こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。
賢者の石ってどうやって使うんでしょう。

追記:17年3月4日、誤字報告により修正しました。


11.賢者の石

 クリスマス休暇が明ける1日前、クローディアはホグワーツ城へ戻った。学校にいるはずなのに、我が家に帰ってきたような感覚だ。帰れる家が3つもあるなど、贅沢者と謗られても満面の笑みで返せる。

 荷が解け終わると、職員室へ向かう。教職員への新年の挨拶をする為だ。

 絵の埃を掃除するフィルチを見つけ、丁寧に挨拶する。フィルチは煩わしそうに「ああ」と返した。

 

 職員室は、机がなかった。語弊でも揶揄でもなく、椅子しかなかった。外套を掛ける為の洋箪笥が置いてはいる。

 よくよく考えれば、教師はそれぞれ事務所兼個室がある。

 茫然としているクローディアは、足元にいたフリットウィックに気付くのが遅れた。

「ミス・クロックフォード、どうしたかね?」

「フリットウィック先生、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

 腰を折って頭を下げ、フリットウィックは驚くように笑う。

「ごりゃあ、御丁寧に。君の使い魔は、連れてきたかな?」

「はい、部屋で寝ています。昨年は、御迷惑をおかけいたしました。クィレル先生にも、挨拶をしたいのですが」

 他の教師は何人もいたが、クィレルの姿はない。ついでに、スネイプもいない。

「クィレル先生は、事務所にいるとも。この寒さで、体調が芳しくなくてな」

「わかりました。訪ねてみます」

 職員室を後にして、クィレルの事務所に向かう。その途中で、スネイプと出くわした。クローディアが挨拶する前に、彼は辛辣に吐き捨てる。

「ベッロは連れて来ているだろう? 君の使い魔になりたいものなど、そうはいまい。見限られないようにしたまえ」

 気分を害され、挨拶する気力も失せた。

 

 授業以外で『闇の魔術への防衛術』を訪れたのは、初めてだ。昼間だというのに、閑散とした教室は薄暗い。全ての窓を黒い布で塞ぎ、香料を焚いていれば当然であろう。しかし、白い煙が立ち込めて目と鼻を刺激する。思わず、クローディアは咳き込んでしまう。

「だ、誰か、い、いるの、かな?」

 恐る恐る事務所の扉が少し開き、隙間からクィレルがこちらを確認してくる。

「クィレル……先生。ゴホッ、クロックフォードです、ゴホッ」

 クローディアだと知り、クィレルは安堵の息を吐く。彼は杖を一振りして、香料の煙を消し去った。お陰で、咽びは止まる。

 周囲を警戒する歩き方で、クィレルは事務所から出てきた。藍色のニット帽を深く被り、深緑のガウンコートを巻いている。いかにも今まで寝ていましたと言わんばかりの風貌がおもしろい。

「え~と、な、何の、用かな?」

「はい、ゴホッ。新年明けまして、おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

 丁寧に頭を下げる彼女を不思議そうに見つめたクィレルは首を傾げる。

「き、君は、たった、そ……それだけを言う為に……」

「ベッロを学校に連れてきましたので、お報せしようと思いまして」

 納得したクィレルは、震える手で自身の口元を触る。

「よ、良ければ、あ、あの蛇は、私が、ひ、引き取ろうか? お、同じことが、起こったら、こ、困るだろう? い、いつも私が庇えるわけじゃないし、ど、どうかな? 悪い提案ではないよ」

 ベッロを誰かに引き渡す。

 非常に魅力的な誘惑が胸を躍らせる。皆が蛇のことで自分を嘲笑う度、その考えが脳裏を掠めた。蛇を手放してしまえば、自分は楽になれる。確かに、悪い提案ではない。

 故に、乗るわけには行かない。

「私は魔女ですから、使い魔を手放せません」

「――残念だ――」

 口元を隠すクィレルは、ただそれだけ呟いた。

 

 グリフィンドール寮内は真紅であり、深紅だ。カーテンも絨毯も赤い。壁にかけられた絵の住人達は、 何処なく勇敢な印象を受ける人々ばかりだ。

 初めて他寮に足を踏み入れた。何度も訪れてはいるが、『太った婦人』の前で中を見ていただけだ。僅かな高揚と緊張で落ちつかないクローディアは、談話室の絨毯に腰を下ろして息を吐く。ソファーでは、ハーマイオニーが分厚い本のページを捲り、考え込んでいる。

