こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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追記:18年1月8日、18年10月1日、誤字報告により修正しました。


9.油断した夜

 バスケ部内・トーナメント試合。

 2班(ジャック、モラグ、ルーナ)と3班(コーマック、ディーン、デレク)の対戦は時間ギリギリまで同点だった。それを一秒切った瞬間、ルーナのダンクシュートによって勝利を決した。

 復活した2班は15分の休憩後、5班(クローディア、シェーマス、ハンナ)との対戦に敗れた。

 汗だくのクローディアは試合終了後、味わった接戦に高揚した。

 お互いに劣っている部分などなく、チームワークも選手の呼吸も差はほとんどない。

「5班の勝利です。次の試合日は1班と4班に対戦して貰い、勝ち残ったチームが5班と対戦します。今日と同じ流れになりますので準備運動などを怠らないようにして下さい」

 バーベッジの言葉で締められ、コリンから写真を撮って貰い終了だ。

「コリンもクリスマス・パーティーに行くって聞いたけどさ。やっぱり、そのカメラ持って行くさ?」

「スラグホーン先生にも許可貰ってます! ただ【ザ・クィブラー】に載せるなら、先生が写っていないモノを選んで欲しいと言われました」

 『死喰い人』が【ザ・クィブラー】を読むとは思えず、ダンブルドアを含めた『不死鳥の騎士団』も多くいる学校内にいながら、スラグホーンの警戒心は高い。

「ハリーはドラコ=マルフォイと一緒ですよね。僕なら絶対、誘わないのにハリーは本当に心が広い!」

 純粋に満ちた笑みは眩しく、コリンはハリーへの尊敬を強くする。肝心の彼は思いつめた様子で窓の外を眺めていた。

 今夜、ハリーはダンブルドアの個人授業だ。前回と違い、間は空いてないが彼に嬉しさも元気もない。

 それもそのはず、ハリーからドラコをパーティーに誘った事実は一晩もかけず学校中に広がった。寮関係なく、からかわれたり、奇異の目で見られたりしてきた。

 そこは問題ない。見られるだけなら、ずっと前から慣れている。

 しかし、一部の女子からハリーの目を覚まさせようと『愛の妙薬』を盛る話も出ており、ハーマイオニーから飲み物には極力気を遣うように命じられた。

 ベッロやクルックシャンクスに頼んでも良いが、学校には香水や咳止めとして偽装されて送り込まれる。その際、ご丁寧にミセス・ノリスやファングのような動物の嗅覚を誤魔化す細工までしてくれたそうだ。

 折角、飲食物に仕込んでも相手に気づかれてはいけないという販売元のサービスだ。

 意外にもクリーチャーが役に立つ。『屋敷妖精』ならではの感覚で3件も惚れ薬入りのカボチャジュースを発見した。彼の役目はハリーが口にする飲食物の検査になってしまった。

 その分だけ、ドラコへの監視が緩んでしまう。ここにハリーは苛立っているのだ。ロンも責任を感じ、キーパーを辞退したいと騒いだ程だ。

「本当に悪いと思っているなら、キーパーで活躍して」

 うっとおしいまでに反省するロンへハリーはただそれだけ告げた。

 

 夕食の後はパドマが気を利かせ、クローディアとリサを再び大浴場へ招待してくれた。

 心と身体を存分に温め、寝間着に着替える途中で『ポケベル』の文字に気づく。すっかりお馴染みの『必要の部屋』だ。クローディアの適当な言い訳にも慣れたパドマやリサを先に帰らせた。

 『必要の部屋』は季節に応じ、クリスマスの飾りつけに彩られている。

 しかし、集まった4人の雰囲気は室内と違い、物々しい。

 今夜の授業はトム=リドルの在学した7年間についてだ。

 様々な不可解で不快な事件が起こる。事件の裏に、孤児院出身の優等生が関与していると立証された事は一度もない。孤児院での悪事が公に出来なかった事と同様だ。違いがあるとすれば、ダンブルドア以外の大人から微塵も疑われなかった点だけだ。

 だが、生徒は違う。

 個人の差はあれど、トム=リドルを理解していた。理解した者は恐れ、敬った。敬った者達は集い、卒業後は『死喰い人』として付き従った。従わなかった者達の大半は怖気づいて、当時の出来事に関して固く口を閉ざした。

