こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。
今回も長文です。

追記:17年3月26日、18年1月8日、誤字報告により修正しました。


7.監視

 クィディッチ選考は難航したが、レイブンクローも無事に終えた。

 キャプテン・エディー(チェイサー)を筆頭に同じ7年生チョウ(シーカー)とミム(チャイサー)、6年生サリー(キーパー)、4年生ネイサン(チェイサー)。

 心配していたビーターは5年生シーサー、そして3年生のオーラ=クァーラに決まる。2人ともシーカー希望だったが、エディーの説得でポジションを換えた。

「兄とポジションが被ってしまいましたが、妥協するのも監督生の務めです」

「シーカーは来年もう一度狙います」

「チョウがいなかったら、確実にシーカーはこの2人のどちらかだったよ。落とすには惜しいし、引き受けてくれて良かった」

 2人は快く引き受け、エディーの心配はひとつ減った。

 クローディアは選手に応募はしなかったが『銀の矢64』を貸す約束をしていたので、シーカーのチョウに渡した。

「チョウいいなあ、私に『ニンバス2002』貸して欲しいな」

「ミムの箒、『ニンバス2001』に見えるけどさ。……というか、あんたが選手に返り咲くとは思わなかったさ。『N・E・W・T試験』もあるのに大変じゃないさ?」

 しかも、ミムはバスケ部の駆け持ちまでしてくれるというのだ。

「正気じゃないわ……ミム。それで魔法省勤務も目指しているんだから、自分を追い詰めてどうするのよ」

 呆れたマリエッタはやれやれと肩を竦める。

「マリエッタも魔法省狙いでしょう?」

「まさか、あのアンブリッジと同じ職場なんて絶対、お断り! 母を見ていたら尚更よ! 一応、癒者になろうとは考えているわ」

 チョウの疑問にマリエッタは切実に答える。

「癒者と言えば……セドリックが元気かどうかチョウは知っているさ?」

「さあ? 彼とは良い思い出を作らせて貰ったわ」

 思い出話のように語るチョウを見て、クローディアは察する。あれだけハリーとの間で揺れ動いておきながら、別れはアッサリしている。本人達が納得しているなら、何も言うまい。

 

 バスケ部はテリーの作ったアメフト部に新入生を掻っ攫われる状態に陥る。顧問がマダム・フーチというだけあり、クィディッチ関連の部と誤解されたのだ。

「男子に好評なんですよねえ、アメフト……」

 バーベッジがげっそりと言い放つ。

 しかし、部を盛り上げていたクレメンスがクィディッチ・キャプテンに選ばれながらも、駆け持ちを約束してくれたのは大きい。新入生のクラーク=ハーキスまで連れて来てくれた。

「補欠だった僕がキャプテンだなんて、これもバスケのお陰だよ。選考で落ちた子とかに声をかけておくよ」

「……感動のあまりクレメンスが人生最高のハンサムに見えるさ」

「医務室行けよ、目を見て貰え」

 合掌してクレメンスを拝むクローディアにコーマックは愕然とした。

「クィディッチの選考に落ちたからって、いけしゃあいけしゃあと部に戻って……厚顔無恥もいいとこね」

 軽蔑を露にハーマイオニーは言い放つ。

「俺がどの部にいようと俺の勝手だ。ハーマイオニー、スラッギーじいさんの晩餐会来なかったな。次は来るんだろう?」

 コーマックは動じず、馴れ馴れしくハーマイオニーの肩に触れよう。クローディアは失礼のない程度に彼の手を払う。

「ハーマイオニーはロンとの時間が忙しいさ。諦める事をオススメするさ」

「……え!? あのジニーの兄貴と!! 君も医務室で頭を見て貰いなよ。きっと疲れているんだ」

 心底、コーマックは心配そうに失礼な発言をしてくる。

「余計なお世話よ、ロンとハーマイオニーは正気も正気。口出さないで」

 最高潮に不機嫌なジニーは吐き捨てる。ロンにも恋人が出来たので、ようやく恋人ディーンとの仲を邪魔されないと安堵していた。しかし、それとこれとは別だと兄の微妙な嫌がらせは続く。

 ロンの代わりと言わんばかりに睨まれたコーマックは、その迫力に圧されかけ口笛を吹いて誤魔化す。

「ねえ、クローディア。質問があるんだけど」

 マンディが視線を部室の隅へと向けたまま、不安げな声を出す。クローディアとハーマイオニー、ジニー、コーマックはそちらを決して見ない。意識しない。

 何故なら、そこにはドラコが独りでいるからだ。

 バーベッジが声をかけてもあしらわれ、見学に来る生徒は彼の姿にビックリして逃げ出してしまう。営業妨害も甚だしく、幽鬼の如く立つ様子は不気味だ。

「……ドラコ=マルフォイも参加されるんですね」

 後ろからボソッと囁いたのは、ベーカーだ。部活開始から、見学という名目で此処にいるが彼の任務はクローディアの監視だ。

 ドラコとベーカーの視線は何処か似通っている。

「どんな目的でいようとも、バスケに興味を持ってくれるなら大歓迎さ。ロバースも見てばっかりいないで一緒にやろうさ。モラグ、ネビル教えてあげて欲しいさ」

「いいよ、こっちだ」

「まずはボールに触ってみようか?」

 テイラー=ウィダーシンに手ほどきしていたモラグとネビルにロバースを渡す。ミムはメリンダ=ボビンからの質問に丁寧に答えていた。

「ベーカー=ロバース、クローディアに興味があるンだ……」

 珍しくルーナは警戒の視線でロバースを見ていた。彼の素性はリサとパドマにしか教えていないが、聡い彼女はお見通しなのかもしれない。その2人は宿題が終わらない為に部屋で闘っている。

 時間が経つにつれ、ハンナとジャック、デレクがこそこそと忍び足で現れた。

「あらま、意外と少な……ねえ、クローディア。質問があるんだけど」

「バスケ部以外の質問はお断りさ。あいつは気にする事ないさ。壁の絵だと思えばいいさ」

「随分と迫力のある絵だな、おい」

「壁の花にしても刺々しいですしね」

 3人はドラコを一瞥し、皆に挨拶する。

「ハンナ、デレク、ジャック。来るのが遅かったさ、アメフト部に乗り換えたと思ったさ」

 寂しげな視線で3人を見ると、視線を逸らされた。

「……見学には行ってました。バスケ部の勧誘活動もして来たんです」

「……タッチダウンがカッコ良かったわ」

「……バスケが性に合っていると思って帰って来たんだよ」

 正直に答えるデレクに倣い、ハンナとジャックも棒読みで話す。

「ありがとう、来てくれて嬉しいさ」

 その場のノリでクローディアも棒読みで返した。

 

