こうして、私達は出会う(完結)   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。

スラグホーンの視点から始まります。

クローディアの杖について、もう少し説明が欲しいという意見を頂いてたので足しました。

追記:18年5月30日、誤字報告により修正しました。


13.分霊箱

 生徒は入学し、卒業していくのは毎年の恒例行事に過ぎない。その後、絶えず連絡を取り続けられるのは師弟間の信頼が関わってくる。

 スラグホーンのお気に入り達も師への敬いを忘れず、様々な贈り物を寄こしてくれる。そして、何の前触れのなく自宅を訪れる元生徒も多く、休暇中に帰宅している時は特に多い。

 その日も無警戒に訪問者を迎え入れる為、玄関の扉を開いた。

「こんにちはー、先生。俺です、ボニフェースです。あ、これ、お土産です」

 快活に笑うボニフェースは肩にリュックサックをかけ、オーク樽熟成の蜂蜜酒を渡してきた。

 土産を受け取らず、反射的に閉めようとした扉をボニフェースはあろうことか、蹴り破ったのだ。

「帰れ」

「良い家ですねー、外装も中も先生の趣味主観丸出し」

 家主を押しのけて、ズカズカと進みながらボニフェースは頼んでもいない感想を述べる。

「帰れと言っとるんじゃがな。ボニフェース=アロンダイト」

「先生、俺のフルネーム覚えてくれていたんですね、光栄です」

 案内もしていないのに客間へ行き、勝手にソファーへ座る。卓上へ蜂蜜酒を置いてから、ボニフェースは寛ぐ体勢になった。

 あまりの堂々とした態度に怒る気力も湧かない。

「君を忘れるには『忘却術呪文』でも使わんと無理じゃろう。二度とその面を見なくて良くなった喜びを返せ。……それで、何の用だね? 用件くらいは聞いてやるから、さっさと言いたまえ」

「いきなり、本題から入りますか。流石、先生。でも、後悔はさせませんよ。むしろ、研究者として先生は時間が足りないと嘆くかもしれません」

 悪態吐かれても物ともせず、ボニフェースは太陽のように明るく笑う。肩にかけたままのリュックサックから、型の古い培養器を取り出す。中身は溶液と共に封じられた手足の形にもなっていない胎児だ。

 スラグホーンはすぐに理解し、学術的興味が大いにそそられる。

「ほっほお、これは『ホムンクルス』じゃないか、君の家は錬金術とは無縁だったはず……どこで手に入れた?」

「俺ん家の婆……祖母の兄が錬金術師だったんです。その人の遺品です」

 スラグホーンは顔色を変えて興味津々に眺め、納得する。型が古いのは亡くなった当時のままだからだ。

 見ているだけで胎動が伝わる。

 

 ――欲しい。

 

 これに形を与えて成長して行く様を見たい。そんな衝動がスラグホーンの胸で爆ぜる。

「触ってもいいかね?」

「どうぞ、どうぞ。でも、気を付けて下さい。うっかり、落して割ったりしたら俺が消えてしまうんで」

 ボニフェースの言っている意味が分からず、培養器越しに彼を胡散臭そうに見る。

「これは俺です、先生。俺、『ホムンクルス』なんです」

 笑みもなく真剣そのものだ。

 故に、ボニフェースはついに頭がパーになってしまったと憐れんだ。

「スラグホーン先生、今、俺の事を頭がパーになったって思ったっしょ」

 こちらは本気で心配しているのに、ボニフェースは普段の笑顔に苛立ちを含める。そして、聞いてもいない『逆転時計』と共に過去へ遡ってきた男の話をした。

 真実なら狂気の沙汰だが、妄言とも思えぬ。現に証拠は目の前にある。

「『逆転時計』はコイツと一緒にグリンゴッツに預けてあるんです。俺名義の口座にね」

 本当に培養器の中身がボニフェースの過去ならば、彼の消え去ってしまう様子をこの目にしてみたい。そんな好奇心に知らずと口元が痙攣する。

「わしに、この『ホムンクルス』を調べさせてくれるんだろう?」

 兄ベンジャミンの未来が、何故にそんな危険を犯したかは理由はどうでもいい。

「残念ですが、俺が頼みたいのはコイツじゃありません」

 期待をよせるスラグホーンから、ボニフェースは笑顔のまま培養器を取り上げる。

「頼みたいのは俺自身です。俺に子供が出来るのか、その子は人間としての生態に異常が出ないか……それを調べて欲しいんです」

 スラグホーンは残念に思う。教職ですっかりご無沙汰になった研究にのめり込みたいが、生憎と時間が足りない。ただ、それだけで断る理由は存在しなかった。

 

 ――12年後、ボニフェースから息子が生まれたという連絡を受けた。感謝の言葉と共に臍の緒が同封されていた。

 正直、培養器の『ホムンクルス』が欲しかったが、それで我慢した。

 

 その培養器にいた『彼』は『彼女』として、コートを駆け巡っている。

「次は5班と4班の試合です。5班にはクローディアがいます」

 隣にいるハリーに誘われて来たが、試合のルールも知らずに見学している。独特のユニフォームを着て、黒髪を振り乱すクローディアを見ている内にスラグホーンは過去を振り返った。