 ダンブルドアの説得を持って、ようやく『記憶』を差し出した教え子はごく僅からしい。

 自分の存在を知らしめる事だけでなく、トム=リドルは学校にある記録から出自を探した。まずは父親の血筋を調べつくして諦め、仕方なく母親の血筋を調べた。

 「マルヴォーロ」という名のみを頼りにゴートン家へ辿り着き、伯父モーフィンとの会話では確信を持った。すぐ後、実の父親、祖父、祖母を殺した。そして、その罪を伯父に被せた。

 モーフィンは自らの殺人の罪よりも、指輪を無くした事実だけを恐れていた。

「……自分の父親を殺した? その場にいた家族も?」

 ここまで聞き、クローディアはトム=リドルを心から恐ろしく思えた。

 

 ――軽蔑や嫌悪ではなく、ただ恐ろしい。

 

 そんな男を三度、否、四度も前にして生き延びれた。

 幸運ではなく、ヴォルデモートの目的にクローディアの死が含まれていなかった。ただ、それだけの理由でしかない。

「よく指輪が話に上がるけど、ボニフェースの遺言にあった『死の秘宝』の指輪と関係あるかしら?」

 ハーマイオニーの疑問に我に返る。

「あるよ。ほら、ぺちゃくちゃうさちゃんだよ」

 当たり前のように、ロンは言ってのける。しかも、意味不明な言語に2人は呆気に取られるが、クローディアは思い付いた。

「……なんとかうさちゃんは『吟遊詩人ビードルの話』さ?」

「そうそう! 『死の秘宝』は『吟遊詩人ビードルの話』のひとつなんだよ。そういえば、君達マグル生まれは知らないって事を忘れてた」

 わざとらしく咳払いしたロンによるペベレル三兄弟を聞き、ハリーとハーマイオニーは真剣に耳を傾ける。端折りやロンなりの解釈で伝わりずらい部分はあったが、クローディアの聞いた話とほぼ同じだ。

「……『透明マント』も『死の秘宝』なんだ……」

 感心したハリーは独りごちる。

「『透明マント』にそんな逸話があったなんて、貴重品を無暗に使いすぎよ」

「心配しなくても、市中に出回っている『透明マント』はお伽話を元にした模倣品だって! 実物があったとしてもきっと『神秘部』が保管しているんじゃない?」

 語尾を尖らせるハーマイオニーをロンは宥める。

「……きっと本物だよ、僕はそう思う」

 根拠のない自信を持って言い放ち、ハリーは脱線した話を元に戻す。

 トム=リドルは手に入れた指輪を隠す事なく、むしろ、正当な所持者として身に着けていた。スラグホーンの晩餐会に招待され、分霊箱(ホークラックス)について質問した晩も指に嵌めていた。