「ごめん、遅くなった」

 ようやく、男子寮からハリーとロンが下りてきた。ハリーは、新品のシャツに『H』の文字が編み込まれたセーターを着ていた。ロンも『R』の文字入りセーターを着ている。

「そのセーターって、お揃いさ?」

「そうだよ。ロンのママが僕に編んでくれたんだ。それに、このシャツはドリスさんがくれたんだ」

 笑顔を取り繕うハリーの口調に、勢いがない。今にも、消えてしまいそうな儚い雰囲気が彼を取り巻いている。簡単に言うなら、心此処に在らずだ。ハリーが興味を示す物がここにはない。

「ハリー、どうしたの? 元気がないわ」

 心配したハーマイオニーがハリーの額に手を当てて熱を計る仕草をする。

「実は、変な鏡を見つけて、ハリーはそれに夢中なんだ」

「鏡さ? 世界一、美しいのは誰って聞いたら、答えてくれるとかさ?」

 クローディアが軽い冗談で尋ねると、少し悩んでからロンは人差し指を立てる。

「多分、それに近いと思う。『みぞの鏡』って言って、よくわかんないけど、望んだモノが見えるらしいんだ。気味が悪いから、やめろって言っても聞かないんだ。3日続けて、夜に抜け出す程なんだぜ」

「まあ! 3晩も深夜をウロウロして、フィルチに見つかったらどうするの?」

 呆れたハーマイオニーが腕組みをしてハリーを叱る。しかし、ハリーは茫然と絨毯を見つめている。彼女がハリーの額にデコピンし、彼は痛みに反応した。

「だって、鏡の中のことが、忘れられないんだ。パパとママが僕に笑いかけてくれるんだ」

 苦悩するハリーは、無意識に額の傷を手で押さえる。ハリーは、たった1人の『生き残った男の子』であり、彼の両親は『例のあの人』に殺された。

 それを思い返し、怯えのあまりクローディアの手が震えた。

 天井を煽ったハリーは嘆息する。

「でも、校長先生が僕の知らないところに鏡を移しちゃったから、もう見に行けないよ」

 活力を奪われたと言わんばかりに、ハリーは悲しげに唇を噛む。

「見に行かなかったら、勝手に忘れるさ」

「校長先生に見つかったのに、鏡が移動させられただけで済んで良かったじゃない。まったく、そういうことするなら、『ニコラス=フラメル』について見つけてくれればよかったのに」

「ちゃんと『閲覧禁止の棚』には行ったよ。どの本がわからかったし、フィルチに見つかりかけるし、大変だったんだよ」

 億劫そうにハリーは項垂れる。

 『閲覧禁止の棚』とは、その内容故に閲覧出来ない書物が保管されている場所だ。上級生の出入りは自由だが、下級生は教師の許可がなければならない。よしんば、書物を読めたとしても理解は出来ない程、高度な知識があるとされる。

