長く間が空いてしまいすみません。
お気に入りがついに1000件を超えました。ありがとうございます。
グリフィンドールのクィディッチチーム内はこれまでになく、緊迫している。ハッフルパフとの試合ではなく、個人的ないざこざだ。
ただでさえ、今のメンバーはハリーの依怙贔屓を疑われていた。
それがジニーの関係により、疑いは強まり選考から外れた生徒たちからの苦情が相次いだ。
更にロンは妹の恋愛を認めず、元彼のディーンまで不満を露にした。
「ロン、俺がキーパー交代してやるよ」
コーマックのようにからかってくる生徒も多く、それでも辞退を申し出る選手はいなかった。
しかし、私情でギスギスした人間関係によりチームワークは崩壊し、ハッフルパフとの試合に敗れた。
クローディアは他人事ながら、ハリー達の私情に同情する。慰めには行かない。寧ろ、彼から試合結果がそうなろうと今日は話しかけないようにお願いされていた。
「ルーナの実況、おもしろかった! マクゴナガル先生との掛け合いとか……ぷぷ」
「からかってないけど、からかっているね」
「馬鹿にはしてないよ。いいじゃん、あんなに楽しそうにしてんだから」
誰の推薦かは定かではないが、今回の試合になんとルーナ。彼女は素人同然の知識のまま、それを隠さずに実況をやり遂げた。
マンディは余程、笑いのツボを刺激されたらしく、試合が終わっても笑い続けている。あまりに笑うので、ルーナは彼女に対し不信感を抱き、珍しくシーサーが宥めた。
クローディアはマンディの気持ちがわかる。ルーナとマクゴナガルの実況と解説はボケとツッコミの漫才に聞こえ、おもしろい。たが、この場の誰にも共感して貰えない為に黙っておく。
「クィディッチに慣れていない生徒には、ルーナは代弁者でしたわ。次回も是非、お願いしますわ」
「うん、いいよ。マグナガル先生、わかならない事を教えてくれるもン」
リサがルーナに頼んだ頃、ようやく謎かけドアノッカーの順番が回ってきた。
そこには先に戻っていたレイブンクローのチームメンバーが暖炉を占領して話し合う。こんな場所なので、他の生徒も興味津々に堂々と盗み聞く。
「一点差か……。クレメンス、なんでハリーをコテンパンにしてくれないんだ……」
「他力本願か!」
まるで自らの敗北のようにエディは表情を険しくし、マーカスは茶々を入れるように呆れた。
「そう責めないでやって、エディは練習時間が削られたから、苛立ってんの」
ミムがやれやれと肩を竦める。
「練習時間が削られたって……、補習さ?」
「違う! 6月のグリフィンドールとの試合が5月に繰り上げられたんだ! ああ、もう僕の予定が台無し!!」
クローディアの疑問にエディは髪を乱暴に掻きながら、喚いた。
「他の試合と入れ替えた?」
「残りの試合の3試合を全部ズラすんです」
テリーの質問にネイサンが答える。
「私達7年生の為よ。N・E・W・T試験を終えたら、すぐにでも学校を発たせたいってわけ」
マリエッタの説明に何人かの7年生が同意して頷く。
「試験の結果はどうなるんだ? 就職にも影響するだろ?」
「試験を終えて、その場で通知。もう職場への手配を済ませている人もいるわ。勿論、結果が悪ければ就職はお流れになるけど」
マイケルの質問にチョウが答え、「げっ」と呻く声がモラグから上がった。
つまり、ここにいる7年生との別れは早まるのだ。
胸を過ぎる寂しさは、いつまでも慣れない。
「マリエッタ、魔法省に行ったらクララによろしくさ」
「なんで、どいつもこいつも私が魔法省入りすると思ってんの!?」
半分、冗談のつもりでマリエッタの肩を叩く。そんなクローディアに彼女は半ギレで返した。
またこの騒動は生徒だけでなく教職員にも伝わり、ハリーは遠回しの祝福を貰い続けてゲッソリした。
「ハリーに恋人が出来て寂しいかね?」
『魔法薬学』の後、スラグホーンに呼び止められたかと思えば、奇妙な質問を受けた。
「ハリーには幸せになって欲しいです。今の関心はベアゾール石です」
授業内容は解毒薬。
スラグホーンの机に置かれた毒薬に対する解毒薬を調合するという課題に、ハリーはベアゾール石を何の加工もせずにそのまま差し出した。
確かに石そのものが解毒薬である為、スラグホーンは称賛の嵐だ。
調合に捉われ過ぎて、クローディアとハーマイオニーも思いつかなかった。
「3年生の時、スネイプ先生とベアゾール石の事で嫌な思い出がありまして」
