お気に入りが急激に伸びて、驚いています。ありがとうございます。
これが締め回です。
追記:18年9月13日の誤字報告にて修正しました。
翌朝、ハーマイオニーが目を覚まし時、机の上にパーバティから別れの書き置きがあった。
「もう!? 一体、いつ迎えが来たのかしらね」
寂しそうにラベンダーは告げ、大広間に向かう。ハーマイオニーはレイブンクローの談話室を訪ねに螺旋階段を下り、ドアノッカーの前でテリーとマイケルに出くわした。
「おはよう、ハーマイオニー。1人でうろつくのは関心しないぜ」
「おはよう、テリー、マイケル。リサとパドマはいるかしら?」
「パドマはいない。夜明け前に親が来て、連れ帰った。ちょうどいいかもな。あんな事があったんじゃあよ」
億劫そうに告げるマイケルにテリーが肘打ちを食らわせる。言葉を選べと注意しているのだ。
「マーカス=ベルヴィとベーカー=ロバースも帰った。今日だけで、どんどん迎えが来るだろうな」
テリーの肘打ちを物ともせず、言い捨てたマイケルは階段を上がった。
「中に入っても驚かないでくれ」
ドアノッカーを指差し、テリーもマイケルを追いかけた。
レイブンクロー寮の生徒が全員、談話室にいる。それぞれ毛布を身に纏い、身を寄せ合う。まだ寝ている生徒もいた。
「こっちですわ」
ガウン姿のリサに手招きされ、大理石の女像へと座り込む。
「部屋では眠れない方が多くて、集まれば淋しくありませんから……」
それはリサ自身の感情、目の下の隈が徹夜を示している。無理もない、部屋にはまだクローディアの荷物が残っている。そんな場所で過ごすのはハーマイオニーも苦しい。
「……パーバティもパドマと帰られたのですか?」
肯定したハーマイオニーに、リサは嘆息して手で頭を押さえた。
「リサ、大広間に行きましょう。一度、外の空気を吸うべきだわ」
ハーマイオニーの助言を受け、リサは素直に従う。生徒に当たらないように気を配りながら、ルーナの姿を見ない。
「マンディ、ルーナを見なかった?」
「医務室のはずよ。寮にはいないもの」
昨日のルーナは見た目だけなら、衣服が焦げた程度だった。
急な不安に駆られても、今はリサに着いていてあげたい。ハーマイオニーは彼女と大広間へ付き添い、二重扉の前でダフネが妹アステリアと鉢合う。姉妹はそれぞれ荷物を抱え、出発の準備万端だ。
「帰るのね」
「ええ、貴女が来るのを待っていたわ」
ダフネは怪訝するアステリアに一瞬、微笑んでからハーマイオニーの肩へ顔を寄せる。
「警告しておくわ……、逃げなさい。出来れば、国の外へ」
声の震えはハーマイオニーの身を案じていた。
返事を聞く前にダフネは妹の手を取り、玄関ホールへ走る。隻眼の魔女象にはスラグホーンが見送りとして立っていた。
「……敵に立ち向かいたいなら、4つの寮が本当の意味で結束しなければならないのでしょう。創設者のしがらみは『秘密の部屋』という形で後世に災いを齎したのですから……」
リサは事も無げに告げ、ハーマイオニーと大広間へ入る。スリザリン席は朝から寮生徒が集まり、大半は机に突っ伏して寝ていた。
それより重要なのは、グリフィンドール席にジニー、ジョージ、フレッド、モリー、アーサーが集結している様子だ。
「おはよう。ねえ、リサ、私達と食べましょう。ハーマイオニー、ジニーが待っていたわよ」
顔色の悪いハンナはリサを連れ、ハッフルパフ席へ連れて行く。ハーマイオニーへの気遣いに感謝し、ジニー達に挨拶して座った。
「ルーナを見なかった? 寮にいなくて」
「医務室で寝てるわ。マクゴナガル先生が許してくれたから、ずっと私に付き添っていたの」
ルーナに深刻な怪我はない。安心したハーマイオニーをモリーは話しかけてきた。
「大叔母のミョリエルが美しいティアラを持っているの、ゴブリン製よ。フラーの髪に似合うと思うの。大叔母はビルが大好きだから、結婚式にティアラを貸して頂けるように頼んでみるわ。……ハーマイオニーの時も貸して頂けるはずだわ」
ハーマイオニーとロンとの関係はまだモリーに話していなかったが、知られている。しかも、2人が結婚に至ると確信し、それを許した。ただ、許すだけでなく魔法界でも高価で貴重なゴブリン製のティアラを借り受けるというのだ。
「ビルとフラーの結婚式は予定通りに?」
「ああ、勿論だ」
困惑のあまり、感謝や気の利いた言葉が出て来ない。動揺したハーマイオニーにアーサーが小さく微笑む。彼はジョージを一瞥したがすぐに天井へ向ける。クローディアを失った婚約者にかける言葉が浮かばない。それは他の皆も同じだ。
「ジョージ」
やってきたコリンは寝不足らしく、目が赤い。躊躇いながら、ジョージへ写真を一枚手渡した。
「昨日までに撮った写真を現像して……彼女が1人で写っていたのはその一枚だけだから……」