「気のせいかもしれないけどさ。あんたら、規則破りすぎじゃないさ?」

「何を今更」

 クローディアの素朴な疑問に対し、ハーマイオニーは完全に開き直っていた。

「ハーマイオニーのほうは『ニコラス=フラメル』のこと何かわかった? 歯医者のパパとママは何か知ってた?」

 そちらに何の期待もしていない。ロンの質問には、そんな思いがありありと込められていた。

 得意げに胸を張るハーマイオニーは、わざとらしく上品に咳払いする。

「もっと身近な人が知ってたわよ。ね? クローディア」

 話を振られたクローディアは、肯定する。『ニコラス=フラメル』が500年前の錬金術師だと説明すれば、ハリーとロンは何時ぞやの誰かさんと同じように面を食らっている。

「なんだよ! 最初から君に聞けばよかったんだ。100回も図書館を調べたのに!」

「僕なんか、『閲覧禁止の棚』まで行ったのに……」 

 ロンは髪を掻いて悔しがり、ハリーは苦労が徒労に終わり嘆く。文句を垂れる2人を無視し、ハーマイオニーは抱えていた本のページを捲り、錬金術の項目を指でなぞる。

「問題は、どれかよね。『賢者の石』、『ホムンクルス』、『不死の妙薬』の3つ」

「「何それ?」」

 ハリーとロンは、クローディアに疑問の視線を送る。

「錬金術の代表的な技術さ。それは大まかに3つに分けられるさ。金の作製、不老不死の薬の精製、無生物から人間の創造。それぞれに『賢者の石』、『不死の妙薬』、『ホムンクルス』と研究の到達点さ。ただし、『賢者の石』と『不死の妙薬』は同じ意味として、使われることがあるさ。しかも、この石は『哲学者の石』とも呼ばれていて、所有者に無限の知識を与えるらしいさ」

 発展した国や宗教によって錬金術の研究は細かく分かれるが、そこまでクローディアも詳しくない。

「奥が深いんだねえ。錬金術って」

 興味津々でロンが感動の息を吐く。

「もう! クローディアが説明したら、私の調べる意味なくなるじゃない!」

 別のページを開いたハーマイオニーが声を上げる。

「『賢者の石』は、いかなる金属をも黄金に変え、また飲めば不老不死になる『命の水』の源でもある。従って、仕掛け扉の中にあるのは、『賢者の石』よ」

「金を作る石、決して死なないようにする石! おまけに無限の知識! スネイプが狙うのも無理ないよ。誰だって欲しいもの。そうか、グリンゴッツで見た大きさを考えるとそうだよ」

 確信を確実にしたとハリーは、生き生きと拳を握りしめる。

 気がかりな点があり、クローディアは呻く。その呻きを聞き、誤解したハリーは急いで「スネイプ先生」と訂正した。

「スネイプ先生は、こっちに置いて。グリンゴッツ銀行がどう関係してくるさ?」

「話してなかったね。えと、ハグリッドとグリンゴッツに行った時なんだけど、713番の金庫から何かを持って行ったんだ。それが僕でも持てそうなこのくらいの小さな包みだった。ハグリッドは校長先生からの大事な用事だって言ってた」 

 興奮して早口になるハリーの熱弁とは反対に、彼女の表情は冷めていく。

 コンラッドの問いが蘇る。ゴブリンの警護を掻い潜り、厳重な金庫を解いたにも関わらず、侵入の痕跡をわざと残していった犯人の狙いは何だ。

〝おまえなら、誰を挑発していると思う?〟

 本当に『賢者の石』がこの学校にあるならば、その相手はただ1人。アルバス=ダンブルドアしかいない。

 自分なりの答えを口開く前に、パーシーがクローディアに声をかけてきた。

「そろそろ寮に戻らないといけない時間だよ。休暇中でも規則だからね」

「お泊りを希望しま~す!」

 希望したのに、パーシーは容赦なく放り出した。

 

 新学期に入り、ハリーにはクィディッチの練習でほとんど時間が取れなくなった。練習日程をハリーに教えてもらい、クローディアはオリバーをただの鬼畜だと思った。そして、ハーマイオニーは時間のない彼の宿題を手伝うことで忙しい。

 グリフィンドール寮にクローディアが泊り込もうにも、パーシーから猛反対された。それどころか、学年末試験が終わるまで、グリフィンドール寮への立ち入りを禁じた。

 激怒したロンがパーシーに反論したが、無視された。

「君は、まず自分の寮生との絆を深めるべきだ」

 模範生らしい意見だが、クローディアは他にも理由があると踏んだ。

 

 図書館でクローディアとロンは勉強する振りをしながら、これまでのことを纏める。羊皮紙に要点を書き込む彼女を見つめ、彼は冒険心を募らせていく。

「僕らがスネイプ……先生のやろうとしていることを阻止したら、皆、驚くかな?」

「うんうん、驚くさ」

 賛同するように頷くのとは、裏腹にクローディアはロンとの時間が辛い。別にスネイプが『賢者の石』を狙おうが、心底どうでもいい。ハーマイオニーが彼と出来るだけのことをして欲しいと頼まなければ、好き好んでやっていない。