「セブルスは私の目から見ても、君にはちと厳しい。コンラッドへの怒りを君にぶつけているかもしれんな。……あの時、セブルスは死ぬ程、心配しておった……」
ただの世間話のつもりがスラグホーンは急に哀愁漂う笑みを浮かべた。
あの時とは、コンラッドの失踪だ。
近頃のスラグホーンは感傷的な話をしてくれる。以前はただの研究対象のように接していたのがよくわかった。
「先生もお父さんを心配してくれました?」
「心配じゃったとも、ただボニフェースの居所を掴んで雲隠れしたのかとも思ったからのう。まさか、嫁さん家におったと聞いた時は魂消た魂消た……ところで、本当にハリーの事は良いのかね?」
強引にハリーの話を持ってくる。誤魔化していても、スラグホーンの野次馬根性は消えない。
「ハリーは友達ですよ、ずっと。それに私にはロンの兄ジョージとの婚約があります」
正直に告げた瞬間、スラグホーンは文字通りひっくり返る。見事な転げ方に驚き、クローディアは鞄を落としかけた。
「おのれ、アルバス! そんなおもしろい話を何故、わしにせんのだ! すると何かね、ウィーズリー兄妹は君達3人を見事に射止めたと!? ほっほお、こんな素晴らしい事が!」
興奮しながら起き上ったスラグホーンは杖を振る。『呼び寄せ呪文』にて、一本の酒瓶を呼び寄せた。
まさか、ここで乾杯する気かと思い様子を見る。
「オーク樽熟成の蜂蜜酒、これが美味いのなんの。本当は来年のクリスマスにでも贈るつもりじゃったが、渡し時は幸せ一杯の今しかあるまい」
差し出された酒瓶がクローディアへの贈り物だと知り、驚きすぎて言葉もない。
「え……でも、私が先生から贈り物を貰う謂われは……、そもそも……マグル法ではまだ未成年……」
「何を言っておる。マグル法での成人は18歳からだろうに、さてはわしが魔法族じゃから、からかっておるのか?」
すっかり忘れていたカルチャーショック。
この国にいるなら、クローディアは法的にも飲酒できる。しかし、15歳のクリスマスに酒を煽った際、記憶が飛ぶ泥酔した経験があるのだ。
「それに今すぐ飲めとは言わん。受け取るだけ、受け取っておくれ」
「……有り難く頂戴致します。お礼はまた後日」
必死に頭を下げながら、クローディアは酒を受け取る。ローブの下に隠して教室を出た。
「遅いじゃない。一体、どんな込み入った話を……そのローブの下にある物は何?」
ハーマイオニーに咎められ、クローディアは素直にチラッと酒瓶を見せる。
「没収」
鞄を開き、ハーマイオニーは迷わず監督生として命じる。鞄は毎日のように使い込まれ、取っ手の部分や角がすり減っている。3年生の時に贈ったクローディアお手製をここまで使い込んで貰えて嬉く思う。
「クローディア」
催促され、クローディアは逆らわずに鞄へ入れる。いくら成人しても、酒の所持は生徒として禁止だ。
――その様子をドラコは見ていたが、クローディアは気にしなかった。
ハリーとジニーの話題は2月に入り、『姿現わし』の練習が始まれば一応、治まる。今回の指導官はクローディアの時と同様にトワイクロス指導官だった。
夕食は指導内容の話題で持ち切りだ。
「ザカリアス=スミスが『バラけ』てしまいましたわ。すぐに先生方に治して貰えましたが、すごく見ていて怖かったです」
皆が浮足立って盛り上がる中、リサのように『姿現わし』の失敗を恐れる生徒もいた。
クローディアは無意識に脚へと触れる。
「ウィーズリーはズルイ、ウィーズリーはズルイ」
唐突にサリーが歌いながら、クローディアの周囲をうろつく。そのせいで感傷に浸れなかった。
「サリー、そういう不満は本人に言って欲しいさ」
「やあよお。ジニーの魔法はスラグホーン先生のお墨付きなんだから、後が怖いわ。それに教官、好みじゃなかったわ」
だからといって、クローディアに八つ当たりしないで欲しい。
「リサ、サリー。手を貸してくれない? パーバティが『占い学』に手こずっているの」
パドマの要請を快く引き受け、リサとサリーはグリフィンドール席のパーバティーへと助太刀に向かう。ようやく解放された。
「そんなに難しい内容さ?」
「……難しいって言うか、個性的って言うか、統一感がないというか……。パーバティに言わせれば、トレローニー先生のやり方だって……、それでも内容も量も無茶苦茶よ。あの子ったら、将来も考えずに教科を選択するから……」
「最近、トレローニー先生は機嫌が悪い」
ボソッと呟いて話に入ってきたのは、セシル。彼女は昨年度まで『占い学』を選択していた。