この大広間にいるクローディアは複雑そうに顔を顰め、静止している。ジョージはそれを無言を見つめ、コリンにも振り返らない。
「動かさないほうがいいと思った」
その場を画像として留める。写真とは元来そういう物。コリンの意図はわからないが、動かさない写真に意味を込めているのだろう。
「ありがとう、コリン」
無表情だが、声は暖かい。コリンはバツが悪そうな顔をし、離れた席に座った。
写真を懐にしまい、ジョージはハーマイオニーを見据える。
「リーマスとトンクスが結婚するってさ」
普段よりはぎこちない表情だが、ジョージは突然、報告してきた。
「籍だけ入れるそうだ。トンクスの両親とシリウスを介添え人にしてな」
フレッドが続き、ジニーは肩を竦める。
「トンクスの花嫁衣装、見たかったわ」
「どうしてそういうことになっているの? どちらが告白したの?」
そんな素振りは全く見せず、ハーマイオニーは答案用紙を埋める気持ちでジニーへ問い詰めた。
「前々から、トンクスはリーマスを口説いていたんだ。クリスマスに私は相談を受けていた」
いつの間にかハーマイオニーの隣に座っていたシリウスは、苦笑した。
「今回はリーマスから告白したよ。私には決闘の申し込みのように見えたが、……まあアイツにはあれが精一杯だろうな」
リーマスの体質を考えれば、不謹慎だろうがその場面に立ち合いたかった。
「……幸せがひとつでも増えれば、2人も喜ぶよ」
ジョージの呟きにモリーは目に涙を浮かべ、何度も頷いた。
「ところで……スリザリンの奴ら、どうしたんだ? 自分の部屋で寝ればいいだろ?」
シリウスの疑問にはアーサーも答えられず、浮遊していた『ほとんど首なしニック』が近寄ってきた。
「男爵ですよ、スリザリン寮の談話室で呻いているのです。一晩中でしてね、生徒達も寝られないでしょう」
気の毒そうにスリザリン席へ視線を向け、『ほとんど首なしニック』は肩を竦めた拍子に首が落ちそうになり、慌てて手で押さえた。
昨日の今日で首が落ちる様を見せまいと気を遣ったのだ。
実際、ハーマイオニーはゾッと寒気がした。
「おはよう。ザカリアスの奴、帰ったぜ。親父さんらしいおっさんが迎えに来てた。ありゃ、頑固ジジイだ。間違いない」
ザカリアスの父親に悪態を吐きながら、シェーマスはせせら笑う。そんな彼は正午に迎えに来た母親と激しい口論を交わした。
「俺は絶対に帰らない! 葬儀に出る!」
フィネガン夫人は頑固な息子の意思に折れた。
ダンブルドアの葬儀に参加せんとホグズミード村に多くの客人が押し寄せ、宿屋だけでは足りず民家にも宿泊を求めるそうだ。
「俺達はマクゴナガルの厚意で城に泊めて貰えて良かった……」
「ええ、あの村、流石に怖いでーす」
村の状態を見てきたビルとフラーはげっそりしていた。
それでもフラーはジョージへお悔やみの言葉を述べ、いつもの高圧的で尊大な振る舞いはない。その態度にジニーは驚いていた。
夕食の後、マグル出身者であるハーマイオニー達は空き教室に呼ばれる。百人近い生徒の中には、3年生マルコム=バドックを含めた数人のスリザリン生もいた。
自分達の後見人トトが現われ、自然と私語は消える。背の低い彼は皆を見下ろせるように脚立の上へ立った。
「座ってよい」
杖を振い、それぞれの生徒への椅子が用意される。皆、大人しく座った。
「既に学校を去った生徒はおる。そこで君達の意見を聞いておきたい。親元に帰りたい者は今、申し出なさい。わしが責任を持って、送り届けようぞ」
皆がお互いの視線を交わす。先の見えない不安に言葉を控えている。ハーマイオニーはトトから目を逸らさず、手を上げた。
「私は学校が再開されても、この学校には戻りません」
皆の視線を受けても、動じない。本当の事を宣言しただけだ。但し、両親のいるオーストラリアにも行かない。
「良かろう、君は両親といるのじゃな。他には……」
ハーマイオニーを切っ掛けとし、ほとんどの生徒が帰宅を選ぶ。ディーンやコリンなど、少数の生徒は黙りこんでいる。
「ひとついいですか?」
ディーンは今までない深刻な表情で手を上げ、トトの返事も聞かずに立った。
「僕が死んだ場合、僕の両親はどうなるんですか? 貴方と交わした契約は打ち切られるんですか?」
契約。ハーマイオニーにはそこまで重く捉えなかった。
トトはマグル出身の生徒が安心して学校にいられるように家族を国外へ逃がした。
ただの厚意ではないと思っていたが、契約だというならハーマイオニー達は知らぬ内に何かを課せられたのかと記憶を必死に思い返す。
「誤解があるようじゃが、わしは君らと契約などしておらぬ。提案しただけじゃ……そして、ディーン=トーマス。君に万が一が起こっても、君の両親は守られる」
「僕も学校が再開しても、戻らない」