 今までと違い、スラグホーンの記憶は所々霧がかかっており、不自然極まりない。

「スラグホーン先生が自分の記憶に改竄して、校長先生に渡した……?」

「そう、ダンブルドアは本当の事が知りたい。スラグホーン先生は『開心術』や『真実薬』への対策しているが、そんな方法じゃなく、説得したいんだ」

 ダンブルドアからの宿題だという。

「校長先生を相手に隠し通したいなら、誰が相手でも一緒よ」

「そんなズバッと言わなくても、あいつはハリーに惚れこんでるんだ。晩餐会に出るから教えてって言えば、簡単だって」

 ロンの暢気な意見を聞く程、ハリーも悠長ではない。

「……お父さんの追及も逃れた人さ。まず、私にも無理さ」

「やっぱり、クローディアが避けられていたのも分霊箱のせいなんだね」

 分霊箱。その単語を聞くだけで、スラグホーンはあの晩を思い出す。忘れたくても忘れられない記憶から、逃げていたのだ。

 人は言いたい事が言えない。それ以上に言いたくない事は言わない。

 深刻な表情で沈黙する3人と違い、ロンは面倒そうに顔を顰めてベッロの尻尾を撫でる。

「なんか、情報を小出しにされてて気持ち悪い。いっそ、一気に記憶をハリーへ伝えられないかな? クローディアが遺言を読んだ時みたいに」

「たったあれだけの文章でも、受け入れるのに何時間かかったと思っているさ。どんな拒絶反応があるかわかったもんじゃないさ」

 異物が混入してくる感覚は今でも思い出せる。二度と味わいたくない。

「大事な事柄程、ゆっくりと時間をかけて覚えて行くものよ」

 感情と理屈から責められ、ロンは乱暴に頭を搔く。

「その宿題って、いつまでが提出期限?」

「年を明けてからでも構わないけど、出来るだけ早く」

 期限を明確にしていないが、早急に必要であると感じ取った。

「この件をコンラッドさんに相談したいんだけど、あの人も『隠れ穴』に来るよね?」

「んう!? ……多分、お父さんは来るさ」  

 まさかのコンラッドの名に対し、油断していたクローディアはズれた音程で返事してしまう。

「相談しても、向こうも困るんじゃね? ダンブルドアでさえ、ハリーに頼むくらいだぜ」

 初めてロンが的を得た意見を出す。

「ダンブルドアはあくまで友人で同僚だった。けど、コンラッドさんは僕と同じ教え子でしかも、スリザリン寮生だ。良い意見を貰えるかもしれないよ」

 意外に明確な理由でコンラッドを選び、クローディアはハリーに感心の目を向ける。それと同時に疑問も浮かぶ。

「スネイプ先生っていう、身近な方がいるさ」

「あいつが僕の話を聞くと思う?」

 これもまた明確な理由でスネイプを除外した為、誰も何も言わなかった。

 

 

 翌週に行われたハッフルパフ対レイブンクローのクィディッチ戦。

 キャプテン・エディが極度の緊張により凡ミスして何点も奪われたが、現状から早期決着を望んだチョウによって勝利した。

「ありがとう、チョウ。今日のMVPは君だあ!」

「……まだ一勝でしょう。『錯乱の魔法』にでもかかった?」

 まるで優勝したようにエディは号泣する。チョウを含めた選手は曖昧に笑い、今日を乗り切ったキャプテンの肩を励ます意味で叩き合った。

「折角のデビュー戦でしたが、目立ちませんでした。こんな結果を兄に報せても……でも、勝ちは勝ちですし……」

「何と戦ってんだ、おまえ」

 オーラのツッコミにシーサーは「葛藤」と答えた。

 

 ケイティの事件から犠牲者はなく、また何の進展も得られぬままクリスマス・パーティーの日を迎える。あくまでも、教職員と闇払いに護られた城内の話だ。外ではヴォルデモートの陣営による犠牲者は後を絶たず、悲報を届けられた生徒は故人を悼む間もなく、恐怖と絶望に震えた。

「今日のパーティー、吸血鬼が来るって噂聞いた?」

「流石、スラグホーン先生。交友関係が幅広い」

 そんな生徒を励ます様に、クリスマスの飾りや幽霊達の讃美歌は例年より盛り上がっている。

 それでも、授業はある。

 1学期最後の『変身術』は人を変身させる厳しさを教えた。

「こういう事するより、化粧したほうが早いって言っちゃ駄目なんだろうさ」

「それなら今夜のパーティーは自分で化粧するのね。いつまでも、リサに頼ってちゃ駄目」

「本命でなくても、殿方とのパーティーです。私の腕が鳴りますわ」

 自分の眉の色を変える。たったこれだけでも、大半の生徒は苦戦を強いられる。クローディアやパドマ、リサ、ハーマイオニー達は難なく変えられた余裕から私語が囁かれた。

 勿論、マクゴナガルの眼力に口を噤んだ。

「化粧品で眉の色変えても、マクゴナガルは点をくれると思う?」

「くれるよ、マイナスの点をね」

 カイザル鬚を生やしたロンに見つめられ、ハリーは必死に笑いを堪える。

 他の生徒もカイザル鬚に気づき、思わず噴き出す。やがて、小さなクスクス笑いがあちこちで起こり、ロンは一気に落ち込んだ。

「貴方の髪と同じ、素敵な鬚よ。大人になったら生やしてみて」

 ハーマイオニーの励ましでロンは自らの鬚を上機嫌に触った。

 

 容赦のない授業は終わり、夕食の為に大広間へ向かう。

「晩餐会みたいに料理が出るなら、夕飯は食べないほうがいいさ? 4年生の時はそうだったさ」

「今回は立食パーティーだと思うの。両親に連れられて行ったことあるけど、お喋りばっかりで食べている余裕なんてなかったわ」

 レイブンクロー席にて、ハーマイオニーはミートスパゲティを食す。夕食時に彼女がクローディアの隣に座るのは、久しぶりだ。

「ハリーは今夜の内にスラグホーン先生から聞き出そうとするさ?」

「まさか! お父様に相談してからするって決めたようだし、その心配は……多分ないわ」

 微妙な間にハーマイオニーの葛藤を感じる。ハリーは時折、突発的な行動に出る。彼女がその場に居ても、諫めるどころかご一緒してしまうので絶対的な確信が持てないのだ。

「ハーマイオニーがこっちの席にいるなんて珍しい。あら、相方のロンは?」

「ロンは部屋にいるわ。支度に時間かかるって」

 ハーマイオニーの答えにマンディは含みのある笑みを返す。

「愛するハーマイオニーの為に今夜はおめかしってわけ?」

「……ええ、どんな仕上がりになるか楽しみだわ」

 からかわれていると気づいたハーマイオニーは余裕の笑みを見せつける。そんな彼女を視界の隅に入れ、クローディアはフレッドを想う。

 考える事が多すぎて、フレッドの服装についてまで気が回らなかった。彼がまともな格好で来訪してくれますようにと願った。

 

