さんには1人ずつ順番に、用意しました円の中に『姿現わし』して頂きます」
告げた瞬間、トワイクロスの隣に、枝を編みこんで出来た輪が出現した。
「まずは、ホグワーツ城まで戻ってください。そこにはフリットウィック教授がいらっしゃるはずです。『バラけ』る事を恐れず、集中すれば良いのです。では、はい始め」
突然、締めた言葉が開始の合図とは気づかず、一瞬、呆けた。
気づいたクローディアは早足で、城へと戻る。慌てて他の生徒も走り出す。生徒全員の疾走を見届けてから、ハグリッドも走り出した。
城門には、確かにフリットウィックがちょこんと立っていた。
「よく戻ったね。では、アルファベッドから順番にやってもらいますよ」
順番が巡るまで、クローディアは深呼吸して集中力を高める。しかし、マリエッタのように大半の生徒は全速力で走った為、肩で息を繰り返した。呼吸が整うまで、休憩を求める声があったが、却下された。
「どんな時でも、一瞬の集中を欠かさない訓練でもあります」
フリットウィックの容赦のない言葉に、誰も反論しなかった。
結果から言えば、クローディアは合格である。
寸分も違えず、円に『姿現わし』し、足にも何の違和感もない。
「素晴らしい。貴女に魔法を教えた方とは一度、お話してみたいものです」
トワイクロスは感心したように呟く。本当に、クローディアが他から手解きを受けていると見抜かれていた。
「トワイクロス指導官、私は確かに祖父から教わっています。『姿現わし』にも、癖があるのでしょうか?」
「勿論、あります。貴女のは、どのような状況下でも『姿現わし』が出来るように少々、荒い方法で教え込まれています。私は安全性を重視した指導を心掛けていますので、真似はできません。しかし、とても興味深いですよ。お祖父さまを大切になさってください」
何気ない質問にも、トワイクロスは真摯に答えてくれた。
クリスマスの日から、トトとの距離感がわからなくなっていた。次に会える時は、この試験を話題にできる。
試験の監督も含め、二重の意味で感謝を述べた。
クィディッチ・ハッフルパフ対スリザリン戦は、セドリック達の圧勝だ。得点から見ても、レイブンクロー対グリフィンドールの勝敗がどうであれ、ハッフルパフ優勝は決定である。
後は最下位決定戦である。
「頼む! 『銀の矢』を……! チョウに貸してくれ!!」
「お願い、お願いよ!」
切羽詰まったロジャーとチョウが足に縋りつき、クローディアの箒を求めた。凄まじい迫力に断り切れなかった。
「だから! 最初から、クローディアの『銀の矢』を借りようって言った!」
「今更、そんなこと言っても時は戻らねえんだよ」
「先輩、……落ちついて、ねえ?」
胸ぐらを掴みあうミムとエディーの口論に、仲裁できずネイサンは困り果てた。
「そもそも、試験で忙しいのに試合があるほうがおかしいんだよ……」
「試験の後なんだから、むしろラッキーよ。スリザリンどもは完敗した挙句、試験なのよ。私なら絶対、何もかもボロボロだわ」
【中級変身術】の教科書に書き込みをするテリーに、サリーはあっけらかんとしていた。
「鬱陶しかったスリザリンの妨害も少しは治まるかなあ。親衛隊なんて、さっさとなくなればいいのに」
ザヴィアーはげっそりと歴代試験範囲を確認する。
先日の対戦まで、スリザリンによるハッフルパフへの陰湿な嫌がらせは馬鹿馬鹿しく凄惨を極めた。セドリックを中心とし、彼らは果敢に立ち向かった。
流石にブチ切れたスプラウトがスネイプに抗議し、ダートの拷問器具(試作品)で生徒の暴走を抑えた。
「大丈夫、グリフィンドールは……失礼ながら、あのロンがキーパーだぜ。ハリーもいないし、前向きに行こうぜ!」
本当に失礼なアンソニーの明るい笑顔は、翌日に打ち砕かれた。
――ハリーのシーカー復帰だ。
最下位を逃れたいマクゴナガルは、今日までにアンブリッジに抗議と交渉を繰り返した。執拗なまでに粘着され、ついにガマガエル婆が折れたのだ。