「さっきまで、グリフィンドールのラベンダーから頼まれて宿題を手伝ってた。あの宿題の出し方は機嫌が悪い時……、やめておいてよかった」
「セシルに同意するわ。機嫌の善し悪しであんな課題の出し方を出すなんて、時間と労力の無駄。こりゃあ、フィレンツェ先生に人気が偏るはずね」
パドマの不満を聞いていると近寄ってくる羽音に気づき、コッペパンを片手に上げる。カサブランカが慣れたように手紙を渡し、パンを取る。久しぶりに見たフクロウは忙しなくパンを貪り、さっさと大広間から飛び去った。
(5回目にしてようやく、返事が来たさ)
コンラッドへ宛てた手紙、一週間経っても返事がなければ再度出し続けた。
【私から話す事はない】
自分の名すら書かず、素気ない。それだけコンラッドの決意を感じ取った。
(そっちがその気なら、警告通りに私から話すだけさ)
手紙を燃やし、クローディアは教職員席を見やる。そこにスネイプはいない。ならば、地下だ。
ハーマイオニーに声をかけようとグリフィンドール席へ振り返る。
「良くないよ」
耳に届いたルーナの声に不思議と周囲の音が消えたような錯覚に陥る。彼女はクローディアから離れた席に座り、こちらを見つめる眼差しは瞬きをしない。
(良くないって……私がこれからしようとする事が……?)
ルーナの位置から手紙が見えていたはずはない。クローディアが席を立とうする様子は察しただろう。見開かれた瞳は顔を動かさず、横を見た。
クローディアもルーナに倣い、頭を動かさずに視界を動かす。二重扉にもたれているドラコがこちらを睨んでいた。
普段の監視する視線とは違う。確かに睨んでいた。
(そうか……、手紙を)
灰となって消えた手紙、これがドラコに強い関心を向けてしまう。こんな状態で個人的にスネイプと会うのは危険だ。
必ず尾行され、大事な話を盗み聞かれる。
今は動いてはいけない。そう判断し、ルーナへ視線を向ける。彼女はクローディアの心情を察したらしく、バナナグレープに食らい尽いていた。
(私の授業がない時間……、いや、スネイプ先生は授業あるし……土日は……)
背中にドラコの視線を感じつつ、まだトレローニーを批判し続けるパドマの話に耳を傾けて過ごした。
就寝時間。
パドマとリサの寝息を聞きながら、クローディアは『忍びの地図』を眺める。ハリーから渋々ではあるものの、承諾を得て借りた。
スネイプはダンブルドアに呼ばれてか、校長室にいる。ドラコはスリザリン寮にて、クラップとゴイルが傍にいる事から自室だ。
他の人々の名を目で追い、クリーチャー達の名がない事について考える。製作者である4人が『屋敷妖精』を知らなかったとは考えにくい。ならば、100人もの名を追加するのが手間だったかとは言えば、おそらく違う。
4年生までクローディアは学校に『屋敷妖精』がいるとは知らず、彼らは生徒に気づかれぬように隠密行動を徹底している。そして、【ホグワーツの歴史】にもその事は記載されていなかった。
ドビーは人が使っている最中の『秘密の部屋』に入れた。
つまり、彼ら妖精は生徒に認識されないように地図へ写る事を拒否したか、どうやっても写せなかった。
ここまで勝手な憶測を立てたが、あながち的外れではない確信があった。
「もしかして……ドビー達はケタ違いどころか、次元の違う種族なんじゃあ……」
驚愕して呟いた時、キュリーに寝巻の裾を引っ張られる。地図のスネイプの名が校長室を出る。彼は独りだ。
「‐イタズラ完了‐」
杖で叩いた地図はベッロに渡す。キュリーを連れ、クローディアは影へと変じた。
夜の徘徊にキュリーを選んだのは、ベッロやクルックシャンクスではすぐにクローディアの関与を疑われる。ピーブズなど特に絡んでくる。その為に品性方向なリサの猫を借りた。
減点覚悟で地下教室へと急ぐ。今では『闇払い』もいる学校内にて、彼は教師として巡回を装って遠回りに地下へ帰るはずだ。
ドラコを警戒しなくて良い時間は、今だけだ。
罰則は覚悟の上、寮への減点は心の中で皆に詫びる。研究室へメモ用紙を置く案も考えたが、誰かに盗られては困る。
それに何より、手紙が今日届いたなら、きちんと話が出来るのは今日しかない。そんな勘が働いた。
先に着いたのは、クローディア達だ。確実に目に入る場所でキュリーに待機してもらう。スネイプの足音が近づいたかと思えば、鎖を引き摺るような音もやってきた。
(スネイプ先生、荷物でも持ってきているさ?)