 終了時間になり、部は解散する。

「今日は初日ですもの、焦る事はありません。部活動以外でもバスケについて色々と質問したい方は『マグル学』の教室を訪ねるか、クローディアへ」

 バーベッジの挨拶を終え、見学者は帰って行く。クローディアは残って後片付けだ。

 教室を施錠して振り返れば、ハーマイオニー、マンディ、ルーナ、ジニーが待つ。彼女達以外にも待つ者はいた。廊下の曲がり角付近から、ドラコがこちらを盗み見ている。しかし、クローディアと視線が合えば、曲がり角の向こうへ消えた。

「何……あれ?」

「あ、あそこまで来ると……スネイプ先生にお話ししたほうがよさそうですね……」

 クローディアは勿論、バーベッジもドラコの様子に正直、引く。

「少なくとも、恋する男子じゃないね……」

 マンディの呟きに全員同意し、クローディアは絶えない気苦労を感じて溜息を吐く。

(……ノットがいればマルフォイの立場とか聞けたかもしれないさ……)

 一番、状況を理解しているスネイプから聞ければ手っ取り早いがそれは無理だ。

 夕食を目当てにお広間へ行けば、ブレーズが女子生徒と歩いているのを発見する。『薬草学』と『闇の魔術への防衛術』で一緒のスリザリン生には悪いが、僅かな情報を求めて彼に声をかけた。

「ザビニ、少し良いさ?」

「うん? なんだ、クロックフォードか……。用があるなら手短にな」

 ブレーズの連れが不愉快そうに眉を寄せたが、彼は気にせず尊大な態度で返す。ハーマイオニー達は出来るだけ愛想良く敵意がない事を示した。

 若干、張り詰めた空気が漂うがクローディアは無視した。

「マルフォイがバスケ部に来たんだけどさ、あんたが勧めたさ?」

「……ドラコがそっちに? ……いや、勧めてない。仮に勧めても行かないだろう。ドラコだぞ?」

 確かに自分のやりたくない事はしない。それがドラコだ。なれば、自分の意思に違いない。やはりベーカーと同じ、クローディアを監視する任が濃厚だ。

「マルフォイはクィディッチもあるだろうにどういう心境だろうさ?」

「いいや、ドラコは選手じゃない。シーカーは5年生のエドマンド=ハーパーだ。正直、ドラコはずっとおかしい。キャプテンの話も蹴ったらしい……代わりにキャプテンになったウルクハートが言ってたぜ」

「それ以上、話すの?」

 黙り込んでいたブレーズの連れは批難の声を上げる。

「ミリー、妬くなよ。これぐらいの情報を与えても、スリザリンの優位は揺るがないぜ」

「そうだけど……貴方は女に甘いから」

 頭一つ分背の高い彼女は文字通りクローディアを見下す。

「心配しなくても、ザビニを取ったりしないさ。ミリー?」

「気安くその名で呼ばないで頂戴。いつものようにブルストロードでいいわ」

 ブルストロード。

 同じ学年のスリザリン生にいるブルストロードと言えば、1人しかいない。

「ミリセント=ブルストロード!? この美人が!?」

 クローディアの記憶にある休暇前のミリセントは横に巨体で背もほとんど変わらなかった。それが全体的に細く、左右の均衡が取れた顔つきになっていた。

「貴女に美人なんて言われるとゾッとしないわね」

 冷徹に吐き捨てミリセントはブレーズを引きずりながら、寮席へと行ってしまった。

「4人とも知っていたさ? ブルストロードが……変身を……」

「先生の点呼を聞いてないのかしら」

「クローディアったら、マルフォイばっかり気にしているものね」

 驚愕のあまりクローディアは震える。ハーマイオニーはマンディと顔を合わせ、やれやれと肩を竦めた。

「ジニーも美人だよ。レイブンクローでも男子がデートに誘いたいって言っているもン」

「あら、私の前にいる美人に目もくれないなんて、見る目がないわね」

 学年の違うルーナとジニーはお互いに褒め合う。勿論、心からの気持ちで、嘘はない。

「私の友人は美人ばっかりさ」

 浮かんだ言葉で締め、5人は夕食の為に大広間へ入った。

 カボチャジュースの味が五臓六腑に染み渡り、今日の疲れが癒されていく。

「浮いた話と言えば、ハリーはどうしているの? やっぱり、お相手は貴女?」

 マンディの何気ない質問に、クローディアの口から危うくカボチャジュースが噴射されかける。口に含んだ分を一気に飲み干したので、喉が痛い。

「……遠距離ではありますが、ジョージと交際しております」

「それって、結婚を前提にって事?  卒業したら、あの店で働くの? ご家族とは挨拶した?」

 爛々と目を輝かせ、マンディは次々と質問してくる。彼女にはクローディアの男女関係で気に病ませたこともある。隠し立てするような仲でもないし、素直に答えても問題ない。

「結婚までは考えてないさ、私は癒者を目指しているから店では働かないさ。……私の家族には会わせた事はあるし、ウィーズリーさんとは何度も家に招かれているさ」

 但し、交際について一切話していない。よくよく考えれば、コンラッドとトトにジョージをきちんと紹介していない事実に気づく。父はともかく、ロジャーとのお出かけにも口を挟む祖父に知られれば一悶着起こりそうだ。

「……どうやら、結婚への道のりは遠そうね。いろいろと……」

 青ざめたクローディアの様子に気づき、マンディは労わりの視線をくれた。

 結婚はさておき、ジョージの件はコンラッドとトトだけにでも正直に話しておくべきだ。表向きはモリー宛に手紙を書き、ロンのピッグウィジョンを借りて飛ばした。

 

 何故だか、翌日には返事が来てしまう。非常に濃い筆圧で『ホグズミード村』での外出にて、ジョージも含めて話し合いたいという旨が記されていた。

 試練を感じつつも、クローディアはフリットウィックを必死に説得して学期最初の外出日を聞き出す。再びピッグウィジョンを借り、ジョージへと手紙を出した。

 こちらは1週間かかって返事が来る。必ず『ホグズミード村』に来るという確約付きだ。多忙なジョージに遠出を強いてしまい、胸が痛んだ。

 