 ボニフェースとは似ても似つかぬ容姿、その性格も違う。

 まさに別人だ。

 クローディアに形を与えたコンラッドの舅は羨む天才ではなく、恐ろしい鬼才。しかし、それさえどうでも良くなる程に彼女を美しいと感じた。

 ボニフェースも美しかった。黙っていれば美形なのに口を開けば、ただの阿呆。授業を何度も台無しにされたが、今でも忘れられぬ生徒の一人だ。

 リリー達のようにお気に入りではないが、大切な教え子だった。

「5班の勝利です」

 バーベッジに判決を貰い、クローディアは喜びを分かち合う為に仲間2人と抱き合う。汗だくなのに気にしていない。寧ろ、熱で汗が引いている。クィディッチのように公式試合として残らないのに、部員達は勝利に酔う。

 若さと情熱に当てられ、スラグホーンは我知らずと感嘆の息を吐く。

「クローディア、喜んでます」

「彼女の興奮がわしにも伝わってくるようじゃ、魂消たよ……」

 隣にいるリリーの忘れ形見は父親似の風貌だが、その瞳は母親と同じ緑だ。

「スラグホーン先生、お話があります。ここでは人目がありますので」

「では、わしの部屋に行こう」

 試合の興奮が冷めぬ内に片づけは始まり、ハリーの話を聞く為に部室を後にした。

 

 如何なる客人を招けるように部屋は常に整理整頓、上品かつ派手ではない調度品を飾り見る者を楽しませる。

 ソファーに座らせたハリーは家具には一切、目を向けない。余程、深刻な話をされると覚悟した。

「分霊箱(ホークラックス)について、トム=リドルに質問されましたね。彼とどんな話をしたのか、知りたいんです」

 興奮していた熱は一気に下がり、ゾッと寒気が走る。罪悪感が全身を駆け巡った。

 一瞬、コンラッドとクローディアの顔が浮かんだが、トム=リドルとの会話はダンブルドアに渡した『記憶』以外、知られようがない。

 拒絶するより先にハリーが勢いよく立ちあがる。

「先生、ハッキリ言います。皆が噂するように僕は『選ばれし者』です! 僕が奴を滅ぼすんです」

 衝撃の告白にスラグホーンは言葉が消えた。

 ハリーはヴォルデモートからの手から何度も生き残っている。世論はこれに対し、選ばれた者故の必然と説く声が多い。それを本人が認めた。

「ヴォルデモートはその事を知っています。だから、僕の命を狙いました。両親は僕を守ろうと命をかけました。先に……父が死にました」

「覚えているのかね? あの日の出来事を……」

 幼子でありながら、両親の死に立ち合っただけで酷い。しかも、その時の惨状を説明しようとしている。口を開くだけで、ハリーの顔は悲しみとは表現しきれぬ苦悶によって歪む。

「ヴォルデモートは父を殺し、その亡骸を跨いで母に迫ったんです。母は僕さえ置いていけば、逃げられた……けど、逃げなかった。逃げずに哀願し、僕の命を乞いました」

 リリーがそうする姿が目に浮かぶ。聡明で心優しい子が我が子を捨てて逃げるなどありえない。想像だけで恐怖と悲しみに涙が溢れてしまいそうだ。

 ハリーの瞳がスラグホーンを凝視している。まるで、リリーに責められているような感覚に襲われる。

「やめろ、そんな話をしても! わしは何も知らん! ダンブルドアが『記憶』を見せたなら、わしが何も知らんとわかるじゃろう!」

「知らなくていいんです! 忘れてくれていいんです。本当の『記憶』は僕が貰います」

 『記憶』が欲しいと言いながら、忘却を促す。ただの言葉遊びに聞こえ、スラグホーンの胸に少しだけ安心が生まれる。しかし、あの晩の会話を誰にも知られてしまう恐怖が勝る。

 トムの邪悪さを見抜けず、余計な知識を与えてしまった出来事をリリーの息子に知られたくないのだ。

「トム=リドルがヴォルデモートになった事に責任のようなモノを感じていらっしゃるなら、それは違います。最初から、そんな人間だなんて誰が見抜けましょうか? 奴に関わった多くの人々、ダンブルドア……ボニフェースも奴を止められなかった」

 唐突に出た名は拒絶の感情よりも、意外性が強かった。

「ボニフェース……彼も殺されたのだろう? あの人に……」

「いいえ、ボニフェースは自分を過去に運んできた男に殺された。ヴォルデモートは偶然、最期を看取った。それをベッロは勘違いした……」

 事実上、彼の兄であるベンジャミンに殺された。

「なんと……そんな惨い……」

 嘆きのあまり、スラグホーンは震えて口元を手で覆う。アグリッパだったベッロがヴォルデモートを憎んでいる事は言葉を交わさずとも、わかる。それは愛すべき主人を殺された恨みだと思っていた。

「ヴォルデモートは確かにボニフェースを愛していました。愛する人を失う痛みを知りながら、変わらなかったんです」

 ハリーの強い口調に同情など微塵もない。スラグホーンとて、決してヴォルデモートに同情しない。しかし、彼は逆らうには恐ろしい相手だ。

「先生、僕を助けてください。助けるだけでいいんです。僕を助けても、先生はいなくなったりしません。僕の両親……母のようには……」

 切ない声の訴えにスラグホーンは答えず、自然と手を動かす。

 ポケットから取り出し、棚から空いた試験管を呼び寄せる。杖をこめかめに当て、自らの『憂い』を糸のように抜き出し、試験管へと入れて蓋をした。

 その間、スラグホーンは何も考えていなかった。恐怖も勇気も、ただ手を動かしただけにすぎない。

 深刻な表情で待ち続けるハリーへ試験管を差し出した。

「ハリー、君の瞳はリリーと同じ……。その瞳で何を見ても、……悪く思わんでくれ」

 言い訳がましい言葉にも、ハリーはしっかりと頷く。その表情には感謝しか読み取れなかった。

 礼節を守り、ハリーは部屋を去る。

 一人なっても緊張は解けず、覚束ない足取りで立ち上がる。ダンブルドア、ハリーに真実を知られる。それは必ず、ヴォルデモートに伝わる。2人だけの秘密だと自分から持ちかけたのに、バラしてしまった。