DAでも、アンジェリーナの怒りは治まらない
「優勝に関係ない最後の試合ってところが、嫌味だ!」
「きっとフレッドとジョージが退学したって、知ったんじゃねえの?」
双子の退学を知らされたリーは不貞腐れて、クッションを蹴りたくる。
「フレッドとジョージのお陰で、スーザンの退学も目立たないし……。これであの子も逃げ切れたら、いいけど」
ハンナの心配は、スーザンの安否だけだ。
「『デラックス爆発』は予約待ちだって、あれ、すっげえ好き」
「僕も予約したよ」
クレメンスとセドリックは悪戯道具の話題で盛り上がる。女子生徒は新商品の美容化粧品に注目した。
「おお、ニキビに悩む人にピッタリ! お小遣いつぎ込んじゃうにえ」
「また顔を削られたいの?」
興奮するエロイーズをダフネは冷めた目で見ていた。
セオドールとセシルが入室してくると、皆、自然に授業を受ける態度へと変わる。
その空気を感じ取ったハリーも、皆の視線を受けやすい位置へと立つ。
「今日は古い魔法を教える。教科書にも載らないくらい、古くて、当たり前にあった魔法だ。当たり前すぎて、傍にある事さえ、忘れてしまう。そんな魔法だ」
前置きしてから、ハリーは口頭で魔法の説明する。今までと違い、曖昧な表現だ。まるで、リーマスの授業と雰囲気が似ている。難しく考えず、心にある感情を思い浮かべて口にする。彼の授業は、心のあり方を教えていた。
「チェボーラム・サングイズ(血よ糧となれ)」
歌うような旋律で、ハリーは唱えた。
「……この魔法は今、この場で唱えても効力を実感できないよ。最大限に発揮できるのは、自分の命が危機に瀕した瞬間だ。つまり、自分の命を糧として人を護ってくれる。勿論、生きている時も保護魔法として使えるが、効力は格段に落ちる……」
一度、言葉を区切ったハリーは、皆の顔を見渡した。
「この魔法は使わないに越した事はない。ただ、藁をも掴みたい……そんな時は必ず来る。ヴォルデモートと相対して、奴に怯えて、授業で習っていた防衛術が使えなくても、恥じゃない。けど、奴らは決して容赦しない」
ヴォルデモートの名に、何人かが怯んだ。
「そうだ、僕らはヴォル、デモートから『死喰い人』から家族を守りたい。奴らに屈する形じゃなく、誇れる自分の力で……」
怯えを口元に残し、セドリックはハリーへ微笑んだ。彼の口から、ヴォルデモートの名を聞いたのは、初めてだ。
「ヴォルデモート!」
音程の外れたルーナの声も、ヴォルデモートへの恐怖を感じさせた。しかし、立ち向かう意志を示している。ジニーが落ち着かせようと、彼女の肩を抱く。
皆の様子を見てから、ハリーは呪文の発音を教えて回る。
「(これが……校長先生から教えて貰った魔法さ?)」
「(うん、本当、昨日ね。ハーマイオニーにも、ちゃんと伝えたよ)」
ハーマイオニーへ視線を向けながら、ハリーはクローディアの発音を確認する。
「チェボーラム・サングイズ」
「クローディア、……それだとchaだよ。そこはciで発音して」
マクゴナガルのように厳しい目つきで、ハリーは細かく注意した。
一時間後、ハリーは解散を言い渡す。
「今も試験で大変だ。今日で、DAを終わりにしたいというなら……」
「待って待って! 『守護霊の呪文』、もう一回!」
「『盾の呪文』、俺は『盾の呪文』がいい!」
クララとアーミーが競って主張してきた。
「俺も、まだ色々と教えて欲しい」
セオドールの主張には、何人かが驚かされる。しかし、ハリーは喜んで歓迎していた。
6月に入り、季節が本格的な夏へと移り変わる。太陽の日差し、涼しさを与える風がその証明だ。
つまり、7・5年生の試験が間近に迫っていた。
試験への取り組みの一環で宿題は出ないが、誰も喜ばない。宿題の内容が試験範囲内ではないかと疑う声もあった。