 その日を待つ間、のんびり過ごす……などいう暇はない。

 勉学やドラコだけでなく、部活も忙しくなる。他の勧誘活動も落ち着き、シェーマスやディーンも戻ってきた。

 10月に入る頃には、部長をクローディアに据え、ハンナ、マンディ、ルーナ、ジャック、コーマック、シェーマス、ディーン、モラグ、デレク、デニス、ナイジェルが固定部員となる。クレメンス、ミム、ジニーの3人は駆け持ち部員だが、部活動の時間は欠かさず顔を出してくれる。ハーマイオニー、パドマはプレイへの参加はせず、いつも記録係を引き受けてくれるので部員として確保した。

 扱いに困るのは、やはりドラコだ。部室に入っては来ず、廊下から様子を窺う姿が何人にも目撃された。彼のせいで逃した部員候補も多い。ついにバーベッジはスネイプに抗議し、見学という形で彼も部室に居座るようになってしまった。

 ドラコに比べれば、ベーカーに害はない。

 

 ――はずだった。

 パドマの招待で監督生のバスルームを堪能し、消灯時間ギリギリになったが寮へ帰って来れた。

「あの、少しよろしいですか?」

 誰もいないと思いきや、男子寮の扉からベーカーがこちらの様子を窺う。それだけでも不気味だが、彼が手にしている羊皮紙が気になる。

「その紙に何が書いてあるさ?」

 周囲を見渡し、他にパドマとリサしかいないと確認してからベーカーは答えた。

「僕が作った貴女の行動表です。1週間の時間割から、平日の1日、休日の過ごし方まで書いてます」

 淡々と言ってのけるベーカーにクローディア達は背筋が凍る。

「なるべく、規則正しい生活を送ってください。部活は仕方ないとしても、気づけばグリフィンドール寮へ行ったり、今日みたいに皆さんだけで何処へ……あ、返して……」

 行動表をベーカーの目の前で魔法を用いて取り上げ、燃やした。杖なしの無言呪文による魔法、力の差を見せつけられ、いつも無表情の彼も顔色を変えていた。

「……報せたいなら、報せろ。但し、こちらも然るべきところに出るぞ」

 下級生の持ち物を灰にしたクローディアも問題だが、新入生といえど何の権利があって他人の行動表を作成するのかと問われれば、ベーカーも立場が悪くなる。

「監督生の私がクローディアを許すわ」

 恨みがましく見つめるベーカーをパドマの胸の【監督生】バッチが黙らせた。

 

 スラグホーンの晩餐会は教授が巨体の猫背なので、コーマックなどから『スラグ・ナメクジ・クラブ』と揶揄されている。この集まりにクローディアとロンも声がかかった。

 2回目となる晩餐会にロンは意気揚々と参加する。ハリーはクィディッチを言い訳に逃げた。

 スラグホーンから顔が確実に見えるように円卓の席が用意され、コーマック、ロン、クローディア、ハーマイオニー、ジニー、ブレーズ、新入生の双子ヘスティア、フローラのカロー姉妹。

「(前回と面子が違うわ。メリンダは来ていないし、あの2人は今回が初めてね。確かカロー兄弟の親戚はず……『死喰い人』の関係者を呼ぶなんて珍しい)」

 ジニーの小声による解説に双子を見やる。つい先日、『死喰い人』のカロー兄妹と死闘を繰り広げたが、親戚にしては似ていない。控え目で麗しい少女達だ。

「ヘスティアとフローラは実に優秀でのう、わしの見通しに間違いがなければ学年1位はこの2人が競うじゃろう」

 愛おしい子を見る目つきから、双子はジニー同様に実力を気に入られたようだ。本人の持つ才能は家柄とは無関係のようだ。こういった点が人望に繋がるのだろう。

 何故か、見習いたくない。

「(ネビルとマーカスも来てないさ)」

「(呼ばれてないんだよ)」

 ハーマイオニーに耳打ちしたが、耳敏く聞き取ったコーマックに返された。

 興味本位で参加したクローディアの感想は、正直つまらなかった。

 お気に入りの教え子が如何なる役職に就き、またスラグホーンを恩師としてどれだけ尊敬されているのか語り、招待した生徒へ話題の提供を求める。

「ロンのお父様であるアーサー=ウィーズリー氏は『偽の防衛呪文ならびに保護器具の発見ならびに没収局』の局長です」

「ああ、ジニーから聞いたとも。兄弟がアンブリッジの秘書官に就いているとか……、可哀想に……。じゃが、今話題の『W・W・W』を経営しているそうだね。生徒の間でも人気が高い、品を見せて貰ったが質も良かった。流石はジニーのご兄弟じゃな」

 ハーマイオニーがロンの話をしても全部、ジニーに持って行ってしまう。その度にコーマックやブレーズにせせら笑われ、ロンは目に見えて不機嫌になっていく。

(……『W・W・W』の商品って持ち込み禁止だったような気がするさ……)

 余計な追及はせぬが賢明だ。

 結局、クローディアは一度も話題を振られなかった。公にできぬ事情がある身故、不都合はない。しかし、ハーマイオニーを誘うダシにされたのは気分が悪い。

 様々な感情を抱え、晩餐会は終わった。

「次は来ないぞ、絶対にだ!」

 寮への帰り道でロンは切実に叫んだ。

 

 心配せずとも、それ以降クローディアとロンはスラグホーンに呼ばれない。2人を言い訳にハーマイオニーも強く断りを入れたので、誘われなくなった。

「ホグズミード行きの日程、決まったな。クローディア、俺と行こうぜ」

「お断りさ」

 その代わり、クローディアを絶対にデートへ誘わんとばかりにコーマックから追われる日々が続く。

 もはや、逃げ場は『必要の部屋』だけだ。談話室のように暖炉と絨毯、革製のソファーはクローディアにとっても憩いの場だ。

「聞いてよ、クローディア! ハリーったら、魔法省が許可していない魔法を使っているの!」

 かと思いきや、今度はハーマイオニーからのハリーへの不満だ。

 折角、『2人だけで過ごせる部屋』を必要としたのに気分も落ち込む。

 『半純血のプリンス』の【上級魔法薬】には走り書きされた呪文があり、ハリーは危険も考えずに試して遊んでいるという。ハーマイオニーは呪文に気づけば無言の抗議を行うも効果はなしだ。