 すぐに発とうと思い、杖を振って荷造りを始める。使い慣れた鞄を呼び寄せ、最低限の必需品を詰め込もうとした。

 足下に違和感を覚える。見下ろすと赤い蛇が鎌首をもたげてスラグホーンを見上げていた。

 気付かなかった客人に驚きのあまり声も出せず、手にしていた貴重品を落としてしまう。蛇は落した品を尻尾や口を器用に使って拾い集め、スラグホーンへ渡してきた。

「……すまんね」

 震える声で受け取った時、蛇は皺だらけの手に顔を寄せる。甘えているようにも見えるが、この蛇はスラグホーンにこんな行動は決してとらない。むしろ、いつも逃げ去っていた。

 懐いているような仕草の意味を直感で理解する。

「わしを……わたしを許してくれるのか、……アグリッパ……いや、ベッロ」

 贖罪から逃げ惑う愚かな自分を全ての人々に代わって、ベッロは許している。勝手な解釈に対し、彼は確かに頷いた。

 その動作だけでスラグホーンは心が救われる。ずっと抱えていた自業自得の苦しみがやっと、なくなった。

 

 ――逃げるのはやめよう、せめて、あの子達が卒業する日まで――

 

 誰に対してではなく、自分自身に誓った。

 

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 隠し事をせず、自分の本音を洗いざらいブチまける。そうする事でスラグホーンは納得してくれた。

 廊下を早歩きしながら、ハリーは成功を喜ぶ暇もない。校長室に着くまで、ポケットに忍ばせた試験管がいきなりなくならないか心配で堪らない。

 緊張が最高潮まで達した状態のせいか、意識も浮ついて現実味が薄い。

 校長室への合言葉を叫び、通してもらう。

 突如、現われたハリーにダンブルドアは目を丸くしていた。

「何事じゃ、ハリー?」

 手袋の裾を引っ張り、ダンブルドアは緊張の面持ちで椅子から立ち上がった。

 高揚したハリーは言葉よりも先に試験管を突き出す。

「て……手に入れました、スラグホーン先生の……」

 息絶え絶えにハリーは言い終えようとしたが、一瞬、ダンブルドアの目が据わる。そして、ニッコリと微笑んでから手で制した。

「ようやった、ハリー。君ならできると思うておった。すぐにでも見せてもらいたいが、……ワシは今から人と会わねばならん。約束に五月蠅い奴での。後回しにはできのんじゃ」

 残念そうに語るダンブルドアにハリーは激しい動悸を抑えようと深呼吸する。個人授業は、最も彼を支えてくれたロン、ハーマイオニー、クローディアの3人にしか教えない。名付け親のシリウスも例外ではなく、他には決して知られてはならないのだ。

 その客人に『記憶』を見るから、約束を後回しにしてくれなどとは言えない。

「はい……では、待ちます」

「すまんのう、客人が帰ればこちらから知らせるぞい」

 退室の挨拶をし、ハリーはすぐに寮へ戻る。部屋から『透明マント』を持ち、校長室前で待ち伏せる為だ。

「ハリー、今日のバスケを見て良い練習方法を思いつい……」

 声をかけてきたディーンも適当に振り払い、ハリーは談話室を出てからすぐに『透明マント』を被る。誰にも見つからぬように校長室の前で待機した。

 室内の様子はわからず、客人の到着も不明だ。すぐにでも『記憶』が知りたいハリーは待つしかない。何時間でも待つつもりだった。

 しかし、決意は徒労に終わる。校長室が開いて中から見慣れた人物が飛び出し、その人が客人だとすぐにわかった。

 トトだ。早足で去っていく彼に声をかける暇もなく、ただ凄しい怒りが伝わってくる。

 『透明マント』越しに校長室へと入り、中の様子を窺う。ダンブルドアは窓際に立つ。

「お入り、ハリー」

 穏やかな声はハリーを歓迎しており、安心して『透明マント』を脱ぐ。ダンブルドアはすぐにやってくると見抜いていたらしい。

「トトさんは怒っていました……僕が急かしたせいですか?」

「年寄りの間で意見が合わんことはいくらでもある。今のわしには君との授業が最優先事項じゃ」

 ダンブルドアは手袋を取って、手を差し出す。その手は『記憶』を求めている。ハリーは試験管を渡した。

 『記憶』の中は同じ部屋だが、以前とは違う雰囲気を感じ取れる。

 晩餐会に呼ばれた生徒達は後に『死喰い人』創設メンバーだ。この時から既にトム=リドルをリーダーとみなしており、言葉を交わさずとも彼の意思を汲み取れる程の忠誠心を持っていた。