 リサの手を借りた盛装は文句なしに万全。

 黒と赤を混ざたドレスはジョージから貰ったカーディガンやお気に入りのイヤリングと調和が取れている。

「さっすが、リサ。私じゃないみたいさ」

「ふふーん、私はコーディネートの才能があるんですわ」

 自信満々のリサに髪も結われてお終いだ。

 何度履いても慣れないヒールに気を遣いながら、クローディアはベッロをお供に待ち合わせの玄関ホールに向かう。

 夜の8時だというのに、そこは女子生徒でごった返す。パーティーの賓客をせめて一目見ようと群がっているのだ。

「よお、クローディア。そっちのパートナーはまだか?」

 赤と金の縦縞燕尾服を着込み、オールバックに纏めた髪型は上品な印象を受ける。一瞬、コーマックと分からない程の英国紳士に見えた。

「俺のパートナーも外から呼んだんだ。どいつもこいつもパーティーに連れて行ってくれってうるさくてな」

 『隻眼の魔女像』に手をついてもたれかかり、コーマックは面倒そうに肩を竦める。耳敏く聞き取った女子の視線が痛い。

「それは照れ隠しに聞こえるさ。どうしても、その子を呼びたかったさ?」

「……呼びたい女子は全員、先約があったから仕方なくだ」

 唐突に優しい声色と視線でクローディアを眺め、コーマックは姿勢を正す。彼の視線の向こうには引率のフリットウィックと来客2名の姿がある。

 1人はフレッド、予想通りの色鮮やかなジャケットは以前見たドラゴン革製。予想通りに派手な格好にクローディアはげんなりした。

 『W・W・W』店主の登場に女子から拍手と歓声が湧き、フレッドも笑顔と手振りで応える。

 もう1人は意外や意外、クララだ。青空のようなドレスと雲のように靡く髪がこちらも愉快にさせる。

「やあ、2人とも。遅くなってすみません。検閲にちょっと手間取りましてね」

 フリットウィックの視線がフレッドへ向く。手間取った原因は間違いなく、彼だ。その証拠に企みが成功した笑みを微かに浮かべている。

「フリットウィック先生、ありがとうございます。クララ、久しぶりさ。元気してたさ?」

「勿論、色々と話したい。コーマック、今夜は招待をありがとう」

「お礼は主催のスラッギーじいさ……先生に言っておけよ。後、入城を許した校長な」

 和気藹々と話す3人と違い、フレッドはわざとらしく不貞腐れる。

「僕は無視か? いいよ、勝手知ったる我がホグワーツ城だ。好きに行くよ」

「フレッド、君はもう部外者である事実を忘れておりませんかね? さあ、スラグホーン先生のお部屋まで案内しましょう。離れないように!」

 群がってくる女子生徒を杖一振りで壁まで離し、フリットウィックは道を作ってくれた。

「そういえば、クララはどこの部署に配属されたさ?」

「つい最近までここの生徒だったのに、随分と昔のように思えるわ。聞いたわよ、ジョージと婚約したんですって? おめでとう」

 何気なく質問すれば、クララは聞こえない振りをして話を逸らす。

「『偽の防衛呪文ならびに保護器具の発見ならびに没収局』」

「ちょっと、コーマック!? 折角、黙っていたのに」

「あれ? なんか聞き覚えがある部署だな」

 いとも簡単にバラしたコーマックへクララが顔を真っ赤にして抗議し、フレッドはわざとらしく微笑む。

「……ああ、ロンのお父さんの部署さ。今こそ重要な役目さ、クララ……」

「そう言ってくれるのは貴女達くらいよ」

 思い出したクローディアが呟いた瞬間、クララは頬を膨らませる。

「……親族どもに色々と言われたんだよ。察してやれって」

「あんたに察してやれとか言われたら、素直に「はい」って言えないさ」

 コーマックに囁かれ、クローディアが溜息を吐いたと同時にパーティー会場に着く。賑やかな雰囲気の部屋と違い、その前にはハリーとドラコが立っていた。

 ハリーは以前のパーティーに来ていたドレスローブ、ドラコは一目見て高級そうな黒いビロードを纏ってる。それなりに盛装した2人と目が合い、5人は自然と足が止まってしまう。

