こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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追記:16年9月12日、18年11月28日、誤字報告により修正しました。


3.休暇の最終日

 次に宿泊したのは、意外にもパーシーの自宅だ。

 ロンドンで独り暮らしとは聞いていたが、『漏れ鍋』にも近い。魔法省の管理する独身寮らしく、周辺の家々と変わらない造りの建物だ。魔法族が住んでいるなど想像もされない。

 出迎えたパーシーは一切の歓迎の様子を見せず、クローディアとコンラッドを招き入れる。清潔な部屋は『隠れ穴』と違い、最低限の家具しかなかった。

 居た堪れない気持ちでクローディアはパーシーに挨拶した。コンラッドの機械的な笑顔が微妙に羨ましい。

「お邪魔します」

「ありがとう、パーシー。助かるよ」

「……一晩だけという約束だよ。朝には出て行ってくれ」

 食事は外で適当に済ませてきたが、如何せん独り暮らし用の間取りである。寝台とか家具の問題ではなく、客人の寝る場所がない。

 コンラッドに視線を向けると、彼は鞄から顔ぐらいの大きさの絵を取り出す。何もない壁にその絵を飾る。絵には扉が描かれていた。

 まさかと予想してみれば、絵から扉が浮き出てきた。そのドアノブにコンラッドが触れて開くと、奥へ続いていた。ちなみにその壁の向こうは本来は隣の部屋だ。警戒して中を覗けば、窓のない六畳間の和室になっていた。

 ドラえもんに似た道具があったような気がする。

「私達はこちらで休む。おやすみ」

 機械的な笑みでパーシーへ就寝の挨拶し、コンラッドは荷物を持って絵の中へ入った。

「良い道具を持っているね」

「魔法省のほうが良い道具を持っているって聞いたさ。『神秘部』とかさ」

 冷やかな口調にクローディアは愛想良く会話を繋げようとした。しかし、パーシーは彼女と目を合わそうとしない。体をこちらへ向けている分、無視はされていない。

「スクリムジョール大臣は……君達を疑っている。僕としては……君にそれだけの度胸も度量もないし、そこまで賢いとも思わない」

 元彼女の後輩に対し、よくもそこまでボロクソに暴言が吐けると逆に感心してしまう。

「だが、君のお父上は誤解を生む……。疑いを晴らす気があるなら、僕から大臣へ……」

「パーシー。魔法省、いや、スクリムジョール大臣が私達に嫌疑をかけて法廷に引きずり出したいなら、とっくにやっているさ。やらないのはそれなりの理由がある。だろうさ?」

 パーシーの提案を予想し、クローディアは出来るだけ怒らない口調で咎める。彼は怯まずに言葉を続けた。

「……誤解しないでくれ。君の為なんかじゃない。ロンがいつまでも君との付き合いはやめないから言っているんだ。……それにジョージとも良い感じなんだろう? ……君達が何をしようとしているかは知らないし、関わり合いになりたくない。けど、僕の家族に迷惑をかけないでくれ」

 眉間にしわを寄せ顔を歪めるパーシーはクローディアを睨んだ。その眼光には怯えが混ざっている。彼は今だ『隠れ穴』……ウィーズリー家に戻らない。去年からロンへハリーとの縁を切るように促していたのは彼なりに真剣に家族の身を案じたからだと、今、気づいた。

「……誰かを遠ざければ、危険を避けられる……。もう、そんな状況じゃない。賢いパーシーなら、わかって……」

「わかっているよ、そんなこと! ……本当はどうすべきかなんて、わかっているよ。……でもね、誰もが戦えるわけじゃないんだ……」

 その苦悩する姿から、何故かピーター=ペティグリューが浮かぶ。ヴォルデモートへの恐怖から仲間を裏切った男はシリウスを庇って死んだ。

 パーシーに仲間や家族を裏切る気はない。しかし、敵に立ち向かう勇気がない。何故なら、敵との戦いは必ず誰かの死に直面するのだ。

「スクリムジョール大臣が私達を裁くなら、全てが終わった後になる。これは間違いない。私もお父さんも逃げない。だから、パーシー。腕の良い弁護士ぐらいは用意してくれ」

 戦いが終わった後。

 この言葉にパーシーは電撃を受けたように衝撃を受けた。

「……君は……」

「そろそろ、寝たらどうだい? 明日は早いよ」

 パーシーが言い終える前に、コンラッドに呼ばれる。就寝の挨拶を述べ、クローディアは絵の中へ入った。

 懐かしい畳の香りが鼻につく。ベッロも畳の上で草の匂いを楽しんでいる。

「こんな便利な道具があるなら、パーシーを巻きこまなくても良かったんじゃないさ?」

「本当は今夜も『漏れ鍋』だったんだよ。彼には本当に感謝しているよ」

 口元を上げて笑うが、パーシーに若干、無理をさせたのではないかと不安になる。

「お父さんって誤解されやすいらしいさ」

「誤解じゃないから、問題ない」

 即答するコンラッドの笑みが一層、不気味な印象を受けた。

 