 スラグホーンは優等生でかつ謙遜で驕らないトム=リドルをとにかく誉め称え、自分へのお土産を渡し続ければ、この先20年の内に魔法大臣に就任できると宣言していた。

 出自を理由に遠慮するトム=リドルを励ましてもいた。

 肝心の部分、『分霊箱(ホークラックス)』の話を一言も聞き洩らさず、聞き入る。

 魂の一部を隠す為に用いられる物。

 そもそも魂は完全な一体であり、魂の分断は自然に逆らう暴力行為だ。故に悪の極み、殺人を犯して魂を裂く。裂かれた魂は呪文によって『物』へと閉じ込める。

 スラグホーンは一言、一言、説明するだけで震え上がっている。トム=リドルは純粋に質問している風を装って更に質問を続けていった。

 魂は1個だけではなく、魔法数字として最も強い7個に分断すればより強力で確かな魔法として成立する。

 7回の殺人を仮定上とはいえ、口に出したトム=リドルにスラグホーンは困り果てる。そして、世間体だとか言い訳して、2人だけの約束とした。

 意識が校長室に戻った時、奇妙な興奮に首の後ろが熱を持つ。不死鳥のフォークスの鳴き声でハリーの気分は落ち着いた。

 ダンブルドアは既に椅子へ深く座って思考に耽る。机を挟んだ椅子へハリーも座った。

「トムの日記……スリザリンのロケット」

 やはり、この2つは『分霊箱』だ。

「おう、気づいたか……ハリー」

 聞かれているとは知らず、ハリーは急いで顔をあげる。

「トムは死を恐れておった。その死を回避する為、あるいは自らを不滅にせんと心力を注いだ……その為に『分霊箱』に行き着いたと理論立てておった」

「では、日記を見つけた時からヴォルデモートは『分霊箱』を作り……いくつも魂を分断していると気づいたんですか?」

 『秘密の部屋』で出会ったのは、ただの記憶ではなく、ヴォルデモートの魂……つまり、本人だった。

 今更、知りえた事実に緊張し胃が引っくり返りそうだ。

「4年前、君が持ってきてくれた日記を見てすぐに気づいたか? いいや、君の説明を聞き、確信を持ったにすぎぬ」

 椅子に座りなおし、ダンブルドアは机の引き出しから穴の空いたボロボロの冊子を取り出した。

 久しぶりに見る日記だった。

 こんなにも古臭く、ボロかったのかと変に感心してしまった。

「これはルシウス=マルフォイが所持しておった。それがそもそも疑問じゃった。大切な自分の魂の欠片を他人に任せるなど……扱いが粗雑すぎる。だから、わしは更なる理論を打ち立てた。奴は複数の『分霊箱』を作った……。しかし、確かな証拠はこの瞬間まで得られなかった」

「7つ……、ヴォルデモートは僕と変わらない年の頃から……魂を7つに分断しようと決めていた……」

 その為に殺人を厭わぬ。

「残りは5つ、いえ、ハッフルパフのカップ……あの指輪もそうだとしたら、後は3つ」

 思い付きを口にすれば、ダンブルドアは心底、嬉しそうに頷く。

「よくぞ、気づいてくれた。しかし、2つじゃ。7つ目は甦った体に宿っておる。どれだけ弱かろうとな。そして、君が破壊してくれた日記以外にも、2つも破壊されておる」

 既に半分も壊れている。ハリーは少し楽観的な気分になったが、ダンブルドアは少しも油断していない。

「……指輪は壊れていました。他のひとつとは? どこにあったんですか?」

「またしてもホグワーツ創設者の縁の品、レイブンクローの髪飾り。この学校で発見されてな。クローディアが意図せず、ぶっ壊してくれたんじゃ」

 予想だにしない名前を聞き、ハリーは椅子から転げ落ちる。冗談ではなく、急に体の力が抜けた。歴代校長の肖像画の住人達も彼につられ、椅子から落ちたりして騒がしい。

「……どうして彼女が……、どうやって?」

「クローディアは髪飾りからよからぬ気配を感じ、杖を叩きつけて破壊せしめた」

 そういえば、4年生の時に危険な髪飾りを壊した話を聞いた。

「杖で壊せる物なんですか? 日記の時はバジリスクの牙を……」

 質問してから、ハリーは思い付く。

「まさか、彼女の杖は『ニワトコの杖』? 『死の秘宝』は本当に存在していて、だからこそ『分霊箱』を壊せたんですか?」

 古いお伽話を持ち出すハリーにダンブルドアは感心の意味で驚きに目を見開く。白い鬚を撫でて、半月の眼鏡を指先で正した。

「残念だが、クローディアの杖は『ニワトコの杖』ではない。彼女の杖についてだが、誰にも話さんと誓っておくれ」

 つまり、彼女自身にも秘密、承諾したハリーは椅子に座り直す。肖像画の住人も沈黙して聞き耳を立てる。

「あの杖はニコラス=フラメルが彼女の為に誂えた特別な杖じゃ」

 ダンブルドアの友人にして、著名な錬金術師。

 まさか、ここでニコラスが関係してくるとは思わず、ハリーは僅かに興奮する。彼が杖に特別な魔法を施したが故に『分霊箱』を壊すに至れたと勝手に納得した。

「――と、クローディアは説明を受けておる」

 一段、ダンブルドアは深刻に口調を重くした。

「杖を作ったのはニコラスではなく、シギスマント=クロックフォードという魔法使いでの。彼らは師弟の関係にあった。しかし、シギスマントは問題を起こして破門された。破門の理由は関係ないので、省かせてもらおう」

 クローディアのオリジナルだ。隠しておかねばならない名ではないはずだが、『分霊箱』の話の後なだけに嫌な予感がした。

「気づいたか、ハリー。そう、あの杖はシギスマントの『分霊箱』であった」

 とんでもない事実にゾッと寒気がした。

「シギスマントは生前から、命を主とした研究に没頭しておった。錬金術もそのひとつ。晩年、『分霊箱』にも手を出し、自らを実験体としたんじゃ。彼は逝った後に残された『分霊箱』がどのような変化を遂げるか、もしくは変化した後の『分霊箱』は甦る事が出来るのかとな」