「さあ、皆さん。折角のスラグホーン先生の厚意です。問題を起こさないように」

 フリットウィックに追い立てられるように6人は会場へ押し込まれた。

 拡張魔法で開くなったはずの部屋は人々で混み合い、暖房いらずの熱気に包まれる。

 優美と優雅な垂れ幕や襞飾り、それに合わせた凝った装飾のランプ、まるで社交界の場だ。賓客らしき年配の魔法使い達がパイプを吹かせているのも雰囲気を出している。

「ハリー、本当にドラコ=マルフォイを誘ったんだな」

 クローディアが場の雰囲気に感心していると、フレッドが初めて乾いた笑みを見せた。

「今日は楽しめよ、ドラコくん」

 皮肉たっぷりに告げ、コーマックはクララと主催のスラグホーンへ挨拶しに行く。勿論、ドラコは目の前を通り過ぎる2人など眼中にない。視界の隅から逃がさぬかのように、横目でクローディアを睨んでくる。

「こんばんは、ハリー、マルフォイ。ハーマイオニーとジニーはどうしたさ?」

「僕は見てないよ。フレッド、久しぶり」

 睨む割にはドラコから返事はなく、ハリーだけが普段通りだ。この状況に苦笑したフレッドは片手を上げて挨拶を返す。

「これはこれは、ハリー! 待ちくたびれた! さあ、さあ、こっちへ是非、会って欲しい人物が大勢いる!」

 体格を覆い隠すビロードを着て盛装したスラグホーンはハリーの返事を聞かず、その腕を掴む。咄嗟にフレッドの腕を掴む。クローディアの助ける隙もなく、彼らは突風のように人混みの中心へと突っ込んでいった。

(ハリー……、せめてこっちを連れて行って欲しかったさ……)

 置いて行かれたクローディアとドラコは確認し合うように視線が絡む。

「あれは双子の片割れだな。乗り換えたのか?」

「答える義務はないさ。んじゃ、パーティーを楽しんで欲しいさ」

 この人混みでも、クリーチャーはドラコを監視している。仮に彼が問題を起こそうモノなら、客人に紛れた闇払いが放って置かない。

 背中にドラコの視線を感じながら、クローディアはベッロを肩に巻きつける。歓談に夢中な賓客達を避けながら、ハーマイオニーを探す。

 人生経験豊富な彼らは蛇を首に巻いたクローディアを驚かない。しかし、強い意識を向けてくる連中はいる。スラグホーンが厳選した客人、故に『死喰い人』ではない連中だ。

 それ以上は考えない。

「クローディア、良かった。ハーマイオニーを見なかった?」

 ロンの声に振り返れば、知っている顔に立派なナマズ鬚が生えていた。思わず、他人の振りをしたくなる程、似合っていない。笑いを必死に殺す。

「……鬚、たった数時間で立派になったもんさ」

「だろう? 昼間の鬚より伸ばして見たんだ。それより、ハーマイオニーだよ。この人混みじゃ同じ部屋にいても見失っちまうぜ」

 不格好なパートナーから離れたかったが、ロンを傷つけぬように逸れたのではないかと勘繰る。

「んで、クローディアのパートナーはどこで代わっちまったんだ? フレッドは?」

 露骨に嫌な顔を晒し、ロンは問いかける。疑問と嫌な予感に振り返ると、ドラコが当たり前のようにクローディアより二歩下がって傍にいた。

 全く気づけず、正直に怯む。

 悲鳴を上げなかっただけ、クローディアは自分を褒めた。

「あいつは無視していいさ。ハリーはスラグホーン先生に連れて行かれ、フレッドも巻き込まれたさ」

「スラグホーン先生も空気読んで欲しいぜ。行こう、ハリーならすぐに先生を巻いてベランダとか壁際にでも逃げるって」

 ドラコから姿を隠すようにロンはクローディアの前に立ち、奥へと誘導する。

「ジニーとディーンはさっき見かけた。ネビルはウェイターの格好で飲み物配ってたぜ」

「トレローニー先生を見かけたよ、酔ってた」

「っ! ルーナ、いつの間に……」

 ルーナはそのしなやかな手つきで腕を絡め、後方のドラコを睨まない程度に見やる。

「コリンとはぐれちゃったんだもン」

「カメラの音を追いかければいいんじゃね?」

 クローディアが先頭に立って人混みを搔き分ける。逸れないように列になってルーナの腕をしっかり掴んで進む。おおげさかもしれないが、歓談を楽しむ人が大きく腕を振ったり、列を横切るので意外と見失ってしまうのだ。