「ハリー、まだ練習してるぜ」

 窓の外を見やったロンがげんなりする。豪雨が降る悪天候の中でも、ハリー達の猛練習は休まない。びしょ濡れの姿で必死に箒を掴むハリーがクローディアにも視認できる。

 ハリーが気の毒に思えてならない。

「閉館の時間が近づいています。本の貸出、また返却の人は早くなさい」

 有無を言わさないマダム・ピンスに従い、2人は手早く図書館を出る。

「ネビルとマルフォイだ。何してんだ?」

 足を止めるロンにつられ、クローディアも珍しい組み合わせを視界に映す。愉快そうなドラコ(クラップとゴイル付)がネビルに杖を向けている。

「ロコモーターモルティス!」

 ドラコが『足縛りの呪い』を唱えた瞬間、ネビルの両足が磁石のように繋がった。足の異常に気付いたネビルが足を離れさせようともがく。その様を通りすがる上級生も忍び笑う。

「マルフォイ! ネビルに何しやがんだ!」

 怒鳴ったロンがネビルに駆け寄り、ドラコを睨む。

「おやおや、ロングボトムにお友達が来たぞ。なっさけない、1人で僕に立ち向かえないのかよ」

 わざとらしくドラコが笑い声を上げ、クラップとゴイルも意味はわからないが取りあえず声を出して笑った。

 クローディアはドラコを相手にせず、ロンと一緒にネビルに肩を貸して歩く。2人に運ばれている姿を羞恥に感じたネビルは耳まで真っ赤に染める。

「医務室に連れて行くか?」

「そっちの寮に行くさ。『足縛りの呪い』は、簡単な魔法だから生徒でも解けるさ」

「じゃあ、今、解いてよ!」

 懇願するネビルに、クローディアは頭を横に振るう。

「後ろからミセス・ノリスが着いてくるさ」

「げえっ、ホントだ」

 目を見開くミセス・ノリスが一挙一動を見逃さないように、てこてこと着いてくる。

 

 『太った婦人』の前で、クローディアはネビルをロンに託して別れた。そうすると、違反を目に出来なかった猫は、詰まらなそうに何処かへ向かった。

 2人で運んだとは言え、ネビルは意外と重かった。一安心し、クローディアはスカートのポケットに手を入れる。ポケットの中で薬入れと印籠が指に当たる。今更、クローディアは印籠の存在を思い出した。印籠を指先で玩び、物思いに耽る。

(お祖父ちゃんは呪いが解けるっていうけどさ)

 階段の手すりにもたれていたクローディアは、気まぐれに動く階段の赴くままに何処かの廊下へ着いてしまった。『禁じられた廊下』ではないので、安心して階段に戻ろうとした。

「助けて……くれ」

 地を這う声が廊下の隅から聞こえてきた。幽霊の悪戯かと思い、クローディアは用心に杖を構えておく。慎重に様子を窺い、声のするほうへ近寄る。

 オリバーが身体を「く」の字に曲げ、壁に張り付いていた。よく見れば、身体の一部が壁の色に染まっている。おそらく、変身術の魔法だ。相手の身体を既にある壁と同化させる高度な魔法は、クローディアの手に負えない。

「何しているんですか?」

「フリントが俺に魔法をかけやがったんだ。言っとくけど、相手は3人だぞ。くそっ、ピーブズに先生を呼んでくるように頼んだけど、ダメだったか」

 しゃがれた声で、オリバーは息を荒くする。先程まで、彼はクィディッチの練習に励んでいた。その帰りを襲われたなら、疲労は凄まじい物に違いない。

「すまないが、先生かマダム・ポンフリーを呼んでくれ」

 彼の唯一動く目がクローディアに乞う。不意に彼は、印籠を眺める。印籠から、1粒の丸薬を取り出してオリバーに見せる。

「ウッド、気休めにしかならないかもしれないけどさ。これ飲んでみるさ」

「お菓子か、ありがたい」

 オリバーの勘違いを幸いに、クローディアは丸薬を浮かせる。半分しか開かない彼の口に、放りこんだ。

 余程、空腹だったのかオリバーは丸薬を噛み砕いて飲み込んだ。

 吐き気に襲われたオリバーが嗚咽した瞬間、彼の身体は壁から離れて床に崩れ落ちた。予想しなかった結果に、クローディアは戸惑う。

「……大丈夫さ?」

「う……、トイレ!」

 蒼白な顔色でオリバーは口を押さえ、お手洗いに向けて大急ぎで走り去った。

 1人残されたクローディアは、胸元を掴んで息を吐く。胸中の熱い滾りが全身を巡って興奮を促してしまう。『解呪薬』の効用を目の当たりにしては、同然だ。

(本当に、呪いを解いたさ?)