そんな考えは外れ、『血みどろ男爵』と一緒だ。男爵の体に巻かれた鎖の音だった。
キュリーは毛を逆立て、威嚇の姿勢になる。しかし、男爵が見える位置まで階段を降りてきた瞬間、猫は我先に逃げ出した。
一人になってしまったクローディアは色々と焦る。何所へ移動するにも必ず誰か付き添わせるという皆との約束を破り、そしてスネイプの前で変身を解くタイミングを失った。
構わず、2人は囁くように言葉を交わす。
「ドラコ=マルフォイは寮でお眠りだ。もう動きはすまい」
「そうか、ご苦労だった男爵」
聴覚を必死に動かし、聞き取った会話に驚く。スネイプもドラコを監視していた。しかも、自分の目を行き届かない場合は『血みどろ男爵』に頼んでいた。
「教授よ。首飾りの件、犯人はまだ現れぬか?」
「……まだ特定はできん」
スネイプの解答が気に入らなかったらしく、男爵は血まみれで蒼白な顔を歪めた。
「教授達は緘口令を敷いておるが、本当に狙われた生徒はヘレナのお気に入りなのだろう? 彼女がとても心配しておる。聞けば、その生徒の父親はかつての我が寮。教授とも親しかろう、犯人について探りを入れてみてはどうか?」
男爵の言う生徒はクローディアでその父親はコンラッドを指している。名を言わないのは覚えられていないからか、盗み聞きを警戒している。そんなところだ。
実際、クローディアは意図せず盗み聞いている。
「話す事などない」
コンラッドと同じ考えだ。
「……本当か?」
あっさりと却下したスネイプに男爵は詰め寄る。幽霊の態度が珍しいらしく、黒真珠の瞳が目を見開いた。
「何が言いたいのだ、男爵」
「彼が失踪しおった時の騒動は覚えておる」
クローディアは影の身ながら、緊張で胃が竦む。スネイプも予期せぬ話に眉を顰めた。
「だが、彼は帰ってきた。つまり、目的があって身を隠していたのだろう。教授にすら、話せぬ事情を抱えておった。……もし、その事情を聞かされていたら、教授は彼に着いて行ったのかね?」
その質問をスネイプは普段の態度で一蹴する。そんな反応をクローディアは予想した。
しかし、スネイプは激情を抑え込むように唇を震わせ、堪えている。
「そんな「もしも」は存在しない。……だが、あえて答えるなら、着いて行かなかった」
普段の口調なのに、表情から涙を堪えているようにも見える。
「その答えを彼は予期した故、黙って去ったのであろうな」
勝手に話を振っておきながら、男爵はそう締めくくる。幽霊でありながら、騒がしく鎖の音を立てて去って行った。
スネイプも見送らず、さっさと研究室へに入る。扉が閉まる瞬間、唇が声を出さずに動いた。
「――それでも、話して欲しかった」
現実感のない夢見心地な気分に襲われ、クローディアは動けなかった。
戻ってきてくれたキュリーの鳴き声を聞き、ようやく我に返る。まだ胃が竦み、更に脳髄の奥が熱くなる感覚に自らの動揺を知る。寮に帰る気分になれず、キュリーと共に部室へと寄り道した。
変身を解いて、床へ座りこむ。手足の感触と深呼吸により、空気が口から肺へと吸い込まれる感覚でほんの少し、動揺は治まった。
心配して擦り寄ってくるキュリーを抱え、足を伸ばす。天井を仰ごうと上を向けば、トンクスに見下ろされた。
「気配も消して、私に近寄ってくるなんてさ。トンクスは何者さ?」
「何者って……闇払いよ。消灯時間にウロウロしちゃって、私が監督生だったら減点ものだわ」
トンクスの年齢的に巡回中の教師だろう。それに彼女は監督生になれなかったはずだ。そんな無粋なツッコミはせず、クローディアは「もう少しだけ」と答えた。
まだ部屋へ帰る気配のない生徒の為、やれやれとトンクスはクローディアの隣に腰かける。
「持ち場を離れて平気さ?」
「そこの窓から、貴女の姿が見えた。生徒の安全を守る為に注意しに来たんだから、問題ない」
親指で指さされた窓は確かに開いている。
「何があったの? 騎士団の誰かから知らせが来たんじゃないでしょうね」