一分にも満たない沈黙の後、ディーンはそう答える。彼もまた何処かへ行こうとしていると察した。
「学校に残ります」
コリンの声が胸に響く。意見の違うデニスは驚き、兄の腕を掴んだが振り払われた。
「僕は魔法使いとして教育される為に学校に来ています。その為にマグルの学校への進学をやめました。だから、ホグワーツがどんな体制であれ再開されるなら、この城に残ります」
凛とした態度から、コリンは学校としての機能をなくしても城から離れない気がした。
「君の意思を尊重しよう。再開の折には必ず、生徒として在籍させよう。その際もわしが後見人じゃ」
「ありがとうございます」
深々と感謝し、コリンは座る。判断に迷っていた残りの生徒もそれぞれ決断し、彼と同じ残留を決めたのはスリザリン生のみである。
帰り道、デニスが寮とは違う方向に歩くのでハーマイオニーは心配で着いて行く。着いた先はバスケ部の部室として使っていた教室だ。
「ハーマイオニー、君も来たの?」
空いている扉を覗き込むと普段の部活動と同じように準備がされ、クレメンスが笑顔で出迎えた。
デニス、シェーマス、ジャック、ルーナ、ハンナ、マンディ、モラグ、デレク、ナイジェルと部員が半数以上集まっている。勿論、顧問のバーベッジもいた。
しかし、準備がされているだけで誰もプレイしていない。
「何処に行くのかと思ったら……」
ハーマイオニーの後ろからディーンがひょっこり顔を出す。
「他の奴は?」
「ミムは下級生の為にずっと寮にいるわ。7年生もどんどん帰っちゃうし……」
「コーマックにも声はかけたぜ。相当、参ってた……。家族の迎えにも顔を出さねえし……」
ディーンの質問にミムとジャックも溜息を吐きながら、答えた。
そこへネビルとアンソニーが現れ、驚いた表情で部室を見渡した。
「やっぱり、ここは空気や匂いが違うな」
アンソニーは懐かしむようにボールを持ち、ネビルにパスした。
「皆もやろうよ。折角、ボールがあるんだから」
控え目な笑顔でネビルはボールをシェーマスに投げる。彼からもモラグ、デレクへと繋ぎ、ルーナが奪ってゴールへシュートした。
床にボールが落ちた瞬間、ハンナが取ってマンディに投げ、ナイジェルへパスされた。
次第に勝手なチーム分けがされ、ハーマイオニーは得点表を捲って点数を入れる。バーベッジも反対チーム分の点数を入れた。
「……なんかやってる」
ペロプスが呆れた顔をして扉から顔を出す。
「ペロプスも来なよ」
デレクに誘われ、ペロプスは渋々混ざるが満更でもなさそうだ。
「……そうです、この学校で部活は続けます」
バーベッジの優しい呟きはハーマイオニーにしか聞こえなかった。聞こえずとも、この場にいる全員に伝わっていると気づいた。
クローディアの荷物はその日の内に片づけられ、残された箒『銀の矢64』は形見分けとしてホグワーツに贈与された。
マクゴナガルはフリットウィックと相談し、『飛行術』の教授たるマダム・フーチへ渡す。彼女は喜びを見せなかったが、箒をしっかりと受け取った。
「これでいいと思うわ。生徒だとどうしても感情に負けて乗れないもの」
チョウは力なく笑い、そう呟いた。
当日。葬儀後の出発に備え、ハーマイオニーも荷造をする。【深い闇の秘術】、ハリーと『分霊箱』を探すと決めた後に『呼び寄せ呪文』で手に入れた。
図書館の書物はをほぼ知り尽くしていると言っても過言ではないハーマイオニーですら、この本の存在は知らなかった。トム=リドルの一件から、ダンブルドアが隠匿したのだと察した。
だから、ハーマイオニーが学校から持ち出しても司書マダム・ピンスは気付かない。分厚い束に応じ、おぞましい内容が記された本を鞄に入れた。
葬儀には外国からも参列者が多く、マクシーム校長、ワイセンベルク大臣、そしてスクリムジョール大臣それぞれの一行は前夜に到着した。
マクシームは再会の喜びを込めてハグリッドの腕に抱かれ、ワイセンベルクは真っ先にトトへ駆け寄り、無言で労わった。
ちなみにスクリムジョールは事件の目撃者でもあるハリーを追い回したが、彼はここぞとばかりに『忍びの地図』を使って遭遇を逃れた。
「そうですか……彼女は最期まで笑っていましたか」
彼らの中でクローディアの名を口にしたのはスタスニラフだけだ。
大広間は生徒に加えて教職員も喪に服し、静粛を貫く。不思議と腹が空かず、カボチャジュースさえ喉を通らなかった。
生徒はそれぞれの寮監に従い、校庭へ出る。学校関係者以外の追悼者が用意された席の半分を埋めていた。『不死鳥の騎士団』でお馴染みの面子やダイアゴン横町で見た人々、勿論、名も知らない顔触れが多い。
ハグリッドの弟グロウブもお行儀よく鎮座していた。
参列者が揃ったのを見計らい、湖に住む『水中人』が水面から顔を出して合唱する。音波の組み合わせが葬送に相応しい旋律を奏でた。