 案の定、クローディアの前を遮るように背の高い男が現れる。目の下の化粧のような隈が印象的で、飢えた目つきを隠さず、彼女を見下ろす。その口にはミートパイが含まれ、微妙にリスっぽい顔になっていた。

 ベッロが小さく威嚇すれば、男は身構える。

「サングィニ! 勝手に行くんじゃない!」

 呼び声を聞き、サングィニと呼ばれた男はゆっくりとした動作で声のほうに進んで行った。

「エルドレド=ウォープルだよ、あの声。今のは彼の友人、吸血鬼だもン」

 簡単で当たり前のような説明を聞き、驚く。生まれてからホラーでは定番のひとつ吸血鬼と会えたというのに、碌に挨拶も出来なかった。

「よく知っているさ、ルーナのお父さんの友達さ?」

「さっき、スラグホーン先生に紹介して貰ったんだもン。クローディアも吸血鬼に興味ある?」

 学術的興味としてはある。だが、現状として色々と精一杯の状態であるが故に自ら関わろうとは思わない。ただ、再び会える機会があるなら話はしてみたい。しかし、想像していた吸血鬼より血色も良く、ただの連日徹夜明けの人という印象を受けた。

「寝る時は棺桶ですか? って、聞いてみたいさ」

「……それってマグルのブラックジョーク?」

 ルーナと話しながら、人混みを抜けて無事にベランダへ着く。

 一安心して周囲を見渡すが、何故か、クローディアとドラコしかいなかった。

「なんでさ! 私、ルーナの手を握っていたはずさ!」

 手を見やれば、ベッロの尻尾である。ルーナにしがみ付かれていた己の腕も誰かのケープだ。思い返してみれば、吸血鬼サングィニと鉢合せた段階でロンの声が聞こえなかった。

 しかも、ベランダにハリーどころか誰もいない。

「っぷ、間抜け」

 久しぶりにドラコから小馬鹿にされる。視界の隅で彼の表情を見れば、憎たらしいまでに嘲笑を浮かべている。

(下手に動くと行き違いになる。……それに何処へ行こうと着いてくるしさ、ここで待つさ)

 視線でベッロに語りかけ、頷き返される。

「お飲み物は?」

 さりげなく現れたネビルは2人の組み合わせに、笑顔を強張らせる。

「ネビル……、その服似合うさ。自前さ?」

「スラグホーン先生が用意してくれたんだ。あっちにジニーがいたよ、一緒に行こう」

 ネビルの持つお盆からグラスを受け取り、クローディアは背後のドラコを意識する。勿論、彼は飲み物を拒むが視線は変わらない。

「私はしばらくここにいるって、伝えて欲しいさ」

 了解したネビルは慌てず、騒がずに人混みへと紛れて行った。

 グラスを一口、口に含んで熱気で乾いた喉を潤す。酒ではないが、炭酸入りカボチャジュースという感想しか浮かばず、クローディアの口に合わない。

 つまりは不味い。

「飲むさ?」

 不味さを表情に出さず、グラスをドラコへ差し出す。予想通り、無視された。不味い飲み物だが、勿体ない為に一気飲みし、通りかかった『屋敷妖精』へと回収して貰う。

 ベランダへと足を出しても、外の風が肌に触れているのに肌には暖かさがある。室内の熱気ではなく、何らかの魔法とわかる。

「こんなに暖かくなる魔法があるなら、廊下とかにトイレにも使って欲しいさ。マルフォイもそう思わないさ?」

 当たり前のようにベランダまで着いてきたドラコに話を振っても、やはり返事はない。

「ずっと授業で学んだ吸血鬼を目に出来るとは思わなかったさ。あんた、あんまり驚いてなかったけどさ、吸血鬼を見慣れているさ?」

 無言どころか、目も逸らされた。

 その様子から、ドラコにとってスラグホーンの賓客達との接触は重要ではないと推理できる。それとも、この会場に姿を見せる事そのものが目的かもしれない。

 以前のドラコなら、如何にも情報通であると示すように不敵な笑みを浮かべてヒントのような言葉を口走っていた。実に分かりやすい性格だったが、それも揺ぎ無いはずの父親の後ろ盾があってこそだ。