深刻な顔つきで問われたが、コンラッドは騎士団員ではない。
「お父さんからさ。……スネイプ先生と……話してくれるように頼んでいたんだけど、断られちゃったさ」
「そう。貴女のお父さん、スネイプと同じ寮だったんだってね」
安堵の中にガッカリした気配を見せ、トンクスはキュリーの頭を撫でる。そして、唐突に頭を猫へと変じた。
キュリーは動じず、ぷいっと顔を逸らす。期待外れの反応にわざとらしく不貞腐れ、トンクスの顔が元に戻る。
「私、リーマス達が卒業してから入学したんだ。だからってわけじゃないけど、よく知らないのよね。皆がどんな学生だったか」
諍いの絶えなかった父親達の世代。今でもシコリは残り、顔を合わせれば睨みあう関係だ。
それを知らないトンクスがとても新鮮だ。そんな彼女になら、打ち明けたい気持ちになった。
「お父さんが話してくれないなら、私が話そうと思ったんだけどさ……」
「うん」
トンクスはクローディアを見ず、聞いているのかわからない曖昧な相槌を打つ。
「偶々なんだけど、スネイプ先生の本音を聞いちゃったさ。それ聞いたら、私……とんでもないお節介を焼こうとしてたって気づいたさ」
スネイプは他人事を自分の事のように抱え込む。だから、コンラッドは何も言えなかった。全てを話してしまえば、それは親友に重みを背負わせるのと同じだ。
苦しみを負わせるくらいなら、何も教えずに憎まれたい。それがコンラッドのスネイプへの親愛の証だ。
「友達だからって何もかも知りつくさなきゃいけない、そんなわけないのにさ」
どんな結果になろうと腹を割って話し合うべき、そんな稚拙で愚かな考えはスネイプに新たな重みとなる。ただでさえ、教え子同士で命のやり取りをしている最中だ。
聡いルーナの言っていた「良くない」とはこの事だと確信した。
「私だって……ハーマイオニーに言ってない汚い部分があるのに」
自分への情けなさに涙が溢れた。
トンクスは拭わないし、慰めの言葉もかけない。クローディアを見ずにただ座っていた。
「さて、私は部屋まで送れないけど、戻れる?」
一しきり泣いたクローディアへトンクスは立ち上がりながら、問いかける。部屋着の裾で涙を拭い、頷き返す。
就寝の挨拶をし、クローディアは部室を出る。扉をくぐった瞬間、影へと変身した。
クローディアの姿が見えなくなっても、トンクスは動じない。カラスに変じ、同僚に見つかる前に窓から外へと飛び立った。
勿論、鍵は外から魔法で掛けた。
翌朝、『忍びの地図』をハリーに返す時、結果を聞かれたので素直に答えた。
「私から話すのはやめるさ。いつか、お父さんが話せるようになるまで放っておくさ」
「一生、話さないかもしれないよ。コンラッドさん、秘密主義だし。僕が言うのもなんだけどね」
やれやれと溜息をつき、ハリーは肩を竦める。彼に秘密主義の自覚を持っていた事に驚きだ。
妙に笑いが浮かぶ。
「そこまで私は面倒見切れないさ」
突き放す言い方なのに、とても気が楽になる。クローディアの表情にも出ていたらしく、ハリーも優しく笑い返してくれた。
「ハリー、シリウスさんに伝言を頼みたいさ」
クローディアの口からシリウスの名が出た為、ハリーが怪訝そうに首を傾げる。
どれだけハリーがスネイプを嫌おうが、クローディアには父の親友であり師として尊敬している。それは彼女がどれだけシリウスを嫌おうが、彼には亡き父の親友にして名付け親だ。
それが同じ事だと、やっと頭と心で理解した。
「次に会うのを楽しみにしていますってさ」
無意識に表情が強張り、声も上ずる。予想もしていない言葉にハリーは面を食らう。しかし、クローディアの作り笑顔に苦笑した。
「自分で言いなよ」
「断る!」
反射的にクローディアは全力で叫んだ。
トンクスの言うように騎士団からの報せはない。しかし、【日刊預言者新聞】や【週刊魔女】、そして【ザ・クィブラー】では事件を伝えてくる。クィディッチなどの部活動があっても、生徒の家族や親族の名が犠牲者として記事に載る度、笑顔を奪って行った。