『必要の部屋』も試験の為に、勉強部屋と化した。クララが必死に部屋へ願ったのだ。レイブンクローとは違う過去問題集などの試験に役立つ書物が現れ、セドリックまで歓喜に震えた。
DAまで試験内容を推測したり、下級生に勉強を教える時間となった。
クィディッチ選手のハリー達は勉強漬けの毎日でありながら特訓もこなす。これまで以上に、クローディアは彼らを尊敬の念を抱く。
ここで追い詰められた生徒を食い物にする動きが勃発した。実際はただの水やジューズを『バルッフィオの脳活性秘薬』と嘯いて売り込む闇取引だ。
エディーは下級生と取引して、60ガリオンも稼いだ。勉強疲れのザヴィアーに発見され、すぐさま返金させられた。
「次やったら、てめえの脳で秘薬を作るぞ?」
若干、キレ気味のザヴィアーは5年生の折、バーナードに詐欺られたそうだ。あまりの剣幕にエディーは、談話室の絨毯へ土下座して詫びた。
7年生で一番、温厚なザヴィアーのキレた姿が効いたらしく、闇取引は自然となくなった。
「大丈夫、魔法試験局のグリゼルダ=マーチバンクスは、真剣に実力を見るだけよ。私の時もそうだったわ」
「そうそう、トフティ教授も公平に監督するだけだから、不正とかない! 安心して」
元気づけようとしたチョウとミムだが、モラグは余計に沈みこんだ。
試験前日、DAは行われた。
これまで学んだ呪文の実践だ。様々な魔法が部屋中を飛び交う。憂さ晴らしのような時間はすぐさまに去り、ハリーは解散を言い渡した。
「いよいよ、明日か……」
ブレーズの呟きに緊張で寒気がしてくる。簡単な挨拶をして、皆、次々と部屋を後にする。見送るハリーも明日に向けて緊張している。ロンはハーマイオニーとまだ参考書を読んでいた。
「ハリー、試験が終わったら、ハグリッドからセストラルの事も聞けるさ。楽しみがあれば、すぐに終わるさ」
クローディアの励ましはセオドールの耳に届いた。
「おまえらセストラルが見えんの?」
「僕だけだよ」
興味深そうにセオドールはハリーを眺める。その視線が気になり、クローディアは怪訝する。
「ノット、セストラルを知っているさ?」
「……まあな、セストラルは人の死を見た奴にしか見えねえ。魔法界でも奇妙な生き物らしいわ。俺の場合はお袋だ」
事もなげに言い放たれ、クローディアとハリーは首筋が詰まる感覚に襲われた。
「セストラルが……見える条件って、人の死を見るってことさ?」
今まで見えなかったハリーは、ファッジの死を目撃した。ならば、ルーナは何故だろう。その疑問をぶつけるべく、彼女を探したが既に部屋を出ていた。
「見えなくても触れるから、今度、触ってみろよ。すっげえ肌触りだぜ」
おもしろそうに笑い、セオドールも部屋を出て行った。
「クローディア、ハリー。どうしたの?」
ハーマイオニーに心配され、手ぶりで否と答えた。ハリーも真っ青なまま何も答えず、口元や首筋を何度も触る。
「もう、行こうぜ。腹減った」
ハリーの様子から感づいたロンは、深く追及しなかった。
夕食中もセストラルについて考えた。ルーナが生態を説明しないのも見える理由を話さないのも、彼女の考えだ。クローディアがホムンクルスである事実も教えていない。
親しい故に、知らぬ事情もある。
頭で理解している。しかし、胸を虚しさが込み上げてくる。
(試験が終わってから聞くさ。……教えて欲しいさ)
カボチャジュースをジョッキで飲みルーナを見ながら、勝手な決意を抱いた。
「聞いて、来たわよ。例の試験官! 校長先生と話していたわ」
手をバタつかせたマンディは慎重な声で教え、5年生の間でより緊張が増した。
2週間に及ぶ、『O・W・L試験』は始まった。
筆記はカンニング防止対策が例年より強化され、実技はより正確さと精密さと威力を要求された。
ダンブルドアより生きていそうな老齢の魔女マーチバンクス、魔法使いトフティ両名の前で実技を披露する瞬間、緊張で魔法を失敗してしまう生徒が続出した。