 その父親ルシウスはお仲間と一緒に吸魂鬼のいないアズカバンだ。

 クローディアの中で相手を罵りたい気持ちが沸々と湧き起こる。

「ルシウス=マルフォイが投獄されてから、あんた、随分と無口になったさ。よっぽど、お父上がいない今の状況が不安さ」

  一瞬、ドラコの口元が痙攣をする。ようやく、反応らしい反応が見れた。やはり、彼は今の状況を不安というより、怖れている。

 だからと言って、命を狙われてやる理由にはならないし、ケイティを巻きこんでいい理由にもならない。

「まあ、あんたのお父さんは『死喰い人』のリーダー的な人だったさ。そういえば、今のリーダーは誰がやっているさ? 純血は勿論だろうけどさ、お家柄も関係してくるさ?」

 嫌味を含めて、適当な質問をいくつもぶつける。そこで純粋な疑問が浮かんだ。

「前々から思っていたんだけど……家柄の根拠って何さ? 由緒正しきブラック家とか……」

 魔法族にも身分があるとしてもその階級は今だ知らない。コンラッド達がその辺りをクローディアへ教えずにいたのは、学校での生活には特に必要ではなかったからだろう。

「『聖28一族』だ」

 風の音に混じり、ドラコの声が耳に届く。無知を憐れむ賢者のように呆れた口調だ。

「ようやく、まともに答えたかと思えば……『聖28一族』? 最初の魔法使いみたいなもんさ?」

 ベランダにもたれ、ドラコは夜景を見ながら語りだす。

「かつて、魔法族とマグルは確固たる隔たりを持ち、お互いの領分を弁えていた。しかし、『穢れた血』やスクイブどものせいで、混ざり者が後を絶たなくなった。純血の血筋を失う事を恐れたカンタンケラス=ノットが、その生涯をかけて調査した結果、間違いなく純血であると認定された栄誉だ」

 淡々と語るが、微かな高揚を感じ取る。誇りとして受け入れている様子から、マルフォイ家は含まれている。カンタンケラス=ノット、ほぼ間違いなくセオドールの親族だ。

「……だから、自分達は偉いってわけさ? まるで王様さ」

「魔法界に王はいないが、ブラック家は実質的な王族だった……。今では見る影もないがな」

 耳を疑う情報に動揺し、思わず唾が噴き出す。吃驚したベッロはクローディアから逃げた。

「……ブラックが王族、嘘でしょうさ!? あんなおっさんが王族……ぷぷっ! くく、だめ……苦しい」

 昔見たアーサー王の映画を思い出し、その衣装を着たシリウスを想像してしまう。抑えきれない笑いに腹筋が痛む。笑いをとめようとベッロの尻尾によって、クローディアは叩かれる。良い音に弾かれ、頬口が痛んでも堪えられる。

 真面目な雰囲気で笑う場面ではなかったと反省する。

 頬を撫でてから、ドラコを見やると睨みとは違う視線を向けてきた。

「君は……僕達が……父上が憎くないのか?」

 何の裏もなく、ただの質問。純粋な疑問。

「許してない」

 ならば、返す言葉もただの回答。嘘偽りのない、今の心情。

「予想通りだな」

 嘆息したドラコは一度、瞼を閉じる。閉じたまま、クローディアの眼前まで歩み寄ったかと思えば胸倉を掴む。ベッロが威嚇しながら、尻尾を叩きつける。彼は空いた手で尻尾を受け止めた。というより、腕にわざと絡めてベッロの動きを制限していた。

 杖を使わず、ドラコは接近戦に十分対応できている。意外すぎて心臓さえも驚き、胃が引き攣る。

「甘く見るなよ、僕の傍にはクィリナスもいるんだ」

「それはどういう……!?」

 最後まで言えなかった。

 言えるはずなかった。

 問いかける唇はドラコの唇によって塞がれたからだ。ベッロも驚き、顎が外れんばかりに呆然と口を開ける。

 呼吸の仕方もわからず、クローディアは息を止めて瞬きもせずに置く。ドラコも決して目を離さない。

 

 ――バアン!