 日が昇る前に叩き起こされる。サンドイッチを頬張り、準備を整えてから和室を出た。

 部屋主のパーシーは寝ていたので、クローディアは枕元に感謝を記したメモを置く。コンラッドは絵を片付け、音を立てないように2人は部屋を去った。

 『姿くらまし』で移動した先は見覚えのあるキャンプ場だ。管理人一家に挨拶する時、此処がクィディッチ・ワールドカップの会場だったと気づいた。夏期休暇中の時期はマグルで多く、コリン、デニスのクリービー一家を見かけたが声はかけなかった。

 

 それから、森の奥の家だったり、空き屋に潜り込んだりしながら、3日と置かずに寝床を何度も変えた。眠る際は2人と一匹で交替に互いを見張った。ディグル、バンスなどの騎士団員の家に泊めて貰う時、コンラッドはいつも何処かへ行ってしまった。

 魔法界の新聞や雑誌は【ザ・クィブラー】も含めて欠かさず読んだ。アーサーが取り締まりとしてマルフォイの屋敷に2度目の家宅捜索を行ったが、何も出なかったと書かれていた。

 いつ読んでも、ハリーの話題は尽きなかった。

 赤ん坊の頃からを含め、4度もヴォルデモートと対峙して生き延びたのだ。『選ばれし者』などと書かれ、『予言』の内容が漏れたのかと焦る時もあった。

 魔法省とホールでの戦いは大々的に新聞に載り続け、生徒の名は載らなかったが関与を匂わせる内容だった。

 

 休暇の最終日、お決まりの騎士団の本部だ。

 しばらく見ない間に壁紙やカーペットが新築同然に改装されており、しかも白を基調とした内装で家を間違えたかと焦った。

 コンラッドも知らなかったらしく、滅多に見せぬ驚いた顔で硬直する。階段から上機嫌なジニーが飛び降りてきたので、クローディアは安心した。

「はい、クローディア。どう、見違えたでしょう? 私の仕業じゃないけどね。クリーチャーがやってくれたのよ。パパが言っていたけど、最近、本来の力が戻りつつあるんですって」

「へえ、クリーチャーがさ。で? その素敵な妖精さんは何処さ?」

 感心したクローディアが周囲を見渡し、床を見下ろしてもクリーチャーはいない。

「クリーチャーなら、僕達の洗濯物を済ませているよ。中庭にいるはず」

 階段の上から、ロンが快活に手を振ってきた。ハリーも横から遠慮がちに手を振る。

「そうか、中庭か。私はクリーチャーに挨拶してくる」

 ようやく我に返った苦笑したコンラッドは荷物をクローディアに渡して中庭へ向かった。

「シリウスも一緒だけどね」

 悪戯っぽく笑うロンは口元を押さえ、肩を揺らす。

「屋敷にいる間、シリウスは出来るだけクリーチャーの傍にいる事にしているんだ。まだギクシャクしているけど、少しずつ歩み寄っているよ。クローディアは『漏れ鍋』の後はどうしていたんだい?」

「移動ばかりの毎日で、本当に有意義な毎日だったさ。教科書を読み漁る時間もたっぷりさ」

 嫌味ったらしく肩を竦め、クローディアは荷物を抱えて女子部屋へと向かう。ハリーが虫籠を持つと、ベッロが嬉しそうに顔を出した。

「ジニー、ダイアゴン横町には行けたさ? 私達の後に行くって聞いていたけど……」

「ええ、行けたわ。ママが色々と口出してたけど、パパがちゃんと護るからって言ってくれたの。フレッドとジョージの店行ったわ! すごかった、本当にあの2人、最高! 良い買い物も出来たの」