 慌てて、印籠の中身を確認する。同じ大きさの丸薬が4つある。貴重な1粒を使ってしまったことに、少なからず後悔した。後、たった4粒しかない。これから先は、慎重に使わないといけない。自らに言い聞かせ、印籠を大切に握りしめた。

 その後、オリバーは原因不明の腹痛で2日間、医務室に入院した。

 

 土曜日の正午。

 前回のような寝坊もなく、クローディアは競技場に到着した。レイブンクロー観客席で最前列を占領し、パドマ達に囲まれる。

「おい! ダンブルドアがいるぞ」

 後ろの席にいた4年生のバーナード=マンチが貴賓席に双眼鏡を向けて叫ぶ。双眼鏡を持たない生徒も、貴賓席に注目してダンブルドアの姿を確認した。貴賓席の隣には、フリットウィックが生徒に楽器を持たせて指揮を取っている。

「校長先生が見に来ることがそんなに珍しいさ?」

「ええ、校長はお忙しいんだもの。去年は一度も観戦に来られなかったわ。校長もハリーの活躍を期待してるのよ。これに勝ったら、スリザリンを……ふふふ」

 不適な笑みを浮かべるペネロピーが怖い。

「あら?」

 双眼鏡を覗くマリエッタが何かに気付いた声を上げる。

「実況席にマダム・フーチがいるわよ」

「え!? あ、ほんと!」

 驚いたチョウがマリエッタの双眼鏡を奪い、実況席を見る。確かにマクゴガナルの後ろでマダム・フーチが腰を下ろしている。

「ええ? 今日の審判、誰がやるの? クローディア、何か聞いてない?」

 不愉快と言わんばかりにジュリアは顔を顰める。何も知らないクローディアは、思わずパドマを振りかえる。パドマも何もわからず、頭を振るう。

 競技場の真ん中に全員がよく知る人物が姿を見せた。

「スネイプ先生……だね。あれ……」

 下を覗いたミムが怪訝した。

 周囲に動揺が走る。

「どういうつもりだ? もしかして、グリフィンドールを勝たせないつもりじゃ?」

「でも、ダンブルドアがいるんだ。そんな不正は許されないぞ」

「成程、スネイプの贔屓を妨げるために校長先生は観戦に来たんだ」

「そうまでして、グリフィンドールが憎いかね」

「ハリー=ポッターがいるからな」

 勝手なことを口走る言葉を耳にいれながら、クローディアは別のことに着眼点を置く。仮にスネイプがハリーを狙うなら、今日の試合はまさに絶好の機会だ。選手である彼は、事前にこの事を知っているだろう。ハーマイオニーとロンも同寮なのだから、すぐに話は伝わるはずだ。

(もしかして、ハーマイオニーは対策に夢中で私に言い忘れたさ)

 ありそうだ。

「それにしても、スネイプ先生。もやしっ子さ? なんか、箒に慣れてないさ。ふらふらしているように見えるし、落ちたら痛いさ」

 深い意味もなく、クローディアは呟く。たまたま聞こえたリサは、笑いのツボに入ったらしく肩を震わせて堪えた。

「クローディア、言いすぎですわ……」

 グリフィンドールとハッフルパフの選手が入場し、ざわめきは声援が変わった。スネイプがブラッジャーを放ち、試合は開始された。

 試合が始まるとクローディアも興奮し、瞬きを忘れてハリーの動きに集中する。練習の成果が出ているのか、彼が箒を乗りこなす姿は迫力がある。

 レイブンクロー席では、全員が椅子から立ちハリーの名を叫んでいた。

 途端にハリーがスネイプの耳元を電光石火の如く飛び去ったかと思えば、彼は箒を持ち直し、意気揚々と金のスニッチを見せ付けた。

 5分も立たない試合時間。ハリーの作り上げた新記録は、ある席に勝利の陶酔を与え、ある席に敗北感を叩きつけ、ある席を驚嘆させた。

 感動したクローディアは、誰にでも抱きついて喜びを分かち合った。

 ダンブルドアもわざわざ貴賓席から下り、ハリーの元へ足を運んだ。緊張したハリーの肩に触れた校長は、彼に何か囁いていた。彼が殊更嬉しそうに笑うので、称賛を受けたのだとクローディアは思った。