「他の人には雑音を聞かせて、自分達の会話を盗み聞きされないようにしているの。……多分、これね」

 クローディアが書き写した走り書きを見ながら、ハーマイオニーはハリーの呪文を調べるのが日課になりつつあった。

「……マフリアート(耳塞ぎ)?」

 覚えのある魔法にクローディアは、コンラッドの顔が浮かぶ。

「この魔法、休暇中にお父さんから教わったさ。あまり、人に知られていない魔法だって言ってたさ」

「……貴女のお父様なら、知ってて当然かもね」

 別の羊皮紙に呪文を書き込んでいたハーマイオニーは途端に表情を綻ばせる。今まで怒り狂っていた彼女の変化にクローディアは閃いた。

「もしかして、『半純血のプリンス』が誰なのか見当がついたさ?」

 コンラッドではない。これは確実だ。彼なら本を送った時に自分から正体を明かす。ハーマイオニーも勿体ぶった言い方はしないだろう。

「……そうね、卒業したら教えてあげる。そのほうがきっとおもしろいもの」

 正体を知った時、皆の反応を期待してハーマイオニーは控え目だが、鈴が鳴くような可憐な笑い声を出していた。

「それでも、この本に書いている魔法が危険さ? お父さんが知ってて当然なのにさ?」

「誰が考えていようが、非公式の呪文を使うのは別の話! クローディアも必要な時しか使っちゃだめよ。ハリーは危機感がないから本当に心配だわ」

 危険だ、非公式といいながらもハーマイオニーは『決して使うな』とは言わない。ハリーは言うだけ無駄かもしれないが、クローディアには信頼の意味も含まれている。

 嬉しさでクローディアはハーマイオニーに寄り添うが、視界の隅に見慣れた『屋敷妖精』がいた。妖精故に全く気配なく佇む姿に、一瞬、驚く。

「……ドビーさ?」

「はい、ドビーでございます。お嬢様。ハリー=ポッターがお部屋の前でお待ちなのです。お嬢様にご連絡しておりますが、お気づきにならないのです。そこでハリー=ポッターはドビーめにご命じ下さいました。お嬢様にお知らせするように!」

 至高の喜びと言わんばかりにドビーは飛び上がる。『ポケベル』を見れば、確かに『部屋から出てきて』の文字が浮かんでいる。部屋の前にハリーがロンといるのだろう。『必要の部屋』は中で誰かが使用していれば、入れない。どんな用途で使用しているか知っていれば、一緒に入れる。

「……ドビーはどうしてこの部屋に入れたさ?」

「ドビーはハリー=ポッターに命じられました! 『屋敷しもべ妖精』は命令を果たすのです! ハリー=ポッターたっての命令なら、尚更、命令を果たすのが『屋敷しもべ妖精』でございます」

 大きな瞳を爛乱と輝かせるドビーは主人の名に絶対の『屋敷妖精』。その無垢な心にクローディアとハーマイオニーはクリーチャーを思い出し、目に涙を浮かべてしまった。

 

 

 明日は『ホグズミード村』への外出、生徒も浮足立ち、コーマックの誘いも強引になる。スラグホーンもハリーを『スラグ・クラブ』への執拗に誘うが、決して行かない。授業以外で鉢合わないように『忍びの地図』まで出して教授から逃げた。

「もう3回も逃したってしつこくて……、スラグホーン先生じゃなく、……ダンブルドアに呼ばれたい……」

 げんなりしたハリーは【上級魔法薬】を抱きしめる。食事時にまで本を離さない姿は一種の病気である。

「催促しなよ。そりゃあ校長も忙しいだろうけど、遠慮してたら何も教えて貰えないぞ?」

「してるよ。大広間で目があった時とか、廊下ですれ違う時とか、職員室で会えた時とか、校長先生に僕なりに熱烈な視線を送って……」

 ロンに促されたハリーは教職員席を見やる。校長席に座るダンブルドアはマクゴナガルと話しているが視線を感じたらしく、身震いして身体を擦っていた。

「流行ってんのか、それさ! 口で催促しろ! それに四六時中、本を持ち歩かないで欲しいさ。言いたくないけど、誰かさんの日記を彷彿とさせるさ!」

 この瞬間も2人分の視線を受けたクローディアがここぞとばかりにハリーへ抗議する。昨晩も【上級魔法薬】に書き込まれた呪文で眠っていたロンを逆さまの宙吊りにした。被害に遭った張本人が笑い話にし、教えなければ知れなかった。

 ベッロも本を銜える為に大きく口を開く。

「……なんだい、ベッロまで……トトさんが問題なしって言ってくれたんだ。危険なんてないってば」

「都合の良い時だけ、トトさんの名前を出したりして……そうだわ、ロン。お喋りばっかりしているけど、明日の話をハリーにしてくれたのかしら?」

 呑気にビーフステーキへと齧りついたロンは気づいて、離す。

「……まだ……えーと、ハリー? 明日のホグズミードなんだけど……僕……ハーマイオニーと2人で行きたいんだ……その村まで……向こうで会うのはいいんだけど……」

 遠回しな言い方にハリーは少々、不機嫌に眼鏡の真ん中を押し直す。

「デートしたいから、僕に遠慮して欲しいんだね。いいよ、僕はクローディアやベッロと行くからさ。いいよね? 村ではジョージが待っているだろうけど、一緒に行くぐらいは許してよ」

「……はい、ご一緒します」

 茶化したりせず、今のハリーにはそれが適切な対応だ。

 

 

 雪の降り積もった外は寒く、防寒具で身体を覆っても僅かに晒した肌への冷たさは容赦ない。それでも生徒は許可証を手に、フィルチの『詮索センサー』による検問を待つ。彼だけでなく、マクゴナガルも一緒だ。

「道中と村には『闇払い』の方々が貴方達を見守っています。決して姿を消してはなりません。探す手間をかけさせないように」

 鋭い視線はハリーに釘付けだ。確かに鞄にはもしもの為の『透明マント』がある。見透かされた気分で彼は胸中で溜息をつく。

「(……影って姿を消した事になるのかな……)」

「(何を今更……なるに決まっているさ)」

 背後からドラコの強い視線を感じ、クローディアは今すぐにでも影に変身したくても我慢している。折角、リサとパドマに気合いを入れてお洒落して貰ったのに外套で覆い隠された。