「……魔法族は死後、逝くか残るか選べる」

 以前、『灰色のレディ』が教えてくれた魔法族の死後。シギスマントにとって、己の死すら実験なのだ。

「『分霊箱』を作っていても、死ねるということですか?」

「明確に答えられん。じゃが、シギスマントは確かに逝っておる」

 ヴォルデモートとは違う恐怖を感じつつ、ハリーは視線で続きを促す。

「……ニコラスは事前に気付き、遺族を説得して杖を譲り受けた。この事は彼の弟子だったトトさえも知らん」

「だからって何故、そんな危険な物をクローディアに渡したんですか!?」

 我知らずと立ち上がったハリーをフォークスの鳴き声が宥める。

「ハリー、『記憶』でトムが疑問しておった通り、ひとつの『分霊箱』ではそれ程、役に立たなかった。放置された魂の欠片は本来の自分をなくし、やがて、最初から杖の一部であると誤解して一体化しもうた。こうなれば、ただの魔法使いの杖じゃ。例え、別人の手にあっても危害はなかったじゃろうて」

「……杖は安全なんですね」

 皮肉っぽく告げ、ハリーは眼鏡の真ん中を中指で押す。少し冷静になり、疑問を口にする。

「つまり、髪飾りを破壊できたのは『分霊箱』の魂がブツかり合ったからですか?」

「よく推理したのお。杖は自己を無くしてはいるが魂の欠片は健在じゃった。ブツかり合い、消滅したと考えておる」

逝くではなく、完全な滅び。

「では、『分霊箱』同士をブツければ破壊できるんですか?」

「限られた条件の下であれば、可能ではある。但し、一度きりじゃ。故にクローディアの杖では二度と『分霊箱』は破壊できぬ。君の『透明マント』を呼び寄せる事も二度と叶わんが、本来なら杖の形すら残らなかったであろう。今だに力を失っておらんのはニコラスの仕業じゃろうて」

 杖がなくても、クローディアは拳で『分霊箱』を殴りそうなのでそこを警戒しよう。しかし、また疑問が浮かぶ。

「僕の『透明マント』がどう関係してくるんでしょうか?」

 一瞬、ダンブルドアの目が泳ぐ。その態度に閃いた。

「……父さんが遺してくれた『透明マント』は本物?」

 御伽話でも父から子へと遺したとある。妙な歓喜が起こり、思わず笑みが零れる。ハリーの純粋に輝く笑顔にダンブルドアは安堵の息を吐いた。

「そうとも……君のマントは本物である。あのマントはわしらでも再現できぬ護りを持ち、如何なる方法でも傷つけられず、また魔法で呼び寄せる事も叶わんのじゃ」

 クローディアに呼び寄せて貰った事を何故、ダンブルドアが知っているのかは聞かないでおこう。この魔法使いはハリーが考える以上に生徒の事情を知っている。

「でも……杖の『分霊箱』では出来た。もし、僕がこの杖を『分霊箱』にしても、同じ力を持てるとは限らない」

 シギスマントにしても、予期せぬ効果だったのだろう。まるで彼の代弁のようにダンブルドアは頷いた。

「何故、ニコラス=フラメルもヴォルデモートが『分霊箱』を作っているとご存じだったのですか?」

「弟子の件があったからのう。可能性として疑っておった。杖をクローディアに託したのも、出会う事態を想定したからじゃ。あの子の安全の為にな。それだけは信じておくれ」

 思い出すのはクローディアが日記を持っている間、誘惑を受けなかった事だ。杖に宿る魂の欠片に気づき、警戒していたのかもしれない。

 魂をふたつに割いただけではヴォルデモートの望む力にはならない。だから、殺人を犯し続けて、7つにした。

「あいつはそうまでしても不滅になりたかったなら、『賢者の石』や『ホムンクルス』を創るなりしなかったのでしょう?」

 『賢者の石』から精製される『命の水』は確かな長寿を約束し、『ホムンクルス』は文字通り自分の分身だ。

「ヴォルデモートにとって、そもそも錬金術は『分霊箱』に比べれば魅力的ではなかったといえる。『賢者の石』、つまり『命の水』は生命の延長であり、定期的に摂取せねばならない。奴は自分ひとりで事を成したがる性故に、他への依存は持っての他じゃ。5年前に求めた時は、ゴーストにすら劣る存在まで堕ち、肉体を取り戻す為に仕方なかったと言えよう。では、万一に備えて『ホムンクルス』を作らなかったのは何故か? それは割に合わんからじゃ」

 自尊心や誇示などの感情論とは違い、曖昧な理由に疑問が大きくなる。

「……割に合わないとは? 作るだけの価値がなかったということですか? ボニフェースもクローディアも人間と何も変わりませんのに」

 この2人が同一人物だと言われても、信じられない程に他人だ。もしや、『ホムンクルス』自身に自意識が芽生えた場合、余計な争いになるとでも考えたかもしれない。

「2人が人間としての機能に何の問題がないのは、トトが手掛けたからに過ぎん。『ホムンクルス』は語源となったフラスコの住人であり、その身は小さくフラスコのような場からは出られん。しかも、生成までに長い歳月と費用がかかる。それだけかかって生成できても、オリジナルどころか生物として劣る。それならば、後継者を教育したほうが手っ取り早い。じゃが、ヴォルデモートは後継ぎなどいらん」

 ヴォルデモートが欲しいのは、不滅の命。自分の分身ではない。

「スリザリン、ハッフルパフ、レイブンクローの縁の品を手にしたけど、グリフィンドールの剣はそこにあります。あの日、あいつが学校に来たのは剣を求めて来たんでしょうか? それとも、先生も知らぬ縁の品を手に入れたのでしょうか?」