クローディアも緊張はあっても、脳髄が冷静さなお陰で、難なく魔法を唱えられた。マーチバンクスは上々と満足していた。
「私、『守護霊の呪文』をやってみせました。マーチバンクス教授ったら、腰抜かしてましたわ」
就寝前、リサは上機嫌に教えてくれた。
「そりゃあ、言葉通りの分身だもの。ビビるわよ」
爆笑したパドマが腹の底から笑い、目に涙を浮かべた。
緊張の張り詰めた試験中、驚きべき事件が起こる。
ハグリッドがグロウプに投げ飛ばされ、城へそのデカイ体を埋め込まされた。城が崩れそうな程、揺れ動いたせいで、生徒達に混乱が広がった。
「恐れる暇があるのですか!?」
マクゴガナルの一喝は、動揺する隙間さえ生徒に与えない。
心配したクローディアとハリーは、医務室へ見舞いに行く。
「……遊んでた……だけだあ……すぐ、よくなる……」
頑丈な森番は、包帯でぐるぐる巻きだ。
「何処まで、負傷しているかわかりません。精密検査の為、聖マンゴ病院へ入院する手続きを取ります」
マダム・ポンフリーの決定を聞き、胸騒ぎがする。目の前にいるハグリッドではなく、遠くにいる親しい人に危険が迫っている。虫の知らせというべき感覚だ。
試験の終わりが待てず、クローディアは夕食の席にいたダンブルドアへ直訴した。校長は真摯に受け止め、彼女の身内を安否を確認すると約束してくれた。
グロウプは引き続き、『闇払い』とブランクの監視下に置かれた。
「グロウプの事で、ちょいと調子に乗っていたからね。良い薬だよ」
ブランクの溜息は、ダンブルドアを除いた教職員の総意にも思えた。
最終日の午後、5年生は大広間で『魔法史』に挑んだ。寮席は取り払われ、奥の巨大な砂時計に向けた席が並ぶ。寮生関係なく、好きな席に座る。席には既に裏返しの答案用紙が設置されていた。
5年生全員の出席を確認してから、マーチバンクスは開始の合図を送る。
一番の難関、ピエール=ボナコーに関する項目を書き綴り、全ての答案を終えた瞬間、甲高い悲鳴が大広間の静寂をさいた。
悲鳴の主は、椅子から転げ落ちたハリー。額の傷を押さえる姿勢で彼は蹲っていた。
冷水を浴びた気分で、全身が震え上がる。試験も忘れ、クローディアはハリーへ駆け寄る。
「ハリー、ハリー! 私を見て!」
彼の耳元で名を呼べば、爪を立てて腕を掴まれた。緑がかった瞳が一瞬、赤く輝く。ヴォルデモートの気配を感じ、胃が痙攣する。
「貴様の……母親は……頂いた」
ハリーではない声で囁かれ、クローディアの胃が逆流した。驚愕に目を見開き、彼を見た時には普段の様子に戻っていた。
悪夢から覚めた顔つきで、ハリーは周囲を見渡す。
「……僕……、クローディア、どうしたの? 真っ青だよ?」
ハリーの掠れた声は、クローディアは我に返る。騒然した生徒を構う余裕はなく、マーチバンクスとトフティに向かって挙手する。
「すみません! 私、お手洗いに行きます!」
「よ、よろしい。時間内に戻れずとも、こちらで君の分は回収しておこう」
クローディアの気迫に押され、トフティは戸惑いながら答える。確認してから、大広間を飛び出した。
向かうのは職員室だ。
校長室では合言葉が必要だ。職員室には誰かが必ずいるので、合言葉を教えて貰う。
「こりゃあ、異な事! 試験中に、生徒がウロウロしておる!」
「抜け出してきたのか?」
職員室に来た時、扉前の2体いるガーゴイル像が悪態を吐く。初めて話しかけられたが、驚く心地ではない。
「校長先生にお会いしたいのです。どなたか、先生はおられませんか?」
お互いの顔を見合い、ガーゴイルは職員室へ入れさせてくれた。適当なノックし、返事も待たずに扉を開く。
椅子と椅子に寝転がるマダム・フーチしか、いない。突然の生徒入室にマダム・フーチは飛び起きる。
「まだ試験中ですよ、ミス・クロックフォード!」
「校長室に入りたいです。合言葉を教えてください!」