 

 窓に叩きつけられる音でドラコはようやく唇を離す。新鮮な息を求め、クローディアは咳込む。

「……スネイプ先生……」

 息絶え絶えにクローディアは窓辺にいた黒衣の教授を呼ぶ。眉間の皺は深く、どちらにも鋭い眼光を向けている。

「ミス・クロックフォード、ミス・グレンジャーが君を探しておりましたぞ」

 返事をせず、クローディアはスネイプの横をすり抜ける。

「寮へ戻ってはどうかな? ドラコ」

「お気遣いなく、先生」

 離れながらも2人の会話が耳に入る。スネイプに対し、ドラコは冷たく吐き捨てていた。

 しかし、クローディアは彼らに意識を向ける余裕はない。

 唇を奪われた。貴重なファーストキスというだけでなく、ドラコに接近どころか接触を許してしまう。彼に殺す気があれば、あの一瞬でクローディアの命は終わっていた。

 今頃、ゾッとした寒気に襲われる。

(……クィリナスとか言っていたが、あいつが何か教えている?)

 ほくそ笑むクィレルの顔が浮かび、怒りが湧く。

「クローディア、何処に居たの? フレッドは一緒じゃないの?」

「ほほ、これだけの客人じゃ。ホラスはもう少し部屋を広くしても良かったのお」

「……クローディア、口紅が擦れているわ。どうしたの?」

 ハーマイオニーとダンブルドア、ジニーだ。

「さっき、飲んだせいさ。人が多くて汗も掻いたしさ」

 頼もしく親しい顔を見れて、クローディアは知らぬ内に安心した笑みを浮かべる。ベランダに置いてきたベッロは気になったが、スネイプがいるなら身の安全は保障される。我が身可愛さで先に逃げた事を恥じた。

「こんばんは、校長先生も招かれていたんですね」

「そうじゃのう、招かれてはおらんが来るなとも言われておらんでの。ドラゴンタルタルなどいかがかな? 実に独特な臭いじゃ」

 穏やかな笑みと共に一口菓子を勧められたが、出来るだけ丁寧に断る。

(ハリーの宿題の様子でも見に来たさ?)

 あるいは敵が紛れ込んでいないか、ダンブルドア自ら警戒に当たっているのだろう。

「ジニーはディーンと一緒じゃなかったさ?」

「とっくに逸れたわよ。もしかしたら、帰ったかも。ルーナ、見なかった?」

 クローディア達が雑談している間も、次々と賓客達はダンブルドアへ挨拶していく。

「校長先生、ここにいたんですか?」

「ご無沙汰しております。ダンブルドア、こんな中で手袋なんかして暑くないんですか?」

 ハリーとフレッドは賓客に紛れ、スラグホーンから逃れられた。

「わしの身を案じる者からの贈られたんじゃ、似合うじゃろ?」

 手袋を自慢するダンブルドアにハリーとフレッドは繁々と見つめていると、ルーナとロンもやってきた。

「ジニー、ディーンがさっき帰っちまった」

「でしょうね、OK」

 ロンとジニーが話す中、ルーナはクローディアの腕に絡まるケープを見やる。

「それトレローニー先生のケープだもン」

「げっ」

 クローディアが呻いた瞬間、疲れ切ったコリンとも合流できた。

「持ってたネガ、全部、使っちゃった……」

 会場の熱気はまだ冷めやらず、しかし、クローディア達は頃合いを見て抜ける。

 フレッドはちゃっかりハリー達に着いて行き、久方ぶりにグリフィンドール寮へ潜りこむ気だ。前から相談していたのか、ロンは『透明マント』で己の兄を隠した。

 ハーマイオニーの鋭い視線を物ともせず、グリフィンドール組は寮へ帰る。彼女だけクローディアとレイブンクロー寮へ来た。

「お帰り、どうだった?」

「あら、ハーマイオニー。ロンと何かありまして?」

 パドマとリサに出迎えられ、クローディアとハーマイオニーはげっそりとした疲労感に襲われる。

「クララから元大臣バグマンのお話を聞いたぐらいよ、おもしろかったのは」

 ハーマイオニーが話す中、クローディアは何気なくドラコの唇を思い出す。正直、皮膚がぶつかったという感想しかない。しかし、改めて不快感が唇に纏わりついた。

 今夜。起こった事はハーマイオニーは勿論、ハリーやロンには伝えなくてはならないし、スネイプに見られたという事はいずれコンラッドの耳にも入るだろう。

 故に、今、この時間だけは忘れたかった。




閲覧ありがとうございました。
どうして、ここでキスしちゃったんだろう……。自分でもわかりません。

●エルドレド=ウォープル
 吸血鬼関連の著者。
●サングィニ
 ウォープルが連れてきた吸血鬼。吸血を我慢しているせいか、無口。
●カンタンケラス=ノット
 【純血一族一覧】の著者(書籍事態は公式では匿名)。純血を保つのを助ける目的で出版した。
 
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