 無事に検問を終えたクローディアとハリーは急ぎたいが、向かい風による自然の妨害で縮こまりながら進む。

「……『闇払い』なら暖かくなる魔法を使って欲しいさ。……お気に入りのプリンスさんにもそんな魔法はないさ?」

「君のホッカイロが一番の魔法だよ……」

 マフラーで唇を動かし、必死に声を出す。突風の音が激しく、お互いの声を聞くだけで精一杯だ。

「ところで……後ろのアレ、どうする?」

 検問を終えたドラコも身を屈め、寒さに耐えながら歩く。帽子とマフラーの隙間から見える充血した彼の目が寝不足を訴えていた。

「……今日が楽しみで眠れなかったんじゃないさ? そんなに眠いなら、村へ着いたら『三本箒』に直行さ。……多分」

「……そういう問題じゃない……今日もクラッブ、ゴイルはいないし……、あいつ本当に何を考えているんだろう……。君に用があるのは間違いないけど……簡単に口を割るようなら苦労はない……」

 肝心な情報は寮仲間にも明かさない。それだけ口を閉ざすドラコには、『開心術』でも使わなければならないだろう。

「そういえば、ハリーは前にベッロへ『開心術』を使ったって……言ってなかったさ? スネイプ先生に怒られてたような……マルフォイに」

「僕に使えたとしても、あいつの心を開かせるなんて嫌だ」

 ドラコの情報を知りたいなら、手段を選んでいる場合ではない時にハリーは断固として拒否した。

 生徒が無意識に一列となって『ホグズミード村』へ着く。ハグリッドを中心に人だかりが集まる。彼目当てではなく、巨体に守られているダンブルドアだ。

「校長先生、一緒に回りましょう」

「先生のお話が聞きたいです」

 サリーやセシルが必死にダンブルドアの手を取ろうとするが、ハグリッドにより優しく払われる。

「ほれ、散った散った。先生様は皆が遊んでいるところをご覧になりたいんだあ。一緒にいたら身動き取れんだろう」

「ハグリッド、構わんとも。ここは寒い、『三本箒』へ行こうかのお。ホラスもいるはずじゃ、わしがまだ『変身術』の教授じゃった頃の出来事でも……」

 ダンブルドアの昔話を聞ける。周囲の生徒は歓声が沸き、ぞろぞろと『三本箒』へと向かって行った。

「……僕は後回しか……」

 僻む口調で呟くハリーにクローディアは苦笑する。風に雑じって犬の吠える声が聞こえてきた。

「なんか、ファングが鳴いてないさ?」

「寒がりのファングはこんな寒い日に外に出ない……つまり?」

 ハリーの推測を聞きながら、声に振り返る。見慣れた黒犬がいた。

「僕、ベッロと一緒にこの犬をハニーデュークスに連れて行ってくる!」

 マフラーを外して口元を晒したハリーは、ここ数日で最高の笑みを見せる。彼の上着に潜っていたベッロは何事かと顔を出し、黒犬へ威嚇した。

 ベッロに構わず、ハリーは黒犬と競争するように駆け足で去って行った。

「……あいつが来るなんて聞いてないさ」

「そりゃあ、言ってないもんな」

 クローディアの顔を覗き込んできたジョージは防寒具で目元しか見えないが、声だけで彼とすぐにわかる。耳にするだけで胸の内が暖かくなる声を間違えようがない。

「……久しぶり、今日は時間をくれてありがとうさ」

「俺としても、きちんとクローディアの家族に挨拶したい……。トトから逃げんなって手紙もきた……おっかねえ……」

 一度、遠い目をしたジョージはおおげさに震える。彼に宛てられた手紙の内容を想像し、クローディアも悪寒が走った。

「……ここでマゴマゴしていても進まない。行こうか」

 差し出されたジョージの手を握りながら、クローディアは周囲の様子を窺う。ドラコの姿はなく、他の生徒も営業中の店を探して突き進む。表面上は誰も彼女達に目を向けない。

「私、待ち合わせの店を知らないけど、ジョージは聞いているさ?」

 言葉にせず、ジョージは腕を引いて案内した。

 

 来た覚えのある道順、4年生の折にシリウスが借りた民家に辿り着く。案内されたからではなく、この一軒だけが放つ雰囲気で理解した。

(そういえば、恋愛沙汰で家族と話した事ないさ……お父さんはともかく、お祖父ちゃんがキレそうさ)

 緊張で心拍数が上がり、中へ入るのを躊躇う。それはジョージも同じだが、彼は覚悟を決めて深呼吸してノックした。

 返事もなく、扉が勢いよく開かれたかと思えばクローディアとジョージは見えない力に吸い込まれる。2人が入った瞬間、扉は音もなく閉じた。

 絨毯へ転がり、暖炉の前まで引き摺られ、何故か正座を強要された。

 以前と違って家具はなく、シャンデリアで明るさは十分、暖炉の炎で居間は暖かい。しかし、悪寒が益々強くなる。何故だが、『叫びの屋敷』より恐怖を感じた。

 2人が声を出すまでに厨房への戸が静かに開き、そこには甲冑に身を包んだ鎧武者が大太刀を手に現れる。刃渡りだけで3メートルを超え、達人でも抜くのは難しいだろうとクローディアは頭の隅で冷静に考えるが、心臓は騒がしくて声も出せない。物々しい気配に合わせ、何処からか太鼓の音が聞こえてきた。

「待っておったぞ、ジョージ=ウィーズリー!! 孫と添い遂げたくば、ワシから一本取って見せよ!!」

 面で顔は見えなくても、トトだ。

 心臓にも響く声量は異様に若いのに、硬直して動けない。2人の反応を余所にトトは大太刀の鞘に手をかけながら、続けた。

「コンラッドは娘を手に入れんが為に、ワシと三日三晩戦い、その果てに一本取り上げた! お主も同じだけの気概を見せい!! いざ尋常に!! アイタ!!」

 口上は後ろからひょっこり現れたコンラッドのチョップで切られた。

「今どき、結婚の許可を決闘で求めるなんて時代錯誤も甚だしいですよ。大体、私の時とは事情も状況も違うでしょうに」

 機械的な笑みに呆れを含ませ、コンラッドは杖を振り、ソファーを呼びよせてクローディアとジョージを座らせた。

「喧しい!! 今日に備えてワシの人脈を全て使って日本より持ち出した『破邪の御太刀』の試し切りをしてくれるわあ!!」

 『破邪の御太刀(はじゃのおんたち)』。

 幕末の時代に打たれた日本の歴史上、最長の刀剣。その長さに見合う重量を誇り、柄を握っては誰も持ち上げられない事でも有名だ。実戦ではなく祈願の為に打たれ、開運厄除のご利益があるとされる。現在も花岡八幡宮に奉納されているはずが何故、ここにある。