「わしもそう思う」

 ダンブルドアは硝子ケースに飾られた剣に目もくれず、続ける。

「じゃが、結局して奴はグリフィンドールの品は得られなかったように思える」

「なら……あいつの杖は?」

 不死鳥の尾羽を芯にした兄弟杖。ヴォルデモートが魂を閉じ込めるには十分な価値を感じるはずだ。

「そうは思わぬ。シギスマントのような真似をせぬじゃろう。6番目には蛇のナギニを例としておる」

「……あの蛇、動物が『分霊箱』ですか? 危険じゃないですか?」

 別の意思を宿す動物では、お互いの命が危険な気がする。クィレルがそうだった。彼はユニコーンの血を飲んではいたものの、ヴォルデモートという別人格を体に宿した為に弱っていた。

 今振り返れば、そう思う。

「確かに賢明とは言えぬ。君を殺そうとご両親の家を襲った時、まだ5個だったと計算しておる」

「……その根拠は?」

 不躾な言い方になってしまったが、ダンブルドアは気にしない。

「ヴォルデモートは己にとって重大な者の死を用いて『分霊箱』を作っておった。自分を滅ぼす君の存在がまさにそうじゃ。予言に打ち勝ち、自らの無敵を確信した時に目標を達成するつもりじゃった。知っての通り、あやつはしくじった」

「……もし、作る機会があったのなら……バーサ=ジョーキンズ、いえ、マグルのフランク=ブライスを殺した時ですか? その時、人の姿をしていなかったヴォルデモートの傍にナギニはいました」

 ダンブルドアよりも先に野次馬の肖像画が小声で騒がしくなる。

「おそらくではあるが、作るとするならばその時で間違いあるまい。ナギニはスリザリンとのつながりを際立たせるし、ヴォルデモートとしての神秘的な雰囲気を高められる。ヴォルデモートにとってナギニは特別でろう。あやつが今、自分以外の誰か好きになるとすれば、ナギニじゃろう」

 何故だろうか、ナギニは直感で雌と判断した。

 今は関係ないので、そこには触れずハリーは疑問に思った事をひとつずつ、質問する。

 『分霊箱』の破壊はヴォルデモートに伝わらない。長く本体から切り離され、感じられないのだ。

 ルシウス=マルフォイから知らされるまで、日記の破壊に全く気付かなかった。しかも、魂の一部だと知らなかった為に起こした4年前の事件。先日の魔法省の失態もあって、ヴォルデモートは怒りと共に失望したという。

「日記が破壊されたから、他の魂を本体に戻そうとはしないのでしょうか?」

「おお、よう気づいたのう。それは絶対にないと断言しようぞ。何故なら、ホークラックスで裂かれた魂を元に戻す方法は、ひとつ。後悔じゃよ。罪への後悔、これによって魂は戻る。その代償として耐えがたい苦痛に見舞われるそうじゃ。ヴォルデモートは後悔はせんし、それによる痛みを受け止められはせん」

 ヴォルデモートは後悔などしない。

 ボニフェースへの悼みを拒絶した時より、確かな感情で否定する。だが、埋葬はした。

「あの場所に……『分霊箱』があるかもしれません」

「あの場所とな?」

 知らずと呟き、ハリーはヴォルデモートがボニフェースを喪した夢を丁寧に説明する。見たことのない川原に魔法で生えらせた木、包まれた死体。

 情景を更に詳しく説明しようとしたが、ダンブルドアの碧い瞳に覗きこまれて言葉が止まった。

「今日はここまでじゃ、ハリー。そろそろ、腹も減るころじゃろうて」

 指摘された瞬間、ハリーの腹が豪快に鳴った。

「まだボニフェースの話を聞いていません」

「ハリー、今日は十分に語りつくした。次を急いてはならぬ。ハリーの意識が良くても、体のほうは疲れを訴えておる」

 もう一度、腹の虫が鳴った。

 渋々、続きを諦めてハリーは校長室を後にした。

 今日の分の考えを纏めながら、腹の音は鳴り続ける。

「ハリー=ポッター、食事は大事だよ。惑星が教えずとも、我々が教える」

 フィレンツェに心配された。

 恥ずかしがる暇はなく、ハリーは残る気力を持って走る。大勢のいる広間より、厨房でドビーにお願いしてもらおうと考えた。

「ハリー、ちょうど良かった。ディーン達とクィディッチの練習について話したのよ」

 厨房への曲がり角でジニ―に出くわす。その手にはいくつものカップケーキやクッキーがどっさり乗せられた籠を抱えていた。

「午後のティータイムに洒落込もうと思ってね、厨房から分けて貰ったの」

 芳しい香りはお菓子からではなく、ジニ―の髪や肌から匂ってくる。空腹を抑え、心臓の高鳴りを強く感じた。

「ハリー、お腹空いているのね。一口、食べる?」

 ジニ―の笑顔に魅せられている。

 そう自覚した時、ハリーはクッキーを持った滑らかな手ではなく、ジニ―の唇を啄む。突然の行動だが、彼女は抵抗しなかった。

 一瞬より長く、一分より短い時間。

 食欲ではない幸福に満たされ、ハリーはジニ―から唇を離した。

「ちょっくら、ごめんよ」

 その声で一気に現実へ戻され、ハリーの背に冷たい汗が流れる。ジニ―の後ろから現われたロンが籠から、カップケーキを取り出した。

「食べる?」

 無表情のロンから、眼前に差し出されたカップケーキをハリーは無言で断った。

 