非礼を詫び、合言葉を尋ねる。マダム・フーチは困りながら溜息を吐く。
「校長先生はいま外出中です。今夜には戻るとしか聞いていません」
怒鳴りそうな衝動を堪える。ダンブルドアは『不死鳥の騎士団』、校長の職務と多忙だ。しかも、家族の安否まで気遣ってくれた。
(マクゴナガル先生か……、スネイプ先生)
終了の鐘が鳴り、クローディアは迷わず職員室を後にする。マクゴナガルの事務所へ着いた時、鏡を持ったハリーと合流した。
「ハリー、校長先生がいないさ!」
「そうなの!? 僕、マクゴナガル先生に鏡が……」
切羽詰ったハリーが『両面鏡』を突き出した時、マクゴナガルに事務所へ引き込まれた。
「その鏡は貴重な物です。おいそれと見せてはいけません」
深刻に注意するマクゴナガルの言葉が終えた途端、クローディアとハリーは競って声を上げる。
「母がヴォルデモートに捕まりました!」「シリウスがヴォルデモートに捕まりました!」
双方はお互いの言葉に絶句した。マクゴナガルも驚愕に息を飲んだが、冷静に2人の顔を見つめる。
「どういう事ですか?」
呼吸を荒くしたハリーは、試験中に見た夢の詳細を語った。『神秘部』のガラス球を陳列した部屋、97列目の奥でシリウスはヴォルデモートから拷問されている様子だ。
「さっき、鏡で連絡を取ろうしたけど……返事がなくて。壊れたんでしょうか?」
アーサーの前例があり、ハリーのシリウスを心配する気持ちはわかる。しかも、『両面鏡』で連絡できないなら、不安は募る。
「……それでミス・クロックフォードは、どうしてお母上が捕まったなどと?」
鏡に触れて探ってみるが、マクゴナガルには異常を感じ取れなかった。故に別を確認する。
「ハリーが言いました。正しくはヴォルデモートがハリーを通して言わせていました……」
赤い瞳のハリーを思い返し、恐怖に慄き指先が勝手に震える。日本にいるはずの母がヴォルデモートに目を付けられた。言葉にして、実感が湧く。
ハリーも自分の体が操られ、真っ青に手で唇を押さえる。彼を落ち着かせる為、マクゴナガルは自らの椅子に座らせる。
「私がすぐに事実を確認してきます。お2人は……ここいなさい。決して、学校から出てはなりません」
「シリウスは当番なんでしょう? だから、あいつに捕まった……なら」
縋ろうとするハリーに、マクゴナガルは毅然とした態度で飴の詰まった瓶を差し出した。
「ミスタ・ポッター、よくお聞きなさい。それは罠です。貴方をそこへ導き、あれを取らせるつもりでしょう。あれは直接関わりのある人にしか、触れられない代物です。もし、いいですか? もしも、シリウスが奴らの手に落ちたのなら……、尚の事、貴方は出向いてはなりません」
丁寧に説得するマクゴナガルは、ハリーに飴の瓶を渡して事務所を出て行った。
鍵のかかる音がする。マクゴナガルは自分達を閉じ込めたいのだ。
「……どうしよう? どうやって『神秘部』に行けるかな?」
瓶を適当な机に置き、ハリーは呟く。質問ではなく、独り言だ。
「魔法省なら、ロンかセドリックに……」
言いかけた瞬間、フクロウが慌ただしく突進してきた。窓ガラスが割れんばかりの勢いだが、ガラスは無事だ。
すぐにフクロウを招き入れた。その足には封筒を破き、中を改める。
写真が一枚、入っていた。何処かのホールにて、クラウチJrに抱きあげられた母の姿が写っている。
脳髄は警鐘を鳴らし、全ての臓物が縮みあがる。吐き気に襲われ、しゃっくりが出た。
「このフクロウ……、母に手紙を出した……フクロウ……」
弱弱しく倒れたフクロウを撫で、部屋は重苦しい空気に包まれた。
控え目なノックがしたので、緊張が走る。しかし、扉は勝手に開いた。
「ここにいたんだ」
杖を構えたルーナの口調は冷静を与えてくれる。
「マクゴナガル先生が出て行くのを見たわ。すっごい、険しい顔だったわ」
ハーマイオニー、ロン、ジニー、ネビル、パドマ、リサ、ハンナ、セドリック、クララまでいた。