「お祖父ちゃん、馬鹿なのさ?」

 現実感のないまま意見を述べ、トトは急に羞恥心が湧いたらしく無言で大太刀を鎧の中へと仕舞い込む。魔法により収納可能と知っていても、大太刀が小柄な鎧武者に突っ込まれる光景は異様だ。

「確かに刀についてはワシが大人げなかったのう……。じゃがな、ジョージ=ウィーズリー! それとこれとは話……ぐえ!!」

 鎧の胸元を真正面から掌底打ちを食らわし、その衝撃でトトは鎧ごと厨房へ放り込まれる。無理やり戸を閉めた瞬間、戸の向こうから派手な音がした。

「話が進まないから、お義父さんは放っておこう。外は寒かっただろう、お茶でも飲んで暖まりなさい」

 ソファーの前に卓が現れ、紅茶とクッキーまで用意された。

 ようやく真っ当なもてなしを受け、クローディアとジョージは外套やマフラーを脱ぐ。彼女の片耳に光るイヤリングをコンラッドは目敏く見つけた。

「そのイヤリングどうしたんだい?」

「……誕生日プレゼントだって、ジョージに貰ったさ」

 ジョージを一瞥してから、コンラッドはもう一度、イヤリングに目をやる。

「この石は何処で手に入れたんだい? ジョージ」

「僭越ながら、商売道具を作っている最中に偶然作らせて頂きました」

 普段のジョージから想像も出来ないほど、緊張して固い態度は笑いを誘う。しかし、コンラッドは別の意味で笑っていた。

「成程……、流石はあの馬鹿犬……失礼、シリウス=ブラックどもの再来だな。奴らよりもずっと良い……」

 ソファーの脇にもうひとつ椅子を用意し、コンラッドは足を組ませて座る。

「さてジョージ、君はこの子について何を知っているかな?」

「……ホムンクルスの話なら、クローディアから直接聞いています。ボニフェース=アロンダイトとヴォ……ルデモートのしがらみも」

 緊張が消えたジョージは真摯な態度で自分の知っている事を話す。彼にはクローディアの事情を包み隠さず、話している。

「随分と色々知っているね。……称賛すべきか呆れるべきか、私としては悩みどころだ」

 目だけ動かし、クローディアを見つめる視線にはお喋りを咎める意味も含まれていた。

「話してくれて良かったと思っています。何も知らず、クローディアを愛していると言っても、お父さんは納得しないでしょう」

 ジョージに図星を突かれたらしく、コンラッドは目尻を人差し指で叩きながら、考え込む仕草をする。目だけは2人を交互に見つめ、長考の果てに指を膝に置いた。

「……ならば、ジョージ。この先、クローディアの身にどんな出来事があろうと決して変わらぬ愛を貫き通すと誓えるか?」

 確認ではなく、宣誓を求めていた。

 今まで見た中で最も父親の顔をしたコンラッドは、初対面のように感じる。

「誓います」

 低い声は威嚇ではなく、言葉に重みを乗せる為だ。

 コンラッドを通した愛の誓いに、クローディアの心臓が優しく脈打った。

「……ただねえ、クローディアはおまえ癒者を目指すんだろう? そうなると卒業から最低でも10年はジョージを待たせるけど、その辺の話し合いは済ませているのかい?」

 唐突に身近な現実を話され、クローディアは気づかれた。

「……してないです」

 考えてみれば、クローディアが癒者を目指す話をジョージにしていない。肝心な話もせず、この場を設けてしまった。

 焦燥感が募り、全身の毛穴から嫌な汗が流れる。

「待ちます。待っている間もクローディアが好きな仕事に打ち込めるように準備します」

 コンラッドだけを見つめたジョージの宣言に、クローディアから嫌な汗が引く。彼にばかり言わせてはいけない。

「……私も……待って貰った分、ジョージと……幸せに……なります」

 必死に言葉を浮かべ、顔を真っ赤にしながら声を出す。

 滑稽なモノを見る目で口元を歪ませ、コンラッドは紅茶を啜る。緊張して何も口にしていないと気づき、クローディアとジョージもクッキーを齧って紅茶を飲み干した。

「そういえば、お祖母ちゃんも癒者だったけどさ。お祖父ちゃんとの結婚はいつ頃さ」

 ふとした疑問に紅茶を離したコンラッドは、視線を上にして思い返す。

「……籍そのものドリスが成人した時だ。4つ上だったボニフェースは『日刊予言者新聞』社で働いていた。私が生まれたのはボニフェースが34歳の時だ。その翌年、彼は……言わずともわかるだろう」

 ボニフェースがまさかの新聞社勤め、驚いたが浮かんだ質問を消化したくて続けた。

「……それだけ間が空いたのはなんでさ?」

「……『銀の矢64』のせいだよ」

 意外な原因に思わず、変な声が出る。

「ドリスの父親……つまり、おまえの曽祖父がその箒を転売目的で10本も購入したが、……『ファイアボルト』並みに高いくせに乗り手を選ぶ箒なんて売れるはずもなかった。……多額の借金だけが残ってね。その借金を返す為にありえない旨い話に飛びついては借金を増やした。ボニフェースの給料も返済に充てなければならなかった。子供を持つ余裕なんて更々なくてね。完済したから、私を産めたんだよ」