打ち合わせでもしていたようにダンブルドアの亡骸を抱えたハグリッドが現れる。その後ろにトトが続いた。
首は先生方が用意したのだろう。生前と変わらぬ顔が繋げられている。その顔から眠っているなどと表現できない冷たさが見ているだけで伝わった。
決して泣くまいと誓っていたが、ハーマイオニーは気づけば大粒の涙が頬を通り過ぎて膝へ落とす。涙で視界が曇っていても、ダンブルドアの晒された左手が石炭のように黒ずんでいるのがわかった。
ハグリッドにより石の台座に丁寧に寝かせ、トトが花の代わりにダンブルドアの杖を置く。後退した2人は揃ってグロウブの隣に座った。
髪の毛がふさふさとした小柄な魔法使いが亡骸の前に歩み出て、弔辞を述べる。すると、『禁じられた森』の木々にケンタウロス達がチラチラと姿を見せ始めた。
台座を守るように立つフィレンツェが仲間に動揺しないか心配しながら、ダンブルドアを讃える言葉に耳を傾けた。
(クローディアはもう埋葬されたのかしら)
サーペンタイン湖にある魔法族の霊園、そこへ水葬される姿を想像した。
――この瞬間、クローディアが目を覚ましたなど露とも知らず――
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スネイプの口から『死の呪文』が唱えられるのを確かに聞いた。
聞こえはしたものの、瞬きしてみれば視界は一変する。寮の自室とは違う天井、背中は柔らかい布団の感触を味わう。寝台に寝かされている事だけは把握した。
「瞳孔、脈拍、呼吸音、問題なし」
コンラッドに覗きこまれる光景には慣れている。だが、寝ぼけていない。脳髄と瞼は鮮明だ。
手足の感触を確かめながら、室内を見渡す。古風な家具、洋箪笥の上に置かれた暖炉に見覚えがあった。
「……『漏れ鍋』」
「正解、思考回路も順調。さて、自分の身に何が起きたか話せるかい?」
起き上がり、クローディアは制服のままだと気づく。この光景に既視感を覚えていた。
「……スネイプ先生に……『死の呪文』をかけられた」
自分でも驚く程に冷静で冷淡な声が出た。
「夢だと思わないのかい?」
「いいや、そこまで楽観できない」
仮に何処からか夢だったとしても、あの現実感は本物。クローディアはスネイプに殺されたのだ。
「『死の呪文』から逃れる術はない……。私の身に何が起きた? 何故、学校ではなく『漏れ鍋』なんだ?」
「……ひとつずつ答えよう。ジョージから貰ったイヤリング、持っているね?」
指摘された通り、首飾りにしていたイヤリングを見せる為に首の紐を辿る。輝いていた赤い石は黒ずみ、手で触れた途端、粉々に砕けた。
予想外の事態に驚愕するクローディアを余所に、コンラッドは興味深そうに黒粉を指で触れる。
「いやはや、げに恐ろしきはジョージ=ウィーズリーだよ」
称賛を込めた声で我に返った。
「お父さん、これはどういう事?」
「それは『賢者の石』だった。勿論、フラメル氏の所有していた石と比べられば、屑に等しい。劣化品と言っていいだろう。だが、間違いなく『賢者の石』だ」
クローディアは自分が殺された事実よりも受け入れがたかった。
ジョージが悪戯道具を作成している最中に出来た偶然の産物がまさかの『賢者の石』、世の錬金術師が聞けば、どれだけ涙するであろうか想像したくない。
「この石が私の身代わりになったということか? それだと私の意識がない間に移動されたのはおかしい……? この感じ、以前もあった」
独り言にコンラッドは喉を鳴らして笑う。
「正解だ。おまえは石になっていた。この日に備えて用意した『蘇生薬』を飲ませて回復させたところだ。あの件から、4日は経っている」
石化。
バジリスクの死の魔眼を鏡越しに受けた時と同じ作用が働き、石は壊れる。劣化しているが故の結果だと理解した。
「マルフォイの狙いを知っていたな? それでも放置していたのは私がこの石を持ち尚且つ、石化する前例を知っていたからか?」
「まあね。純度の低い石は身代わりとなり、対象を石化させる。シギスマントの研究資料に記載されていたよ。確率が低すぎるのが難点でね。もっと実例が多ければ、公式になるだろう」
余計な知識はいらぬとコンラッドを睨みながら、不意にクローディアも余計な事に気づく。
「もしも、フラメル氏の石なら……金になっていたんじゃないか?」
自分で口にしておきながら、ミダス王のような体験を味わいかけてゾッと寒気がした。
「試したことはないが、可能性はあるだろうね。そうなれば、おまえの死は偽装だとバレバレだ」
「……つまり、私は死んだ事になっているのか?」
脳髄の奥が焼かれるような激しい感情に声が上ずる。彼女に肯定を示す為、コンラッドは【日刊予言者新聞】と【ザ・クィブラー】を放り投げてきた。