「何があったの?」
遠慮がちにネビルは、クローディアの持っている写真に気づく。ハリーは飛びつくように、皆へ説明した。全てを聞き終えたハーマイオニーは、写真を見てから表情を強張らせる。
「ハリー、それは罠よ」
「マクゴナガルもそう言った……。でも、クローディアのお母さんは奴らに捕まっているんだ。シリウスだって……」
「ちょっと待って、ハリー」
興奮したハリーを落ち着かせる口調で、セドリックは宥める。
「君の名づけ親を大切に思う気持ちはわかった。『例のあの人』の夢を見る理由とかはこの際、置いておこう。どうして、それが夢だと思うの? 魔法使いの中には千里眼の使い手がいて、現実に起こっている事を見通せる人もいる。会った事ないけど……ハリー、今、ハッキリと夢だって断言したよね? どうして?」
セドリックの細かい質問で、ハリーは記憶を辿る。
「話せば長くなるから省くけど、ボニフェースって人が夢に出てくるんだ。……シリウスの傍に……立っていたから……夢だと……」
唐突に勢いをなくし、ハリーは呆然とした。
「ハリー、どうしたの? 私達に出来る事はある?」
緊張したジニーはハリーを見つめた。
「君にはないよ、いくらなんでも危険だ……」
呆けた口調で、ハリーは返す。
「魔法省に行くなら、暖炉が使えれば一番だけど……」
「学校から魔法省へは行けないわよ。アンブリッジ対策で、閉じちゃっているから」
セドリックの提案をクララは却下する。
「あ~! この場所、知っているわ!」
気づいたパドマの声に、クローディアは停止していた思考が復活した。
「ハーマイオニー! ここ、ベンジャミン=アロンダイトの展覧会をした会場よ! ジャスティンと行ったから、覚えているわ!メインホール!」
ハーマイオニーも写真に喰いつき、何度も角度を変えて見る。彼女も『ノスタルジア・ホール』と断じた。あそこは解体工事が行われる予定の建物だ。隠れるには打ってつけかも知れない。
「つまり……二手に分かれるってことですか……」
「魔法省と展覧会、誰がどっちに着いていく? DAの皆にも声をかけようか?」
リサとハンナが深刻に話し、ハーマイオニーは慌てて声を上げる。
「ちょっと、ちょっと。どうして、行く事前提で話しているのよ! 罠だって、言っているでしょう!?」
「そうだよ、行くとしても! 魔法省には僕だけだし、展覧会にもクローディアだけだよ。そうだろう?」
明らかな罠。
2人をそれぞれの場所へ誘い出し、目的の物を手に入れる為だと理解している。だが、行かなければ大切な家族を再び失う。
ダンブルドアや騎士団員の力を待っている猶予はない。
行くしかない。
クローディアは決意して、胸を張る。
「ハーマイオニー、ロン、ルーナ、ジニー、パドマ、リサ、ネビル、ハンナ、セドリック、クララ、そして、ハリー」
1人1人を引きこむ強い口調で呼ぶ。この場に駆けつけてくれた皆に助けを請いたい。
「私一人では、誰も助けられない。どうか、力を……皆の命を私に下さい」
慣れた斜め45度の角度で頭を下げる。
一緒に行くという事は『死喰い人』、またはヴォルデモートの前に命を晒す危険がある。それを承知で頼むならば、命を寄せというに等しい。
命、この言葉にハンナは怯えて胸元を握る。
ハリーはクローディアが皆を危険な場面へ立ち会わせようとしている状況に絶句していた。
「行くわ。ここまで知ったのに知らぬ存ぜぬはできないもの」
パドマの宣言に、リサは同意した。
「僕はハリーに着いていくから、残念だけど……」
申し訳なさそうに、ロンはハリーの肩に腕を回した。
「魔法省には何度も行っているから、案内できるよ」
微笑んだセドリックもハリーの頭に手を置く。
「……行くとしても、どうやって行くの? ハリーの『ファイアボルト』に着いていけるのは、クローディアの『銀の矢』だけよ。『姿現わし』は私もやったことないし……」