 生々しく重い話をされ、クローディアとジョージはそれまでと違う緊張に包まれた。

「マンダンガスが投資話を持ち込んで破産させたって言ってなかったさ?」

「よく覚えていたね。借金返済に駆けずり回っていたら乗せられたらしい。……ジョージはよくダングと取引しているが、深入りは勧めないよ」

「引き際は弁えていますが……もう少し気を付けます」

 裏社会に顔が利き、ダンブルドアもそれなりに信頼しているマンダンガスへの警戒が増した。

「そろそろ、お義父さんが目を覚ますだろう。面倒になる前に帰りなさい」

 厨房の戸を見つめ、コンラッドは杖を振るう。脱いだ外套やマフラーがクローディアとジョージを包む。

「最後にひとつ! お父さん」

 ジョージは必死に手を上げ、質問を主張する。

「君にお父さんと呼ばれる原因はわかったけど、……気が早いね。なんだい?」

「トトと三日三晩、戦ったのですか?」

 真剣な表情で問いかけるジョージに、コンラッドは機械的ではなく暖かな感情を込めた笑みを浮かべた。

「戦ったよ。飲まず食わずで四日目の朝、お義父さんから刀を奪って一太刀入れたんだ」

 言葉通りの真剣勝負をコンラッドは乗り越えた。

 感嘆の息を吐いたジョージを連れ、クローディアはコンラッドと別れの挨拶を交わす。2人が外に出て玄関口を閉めようとした瞬間、トトが厨房から出てきた。

「コンラッド! ワシに鎧通しをかけるとは良い度胸じゃ!!」

 どうやら、コンラッドが仕掛けたのは掌底打ちではなく、鎧通しだそうだ。何故に魔法使いたる彼にそれだけの達人技が出来るのか、別の機会にでも聞いてみたい。

 この場は逃げる為に扉は閉めた。

「マダム・パディフットの喫茶店に行くさ?」

 もう少し一緒にいたい意味を込めて誘う。

「ああ、その『三本箒』じゃダメかな? ……実はそこでマンダンガスと待ち合わせしてて……。ほら、ゾンコの店も閉まっていたし、商品売るには良い機会……」

「あいつとは縁を切れ! 無理なら商品を預けるな!!」

 目を泳がせるジョージの胸倉を掴み、クローディアは引き攣った笑顔で怒鳴った。

 

 『三本箒』に着いた途端、リサが血相を変えてクローディアへ迫ってきた。

「……ケイティ=ベルが……」

 ただ事ではない雰囲気にクローディアはジョージと目配せし、リサを店から連れ出す。彼は周囲に普段の態度でカウンターにいたマンダンガスへ話しかけに行った。

 雪に足を取られつつも、早足で駆け抜ける。途中でトンクスが姿を見せ、歩幅を合わせて着いてくる。

「ニン……トンクス、何があったさ?」

「私の口からは言えない。けど、貴女達は私が城まで護衛する」

 『闇払い』としての態度だが、騎士団員として接しているとすぐにわかった。

「リサ、ケイティがどうしたさ?」

「校長先生が昔話をして下さった後、すぐにお帰りになられました。私達もお供させて頂いたんです。そしたら、……ケイティが空を飛んだんです。あれは彼女の意思ではありません。…………皆さん、城へ帰られましたが私は貴女に知らせようと『三本箒』に戻ったんです……」

 『闇払い』や『不死鳥の騎士団』、そして何よりダンブルドアのいる村で顔見知りが襲われた。この事態にクローディアはゾッとした。

「現場を見ていたのは誰さ?」

「校長先生とハグリッド、セシルとサリー、ハリー……それにケイティのお友達のリーアンです」

 『死喰い人』と戦った実績のあるリサでさえ遊んでいる最中に出くわした為、恐怖し怯えている。ケイティも『DA』で一緒に防衛術を学んだにも関わらず、被害に遭った。

 ハリーがドラコの所業だと騒ぐ姿が目に浮かんだ。

 

 城門でフィルチの検査を受け、トンクスに見送られた。

 職員室か校長室へ向かおうとした時、『首なしニック』が漂いながらクローディアへ声をかけてきた。

「ミス・クロックフォード。マクゴナガル先生がお待ちです。すぐに『変身術』の事務所へ行ってください」

 リサと行こうとしたが、引き留められた。

「行くのはミス・クロックフォードだけです。他の方は医務室にいます。顔を見せてあげて下さい」

 『首なしニック』の優しい眼差しに気遣いが見られ、2人は大人しく従った。

 『変身術』の事務所には、何故かスネイプまでいる。険しい表情をした教授2人に出迎えられ、それだけの異常事態を察した。

「ミス・クロックフォード。こちらへお掛けなさい」

 マクゴナガルへ勧められ、クローディアは正面の椅子に腰かける。机に置かれた真珠とオパールを組み合わせの首飾りがスネイプの杖により、宙へ浮く。

「このネックレスに見覚えは?」

「ありません」

 本当に見た事ないので、スネイプからの質問に素直に答えた。

「では、ケイティ=ベルとは普段からプレゼントのやり取りはしていますか?」

「いいえ、残念ですが今までプレゼント交換もした事ありません」

 突拍子もない質問だが、マクゴナガルは無意味な質問はしない。

 マクゴナガルとスネイプは視線を合わせ、頷き合うような仕草を見せる。

「このネックレスがケイティを呪ったのですか?」

「ミス・ベルのご友人のリーアン=ビーリーによれば、『三本箒』のトイレから戻ってきたら持っていたそうです。本人も誰に渡されたか覚えておらず……、ミス・ベルは誤ってネックレスに触れてしまったのです」

 そこで呪われたのは理解した。しかし、肝心の部分がわからない。否、頭の隅で察してはいるが、その答えは臓物を痙攣させる。

「……私とどんな関係がありますか?」

 覚悟をしていた質問を受け、マクゴナガルは一度、スネイプを一瞥してから答える。

「ミス・ベルは……届けるように頼まれたと頑なだったそうです。貴女に……届けなければならないと」

 視界が現実味をなくし、脳髄の奥が熱くなり、心臓の音が五月蠅くなる。

「……狙われたのは、私……」

「勿論、確定ではありません。しかし、万が一に備え、貴女は今後一切、外出禁止です」

 外出禁止など、どうという事はない。問題なのは犯人だ。

「……スネイプ先生、『開心術』でドラコ=マルフォイの考えを知れませんか?」

「……聞かなかった事しよう、ミス・クロックフォード。君もポッター同様、証拠もなく勝手な憶測を口にすべきではない」

 咎める口調に軽蔑はない。ただ、忠告しているだけだ。

 クローディアの身に何があろうと、スネイプは守ってくれる。だが、ドラコも彼が守るべき生徒なのだ。生徒同士による殺し合いが起こった時、彼は確実にどちらかを切り捨てなければならない。