どちらもホグワーツでの惨劇を語り、校長と生徒1人の死を載せている。【ザ・クィブラー】では更に詳細が書かれ、クローディアはスネイプ、ダンブルドアはベッロに殺されたとあり、またどちらも逃亡中であった。
「ベッロがダンブルドアを! 何故だ!?」
思わず記事を掴み、この場にいないベッロに問うた。
「……それがダンブルドア、トトの望みだった」
「余計にわかるか! 誰も死んで欲しい人などいない! 望んで死ぬなど私が許さない!」
咆えるクローディアにコンラッドは笑みを消す。懐からガーゼで包んだ壊れた指輪を取り出す。以前、ハリーに聞いた通り、抉れたように破損しているが紋章のような刻印は見えた。
「この指輪はゴーント家の家宝だ。闇の帝王は指輪を嵌めた者を殺す呪いをかけていた。そうとも知らず、トトは指輪を見つけて……嵌めかけた。指にかけた時点で異変に気付いて離したが、遅かった。すぐに私は呼ばれ、治療を試みたが抑え込むのが限界だった。精々一年、寿命を延ばしただけ……」
脳裏を過るのは石炭のような手。
「どうして? 『解呪薬』があるだろう。私のオリジナル以外でも、効力の落ちる薬は作れたはずだ」
「あの呪いは私達が知る中で、最も強力に入る部類だ。おまえのオリジナルなら、確かに助かっただろう。だが、本当に最後の一粒を使えないとトトは拒んだ。だから、私は厚かましくダンブルドアに助けを乞うた。指輪の存在を知り、ダンブルドアは何故かグリフィンドールの剣で破壊したよ。それで呪いが解けるなら、苦労しない。トトの軽率な行動にダンブルドアも怒っていた。久々にあの方が恐いと思い知ったね」
コンラッドは自嘲を込め、息を吐く。
「トトはいっそ、呪いを抑えた左手を切り落とそうと言いだした。しかし、それをすれば呪いは広範囲に広がって他にも犠牲を出す。それに手はあくまでも見た目だけで、体の中を蝕んでいるから意味はない。そうダンブルドアに反対された」
不意に端正な顔は眉間にシワを入れ、後悔を見せる。
「トトはどうせ死ぬなら、何かに利用できないかと言いだし……。私は迂闊な事を言ってしまった」
語尾に罪悪感が含まれ、コンラッドは指輪をガーゼに包んで懐にしまった。
「トトの養父が呪われていた話を覚えているかい?」
覚えている。それから解放される為に『解呪薬』を作ったと語っていたはずだ。
「養父の呪いは元々、本人がかけられた呪いではなかった。ある人に唆され、移された呪いだったそうだ」
「そんな勝手な……」
呪いを他人に擦り付ける。
魔法学校の授業では一切、聞かされなかったが、お伽話ではよくある手段。無論、日本だけでなく洋画でもその発想はあった。
「私はその話を思い出し、誰かに渡してしまえと言ってしまった。ダンブルドアはそれならば自分だと言い出したんだ。今、お2人に死なれては困る……。私もかなり説得したんだが……闇の帝王を確実に滅ばすにはダンブルドアの死が必要だと言われて、提案を受け入れるしかなかった。トトも盟約の調停人としてまだ死ねないから、すぐに納得したよ」
立つのも億劫になり、コンラッドは重たそうに椅子へ腰かける。頭を押さえ、憂いを帯びた表情で続けた。
「ダンブルドアは死後、ホグワーツをトトに任せる手筈を整えようとした。2人は度々、入れ替わり校長としての責務をトトに学ばせた。外に出たダンブルドアはトトの立場を利用し、団員の詳細をより正確に把握できた。後は命尽きる前に呪いを移してしまえば、思惑は成功だ。それにはマルフォイの息子の任務は非常に都合が良かった。おまえの死を見せつけ、ベッロを激怒させてダンブルドアを襲わせるという企みはね」
狙いは最初からダンブルドアだった。
「……ベッロがそんな……」
「ベッロもかなり嫌がったが、闇の帝王の目を誤魔化す為だと……命令したよ」
盲点に驚き、クローディアは思わず口を押さえる。利用されたベッロ、自ら犠牲になったダンブルドアを憐れんだ。
「だが、問題が起きた。……ダンブルドアはハリー=ポッターと秘密のお喋りをしていたんだ。トトは裏切りを感じて怒り狂い、その責任を取ってもらうと言い出した」
トトの剣幕は簡単に想像できる。実際、クローディアはその場に居合わせたのだ。
「何をしたんだ?」
「結論から言えば、死んだのはダンブルドアじゃない……。全身整形して為り変わったトトだ」
何に驚けばいいのか、手は力を無くしイヤリングの付属品を落とす。それでもコンラッドから視線は外れない。
「誰がそんな……手術の執刀を……。患者の許可なく……」
「私を中心にその道に長け整形外科や癒者と組んだんだ。あれ程、大がかりな手術は後にも先にも御免こうむる」
聞くべき事は他にもある。二重の衝撃に意識は朦朧としていたが質問を探す。
「本物のダンブルドアは?」