 苦々しく地面に唾を吐き捨てたスネイプは、大勢の生徒を笑わせた。

 

 試合の興奮が冷めやまぬ内に、クローディアはハーマイオニーを探しに城を歩き回る。

「ハリー=ポッター万歳!」

 更衣室、箒置き場を、大広間、何処に行っても、ハリーを称える声が終わらない。試合の相手だったハッフルパフまでハリーを褒めちぎっている。それを悔しそうに睨むスリザリン生も度々、見かけた。

「クローディア、今日の試合、すごかったにえ」

 廊下で顔を合わせたエロイーズがクローディアと勝利の合いの手を求めてきた。応じて手を叩き合い、歓声を上げる。

「なんでエロイーズが喜んでいるさ。あんたらのチーム負けたのにさ」

「だってにえ、楽しかったんだもん。ハリー=ポッターがすごいプレイを見せてくれたから、皆嬉しかったよ。チームキャプテンが一番喜んでたにえ」

 屈託のない無邪気な笑顔でエロイーズは手を握り、ハリーに祈るような仕草を見せる。

「負けた試合が……楽しいさ」

 クローディアは小さな衝撃を受け入れ、破顔した。

「楽しめて良かったさ。エロイーズ」

「うん」

 途端にクローディアの腹から、豪快な空腹音が鳴りだした。

 腹を満たすのが先。

 大広間で自寮の席についたクローディアは、取り皿にスパゲティを盛りつける。その隣にジュリアが乱暴な態度で座り込んだ。

「ちょっと、クローディア。今日の試合でスネイプ先生が審判するって本当に知らなかったわけ?」

「知らないさ。そっちこそ、仲良しのフレッドとジョージに教えてもらわなかったさ?」

 口に麺を含ませてクローディアが言い返すと、ジュリアはバツが悪そうに押し黙る。気まずそうに頭を掻き、ジュリアは彼女の皿からスパゲティをひとつまみ味見した。

「ジョージったら、練習ばっかりで、全然、私と話してくれないし。私と仲が良いアリシアに聞いたけど、授業中もほとんど寝てるんですって。まっ、あなたが知らないんじゃ、仕方ないわね」」

 不貞腐れたジュリアは、自らに言い聞かせるように額を押さえてもたれかかる。何故だが、クローディアの食事が終わるまで離れようとしなかった。

 

 夕食を済ませたクローディアが大広間を出た時、廊下の向こうからハーマイオニーとロンが走ってきた。2人は彼女を見つけ、上機嫌に手を振る。

「あんたら、ご飯も食べずに何してたさ?」

「ハリーを探しているんだ。談話室でパーティーをしようって皆、大盛り上がりだぜ」

 待ちきれない様子で、ロンはその場をピョンピョン跳ねる。

「ところでさ。スネイプ先生が審判になったこと、いつ決まったさ?」

 その話題を振られ、ハーマイオニーはビクッと肩を痙攣させる。ロンは笑っていたが、やがてクローディアに教え抜かったと気付いたらしい。

「あの、ほら。オリバーが腹壊して入院したことがあったろ? その間に、フレッドとジョージがマダム・フーチから聞いたんだよ」

「それで、私達、スネイプ……先生がハリーに何もできないように『足縛りの呪文』の練習をしていたの」

「まあ、そんなとこだろうと思ったさ。怒ってないから、そんな悲しそうな顔をしないで欲しいさ。ロンは別さ、しっかり反省しろさ」

 ハーマイオニーとの扱いの差に抗議の姿勢を見せたロンだったが、急に笑顔を見せる。

「ハリー、何処にいたんだ!」

 待ち焦がれたロンは、両手を広げてハリーへ駆けだした。

 試合の勝利に浮かれても良いはずのハリーは、死刑を待つ囚人のように沈んでいた。

 そんなハリーの様子に何の疑問も抱かず、ロンは彼を誉め称えた。

「大事な話があるんだ」

 ロンの言葉を遮ったハリーは、重苦しく告げる。尋常ではないと感じたクローディアは、よくロジャーが女子生徒をナンパする時に使う教室に皆を案内した。此処には、幽霊おらず絵も飾られていない。