 この瞬間になるまで、そんな残酷な現実に気づけなかった。

「……もう行って良いですか?」

「構いません。城の中でも決して独りで出歩かないように」

 マクゴナガルに釘を刺され、承知の意味で頭を下げた。

 廊下では激昂したハリーがベッロを抱えて待ち構えている。クローディアと視線を合わせ、歩きながら彼は頼んでもいないのに見てきた状況を話した。

「僕、シリウスとハニーデュークスにいたんだけど、他に開いている店を探そうとしたらケイティがリーアンと揉めてた。ベッロが吠えたと思ったら、ケイティが宙に浮かんだ! 無理やり空へ飛ばされた感じだった! 僕とリーアンで彼女を受け止めたけど、気を失ってて……ちょうど、ダンブルドアとハグリッドが来てくれたから、ケイティはハグリッドが連れて行った……。呪いの原因になったネックレスは校長が持って行ったよ。僕らも城へ帰ろうとしたけど、リサは君に知らせるから残った。シリウスは他に知らせに走ったよ、文字どおりね」

 マクゴナガルの前で説明を求められたリーアンは包み隠さず、経緯を語った。

 覚えのない品は危険であり、捨ててしまえと説得したが聞き入れてもらえない。口論の果てにやむを得ず、ネックレスの奪い合い、ケイティの指先に触れてしまった。

「あのネックレスは『ボージン・アンド・バークス』で売っていた呪いの品なんだ! 僕らがマルフォイを尾行した日にあの店で買われたに違いないんだ! あいつが君に纏わりついていたのだって、機会を狙っていたんだ。これで説明が付く! そうでなければ、虫も殺せないケイティにこんな恐ろしい事はできない!」

 興奮してきたハリーは拳を強く握り、歯を食いしばる。奥歯が擦れる音も聞こえた。

「……マルフォイには動機があるさ。でも、証拠はないさ。村に入ってからの彼の行動を私達は直接見ていないさ」

 冷静に話すクローディアとの温度差に気づかず、ハリーは益々言葉を荒くする。

「何もマルフォイ本人が事を犯さなくても、共犯者を使えばいい。あいつは『死喰い人』だ。それぐらい簡単に用意できる」

「ハリー、声を落として欲しいさ。誰かに聞かれるさ。マフリアート! (耳塞ぎ)」

 周囲を見渡し、ハリーは自身を宥める為に口を閉じた。

「本当にマルフォイが犯人で共犯がいるなら、今日という絶好の機会を絶対に失敗なんかさせないさ。殺すだけなら、ナイフで刺すなり何なり出来るさ。……あれは失敗を前提にしていたような……」

「何それ、もしかしてマルフォイを庇ってる? ルシウス=マルフォイがした事を忘れたの? あの親子はヴォルデモートの為ならなんだって出来るんだ!」

 失望した目でハリーはクローディアの肩を掴む。彼の姿がかつて彼女に縋ってきたドラコと重なった。

「……ドリスさんみたいに、君まで逝かないで……」

 切実な訴えはクローディアの心を苦しみで震わせる。彼女が離してはいけないのは、ハリーだ。しかし、ただ彼の考えに賛同すれば良いのではない。様々な観点から物事を見なければ、真実を逃してしまう。

 そのつもりだったが、ハリーにはドラコへの庇い立てに聞こえた。

「……言い方を変えるさ。奴が犯人ではない要素をひとつひとつ潰す、残るのは犯人である要素さ。こちらが騒いで隠蔽工作されたら、もっと厄介さ」

 ハリーから目を離さず、丁寧に説明してようやく納得して貰えた。

「……うん、そうだ。……泳がせるのもひとつの手段だ……。……その為に来て貰ったんだ」

 クローディアの肩に額を乗せ、ハリーは呟く。

「来て貰ったって、ブラック?」

「いいや、クリーチャーだ。君が帰ってくる前にマルフォイの監視を頼んだ。前から、シリウスにクリーチャーを説得して貰っていたんだ。屋敷を離れたがらなくて、苦労したって」

 顔を上げたハリーは困ったように笑う。

「成程、妖精なら学校にいても不審に思われないさ。ナイスアイディアさ」

 親指を立てて称賛するクローディアに今度は苦笑した。

「調子が良いなあ、クローディアは……」

 ハリーが言いかけた時、ハーマイオニーとロンの走ってくる姿が見えた。

「ケイティが襲われたってどういう事!」

「ここで話すと長いから場所を……」

「何言っているのか、わかんねえ。ハリー、また魔法を使ったろ」

 問い詰めるハーマイオニーに答えようとしたが、『耳塞ぎの呪文』の効果が働きハリーの言葉が正確に伝わらない。クローディアが杖で魔法を解き、廊下の向こうを指す。

「ごめん、ハリーから事情を聞いて欲しいさ。私はリサを迎えに医務室へ行くからさ」

 生贄にされたハリーは呆気に取られたが、ハーマイオニーとロンは構わず彼を引き摺っていく。ベッロを受け取ったクローディアは急いで向かった。

 医務室前にリサ、セシル、サリーがクローディアを待つ。3人とも、目に涙を浮かべても声を出さずに飛びついて来た。

「ケイティは貴女のせいじゃない。悪いのは呪おうとした犯人、責任を感じないで」

 耳元でセシルに囁かれ、クローディアの脳髄の奥から熱が消える。心の何処かでケイティに罪悪感を抱いていたようだ。

 3人と一匹の護衛に囲まれ、クローディアは寮に無理やり帰る羽目になった。

 

 翌日にケイティは『聖マンゴ病院』に移された。彼女の友人リーアンは事件によって精神的に参っていたが、マダム・ポンフリーと寮生の友人から励まされ、3日後には授業に戻った。

 

 




閲覧ありがとうございました。
ドラコは原作では城に居残り、映画では普通に外出しています。

●エドマンド=ハーパー
 6巻にて苗字のみ登場、同学年のジニ―曰く馬鹿。
●ヘスティア、フローラのカロー姉妹。
 映画版にて登場。美人の双子。
●リーアン=ビーリー
 6巻にて名前のみ登場、寮学年不明生徒。ケイティの友達。
●『破邪の御太刀』
 現存する日本最長の刀剣。モンハンに出てきそうなくらいデカイ。
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