「厄介だったのは……術後のダンブルドアだ。目を覚ましたら、体も記憶も弄られているんだからね。慣れてもらうのに時間がかかったよ。今頃は学校でトトとして振る舞っているはずだ。ああ、そういえば……そろそろ、あの人の葬儀が始まっているね」
興味無さそうにコンラッドは答え、椅子へ深くもたれかかった。
結局、2人とも死んだ。
ダンブルドアは自分の死を嘆く人に名乗れず、トトの死には誰も気づかない。
クローディアにとって、ほんの少し前までトトと話をしていた。
〝おまえはワシにとって、いつまでも何も知らず培養器にいる小さな命じゃよ〟
何故、気づけなかった。
悔しさに涙を堪え、口を動かす。
「私が生きている事、ハリー達にいつ知らせるんだ? 学校が終わってから? またシリウスの屋敷に集まるんだろ?」
コンラッドはクローディアを見ず、また懐から2枚のパスポートを取り出して投げた。
そこにはクローディア=クロックフォードと日無斐 来織とそれぞれ別名で書かれていた。
「おまえは生まれた時から、ふたつの国に籍を持たせていた。そして私達は2人分の人生を用意していた。だが、クローディアは死んだ。今、おまえに選択して欲しい。日本に帰るか、この国に残るかだ。前者の場合、我々との記憶は全て忘れ別の経歴で生きて貰う。後者なら、その顔を変えクローディアと名乗る事はできない」
どちらを選んでも、もうクローディアとして皆に会えない。ジョージとの約束も果たせない。愛する彼の顔がようやく頭に浮かび、涙腺は決壊して涙が溢れた。
「ジョージと話し合った時、あんたは石を見た。それでこの計画を思いついたのか?」
「まさか、あの時は闇の帝王がそんな命令を出すなんて思わなかったよ。けど、おまえは必ず目を付けられるとは予想していた。ジョージの求婚は有り難かったね、婚約している人間が死を偽装するなんて、余程の捻くれ者でなければ思いつかな……」
コンラッドは言い終えれず、クローディアから鉄拳を食らう。椅子が大きく傾く程の衝撃を受け、彼の口から奥歯がひとつ飛んだ。
「たかが……薬を惜しんで死ぬなんて、お祖父ちゃんは馬鹿。だけどな、人の気持ちを弄ぶあんたは畜生にも劣る外道だ」
怒鳴りはせずとも、強い声は耳を貫いている。
「何故、……スネイプ先生も巻き込んだ?」
今までと違い、コンラッドの顔色が変わる。滅多に見ぬ表情の変化に妙な苛立ちが湧く。ゆっくりと立ち、彼は床に落ちた歯を拾う。
「セブルスには何も話していない。彼は自分の意思で行動した」
スネイプが自分に杖を向けた姿、どんな気持ちで行ったか考えたくない。2人の生徒の間で葛藤し、ドラコを守る決断を下した。
ヘレナの忠告はある意味、スネイプを指していたのかもしれない。何とも惨い事をさせてしまった。
「私はセブルスが相手で良かったと思っている。彼は……おまえを一番苦しまない方法で殺すからね」
こんな事態になっても、スネイプへの信頼は揺るがない。
「だったら……最初から、スネイプ先生に話すべきだった。何も知らず利用されるのと、自分で渦中に飛び込むのは違うだろ?」
ハリーもそうして、自分で戦いを選んだ。
「そうだね、けど……秘密の共有者は1人でも少ないほうがいいんだ」
歯をスネイプの代わりに握りしめ、コンラッドは振り返る。見た事ない激情を込めていた。
「それでおまえはどうする?」
答えは聞かずとも分かっていながら、確約を口にさせたいのだ。
「残る。どんな形であろうとも、私はここにいる」
クローディアの命はイヤリングの石と同じように崩れてしまい、二度と元には戻らない。しかし、残ったカスはまだある。
予定通りの返事にコンラッドは神妙に頷いた。
「2つ質問がある。ひとつ、お祖父ちゃんはどうして指輪を嵌めようと思った?」
ゴーント家の指輪は『分霊箱』だった。呪いは盗難対策としてかけておいたのだろう。しかし、知らなかったとしてもトトは迂闊すぎる。
「……それは私の口からは言わない約束なんだ。ダンブルドアとのね」
言い訳の代名詞を出され、一先ず、諦めたフリをしておく。
「曾祖父ちゃんに呪いを移した相手は誰だ?」
敵としてあいまみえるかもしれない。そんな事態に備え、知っておきたい。相当の手練だと推測できる相手だ。
「……おまえも知っているよ、会った事はない。闇の帝王には与しないし、私達にも協力しない。価値のないお方だ」
感情を殺していても、言葉の節々に軽蔑が込められている。価値のない相手に奇妙な敬意を払っており、脳髄が刺激された。
「お祖父ちゃんも……マーリンを無価値だと」
一か八かで名を呼べば、コンラッドの口元が痙攣した。
当たりだ。
そんな諍いがある故に、トトはマーリンの名を出されるのも嫌なのだ。
「直に飛行機の時間だ。起きぬけで悪いが、行くよ」
鞄から私服を取り出し、コンラッドはクローディアへ投げつける。
「飛行機って、まさか国を発つ気か? 残ると言ったろ!」