「それなら、大丈夫だよ。セストラルに乗っていけばいいもン。あたし、ブランク先生に乗り方、宥め方とか聞いてくる。先に『暗黒の森』で待ってて」
跳ねるように走り、ルーナは誰も返事も聞かずに行ってしまう。
「ありがとう、ルーナ」
聞こえずとも、クローディアは感謝を込める。
「どうしても皆、行くんだね?」
戦いを決意したハリーの確認を誰も否定しない。
「ハンナ、怖いなら無理しなくていいさ。ただ、先生達に私達の行動を知られないように、して欲しいさ」
「それくらいなら……」
安心したようにハンナは安堵の息を吐く。やはり、彼女は戦いの場に連れて行けない。
「それなら、良い方法があるわ」
嬉しそうにハーマイオニーは、鞄から試験管のようなフラスコを取り出して見せる。
「もしかして、それ、ポリジュース薬さ?」
「ええ、何かあった時に使おうと思って準備していたの。言っておきますけど、自前の材料で作ったわ」
得意げなハーマイオニーは、クローディアの髪を一本毟る。フラスコをハンナへ渡しながら、『ポリジュース薬』の注意点を説明する。
「ハーマイオニー、監督生なのに堂々と規則違反だわ」
クララは呆れを通り越し、感心した。
「ネビル!」
沈黙していたハリーが唐突に声を上げた。呼ばれたネビルが一番、驚いていた。
「君に……君にしか、頼めない事がある……」
瞬きをしないハリーの眼差しを受け止め、ネビルは承知した。
☈☈☈☈☈
美容師の勤務を終え、祈沙は家路に着く。
誰も帰りを待たない家は、1人では広すぎる。父も夫も娘も、皆、外国で自分の戦いを繰り返しているのだ。足手まといでしかない祈沙は、ここで連絡を待つ。
これが自分なりの戦いだと信じている。
一羽のフクロウが祈沙へと舞い降りた。父のシマフクロウ・又三郎ではない。見慣れぬフクロウは長距離の飛行に草臥れていた。
その足には手紙が添えられ、急いで読み上げる。
【お母さんへ会いたい。すぐに来て欲しい。 クローディア】
娘にしては、普段と違う手紙だ。まず、英文だ。娘は母である祈沙に『クローディア』とは名乗らない。そもそも又三郎を使わない時点で疑うべきだろう。
しかし、10月から一切、連絡を取っていなかった。真実を知った娘に、白々しい内容の手紙を出す勇気がなかった。
しかも、妖精から預かったロケットも無くしてしまう失態を犯した。
必死の催促で、慌てたのだと解釈した。
パスポートと最低限の荷物を鞄に詰め、空港で飛行機のチケットを取る。飛行機に乗る前、夫宛てへ到着の予想時間を書き込んだ手紙をフクロウに持たせた。
時期的に、娘は進路を左右する試験中だ。学校へは行けずとも、早めにイギリスへ行くとしよう。
夫に連絡しておけば、叱る事はあっても追い返されはしない。後の問題は、長時間の飛行に下半身の筋肉が堪えるだけだ。
問題なく、イギリスへ到着した。
荷物も無事に受け取り、空港のタクシー乗り場を歩いた。この国では、外国人と一目でわかる容姿、そして独りでいるの為、タクシーの運転手以外にも何人も声をかけてきた。
その中に、何処かで見た男がいた。
「は~い、奥様。お久しぶりでございます」
紳士的に挨拶する男は、【日刊予言者新聞】で指名手配された脱獄犯・バーテミウス=クラウチJrだ。
それを理解した瞬間、祈沙の思考は途絶えた。
閲覧ありがとうございました。
セオドールのセストラル理由は勘で書いてます。間違っていたら、すみません。
チェボーラム・サングイズ(血よ糧となれ)は無い知恵を絞って考えた呪文です。
ホグワーツは先生の目を盗んでのヤミ取引が多い(笑)
ガーゴイル像、やっとしゃべった!
●グリゼルダ=マーチバンクス、トフティ教授
すごいお年寄り、公平な判断をしてくれるらしい。
●サベッジ=ガーション
原作六巻にて、トンクスから名前だけ紹介される。男女・容姿不明。