ルーナにとって、新刊は父ゼノフィリスの安否を確認できる。不定期な発行である為、日数が空くと普段以上にフラフラと彷徨う姿が目立った。
バレンタインデーという日も荒れ狂う吹雪のせいなのか、例年のように盛り上がらず終わった。
雪は尾を引いて雨となり連日、降り続ける。そんな悪天候の中でも、レイブンクロー対スリザリンのクィディッチ戦は行われ、レイブンクローは間一髪で勝利した。
だが、ホグズミード村への外出は中止だ。
「まだケイティは戻らないのかな」
掲示板の報せを見て、残念がる生徒達を尻目にミムは呟く。久しぶりに聞く名はクローディアの心臓を痙攣させた。
首飾りの強力な呪いは今だケイティを『聖マンゴ』に入院させている。巻き込んでしまった彼女も安否も気になるが、我が身に降りかかりかけた恐怖も蘇える。
(マルフォイは何をどうしたんだろうさ?)
最後に睨まれてから、ドラコは何も仕掛けて来ない。クリーチャーから時折、『必要の部屋』に入ろうと壁を探っている様子ぐらいしか、報告はない。
だが、犯人を検挙されない以上、犯行は繰り返される可能性は高い。
「グリフィンドール5点減点、次の授業までに『亡者』のレポートを提出せよ」
『闇の魔術への防衛術』の授業は変わりなく、ハリーとスネイプの論議を聞いて終わる。ドラコは傍目からは真面目に取り組んでおり、クローディアさえ見ていない。しかし、彼は確実にこちらを意識していた。
「ハリーは毎回、毎回、よくやるわ」
マンディは感心したような呆れた口調でハリーに告げる。
「黙っていても減点されるんだ。だったら、言いたい事を言わせてもらうよ」
「もうちょっとスネイプに手加減してやりなって」
妙に機嫌の良いシェーマスはハリーを宥める。
「手加減したら、不満が消化不良だろう」
小声で呟くロンは暗い。
中止になった外出日が大事な成人を迎える誕生日と重なっており、ハーマイオニーとデート予定であった。ロンに言わせれば、人生最高の企画を練っていたそうだ。
「どうせなら、ハーマイオニーの誕生日にすれば良かったのにね。最高のデートとやら」
「その頃はまだお付き合いしてないよ」
嫌味ったらしくサリーが告げると、ネビルが素直に返す。彼も元気なくゲッソリだ。
「ネビル、どうしたさ? 悩み事なら聞くさ」
「ありがとう……。ロンから聞いているかもしれないけど、スラグホーン先生の晩餐会に招待されたんだ。ロンの誕生日を兼ねているから……行くしかないでしょう?」
まさか、ロンの為にスラグホーンが誕生会を開く。心底、意外だ。
「何それ、今知ったわ」
ハーマイオニーはロンを見やり、彼は返事もせず小走りで去った。
「それはハリーが頼んださ?」
話を振られたハリーはそっと目を逸らす。
「正確には先生に誘われた日時がロンの誕生日だからって、断ろうとしたんだ。そしたら、そういうことになって……僕らの友達としてネビルとシェーマスとディーンを誘いました……」
言い訳がましいハリーの語尾が敬語になっていく。
「クリスマスパーティーも行けなかったし、すっげえ嬉しい。ロンへの誕生日は何を贈ろう!」
暗い雰囲気に気付かず、シェーマスはハリーの肩を勢いよくバンバン叩いた。
「ディーンもって、気まずくないの?」
「同室なんで、お互いに気にしてないよ」
ハーマイオニーの素朴な疑問にハリーは肩を竦め、やれやれと答える。考えないようにしていても、意識はしてしまうのだろう。同室に彼女の兄がいて、更に元彼までいる。とんだ修羅場部屋だ。
「ハリー、勇気あるわよね」
「勇気、なのかな?」
感心して酔いしれるサリーにマンディは疑問だ。
閲覧ありがとうございました。
原作ではグリフィンドール対ハッフルパフは3月ですが、この時期にしました。
イギリスの成人は18歳ですが、飲酒もOKとはカルチャーショック。