「どちらを選んでも、一度は日本に帰らせるつもりだよ。色々と準備があるからね」
さっさとコンラッドは部屋を出ようとノブに手をかけ、クローディアは苛立った感情のまま叫んだ。
「私はクローディアのパスポートで滞在していたんだぞ。死んだ今はどう国を出るつもりだ!」
「問題ない、荷物として持って行くからね」
普段と同じ、機械的な笑みには嘲笑が見えた。
二度とこの男を父と呼ぶまい。いけしゃあしゃとした態度はそう誓わせた。
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任務遂行の後、セブルスは計画通りに集合場所たるソーフィンの屋敷へ到着する。正面の扉前に整然と停車したバイクはジュリアの物だ。
彼女は競技場を襲い、撤退時には爆発させるようにバイクへ仕込ませた。今回の件に大いに貢献したといえるだろう。などと言って自慢してくる姿が目に浮かぶ。
「随分、のんびりしていたんじゃないかえ? ソーフィンは死んだよ」
出迎えたベラトリックスは悪態吐きながら、残念そうに告げる。防衛魔法を突破した後、早々に意識のないソーフィンと撤退させられた為に機嫌が悪い。
客間に置かれた遺体は生前の面影はなく、やせ細る。クィリナスとバーティが簡易寝台を作り、そこに寝かせた。
トラバース達の治療が一段落した頃、ヴォルデモートは幽鬼の如く現われた。
「そうか、彼の力なくして任務遂行はありえぬ。俺様の忠実な魔法使いが失われた。さあ、冥福を祈ろう」
明らかな建前にしか聞こえない口上を聞き、ドラコも含めた全員で祈りを捧げた。
遺体の処理を任せたヴォルデモートはセブルスの他、クィリナスとバーティに視線を向ける。内密の話がある時の仕草だ。
勝手知ったる他人の家、しかも家主の如き態度でヴォルデモートは書斎を占領して椅子へ腰かけた。
クィリナスは扉を閉めて鍵をかけ、扉そのものを杖で叩く。これで鍵穴を覗かれても中は見えないそうだ。
机に【日刊預言者新聞】瓦版を投げて寄こす。そこには一面、ダンブルドア死亡記事が載せられていた。
「ダンブルドアも死んだ。セブルス、ドラコに代わりよくやった」
「いえ、結局ドラコに果たせられず、お恥ずかしい限りです」
セブルスは考えない。
ダンブルドアは真の狙いを見抜き、クローディアをわざと標的のままにさせておいた。彼女の命を守らぬのかと言及したセブルスに校長らしからぬ口調で答えた。
〝あの子は、とうに覚悟はできている〟
一体、どんな覚悟だ。
ドラコの手を取り、クローディアが屈託のない笑顔で駆け寄ってくる様子が網膜に焼き付いている。
「少し、昔話をしよう。この男、ボニフェース=アロンダイトについてな」
黒いローブの下から、ヒビの入った髑髏がひとつ。
「アロンダイトとは……ベンジャミン=アロンダイトの身内ですか?」
「流石はクィリナス、マグルの世情に強い」
唇のない笑みを見せ、髑髏を弄ぶ。
「この男は戸籍上、そのベンジャミンの弟だ」
そうして、ヴォルデモートは突拍子もない話をし出した。
『逆転時計』と『ホムンクルス』、2人のベンジャミン。そんな机上の空論を実行するなど、正気の沙汰ではない。更に驚いたのは『ホムンクルス』がコンラッドの父親なのだ。
「ほう、鉄仮面のセブルスが青褪めておる」
薄ら笑いを浮かべ、ヴォルデモートは指摘する。
「結局のところ、その老人は何の役にも立っておりません。クロックフォードにはその報いを受けさせたのですか?」
バーティはつまらなそうに質問し、ヴォルデモートは髑髏を机に置いた。
「ボニフェースは……未来から来た。ならば、同じ時代の『ホムンクルス』がいるはずだ。最初はコンラッドを疑ったが、違った。ならば、あの小娘が有力だ」
つまり、クローディアとコンラッドが父と子だった。予想外の関係にセブルスは内心の動揺を抑えるのが精一杯だ。
「姿形も性別さえ違う、あんな小娘が『ホムンクルス』などと……」
嫉妬めいた批判を混ぜ、クィリナスは意見する。
「体を作り変えるのは不可能ではない。なので俺様は実験を行った。小娘が死に、こいつが消えうせれば……俺様の仮説は立証される」」
途端に髑髏を杖で粉々に弾いた。
「結果は外れだ。『ホムンクルス』は何処かにある。間違いなく、コンラッドが持っているな。まあ、焦る必要はない。探すのはハリーを葬ってからでも、遅くはない」
「何故、我らの主たる闇の帝王の御推察が外れたなどと申されます。もしや、前例をご覧になられたのですか? 未来から来た者の過去を消した際の末路を……」
セブルスは知的好奇心に見舞われたように努め、問う。無知なる幼子に言い聞かせる口調でヴォルデモートは胸元を押さえ、心底、愉快そうに笑った。