 黄色い声で興奮するジニーをハリーまで嬉しそうに見つめていた。その視線が妙に気になった。

 階段を上りながら、周囲を見渡すと『屋敷妖精』の干し首は変わりなく鎮座していた。

「これは片付けないさ?」

「こればっかりわね、クリーチャーが嫌がるのよ。ただでさえ色々と変えちゃったから、ひとつくらいは彼の意見を聞こうってシリウスが妥協したの」

 正直、遺体の首を眺めるのは気分が良くない。しかし、クリーチャーの意見を優先したなら、仕方ない。

「はーい、クローディア。無事で何よりよ」

「……おはよう、トンクス」

 女子部屋に入っても、ハーマイオニーの姿はなかった。代わりにトンクスが寝台でだらしなく寝そべり、カサブランカを撫でていた。他にも紫のパフスケイン(それよりはかなり小さい)まで転がっている。

「じゃじゃーん、ピグミーパフのアーノルド! パフスケインのミニチュア版よ、可愛いでしょう」

 満面の笑顔でジニーはアーノルドを掌に乗せて自慢してきた。確かに可愛いがハーマイオニーのいない残念な気持ちが僅かに勝る。

「こんな生き物も売っていたさ。ところで、てっきり部屋にいるとハーマイオニーは何処にいるさ?」

「ハーマイオニーなら先週から家に帰っているよ。……彼女の両親、オーストラリアで開業するんだって。家族で一緒にいられるのは明日までになる……」

 答えたハリーの表情から、ハーマイオニーの家族との決別に対する決意が見えた。しかし、ここで疑問が浮かぶ。

「ハーマイオニーも? ペネロピーやジャスティンの両親も国を出るって話を聞いたさ。偶然にしては……」

「偶然なわけなかろう」

 唐突に割り込んだ声に驚いて扉を見れば、トトが不機嫌そうに立っていた。たった今到着したらしく、余所いきの服装に手袋まで着けていた。

「やだ、トトじゃん。部屋まで来るなんて、今日は時間あるの?」

 珍しい人を見て、トンクスも嬉しそうに寝台から飛び起きる。

「明日の見送りまでならな。おまえ達、内緒話なら扉を閉めておけい。誰が聞いておるか、わからんぞ」

 扉を閉め、トトは人差し指で「しーっ」のポーズをとる。

「なんか久しぶりさ。今まで何処をほっつき歩いていたさ。それに偶然じゃないってどういう意味さ? お祖父ちゃんが裏で糸を引いているとでも言うさ?」

 文句を述べるクローディアに、トトはわざとらしく鼻を鳴らす。

「引いとるとも、ワシがこれまで築き上げた人脈を全て活用しておる。但し、ワシはあくまでも提案するだけ、強制はしておらん」

 胸を張って威張るトトにクローディアは気づく。ハーマイオニー、ペネロピー、ジャスティンはマグル生まれだ。彼はマグルの親達を国外へ逃がしている。それも避難先で生活が出来るように仕事の斡旋まで行う。この為にいつも何処かへ行っていたのだ。

「……え、なんでクローディアは知らないの? ハーマイオニーは気づいていたのによ」

 ロンの驚きにクローディアは誤魔化す為に咳払いした。

「ハーマイオニー達の後見人はどうなるさ? 騎士団の誰かさ? 校長先生?」

「他人に責任を押し付けんよ、彼女らの後見人はワシが請け負う。それも条件のひとつじゃからな」

 トトの真剣な発言は自然と全員から尊敬を集める。視線の意味を理解し、彼は少し照れくさそうに口元をにやけさせた。

「さて、トンクス。明日の事で色々と話しておこう。おまえ達は夕食まで時間があろう。皆は新学期に向けて予習でもしておれ」

 現実的な問題にロンは両耳を塞いで誤魔化す。

 トトとトンクスがいなくなり、急にハリーの顔つきが厳しいモノに変わった。彼の表情の変化にロンは気づいて部屋を出ようとしたが、ジニーに引き留められた。

「今、本部にはシリウスとトンクス、クリーチャーしかいないの。夕食はまたコンラッドさんかな? そう思うでしょう、ロン」

「そういう話なら、いくらでもするけどマルフォイの話はもうたくさんだ」

 断言するロンはハリーに申し訳なさそうに告げた。

「マルフォイって、……もしかして家宅捜索で何か見つかったさ? 新聞にも載っていないことさ?」

「いいえ、新聞の通りよ。何も出なかったって、パパは言っていたわ」

 ジニーは盗み見るようにハリーを見た。彼は納得できないと表情で訴えてきた。

「あいつが『死喰い人』だって、ありえないと思う?」

「……お父さんの例があるから、『絶対ない』とは断言できないさ。最悪の事態は常に想定していいと思うさ」

 重々しく言い放ってからクローディアは後悔した。ハリーは肯定して貰えた喜びを見せたが、ロンとジニーは強張った表情で無意識に左腕を擦る。2人は自分が無理やり『闇の印』を施された状態を想像してしまったのだ。