 扉がしっかりと閉まっていることを確認し、ハリーは3人を見渡した。

「僕らは正しかった。仕掛け扉にあるのは、『賢者の石』だったんだ。それを手に入れるのを手伝えって、スネイプがクィレルを脅していたんだ。フラッフィーを出し抜く方法は見つけたのかと、クィレルが『おかしなまやかし』をしたらしくて、それはどういうことかとか、誰の側につくのが賢明か考えろとか、クィレルは何のことかわからないって、協力を拒んでたよ」

 流石のロンも事の重大さに気付き、驚きのあまり悲鳴を上げそうになったのを堪えた。深刻さを十分理解しているハーマイオニーは既に恐怖しており、クローディアのローブを掴んでいる。

「本当にスネイプ先生なんださ」

 僅かに戦慄し、クローディアは腕組みをする。

「よし、校長先生に言うさ」

「え! なんで、そうなるの!?」

 信じられないとロンは声を上げる。

「スネイプ先生が石を狙うなら、私ら4人ではどうにもできないさ」

「前に君が言ったろ、状況証拠しかないんだ。相手にしてもらえないよ。それに僕らは石のことを知っちゃいけないんだ」

 引きつった声を上げ、ハリーは悲痛な顔で唇を噛む。ハーマイオニーも状況証拠という点が気がかりらしく、視線で彼に同意していた。自分達で解決したかったロンは、必死に知恵を絞っている。

 不意にクローディアは疑問が浮かぶ。

「そもそも、どうして石をこの学校に保管しようと思ったさ?」

「そりゃ、ホグワーツが一番、安全だからだよ。当たり前だろ!?」

 何に驚くべきかわからないロンは、眩暈を起こしそうにフラフラしている。

「けどさ、ここには、千人近くの生徒がいるさ。私達みたいに石に気づく生徒も出てくるさ。マルフォイが石のこと知ってみろさ。絶対、欲しがるさ」 

「そうか、そうよ、そこだわ。学校で保管するのは危険だって証明できれば、校長先生も私達の話を聞いてくれるはずよ」

「確かに、スネイプ……先生が狙っているって言っても、信じてくれる人は少ないだろうし。うん、ハグリッドに聞いてみよう」

「えと…よし! 時間を見つけてハグリッドに会おうってことでいいのかな?」

 それぞれが提案を口にし、よく理解していないロンは取りあえず賛成した。

「でも、クィレル先生がスネイプ……先生の脅しに屈したら、石が取られちゃうぜ。それまで持つかな?」

「そりゃあ、3日も持たないかもしれないけど、こっちも計画を練らないといけないわ」

 ロンとハーマイオニーの会話から、クローディアは奇妙な点を見つける。

「計画が……ない……」

 グリンゴッツ銀行の件、ハロウィンのトロールの件。この2つは同じ人物の仕業だと納得できる。それは、何処か行き当たりばったりで計画性に欠けているからだ。本当にスネイプならば、『魔法薬学』の授業のように綿密な計画を練り、時を計らって実行に移す。

〝おまえなら、誰を挑発していると思う?〟

 もう一度、コンラッドの言葉を思い返す。

 そして、新たな疑問が浮かぶ。もしも、スネイプが犯人でないなら、クィレルに対して何の協力を頼む必要があるのだろうかということだ。

(一度に考えるのは、やめようさ。何も全部が知りたいんじゃないんだからさ)

 クローディアの葛藤に似た自問は、誰にも気づかれることなく片付けられた。

 




閲覧ありがとうございました。
スネイプの箒姿は、きっとフラフラ。
●バーナード=マンチ
 ペネロピーと同級生がいればいいなあというオリキャラ。
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