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 班分けの際、デニスと分けられた時から決戦相手は彼の班になると予想はしていた。

 クローディアは年齢分の経験があり、デニスは持ち前の技術が優れている。されど、試合は1対1ではない。仲間との連携を必要とするチーム戦だ。

 1ピリオド、8分で興奮した全神経の細胞を次までに保たせる。それを4ピリオド、深呼吸しただけで終わる一瞬の休憩はチーム内でも口も動かせず、視線でお互いの動きを把握する。

 最後は4班より点数を稼いだ状態でゴールを死守し、制限時間を過ぎて勝利した。

 こちらから攻めて、点差を広げたかったがミムの守りは固く、ジニ―とデニスの攻めは鋭かった。

 これが公式戦で尚且つ、制限時間が多ければ負けていただろう。だが、今は勝利を純粋に喜ぶ。泣きながら喜ぶハンナを抱きしめ、シェーマスとハイタッチする。

 トーナメント試合を終え、バーベッジの号令を待たずに部員は自然と整列する。

「皆さん、自分の実力を出し切れましたね。お顔を見ればわかります。勝利した班は素直に喜べます。望む結果を得られなかった班は悔しさで次こそはと目標を持てたことでしょう。今日までの試合をやり切って下さった事を感謝いたします」

 バーベッジの言葉に感嘆を覚え、クローディアは目尻に浮かんだ涙を瞬きで拭う。部長としての挨拶を促され、残った観客へと仰いだ。

「ご見学ありがとうございます。部活はこれから続きます。皆さんも一緒に是非、ご参加下さい」

 生徒や教職員、幽霊から声援と拍手が送られた。

 その中に試合開始にはいたはずのハリーとスラグホーンはいなくなっていた。

「次は面子を変えてトーナメントしよう。ハンナ、俺と組もうぜ」

「折角、感動して泣いてたのに……」

 コーマックからの誘いをハンナは謹んで遠慮した。

「せめて戦力を見ろよ」

「見直しかけてたのに」

「最近、モテてきたから調子乗っている?」

 クレメンスとミム、ジャックからの小突かれ、コーマックは涙目でわざとらしく頬を膨らませた。

 コリンに記念の1枚を撮ってもらい、部内の片付けに入った。

「ハリーは上手く行ったかな?」

 片付けに混ざったロンに聞かれ、クローディアは正直に答える。

「勿論、ハリーは上手くやるさ」

 

 試合の後は消耗した体力を取り戻す。まだ部活し足りないモラグを引っ張り、部員は大広間へ直行する。厨房の『屋敷妖精』達に感謝しつつ、寮席へ現れる料理に見境なく手を出した。

「お行儀が悪いですぞ、ミス・クロックフォード」

 クローディアの後頭部だけがスネイプから書物で叩かれる。普段なら避けたが、今日は気分が良いので叩かれて差し上げる。そんな彼女の心情を察し、黒衣の教授から、もう一発貰った。

「ベッロがいないよ、どこ行ったかな?」

 暴食を終え、カボチャジュースを啜りながらルーナは周囲を見渡す。

「ベッロは試合前からいなかったわ。きっと、いつもの散歩よ」

 当たり前のようにクローディアの隣にいるハーマイオニーが答えても、ルーナは納得しない。ゆっくりとした動作で立ち上がり、夢遊病のように歩き出した。

 わざわざベッロを探しに行く。そのルーナの行動に意味を感じ、クローディアも彼女に着いて行く。

「私も行くわ。ちょっと、待って」

 ニシンパイを無理やり口に突っ込み、ハーマイオニーも追いかけてきた。

 地下教室、温室、図書館とルーナはベッロの行きそうな場所をフラフラとした足取りで彷徨う。彼女が独りでいたら、夢遊病で徘徊しているように見えるだろう。そんな歩き方だ。