「……こういう話はハーマイオニーがいるところでしたほうが良くないさ? もしくは……お父さんやブラックさんとか……」

 クローディアの口からシリウスの名が出たせいか、ハリーは仰天して目を丸くする。

「ハーマイオニーは確信が持てる証拠がないし、シリウスも正直、ヴォルデモートが未成年者を受け入れる程、切羽詰っているとは思わないって否定的だったよ。コンラッドさんは何か言っていたの?」

「いや、マルフォイの話はひとつもしてないさ。……そういえば、ヴォルデモートが魂を分裂させているって話ならしたさ。……この魔法は名を出すのも憚れるらしいから、伏せておくさ」

 先月の話なので記憶を探り、クローディアは詳細を思い返そうとした。しかし、強張った表情のロンの手で口を塞がれた。

「おったまげ! 『例のあの人』が何人もいるみたいに言うなよ。おっそろしくて夜、本気で寝られないだろう!」

 歯を食いしばるロンと違い、ハリーとジニーは同じ結論に行き着いた。

「トムの日記……」

「あれは魔法で記憶を植え付けたんじゃなくて、分裂させた魂を宿らせていたって考えるべきなのね?」

 答え合わせを要求してくるジニーは、自ら犯してしまった過去の所業による罪悪感で呼吸が荒くなっていた。

「……お父さんはそう思っているさ。それにロケットの件もあるから、ヴォルデモートは確実に2つ分は以上、魂を分裂させているさ」

 改めて口にしてから、ゾッとする恐怖を覚える。

 ハリーは妙に納得した表情だが、ヴォルデモートの死を回避する執念を感じて気味悪く思っている。ジニーは現実を受け入れようと寝台に腰掛け、両手で口を覆い深呼吸を繰り返している。ロンはあまりにも唐突な情報に実感が湧かない様子だ。

 1分か2分、部屋に沈黙が続く。

「ダンブルドアはそれを知っているんだね?」

 口を開いたのはハリーだ。質問よりも確認だ。クローディアが肯定の仕草をすれば、彼はこの部屋に来て初めて納得してくれた。

 

 クリーチャーが腕によりをかけた夕食に呼ばれ、4人は厨房へ降りる。いつの間にか来ていたリーマスとアーサーが先に着席していた。シリウスとトンクス、トトもいるのにコンラッドはいなかった。

「今夜は私も泊まるよ。明日の朝はここから歩いて駅へ向かう。駅には『闇払い』が待機しているから、安全対策は心配しなくていい」

「前みたいに車を借りれないの?」

 グラタンに食らいつくアーサーの説明にロンは残念そうな態度で問う。

「あんたら、どうやってここに来たさ?」

「煙突飛行術よ」

 クローディアにジニーは答え、上機嫌にラザニアを頬張る。

「騎士団じゃない人に本部の場所を知られるのは、危険だからね。局長が文句を……新しい局長のガウェイン=ロバースの事よ。ハリーは第一級セキュリティの資格が与えられているんだから、もっと厳重にすべきだって……」

「そんなに仰々しくされたら、返って怪しまれるじゃろうに……。奴らも阿呆ではない。むやみやたらにハリーを襲ってきたりはせん」

 オムライスを口に含んだまま、トンクスが喋る。トトは呆れ、パスタを食べようとしたがうっかり手袋にトマトソースを着けてしまう。彼は面倒そうに机の下で手袋を外していた。

「今夜はクリーチャーが作ったんだね。とっても美味しいよ」

 リーマスは会話に参加せず、食事を楽しむ。気のせいか彼は見る度に白髪が増え、衣服までボロくなっていく。本部にいない間の食生活が気になる所だ。

「ハリー、明日の準備はできたか? 忘れものがあっても、へドウィックに送らせるからな」

「朝にもう一度、確認するから大丈夫だよ」

 シリウスは新学期への支度について、ハリーを心配する。ジニーはトンクスに変化をねだり、段々と厨房に和気藹々とした雰囲気が流れてきた。

 今だけはヴォルデモートを忘れて楽しもう。そんな空気を察した。

「それでさ、あ、ごめん」

 ロンが何かの冗談を言おうとして腕を振り上げ、クローディアの肩にぶつかる。そのせいでフォークが手から滑り落ちる。

 クリーチャーが拾うより先にクローディアは屈んで机の下を見た。

 その位置から、トトの手の動きが見えた。手袋を外し、ポケットティッシュで拭う。肝心なのは動作ではなく、彼の左手だ。以前、医務室で見た時と同じように石炭と化していた。