「ある。ベンジャミンを殺した折、老人が消え去る瞬間をこの目で見た! 時間は一本の帯のようにひとつであり、過去への干渉は確実に未来を変えると確信した!」
狂気めいた笑いに3人は動じず、研究内容に感心する素振りを見せる。彼らの反応にヴォルデモートは満足し、踊るように椅子から立ち上がった。
「ここで諸君らは疑問に思うだろう。コンラッドが持っていた『逆転時計』を壊したのか……、知りたいか?」
クィリナスが前のめりになり、話をよく聞こうとした。
「俺様はこれまでを一度も後悔しておらぬ。確かに凋落し、前より幾分劣る形ではあるが蘇った。過去を弄る必要はない、しかし! 俺様への忠誠故に勝手な真似をする愚か者は必ず出てくる。俺様はそれが我慢ならん! 時さえも支配して良いのは俺様だけだ」
「おっしゃる通りにございます、いずれ時さえもひれ伏しましょう」
クィリナスは恭しく頭を垂れ、祈りを捧げる姿勢で手を組む。その動作に遅れぬように2人も頭を垂れた。
退室の許し得て、3人は下がる。廊下には『屋敷しもべ妖精』のウィンキーが控え、バーティの視線によるで消え去った。
「あの娘、本当に死んだのだな」
舌打ちし、バーティはセブルスを睨んだ。
「いいか、覚えておけ。娘を殺したからと言っても、女は渡さんぞ」
コンラッドの妻への執着に付き合えず、セブルスは手ぶりで承諾した。
「他にも女がいるだろう。何故、マグルなんだ?」
億劫そうにクィリナスは問う。そんな彼の胸元にバーティは軽く拳で叩く。
「いつまでも童貞坊やにはわからんだろう。書物ばかりみていないで女を抱け」
「私は童貞ではない!」
十年以上、父親から理性を奪われて過ごした為にバーティの言動には幼稚な部分が見受けられる。それをマトモに受け答えするクィリナスも問題があるとセブルスは思う。
「この『穢れた血』があ!!」
「落ちぶれババア!!」
もっと幼稚な喧嘩が始まり、セブルスとクィリナスはうんざりした顔で客間に急ぐ。案の定、ジュリアが赤い髪を振り乱してベラトリックスと揉めていた。
「スクイブもどきが相手を見て、物を言え!」
「私は闇の帝王に望まれたのよ! 必死に媚売っている貴女とは扱いが違うわ! 不倫婆、闇の帝王に女として見て貰おうだなんて気持ち悪い! 年を考えなさい、みっともない!」
言いたい放題のジュリアにベラトリックスは笑顔のまま、ブチ切れていた。普段なら、聞き逃すどころか雑音のように耳にすら入れない。原因など知りたくもない。
「ジュリア。口を慎め、相手に敬意を払ったらどうだ」
「敬う価値のない相手に? まずはそちらのマダムがお手本を見せたらどうかしらね」
自分の襟元に指をひっかけ、挑発的に笑う。
馬鹿馬鹿しい口論の仲裁などしたくないが、ベラトリックスが『死の呪文』を放つ寸前だ。一応は彼女を立てて、ジュリアの腕を掴んで引き下がらせた。
後はクィリナス達が諌めるだろう。遠戚でもあるバーティにはベラトリックスも幾分か親しげだ。
廊下まで引きずり出し、警告の意味で囁く。
「君の親族が亡くなったばかりだというのに、ベラトリックスを怒らせて後追いでもするつもりか?」
「あんな奴、アロンダイトの血統なんかじゃないわ。ていうか……自分で殺したくせに亡くなったなんて、随分と礼儀正しいのね」
ジュリアが嘲笑った瞬間、彼女は襟元を掴まれて頬を引っ叩かれる。誰かと思えば、ドラコだ。
「シレンシオ(黙れ)! いいか、ブッシュマン。消えろ、今すぐに」
魔法で言葉を封じられ、歯噛みしながらジュリアは玄関の扉を乱暴に閉めた。
残ったドラコは殺意を込め、睨んでくる。
「庇ってなどいない、貴様は僕の味方をしなかった!」
吐き捨てたドラコは逃げるように外へ出て行く。母ナルシッサのいる屋敷に帰るつもりだ。
クローディアに対する気持ちに答えを見つけた時、ドラコの味方する。確かに約束した。
しかし、あの場でヴォルデモートの任務を果たさなければマルフォイ家は見せしめに殺された事だろう。悩まなかったと言えば嘘になる。結果だけなら、セブルスは竹馬の友であり、彼の父親であるルシウスの家族を選んだ。
〝君になら、あの子を殺されても構わないよ〟
コンラッドの言葉が重く肩に圧し掛かり、ダンブルドアのいない現状も重なって胸を不安を掻き立てた。もう弱音を打ち明けられる相手はいない。
(……コンラッド……早く、……僕を殺しに来て……)
表情には出さず、その想いも決して悟られぬように心を閉じた。
いつものように――。
閲覧ありがとうございました。
十悟人、今までありがとう。
ロウルさらば。
ダンブルドアの死はトトに代わりましたが、社会的に死んだ事に変わりはありません。
クローディアの戸籍も死に、二度と名乗ることはない。
げに恐ろしきはジョージ、世の錬金術師は涙目。
三巻で出来た玩具の失敗作がやっと生かされた。
これにて『謎のプリンス』を終わります。