「よくよく考えたら、ベッロだけの場所があってもおかしくないさ。使い魔だけの集会所とかさ」

「使い魔の集会所!? いいわね、それ。きっと、主人について語り合っているのね。クルックシャンンクスも私がどれだけ可愛がっているか、自慢してくれるわ」

 ハーマイオニーが自信満々に言ってのけた一瞬、ルーナが派手に転ぶ。吃驚してよく見れば、足下に蹲っている人影に彼女は躓いたのだ。

「ルーナ、大丈夫って……トンクス!? 何しているさ?」

「はーい、クローディア。ハーマイオニーも一緒だね、君、大丈夫? ごめんね、隠れてた」

 隠れていたのは本当だろう。トンクスは普段の派手な髪色ではなく黒、服装も地味だ。

「ルーナ、この人は……トンクス。ずっと学校を守ってくれている闇払いさ。トンクス、この子はルーナ、頼りになる友達さ」

「知っている。君のお父さんにはお世話になったし、君自身もクローディア達と戦ってくれた。ちゃんと挨拶してないね、よろしく」

 トンクスに挨拶され、ルーナは普段のように瞬きせずに握手した。

「校長先生に会いに来たんだ?」

 唐突な発言だが、この廊下を曲がれば確かに校長室だ。

「ううん、トトが来ているから気になって」

 トンクスはルーナの質問に素直に答え、クローディアとハーマイオニーが驚いた。

「お祖父ちゃんが校長先生と話しているさ?」

「それはわからないけど、何度も来ている。クローディアは何か聞いている?」

 トトが何度も学校に足を運んでいると今知ったのに、話の内容も何も聞かされていない。

「お祖父ちゃん達が何を話しているも、それは私達が知らなくても良い事さ」

 不安はあるが、不満はない。本心を述べるクローディアにトンクスは不満げだったが、一応納得した。

「応ともよ。年寄りの愚行など、若人は詮なき事ぞ」

 足音や気配もなく、トトはトンクスの後ろに立つ。彼の存在を認識した途端、激しい怒りを肌で感じ取った。

 ルーナはさり気無く、クローディアの後ろに隠れたがる程、トトは怒っている。

「トト、何か悪い報せがあったの?」

「今のワシには全てが悪い報せじゃ。トンクスが勝手に城内をうろつくのもな。持ち場に戻っておれ」

 トトはこの場にいる誰も見ていない。まるで怒りの矛先は視界の外にいる様子だ。

「トンクスはお祖父ちゃんが何か重要な事を報せに来たと思っただけさ」

「いいの、クローディア。私は戻るから、ハーマイオニー、ルーナ。私がここにいた事は内緒ね」

 しっかりとした態度でトンクスは消える。消え方から、『目くらましの術』の類だと推測した。その証拠に気配が遠ざかって行くのを感じた。

〔来織、ダンブルドアとハリーに何をさせているか、知っておるか?〕

 日本語で話しかけられ、クローディアは視線をトトから離さずにルーナを意識した。ダンブルドアが知る限りのヴォルデモートに関する情報をハリーに伝える。2人だけの授業内容は絶対に知られてはいけない。

 クローディアとハーマイオニーが知るのは、ダンブルドアが許したからだ。

〔ハリーが何をさせられていても、それはお祖父ちゃんが知らなくていい事さ〕

 トンクスとほぼ同じ答えを返す。

〔それでは困る!!〕

 一喝。

 荒々しく叫ばれ、ハーマイオニーとルーナは怯えて肩を痙攣させた。

 こんな怒り方は珍しい。トトは激怒しても、年配ならではの心の余裕がある。それが今は一切ない。彼は焦っているのだ。

 聞き取れない程、トトは小さく呟く。そして、誰にも目もくれず去ってしまった。

「ブルガリア語だったわ」

 委縮していたハーマイオニーが落ち着きを取り戻し、そう囁いた。

「……ブルガリア語? お祖父ちゃんがブルガリア語を言ったさ? ああ、そうか、お祖父ちゃんは話せるさ」

 すっかり忘れていたが、トトはダームストラング専門学校出身者だ。学校の場所は知らないが、ブルガリア語を公用語としている。

 そして、ハーマイオニーはビクトールと文通していた。彼の為にブルガリア語を勉強しているのだろう。

「なんて言った?」

 ルーナの質問にハーマイオニーは口元を押さえて躊躇う。

「……自分にも考えがある……多分、そういう意味だと思うわ」

 ハーマイオニーにとって、今のトトは後見人だ。この学校にいる多くのマグル生まれの生徒も請け負っている。そんな彼が今になって、ダンブルドアへの不信感から袂を分かつ事などあるはずもない。

 しかし、今日の態度から不安だ。

 ダンブルドアに報告しようと校長室へ行こうとすれば、急にルーナが反対方向へと走り出す。彼女の視線の先には、ベッロが呑気に這っている。だが、切羽詰った様子で迫られて今まで見た事ない速さで逃げ出した。

 クローディアとハーマイオニーも急いでルーナを追いかける。この追いかけっこに相当な時間を取られ、気づけば夕食の時間になっていた。

 昼間の試合を楽しんだ喜びは束の間、午後は無駄に疲れた。

 大広間の二重扉にて、ハリーと会う。彼もげっそりとした顔つきで疲弊していた。

「トトさん、来てたよ。僕は会わなかったけど、凄く怒っていた。ダンブルドアは意見が合わない事があるって」

 それだけ告げ、ハリーはグリフィンドール席へと向かう。つまり、彼は首尾よくスラグホーンから『記憶』を貰い、ダンブルドアへ渡した。

 労いはまた今度にする。

 教職員席にダンブルドアとスラグホーンはいる。正直、『魔法薬学』の教授は『分霊箱』の話に触れられ、姿を消すと思っていた。早々の別れとならなくて良かった。

「クローディア、お祖父様の事は伏せて置きましょう。横槍を入れて悪化させたくないし、私達がお2人を仲裁するには情報も時間も足りないわ」

 ハーマイオニーに耳打ちされ、クローディアは教職員席へ向かいかけた足を止めた。

 トトが無意識に呟いた言葉をわざわざ伝え、いらぬ諍いを生んではいけない。ハーマイオニーに感謝し、クローディアはレイブンクロー席に座った。

「ウィーズリーって、ズルイわ」

 偶々、隣に座っていたサリーに話題を振られて反応に困る。聞こえなかったと判断し、彼女はもう一度、クローディアへ迫る。

「ウィーズリー兄妹はズルイ!」

「二度も言わなくていいさ。何さ、いきなり」

 この時間まで良くも悪くも色々とありすぎ、クローディアは適当にサリーをあしらう。

「ハリーったら、ジニ―とキスしたのよ。ハンナが見ちゃったって!」

 クローディアは口に含んだカボチャジュースを吹き出し、反対隣りにいたテリーにかかった。

「俺のアメフト部がそんなに嫌か?」

 拗れたテリーの誤解を解くのに時間がかかり、サリーから真相は聞けなかった。

 




閲覧ありがとうございました。

錬金術は等価交換。ですが、実に割に合わない。
ニコラスがオリバンダーに本当のことを教えているなんて事はなかった…。

映画版のロンの名台詞「食べる?」は大好きです。
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