 一瞬だけ驚き、その手について聞こうとした。その前にクリーチャーから新しいフォークを手渡され、落ちたフォークは拾われた。クローディアは彼に礼を述べる事に意識を向ける。

 何の前触れもなく、機械音が鳴り響く。

「おっと、電話じゃ。すまんな。上でかけてこよう」

 トトは手袋をはめ直し、そそくさと厨房を退室してしまう。アーサーは非常に残念そうに彼を……正しくは携帯電話を見送った。

「惜しいなあ、携帯話電なんて……。マグルは進化し続けている! 目の前に炊飯器もあるのに調べられないなんて……、コンラッドに貸して貰えるように、クローディアも頼んでくれないかい?」

「お断りします」

 ハーマイオニーがいれば『話電じゃなく、電話』と訂正し、モリーがいれば『こんな状況なのに何を考えているの!』と激怒しそうだ。そして、誰もツッコミも注意もしない。

 咀嚼する口の音、食器を動かす音、当たり障りのない話題が厨房を賑わせる。

 皆の皿が空になったところで、トトはコンラッドと帰ってきた。クリーチャーが食器を片づけ、クローディアとジニーも手伝おうとしたが拒否された。

 厨房の階段を上がる時、ジョーンズが到着した。

「トンクス、代わろう」

「はーい。私、このまま行くわ。クローディアとジニーはヘスチアが護衛するから、安心して眠れるわよ」

 愛嬌のあるウィンクを受け、ジニーは悲しそうに別れを惜しむ。その様子から、彼女は本当にトンクスが好きだとわかった。フラーの代わりにビルとの結婚を勧める程だ。

「トンクス、明日の護衛にいるの?」

「いないよ。けど、……ホグワーツの周辺にはいるからね。何かあったら、知らせて」

 納得したジニーはトンクスと別れのハグを交わす。

「私も行くよ。シリウス、コンラッドにトトまでいるなら、ここの護りは十分だ」

「飯食いに来ただけですか?」

 リーマスへのロンのツッコミに爆笑が湧いた。

 

 風呂から出たクローディアは女子部屋に戻ろうとしたが、男子部屋の扉に注目した。暗闇で見落としそうだが、座り込んでいたトトがいた。彼は寝間着に毛布を被り、護衛よりも悪さを見張る守衛に見える。

「お祖父ちゃん、何しているさ?」

「うむ、モリーがおらんのでな。男どもが変な気を起こさんか、心配でな。特にシリウスは独身故にヘスチアの身を守らんと」

 本当に見張りだった。少々、余計なお世話である。

「ブラックさんは、うちのお母さんに惚れているから大丈夫さ」

「ほほお、他に好きな人がおるのか……なら安心……できるかあ!? なんじゃ、その話はワシ初めて聞いたぞ!?」

 ノリツッコミするトトは、衝撃を受けて叫んだ。

 毛布の隙間から、トトの手が見える。不釣り合いな手袋をしている。

「お祖父ちゃん、その手……」

「語るには今夜で時間が足りん。ワシに時間の余裕が出来たら、話してやろう。待っていてくれんかな?」

 盟約の調停、国外へ移住する家族達への様々な援助。

 確かに今のトトは多忙極まる。この屋敷に来てくれたのは、明日、学校へ行くクローディアを見納める心地なのだろう。ホグワーツの敷地内に入れば、会う時間は更に減る。

 クローディアはトトの左手に拭いきれない不安を感じたが、必ず説明して貰えるなら追及はしない。相手の事情に深く踏み込まないのが、彼女の本来の性分だ。

「わかったさ。時間が出来たら……すぐに連絡して欲しいさ。授業を飛び出してでも聞きに行くさ」

「ほお、それ程までに学校の授業を頭に叩きこんどるんじゃな。よし、ワシがこれまでの復習をしてやろう」

 最後の部分だけ聞こえたらしく、男子部屋で慌てふためく音がした。

 




閲覧ありがとうございました。
屋敷はクリーチャ―によってキレイになりました。
ドラえもんの道具が欲しいのは、魔法界も同じ。

●ガウェイン=ロバース
 6巻からの闇払い局長。男性である以外の公式はない。
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